18.
知らない間に私は寝かされていた。
あのときのことを話している途中で、私はパニックを起こしたのだとあとで聞かされた。
それと、彼女の傷は深いものの命に別状がないことも聞かされた。
刑事さんたちの話からすれば、私は彼女に庇ってもらい、彼女はその所為であのロングコートの人に刺されたのだそうだ。
そのときのことはあまりよく覚えていない。
心のどこかで記憶の門に閂を入れてしまっているのだろう。
でも、彼女に助けられたということは、よく覚えている。
あのときのことを話している途中で、私はパニックを起こしたのだとあとで聞かされた。
それと、彼女の傷は深いものの命に別状がないことも聞かされた。
刑事さんたちの話からすれば、私は彼女に庇ってもらい、彼女はその所為であのロングコートの人に刺されたのだそうだ。
そのときのことはあまりよく覚えていない。
心のどこかで記憶の門に閂を入れてしまっているのだろう。
でも、彼女に助けられたということは、よく覚えている。
―― ◇ ――
「犯人に狙われると困るから、しばらく厄介になるわね」
女の刑事さんがそう言って握手を求めてきた。
犯人が私の顔を見ているからまた狙われる可能性がある、とのことでこの刑事さんが私を警護してくれるのだそうだ。
それも、私と一緒にしばらく生活を共にするとも言っているのだ。
ひとりでいいと断ったのだが、危険だからと一言で私の拒否権は返されてしまう。
仕方がなく、といった感じで握手を返した。
犯人が私の顔を見ているからまた狙われる可能性がある、とのことでこの刑事さんが私を警護してくれるのだそうだ。
それも、私と一緒にしばらく生活を共にするとも言っているのだ。
ひとりでいいと断ったのだが、危険だからと一言で私の拒否権は返されてしまう。
仕方がなく、といった感じで握手を返した。
そもそも、一緒に生活する必要性はあるのだろうか。
その犯人とやらに私の家がどこにあるのか分からない限り、家の中まで一緒にいる必要はないのではないのだろうか。
私が外へと出るときに警護してくれればいいのではないのだろうか。
その犯人とやらに私の家がどこにあるのか分からない限り、家の中まで一緒にいる必要はないのではないのだろうか。
私が外へと出るときに警護してくれればいいのではないのだろうか。
そんなことを思いもしたが、口にはしなかった。
口にしたところで、何かにつけて返されてしまう気がしたからだ。
口にしたところで、何かにつけて返されてしまう気がしたからだ。
「あ、あの刑事さん。
家でも一緒っていうことは泊まるってことですよね?
お客さん用の布団とか、準備ができてないんですけど」
「刑事さんだなんて、ツキミと呼んでね。
それに、いきなりのことだもの、今日はソファで寝るわ」
家でも一緒っていうことは泊まるってことですよね?
お客さん用の布団とか、準備ができてないんですけど」
「刑事さんだなんて、ツキミと呼んでね。
それに、いきなりのことだもの、今日はソファで寝るわ」
と刑事さん、いや、ツキミさんは言った。
寝るときまで一緒、と言われなかったのは唯一の救いか。
寝るときまで一緒、と言われなかったのは唯一の救いか。
今日はツキミさんが晩御飯を作ってくれるということで、私はできるまでの間、縁側で外を眺めていた。
はんてんを着て湯たんぽを抱えて、と言ういつもの装備。
今日は雪が降っておらず、冷たい空気が肌を刺すだけ。
でも、東の空より月が昇ってきているのを見ることができた。
上弦の月。
どこか月が赤く感じるのは、まだ昇りはじめたばかりだからなのか。
はんてんを着て湯たんぽを抱えて、と言ういつもの装備。
今日は雪が降っておらず、冷たい空気が肌を刺すだけ。
でも、東の空より月が昇ってきているのを見ることができた。
上弦の月。
どこか月が赤く感じるのは、まだ昇りはじめたばかりだからなのか。
「そこにいて寒くない?」
ツキミさんが湯気の立つカップを持ってやってきた。
晩御飯の方は粗方できて、煮込み終わるのを待つだけだそうだ。
カップを受け取ると、ほんのりと甘い香りが立つ。
ハーブティだ。
ツキミさんももうひとつカップを手に、私に倣って隣に座った。
ふたりしてのんびりと月を眺めていた。
そんな中、ツキミさんは手近な雪と葉っぱを取り、何かを形作って私に見せてくれた。
南天の実もあればよかったんだけどね、と耳だけの雪兎だった。
晩御飯の方は粗方できて、煮込み終わるのを待つだけだそうだ。
カップを受け取ると、ほんのりと甘い香りが立つ。
ハーブティだ。
ツキミさんももうひとつカップを手に、私に倣って隣に座った。
ふたりしてのんびりと月を眺めていた。
そんな中、ツキミさんは手近な雪と葉っぱを取り、何かを形作って私に見せてくれた。
南天の実もあればよかったんだけどね、と耳だけの雪兎だった。
19.
雪兎は冷蔵庫へと保管され、しばらくは冷蔵庫を開けると雪兎と挨拶を交わす日々が続くこととなる。
しばらくツキミさんがうちに滞在することとなったので、色々とその準備をしに外へと出ることとなった。
しばらくツキミさんがうちに滞在することとなったので、色々とその準備をしに外へと出ることとなった。
―― ◇ ――
ツキミさんの荷物を持ってくる前に、彼女のいる病院へと向かった。
彼女は未だに眠り続けたままだという。
それと、病院の入り口で探偵さんと出会った。
探偵さんは彼女の様子を見に来たのだそうだ。
彼女は未だに眠り続けたままだという。
それと、病院の入り口で探偵さんと出会った。
探偵さんは彼女の様子を見に来たのだそうだ。
それはいいのだが、ふたりが知り合いだということには驚いた。
私から離れたところでふたりは何かを話し合っている。
何を話しているのかは分からないが、雰囲気からしてあまりいい話ではないようだ。
私から離れたところでふたりは何かを話し合っている。
何を話しているのかは分からないが、雰囲気からしてあまりいい話ではないようだ。
「――あなたが巻き込んだわけじゃないのね?」
「だぁかぁらぁ、さっきからそう言っているじゃない。
しつこいなあ、ツキミは」
「だぁかぁらぁ、さっきからそう言っているじゃない。
しつこいなあ、ツキミは」
それを最後にして、ツキミさんは私の元へと戻ってきた。
「まさか、あのヘボ探偵と知り合いだったとはね。
いや、あれは変態探偵か」
いや、あれは変態探偵か」
ツキミさんからそういう言葉を聞かされるなんて思わなかった。
初対面のときのイメージと今のツキミさんは違って見えたのだ。
初対面のときのイメージと今のツキミさんは違って見えたのだ。
「あれに、変なこと吹き込まれたりしなかった?
人を巻き込むことだけは、天才的な人だから」
「いえ、そんなことはないです」
「そう、それならいいけど」
人を巻き込むことだけは、天才的な人だから」
「いえ、そんなことはないです」
「そう、それならいいけど」
ツキミさんは納得のいかない顔をしながら探偵さんを見ている。
ツキミさんと探偵さんは仲が悪いのだろうか?
でも、そういうわけではないようだ。
探偵さんが手を振りながら病院へと入っていくと、ツキミさんは探偵さんへ手を振って返したのだ。
仲が悪ければ手を振って返すことなんてないだろうし、探偵さんだって手を振ることもないはずだ。
ツキミさんと探偵さんは仲が悪いのだろうか?
でも、そういうわけではないようだ。
探偵さんが手を振りながら病院へと入っていくと、ツキミさんは探偵さんへ手を振って返したのだ。
仲が悪ければ手を振って返すことなんてないだろうし、探偵さんだって手を振ることもないはずだ。
「探偵さんとお知り合いだったのですか?」
「ええ、高校のときからだと思ったから、十年来の仲ね」
「ええ、高校のときからだと思ったから、十年来の仲ね」
行きましょ、とツキミさんは先に歩いていき、私はあとに続いた。
雪がハラハラと舞い落ちてくる。
空も街も白く染まっているというのに、この雪はさらに何かを白く染めようというのだろうか。
空も街も白く染まっているというのに、この雪はさらに何かを白く染めようというのだろうか。
「また雪が降ってきたわね。
異常気象なのかしらね? これで何度目かしら?」
異常気象なのかしらね? これで何度目かしら?」
ツキミさんは雪にうんざりなのか、溜息を空へと吐いた。
言われてみれば、今年の雪はとても多い。
雪がたくさん降る地域でもないのに、何度も降るのは何かの前触れなのだろうか――
言われてみれば、今年の雪はとても多い。
雪がたくさん降る地域でもないのに、何度も降るのは何かの前触れなのだろうか――
20.
この地域で雪の降る日数の多さは戦後で初とニュースは伝えていた。
本当にもう何日目の雪なのだろうか。
本当にもう何日目の雪なのだろうか。
そして、何日目の夢なのだろうか――
―― ◇ ――
気だるい目覚めだった。
寒さに打ち震えて目が覚めたともいえるが、やはりいつもの夢の所為なのだろうとも思う。
薄暗い部屋、カーテンを開ければ雪の白さで明るさが増す。
寒さに打ち震えて目が覚めたともいえるが、やはりいつもの夢の所為なのだろうとも思う。
薄暗い部屋、カーテンを開ければ雪の白さで明るさが増す。
今の自分は手詰まりだ。
なぜ夢を見るのかなんて分からない。
あの社のことだってもう少し調べて見たいと思っていても、ツキミさんが常についてくるので自由が利かないというのもある。
いや、社へと訪れたところで何も発見されないのだから行っても仕様がないのかもしれない。
それに、私に力を貸してくれていた彼女は病院で眠っている。
なぜ夢を見るのかなんて分からない。
あの社のことだってもう少し調べて見たいと思っていても、ツキミさんが常についてくるので自由が利かないというのもある。
いや、社へと訪れたところで何も発見されないのだから行っても仕様がないのかもしれない。
それに、私に力を貸してくれていた彼女は病院で眠っている。
だからといって、ここで何もしないわけにもいかない気がする。
社に行っても分からないのなら、別の場所から社について調べてみようかと思ったのだ。
まずは図書館で調べてみようかとおものけど、ツキミさんがそれを許してくれるだろうか。
動かないことが一番安全だ、とツキミさんが言っていたからだ。
社に行っても分からないのなら、別の場所から社について調べてみようかと思ったのだ。
まずは図書館で調べてみようかとおものけど、ツキミさんがそれを許してくれるだろうか。
動かないことが一番安全だ、とツキミさんが言っていたからだ。
「図書館で調べもの?
いいわよ」
いいわよ」
とすんなり認めてくれたのは、ちょっと拍子抜けした。
でも、ツキミさんがついてくるのは変わりない。
調べているときだけはひとりでさせてもらえればいいのだけれど。
でも、ツキミさんがついてくるのは変わりない。
調べているときだけはひとりでさせてもらえればいいのだけれど。
雪を踏みしめながら図書館へと向かっていく。
最初はツキミさんが何かとついてくるから億劫だったのだが、今では気にはならなくなっていた。
むしろ、話し相手になってくれるので、ひとりでの寂しさを埋めてくれている気がする。
今だって、警護されていることも忘れてしまいそうになるほど、ツキミさんと会話をしているのだ。
はたから見たら、私たちはどういう風に見えるのだろうか。
姉妹に見えたりするのだろうか。
最初はツキミさんが何かとついてくるから億劫だったのだが、今では気にはならなくなっていた。
むしろ、話し相手になってくれるので、ひとりでの寂しさを埋めてくれている気がする。
今だって、警護されていることも忘れてしまいそうになるほど、ツキミさんと会話をしているのだ。
はたから見たら、私たちはどういう風に見えるのだろうか。
姉妹に見えたりするのだろうか。
その途中、今あまり会いたくない人と出会ってしまった。
彼だ。
彼は静かに私を見据えたまま。
私は、まっすぐに彼を見ることができなかった、彼からどうやって視線を外そうか考えていた。
彼だ。
彼は静かに私を見据えたまま。
私は、まっすぐに彼を見ることができなかった、彼からどうやって視線を外そうか考えていた。
「知り合い? それとも、犯人?」
ツキミさんが私の前に、彼からの視線を遮るように立った。
「知り合いです。
ですけど、ただちょっと……」
ですけど、ただちょっと……」
今は、彼と会うのが本当につらいわけで――
21.
こんなにも気まずい雰囲気で調べものをするとは思いもしなかった。
だからだろう、調べものはままならなかった。
私が色々と文献を探している中、彼とツキミさんがなぜか睨み合っているのである。
彼としてはツキミさんを知らないから警戒しているのだろう。
ツキミさんとしては私の知り合いであっても私を警護するという名目がある以上、警戒するといったところだろうか。
この雰囲気にはさすがに敵わないので、後日にまた来なければならないのだろう。
だからだろう、調べものはままならなかった。
私が色々と文献を探している中、彼とツキミさんがなぜか睨み合っているのである。
彼としてはツキミさんを知らないから警戒しているのだろう。
ツキミさんとしては私の知り合いであっても私を警護するという名目がある以上、警戒するといったところだろうか。
この雰囲気にはさすがに敵わないので、後日にまた来なければならないのだろう。
―― ◇ ――
冬の寒さとは別の寒さが訪れている。
それも外の空気よりも寒く感じるのではないかと思うほどの。
それも外の空気よりも寒く感じるのではないかと思うほどの。
気まずい、本当に気まずい……。
未だに誰一人として喋らない。
私には今の状況を看破する、いや、できる自信がない。
私の前にはテーブルがあり、それを挟むようにして彼とツキミさんがいるのだ。
それも、図書館の帰りからずっと睨み合ったまま……。
私には今の状況を看破する、いや、できる自信がない。
私の前にはテーブルがあり、それを挟むようにして彼とツキミさんがいるのだ。
それも、図書館の帰りからずっと睨み合ったまま……。
彼は私に何か言いたいことがあったのだろう、だから私の家へとやってきた。
現に、彼と最後に別れたときは、私が勝手に逃げたときだ。
それなら言いたいことがたくさんあるだろう。
私だって、彼に謝らなければと思っている。
思っているけど、言えていない。
現に、彼と最後に別れたときは、私が勝手に逃げたときだ。
それなら言いたいことがたくさんあるだろう。
私だって、彼に謝らなければと思っている。
思っているけど、言えていない。
ツキミさんは私の警護の為に私と彼との間に割って入ってきているというのはよく分かる。
それが仕事なわけだし、ツキミさんは彼のことを知らない上に彼が私の家にまでやってきたからなおさら警戒しているようだ。
私が彼を家へと入れるぐらいの知り合いなのだから、そこまで警戒しなくてもいいのではないのかと思いはする。
それが仕事なわけだし、ツキミさんは彼のことを知らない上に彼が私の家にまでやってきたからなおさら警戒しているようだ。
私が彼を家へと入れるぐらいの知り合いなのだから、そこまで警戒しなくてもいいのではないのかと思いはする。
そこへ、呼び鈴が鳴り、私はしめたとばかりに玄関へと向かった。
あの雰囲気に耐えられないので、これは助かったと思った。
あの雰囲気に耐えられないので、これは助かったと思った。
……思ったのだった。
玄関を開けてみれば、そこには探偵さんがいた。
なぜここに? 私の家を知っている?
私が唖然としていると「ツキミいる?」と探偵さんは家の中へと入ってくる。
勝手に入ってくるの? などと思うものの、探偵さんの勢いを止めることすら敵わなかった。
なぜここに? 私の家を知っている?
私が唖然としていると「ツキミいる?」と探偵さんは家の中へと入ってくる。
勝手に入ってくるの? などと思うものの、探偵さんの勢いを止めることすら敵わなかった。
本当に助けて……。
居間へと戻ってきてみれば、寒かった空気がわずかに緩和している。
探偵さんが何かをしたのだろうか?
その探偵さんはツキミさんとふたりそろって何か文書を見ていた。
今までツキミさんは文書を見ていたわけではないから、探偵さんが持ってきたのだろう。
それを見ているツキミさんの表情がとても重く感じられた。
何か、重大なことでも書かれているのだろうか――
探偵さんが何かをしたのだろうか?
その探偵さんはツキミさんとふたりそろって何か文書を見ていた。
今までツキミさんは文書を見ていたわけではないから、探偵さんが持ってきたのだろう。
それを見ているツキミさんの表情がとても重く感じられた。
何か、重大なことでも書かれているのだろうか――
22.
ツキミさんは文書を手にしたまま血相を変えて出て行ってしまった。
それにより私の警護は、なぜか探偵さんへと委ねられた……。
彼は、今度はなぜか探偵さんと睨み合っている。
というより、探偵さんが睨めっこと称して彼をからかいはじめたといった方がいいのかもしれない。
それにより私の警護は、なぜか探偵さんへと委ねられた……。
彼は、今度はなぜか探偵さんと睨み合っている。
というより、探偵さんが睨めっこと称して彼をからかいはじめたといった方がいいのかもしれない。
―― ◇ ――
彼が帰るというのに、私は未だに謝ることができないでいた。
むしろ、彼をどう見たらいいのかも分からないでいる。
見送ろうにも、どう見送ったらいいのか分からない、どう言葉をかけてあげたらいいのか分からない。
むしろ、彼をどう見たらいいのかも分からないでいる。
見送ろうにも、どう見送ったらいいのか分からない、どう言葉をかけてあげたらいいのか分からない。
彼の背中が「またな」だけを言って、帰っていってしまった。
私は……。
私は……。
扉が閉まるまで見届け、閉まったときに扉へ手をかけていた。
今扉を開ければまだ間に合うかもしれない。
今からでも謝れば……。
今扉を開ければまだ間に合うかもしれない。
今からでも謝れば……。
できなかった――
手は、扉を開けることができなかった。
歯を食いしばり、ただ……ただ泣くのを堪えるしかできなかった。
歯を食いしばり、ただ……ただ泣くのを堪えるしかできなかった。
居間へと戻ってくると、探偵さんがカップを手に待っていた。
カップを私へと差し出してきたので、それを受け取った。
綺麗な琥珀色のお茶に私の顔が映し出される。
さっきまで泣いていましたといわんばかりの、何とも情けない顔だ。
カップを私へと差し出してきたので、それを受け取った。
綺麗な琥珀色のお茶に私の顔が映し出される。
さっきまで泣いていましたといわんばかりの、何とも情けない顔だ。
「私はね、タマモちゃんにはなれないけど、それなりには悩みを聞いて上げられるわよ。
ま、話したくなければ、それでも構わないけどね」
ま、話したくなければ、それでも構わないけどね」
探偵さんは窓際へと立ち、外を眺めた。
その表情は、雪を疎ましく思っているように見えた。
その表情は、雪を疎ましく思っているように見えた。
「六花(りっか)が咲くころ……篭目に鬼か……」
探偵さんが呟いた。
何を言っているのだろうか、何かしろの意味があって言っているのは分かるのだが、何の意味を持っているのかまでは分からない。
りっか? かごめ? おに……鬼……。
何を言っているのだろうか、何かしろの意味があって言っているのは分かるのだが、何の意味を持っているのかまでは分からない。
りっか? かごめ? おに……鬼……。
「タマモちゃんが調べてたことよ。
まだその程度しか分からないから、あなたには話さないと言っていたけど。
今、私が言っちゃったけど、構わないよね?」
まだその程度しか分からないから、あなたには話さないと言っていたけど。
今、私が言っちゃったけど、構わないよね?」
彼女が調べていたこと……あの社のことなのだろうか。
私が再び探偵さんへと視線を送ると、探偵さんはこちらに笑みを見せていた。
私が再び探偵さんへと視線を送ると、探偵さんはこちらに笑みを見せていた。
「タマモちゃんは再起不能だから、私が代わりに調べてあげる。
もちろん、あなたの隅から隅まで、イヒヒ」
もちろん、あなたの隅から隅まで、イヒヒ」
含み笑いをする探偵さんの瞳が異様に煌いた気がした。
し、調べるって、何で私のことを――
し、調べるって、何で私のことを――
23.
私と一緒に寝ると突然言い出すのは、どうしたらいいのだろうか。
嫌だ、とすぐさま言ってもいいのだろうか。
とはいえ、言う前から「寒いから」の一言で押し切られてしまった。
何ともこの押し切られる私が惨めに見えてくる。
嫌だ、とすぐさま言ってもいいのだろうか。
とはいえ、言う前から「寒いから」の一言で押し切られてしまった。
何ともこの押し切られる私が惨めに見えてくる。
―― ◇ ――
まただ……。
また真っ暗な世界、幾度となく見た世界。
空には月が浮かび、私は赤く染まっている。
また真っ暗な世界、幾度となく見た世界。
空には月が浮かび、私は赤く染まっている。
夢の中――
もう、感覚が麻痺してしまっているのだろうか。
幾度も見る夢だからか、もう怖いとさえ思わなくなっていた。
怖いというならば、この夢ではなく、この夢をなぜ見るのかの方だ。
この夢を見るようになって、私は鬱々とするようになってしまった。
彼と会話ができなくなったのも、この夢の所為だと思いたい。
それとも、私がただ弱いだけなのかもしれない。
幾度も見る夢だからか、もう怖いとさえ思わなくなっていた。
怖いというならば、この夢ではなく、この夢をなぜ見るのかの方だ。
この夢を見るようになって、私は鬱々とするようになってしまった。
彼と会話ができなくなったのも、この夢の所為だと思いたい。
それとも、私がただ弱いだけなのかもしれない。
私は通りを歩いている。
夜の通りはとても静かで、誰もいない。
繁華街のはずなのだが、誰もいないというのは夢だからなのだろう。
その代わりといっていいのか、街の明かりはあるのだ。
夜の通りはとても静かで、誰もいない。
繁華街のはずなのだが、誰もいないというのは夢だからなのだろう。
その代わりといっていいのか、街の明かりはあるのだ。
私は何を求めて歩いているのだろうか。
私は何でここを歩いているのだろうか。
疑問に思ったら次々と上がってくるのだが、なぜかあまり気にならなくなり、仕舞いには疑問そのものを忘れてしまっている。
私は何でここを歩いているのだろうか。
疑問に思ったら次々と上がってくるのだが、なぜかあまり気にならなくなり、仕舞いには疑問そのものを忘れてしまっている。
「それ以上は行かない方がいい。
鬼にはなりたくないだろう?」
鬼にはなりたくないだろう?」
私への言葉なのだろうか、そんな声が聞こえた。
立ち止まり、辺りを見渡した。
誰もいない。
誰もいない通りを歩いてきたのだから誰もいないのは当たり前だ。
なら、誰なのだろうか。
自分が勝手に言っているのだろうか……。
立ち止まり、辺りを見渡した。
誰もいない。
誰もいない通りを歩いてきたのだから誰もいないのは当たり前だ。
なら、誰なのだろうか。
自分が勝手に言っているのだろうか……。
そうでもないようだ。
私の前には白狐がいた。
いつぞや社で見たあの白狐だろうか、私から少し離れた先で座ってこちらを見ている。
いつぞや社で見たあの白狐だろうか、私から少し離れた先で座ってこちらを見ている。
「夢に食われたいか?
それとも夢に救われたいか?」
それとも夢に救われたいか?」
何を言っているのか理解できない。
だが、間違いなく白狐が私に向かって言っている。
そして、白狐は私に言いたいことを言い終えたからなのだろう、身を返して去ろうとする。
待って、と言おうと思ったら――
だが、間違いなく白狐が私に向かって言っている。
そして、白狐は私に言いたいことを言い終えたからなのだろう、身を返して去ろうとする。
待って、と言おうと思ったら――
――目が覚めた。
私は探偵さんの腕の中で、なぜか泣いていた――
私は探偵さんの腕の中で、なぜか泣いていた――
24.
夜中に目が覚めたら探偵さんに抱きついて泣いていたなんて、言えるわけがない。
この探偵さんに何を言われるか分かったものじゃないからだ。
どう考えても、からかわれるに違いないと思ったのである。
この探偵さんに何を言われるか分かったものじゃないからだ。
どう考えても、からかわれるに違いないと思ったのである。
―― ◇ ――
なぜ泣いていたのか、朝食の最中だというのに考えていた。
泣いてしまうような夢の内容ではなかったはずだ。
でも、私は泣いていたのだ。
泣いてしまうような夢の内容ではなかったはずだ。
でも、私は泣いていたのだ。
「美味しくなかった? そりゃ、あたしゃ料理は下手だけど」
私の食が進んでいないことを気にしたのだろう、訊いてきた。
朝食は探偵さんが作ってくれたのだが、正直美味しくない。
かといって不味いと短絡的にいうわけでもない。
至って普通の味なのかと問われればそうでもなかったりする。
わずかながら不味いの部類に入るのだ、そう、わずかながら。
決して不味いと一言で片付けるほどではない、と思う。
「美味しいよ」と如何にも世辞らしいことを言って食事を進めた。
朝食は探偵さんが作ってくれたのだが、正直美味しくない。
かといって不味いと短絡的にいうわけでもない。
至って普通の味なのかと問われればそうでもなかったりする。
わずかながら不味いの部類に入るのだ、そう、わずかながら。
決して不味いと一言で片付けるほどではない、と思う。
「美味しいよ」と如何にも世辞らしいことを言って食事を進めた。
食事を終え、外へと出た。
「寒いねぇ」と探偵さんは白い息を手へとかけている。
空はどんより雲、いつもの雪。
外はとても静かだ。
寒いから誰も外へと出たがらないのだろうか、とさえ思うほどに。
探偵さんに図書館で調べものをしてもいいかと訊ねたら、少し悩んだあとに「いいよ」と言ってくれた。
その間は何なのだろうか、きっと勉強とか調べものとかが嫌いな性格なのだろう。
探偵という仕事をしているわりには、そんな風に見えない人だから。
「寒いねぇ」と探偵さんは白い息を手へとかけている。
空はどんより雲、いつもの雪。
外はとても静かだ。
寒いから誰も外へと出たがらないのだろうか、とさえ思うほどに。
探偵さんに図書館で調べものをしてもいいかと訊ねたら、少し悩んだあとに「いいよ」と言ってくれた。
その間は何なのだろうか、きっと勉強とか調べものとかが嫌いな性格なのだろう。
探偵という仕事をしているわりには、そんな風に見えない人だから。
図書館はいつ来ても静かで、ところどころ学生が何かを調べてノートに書き込んでいる。
席を確保すると、まずは文献探しからと本棚へと向かった。
探偵さんは、どこか暇そうな面持ちで適当に取ったのであろう本を捲って眺めている。
ずいぶんと分厚い本で、「ミサイル工学」の文字が見えたような気がしたが、あえて見なかったことにしておこう……。
席を確保すると、まずは文献探しからと本棚へと向かった。
探偵さんは、どこか暇そうな面持ちで適当に取ったのであろう本を捲って眺めている。
ずいぶんと分厚い本で、「ミサイル工学」の文字が見えたような気がしたが、あえて見なかったことにしておこう……。
この街の歴史が書かれた文献、これを3冊取って席へと戻ってきた。
パラパラと捲っていく。
街の成り立ちからはじまり、色々と書かれている。
でも、私が知りたいのは街の歴史ではない。
竹林に囲まれた社について。
このことが知りたいのだ。
それに、あの社を見つけたときの「かごめかごめ」も。
あの歌を聞いて、私はあの社を見つけたのだ。
童謡の歴史についての文献も探したのだが、どうもこの「かごめかごめ」にはいくつも説が存在していて、定かにするのは難しそうだ。
それに歌と社の関係性だってあるのかどうか分からないときている。
パラパラと捲っていく。
街の成り立ちからはじまり、色々と書かれている。
でも、私が知りたいのは街の歴史ではない。
竹林に囲まれた社について。
このことが知りたいのだ。
それに、あの社を見つけたときの「かごめかごめ」も。
あの歌を聞いて、私はあの社を見つけたのだ。
童謡の歴史についての文献も探したのだが、どうもこの「かごめかごめ」にはいくつも説が存在していて、定かにするのは難しそうだ。
それに歌と社の関係性だってあるのかどうか分からないときている。
ふと探偵さんがこちらを見ていたのに気がついた。
私が何を調べているのか気になったのだろう。
私が何を調べているのか気になったのだろう。
「籠の中の鳥って竹垣に囲まれた社をさす場合もあるらしいわね」
と言ったのだ――
25.
今日は探偵さんの言葉のみで他に調べようと思わなかった。
十分とはいえないが、私にとってはとても重要なことを聞くことができたと思っている。
十分とはいえないが、私にとってはとても重要なことを聞くことができたと思っている。
―― ◇ ――
図書館からの帰り、まっすぐ家へと向かわずに社へと向かった。
「ずいぶんと荒れた場所ね」
社を見て真っ先に言った探偵さんの感想だ。
誰が見てもそう思うだろう、実際私も似たようなものだから。
雪で足をとられないように段を上って社へと入っていく。
いつ見ても中は変わらない。
探偵さんは興味津々といった感じで中をぐるりと見て回る。
誰が見てもそう思うだろう、実際私も似たようなものだから。
雪で足をとられないように段を上って社へと入っていく。
いつ見ても中は変わらない。
探偵さんは興味津々といった感じで中をぐるりと見て回る。
「何か分かりますか?」
と訊ねたのだが、探偵さんは首を横に振った。
まあ、元々何もないようなものを見たところで何かが分かるとは思えない。
まあ、元々何もないようなものを見たところで何かが分かるとは思えない。
「ここは、神社か何かだったのかな?
賽銭箱だったらしいものはあったし、祭壇らしかったものはここにあるし」
賽銭箱だったらしいものはあったし、祭壇らしかったものはここにあるし」
探偵さんは奥の台に触れながら言った。
半ば腐っているのか、触れるだけで台は不安定に揺れ、軋む音を立てた。
半ば腐っているのか、触れるだけで台は不安定に揺れ、軋む音を立てた。
「ただ、神社にしてはあれがないか。
盗まれた、と考えるのが自然だろうけど。
鏡か、刀か、勾玉か、それとも別のものか」
盗まれた、と考えるのが自然だろうけど。
鏡か、刀か、勾玉か、それとも別のものか」
探偵さんはそう言って、社の外へと出て行く。
私もあとに続き――
私もあとに続き――
社の外、白く染まった竹林の中に人影が見えた。
人影はこちらへと、竹林から出てきて姿を出した。
背筋の凍るような冷たい視線。
人影はこちらへと、竹林から出てきて姿を出した。
背筋の凍るような冷たい視線。
あのときのロングコートの人……。
体が震えだす。
動くことさえままならない。
息することだって、上手くできているのか分からない。
動くことさえままならない。
息することだって、上手くできているのか分からない。
逃げるよ、と探偵さんの声で私は手を引かれて走った。
雪に足をとられながらも、ロングコートの人から逃げる。
雪に足をとられながらも、ロングコートの人から逃げる。
どこをどう逃げ回っているのかよく分からない。
私は探偵さんに引かれて走っているだけなのだ。
竹林を抜け、開けた場所である小高い丘へと出た――
私は探偵さんに引かれて走っているだけなのだ。
竹林を抜け、開けた場所である小高い丘へと出た――
え? と声が出た。
私が発したのだろうか、それとも探偵さんが発したのだろうか。
私が発したのだろうか、それとも探偵さんが発したのだろうか。
空にまん丸とした青い月が浮かんでいるのが見えた――
26.
ロングコートの人はどこまでも追いかけてくる。
こちらの逃げる先逃げる先が分かっているというのだろうか。
小高い丘から、できるだけ逃げやすいだろう街の中へと入ってもそれは変わらなかった。
こちらの逃げる先逃げる先が分かっているというのだろうか。
小高い丘から、できるだけ逃げやすいだろう街の中へと入ってもそれは変わらなかった。
―― ◇ ――
「何なの、あれは!?」
息を切らしながら探偵さんは吐き捨てるように言った。
それは私だって同じ台詞だ。
どこへ逃げても追いかけてくる、私たちの逃げる先が分かっているかのように。
そもそも、なぜ私たちの前に現れ、私たちを追いかけてくるのだろうか。
私に顔を見られたから、とも考えられる。
なら、なぜ彼女とともに私を刺したりしなかったのだろうか。
そのときに私をどうにかしてしまえば、あとあとになって私を追いかけてくる必要だってなくなるだろうに。
いや、そんなことはどうでもいい。
私は助かったのだ、彼女が庇ってくれたおかげで。
だから私があの時どうなったかなんて、考える必要はない。
それは私だって同じ台詞だ。
どこへ逃げても追いかけてくる、私たちの逃げる先が分かっているかのように。
そもそも、なぜ私たちの前に現れ、私たちを追いかけてくるのだろうか。
私に顔を見られたから、とも考えられる。
なら、なぜ彼女とともに私を刺したりしなかったのだろうか。
そのときに私をどうにかしてしまえば、あとあとになって私を追いかけてくる必要だってなくなるだろうに。
いや、そんなことはどうでもいい。
私は助かったのだ、彼女が庇ってくれたおかげで。
だから私があの時どうなったかなんて、考える必要はない。
建物の陰へと隠れ、息を整える。
探偵さんは息がどこまで続くのか分からないほどに疲弊している。
普段、走ったりしていないからなのだろう。
探偵さんは息がどこまで続くのか分からないほどに疲弊している。
普段、走ったりしていないからなのだろう。
空を見上げれば、あの青い月。
この月も、どこまで走っても空にいる。
あの人のように逃げても逃げても空にいる。
いや、あの人がこの月のようにどこまでも追いかけてくるのだろう。
この月も、どこまで走っても空にいる。
あの人のように逃げても逃げても空にいる。
いや、あの人がこの月のようにどこまでも追いかけてくるのだろう。
「これ以上、走るのも疲れたわ。
癪だけど、あそこに逃げ込むか」
癪だけど、あそこに逃げ込むか」
深呼吸を幾度かして、探偵さんはまた私の手を引いて走り出した。
通りへと出ると、離れたところではあの人が歩いて追いかけてくるのが見えた。
歩いてもなお、私たちを追いかけられるというのか。
余所見をしている暇はない、と言う探偵さんの声に私はあの人から視線をはずして前だけを見る。
通りへと出ると、離れたところではあの人が歩いて追いかけてくるのが見えた。
歩いてもなお、私たちを追いかけられるというのか。
余所見をしている暇はない、と言う探偵さんの声に私はあの人から視線をはずして前だけを見る。
あそこへ逃げ込む、と言ったがどこへと逃げるというのだろうか?
と疑問に思ったのだが、すぐにその答えへと近づいてきた。
白く、飾り気のない、何とも味気のない建物。
警察署だ。
逃げ先に値する場所だといっていい。
白く、飾り気のない、何とも味気のない建物。
警察署だ。
逃げ先に値する場所だといっていい。
「ほんと、ここへと逃げるだなんて、癪だよ。
けど、他に思い当たらないのだから、仕方がないんだけどね」
けど、他に思い当たらないのだから、仕方がないんだけどね」
飛び込むような形で私たちは警察署へと入った。
突然飛び込んできた私たちを見て、警察署の中にいた人たちの視線が一気に集まった。
これじゃ、助けてもらうどころか、不審者極まりないだろうか。
そうじゃなく、それだけ切羽詰っていると見てもらえるのかもしれない。
突然飛び込んできた私たちを見て、警察署の中にいた人たちの視線が一気に集まった。
これじゃ、助けてもらうどころか、不審者極まりないだろうか。
そうじゃなく、それだけ切羽詰っていると見てもらえるのかもしれない。
27.
訳を話したら奥へと通された。
そこでしばらく待っていたのだが、ロングコートの人がやってくることはなかった。
私たちの言っていることに不信感を抱いている人が何人かいたのだが、探偵さんの説明とちょうどそのときに署に詰めていたツキミさんの説明のおかげでその人たちには納得してもらった。
そこでしばらく待っていたのだが、ロングコートの人がやってくることはなかった。
私たちの言っていることに不信感を抱いている人が何人かいたのだが、探偵さんの説明とちょうどそのときに署に詰めていたツキミさんの説明のおかげでその人たちには納得してもらった。
―― ◇ ――
ツキミさんと探偵さんが私から離れたところで何かを話している。
一通り話し終えたところで探偵さんは手を振って部屋から出て行ってしまった。
代わりにツキミさんが私のところへとやってきた。
一通り話し終えたところで探偵さんは手を振って部屋から出て行ってしまった。
代わりにツキミさんが私のところへとやってきた。
「今日から、またよろしくね」
ツキミさんが微笑みながら握手を求めてきた。
でも、その微笑みは作り笑いなのだということは一目で分かった。
私の警護がそれだけ大変なのだろうか。
それとも別に、何か芳しくないことがあるのだろうか。
でも、その微笑みは作り笑いなのだということは一目で分かった。
私の警護がそれだけ大変なのだろうか。
それとも別に、何か芳しくないことがあるのだろうか。
時間は夜遅くになってしまったが、ツキミさんとともに家にまでたどり着いた。
途中、あの人と出くわすことは一切なかった。
無事に家にたどり着けたことは運がよかったということなのだろうか、それともあとに回っただけと受取った方がいいのだろうか。
玄関を開ければ、当然家の中は真っ暗だ。
明かりをつけて中へと入っていき、ソファに座って、ここでようやく深く息を吐くことができた。
途中、あの人と出くわすことは一切なかった。
無事に家にたどり着けたことは運がよかったということなのだろうか、それともあとに回っただけと受取った方がいいのだろうか。
玄関を開ければ、当然家の中は真っ暗だ。
明かりをつけて中へと入っていき、ソファに座って、ここでようやく深く息を吐くことができた。
「ところで、犯人の特徴を詳しく教えてもらえないかしら?
こちらで手にしている情報が少なすぎるの」
こちらで手にしている情報が少なすぎるの」
ツキミさんが私の前で屈み、私と視線を合わせて訪ねてきた。
犯人の特徴……。
ゾクリ、と背筋に寒気が走る。
足からなのか手からなのか背中からなのか、全身が震えだした。
犯人の特徴……。
ゾクリ、と背筋に寒気が走る。
足からなのか手からなのか背中からなのか、全身が震えだした。
あの人のことを考えると、とても怖いという印象しか出てこない。
特徴を言えといったところで、ロングコートを着た恐い人、としか出てこない。
特徴を言えといったところで、ロングコートを着た恐い人、としか出てこない。
「ごめん、まだ心の整理が仕切れていないわよね。
今の質問は聞かなかったことにして」
今の質問は聞かなかったことにして」
ツキミさんは私の頭に手を添え、優しく撫でてくれた。
少しずつ、震えが止まっていく……。
少しずつ、震えが止まっていく……。
「フラッシュバック、か。
そうよね、あいつが手を引いて署まで連れてきたぐらいだし。
犯人を見るなり考えるなりすれば、当然精神は不安定となる」
そうよね、あいつが手を引いて署まで連れてきたぐらいだし。
犯人を見るなり考えるなりすれば、当然精神は不安定となる」
ツキミさんは立ち上がって台所の方へと向かいながらブツブツ言っている。
今日の晩御飯はツキミさんが冷蔵庫にあるもので適当に作ってくれるというので、私はその間ソファの上で横になって待つことにした。
瞼が重い――
今日の晩御飯はツキミさんが冷蔵庫にあるもので適当に作ってくれるというので、私はその間ソファの上で横になって待つことにした。
瞼が重い――
28.
晩御飯の間、何も会話することがなかったというかできなかったので、テレビをつけていた。
やっていたのはニュースだったのだが――
やっていたのはニュースだったのだが――
私にとって、衝撃的だった、としか言いようがなかった。
殺人事件は今までもう5回も行われていたのだ。
どれも“猟奇的”と捉えられる犯行とのことだ。
そして、ツキミさんはじっとテレビを睨んでいた。
いや、その向こう、テレビには映っていない犯人のことを。
どれも“猟奇的”と捉えられる犯行とのことだ。
そして、ツキミさんはじっとテレビを睨んでいた。
いや、その向こう、テレビには映っていない犯人のことを。
―― ◇ ――
真夜中、何かの音が聞こえたような気がしたので目が覚めた。
なかなか寝付けなかったので、目が覚めたということは眠ることができたということは分かった。
でも、折角眠ったのなら、途中で目が覚めてしまうのはなんともったいないことだろうか。
起きて何の音か確かめてもいいのだろうけど、ツキミさんが起きているのだろうと考え、もう一度眠ろうと思って目を瞑った。
なかなか寝付けなかったので、目が覚めたということは眠ることができたということは分かった。
でも、折角眠ったのなら、途中で目が覚めてしまうのはなんともったいないことだろうか。
起きて何の音か確かめてもいいのだろうけど、ツキミさんが起きているのだろうと考え、もう一度眠ろうと思って目を瞑った。
また音がした。
こんな夜中なのに、何をしているのだろうか?
トイレで起きたとかにしては、いささか違う音。
気になるのでベッドから這い出ようとした――
トイレで起きたとかにしては、いささか違う音。
気になるのでベッドから這い出ようとした――
「大丈夫!?」
突然ドアが開いて、ツキミさんが慌てて入ってきた。
何が大丈夫なのか、よく分からない。
そもそも、音を立てていたのはツキミさんの方でこちらは寝ていたのだから、むしろ訊くのはこちらじゃないのだろうか。
何が大丈夫なのか、よく分からない。
そもそも、音を立てていたのはツキミさんの方でこちらは寝ていたのだから、むしろ訊くのはこちらじゃないのだろうか。
「逃げるのよ」
ツキミさんが私の手を取って、そう言った。
ますます何を言っているのか分からない。
なぜ逃げなければならな――
ますます何を言っているのか分からない。
なぜ逃げなければならな――
部屋にあのロングコートの人が入ってくる。
どうして? 何でここに?
「早く、逃げるの!」
そんなこと言われても、そんなすぐに足が動くわけじゃない、体が動くわけじゃない。
それより、体が震え、むしろ全く動かなくなっていく。
それより、体が震え、むしろ全く動かなくなっていく。
ツキミさんがあの人に体当たりをして、壁へと押し付けた。
ツキミさんの「逃げなさい」という声に私は気を取り戻したのか、うなずいて走った。
状況がつかめていないまま、走った。
ツキミさんを背にして、走った。
ツキミさんの「逃げなさい」という声に私は気を取り戻したのか、うなずいて走った。
状況がつかめていないまま、走った。
ツキミさんを背にして、走った。
家を出、真っ暗な夜道へと走った。
どこへ逃げていいのかも分からないまま――
どこへ逃げていいのかも分からないまま――
29.
夜中の通りというのは、誰もいない静かなところだ。
等間隔で街灯があるだけで、他には何の明かりもない。
音だって私の足音以外に何もなかった。
等間隔で街灯があるだけで、他には何の明かりもない。
音だって私の足音以外に何もなかった。
空は雲がかかり、もうあの青い月は見ることができなかった――
―― ◇ ――
私は靴も履かずに出てきたのだと、今さらになって分かった。
足はとても冷たく……見るも無残だ。
こんな足でずっと走ってきたのか。
そして、あのあとツキミさんがどうなったのか分からない。
無事なら、いいのだけれど……。
足はとても冷たく……見るも無残だ。
こんな足でずっと走ってきたのか。
そして、あのあとツキミさんがどうなったのか分からない。
無事なら、いいのだけれど……。
逃げる当てもないままずっと歩いている。
足はとても痛く……ううん、もう痛みすら感じなくなりつつある。
その足が止まった。
あの裏通りだ。
初めて彼女と会った場所。
私はあの時と同じく、そこで屈んでうずくまった。
彼女がやってくるわけじゃないのに。
でも、どこに行ったらいいのか分からないから、ここに来てしまったのだ。
どうしようもないのだ――
足はとても痛く……ううん、もう痛みすら感じなくなりつつある。
その足が止まった。
あの裏通りだ。
初めて彼女と会った場所。
私はあの時と同じく、そこで屈んでうずくまった。
彼女がやってくるわけじゃないのに。
でも、どこに行ったらいいのか分からないから、ここに来てしまったのだ。
どうしようもないのだ――
どれほどの時間、そこにいたのだろうか。
とても体が重い、瞼が重い、息も重い……。
このままここにいたら、私は間違いなく死ぬのだろう。
これじゃ、逃げても逃げなくても、変わらないじゃないか……。
でも、もう動けない。
動くことすらままならない。
死ぬんだ、私は……。
とても体が重い、瞼が重い、息も重い……。
このままここにいたら、私は間違いなく死ぬのだろう。
これじゃ、逃げても逃げなくても、変わらないじゃないか……。
でも、もう動けない。
動くことすらままならない。
死ぬんだ、私は……。
――正直、もう少し骨のある奴だと思ってたのに――
え、誰の声?
閉じかけた瞼を上げる。
目の前には犬……じゃなく、いつぞやの白狐が座っていた。
まさか、この白狐の声、なわけないか。
さすがに寒さで気が触れたのだろう。
そう、この白狐だって私の前にいるのか分かったもんじゃない。
幻覚なのかもしれない。
閉じかけた瞼を上げる。
目の前には犬……じゃなく、いつぞやの白狐が座っていた。
まさか、この白狐の声、なわけないか。
さすがに寒さで気が触れたのだろう。
そう、この白狐だって私の前にいるのか分かったもんじゃない。
幻覚なのかもしれない。
白狐は身を起こし、私へと近づいてくる。
その瞳は私を見たまま、私はその瞳を見たまま。
白狐が私の顔を覗き込み、その鼻先で私の鼻をつついた。
温かいとも冷たいとも、硬いとも柔らかいとも、いえる感触。
それだけで白狐は私から離れた。
何をしたかったのだろうか分からなかったけど、私は白狐に向かって微笑んでいた。
何をしたかったのか分からないのは私も同じだ。
その瞳は私を見たまま、私はその瞳を見たまま。
白狐が私の顔を覗き込み、その鼻先で私の鼻をつついた。
温かいとも冷たいとも、硬いとも柔らかいとも、いえる感触。
それだけで白狐は私から離れた。
何をしたかったのだろうか分からなかったけど、私は白狐に向かって微笑んでいた。
何をしたかったのか分からないのは私も同じだ。
そのあとの記憶はない。
真っ暗な闇へと堕ちていき、あらゆる感覚が遠退いていく――
真っ暗な闇へと堕ちていき、あらゆる感覚が遠退いていく――
再び光が見えたとき、私は寝かされていた。
ベッドの中、病室だった――
ベッドの中、病室だった――
30.
どうしてここにいるのか分からなかった。
あそこにいたはずなのに、どうやってここへと運ばれたのか分からなかった。
あそこにいたはずなのに、どうやってここへと運ばれたのか分からなかった。
そもそも、何で私はまだ生きているのだろう……。
―― ◇ ――
彼の視線が突き刺さる。
私はどうしても彼の視線から逃れたい一心なのだが、体が言うことを利いてくれない。
あの寒い中ずっといたのだから、相当体に無理が来ているのだ。
私ができることといえば、彼から視線を外すことのみだ、口を閉ざすことのみだ。
私はどうしても彼の視線から逃れたい一心なのだが、体が言うことを利いてくれない。
あの寒い中ずっといたのだから、相当体に無理が来ているのだ。
私ができることといえば、彼から視線を外すことのみだ、口を閉ざすことのみだ。
私から聞いたわけではなく彼が勝手に話してきたことなのだが、私はそれこそ死ぬ寸前だったとのことだ。
衰弱しきっていて、あともう少し見つかるのが遅かったら間違いなく死んでいたという。
そして、私を見つけたのが彼で、ここへと運んできてくれたのだそうだ。
それから私は3日もの間眠り続けていたそうだ。
衰弱しきっていて、あともう少し見つかるのが遅かったら間違いなく死んでいたという。
そして、私を見つけたのが彼で、ここへと運んできてくれたのだそうだ。
それから私は3日もの間眠り続けていたそうだ。
「そろそろ、何か言ってくれないか」
彼の言葉が胸に突き刺さる。
彼と話がしたくないわけではない、彼と話をしたい。
でも、負い目がそれを許してくれない。
彼を振り切って逃げてしまったという負い目が。
彼と話がしたくないわけではない、彼と話をしたい。
でも、負い目がそれを許してくれない。
彼を振り切って逃げてしまったという負い目が。
意を決し、彼に視線を合わせる。
彼の瞳は、いつも見せるとても柔らかな優しい視線だった。
今なら、私は謝ることができるのかもしれない。
彼から逃げる必要はないのかもしれない。
彼の瞳は、いつも見せるとても柔らかな優しい視線だった。
今なら、私は謝ることができるのかもしれない。
彼から逃げる必要はないのかもしれない。
「ごめんなさい……」
小さいながらも、私なりに精一杯の声で謝った。
彼は小さく首を横に振り、「謝ることなんてない」と返してくれた。
彼は小さく首を横に振り、「謝ることなんてない」と返してくれた。
「ただ、前のように話をしたかっただけだ。
それなのに、いつからか俺が避けられているような気がしてさ」
それなのに、いつからか俺が避けられているような気がしてさ」
避けていたと言われるとすごくつらい。
彼のことが嫌いで避けていたわけではなく、あの負い目から勝手に避けるようになってしまっただけのこと。
私が悪いだけなのに。
彼のことが嫌いで避けていたわけではなく、あの負い目から勝手に避けるようになってしまっただけのこと。
私が悪いだけなのに。
本当に、ごめんなさい……。
まだ私と彼の間には溝が未だ残っているけれど、少しずつ話すことができるようになってきた。
以前のように、普通に接するように早くなりたい。
以前のように、普通に接するように早くなりたい。
私たちは暗くなるまで、彼と話をしていた。
ううん、彼が一方的に話して、私は聞いているだけ。
ううん、彼が一方的に話して、私は聞いているだけ。
でも、それがとても幸せな気がした――
31.
結局、どうやって彼は私のことを見つけたのか、それはわからず仕舞いだった。
あんな時間に外にいたということも不思議だった。
あんな時間に外にいたということも不思議だった。
それを言ったら、私だってあの人から逃げるということがあるとはいえ、あんな時間に外にいたということになる。
お互いがお互いを引き合った、と今は考えておこう――
―― ◇ ――
彼女と同じ病院だったということもあり、彼女の病室へと向かった。
衰弱が激しかったのであと2・3日入院していなければならなく、病室にひとりでこもっているのはとても暇だったというのがある。
もっとも、彼女が今どういう状態なのか、というのが一番知りたかった。
衰弱が激しかったのであと2・3日入院していなければならなく、病室にひとりでこもっているのはとても暇だったというのがある。
もっとも、彼女が今どういう状態なのか、というのが一番知りたかった。
病室に入ると、彼女はベッドの上で暇そうに窓の外を眺めていた。
意識が戻るまで回復し、今では上体を起こすまでになったという。
私が入ったことで、彼女の視線がこちらへと向いた。
意識が戻るまで回復し、今では上体を起こすまでになったという。
私が入ったことで、彼女の視線がこちらへと向いた。
「ろくに動けないから、暇ね」
と私がベッドのわきの椅子へと腰掛けるのを見てから彼女は言った。
傷の方は大丈夫なのかなんて訊いてもいいのか悩んでいるうちに、彼女は「あなたも入院したの」なんて笑い混じりに言った。
傷は負ったものの、概ね元気なようで何よりだ。
傷の方は大丈夫なのかなんて訊いてもいいのか悩んでいるうちに、彼女は「あなたも入院したの」なんて笑い混じりに言った。
傷は負ったものの、概ね元気なようで何よりだ。
「ごめんね、力になれなくて」
うつむき加減に彼女は言うのだが、そんなことはない。
私は彼女に助けられたわけだし、とても力になってくれたと思う。
彼女が私を助けてくれたから、今の私がいるんだと思うのだ。
彼女がいなかったら、あのときに死んでいたに違いないのだから。
私は彼女に助けられたわけだし、とても力になってくれたと思う。
彼女が私を助けてくれたから、今の私がいるんだと思うのだ。
彼女がいなかったら、あのときに死んでいたに違いないのだから。
私は、彼女に彼に助けられ、今こうして生きているのだから。
傷が障るのか、彼女は時折顔を歪めるものの、そのあとはずっと話をしていた。
世間話からはじまって、彼女がここへと運ばれてからのことを彼女は聞きたがっていたし、私はそれを話していた。
世間話からはじまって、彼女がここへと運ばれてからのことを彼女は聞きたがっていたし、私はそれを話していた。
「そうか、大変だったんだね。
こんな身だけどさ、相談なら乗るよ」
こんな身だけどさ、相談なら乗るよ」
彼女はいつぞやと同じ笑みを私に見せた。
そう、最初に会ったときと同じだろうか、あの鳶色の瞳が何よりも印象的だ。
そう、最初に会ったときと同じだろうか、あの鳶色の瞳が何よりも印象的だ。
彼女に今調べている竹林に囲まれた社について話した。
彼女はまだ途中までしか調べていないだろうから、私が引き継いで調べるためにもどこまで調べたかを話しておこうと思ったのだ。
彼女はまだ途中までしか調べていないだろうから、私が引き継いで調べるためにもどこまで調べたかを話しておこうと思ったのだ。
「あの社には鬼が祀られていたぐらいしか分からないわ」
どうやら、私が調べていたことよりも彼女の方が進んでいたらしい。
あの社に鬼が祀られていた?
だから、かごめかごめの歌が聞こえたというのだろうか――
あの社に鬼が祀られていた?
だから、かごめかごめの歌が聞こえたというのだろうか――
32.
入院している間、午前と午後に決まって彼女の部屋に行っては話をしていた。
社のことについて話していたのは最初だけで、ほとんどが他愛のないただの世間話だった。
社のことについて話していたのは最初だけで、ほとんどが他愛のないただの世間話だった。
―― ◇ ――
退院の日となり、彼女に挨拶をしてから部屋を出る準備をした。
準備といっても、着替えは病院着を使用していたわけだし、運ばれるときに来ていた服をバッグに詰めるだけだ。
ちなみに今の服は昨日彼に持ってきてもらったものだ。
準備といっても、着替えは病院着を使用していたわけだし、運ばれるときに来ていた服をバッグに詰めるだけだ。
ちなみに今の服は昨日彼に持ってきてもらったものだ。
ふと、バッグの口を閉じながらとあることを思い出していた。
入院している間、夢を見なかったのだ。
あの何度も見せられた夢を全くもって見なかったのだ。
記憶に残ってなくて知らないうちに見ていたという可能性もあるのだが、少なくとも夢にうなされて目を覚ましたことはなかった。
いつもの眠る環境とは違ったからだったのだろうか。
枕が違えばぐっすり眠れなくなる、というのはあるのだろうけど逆に眠れるようになるなんて事があるのだろうか。
実に不思議、というか私がおかしいだけなのかもしれない。
あの何度も見せられた夢を全くもって見なかったのだ。
記憶に残ってなくて知らないうちに見ていたという可能性もあるのだが、少なくとも夢にうなされて目を覚ましたことはなかった。
いつもの眠る環境とは違ったからだったのだろうか。
枕が違えばぐっすり眠れなくなる、というのはあるのだろうけど逆に眠れるようになるなんて事があるのだろうか。
実に不思議、というか私がおかしいだけなのかもしれない。
バッグの口を閉めるとポンと軽くバッグの上を叩く。
そこに、タイミングよく彼がやってきた――
そこに、タイミングよく彼がやってきた――
退院の手続きを済ませて家に戻ってきたのはいいのだが、家には警察がいて警戒線が張られていた。
門扉には黄色のテープがあり、そこに警官がひとり立っていた。
家のものだと伝えて中に入れてもらったのはいいが、中は中でなかなかの惨状となっていた。
ところどころ輪状に白いテープが張られている。
さらにはそのテープに囲まれた中に黒く変色した何かがこびりついていた。
中でも警官たちがいて、それらには触れないで欲しいと忠告された。
門扉には黄色のテープがあり、そこに警官がひとり立っていた。
家のものだと伝えて中に入れてもらったのはいいが、中は中でなかなかの惨状となっていた。
ところどころ輪状に白いテープが張られている。
さらにはそのテープに囲まれた中に黒く変色した何かがこびりついていた。
中でも警官たちがいて、それらには触れないで欲しいと忠告された。
折角家に帰ってきたというのに、まだ家に帰ってきたという感覚を得ることができない。
やはり、この状況がそうさせるのだろう。
やはり、この状況がそうさせるのだろう。
部屋にバッグを置いて居間へと戻ってくると、彼がお茶をすすりながら椅子に座っていたのでそこへと寄った。
何だろう、自分の居場所がないように思えてくる。
家で警官たちが検分を行っているからなのだろうけど、でも何で今やっているのか。
何だろう、自分の居場所がないように思えてくる。
家で警官たちが検分を行っているからなのだろうけど、でも何で今やっているのか。
「酷い有様だな。
聞いてはいたんだが、見るとどれほどのものだったのかよく分からされる」
聞いてはいたんだが、見るとどれほどのものだったのかよく分からされる」
彼は湯飲みを置き、溜息を吐いた。
溜息を吐きたいのはこちらだって同じだ。
夜中にあのロングコートの人が突如やってきて……。
私はツキミさんに言われるがままに外へと飛び出したんだ。
となると、ツキミさんはどうなったのだろうか。
いたるところにある黒く変色したものが何なのかを推測し、おそらく血なのだろうと絶句した。
溜息を吐きたいのはこちらだって同じだ。
夜中にあのロングコートの人が突如やってきて……。
私はツキミさんに言われるがままに外へと飛び出したんだ。
となると、ツキミさんはどうなったのだろうか。
いたるところにある黒く変色したものが何なのかを推測し、おそらく血なのだろうと絶句した。
33.
警官たちにツキミさんがどうなったのかを訊いたのだが、誰も教えてくれなかった。
何でも捜査上の機密とかで、一切の情報を教えるわけにはいかないらしい。
私だって当事者のひとりだというのに……。
何でも捜査上の機密とかで、一切の情報を教えるわけにはいかないらしい。
私だって当事者のひとりだというのに……。
―― ◇ ――
家にいてもゆっくりしていられないので、外に出ることにした。
私のあとを彼がついてくる。
家で警官たちに何が起きたのかを聞いたのだろうか、私を守ると言い出したのだ。
だけど、私を守るというのは、私のように危険が迫るということだ。
それはできないと断ったのだが、彼は私の言葉を受け入れなかった。
彼にまで彼女のように怪我をして欲しくはないというのに――
私のあとを彼がついてくる。
家で警官たちに何が起きたのかを聞いたのだろうか、私を守ると言い出したのだ。
だけど、私を守るというのは、私のように危険が迫るということだ。
それはできないと断ったのだが、彼は私の言葉を受け入れなかった。
彼にまで彼女のように怪我をして欲しくはないというのに――
どこに行くあてもなかったので、探偵さんの事務所へとやってきた。
のだったが、事務所は開いていなかった。
仕事か何かでどこかに出かけているのだろう。
のだったが、事務所は開いていなかった。
仕事か何かでどこかに出かけているのだろう。
建物から外へと出て、溜息を吐いた。
これからどこへと行こうか、と悩むだけだ。
他にできることはないのだろうか。
これからどこへと行こうか、と悩むだけだ。
他にできることはないのだろうか。
「なあ、そういえば図書館で何か調べ物してたよな? この間」
彼が空を見上げながら訊いてきた。
うん、と答え彼に倣って空を見る。
そういえば社のことを調べていたっけ。
でも、彼女と話をして、退院して、忘れていた。
ううん、忘れたかったので忘れたと誤魔化していたのかもしれない。
折角夢も見なくなったのに、今更何を調べようというのだろうか。
うん、と答え彼に倣って空を見る。
そういえば社のことを調べていたっけ。
でも、彼女と話をして、退院して、忘れていた。
ううん、忘れたかったので忘れたと誤魔化していたのかもしれない。
折角夢も見なくなったのに、今更何を調べようというのだろうか。
今日からはもう病院で眠るわけではないのだから、また夢を見ることになるのだろうか。
それとも、あれを境に見なくなっているのだろうか。
それとも、あれを境に見なくなっているのだろうか。
どうせ、見るのだろう。
確証はないけど、確信はある。
確証はないけど、確信はある。
今更思うのだが、私は何で社のことを調べようと思ったのだろうか。
夢と社が関係あるのかなんて分からない。
ただ、かごめかごめの歌を聞いて気が付いたら社の前にいたというだけのこと。
それなら、あの雪の降る夜に気がついたら通りを歩いていたということはどうなるのだろうか。
これも調べる必要があるのだろうか。
夢と社が関係あるのかなんて分からない。
ただ、かごめかごめの歌を聞いて気が付いたら社の前にいたというだけのこと。
それなら、あの雪の降る夜に気がついたら通りを歩いていたということはどうなるのだろうか。
これも調べる必要があるのだろうか。
「いい若いもんが、空を見上げながら溜息?
そんなんじゃ早く年食うわよ」
そんなんじゃ早く年食うわよ」
呆れた声が私に、私たちにかけられた。
視線を下すと、私たちのすぐ横でこれまた呆れた顔をした探偵さんがいた。
いつからそこにいたのだろうか、というか溜息吐いているのを見られていたのだから最初からか……。
視線を下すと、私たちのすぐ横でこれまた呆れた顔をした探偵さんがいた。
いつからそこにいたのだろうか、というか溜息吐いているのを見られていたのだから最初からか……。
「そんなことよりさ、渡したいものがあったんだ――」
コメント
- 拙遅ならぬ巧速とは正にこの事。
巧遅拙速と言う四字熟語が最も似合わない長編。
僕の方は拙遅な状態なのでorz
-- 永滝 (2009-04-13 16:07:46)