34.
探偵さんから書類の入っている封筒を渡された。
封を開けてみると色々と書かれたもの、写真、本などが入っていて、すぐさま見るには時間がかかりそうなものばかりだった。
封を開けてみると色々と書かれたもの、写真、本などが入っていて、すぐさま見るには時間がかかりそうなものばかりだった。
―― ◇ ――
夕暮れ、というかもう夜という暗さだ。
家に――あの検分がなされている場所に帰るのが億劫なので――すぐに帰ることはなく病院へと寄っていた。
彼女の病室、今回は彼とふたりで訪れた。
家に――あの検分がなされている場所に帰るのが億劫なので――すぐに帰ることはなく病院へと寄っていた。
彼女の病室、今回は彼とふたりで訪れた。
私と彼が一緒なのを見て、彼女は何やらニタニタ笑っている。
一体何がおかしいのだろうか、とも思ったのだがすぐにその答えは彼女の口から出てきた。
一体何がおかしいのだろうか、とも思ったのだがすぐにその答えは彼女の口から出てきた。
「その人が例の彼? いつの間に仲直りしたの?
この前までは会うのも嫌だ、なんて言ってたくせに」
この前までは会うのも嫌だ、なんて言ってたくせに」
彼女の知らない間、彼女がここで眠っている間に私たちが仲直りしたことを笑っているのだ。
というか、彼のことが嫌で会わなかったわけではないのだけど。
結局私の我が侭で会わなかったわけだし、そのことについてはちゃんと彼に謝りもした。
今更掘り返すようなことを言わなくてもいいのに。
というか、彼のことが嫌で会わなかったわけではないのだけど。
結局私の我が侭で会わなかったわけだし、そのことについてはちゃんと彼に謝りもした。
今更掘り返すようなことを言わなくてもいいのに。
そのあと、探偵さんから預かった封筒を開け、中のものを彼女と一緒に見ていた。
彼は私たちが何を調べていたのか知らないからなのだろう、外を眺めたり私たちを眺めたりと暇そうにしていた。
内容は、この街の歴史からはじまっていて、時折社に関することがいくつか書かれていた。
彼は私たちが何を調べていたのか知らないからなのだろう、外を眺めたり私たちを眺めたりと暇そうにしていた。
内容は、この街の歴史からはじまっていて、時折社に関することがいくつか書かれていた。
これを渡されたのね、と彼女が一通り目を通し終えて書類を封筒へと仕舞った。
私は本を捲りながらうなずいて答えた。
彼は暇潰しがてらなのだろう、同封の写真をひとつひとつ見ている。
私は本を捲りながらうなずいて答えた。
彼は暇潰しがてらなのだろう、同封の写真をひとつひとつ見ている。
「本来なら、手伝うって言った私がこれをあなたに渡すはずなんだろうけど、こんな身じゃ、ね」
面目なさそうな言い方をする彼女。
そんなことない、彼女は私を助けてくれた。
本当に、色々と助けてくれた。
それに、自ら犠牲になってまで私の命も救ってくれたのだ。
謝るのは私の方だ。
そんなことない、彼女は私を助けてくれた。
本当に、色々と助けてくれた。
それに、自ら犠牲になってまで私の命も救ってくれたのだ。
謝るのは私の方だ。
彼女が棚を指差し、鍵を取るように言った。
当時の彼女が身につけていたものが棚に置いてある。
さすがに着ていたものは血に塗れているとあって、処分してもらったそうだ。
棚の引き出しに、狐のマスコットのキーホルダの付いた鍵が入っていて、それを彼女に見せた。
狐の面に、狐のマスコットのキーホルダとは、よほど狐が好きなのだろうか。
当時の彼女が身につけていたものが棚に置いてある。
さすがに着ていたものは血に塗れているとあって、処分してもらったそうだ。
棚の引き出しに、狐のマスコットのキーホルダの付いた鍵が入っていて、それを彼女に見せた。
狐の面に、狐のマスコットのキーホルダとは、よほど狐が好きなのだろうか。
「それ、部屋の鍵だからさ、私の部屋、自由に使っていいよ」
とこの鍵を私に預けてくれた。
35.
今日は彼女の部屋に泊まろうと思った。
家に帰ったところで休まる気がしないからだ。
それに、家にいたところでまたあの人が襲ってくるかもしれないと考えたら、家にはいられない――
家に帰ったところで休まる気がしないからだ。
それに、家にいたところでまたあの人が襲ってくるかもしれないと考えたら、家にはいられない――
―― ◇ ――
彼女の部屋に彼を入れるのはさすがに気まずいと思って彼には帰ってもらうことにした。
その彼に代わって、なぜか探偵さんがやってきたのだ。
その彼に代わって、なぜか探偵さんがやってきたのだ。
「そりゃ、さあ、あなたのことを守ってあげなきゃ。
また変なのに襲われたくないでしょ」
また変なのに襲われたくないでしょ」
と理由はまともなのだが、探偵さんの表情は至ってまともではない。
含み笑いをしつつゆっくりと歩み寄ってくる姿、むしろこちらの方が“変なの”だ。
私は探偵さんに守られるのはなく、襲われるのではないだろうか?
含み笑いをしつつゆっくりと歩み寄ってくる姿、むしろこちらの方が“変なの”だ。
私は探偵さんに守られるのはなく、襲われるのではないだろうか?
とまあ、冗談はそこで終わったので助かった。
実際、探偵さんは私に晩御飯を用意してもらいたかったというのが本音のところだそうだ。
まあ、以前作ってもらったものはお世辞もなかなか出なかったほどだと考えると、私が作った方が私自身のためにもなる。
実際、探偵さんは私に晩御飯を用意してもらいたかったというのが本音のところだそうだ。
まあ、以前作ってもらったものはお世辞もなかなか出なかったほどだと考えると、私が作った方が私自身のためにもなる。
食事を終え、コーヒーを飲みながらあの封筒を開けていた。
書類に目を通しながら探偵さんが説明をしてくれた。
書類に目を通しながら探偵さんが説明をしてくれた。
古くからあの社には鬼が祀られているといわれている。
その鬼は人々を襲い、最終的には偉い僧侶とやらによって社に封印されたのだそうだ。
そして、鬼が人を襲っていたのが雪の降る日に限ってだった。
だからなのだろう、“六花咲き、鬼踊る”という言葉が伝えられている。
その鬼は人々を襲い、最終的には偉い僧侶とやらによって社に封印されたのだそうだ。
そして、鬼が人を襲っていたのが雪の降る日に限ってだった。
だからなのだろう、“六花咲き、鬼踊る”という言葉が伝えられている。
それは分かった。
本に目を通していてそういうことが書かれていたのを覚えている。
雪が降っている日に限って確かにあの人が出てきた。
あの人がこの昔話での鬼になるのだろう。
現にテレビはここ数日殺人事件についての話題ばかりだ。
殺人事件の犯人は未だに捕まっていないし、あの人だって同じだ。
殺人事件を鬼の仕業に置き換えれば、昔話と重なる。
本に目を通していてそういうことが書かれていたのを覚えている。
雪が降っている日に限って確かにあの人が出てきた。
あの人がこの昔話での鬼になるのだろう。
現にテレビはここ数日殺人事件についての話題ばかりだ。
殺人事件の犯人は未だに捕まっていないし、あの人だって同じだ。
殺人事件を鬼の仕業に置き換えれば、昔話と重なる。
でも、私が気になっていることがある。
それが未だに話として出てきていないのだ。
私が調べようとしていたこと。
それが未だに話として出てきていないのだ。
私が調べようとしていたこと。
かごめかごめ――
唯一探偵さんが図書館で言った「かごの中の鳥」が竹垣に囲まれた社を指すことがあるというもの。
その点だけしか今のところ合致していない。
その一点の合致のみだけであの歌を聞いたというのだろうか。
あの歌を聞いたからこそ、あの社に関わったのだろうか。
その点だけしか今のところ合致していない。
その一点の合致のみだけであの歌を聞いたというのだろうか。
あの歌を聞いたからこそ、あの社に関わったのだろうか。
何だろう、話が“みすてり”になってきたような気がする。
現実にあっていいのだろうか、このようなことが。
そのうち、“金田一耕助”が出てくるんじゃなかろうか……。
現実にあっていいのだろうか、このようなことが。
そのうち、“金田一耕助”が出てくるんじゃなかろうか……。
36.
暗闇の中、なかなか眠りにつけなかった。
探偵さんはお気楽なもので、横になってすぐに眠ってしまった。
羨ましいというか、図太いというか……。
探偵さんはお気楽なもので、横になってすぐに眠ってしまった。
羨ましいというか、図太いというか……。
―― ◇ ――
部屋は明かりをつけないまま、私は窓の前に立っていた。
明かりをつけないのは探偵さんを起こさないためだ。
窓の外は静かで、真っ暗で――
明かりをつけないのは探偵さんを起こさないためだ。
窓の外は静かで、真っ暗で――
雪が降っていた。
またあの人がこの街を歩いているのだろうか。
それを考えるととても怖い。
あの人が、鬼……。
それを考えるととても怖い。
あの人が、鬼……。
カゴメ カゴメ――
私の口が動いていた、歌を口ずさんでいた。
ただなんとなく、歌ってみたというだけだ。
ただなんとなく、歌ってみたというだけだ。
「眠れないからといって、その歌を今歌うべきじゃないと思うの」
背中に声がかけられる。
私の歌で起こしてしまったのだろうか。
私の歌で起こしてしまったのだろうか。
「それとも、その歌を歌うことによって鬼でも呼ぶ気かしら?」
振り返ってみれば、暗闇の中でどこか鈍い光を放つふたつの目。
外の光のみで、あそこまで恐ろしく人の目は光るものだろうか。
思わず唾を呑み込んだ。
外の光のみで、あそこまで恐ろしく人の目は光るものだろうか。
思わず唾を呑み込んだ。
「正直な話、不思議なのよ。
どうして今さらになって鬼なんて出てきたのか。
雪が降っているから?
だったら雪が降る年は常に鬼が出てこなければおかしい話しよね。
なのに、今年に限って。
それも、あなたの周りのみよ」
どうして今さらになって鬼なんて出てきたのか。
雪が降っているから?
だったら雪が降る年は常に鬼が出てこなければおかしい話しよね。
なのに、今年に限って。
それも、あなたの周りのみよ」
探偵さんの声がとても冷たい。
「事件は常にあなたの周りで起きていたの。
あなた自身はよく知らないことだし、あなたの周りというだけであなたの関係者ではない。
警察が全部の事件を公にしていないというのもあるわね」
あなた自身はよく知らないことだし、あなたの周りというだけであなたの関係者ではない。
警察が全部の事件を公にしていないというのもあるわね」
探偵さんは何を言っているのだろうか?
「何が鬼を呼ぶの?
その歌? それともあなたという存在そのもの?」
その歌? それともあなたという存在そのもの?」
私が鬼を呼んでいる……?
なぜ……?
なぜ……?
「意識して呼んでいるようではないだろうけど。
それでも、鬼を呼んでいるに違いはないと思うのよ」
それでも、鬼を呼んでいるに違いはないと思うのよ」
探偵さんの目が私を捉えたまま離さない――
37.
探偵さんに睨まれ続けて朝を迎えるのかと思っていたのだが、あのあとすぐに解放された。
話の続きはまた今度にして今は眠るべき、と言ってくれた。
話の続きはまた今度にして今は眠るべき、と言ってくれた。
―― ◇ ――
朝、冷たい空気で目が覚めた。
意識はぼんやりと、体がだるい。
起きて周りを見渡して、ここが自分の家じゃないことに気がつくまで少し間があった。
意識はぼんやりと、体がだるい。
起きて周りを見渡して、ここが自分の家じゃないことに気がつくまで少し間があった。
そして、ひとりだった――
探偵さんはどこにもいない。
朝早くからどこかへと行ってしまったのだろうか。
昨夜のことを思い出した。
そのことでどこかに行ったのかもしれない。
朝早くからどこかへと行ってしまったのだろうか。
昨夜のことを思い出した。
そのことでどこかに行ったのかもしれない。
勝手に他人の冷蔵庫を開けていいものかとも思ったのだが、彼女はここ数日家に帰ってきていないので勝手ながら整理するという名目で開けることにした。
早い話が、お腹が空いたので食べ物がないかと思ったのだけだ。
消費期限の切れたものは処分させてもらうとして、それ以外のもので簡単に作ることにした。
早い話が、お腹が空いたので食べ物がないかと思ったのだけだ。
消費期限の切れたものは処分させてもらうとして、それ以外のもので簡単に作ることにした。
テレビをつけながらの朝食。
今日も朝から胸焼けのするような内容だった。
いつもの殺人事件についてだ。
どこの局もこの事件のことで、時間に合わせてその他スポーツや芸能をやっていた。
そんなニュースを見ながらでも、自然と朝食を食べることのできる自分は……。
今日も朝から胸焼けのするような内容だった。
いつもの殺人事件についてだ。
どこの局もこの事件のことで、時間に合わせてその他スポーツや芸能をやっていた。
そんなニュースを見ながらでも、自然と朝食を食べることのできる自分は……。
鍵をかけ、部屋を出た。
新しい雪が降り積もり、世界はまた白く染め上げられていた。
誰も足跡のつけていないところを歩いていく。
ひとつ、ひとつ、と私の足跡がついていく。
点々と、いや、線としてなのか、私の後ろに続いている。
新しい雪が降り積もり、世界はまた白く染め上げられていた。
誰も足跡のつけていないところを歩いていく。
ひとつ、ひとつ、と私の足跡がついていく。
点々と、いや、線としてなのか、私の後ろに続いている。
ずっと歩いていくと、白の中に紅い色があるのを見つけた。
とても鮮明な紅い模様が雪の上に描かれていた。
例えるなら、半紙に朱い墨汁を垂らしたように。
その紅い模様の中心には何かが置かれていた。
これが墨汁のように紅く染めているというのだろうか。
これが模様の原因だというのだろうか。
折角の白い雪が紅く汚されている。
とても鮮明な紅い模様が雪の上に描かれていた。
例えるなら、半紙に朱い墨汁を垂らしたように。
その紅い模様の中心には何かが置かれていた。
これが墨汁のように紅く染めているというのだろうか。
これが模様の原因だというのだろうか。
折角の白い雪が紅く汚されている。
紅く……。
胸が苦しい、息が苦しい、何もかもが苦しい。
あの紅い模様を見ると、とても苦しくなる。
そして、心の奥底から何かが出てくる。
何の感情なのだろうか、とても熱く、私の全てを飲み込んでしまいそうな何か。
この感情が止まらない、迸る。
このまま感情を表に出していいのだろうか?
あの紅い模様を見ると、とても苦しくなる。
そして、心の奥底から何かが出てくる。
何の感情なのだろうか、とても熱く、私の全てを飲み込んでしまいそうな何か。
この感情が止まらない、迸る。
このまま感情を表に出していいのだろうか?
感情をどうもできないでいる中、不意に背後から何かが私を――
38.
あの感情の昂りはなんだったのだろうか。
とても苦しいのに、とても昂るのだ。
不可思議な感情、それで私は私でなくなる感覚があった。
あそこで、私の感情を止めるように背後からやってきてくれなかったら、私はどうなっていたことか――
とても苦しいのに、とても昂るのだ。
不可思議な感情、それで私は私でなくなる感覚があった。
あそこで、私の感情を止めるように背後からやってきてくれなかったら、私はどうなっていたことか――
―― ◇ ――
不意に背後から私は口を押さえられ引きずりこまれる。
一体誰? 何で? どこへと引きずりこまれるの?
引きずり込まれていくという感覚だけで頭の中は混乱していた。
どうしたらいいのか、このままどうなるのか。
一体誰? 何で? どこへと引きずりこまれるの?
引きずり込まれていくという感覚だけで頭の中は混乱していた。
どうしたらいいのか、このままどうなるのか。
「大人しくしてろ、あれに見つかるとまずい」
頭の上から聞き覚えのある声がした。
混乱から少しずつ落ち着いてくる。
この声は、決して私に危害を加える人の声でないからだ。
混乱から少しずつ落ち着いてくる。
この声は、決して私に危害を加える人の声でないからだ。
紅い模様のあった通りから隠れるような場所で私は放された。
振り返ってみてみると、その声の通りの人がいた。
振り返ってみてみると、その声の通りの人がいた。
彼だ。
「驚かしてすまないな。
あのままあそこにいたら、“あれ”に見つかると思ってな」
あのままあそこにいたら、“あれ”に見つかると思ってな」
彼が塀の陰から通りを指差した。
見ろということなのだろうか、塀から身を隠したまま覗き見た。
見ろということなのだろうか、塀から身を隠したまま覗き見た。
あの紅い模様のあった場所にあのロングコートの人がやってきた。
ドクン、と胸が跳ねる。
背筋を寒気が一気に駆け巡っていく。
体が震え、足腰の力が失いつつある。
背筋を寒気が一気に駆け巡っていく。
体が震え、足腰の力が失いつつある。
彼女が刺されたとき、社の外で鉢合わせしたとき、私の家に押し入ってきたとき、そのときの記憶が蘇ってくる……。
彼の腕が私の頭を抱えるようにして視界を遮ってくれた。
落ち着け、と小さな声が聞こえてくる。
落ち着け、と小さな声が聞こえてくる。
「“あれ”に見つからないようにここから離れよう。
“あれ”に関わったら命がいくつあっても足りない」
“あれ”に関わったら命がいくつあっても足りない」
彼に手を引かれ、あの人から離れていく。
ここにいつまでもいたくなかったので、彼に従った。
ここにいつまでもいたくなかったので、彼に従った。
彼女の家へと戻ってきた。
とりあえず彼にお茶を出して、彼から話を聞いていた。
あの人について、そして、あの模様について。
外は騒がしく、先ほどからサイレンの音が幾度も聞こえていた。
そんな音を背景に聞くからなのか、それともあの人のことについて聞いているからなのか、殺伐とした話となっていた。
とりあえず彼にお茶を出して、彼から話を聞いていた。
あの人について、そして、あの模様について。
外は騒がしく、先ほどからサイレンの音が幾度も聞こえていた。
そんな音を背景に聞くからなのか、それともあの人のことについて聞いているからなのか、殺伐とした話となっていた。
「――“あれ”は鬼だ、間違いなく」
その中でも、この言葉を彼から聞くことになるとは……。
39.
何なのだろうか。
彼から色々と話を聞いているのだが、聞いているだけで理解できないでいた。
彼が難しいことを言っているのかもしれないが、それよりも私が理解しきれていないだけと言った方がいいのかもしれない。
彼から色々と話を聞いているのだが、聞いているだけで理解できないでいた。
彼が難しいことを言っているのかもしれないが、それよりも私が理解しきれていないだけと言った方がいいのかもしれない。
―― ◇ ――
彼は一通り話し終えたところで、お茶を飲み干した。
空になったカップを置き、彼が私を見据えてくる。
正直、そう見られたからといって、私が理解しているわけではない。
どう返したらいいのか迷った。
空になったカップを置き、彼が私を見据えてくる。
正直、そう見られたからといって、私が理解しているわけではない。
どう返したらいいのか迷った。
彼は鬼を退治してきた武家の末裔ということ。
今猟奇殺人の犯人が鬼であるということで、彼がそれを退治するために日夜動いているということ。
今猟奇殺人の犯人が鬼であるということで、彼がそれを退治するために日夜動いているということ。
話が突飛過ぎた。
これをどう理解しろというのだろうか。
ただでさえ、あのロングコートの人が社の鬼だという話を聞かされて何が何だか分からなくなっているというのに。
この上、彼が鬼退治をするなんて言うのだ。
これをどう理解しろというのだろうか。
ただでさえ、あのロングコートの人が社の鬼だという話を聞かされて何が何だか分からなくなっているというのに。
この上、彼が鬼退治をするなんて言うのだ。
「突然、こんな話されても困るよな?
まあ、俺も何でこんな話をしてるんだって思ってる。
だけど、お前が狙われているのが鬼と聞いて、話しておいた方がいいんじゃないかと思ったんだ。
それだけの理由で話すような内容じゃないけどさ」
まあ、俺も何でこんな話をしてるんだって思ってる。
だけど、お前が狙われているのが鬼と聞いて、話しておいた方がいいんじゃないかと思ったんだ。
それだけの理由で話すような内容じゃないけどさ」
私は、うん、と相槌を打つことしかできなかった。
でもこの話を聞いて、私が彼に助けられたのはこういうわけだったんだと分かった。
あの夜中の、あの人から逃げるようにして外へ度出て、通りから一本中へ入ったところでうずくまっていた。
その人通りの少ないところで彼に発見され、病院へと運ばれた。
彼が鬼を退治するために外を出回っていたから、人通りの少ないところでも偶然私を見つけることができたのだろう。
彼はそのときのことまでは話していなかったけど、自分でそう納得した。
でもこの話を聞いて、私が彼に助けられたのはこういうわけだったんだと分かった。
あの夜中の、あの人から逃げるようにして外へ度出て、通りから一本中へ入ったところでうずくまっていた。
その人通りの少ないところで彼に発見され、病院へと運ばれた。
彼が鬼を退治するために外を出回っていたから、人通りの少ないところでも偶然私を見つけることができたのだろう。
彼はそのときのことまでは話していなかったけど、自分でそう納得した。
「ねえ、鬼を退治するって言ったけど、どうやって退治するの?」
ふと、質問を投げかけた。
彼は、ああ、と返して、
彼は、ああ、と返して、
「退治するということは、どういうことか分かるだろ?
それ以上は言わないし、言わせないでくれ。
できれば、どうやって退治するのかということを想像もして欲しくない」
それ以上は言わないし、言わせないでくれ。
できれば、どうやって退治するのかということを想像もして欲しくない」
彼は顔を曇らせながら言った。
あまり口にしていい内容ではないということなのだろう。
退治する、という言葉通りの意味なのだろう。
あまり口にしていい内容ではないということなのだろう。
退治する、という言葉通りの意味なのだろう。
いつか見た夢を思い出した。
彼が三日月を持って……。
彼が三日月を持って……。
あの恐ろしい夢を彼が現実のものにするということなのだろう。
40.
彼の話が終わり、彼は鬼退治の準備をするとのことで帰ることとなった。
彼が言うには、今夜のうちにことを終わらせるとのこと。
その間、私には外へと出ないでくれ、と。
彼が言うには、今夜のうちにことを終わらせるとのこと。
その間、私には外へと出ないでくれ、と。
私は彼の背中に「気をつけてね」と声をかけて見送った――
―― ◇ ――
夕方、夜と時間が経っていく。
部屋の中で明かりもつけずに、うずくまっていた。
朝に食べたきり、何も口にしていない。
食欲が出ないのだ。
彼を見送ってからずっと……。
部屋の中で明かりもつけずに、うずくまっていた。
朝に食べたきり、何も口にしていない。
食欲が出ないのだ。
彼を見送ってからずっと……。
気晴らしにテレビでもつけようかと思ったが、そんな気分にすらなれない。
静かな時間が過ぎていく。
静かな時間が過ぎていく。
彼は大丈夫だろうか?
鬼退治、本当に可能なのだろうか?
心配する思いが募っていき、息が苦しい。
鬼退治、本当に可能なのだろうか?
心配する思いが募っていき、息が苦しい。
「彼なら、無事鬼を退治したよ。
伊達に鬼切りの家系を名乗っているわけではないね」
伊達に鬼切りの家系を名乗っているわけではないね」
うずくまっていて声が聞こえるまで気がつかなかった。
顔を上げてみると、どこから入ってきたのだろうか、いつか見たあの白狐が私の前にいた。
この暗闇の中、その白い体は、ぼんやりとした明かりのようだ。
この白狐が言葉を話したのだろうか?
顔を上げてみると、どこから入ってきたのだろうか、いつか見たあの白狐が私の前にいた。
この暗闇の中、その白い体は、ぼんやりとした明かりのようだ。
この白狐が言葉を話したのだろうか?
「夢を見ているとでも思っているのね?
それでも構わないし、むしろ現実だと思わない方が幸せなのかもしれない」
それでも構わないし、むしろ現実だと思わない方が幸せなのかもしれない」
白狐の口が動くのにあわせて声が聞こえてくる。
間違いなく、この白狐が話している。
間違いなく、この白狐が話している。
「私はただ、彼が任務を遂行したことを伝えにきただけ。
朝になって、彼に聞くといい。
鬼は退治されたと言うだろう」
朝になって、彼に聞くといい。
鬼は退治されたと言うだろう」
白狐の口が笑みように釣りあがった。
「あの鬼は退治されたけど……。
これ以上はいいか、あえて言う必要もないね」
これ以上はいいか、あえて言う必要もないね」
その言葉を最後に――
私は、再び顔を上げた。
目の前に白狐の姿はなかった。
うずくまっている間に眠っていたのだろうか?
私は、再び顔を上げた。
目の前に白狐の姿はなかった。
うずくまっている間に眠っていたのだろうか?
時計は午前3時を示していた。
時計を見て夜中だと分かったからなのだろうか、寒さが間隔を置いて襲ってきた。
時計を見て夜中だと分かったからなのだろうか、寒さが間隔を置いて襲ってきた。
それにしても、夢だったのだろうか、それにしては鮮明すぎた――
41.
夢の通りなら、私はもう外に出ても大丈夫なはずだ。
なぜなら、彼が鬼を退治してくれているはずだからだ。
鬼がいなくなれば、もう襲われることもないだろう。
なぜなら、彼が鬼を退治してくれているはずだからだ。
鬼がいなくなれば、もう襲われることもないだろう。
―― ◇ ――
外は冷たい風でうっと呻くほどに寒い。
白い息を空へと上げ、眩い朝日に目を細めた。
白い息を空へと上げ、眩い朝日に目を細めた。
一旦、家に帰ろう。
彼女の部屋のある古ぼけた建物へと一礼をして、家路へとつくことにした。
白く染まったこの街を、今季何度見たことだろうか。
あれほどまでに綺麗だと思っていた白い景色なのに、今となってはそんな気分になれない景色だ。
白という色を見るのにうんざり、というわけではない。
この寒さにうんざり、というわけではない。
言葉で表せ、と言われたらどう表したらいいのか分からない。
虚しさ、と言えばいいのだろうか。
心が虚しい、と言うにははなはだおかしいのかもしれないが、今言える言葉はこれしか思い浮かばない。
心にゆとりがないほどに色々とあったからなのだと思う。
だから、逆に虚しさが大きく出てきたのではないかと思う。
色々ありすぎて自分自身を保持できていなかった、という虚しさ。
白く染まったこの街を、今季何度見たことだろうか。
あれほどまでに綺麗だと思っていた白い景色なのに、今となってはそんな気分になれない景色だ。
白という色を見るのにうんざり、というわけではない。
この寒さにうんざり、というわけではない。
言葉で表せ、と言われたらどう表したらいいのか分からない。
虚しさ、と言えばいいのだろうか。
心が虚しい、と言うにははなはだおかしいのかもしれないが、今言える言葉はこれしか思い浮かばない。
心にゆとりがないほどに色々とあったからなのだと思う。
だから、逆に虚しさが大きく出てきたのではないかと思う。
色々ありすぎて自分自身を保持できていなかった、という虚しさ。
通りを歩いていると、いつもの日常と変わりない光景があった。
人々が行きかう喧騒な光景だ。
その人々の合間を通り抜けていく。
今まで起きていたのは私の周りだけで、この街はいつもどおりの時間が流れていたのだろうな。
人々が行きかう喧騒な光景だ。
その人々の合間を通り抜けていく。
今まで起きていたのは私の周りだけで、この街はいつもどおりの時間が流れていたのだろうな。
こんな思いも、あともう少しだ。
家に帰れば、私もまたいつもの日常へと変わるだろう。
家に帰れば、私もまたいつもの日常へと変わるだろう。
家の前にまで来ると、もう警戒線の黄色いテープはなかった。
家の前に警官の姿もない。
検分は終わったのだろう。
久々の家、玄関の前で一度立ち止まり、深呼吸をした。
家に帰ってこられたからなのだろうか、冷たい空気だというのに、肺いっぱいになると心地よく感じられる。
扉を開け、中へと入った。
冷たい空気が私を迎え入れる。
誰もいなかったからなのだろう、この冷たさは。
奥へと入っていくと、もう検分は完全に終えたのだろう、全て綺麗に片付けられていた。
家の前に警官の姿もない。
検分は終わったのだろう。
久々の家、玄関の前で一度立ち止まり、深呼吸をした。
家に帰ってこられたからなのだろうか、冷たい空気だというのに、肺いっぱいになると心地よく感じられる。
扉を開け、中へと入った。
冷たい空気が私を迎え入れる。
誰もいなかったからなのだろう、この冷たさは。
奥へと入っていくと、もう検分は完全に終えたのだろう、全て綺麗に片付けられていた。
ソファへと腰掛け、溜息を吐いた。
これで気も安らぐというものだ。
気分的なものかもしれないが、肩が軽くなった気がする。
家で休むのはいつ以来だろうか。
よく考えてみれば、退院してから家で休むことはなかった。
となれば、病院に担ぎ込まれる前からということになるのだろう。
これで気も安らぐというものだ。
気分的なものかもしれないが、肩が軽くなった気がする。
家で休むのはいつ以来だろうか。
よく考えてみれば、退院してから家で休むことはなかった。
となれば、病院に担ぎ込まれる前からということになるのだろう。
お腹がすいた。
気が休まったからなのかもしれない、食欲が出てきた。
と台所へと立とうと思ったら、テーブルに封書が置かれているのに気がついた――
気が休まったからなのかもしれない、食欲が出てきた。
と台所へと立とうと思ったら、テーブルに封書が置かれているのに気がついた――
42.
封書の中には便箋が一枚だけだ。
それも、社に来い、の一言しか書かれていなかった。
誰が書いたものなのだろうか、名前までは書かれていなかった。
それも、社に来い、の一言しか書かれていなかった。
誰が書いたものなのだろうか、名前までは書かれていなかった。
―― ◇ ――
竹林が風に吹かれてざわざわと揺れている。
ここはいつ来ても寂しく、どこか怖い雰囲気を持ったところだ。
ここはいつ来ても寂しく、どこか怖い雰囲気を持ったところだ。
それにしても、一体誰が私をここへと呼んだのだろうか。
あの封書をあそこへと置いたということは、私の知っている人なのだと思う。
私の家を知っていて、かつ、この社を知っている人物となると限られている。
彼、彼女、探偵さん、ツキミさんの4人だ。
そのうち、彼女は病院にいるだろうから数えなくてもいいだろう。
探偵さんとツキミさんは行方が分からない。
彼、と考えるにも実は難しい。
封書の字は彼のものではないからだ。
となると、探偵さんかツキミさんということになるのだろうか。
どちらも今は行方が分からない。
あの封書をあそこへと置いたということは、私の知っている人なのだと思う。
私の家を知っていて、かつ、この社を知っている人物となると限られている。
彼、彼女、探偵さん、ツキミさんの4人だ。
そのうち、彼女は病院にいるだろうから数えなくてもいいだろう。
探偵さんとツキミさんは行方が分からない。
彼、と考えるにも実は難しい。
封書の字は彼のものではないからだ。
となると、探偵さんかツキミさんということになるのだろうか。
どちらも今は行方が分からない。
悩んでいても仕方がない。
まずは封書どおりに社へと行くだけだ。
まずは封書どおりに社へと行くだけだ。
竹林に包まれた一本道を通っていけば、あの社が見えてくる。
雪が積もり、真っ白な社。
前に来たときと何も変わらない姿だ。
社の周りに人の姿はない。
社の中で待っているということなのだろうか?
社の段差には人の足跡が残っている。
でも、残っていることは残っているが、足跡の上に雪が降ってしまっていて新しい足跡ではない。
こんな古い足跡では、下手すると以前来たときの私の足跡がそのまま残っているという可能性だってある。
もしかしたら、私の方が先に来てしまっているのかもしれない。
そうなると、待つしかないのだろう。
雪が積もり、真っ白な社。
前に来たときと何も変わらない姿だ。
社の周りに人の姿はない。
社の中で待っているということなのだろうか?
社の段差には人の足跡が残っている。
でも、残っていることは残っているが、足跡の上に雪が降ってしまっていて新しい足跡ではない。
こんな古い足跡では、下手すると以前来たときの私の足跡がそのまま残っているという可能性だってある。
もしかしたら、私の方が先に来てしまっているのかもしれない。
そうなると、待つしかないのだろう。
段差で滑らないように気をつけて上がっていき、社の戸を開けた。
いつもながらの真っ暗な空間。
だけど、今日に限って違っていた。
脱ぎ捨てられたようにロングコートが床に落ちていた。
それと、あの祭壇には鈍く光るものが突き立てられていた。
いつもながらの真っ暗な空間。
だけど、今日に限って違っていた。
脱ぎ捨てられたようにロングコートが床に落ちていた。
それと、あの祭壇には鈍く光るものが突き立てられていた。
刀――
何でこんなものがここにあるのだろうか。
今まで、ここには何もなかったというのに。
それに、このロングコートには見覚えがあった。
あの人の纏っていたものだ。
今まで、ここには何もなかったというのに。
それに、このロングコートには見覚えがあった。
あの人の纏っていたものだ。
ならば、この刀は誰のものなのだろうか?
夢の中の彼を思い出した。
手にしていた三日月が、今目の前にある刀にものすごく似ている気がする。
ここで彼が鬼を退治していたということなのだろうか。
夢の中の彼を思い出した。
手にしていた三日月が、今目の前にある刀にものすごく似ている気がする。
ここで彼が鬼を退治していたということなのだろうか。
「本当に来てくれるとは思わなかった――」
43.
社の入り口、逆光を背にした何かがいる。
それが、私をここへと呼んだのだろうか。
それが、私をここへと呼んだのだろうか。
「本当に来てくれるとは思わなかった――」
そう言ったからには、封書の主ということか。
―― ◇ ――
声の主がこちらへとやってくる。
それは逆光から外れるようにして姿をあらわにした。
小さい姿、子供だろうか?
でも、小さい子供に知り合いはいない……?
それは逆光から外れるようにして姿をあらわにした。
小さい姿、子供だろうか?
でも、小さい子供に知り合いはいない……?
子供かと思ったその姿は、最早人間でもなかった。
白狐だ。
あの夢で何度か見た白狐が私の前にいる。
白狐だ。
あの夢で何度か見た白狐が私の前にいる。
これも夢なのだろうか?
私は起きながらして夢を見ているのだろうか?
それとも、まだ目が覚めていなくてベッドの中なのかもしれない。
私は起きながらして夢を見ているのだろうか?
それとも、まだ目が覚めていなくてベッドの中なのかもしれない。
「ああ、この姿だから、夢とでも思っているの?
やれやれ、こちらの姿の方が、好きなんだけどさ」
やれやれ、こちらの姿の方が、好きなんだけどさ」
信じがたい、とはこのことだろう。
さらには、この白狐の姿が大きく変わっていく。
夢だと思っているの、と訊かれて夢だと思っている以外に答えられるだろうか。
この白狐が人の姿をなしていくのを。
さらには、この白狐の姿が大きく変わっていく。
夢だと思っているの、と訊かれて夢だと思っている以外に答えられるだろうか。
この白狐が人の姿をなしていくのを。
「あなたには、こっちの姿の方がいいか」
驚いた、と一言で表すには短絡的過ぎるのかもしれないが、これほどの言葉が他に思い浮かばなかった。
白衣(しらぎぬ)を纏った彼女へと変わったのだ。
なぜ白狐が彼女に。
いや、そもそも彼女はまだ病院にいるはずだ。
白衣(しらぎぬ)を纏った彼女へと変わったのだ。
なぜ白狐が彼女に。
いや、そもそも彼女はまだ病院にいるはずだ。
「まだ信じられない?
この姿なら、信じてもらえるような気がしたんだけど」
この姿なら、信じてもらえるような気がしたんだけど」
そう言って私に詰め寄ってくる。
あの鳶色の瞳、それがいつものように私を捉えてくる。
信じがたいのは変わらないが、この瞳は間違いなく彼女だ。
あの鳶色の瞳、それがいつものように私を捉えてくる。
信じがたいのは変わらないが、この瞳は間違いなく彼女だ。
「病院にいるはずじゃ?」
「病院? ああ、いるわよ、本体の方だけど」
「病院? ああ、いるわよ、本体の方だけど」
本体?ここに彼女がいて病院にも彼女がいる?
「幽霊、というにはおかしいか、私は死んでいるわけではないし。
幽体離脱、と言った方がいいのかな。
ここにいる私は意識体、体は病院で昼寝してるわ」
幽体離脱、と言った方がいいのかな。
ここにいる私は意識体、体は病院で昼寝してるわ」
もう何が何だか分からなくなってきていた。
けど、混乱はしていなかった。
彼女の言葉をどうにか理解しようとしていた――
けど、混乱はしていなかった。
彼女の言葉をどうにか理解しようとしていた――
44.
彼女の体は病院で寝ていて、意識だけをここへと飛ばして具現化しているのだそうだ。
普通に考えたらとても非現実的なことなのだが、なぜか彼女の言葉を受け止めていた。
普通に考えたらとても非現実的なことなのだが、なぜか彼女の言葉を受け止めていた。
やはり、私の夢からはじまり、鬼なんてものが出てきたから、そういった非現実に思えることも受け止められるようになってきてしまっているのかもしれない。
―― ◇ ――
「さてと、どこから話したらいいのかな。
そうね、結論からにしましょうか。
肝心なことはまだ終わっていないわ」
そうね、結論からにしましょうか。
肝心なことはまだ終わっていないわ」
彼女は肘を抱えるように腕を組んだ。
「鬼は退治されたって言ったから、これで終わりじゃないの?」
「鬼は確かに消えたけど、それで全てが終わったわけではない」
「鬼は確かに消えたけど、それで全てが終わったわけではない」
この返答に耳を疑った。
鬼が退治されれば全て終わるのではないだろうか。
これで夢から解放されるのではないのだろうか。
これで鬼に追われることから解放されるのではないのだろうか。
これで、もう何も悩まされなくてすむのではないのだろうか。
彼女の瞳は私を捉えたままは動かない。
どういうことなのか。
鬼が退治されれば全て終わるのではないだろうか。
これで夢から解放されるのではないのだろうか。
これで鬼に追われることから解放されるのではないのだろうか。
これで、もう何も悩まされなくてすむのではないのだろうか。
彼女の瞳は私を捉えたままは動かない。
どういうことなのか。
「あなたがまだ夢を見続ける限り、終わりじゃないの」
夢を見る限り? 私は夢をもう見ないはずじゃないのだろうか。
「近いうちに、また鬼が出るかもしれないわね」
また鬼が出る……。
また繰り返すというのだろうか、あんなことが。
もう、これ以上は嫌だ。
また繰り返すというのだろうか、あんなことが。
もう、これ以上は嫌だ。
「だから、私はあなたをここへと呼んだ。
また鬼が出るのは懲り懲りだからね」
また鬼が出るのは懲り懲りだからね」
彼女が私の前へと詰め寄ってきた。
「さて、問題はあなたをどうするか」
固唾を呑んだ。
私をどうする気なのか? 私も鬼のように退治されるというのか?
私をどうする気なのか? 私も鬼のように退治されるというのか?
「そう構えなくてもいいわよ。
別に鬼退治と称してあなたをどうにかするわけではないのだから。
ただ、今後もあなたが見るという夢が続くのなら、それをどうにかして止めなくてはならないと思ったのよ。
でも、その話も今度にしておくわ。
お客さんが来たようだし」
別に鬼退治と称してあなたをどうにかするわけではないのだから。
ただ、今後もあなたが見るという夢が続くのなら、それをどうにかして止めなくてはならないと思ったのよ。
でも、その話も今度にしておくわ。
お客さんが来たようだし」
彼女は笑みを見せ白狐の姿へと戻ると、社から出て行ってしまった。
私は、彼女の瞳から解放されたからなのか、足腰から力が抜けて床に腰を落とした。
私は、彼女の瞳から解放されたからなのか、足腰から力が抜けて床に腰を落とした。
45.
彼女は白狐となって外へと出て行ってしまった。
社には私ひとりが残されることとなった。
お客さんが来たようだ、と彼女は言っていたが……?
社には私ひとりが残されることとなった。
お客さんが来たようだ、と彼女は言っていたが……?
間を置いて、彼女の言う通りに誰かが代わりにやってきた。
「まさか、こんなところへと来ているとは思わなかった」
彼だった――
―― ◇ ――
彼は、鬼退治の後始末をしにやって来た、と言った。
台に突き立てられているのは彼がそのときに用いた刀で、先祖代々伝わるものなのだそうだ。
その彼の顔はどこか陰がかかっていた。
よほど疲弊しているのだろう、とても顔色が悪い。
台に突き立てられているのは彼がそのときに用いた刀で、先祖代々伝わるものなのだそうだ。
その彼の顔はどこか陰がかかっていた。
よほど疲弊しているのだろう、とても顔色が悪い。
そして、あの見慣れたロングコートはあの人のもの、鬼のもの。
退治され、ここにロングコートだけが残ったということなのだろう。
退治され、ここにロングコートだけが残ったということなのだろう。
刀を鞘に納めると、私たちは社を出た。
外は風が吹きはじめていていた。
ここにくるときは余り気にはならなかったけど、空が晴れてきていて天候が大きく変わってきているから風が吹きはじめたのだろう。
外は風が吹きはじめていていた。
ここにくるときは余り気にはならなかったけど、空が晴れてきていて天候が大きく変わってきているから風が吹きはじめたのだろう。
彼はどうして社に私がいたのか不思議に思っていたようだが、訊ねてくることはなかった。
私としても、彼女が白狐となってあそこへと呼んだ、なんて答えてもいいのか分からなかったのである意味よかったのかもしれない。
言ったところで、信じてもらえるとは思えなかったからだ。
私としても、彼女が白狐となってあそこへと呼んだ、なんて答えてもいいのか分からなかったのである意味よかったのかもしれない。
言ったところで、信じてもらえるとは思えなかったからだ。
家まで彼に送ってもらい、彼はひとりで帰っていった。
よほど疲れているのだろう、あまり会話はなかった。
よほど疲れているのだろう、あまり会話はなかった。
居間には私がひとり。
今の中を私以外の人たちが幾度となく通り過ぎていく。
無論、私ひとりしかいないので、私以外の人たちは私の想像だ。
夢を見るようになってからのこの居間での生活。
ここへとやってきた人たちが、ビデオでも見ているかのように動いていた、流れていた。
次に、あの夢を見ることで起きてしまったことを思い出していた。
今の中を私以外の人たちが幾度となく通り過ぎていく。
無論、私ひとりしかいないので、私以外の人たちは私の想像だ。
夢を見るようになってからのこの居間での生活。
ここへとやってきた人たちが、ビデオでも見ているかのように動いていた、流れていた。
次に、あの夢を見ることで起きてしまったことを思い出していた。
終わらせなければ――
今日はもう疲れていたのだろうか、居間で眠っていた。
ああ、眠っていると分かっているのはどういうことだろうか。
ここは夢の中だということも分かっている。
ああ、眠っていると分かっているのはどういうことだろうか。
ここは夢の中だということも分かっている。
もうこの夢は、夢というものを通り越してしまっているのだろうか。
暗闇の中、やはりいるのは私だけ。
空にはいつものように月が見える。
全ていつもどおりのものだ。
空にはいつものように月が見える。
全ていつもどおりのものだ。
「あなたの夢の中で会うのは、これで何度目かしらね」
声がしたので見てみれば、私の前には白狐がいた――
46.
「あなたの夢の中で会うのは、俺で何度目かしらね」
彼女が白狐の姿で現れた。
本当に、この白狐の姿と会うのは何度目なのだろうか。
本当に、この白狐の姿と会うのは何度目なのだろうか。
―― ◇ ――
「あなたの言うことが本当なら、私の夢が終われば全てが終わるのでしょ?
なら、どうやれば終わらせられるの?」
なら、どうやれば終わらせられるの?」
問うと、彼女は白狐から彼女自身の姿へと変わった。
「さて、そのことなのだけど……。
どうしたらいいものなのか、少し考えていたわ。
一番手っ取り早い方法があるけど、それを勧めるわけにはいかないし、私だってしたくはない」
「それは、何?」
「あなたがいなくなること、簡単な答えでしょ。
夢を見るものがいなくなれば、夢を見ることがなくなるわけだし、もう鬼も出てこないでしょうし」
どうしたらいいものなのか、少し考えていたわ。
一番手っ取り早い方法があるけど、それを勧めるわけにはいかないし、私だってしたくはない」
「それは、何?」
「あなたがいなくなること、簡単な答えでしょ。
夢を見るものがいなくなれば、夢を見ることがなくなるわけだし、もう鬼も出てこないでしょうし」
彼女は淡々と答えた。
私がいなくなること、それは私が死ぬことなのだろう。
とても怖い答えだというのに、彼女は顔色ひとつ変えなかった。
私が死んでしまえば、私は夢を見ることはなくなるわけなのだから。
私がいなくなること、それは私が死ぬことなのだろう。
とても怖い答えだというのに、彼女は顔色ひとつ変えなかった。
私が死んでしまえば、私は夢を見ることはなくなるわけなのだから。
「でもね、あなたと関わっているからなのか、私自身の矜持が許さないからなのか、そんな簡単な答えに頼りたくはないの。
別の方法で、私は夢を終わらせたい」
「別の方法?」
別の方法で、私は夢を終わらせたい」
「別の方法?」
そんなものがあるのだろうか? 私には思いつかない。
でも、彼女なら何か知っているのかもしれない。
知らなかったとしても、何をやるべきか道標になってくれるかもしれない。
でも、彼女なら何か知っているのかもしれない。
知らなかったとしても、何をやるべきか道標になってくれるかもしれない。
「今はまだ仮定の段階なので、実際にやったとしてあなたの夢を終わらせることができるという確証はないわ。
まあ、確証があったとしたら、すでにやってるけどね」
まあ、確証があったとしたら、すでにやってるけどね」
彼女はそう言って私の頬に手を触れた。
そのまま撫でてくる、とてもこそばゆい。
そのまま撫でてくる、とてもこそばゆい。
「でも、試してみたいわ。
あなたのためになるわけだし、なにより私のためにもなるかもしれないし」
あなたのためになるわけだし、なにより私のためにもなるかもしれないし」
彼女の口が歪んだ。
妖艶な笑み、ゾクゾクと背筋に何かを走らせる笑み。
妖艶な笑み、ゾクゾクと背筋に何かを走らせる笑み。
「それじゃ、試させてもらうわね」
彼女の手が私の頬から放れ、その手は私の胸を貫いた。
何を……したの?
私の胸から彼女の手が抜き取られると、彼女は何かを握っていた。
何を……したの?
私の胸から彼女の手が抜き取られると、彼女は何かを握っていた。
「ゴメンね、しばらく眠っていてちょうだい、私のために――」
47.
彼女が私の胸から手を抜き取った直後、私の視界が暗転していった。
その際に彼女は私の胸から何を抜き取ったのだろうか。
暗転していく中、意識も薄れていくので、考えることも……。
その際に彼女は私の胸から何を抜き取ったのだろうか。
暗転していく中、意識も薄れていくので、考えることも……。
―― ◇ ――
一度は消えていった意識だけれど、気がつけばまた暗闇にいた。
ここもまた夢なのだろうけど、今までに見た夢とは違っていた。
真っ暗なことは真っ暗なのだが、月はどこにもない。
それどころか、私は閉じ込められていた。
球体だろうか、中からではおそらくという予測しかできない。
両手を広げたところで端から端まで届くということはないが、人ふたりが両手を広げるほどの広さはないだろう。
その中で私はまるで魚のように漂っていた。
金魚鉢に入れられた金魚ってこんな感じなのだろうか、という考えが出てくる。
下らない考えなのだが、その下らない考えができるまでに私は落ち着いてきているのだろう。
目が覚めたというか、意識が回復したというか、ここにいると分かるようになったばかりは出口を探そうとこの中を泳ぎ回った。
結局出口は見つからない上に出られそうもないので、大の字になって時間を潰していた。
どれほどの時間が経ったのだろうか、分からない。
分かるわけもないのだが、ここで私がこうしているということは私の体はどうなっているのだろうか。
眠り続けている、と考えるのが自然なのは分かるが、もっと酷いことになっているということも考えてしまう。
といっても、それはさすがに考えすぎだろうか。
ここもまた夢なのだろうけど、今までに見た夢とは違っていた。
真っ暗なことは真っ暗なのだが、月はどこにもない。
それどころか、私は閉じ込められていた。
球体だろうか、中からではおそらくという予測しかできない。
両手を広げたところで端から端まで届くということはないが、人ふたりが両手を広げるほどの広さはないだろう。
その中で私はまるで魚のように漂っていた。
金魚鉢に入れられた金魚ってこんな感じなのだろうか、という考えが出てくる。
下らない考えなのだが、その下らない考えができるまでに私は落ち着いてきているのだろう。
目が覚めたというか、意識が回復したというか、ここにいると分かるようになったばかりは出口を探そうとこの中を泳ぎ回った。
結局出口は見つからない上に出られそうもないので、大の字になって時間を潰していた。
どれほどの時間が経ったのだろうか、分からない。
分かるわけもないのだが、ここで私がこうしているということは私の体はどうなっているのだろうか。
眠り続けている、と考えるのが自然なのは分かるが、もっと酷いことになっているということも考えてしまう。
といっても、それはさすがに考えすぎだろうか。
何度この中を泳ぎ回ったことだろうか。
球体の端というか殻というか、叩いたところで何も返ってこない。
そこに壁らしきものがあるという感触だけで、叩く音はしない。
壁は透明なのか不透明なのか、覗いてみるが分からない。
暗いといっても、私の体はしっかりと見えている。
ここが夢なのか現実なのかの違いなのだろう。
球体の端というか殻というか、叩いたところで何も返ってこない。
そこに壁らしきものがあるという感触だけで、叩く音はしない。
壁は透明なのか不透明なのか、覗いてみるが分からない。
暗いといっても、私の体はしっかりと見えている。
ここが夢なのか現実なのかの違いなのだろう。
さて、ここで何かできることはないのだろうか。
何もできないといっても考えることはできる。
あとは泳ぎ回ることもできる。
となれば、他にもできることがあるかもしれない。
何もできないといっても考えることはできる。
あとは泳ぎ回ることもできる。
となれば、他にもできることがあるかもしれない。
謡っていた、かごめかごめを――
この感覚、感じたことがある。
真っ暗な中、かごめかごめを謡いながら時を待つことを。
歌を謡い終えたあとに、後ろに誰が来たのかを当てるんだ。
そう、小さいときに遊んだかごめかごめそのものじゃないか、と思ったのだ。
両手で目を隠しているときは、こんな風に真っ暗だ。
私もそのときを思い出して、両手で目を覆った。
そのまま謡い続け、歌を謡い終える。
さあ、あとは誰が後ろに来たのかを当てるだけだ。
誰が後ろなのかな? このときのドキドキ感は小さいときと同じだ。
当てれば、次はその人が鬼だ。
さあ当てて、私が今度は回る番だ……?
そういえば、私は鬼になったことはあったけど、誰かを当てて周りを回った記憶がない……。
かごめかごめで遊んだ記憶はあるのに――
真っ暗な中、かごめかごめを謡いながら時を待つことを。
歌を謡い終えたあとに、後ろに誰が来たのかを当てるんだ。
そう、小さいときに遊んだかごめかごめそのものじゃないか、と思ったのだ。
両手で目を隠しているときは、こんな風に真っ暗だ。
私もそのときを思い出して、両手で目を覆った。
そのまま謡い続け、歌を謡い終える。
さあ、あとは誰が後ろに来たのかを当てるだけだ。
誰が後ろなのかな? このときのドキドキ感は小さいときと同じだ。
当てれば、次はその人が鬼だ。
さあ当てて、私が今度は回る番だ……?
そういえば、私は鬼になったことはあったけど、誰かを当てて周りを回った記憶がない……。
かごめかごめで遊んだ記憶はあるのに――
48.
この世界の中、ずっと一人で漂い……。
何を考えたらいいのだろうか、それさえも分からなくなっている。
ただ呆けているだけなのだろうけど、どこか眠っているような感覚もある。
何を考えたらいいのだろうか、それさえも分からなくなっている。
ただ呆けているだけなのだろうけど、どこか眠っているような感覚もある。
何か変化はないだろうか……そんなことを思っていた。
そんな風に暇を持て余していると遥か頭上、遠くの方から光が――
そんな風に暇を持て余していると遥か頭上、遠くの方から光が――
―― ◇ ――
意識がぼやけている? いや、視界の方がいいか。
体がだるく、思うように動かない。
朝、目が覚めたときと同じような感覚だ。
というよりか、目が覚めたばかりなのだろう。
思うように頭が動かない。
重い頭を上げて、辺りを見渡した。
居間、それもテーブルに突っ伏して眠っていたのだろう。
クシュン、と大きなくしゃみをして次第に目が覚めてくる。
とても寒い、というのは当たり前だ、ここで寝ていたのだから。
風邪をひいたかもしれない。
体がだるく、思うように動かない。
朝、目が覚めたときと同じような感覚だ。
というよりか、目が覚めたばかりなのだろう。
思うように頭が動かない。
重い頭を上げて、辺りを見渡した。
居間、それもテーブルに突っ伏して眠っていたのだろう。
クシュン、と大きなくしゃみをして次第に目が覚めてくる。
とても寒い、というのは当たり前だ、ここで寝ていたのだから。
風邪をひいたかもしれない。
立ち上がろうとし、体に力が入らずに床へと転がった。
肩から床に落ちて、そこから痛みが全身に伝わった。
寒さと痛み、それに倦怠感も加わりうずくまって耐える。
寒さと痛み、それに倦怠感も加わりうずくまって耐える。
「やっと目が覚めた。
心配したのよ」
心配したのよ」
転げる私に近づく影。
聞いたことのある声、でも頭が回っていない所為か記憶を手繰り寄せられない。
聞いたことのある声、でも頭が回っていない所為か記憶を手繰り寄せられない。
「タマモちゃんに取り込まれたって言うから、どうなるものかと思ったけど、大丈夫なようね。
タマモちゃんなら、私がちょっと懲らしめといてあげたわ」
タマモちゃんなら、私がちょっと懲らしめといてあげたわ」
起きれる? と影が手を伸ばしてきた。
その手を取り、ゆっくりと体を起こす。
私の手を取る影のほかに、もうひとつ影があった。
それが壁のスイッチに手を触れ、照明が点いた。
とても眩しい、今まで眠っていたからというのもあるし、この部屋が暗かったというのもある。
でも、これで影が誰だか分かる。
次第に目が明かりに慣れていき、私の手を取っているのが探偵さんということが分かった。
もうひとりは彼女だ、また意識体とやらで来ているのだろうか。
うつむいている彼女の頬が赤くなっていた。
彼女に何かあったのだろうか?
その手を取り、ゆっくりと体を起こす。
私の手を取る影のほかに、もうひとつ影があった。
それが壁のスイッチに手を触れ、照明が点いた。
とても眩しい、今まで眠っていたからというのもあるし、この部屋が暗かったというのもある。
でも、これで影が誰だか分かる。
次第に目が明かりに慣れていき、私の手を取っているのが探偵さんということが分かった。
もうひとりは彼女だ、また意識体とやらで来ているのだろうか。
うつむいている彼女の頬が赤くなっていた。
彼女に何かあったのだろうか?
「さて、話ができる……状態じゃないようね」
探偵さんの手が私の額へと触れた。
その手の冷たい感触、とても気持ちがいい。
その手の冷たい感触、とても気持ちがいい。
「こんなところに放って置かれたから風邪ひいたのね。
ひとまずは、ベッドに寝てもらいましょう。
話はそれから――」
ひとまずは、ベッドに寝てもらいましょう。
話はそれから――」
49.
探偵さんの手によってベッドへと運ばれ、寝かされた。
体温計は38度を上回っていた。
体温計は38度を上回っていた。
「全く、風邪ひかれちゃ、話のしようがないわね」
探偵さんはうつむくだけの彼女に愚痴をこぼした。
―― ◇ ――
どのぐらい私は眠っていたのか、目を覚ましてみればすぐそばでは探偵さんが椅子に腰掛けたまま頭をカクンカクンと揺らしていた。
ずっと私のことを診ていてくれたようだ、今は眠っている。
彼女はここにいなかった、すでに帰ってしまったのだろうか。
ずっと意識体とやらでいるのは大変なのかもしれない。
ずっと私のことを診ていてくれたようだ、今は眠っている。
彼女はここにいなかった、すでに帰ってしまったのだろうか。
ずっと意識体とやらでいるのは大変なのかもしれない。
探偵さんの口が何か小さい声でゴニョゴニョと言っている。
寝言だというのは分かっているのだが、その内容が「……肉が食いたい、ウヘヘ」とまあ、含み笑いを交えながらのものだったりする。
よほど食い意地が張っていると見える……。
器用に眠っているものだと見ていたが、カクンと大きく頭を揺らしたところで探偵さんは目を覚ました。
寝言だというのは分かっているのだが、その内容が「……肉が食いたい、ウヘヘ」とまあ、含み笑いを交えながらのものだったりする。
よほど食い意地が張っていると見える……。
器用に眠っているものだと見ていたが、カクンと大きく頭を揺らしたところで探偵さんは目を覚ました。
「……おっと、いけない、眠ってた」
大きく欠伸をし、両手を伸ばしたところで止まった。
探偵さんと目が合う。
探偵さんと目が合う。
「……いつから目が覚めてたの?
まさか、私の寝言を聞かれたりしなかったわよね?」
まさか、私の寝言を聞かれたりしなかったわよね?」
そのまさかです、なんて言えるわけがない。
探偵さんの手が私の額へと触れる。
だいぶ下がったかな、ともう片方の手を自らの額へとあてて、比べている。
だいぶ下がったかな、ともう片方の手を自らの額へとあてて、比べている。
汗を拭い、着替えを済まして再びベッドへと横になった。
探偵さんにお粥を作ってもらい、それを食べる。
何かと料理が苦手なのではないかと思っていたのだが、お粥にいたってはとてもよくできていた。
探偵さんにお粥を作ってもらい、それを食べる。
何かと料理が苦手なのではないかと思っていたのだが、お粥にいたってはとてもよくできていた。
「食べながらで悪いんだけどさ、訊いておきたいことがあるの」
探偵さんの目つきが変わった。
いつもの雰囲気とは違う、真面目なものだ。
いつもの雰囲気とは違う、真面目なものだ。
「過去に何かあったんじゃないの?
普通に過ごしていて、鬼に狙われるなんてまず考えにくいわ。
過去に何かがあったからこそ、今になって鬼が襲ってきた。
とはいえ、肝心な鬼はもういないから、鬼に訊こうとしても無駄なわけだし。
だから、あなたに訊くわ。
あなたとあの社との関係。
タマモちゃんは何かを知ったようだけど、訊いても何も話してくれない。
タマモちゃんがあなたを狙ったわけも、そこにありそうよね」
普通に過ごしていて、鬼に狙われるなんてまず考えにくいわ。
過去に何かがあったからこそ、今になって鬼が襲ってきた。
とはいえ、肝心な鬼はもういないから、鬼に訊こうとしても無駄なわけだし。
だから、あなたに訊くわ。
あなたとあの社との関係。
タマモちゃんは何かを知ったようだけど、訊いても何も話してくれない。
タマモちゃんがあなたを狙ったわけも、そこにありそうよね」
私と社に関係がある?――
50.
まだ風邪が治らないから頭が回りきっていないというものある。
それを抜きとしても、心当たりが全くといっていいほどない。
私はあの時初めてあの社へといったはずだ。
かごめかごめを聞いて、初めてそこに訪れたはずなのだ。
それを抜きとしても、心当たりが全くといっていいほどない。
私はあの時初めてあの社へといったはずだ。
かごめかごめを聞いて、初めてそこに訪れたはずなのだ。
どういうことなのだろうか、私と社に関係があるというのは。
―― ◇ ――
小さいときの記憶を思い出すというのは、どういうときにすることなのだろうか。
少なくとも、私は今思い出そうとしている。
というよりも、思い出さなければならないようだ――
少なくとも、私は今思い出そうとしている。
というよりも、思い出さなければならないようだ――
小さいとき――といっても小学生の低学年――はよく近所の子どもたちと一緒に色々なことをして遊んでいた。
周りの子どもたちはテレビゲームやら漫画やらと、何かとひとりで愉しむことをしている方が多かったような気がする。
でも、私をはじめ近所の子たちは皆集まって鬼ごっこやかくれんぼなどといったことを普通にやっていた。
それこそ男も女も関係なく集まってやっていたのだ。
今だから思うけど、みんなが集まって何かで遊ぶというのはとてもめずらしかったのかもしれない。
大人たちはそれが普通だと思っているけど、集まって遊ぶのは私たちぐらいしかいなかったのだ。
周りの子どもたちはテレビゲームやら漫画やらと、何かとひとりで愉しむことをしている方が多かったような気がする。
でも、私をはじめ近所の子たちは皆集まって鬼ごっこやかくれんぼなどといったことを普通にやっていた。
それこそ男も女も関係なく集まってやっていたのだ。
今だから思うけど、みんなが集まって何かで遊ぶというのはとてもめずらしかったのかもしれない。
大人たちはそれが普通だと思っているけど、集まって遊ぶのは私たちぐらいしかいなかったのだ。
そんな中だ、たまたまかごめかごめをやってみようかなんて言いだす子がいたのでやってみたのだ。
最初はじゃんけんで鬼を決め、その子を中心にみんなが回る。
私は回る側にいたのだが、何回か鬼が交換していくうちに、私の番となった。
両手で顔を覆い、目を閉じる。
かごめかごめを謡いながら、みんなが私の周りを回り始めるのだ。
そして、歌が終わって誰が後ろにいるのかを当てるわけだけど――
最初はじゃんけんで鬼を決め、その子を中心にみんなが回る。
私は回る側にいたのだが、何回か鬼が交換していくうちに、私の番となった。
両手で顔を覆い、目を閉じる。
かごめかごめを謡いながら、みんなが私の周りを回り始めるのだ。
そして、歌が終わって誰が後ろにいるのかを当てるわけだけど――
後ろにいるのが誰なのか一度も当てることができなかった。
あの時は悔しい思いをしたけど、今になってはいい思い出なのかもしれない。
そういえば、どこで遊んでいたのだろうか。
近所でみんなが集まって遊べるとなると、限られてくるはずだ。
公園のときもあったけど、公園で遊んだのは数えるほどだ。
となれば、他の広い場所。
学校? いや、学校でそういうことをやって遊んだ記憶はない。
小高い丘……風で木々が揺れる音がしたのを覚えている。
その先、竹林があって、社が……。
近所でみんなが集まって遊べるとなると、限られてくるはずだ。
公園のときもあったけど、公園で遊んだのは数えるほどだ。
となれば、他の広い場所。
学校? いや、学校でそういうことをやって遊んだ記憶はない。
小高い丘……風で木々が揺れる音がしたのを覚えている。
その先、竹林があって、社が……。
あ、あの社、小さいときにみんなでよく遊んだ場所だ。
今ではあんなに朽ちてしまっていて、全く気がつかなかった――
今ではあんなに朽ちてしまっていて、全く気がつかなかった――
私は小さくうなずいてから探偵さんを見た。
思い出してきたようね、と探偵さんは私の視線に答えた。
思い出してきた、それは間違いない。
私はあの社を知っていたのだ。
ならば、そこで何かがあったのだろう――
思い出してきたようね、と探偵さんは私の視線に答えた。
思い出してきた、それは間違いない。
私はあの社を知っていたのだ。
ならば、そこで何かがあったのだろう――
コメント