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【Question】

ここに一匹の猫がいる。猫の名前は《ミケ》。猫にはほかの猫とは違い、不思議な力があった。
《ミケ》には、望んだ過去に戻れるという特殊な能力がいつの間にか授かっていて
《ミケ》は事あるごと…そう、例えば。
猫にとって困ることであったり、全く望んでいない未来であったり…不都合なことが起こる度に時間を遡ることができた。
何度も何度も《ミケ》は遡った。その度に今度こそ猫の望んだ未来になると信じて繰り返した。
幾度も繰り返していくうちに《ミケ》はこんなことを考えるようになった。

「なぜ、こんなにもやり直しているのに上手くいかないのか」

《ミケ》の疑問は次のやり直しの際にまた消えてしまう。
そして何度でも繰り返し、同じ場所へ向かっては戻っている。
そんな猫は一体どうすればよかったのだろう。


【Answer SIDE:S1】

そもそもの始まりは、どうして猫はこんな風に繰り返す選択肢を選ぶようになったのでしょう?
《ミケ》にとって繰り返す世界の先に何を見つけようとしたのかが問題で
その見つけられないのか、何が上手くできないのかは知らないけれど
猫にもっとも足りなかったのは学習するということなのだと思います。
繰り返すという事は、検証と実験を繰り返しながら正しい答えを導き出そうとする行為にも見えますが
必ず失敗するというのならば話は別。
必ず上手くいかないという事は間違っていることをわざわざ選択し、やっているということに他ならない。
つまり、それを止めない限り…猫は何をやったとしても猫が望んだ未来を導き出すことはできないんです。
だから、学習していくしかない。猫…確か名前は《ミケ》でしたっけ? 《ミケ》は望むべき未来を変更するべきだ。
そうでもしない限り、何度間違えて繰り返しても望んだものに辿り着くことは無いでしょう。

「では、《ミケ》が学習しなければ…結局何をしても同じ結果になると?」

聡明な貴女は理解が早くて助かります。つまり、その通り。貴女が言ったことが正解です。

「ふぅん、そうか。まぁ、面白い答えと言うよりは平平凡凡で詰まらない。
 答えとしては理解できるけれど、納得するには難しい答えだね。
 あと、この答えは私は好きじゃない」


【Answer SIDE:S2】

うーん、正直に答えると、上手くいかない理由はたぶん…猫が望んでいることが高望みだからじゃないかなと思う。
もしくは全部を上手く行こうとさせすぎている完璧主義者か。
そもそも、繰り返して何度も何度もチャレンジするくらいには思い入れの強いものが猫にはあるのかもしれない。
でもどうして猫はそこまでして、自分の望む未来を手にしようとしているのだろう…という疑問は残るね。
《ミケ》は何度も繰り返すけれど、その度に失敗も後悔も思い出して、辛い思いをするのにそれでも繰り返すことを望む。
繰り返しを願う心はとても純粋なものであるのだとすれば、それは叶わない願いに手を伸ばし続ける行為にとてもよく似てる。
だからこそ、猫は考えなおすタイミングが必要なのかもしれない。考え直さないから、また失敗し続けるのかも。

「では《ミケ》は思い直さないと、また同じ結果になると?」

素敵な君だから理解が早くて助かります。つまり、君が言ったことが正解だと思います。

「ふぅん、そうか。なるほどな、考えなおす…か。まぁまぁ面白い答えだったよ、有難う。
 答えとしては理解できるけれど納得するには、ちょっと弱い。タイミング、と言うのは参考になったよ」


【SIDE:M】

「ということで、何度も繰り返す理由を問うたけれどあんまりにも面白くないこと続きだったから、首を二回刎ねた」
「野蛮なことで。ちなみに良い意味では言ってないからね。物騒なことは良くない、特に他者に対してはね」

蜂蜜色には程遠い、くすんだ砂金色の髪。
こちらを窘めるように向けられた左右色の違う瞳はこちらが痛くなる位の目線を向けている。
明らかに抗議の目線だが苦笑いでかわしていけば、深くため息を吐かれた。
眠っていないのか、それとも睡眠を必要としていないのか
目の前の男は上っ面だけで笑った自身に冷たい眼差しを向けたままだ。
良く笑う男だが、どうしてかこの話題を避けたいのか。あまり会話を弾ませてはくれない。
聡明な君だ、分かるだろう。と嫌みの一つを言ってやりたくなるが
その言葉を自身に投げかけたのは目の前の相手だったのでやめた。
言葉を言葉で返すのは嫌いじゃないが、この相手に返すのは、少々骨が折れる。
女性のように線の細い男だったが、差し伸ばしてくる手は男性のそのものだ。
目の前の男もきっと自分に似ているのだろうと思う。
あの猫にとても良く似ているのだろうと思うのだ。
叶いもしない未来や望みのために。ただただ、男は実直に、精密に。機械のように佇み続ける。

「で、何だっけ? 猫がなんだとか」
「そう、なんで《ミケ》は上手くいかないと思う? 《ミケ》は繰り返し繰り返し、今度こそ失敗は無いようにと繰り返し。
 それがどうして上手くいかないのだと思うかっていう質問なんだけど」

そうだねぇ、と男は首を傾げる。そして足を組み直して、数分黙っていた。
何かを考えているのか、それとも問いへの答えを真剣に悩んでいるのか。
そのどちらにも見えて自身は口を噤んだままでじっと見つめる。男の目線が自身の視線と交差した。
ふっと細められる瞳は美しい弓なりに歪む。これは化け物だと、以前、彼と仕事を共にする長身の女性キャストが言っていたが。
化け物という形容詞はあまり好きではなかった。それは目の前の男を人間ではないと認識する言葉だからだ。

「さて、先ほどの答えなのだけれども」
「お! 考えてたのかやっぱり!」
「まず一点。猫こと《ミケ》はどのような目的を持っていたか、だ。
 猫の望みが例えば《世界平和》のような大きな概念に似た望みだった場合。
 世界の平和という理論は、絶対の下で平等――もしくは誰もが他者に無関心であるという事以外で成立することは難しい。
 Aにとっての平和がBにとっての平和であるとは限らないからだ。
 それは世界中の人が幸福になりますように!といった願いも同義にあたる。
 つまり、そういった未来を願っているのならば最初から《ミケ》が望んだ世界は訪れない。
 それを作るなら、最初から他者などいない世界を作った方が手っ取り早い」

一息であっさりと論述していく姿はいつ見ても腹正しい。

「そして猫は、繰り返しているという点。
 つまり、猫にとっては望ましくないことが起こる度に過去に戻るという手段を取っている。
 何度も繰り返している段階でとても強い思い入れか、それか…どうしても諦められない思いか。はたまた意地か。
 少なくとも繰り返さずにはいられないことが起こっているという事だ。
 ならばそれが起こらないように対処するのが普通なのだけれど
 何度繰り返してもその事象がおこるという場合、そもそもの根本が間違っているというケースがある」

さら、と別の答えを導き出す様が一瞬自身に語りかけてきた全知全能たる惑星の体現者に見えて苦く笑う。
なるほど、続けて?と言えば彼はもう一度考えたように口元に手をあてる。
悩んでいるのか、それとも言うのを躊躇っているのか。
それでも彼はすっと、息を吸い直し、唇を動かしていく。

「最初から、《ミケ》には別の望んだ未来がある」
「…えーっと、大分ぶっ飛んだように感じたけど?」
「何と説明していいか…。だって、この話はそもそもの大前提に《ミケ》には望んだ未来があった。
 けれどならない、だから繰り返す。
 これが一連の流れとしてワンセットになっている。でも本当にそうだろうか?
 《ミケ》は望んだ未来を叶えるべく、何度も何度も繰り返しては失敗し
 結局またやり直すということが起こっているんだろう?
 目標が高いとしても、未来に起こることを知ってる状態でそんなに失敗するだろうか?
 そこまで、間違えるほど《ミケ》は愚かだろうか? だって何度も繰り返すんだろう?
 それこそ100回でも繰り返せば
 ここで何をしてはいけないか、この会話になったら話題を避ける。とかいろいろとできるはずだ。
 むしろやっていると仮定する。
 …それなのに、《ミケ》の望んだ未来にはたどり着けないならば……最初から《ミケ》が望んでいた未来は
 違うんじゃないかと思う」

酷く淋しそうな声で、男は言う。猫にとっての未来とは、では、一体なんだというのだろう。

「《ミケ》には、《ミケ》にも意識していない本当の願いや望む未来がある。それか…」

言葉を止める。そして瞳を逸らした。言いたくないのだろう。こちら側に瞳が戻ることは無い。
組んだ足を見つめるように、彼はただ俯く。
彼にはきっと導き出せてしまったのかもしれない。この意味のない質問の答えを。

「答えてくれないの?」

問いかける言葉に音は返らない。言うか言わないか、ただそれを考えている時間でもないだろう。
理解してしまえば何よりも早い。彼は、機械のように精密故に。
機械のように繊細故に。やっと交差する視線に、瞳に嘘は吐けない。
これを化け物と呼ぶのならば、何と純朴かと思い。そして歪んだ在り様が、あまりにも無慈悲なほどに邪悪だとも感じる。

「さぁ、答えを。理想郷の名を冠しながら、終ぞ理想に届かない貴方が導いた答えは何だった?」
「君は、望むべき未来も、本当に願っていたことも全て―――もう、分からなくなっている」

伸ばした指先を受け入れる。彼の細い首に指は強く食い込んだ。忘れている訳ではないと思っていた。
理解したくないと思っていた。だからこそ繰り返した。
何度も何度も繰り返せば、きっと正しい未来のほうから自身に近づいてきてくれると信じていた。
ケホッと音がする。ギチギチと締めた首にはしっかりと赤く痕が残る。このまま殺してしまえばいい。
この答えはとても気に入らない。
この答えはとても…

「そ…れで…も」

手を止める。涙ぐんだ彼の瞳に嘘は無い。続ける言葉がどんな甘味より甘く聞こえても。
どんなに優しい言葉に聞こえても、この手はきっと彼を殺す。

「君は諦めたりしないだろう? 未来を、願いを手に入れることを諦めたりするものか。だからこその君だ。
 ……君にもしも僕から何か助言できるとすれば、唯一つだ」
「…それは何だい?」
「絶対に、再度同じ未来に行きつかないこと。
 そして君がこの世界から過去に飛ぶという事は、君を中心とした時間線から未来が消えるという事だ」

手を離せば、彼はこちらの手を強く握る。傷つけないようにとても優しく握り込んだ。
多少やり返されても仕方がないというのに、全くと言うほど敵意を見せない。

「君を失った時間軸は、君と言う特異点を失って崩れて行く。再生は出来ないし崩壊するしかなくなるだろう。
 そもそも時間を遡れるという段階で、その力こそが時間における特出すべき事象に他ならない。
 故に、君は同じ未来に辿り着くことをしてはいけない。
 また一度離れた時間に戻ろうともしてはいけない。君を失った世界は、ただの枝葉だ。
 大きな幹の、その先にある枝の葉っぱ。
 そこに戻れば、君を失ったという事象と君が戻ったという事象がぶつかり合って対消滅することになるだろう。
 君の願いの為の時間渡航は、そういう危険性を孕んでいる。
 それでも君は願わずにはいられないのかもしれない。
 だからこそ、今この時間から過去へ戻るのならば――この時間座標には来てはいけないよ」

手に握らされたのは一つのデータ。自身では確認すら取れない何かの欠片。
けれど、目の前の男が座標だといったのならば。
それはきっとここへと還って来るための鍵なのに。
その姿はまったくといっていいほど見えなかった。視覚出来ない切り捨てる過去を、彼は知っているのだろうと思う。

「私は何度だって繰り返すだろう」
「いいや、君に次は無いさ。君は分かってしまったのだもの。君が本当に見つけたかった願いが、そこに無いということに」
「だったらちゃんと見つければいいじゃないか。私にだって、その権利はあるよ。ねぇ、そうだろう?」
「ああ、そうだとも。だからこそ、次こそは繰り返さないで君は変わればいい。こんな残酷な御伽噺があってたまるかと。
 運命に抗って、抗って、抗って。それこそ神なども殺してしまえるほどに、君は……君の物語を生き抜かなければ。
 どうかその先に、再度君と僕が出会いませんように」

出会いませんように。
触れてもなお、共にあることを選ばない朋友であると、分かっている。何度も殺したのはその理由を確かめるためだ。
理想になりえぬ人と本当の望みを忘れた探究者に同じ未来が待っている訳が無いことを誰よりも互いが理解していた。

「さよなら、アルカディア」



【Answer】

「彼女はミーナという。こっちはシトリー、こっちはシュトリ。双子だ。分かりにくいがまぁ、そこらへんは感で」

何度も繰り返された自己紹介だった。適当な会話をこなした後に、名前ことで話をしているのを覚えている。
ミーナ、という名前がまるで猫につけるみたいな名前だと彼は言った。砂金色の髪を持つ男女の双子の片割れ。
名前をシュトリ・アルカディアという。彼は理想郷の名を持ち、妹だというもう一人は哲学の名を持つ。
何ともこだわった変な名前だと言えば「君なんて猫みたいじゃない。確か、えっと、ミルヒの国だと猫の名前はミケらしいね?」などと抜かす。
くつくつと笑う妹と鈴を転がしたように笑う兄の双子だった。
出会ってはならないと思う。もう二度と出会ってはいけない。
そう思っていたのだ。


本当に。



本当に?


「私の名前は姫沙羅、私を信じてくれる人のためにいる正義の味方だ」
「ひめ? しゃら? きさら? 面白い名前だねぇ、綺麗な音ばっかり並べたみたいな名前だ」

また鈴を転がしたように笑う。

「そうかなぁ? 綺麗な名前じゃない? 割かし」
「そうだねぇ、確かに音の響きは綺麗かも。でも君はどっちかというとアイスクリームみたいだねぇ、美味しそうな色だ」

何が愉しいのか、にこにこと、からからと笑う声はどこか淋しさを含んで。
初めて会うはずなのに。ぼんやりと覚えているような気さえしている。でもちゃんと心は否定するのだ。
こんな生き物は知らない。気持ちの悪い、得体のしれない生き物だと。しかし一粒の感情だけは肯定する。
彼は化け物なんかじゃなくて、きっと願いの形を固めて作って、折り合わせて。
まるで祈りの姿にも似た、滑稽な機械仕掛けの―――。

「改めて、私は姫沙羅、君は?」
「――――僕は…シュトリ・アルカディア。終ぞ、人が至ったことのない楽園の名を冠する、夢見る機械です」
「仰々しい感じだね」
「まぁ、本当に仰々しいものだからなんとも言えないのだけれど…タイミングは見つけられたようだね、何より」

ふと浮かべられた笑顔に冷たさを感じて身震いする。あぁ、これだから嫌なのだ、こういった類は。
本能が相手の首を跳ね飛ばした瞬間、肉体は崩れて落ちる。
しかし血が滲むことは無かった。まるで最初から無かったかのように。
砂に、空気に還る。

「やっだなぁ、酷い。首刎ねること無いじゃない、痛いんだからね、まったく」

変わらぬ笑顔で笑う男はゆっくりとその瞳を弓なりに歪めただけだった。









最終更新:2017年04月27日 00:35