◆2010/06/23 (ⅰ)
『皆さんこんにちは、ただいま6月23日木曜日16時でございます。今日もいいお天気ですね。それではニュースをお伝えします。先日、事故で亡くなられた、四大名家である麒麟島家の先代当主、麒麟島凛氏の通夜が・・・』
「何がいいお天気だ、こちとら洪水だよ、ったく。暑いったらありゃしない。」
「扇風機使ってるんだから文句言うな。」
時代を感じさせる年代物のテレビからは美人アナウンサーの声が聞こえる。
だがその美声は二人の男女によってものの見事にかき消されている。
「私は暑いんだよぉ。ここはサウナかよぉ。」
そう言いながら女性は、ワイシャツを第二ボタンまで外し、パタパタと風を送っている。
綺麗な栗色の髪。端麗な顔つき、そして女性らしい魅力的な体。まさに、これぞ美人。
しかし発せられる言葉はそれらしさの欠片もない。
「女性がそんな格好と言葉使いすんなよ、たか姉。ブラ見えるぞ。」
暑い暑いと騒ぐ女性に対し、少年は淡白な様子でいる。少年の顔から伺える心情はうんざりという言葉がぴったりである。
「うるさいなぁ、どうせ私とアンタしかいないんだからいいじゃねぇかよ。それに役得だろ。喜ぶとこだろうが、識ぃ?」
「うわあ、今年で○6歳の落空たかこ様のブラチラ拝めてウレシイナ。」
「だろぉ?喜べよ、○○で△△かつ□□な近衛識?」
「日常会話に3つも伏字を使う女のブラなんて見ても嬉しくないわっ!」
「この伏字は私のなけなしの優しさだ。」
「そんな優しさ、誰も得しない。」
「なんだよぉ、識ぃ。つれねえなぁ。」
「ほら静かにしろよ、ニュース聞こえないだろうが。」
「どこにでもある、なんてことない日常なんか見てもつまんねぇだろぉ?それより愛しの姉君の相手をしろよぉ。」
「その言葉使い直したら考えないでもない。」
「んじゃ来世で遊ぼうぜぇ?」
ゲラゲラと下品に笑う女性、落空(おちそら)たかこ。はぁ、と大きくため息をつく少年、近衛 識(このえ しき)。
二人は物置のように怪しいアンティークや何かの書類の山と思われる紙で溢れている部屋でテレビを見ている。
『次のニュースです。大手食品メーカー幹部らが報告書偽装の疑いで・・・』
「あ、たか姉、報告書書いたか?今月なんて仕事の本数は片手で足りるだろ。すぐ終わるんだから早く書けって、飛鳥が怒ってたぜ?」
「ぐー。」
「昼寝にはまだ早い時間だぞ。」
「昼寝じゃない、狸寝入りだ、愚弟が。」
「それをお前が言っちゃうの!?俺のツッコミはいらないってか!?」
たかこの調子はどのような状況でも変わらないらしい。識は全く、と悪態をつきながら、床に散らばっている報告書をまとめ、たかこに差し出す。
「ほら四枚分、頼んだぜ落空所長。」
「・・・もう一枚追加だ、近衛外交官。それとお茶を準備してくれ。」
「お客様、か。」
さっきまでのふざけた雰囲気が一変する。たかこの整った顔がより美しく、凛とした表情に変わる。
識も長めの黒髪をささっと手串で整える。整え終えると同時に、ドアがコンコンとなった。そして古びた音を発しながら開く。
「・・・ここ、何でも屋って聞いたんですけど・・・」
ドアを開け、入ってきたのは制服姿の少女だった。しかし、普通ではない格好。至る所に包帯が巻かれていた。
「はい、そうですわ。どのような『ご用件』で?」
「・・・『魂の在り処』についてなんですが・・・」
識とたかこはお互いに目配せをし合う。そしてやはり、といったような笑みを浮かべた。そして声を合わせてこう言った。
「「ようこそ、『棘ノ家』へ。」」
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最終更新:2010年03月29日 10:41