「内側に跳ね気味。若干癖っ毛。…いや、猫っ毛って言うべきか?」
「…何、冷静にコメント入れてんのよ」
ドルマゲスを倒す目的で集まった筈の一行は今、息抜きも兼ねて不思議な泉に来ていた。
エイトはまず馬姫ことミーティアに泉の水を飲ませ、
トロデ王はそれを微笑ましげに眺めている。
ヤンガスはそれとなく二人の様子を見ながらも、地面に座って寛いでいる。
更にその後ろで腰を掛け、解けかかっていた髪を縛り直そうと
一度髪を解いたゼシカの頭を覗き込みながら、
揶揄するような口調で独り言のように零すククールに、
間髪入れずにゼシカが突っ込んだ。
「まあ、オレとしては別に綺麗なストレートでなくても良いんだけどさ」
突っ込みも然して気にした様子も無く、
胸より下まで伸びたゼシカの長い髪の毛を梳くように撫でた。
すかさずその手の甲をゼシカがパシ、と弾き飛ばすように叩く。
「勝手に触らないでくれる?エイトにギガデインして貰うわよ?」
「おーこわ。エイトは過保護だからなあ」
両腕を広げ、おどけて肩を竦めて見せるククールを、
口に髪ゴムを銜えながらゼシカが睨み付けた。
「どういう意味よそれ。エイトに何か文句でもあるの?」
「いーや別にー」
素っ気無い扱いをされても、ククールは移動しようとはせずに
そのままゼシカの斜め後ろに腰を掛け、そっぽを向いて間の抜けた声で答える。
「…あっそ。いいわよ、もう」
何処までも不真面目な態度にゼシカは呆れて嘆息し、
ククールから目を逸らして髪を結び直す。
丁度二つ良い感じに結び終えた所で、
急に
後ろから「ねえ」と声を掛けられてゼシカは驚き、思わず腰を浮かせた。
「な、何よ!いきなり話しかけないでよ!」
ドキドキと早鐘を打ち始める胸を押さえて、
首だけ後ろに向け声を掛けた人物を怒鳴り付ける。
けれどそこに見えた表情は、
先程のおどけたものとうって変わって酷く真面目なものだった。
「……なによ、ククー」
「ゼシカは、エイトのことが好きなのか?」
怪訝に思って名前を呼ぶ声を遮られ、唐突に真摯な表情でそんなことを聞かれ、
ゼシカの時間は思考と共に静止した。
数秒後。漸く平静を取り戻したゼシカが口を開く。
「…ば、馬鹿言わないでよ!何であたしがエイトのことなんか…」
「お願い。ちゃんと答えて」
思わず赤くなった頬を隠すように顔を背けた所へ、ククールの顔が近づいた。
ゼシカの顔の少し右側、首筋の辺りにククールの微かな吐息が掛かり、
先程とは違う意味で心臓がドクドクと物凄い勢いで波打つ。
「…ゼシカは、エイトが好きなのか…?」
ククールはそのまま顔をゼシカの、結んだばかりの髪に近づけ、
手袋を嵌めた掌で掬うように押さえて口付けを落とす。
ゼシカは心臓のあまりに早い動きと、間近に感じる気配に眩暈を感じるも、
泉の方から「ゼシカー!ククール!」と自分達を呼ぶエイトの大きな声にハッと我に返った。
瞬間、ゼシカは傍にいたくクールの姿を極力見ないようにして
勢い良く立ちあがり、直ぐ傍の林の中へ猛スピードで逃げ込んだ。
あっと言う間に目の前から消えてしまったゼシカの後ろ姿を呆然と見送って、
ククールは「ハッ」と自嘲的な息を吐く。
どうやら自分の憶測は当たっていたらしい。
図星をさされたのが恥ずかしいからか、悔しいからかはわからないが、
話を続けるのが嫌でゼシカは逃げたのだろう。
「…やっぱり、な。想像はしていたよ」
視線を泉の方へ変えると、
ゼシカの様子を不思議に思って駆け寄って来るエイト達の姿が見える。
「……オレも逃げちまいてえ」
そんな光景を目を細めて眺めながら、周りには聞こえない小さな声でポツリ、
寂しそうに苦しそうにククールは低く呟きを零した。