シェアワールド@霧生ヶ谷市企画部考案課

夕暮れラプソディー

最終更新:

kiryugaya

- view
だれでも歓迎! 編集

夕暮れラプソディー 作者:榎本亮

 

 遠い遠い昔、人と鬼は同じ世界に住んでいたのさ。

 

 

「27……、28……、」
さわさわと木の葉が揺れる。
「29……、30!」
神社の鳥居に向かい合うように伏せていた顔をあげる。
「もーいーかーい」
返事が返ってこないことを確かめて、和馬は足を踏み出した。
今は弟の悠斗と隠れん坊の真っ最中。
小学校の友人も誘ったけれど、残念がら今日は皆何かしら予定があるようで。
今は2人で遊んでいた。
参加者が少ないと見つけなければならない人数は少ないが、その代りに鬼は人海戦術は使えない。
和馬は隠れられそうな場所を1人で1つづつ見て歩いた。
日の光がずいぶん弱くなっている。
何度か鬼を交換しながら遊んでいたが、今日はこれが最後になりそうだ。
茂み、神社の床下、小さな駐車場。
池や物置小屋。隠れられそうな所は一通り探したけれど、弟の姿はない。
まだ幼稚園児の弟が、自分には思いつかないような所に隠れたとういうのか?
それを少し悔しく思いながら歩きまわる。辺りはだんだん光を失っていく。
もう世界が闇に染まるまでにカウントダウンが始まっている。
和馬は悔しさよりも不安が大きくなっていった。
「悠ー。僕の負けでいいから帰ろーっ」
そう言いながら歩きまわるが、人の気配は感じられない。
薄暗い。
まとわりつく空気が告げている。
夜が来る、と。
「悠ー。出てこいよー」
まだ出てこない。
暗くなったら帰るというのは、母との約束。
そうだというのに、何故悠斗は出てこない?
「悠斗ー!」
叫びながら走りまわる。
きょろきょろ見回しながら。
今の和馬の心には不安と心配しかない。
駐車場へも言った。
池にも、茂みにも。
床下なんか、何度ものぞいた。
それでも見つからない。
心臓がぎゅうっと小さくなっていくようで、血の気が引いて、指先が冷たくなってきた。
そんな時。

「なぁ、おチビ。何してんの?」

頭の上から突如降ってきた声に、思わず見上げる。
頭上に広がる木の枝の1つに、1人の少年が座っていた。10、11歳くらいだろうか。
和馬より少し年上に見える。
「もう逢う魔が時だ。さっさと帰えんな」
そう言ったが、少年は和馬が泣きそうな顔をしていることに気がついた。
「どうかした?」
「悠斗がいない……」
「悠斗?」
「僕の弟…!」
ふーんと言うと、その少年はぴょんと枝から飛び降りた。
……………音もなく。
「じゃあ、探すの手伝ってあげるよ。けっこう探すの得意なんだよね」
少年は1度大きく息を吸い込んで歩きだした。
少年が頭に巻いているバンダナの結び目が、歩くたびにぴょんぴょん跳ねる。
「こっちっぽい」
鼻を犬のようにくんくんさせながら歩いて行く少年。
変な癖だと和馬は思った。
「ここにいる」
そう断言する少年。
辿り着いたのは、今は使われていない焼却炉。
焼却炉は今はすすけて真っ黒だが、ブロックを積んだだけの簡単なつくり。
こんなものがあったなんて、和馬は知らなかった。
背伸びをして中を覗いてみると、そこには膝を抱えて寝ている悠斗の姿が。
「悠斗……」
和馬は心底ほっとした。
少年は軽々とブロックを飛び越えて、焼却炉の中へ。
眠ったままの悠斗を抱え出した。
受け取って起こそうとするも、悠斗は完全に寝ぼけていている。
仕方がなく和馬は少年の手を借りながら悠斗をおんぶした。
「ありがとう。見つけてくれて」
「いいって。探すの得意っていったろ?」
少年は得意げに胸を張った。
「でも、どうしてわかったの?」
少年は一瞬きょとんとして、それからにっと笑った。
「隠れん坊も鬼ごっこも、鬼が人を見つけたり捕まえる遊びだろ?鬼が子供1人みるけられないでどうするんだよ」
「僕は見つけられなかったよ」
「年季が違うさ。それに鼻とか、目とかも」
「鼻?」
そんな話をしていると、あっという間に神社の入り口の鳥居に着いてしまった。
じゃあねと言って、少年は背を向けたたが、和馬の声に振り返った。
「今度は一緒に遊ぼうよ」
「どうしうようかなぁ。俺は遅くならないと出てこれないし」
少年は苦笑した。
和馬があまりにも不満そうな顔をするから。
「できたら、遊ぼう。約束な」
少年は頭に巻いていたバンダナを解いて、和馬の腕に巻いた。
「今度、俺と遊ぶ時に返して。会う約束」
「うん」
和馬は嬉しそうに笑った。
風がさわさわと吹く。
少年の髪が揺れて、ピンと尖った耳がちらりと見えた。
和馬が口を開こうとした瞬間、突然強い風が吹き抜けた。
「わっ!!」
思わず顔を背ける。
しかし、顔をあげたその先に少年はいなかった。
最後に見たのは、ニッと笑った少年の笑顔。
腕に巻かれたバンダナが、少年は確かに存在していたと語る。
不思議なことなのに、和馬は全く怖くなかった。

辺りはもうすっかり暗い。和馬は家に向かって歩き出した。
あの不思議な少年との再会を楽しみに思いながら。

 

感想BBSへ

 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー