51.
何で忘れてしまっていたのだろう、小さいときのことを。
それを思い出してさえいれば、もっと早く終わらせることができたのかもしれない。
そんな確証はないけど、そう思ったのだ。
それを思い出してさえいれば、もっと早く終わらせることができたのかもしれない。
そんな確証はないけど、そう思ったのだ。
間違いなく、私とあの社には関係があったのだから。
―― ◇ ――
社の中はとても広く感じられた。
小さかったからそう思えたのだろう、今では全く広いとは感じられなかったのだから。
社に入った理由は、大したものではなかった。
結局かごめかごめで私は誰ひとり当てることができなかったのだ。
みんなが帰ったあと、憂さ晴らしに何かできることがないかと思って社の中へと入ったのだ。
社の中で何ができるというわけでもないのに。
小さかったからそう思えたのだろう、今では全く広いとは感じられなかったのだから。
社に入った理由は、大したものではなかった。
結局かごめかごめで私は誰ひとり当てることができなかったのだ。
みんなが帰ったあと、憂さ晴らしに何かできることがないかと思って社の中へと入ったのだ。
社の中で何ができるというわけでもないのに。
社の中に入っては駄目だ、と大人たちから言われたことがある。
何で駄目なのか、そんなの子どもだから分からないのは当然だった。
ただ入ると怒られるから入らなかった、みんなそうだったのだ。
そのときに限って、私は大人の言うことを破ったのだ。
何で駄目なのか、そんなの子どもだから分からないのは当然だった。
ただ入ると怒られるから入らなかった、みんなそうだったのだ。
そのときに限って、私は大人の言うことを破ったのだ。
明かりひとつない空間に、奥に外の光を反射している何かがあった。
祭壇の上、お供え物と一緒に置かれている何か。
かごめかごめを鼻歌で謡いながら、祭壇の前へと立った。
遠目では分からなかったが、近くで見てそれがとても綺麗な石なのだというのが分かった。
今だから分かる、あれは翡翠の勾玉だ。
それも、この社のご神体だったのだと。
祭壇の上、お供え物と一緒に置かれている何か。
かごめかごめを鼻歌で謡いながら、祭壇の前へと立った。
遠目では分からなかったが、近くで見てそれがとても綺麗な石なのだというのが分かった。
今だから分かる、あれは翡翠の勾玉だ。
それも、この社のご神体だったのだと。
勾玉へと手を伸ばし、それを手に取った。
手のひらほどの大きさで、ずっしりとした重み。
手にとって見れば見るほど、それはとても綺麗だという感想しか出てこない。
そして、大人たちはこの綺麗な石を子どもたちに勿体振って見せたくないから、この社に入ることを禁止しているのだと思ったのだ。
手のひらほどの大きさで、ずっしりとした重み。
手にとって見れば見るほど、それはとても綺麗だという感想しか出てこない。
そして、大人たちはこの綺麗な石を子どもたちに勿体振って見せたくないから、この社に入ることを禁止しているのだと思ったのだ。
所詮、何も知らない子どもがしたこと。
でも、無知は罪だ。
知らなかったからこそ、今へと繋がったのだから。
でも、無知は罪だ。
知らなかったからこそ、今へと繋がったのだから。
その勾玉を持って社の外へと出た。
盗ってしまおう、と考えたわけではない。
ただ、他の子どもたちにこんなにも綺麗な石があったよと見せびらかしたかっただけなのだ。
盗ってしまおう、と考えたわけではない。
ただ、他の子どもたちにこんなにも綺麗な石があったよと見せびらかしたかっただけなのだ。
丘の上を駆けていく。
今から走っていけば、先に帰っている子どもたちにまだ合流できるかもしれない、そう思っていたからだ。
両手にあの勾玉を抱えながら。
必死になって走っていたのだ、足元も見ずに。
だから、大きく転倒した。
手から勾玉が放れ、鬱そうと茂っている草むらへと――
今から走っていけば、先に帰っている子どもたちにまだ合流できるかもしれない、そう思っていたからだ。
両手にあの勾玉を抱えながら。
必死になって走っていたのだ、足元も見ずに。
だから、大きく転倒した。
手から勾玉が放れ、鬱そうと茂っている草むらへと――
起き上がって勾玉を探したのだが、当時の私は自分の周りしか探していなかった。
だから、草むらに紛れている勾玉は――
だから、草むらに紛れている勾玉は――
52.
結局、勾玉をろくに探しもせずに家へと帰ったのだ。
これが今回の事件のはじまりだったのだろうか。
そのとき以来、私をはじめ他の子どもたちもあの社へ行く機会が減っていった。
勾玉がなくなったと大人たちが騒ぎ出したのがその理由だ。
これが今回の事件のはじまりだったのだろうか。
そのとき以来、私をはじめ他の子どもたちもあの社へ行く機会が減っていった。
勾玉がなくなったと大人たちが騒ぎ出したのがその理由だ。
―― ◇ ――
勾玉のことを探偵さんへと話し終えると、探偵さんは両腕を組んでなにやら考え込んでしまった。
あのときのことが原因だった、それと考えるのが一番なのだろう。
でも、ひとつ気になる。
なぜ、今になってなのだろうか。
勾玉をなくしてすぐ起きたのならまだ分かる。
あのときのことが原因だった、それと考えるのが一番なのだろう。
でも、ひとつ気になる。
なぜ、今になってなのだろうか。
勾玉をなくしてすぐ起きたのならまだ分かる。
「ねえ、それをなくしたのはどこ?」
「街外れの丘ですけど」
「街外れか……その丘に最近行ったのは?
ああ、あなたが夢を見る前での話ね」
「街外れの丘ですけど」
「街外れか……その丘に最近行ったのは?
ああ、あなたが夢を見る前での話ね」
夢を見る前にあの丘に行ったとき……?
いつだっただろうか。
思い返してみる。
そんなに前ではないはずだ。
いつだっただろうか。
思い返してみる。
そんなに前ではないはずだ。
――月、それも満月。
そうだ、彼と一緒に月を眺めた。
あれからだ、夢を見るようになったのは。
あれからだ、猟奇殺人が起きるようになったのは。
あれからだ、夢を見るようになったのは。
あれからだ、猟奇殺人が起きるようになったのは。
「思い出した?」
これにうなずいて返した。
「そこに行ってみましょうか。
まあ、まだ風邪が治りきってないから無理はできないけど。
おそらく、そこに行けば」
まあ、まだ風邪が治りきってないから無理はできないけど。
おそらく、そこに行けば」
そこに行けば、あの勾玉があるかもしれない。
あの時、私が手放した勾玉が放置され続けているのかもしれない。
何年もの間、あそこに――
あの時、私が手放した勾玉が放置され続けているのかもしれない。
何年もの間、あそこに――
外を出ると、街は朝霧で白く染まっていた。
薄暗く、これから日の出を迎えるといったところか。
コートを2枚纏い、いつもよりも温かい格好で出た。
それでも、風邪が治っていないために寒気がする。
隣には探偵さん、寒がりだと言っていたがこれほどとは。
コートを3枚重ねで、その下にも厚着している。
如何にも笑いを取らんと言わんばかりの格好だ。
薄暗く、これから日の出を迎えるといったところか。
コートを2枚纏い、いつもよりも温かい格好で出た。
それでも、風邪が治っていないために寒気がする。
隣には探偵さん、寒がりだと言っていたがこれほどとは。
コートを3枚重ねで、その下にも厚着している。
如何にも笑いを取らんと言わんばかりの格好だ。
時折人と行きかうことはあるが、ほとんどがジョギングを行っている人だった。
街外れまで来て、丘の上に立つ。
そこから見える街並みは――
街外れまで来て、丘の上に立つ。
そこから見える街並みは――
白い海に覆われたゴーストタウンをイメージさせた。
53.
「こんな朝早くから、ここに来るとは思いもよらなかった」
探偵さんが身震いをしながら白い息を虚空へと散らした。
本当に寒い。
こんな朝早くからここへ来なくてもよかったのかもしれない。
でも、早く終わらせたかった。
それは私だけでなく、私に関わった人たち誰もが思うことだろう。
本当に寒い。
こんな朝早くからここへ来なくてもよかったのかもしれない。
でも、早く終わらせたかった。
それは私だけでなく、私に関わった人たち誰もが思うことだろう。
―― ◇ ――
「さてと、ここへと来たわけだし、探してみようか」
探偵さんが私へと向きながら言った。
探してみる、勾玉のことだ。
小さい頃にここでなくした勾玉、あの社に納められていたもの。
探してみる、勾玉のことだ。
小さい頃にここでなくした勾玉、あの社に納められていたもの。
ただ、ふと思うことがある。
ここへと来たのはあの月を見た晩だけではない。
何度かここへと足を運んでは月や星を眺めていたことがある。
なのに、何で今になってなのだろうか、と思ったのだ。
ここへと来たのはあの月を見た晩だけではない。
何度かここへと足を運んでは月や星を眺めていたことがある。
なのに、何で今になってなのだろうか、と思ったのだ。
「ここへと来たと言っても、毎回同じ場所にまでいたわけではないでしょ?」
そのことを訊いてみたら、間も置かずに答えてくれた。
確かにこの丘へと何度も足を運んでいるけど、毎回同じ場所で見ていたのかと問われれば違うと言える。
確かにこの丘へと何度も足を運んでいるけど、毎回同じ場所で見ていたのかと問われれば違うと言える。
「もしかしたら、の話なんだけど。
その月を見たところにその勾玉だっけ? 社に納められていたものがあると思うのよ。
そして、それをちゃんと社に納めてあげれば、終わるんじゃないかなって。
短絡的な推測だけどね」
その月を見たところにその勾玉だっけ? 社に納められていたものがあると思うのよ。
そして、それをちゃんと社に納めてあげれば、終わるんじゃないかなって。
短絡的な推測だけどね」
その日、勾玉をなくしたところに私がいて、そこから今回のことがはじまった、ということになるのだろう。
確証も何もないのだけれど、探偵さんの言うとおりなのだろう。
確証も何もないのだけれど、探偵さんの言うとおりなのだろう。
結局、全部私の撒いた種なのだ。
小さい頃の私が勾玉を社から持ち出したこと。
今になってその勾玉のところに私が立っていたこと。
間違いなく私が発端だ。
今になってその勾玉のところに私が立っていたこと。
間違いなく私が発端だ。
「ごめんなさい、全て私が悪――」
「私に謝らないでよ。
私は好きでやってるだけ。
それにね、もう過去のことでしょ。
今更悔やんだところで終わるわけではない。
悔やむ前に、まずは終わらせることの方が大事よ」
「私に謝らないでよ。
私は好きでやってるだけ。
それにね、もう過去のことでしょ。
今更悔やんだところで終わるわけではない。
悔やむ前に、まずは終わらせることの方が大事よ」
その通りだ、まずは終わらせなければ。
まずは当時私が立っていたところの周辺から探していく。
冬場とあって、草のほとんどが枯れているので地面をよく見渡せる。
だが、どこにも勾玉らしきものがない。
もう何年も経っているから、埋もれてしまっているのだろうか。
それを分かっていたのか、探偵さんはシャベルを手にしていた。
まずは当時私が立っていたところの周辺から探していく。
冬場とあって、草のほとんどが枯れているので地面をよく見渡せる。
だが、どこにも勾玉らしきものがない。
もう何年も経っているから、埋もれてしまっているのだろうか。
それを分かっていたのか、探偵さんはシャベルを手にしていた。
54.
シャベルなのでそんなに深くは掘れない。
シャベルなのでそんなに広くは掘れない。
シャベルなのでそんなに広くは掘れない。
でも、少しずつ、少しずつ掘っていく。
日が昇り、朝日が眩しい。
そして、何か硬いものがシャベルの先に触れた――
そして、何か硬いものがシャベルの先に触れた――
―― ◇ ――
土に塗れているので、手で拭ってやる。
「それが、探しもの?」
探偵さんの問いにうなずいて答えた。
これが、私がなくしてしまったもの。
これが、全てのはじまりとなったもの。
これが……。
これが、私がなくしてしまったもの。
これが、全てのはじまりとなったもの。
これが……。
深い碧の勾玉は、あの時と同じ輝きを持っていた。
これに心引かれ、私は持ち出してしまった。
これに心引かれ、私は持ち出してしまった。
「さて、それを社に納めようか。
本当ならさらにお清めって言うの? あれをやった方がいいのかもしれないけど、私たちじゃできないものね」
本当ならさらにお清めって言うの? あれをやった方がいいのかもしれないけど、私たちじゃできないものね」
勾玉を綺麗にしてやり、社へと、元の場所へと戻した。
もう社は朽ちてしまっているので、あの時と同じというわけにはいかない。
でも、あの時感じたこの勾玉の美しさは変わらないままだ。
もう社は朽ちてしまっているので、あの時と同じというわけにはいかない。
でも、あの時感じたこの勾玉の美しさは変わらないままだ。
「これで、終わるんでしょうか?」
「さあ? 分からないよ。
私が考えたのはこのぐらいだし、私ができるのはこのぐらいだし。
あとは、あなたが終わらせなければね」
「私が終わらせる?」
「そう。
どうやったら終わるのかは分からないけど。
今できることをやっておきなさい。
私が言えるのはこれぐらい」
「さあ? 分からないよ。
私が考えたのはこのぐらいだし、私ができるのはこのぐらいだし。
あとは、あなたが終わらせなければね」
「私が終わらせる?」
「そう。
どうやったら終わるのかは分からないけど。
今できることをやっておきなさい。
私が言えるのはこれぐらい」
ポンと探偵さんは私の肩に手を触れた。
私が今できること……。
それは、これぐらいしか思い浮かばなかった。
私が今できること……。
それは、これぐらいしか思い浮かばなかった。
「申し訳ありませんでした」
祭壇の上で外の光をわずかに浴びている勾玉へ、深々と頭を下げること。
この程度で許されるわけがないのは分かっている。
それでも、今できることといったらこれしかなかった。
とにかく、謝ること、しかできなかったのだ。
この程度で許されるわけがないのは分かっている。
それでも、今できることといったらこれしかなかった。
とにかく、謝ること、しかできなかったのだ。
「さて、帰ろうか。
そうだ、途中で病院でも寄ってくか。
あなたに会えなくて愚痴ってるのがいるから」
そうだ、途中で病院でも寄ってくか。
あなたに会えなくて愚痴ってるのがいるから」
探偵さんの手に引かれ、私は社をあとにした――
55.
彼女のいる病院へと連れてこられた。
私に会えなくて愚痴っているというのは彼女のことなのだろか。
意識体としての彼女となら会っているけど、彼女自身と会うのは数日振りな気がする。
私に会えなくて愚痴っているというのは彼女のことなのだろか。
意識体としての彼女となら会っているけど、彼女自身と会うのは数日振りな気がする。
―― ◇ ――
彼女の病室へと行くのかと思ったら、別の病室へと連れてこられた。
どこの病室も真っ白で、ここもまた同じものだ。
部屋がひとつずつ違う病院というのも想像しがたいものではある。
簡素なつくりに、ベッドが置かれ、衣類等を納めるための棚。
どこも同じなのだな、と思う。
どこの病室も真っ白で、ここもまた同じものだ。
部屋がひとつずつ違う病院というのも想像しがたいものではある。
簡素なつくりに、ベッドが置かれ、衣類等を納めるための棚。
どこも同じなのだな、と思う。
そして、そのベッドの上には見慣れた人がいた。
というより、彼女よりも久しぶりに見る人がいた。
というより、彼女よりも久しぶりに見る人がいた。
「ちょっと遅いわよ。
ずっとこんなところで寝かされて、暇を持て余してるんだから。
気を利かせなさいよ」
ずっとこんなところで寝かされて、暇を持て余してるんだから。
気を利かせなさいよ」
こちらを確認すらしていないのだろう、こちらを見た瞬間にその人は口を開いたのだ。
「悪かったわね。
だから、今日はお客さんを連れてまいりましたぞ、ツキミ姫」
「何よ『姫』って、莫迦にして。
えっ……?」
だから、今日はお客さんを連れてまいりましたぞ、ツキミ姫」
「何よ『姫』って、莫迦にして。
えっ……?」
その人――ツキミさんの目が私を見て留まった。
直後、私とツキミさんは互いを抱きしめていた。
互いが無事であったことの喜びに。
再びこうして話ができることの喜びに。
直後、私とツキミさんは互いを抱きしめていた。
互いが無事であったことの喜びに。
再びこうして話ができることの喜びに。
ツキミさんはあのあと――私が襲われ家から出たあと――であの人と掴み合いになって足を刺されここへと搬入されたのだそうだ。
足の傷は深く、歩くにあたってまだ支障をきたすとのこと。
足の傷は深く、歩くにあたってまだ支障をきたすとのこと。
「しばらく会わないうちに、やつれたわね。
本当に大丈夫だった?」
「うん、探偵さんをはじめ色々と助けてもらったから」
「そう、それはよかった。
私はここから出られないから、どうなったのか心配だった。
でも、一番の心配事は、あれね」
本当に大丈夫だった?」
「うん、探偵さんをはじめ色々と助けてもらったから」
「そう、それはよかった。
私はここから出られないから、どうなったのか心配だった。
でも、一番の心配事は、あれね」
ツキミさんは探偵さんを指差した。
何? などと探偵さんは目を尖らせて反論している。
何? などと探偵さんは目を尖らせて反論している。
「あれは変態よ、関わった人全員が泣いて逃げてくほど」
「言ってくれるじゃない、この役立たず刑事が」
「言ってくれるじゃない、この役立たず刑事が」
私そっちのけで二人が言い争いをはじめた。
言い争いといっても、本気で喧嘩しているというわけではなく、喧嘩みたいなことをしながらのじゃれているといったところだ。
今更ながら思うけど、本当に昔からの友人同士、なのだろう。
言い争いといっても、本気で喧嘩しているというわけではなく、喧嘩みたいなことをしながらのじゃれているといったところだ。
今更ながら思うけど、本当に昔からの友人同士、なのだろう。
久しぶりの再会を果たし、病室から出た。
次に、彼女の病室へと向うことにした。
今朝のことを話しておこうと思ったのだ――
次に、彼女の病室へと向うことにした。
今朝のことを話しておこうと思ったのだ――
56.
彼女の病室へと向う。
探偵さんはツキミさんのところにもう少しいるということで、向かうのは私ひとり。
探偵さんはツキミさんのところにもう少しいるということで、向かうのは私ひとり。
―― ◇ ――
彼女は窓の外を眺めていた。
しかし、その表情はとても暗く……。
しかし、その表情はとても暗く……。
「……ごめんね。
私は……私はあなたを傷つけたいとかそういう思いであんなことをしたわけじゃないの。
と言っても、これじゃただの言い訳よね」
私は……私はあなたを傷つけたいとかそういう思いであんなことをしたわけじゃないの。
と言っても、これじゃただの言い訳よね」
病室に入ったのが私であることを確認すると、彼女は口を開いた。
いつもの殊勝な彼女ではない。
いつもの殊勝な彼女ではない。
「あなたを見て、あなたと話して、あなたに触れて、あなたに興味を持った。
あなたの見る夢、あなたが鬼に追われること、私にとっては興味の対象以外の何ものでもなかった。
でも、あなたと関わっているうちに、変わっていった。
あなたのことを本当に守ってあげたいと思ったのよ。
興味だけではなく、人として守りたかった」
あなたの見る夢、あなたが鬼に追われること、私にとっては興味の対象以外の何ものでもなかった。
でも、あなたと関わっているうちに、変わっていった。
あなたのことを本当に守ってあげたいと思ったのよ。
興味だけではなく、人として守りたかった」
彼女はそう言ってうつむいてしまった。
私は彼女に何を言ってあげたらいいのだろうか。
お互い黙ったまま時が過ぎていく。
私は彼女に何を言ってあげたらいいのだろうか。
お互い黙ったまま時が過ぎていく。
「……あなたをあんなところに閉じ込めたのは、あなたを人知れず隠してしまえばいいと思ったの。
あなたの意識をあの夢の中に閉じ込め、あなたの体はあとで回収してしまえばいいと。
あなたが眠っている間は私が意識体で面倒を見ていればいいと思っていたの。
でも、それじゃいけないことだと、散々言われたわ。
説教された、あの人に」
あなたの意識をあの夢の中に閉じ込め、あなたの体はあとで回収してしまえばいいと。
あなたが眠っている間は私が意識体で面倒を見ていればいいと思っていたの。
でも、それじゃいけないことだと、散々言われたわ。
説教された、あの人に」
あの人……探偵さんのことだろう。
「私ね、意識体なんて具現化できるから、“人の枠”から外れてしまってるの。
だから、夢を見たり鬼に追われたり、そんなあなたをどこか自分と“同じ存在”じゃないかって思ったの。
思ったって言っても、私が勝手に思ったことよ。
あなたは“人の枠”から外れているわけじゃないわ」
だから、夢を見たり鬼に追われたり、そんなあなたをどこか自分と“同じ存在”じゃないかって思ったの。
思ったって言っても、私が勝手に思ったことよ。
あなたは“人の枠”から外れているわけじゃないわ」
友達が欲しかっただけなのかもね、と彼女は視線を窓へと向けた。
“人の枠”から外れているから、同じ存在がそばにいて欲しかった。
“人の枠”から外れているから、同じ存在がそばにいて欲しかった。
「もう、雪も降らないわよね。
鬼はいなくなったわけだし」
鬼はいなくなったわけだし」
彼女の視線は窓の外へと向いたまま、目を細めながら言った。
そうね、と返すと、彼女はうなずいた。
そうね、と返すと、彼女はうなずいた。
「“人の枠”とかどうとか、私には関係ない。
私はあなたとずっと友達よ――」
私はあなたとずっと友達よ――」
57.
私は彼女から謝罪の言葉を聞きたくて病室に訪れたわけではない。
彼女と話をしたかったというのはある。
謝ってほしかったわけではないのだ。
それでも、彼女は私を見て謝るだけだった。
彼女と話をしたかったというのはある。
謝ってほしかったわけではないのだ。
それでも、彼女は私を見て謝るだけだった。
―― ◇ ――
「“人の枠”とかどうとか、私には関係ない。
私はあなたとずっと友達よ」
私はあなたとずっと友達よ」
そう言ってあげると、彼女はこちらを向いた。
声には出さなかったが、口は「ありがとう」と動いたように見えた。
声には出さなかったが、口は「ありがとう」と動いたように見えた。
そのあと、勾玉について彼女に話した。
「そう、それがはじまりか。
私には、そこまで知ることができなかった。
何かあの社があなたと関係がある、そこまでは分かっていたのに。
だけど、これで終わりね、終わったのね」
私には、そこまで知ることができなかった。
何かあの社があなたと関係がある、そこまでは分かっていたのに。
だけど、これで終わりね、終わったのね」
勾玉を元に戻して終わったといっていいのか分からないけれど、それが原因だというのなら、終わりに向ったのだろう。
あとは、あの社で改めてお清めをしてもらえばいい。
あとは、あの社で改めてお清めをしてもらえばいい。
「それじゃ、また明日」
互いにそう言って、病室から出た。
時間は昼を回っていた。
そう思うと、どこかお腹がすいてくる。
まだ病み上がりだというのに、私のお腹はずいぶんと殊勝なようだ。
帰ったら、何か作って食べよう。
時間は昼を回っていた。
そう思うと、どこかお腹がすいてくる。
まだ病み上がりだというのに、私のお腹はずいぶんと殊勝なようだ。
帰ったら、何か作って食べよう。
病院を背に、街路樹の並ぶ歩道を歩いていく。
ふと、私の前にロングコートを纏った女性が現れた。
ロングコート、といってもあの人とは全く違う。
あえて怖れることもない、か。
ふと、私の前にロングコートを纏った女性が現れた。
ロングコート、といってもあの人とは全く違う。
あえて怖れることもない、か。
「鬼が出たという情報を聞いてやって来てみれば、すでに鬼は滅ぼされたあとって言うじゃない。
私がここへ来たのは何のためなんだろうね。
どう思う、戸隠紅葉?」
私がここへ来たのは何のためなんだろうね。
どう思う、戸隠紅葉?」
この女性は私へと声をかけてきた。
というより、なぜ私の名前を?
というより、なぜ私の名前を?
「何を驚いているんだい?
ああ、見ず知らずの女があんたの名前を知っているから?
知ってるよ、何だってあんたは夢見の家系なんだからさ」
ああ、見ず知らずの女があんたの名前を知っているから?
知ってるよ、何だってあんたは夢見の家系なんだからさ」
そう言って、この人はコートのポケットから何かを取り出した。
鈍い光を放つ何か。
鈍い光を放つ何か。
「すまないね、これも仕事なんだ。
鬼を目覚めさせた夢見の娘を――」
鬼を目覚めさせた夢見の娘を――」
ポケットから取り出したそれを私へと突きたてたのだ。
お腹が熱い、何をしたの?
視界が黒くぼやけ、意識が遠退いて――
お腹が熱い、何をしたの?
視界が黒くぼやけ、意識が遠退いて――
58.
雪が降らないようになってから、暖かくなるのはあっという間だ。
地面に積もっていた雪は全て消え、温かさをもった強い風、春一番が街の中を駆け巡っていく。
そのあとは暖かいと寒いを繰り返していき、春という季節へと変わっていく。
地面に積もっていた雪は全て消え、温かさをもった強い風、春一番が街の中を駆け巡っていく。
そのあとは暖かいと寒いを繰り返していき、春という季節へと変わっていく。
―― ◇ ――
三月も終わりを迎え、白に赤みがかった花を咲かせた木々がずっとどこまでも続いている。
人々はその木々の下を歩き、中にはシートを敷いて宴を開いていた。
耳を澄ませば、様々な鳥の囀りも聞こえてくる。
人々はその木々の下を歩き、中にはシートを敷いて宴を開いていた。
耳を澄ませば、様々な鳥の囀りも聞こえてくる。
そんな中、彼はひとりで歩いていた。
風に揺られた花びらが宙を舞い、彼の頬を掠めていった。
周りの人々はこの花に歓喜しているのだが、彼は違った。
春とはかけ離れた表情、どこか愁いを持った表情だ。
彼が空を見上げると、木々の合間に青空が見え、そこには一筋の飛行機雲が伸びていく。
周りの人々はこの花に歓喜しているのだが、彼は違った。
春とはかけ離れた表情、どこか愁いを持った表情だ。
彼が空を見上げると、木々の合間に青空が見え、そこには一筋の飛行機雲が伸びていく。
「あれから、どのぐらいが経ったのだろうな。
まだ雪が降っていたっけ。
なのに、今は桜が咲いている。
季節が変わっちまった」
まだ雪が降っていたっけ。
なのに、今は桜が咲いている。
季節が変わっちまった」
彼はとても深い溜息を吐き、うつむいてしまった。
ねえ、顔を上げてよ。
桜がこんなにも綺麗に咲いているのに、どうしてうつむくの?
世界はこんなにも暖かいのに、どうしてうつむくの?
この春という季節を愉しむために、歩いているんじゃないの?
桜がこんなにも綺麗に咲いているのに、どうしてうつむくの?
世界はこんなにも暖かいのに、どうしてうつむくの?
この春という季節を愉しむために、歩いているんじゃないの?
彼はかぶりを振ると、再び歩き出した。
そう、歩き続けて欲しい。
立ち止まらないで欲しい。
立ち止まらないで欲しい。
彼はもう一度かぶりを振ると、うつむいていた顔を上げた。
そう、顔を上げて欲しい。
うつむかないで欲しい。
うつむかないで欲しい。
彼には……彼には以前のように笑っていて欲しい。
そう思うのはいけないことなのだろうか?
そう思うのは私の勝手なのだろうか?
そう思うのはいけないことなのだろうか?
そう思うのは私の勝手なのだろうか?
私の勝手でも構わない。
彼には彼のままでいて欲しいのだ。
あの優しいままの彼でいて欲しいのだ。
彼には彼のままでいて欲しいのだ。
あの優しいままの彼でいて欲しいのだ。
そう、あの冬に見せてくれたあの優しい彼であって欲しいのだ。
桜並木から少し離れたところ、そこにも大きな桜の木があった。
とても大きな桜、その下では人々が集まっていた。
彼女にツキミさんに探偵さん。
とても大きな桜、その下では人々が集まっていた。
彼女にツキミさんに探偵さん。
「すまない、遅くなった」
LAST.
「すまない、遅くなった」
彼はそう言いながらみんなに混じっていく。
みんなはそれぞれ袋を持ち、そこから何かを取り出していく。
お菓子にジュース、探偵さんに至ってはお酒まであった。
みんなで集まってこの桜の木の下で花見をするのだろう。
みんなはそれぞれ袋を持ち、そこから何かを取り出していく。
お菓子にジュース、探偵さんに至ってはお酒まであった。
みんなで集まってこの桜の木の下で花見をするのだろう。
「何だろうね、こんなにも桜が待ち遠しかったときはなかったよ」
探偵さんが缶ビールを開け、それを空へと掲げた。
「それだけ、あの冬が印象的だったってことなのかな」
「それを言ったら、私は足を刺されて動けないまま過ごしたわよ」
「私は土手っ腹ね」
「それを言ったら、私は足を刺されて動けないまま過ごしたわよ」
「私は土手っ腹ね」
探偵さん、ツキミさん、彼女と、溜息が連なっていく。
彼に至っては、彼女らの話を聞いているのか聞いていないのか、静かにジュースを飲んでいた。
彼に至っては、彼女らの話を聞いているのか聞いていないのか、静かにジュースを飲んでいた。
「あんたはどうなのさ?」
探偵さんが彼へと視線を移した。
彼は小さくうなずき、「色々あった、かな」と小さな声で返した。
そして、彼は桜を見上げて、「あいつはどうだったんだろうな」と呟いた。
それに合わせて他の三人も桜を見上げた。
彼は小さくうなずき、「色々あった、かな」と小さな声で返した。
そして、彼は桜を見上げて、「あいつはどうだったんだろうな」と呟いた。
それに合わせて他の三人も桜を見上げた。
風が吹き、桜の花が舞い散っていく。
その花は、あたかも雪のよう。
桜の雪でも、降れば鬼は出てくるのだろうか。
そうなれば、夢が繰り返されるのだろうか――
その花は、あたかも雪のよう。
桜の雪でも、降れば鬼は出てくるのだろうか。
そうなれば、夢が繰り返されるのだろうか――
―― ◇ ――
意識が遠退いていく中、そんな夢を見た。
今ではなく、これから先のことの夢なのだろうか?
今はまだ桜なんて咲くどころか、雪すら残っている。
今ではなく、これから先のことの夢なのだろうか?
今はまだ桜なんて咲くどころか、雪すら残っている。
目の前には、ロングコートを纏った女性。
手には、何かを滴らせる先の尖ったものを握っている。
手には、何かを滴らせる先の尖ったものを握っている。
「しばらく眠りなさい。
次、いつ目を覚ますかなんて、誰も分からないけど」
次、いつ目を覚ますかなんて、誰も分からないけど」
この人の顔がよく見えない、瞼が重くなっていく。
「それと、恨んでくれて構わないわ。
それで食っている身なのだから」
それで食っている身なのだから」
含み笑いを交えながらの言葉。
もう、その声すらもぼやけて聞こえてくる。
もう、その声すらもぼやけて聞こえてくる。
「さようなら――」
これで何も見えなくなった、何も聞こえなくなった。
深い、深い闇へと落ちていく。
そう、まるで眠るときと同じ感じだ。
ああ、眠るんだ、そうなんだ。
そして、また夢を見るんだ……。
あの暗い世界の中を私がひとり。
あの月しか見えない世界の中を私がひとり。
深い、深い闇へと落ちていく。
そう、まるで眠るときと同じ感じだ。
ああ、眠るんだ、そうなんだ。
そして、また夢を見るんだ……。
あの暗い世界の中を私がひとり。
あの月しか見えない世界の中を私がひとり。
―― ◇ ――
「――」
何かが聞こえる。
私の名を呼んでいるのだろうか?
それとも別の何かを叫んでいるのだろうか?
私の名を呼んでいるのだろうか?
それとも別の何かを叫んでいるのだろうか?
ゆっくりと目を開けた。
青い空に桜の花びらが綺麗に舞っている。
そして、みんなが私の顔を覗き込んでいた。
そして、みんなが私の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?」
と訊ねたら、逆にこちらに向って「お前こそどうしたんだ?」と返された。
「もしかしたら、傷が痛むのか?」
彼が心配そうに訪ねてくる。
お腹の傷があった場所を服の上からさすった。
痛みはない。
ただ、お腹と手に感触が返ってくるだけだ。
あの冬に受けた傷の感触が。
お腹の傷があった場所を服の上からさすった。
痛みはない。
ただ、お腹と手に感触が返ってくるだけだ。
あの冬に受けた傷の感触が。
あのあと、私がどうなったのかよく分からない。
病院のすぐ目の前だったから命が助かったのだ、と聞かされた。
病院のすぐ目の前だったから命が助かったのだ、と聞かされた。
あの人は一体何だったのだろうか。
それは分からないままだ。
なぜ私を刺したのか、それも分からないままだ。
ただ、仕事だからという理由を述べていた。
それ以来あの人は私の前には現れなかった。
私はまだこうして生きているというのに。
それは分からないままだ。
なぜ私を刺したのか、それも分からないままだ。
ただ、仕事だからという理由を述べていた。
それ以来あの人は私の前には現れなかった。
私はまだこうして生きているというのに。
それと、あれから夢を見なくなった。
夢といっても、あの月の夢のことだ。
勾玉を社に戻したからなのだろうか。
それとも別に何かあってその夢を見なくなったのだろうか。
夢といっても、あの月の夢のことだ。
勾玉を社に戻したからなのだろうか。
それとも別に何かあってその夢を見なくなったのだろうか。
結局、何も分からないまま全てが終わった。
誰かに聞いたところで、分からない、の一言を返されるだろう。
でも、これでいいのかもしれない。
何も分からないままだけれど、もう何も起こらなくなったのだ。
誰かに聞いたところで、分からない、の一言を返されるだろう。
でも、これでいいのかもしれない。
何も分からないままだけれど、もう何も起こらなくなったのだ。
「桜、綺麗だね」
桜の舞い散る花びらの一欠け、それが私の手のひらの上へと舞い降りた。
その花びらに息を吹きかけてあげると、花びらは空へと舞い上がり他の花びらに混じっていった。
そんな私を四人は見て、吹き出した。
そんなにおかしなことを言ったのだろうか。
その花びらに息を吹きかけてあげると、花びらは空へと舞い上がり他の花びらに混じっていった。
そんな私を四人は見て、吹き出した。
そんなにおかしなことを言ったのだろうか。
「また、寝ぼけて夢でも見てたのか?」
EX 1.
「鬼を屠るのが仕事?」
漆原千代は首を傾げつつ聞き返した。
相手は電話の向こう。女の声で答えが返ってくる。
千代は不満な表情を浮かべながら話を聞いている。こういうとき、電話というのは都合がいい。たとえどんな表情をしようと相手には伝わらないのだから。テレビ電話なんてものがあるけど、あれは元々使う気はないので尚更だ。
ただ、気をつけなければならないのは、不満を声に出さないことだ。声だけは相手に筒抜けなのだから、声色で相手の感情を聞き取れるような人だと――
相手は電話の向こう。女の声で答えが返ってくる。
千代は不満な表情を浮かべながら話を聞いている。こういうとき、電話というのは都合がいい。たとえどんな表情をしようと相手には伝わらないのだから。テレビ電話なんてものがあるけど、あれは元々使う気はないので尚更だ。
ただ、気をつけなければならないのは、不満を声に出さないことだ。声だけは相手に筒抜けなのだから、声色で相手の感情を聞き取れるような人だと――
『――不満そうね』
とすぐさま悟られてしまう。
千代にとっては相槌を打っていただけなのだが、その声色で乗り気じゃないことを知られてしまったのだろう。しまった、と眉をひそめた。
千代にとっては相槌を打っていただけなのだが、その声色で乗り気じゃないことを知られてしまったのだろう。しまった、と眉をひそめた。
『愚痴はいくらでも言っていいけれど、これは仕事なの。あなたに期待しているわ』
「はい、分かりました、カスミ姉さん――」
「はい、分かりました、カスミ姉さん――」
千代は棒読みの返事をして電話を切った。
携帯電話は午後16時を示していた。辺りは夕日で朱く染まっている。雪の積もった街が、白く染まっているはずの街が、炎が灯っているように朱く染まっている。
携帯電話は午後16時を示していた。辺りは夕日で朱く染まっている。雪の積もった街が、白く染まっているはずの街が、炎が灯っているように朱く染まっている。
「またこの街に来ることになるとは思わなかった。それも、雪の降る冬に来るなんて思わなかった。
胸糞悪い。過去の想いが吹き上がってくる。だから、早く終わらせよう……」
胸糞悪い。過去の想いが吹き上がってくる。だから、早く終わらせよう……」
眩い夕日を背負い、千代は街へと入っていく。
請けた仕事は街で殺人を繰り返している鬼の討伐。異端狩りを生業としている彼女だからこその仕事だ。
請けた仕事は街で殺人を繰り返している鬼の討伐。異端狩りを生業としている彼女だからこその仕事だ。
―― ◇ ――
なぜ彼女は自分から逃げていったのだろうか?
近江安綱は彼女――戸隠紅葉が走り去っていった先をただ呆然と見るだけだった。
近江安綱は彼女――戸隠紅葉が走り去っていった先をただ呆然と見るだけだった。
「……なあ、俺が何か悪いことしたのか?」
安綱は虚空へと言葉を吐き出した。言葉は白い息となって、消えていく。
すぐ脇には家電量販店があり、ショーウィンドウの向こうにはテレビが置かれている。テレビは最近話題の殺人事件について放送されていた。
安綱はテレビへと視線を移し、ニュースの内容を見て顔をしかめる。殺人事件が自分の住んでいる街で起きているから嫌悪感が表に出てしまうのだ。
それに、もうひとつ嫌悪感を表に出さざるを得ないことが安綱にはあった。それは近江という家で代々引き継がれてきたものだ。
すぐ脇には家電量販店があり、ショーウィンドウの向こうにはテレビが置かれている。テレビは最近話題の殺人事件について放送されていた。
安綱はテレビへと視線を移し、ニュースの内容を見て顔をしかめる。殺人事件が自分の住んでいる街で起きているから嫌悪感が表に出てしまうのだ。
それに、もうひとつ嫌悪感を表に出さざるを得ないことが安綱にはあった。それは近江という家で代々引き継がれてきたものだ。
“鬼殺し”だ。
安綱は今まで生きていて“鬼”というものに会ったことのない生活を送っていたのだ。それなのに突然“鬼”が現われたと聞かされ、その上“鬼”を退治してこいとまで言われたのだ。
しかも、その“鬼”とやらが今回の事件を起こしている、とも聞かされた。
正直信じられない話だ、とも、バカバカしい話だ、とも言い返したのだが、安綱の祖父は聞く耳を持たなかったのである。
だけど、聞かないわけにはいかないと感じた。何がそう感じさせたのか、簡単な話だ。この街に“鬼”がいて、この街で事件を起こしているというのなら、紅葉に危険が及ぶかもしれないと思ったからだ。
無差別に殺人が行われているとなっているので、その被害がいつ紅葉に及ぶのか分からない。だからこそ、紅葉に危険が及ぶ前に“鬼”を退治してしまおうということで家の慣わしに従うことにした。すでに紅葉の家の近くで事件が起きているのだから。
しかも、その“鬼”とやらが今回の事件を起こしている、とも聞かされた。
正直信じられない話だ、とも、バカバカしい話だ、とも言い返したのだが、安綱の祖父は聞く耳を持たなかったのである。
だけど、聞かないわけにはいかないと感じた。何がそう感じさせたのか、簡単な話だ。この街に“鬼”がいて、この街で事件を起こしているというのなら、紅葉に危険が及ぶかもしれないと思ったからだ。
無差別に殺人が行われているとなっているので、その被害がいつ紅葉に及ぶのか分からない。だからこそ、紅葉に危険が及ぶ前に“鬼”を退治してしまおうということで家の慣わしに従うことにした。すでに紅葉の家の近くで事件が起きているのだから。
気がつけば、雪が降り始めていた――
―― ◇ ――
茉神探偵事務所、とは名ばかりでここにいる探偵は如月氷柱ひとりのみしかいない。
時折ペット探しの仕事が入ったときのみ下の階に住む鳥羽玉藻が手伝いをしてくれる。
時折ペット探しの仕事が入ったときのみ下の階に住む鳥羽玉藻が手伝いをしてくれる。
「フェレット探しなんて、面倒よね」
冷めた珈琲をすすりながら、氷柱は左手の書類に目を通している。
書類には写真とその特徴が書かれている。白いフェレットで名前はヴィクセン。
書類には写真とその特徴が書かれている。白いフェレットで名前はヴィクセン。
「女狐(ヴィクセン)、何を見て思いついたんだか。鼬の仲間につけるような名前じゃないわね」
書類を机へと放り、溜息を吐いた。
カップの残りをすべて飲み干し、氷柱は立ち上がった。動物相手は得意でないのだがこれも仕事だからと自らに言い聞かせ、上着を手にした。
カップの残りをすべて飲み干し、氷柱は立ち上がった。動物相手は得意でないのだがこれも仕事だからと自らに言い聞かせ、上着を手にした。
――コンコン、誰かがノックする。
袖の途中まで手を通していたが、溜息を吐いて上着をソファへと放り投げると、入り口意へと歩み寄る。
「誰?」と入り口のドアをわずかに開いて外をのぞいた。
ロングコートを纏った女がそこにいる。氷柱には見知らぬ女だ。
「誰?」と入り口のドアをわずかに開いて外をのぞいた。
ロングコートを纏った女がそこにいる。氷柱には見知らぬ女だ。
「ここに来れば、如月氷柱という女に会えると聞いたけど、あなたのこと?」
「そう、だけど……あなた誰なの?」
「入れてもらえないかしら? 別にあなたのことをどうにかしに来たわけじゃないから」
「そう、だけど……あなた誰なの?」
「入れてもらえないかしら? 別にあなたのことをどうにかしに来たわけじゃないから」
女はそう言うとドアに手をかけて強引に開けると、勝手に中へと入ってくる。
氷柱は眉をひそめ女を睨みつけるものの、女は気にした様子も見せず氷柱の視線を受け流す。
女は事務所の中を見回しながらソファへと寄ると氷柱の許しもなくソファへと腰を下ろした。
氷柱は眉をひそめ女を睨みつけるものの、女は気にした様子も見せず氷柱の視線を受け流す。
女は事務所の中を見回しながらソファへと寄ると氷柱の許しもなくソファへと腰を下ろした。
「私は漆原千代。わけあってこの街まで来たわけだけど――」
「異端狩りのチヨか!?」
「異端狩りのチヨか!?」
氷柱はドアを勢いよく閉めると、女――千代の前へと詰め寄った。
千代は上目遣いで氷柱を見て、小さく笑う、
千代は上目遣いで氷柱を見て、小さく笑う、
「安心して。あなたをどうこうする気はないと先に述べた通り。ついでに、あの女狐、鳥羽珠稀もターゲットじゃないわ。
この街へと仕事をしに来てね。来たからにはあなたに挨拶を、と思ってきただけ」
この街へと仕事をしに来てね。来たからにはあなたに挨拶を、と思ってきただけ」
千代は氷柱へと手を差し出してきた。友好を示すために握手をしようというのである。
氷柱は千代の手を見るが、それだけで千代の前から離れた。
氷柱は千代の手を見るが、それだけで千代の前から離れた。
「信用ならない、ということ?」
「異端狩りを信用する人間がどこにいるのよ?」
「ご尤もね」
「異端狩りを信用する人間がどこにいるのよ?」
「ご尤もね」
千代は手を引っ込めると、わざとらしく小さく溜息を吐いて見せた。
はじめから友好なんて求めていないのに求めた振りをしている、氷柱にはそうとしか思っていないのだ。
はじめから友好なんて求めていないのに求めた振りをしている、氷柱にはそうとしか思っていないのだ。
「せめて、珈琲ぐらい出してもらえたらと思ったけど、それも無理そうだから、帰ることにするわ」
「そうね、帰ってもらえた方がこちらとしてもありがたいわね」
「言ってくれる」
「あなたの義理のお姉さんなら、珈琲ぐらい出したけどね」
「あら、そう」
「そうね、帰ってもらえた方がこちらとしてもありがたいわね」
「言ってくれる」
「あなたの義理のお姉さんなら、珈琲ぐらい出したけどね」
「あら、そう」
二人は睨み合ったままでいたが、千代が繭をひそめながら立ち上がった。挨拶をするという目的を果たした以上、いつまでもここにいるつもりはないということなのだろう。
「じゃ、行くわ」と千代は完全に不満を表に出しながら、氷柱に背を向け、事務所から立ち去っていった。
「じゃ、行くわ」と千代は完全に不満を表に出しながら、氷柱に背を向け、事務所から立ち去っていった。
「結局、何をしに来たんだか。
異端狩りなんてどうでもいいわ。それよりも仕事仕事」
異端狩りなんてどうでもいいわ。それよりも仕事仕事」
氷柱は溜息を吐き、脱ぎ捨てた上着を拾い上げて、もう一度袖に手を通した――
EX 2.
竹林に囲まれた社。千代は夕日が沈みかけている中、社を見渡した。
その廃れた姿からはとても社とは思えない。けど建物自体は残っているので、社としての体裁を保てていると言えば保てているのかもしれない。
入り口から社まで石畳が敷かれているが、手入れもされていない上に草が合間に生えるなどして、石畳の役割をなしていない。
社の段も腐りかけているのだろうか、上がろうとすると軋む音を立てる。さらにはその段の上に置かれている木片の山だ。おそらく賽銭箱だったのだろう、踏んでみると隙間から古ぼけた硬貨がこぼれ出てくる。1円や5円といった物が4、5枚程度だ。
その廃れた姿からはとても社とは思えない。けど建物自体は残っているので、社としての体裁を保てていると言えば保てているのかもしれない。
入り口から社まで石畳が敷かれているが、手入れもされていない上に草が合間に生えるなどして、石畳の役割をなしていない。
社の段も腐りかけているのだろうか、上がろうとすると軋む音を立てる。さらにはその段の上に置かれている木片の山だ。おそらく賽銭箱だったのだろう、踏んでみると隙間から古ぼけた硬貨がこぼれ出てくる。1円や5円といった物が4、5枚程度だ。
「ずいぶんと、放置されてるのね。管理する人いないの、ここは」
竹林に囲まれた社には鬼が祀られていると聞いてやって来たのだが、この有様じゃ鬼が出てきて祟られても仕方がないわ、と溜息を吐いた。
社の戸に手をかけるが、立て付けが悪く思うように動かない。さらに溜息を吐いた。
社の戸に手をかけるが、立て付けが悪く思うように動かない。さらに溜息を吐いた。
「やれやれ、本当に駄目ね。日本は無宗教国家なんて言うけど、それでもあんまりよ。社は祭らなければ、意味をなさないというのに。
――はぁ、異端狩りがそんなこと言っても滑稽なだけで、仕方がないか」
――はぁ、異端狩りがそんなこと言っても滑稽なだけで、仕方がないか」
強引に戸を開け、中に入ることなくその場で中を見た。
暗い空間が広がるだけ。静かな空間が見えるだけ。
暗い空間が広がるだけ。静かな空間が見えるだけ。
「鬼の気配はなしか。あたりまえよね。だから、街で鬼が暴れているわけだし」
千代はそれだけで社に背を向けた。段を下りていき、改めて少し離れた位置で社を見た。
日が沈みかけてから辺りが暗くなるまでは実に早く、こうしている間に空には闇が迫っていく。黒く大きな布で街いっぱいをかぶせていくかのように、その様は冬の日の短さを感じさせるもの、とでも言うべきだろうか。
ポケットから携帯電話を取り出し、電話番号を入力していく。アドレスから相手の番号を選択すればいいだけの話なのだが、アドレスに一切の登録がなされていない上に、番号を覚えても登録する気がないのである。
コールが三回鳴り、相手に繋がる。
日が沈みかけてから辺りが暗くなるまでは実に早く、こうしている間に空には闇が迫っていく。黒く大きな布で街いっぱいをかぶせていくかのように、その様は冬の日の短さを感じさせるもの、とでも言うべきだろうか。
ポケットから携帯電話を取り出し、電話番号を入力していく。アドレスから相手の番号を選択すればいいだけの話なのだが、アドレスに一切の登録がなされていない上に、番号を覚えても登録する気がないのである。
コールが三回鳴り、相手に繋がる。
「あ、カスミ姉さん――」
―― ◇ ――
あれから紅葉の様子がおかしい。
あれからというのは、目の前から逃げてからのことだ。
なので、訳を聞こうと思って紅葉の家へと向かうことにした。
寒空の下、紅葉が逃げ去ったときと寒さは変わらない。だからなのだろう、余計に訳を聞いてみたくなったのは。
そして、久々に会ったと思ったら、紅葉のそばに見知らぬ女がついている。
あれからというのは、目の前から逃げてからのことだ。
なので、訳を聞こうと思って紅葉の家へと向かうことにした。
寒空の下、紅葉が逃げ去ったときと寒さは変わらない。だからなのだろう、余計に訳を聞いてみたくなったのは。
そして、久々に会ったと思ったら、紅葉のそばに見知らぬ女がついている。
一体誰なんだ?
安綱は不審の目をその女へと向ける。
紅葉から女の紹介をしてもらってもいいのだろうが、まったくしてくれない。それどころか、安綱と目を合わせようともしなかった。
紅葉がこの女とどこかへと向かっているようで、安綱は紅葉と話をしたいということもあり、ついていくことにした。
場所は図書館。何か調べものだろうか、気にはなるものの今はそれが重要ではない。
静かな空間。周りは学生をはじめ、色々と調べ物をしていたり本を読んでいたりと何人かいる。
紅葉は図書館に来てすぐさま、本を探しに棚の前を右往左往している。
紅葉についていた女はというと、安綱と睨み合っていた。
「誰なんだお前は?」と女に訪ねてみたいのだが、図書館の中で声を出すのは好まれる行為でないので、黙ってただ睨むだけしかできなかった。
紅葉から女の紹介をしてもらってもいいのだろうが、まったくしてくれない。それどころか、安綱と目を合わせようともしなかった。
紅葉がこの女とどこかへと向かっているようで、安綱は紅葉と話をしたいということもあり、ついていくことにした。
場所は図書館。何か調べものだろうか、気にはなるものの今はそれが重要ではない。
静かな空間。周りは学生をはじめ、色々と調べ物をしていたり本を読んでいたりと何人かいる。
紅葉は図書館に来てすぐさま、本を探しに棚の前を右往左往している。
紅葉についていた女はというと、安綱と睨み合っていた。
「誰なんだお前は?」と女に訪ねてみたいのだが、図書館の中で声を出すのは好まれる行為でないので、黙ってただ睨むだけしかできなかった。
静かながらも、ピリピリと緊張感の続く時間は流れていった。自ら生み出しら緊張感だというのは分かっている。あの女自身もそれは分かっていたはずだ。
この空気がよっぽど嫌だったのか、それとも安綱自身が紅葉にそれだけ嫌われてしまったのか。
紅葉は図書館での調べものを手早く済ましてしまった。というよりも、半分も調べずに終えてしまったとした方がいいのかもしれない。
この空気がよっぽど嫌だったのか、それとも安綱自身が紅葉にそれだけ嫌われてしまったのか。
紅葉は図書館での調べものを手早く済ましてしまった。というよりも、半分も調べずに終えてしまったとした方がいいのかもしれない。
図書館を出て紅葉はすぐに家へと帰ることとなった。その間もあの女はずっといる。
さすがに家の中にまでいるということはないだろう、そうすれば二人でゆっくりと話ができるかもしれない、と考えていたがそれも甘かった。
女は家の中でも一緒にいるのだ。
紅葉の家、居間では安綱と女が睨み合いを続けていた。紅葉は何やら部屋の隅で佇んでいるだけだ。
まさか、呆れられているだけなのか? と紅葉に視線を移そうにも、この女から視線を外せば自分の負けが確定してしまうのではないか、と安綱は思うのだ。何てことはない、睨み合いに勝ち負けを気にしているという、ただ大人気ないというだけのことだ。
呼び鈴が鳴り、紅葉が今から出て行く。誰かが紅葉の家へと来たようだ。
紅葉がいなくなったことで都合がよくなったのか――
さすがに家の中にまでいるということはないだろう、そうすれば二人でゆっくりと話ができるかもしれない、と考えていたがそれも甘かった。
女は家の中でも一緒にいるのだ。
紅葉の家、居間では安綱と女が睨み合いを続けていた。紅葉は何やら部屋の隅で佇んでいるだけだ。
まさか、呆れられているだけなのか? と紅葉に視線を移そうにも、この女から視線を外せば自分の負けが確定してしまうのではないか、と安綱は思うのだ。何てことはない、睨み合いに勝ち負けを気にしているという、ただ大人気ないというだけのことだ。
呼び鈴が鳴り、紅葉が今から出て行く。誰かが紅葉の家へと来たようだ。
紅葉がいなくなったことで都合がよくなったのか――
「お前は誰だ」「あなたは誰なの」
二人が同時に言い放った。それの答えなのだろうか、少し間を置いてから二人はまた睨み合う。あとは、そのまま会話まで発展せず、最初と変わらない。
「つぅきぃみぃ~、こんなところにいたぁ」
緊張感とはかけ離れた声が入ってくる。紅葉が戻ってきたというわけではない。呼び鈴を鳴らした人物ということになるのだろう。
女が安綱から視線を外すと、その声の主を見て眉をひそめた。安綱に向けていた不審の目とは違い不信の目へと変わる。
女が安綱から視線を外すと、その声の主を見て眉をひそめた。安綱に向けていた不審の目とは違い不信の目へと変わる。
「なっ、ヘボ探偵、何でここに?」
「ヘボ探偵とは、相変わらずツキミは口が悪いわね」
「ヘボ探偵とは、相変わらずツキミは口が悪いわね」
ニタニタと笑いながら「ヘボ探偵」と呼ばれた声の主は女の隣へと座った。
ヘボ探偵の手には何やら書類が握られており、それが女へと渡される。
ヘボ探偵の手には何やら書類が握られており、それが女へと渡される。
「ちょっと、どうして私がここにいるのを知ったのよ?」
「クロキョーが教えてくれたのよ、クロキョーが。それより、これを見なさい」
「クロキョーが教えてくれたのよ、クロキョーが。それより、これを見なさい」
と二人は書類に目を通している。
安綱はこのヘボ探偵とやらの出現で完全に相手にされなくなり、どうしたものかと二人に悟られないように溜息を吐いた。
そこへ紅葉が遅れてやってくる。でも視線を合わせてくれる様子もなく、声をかけようにも聞いてくれるかどうかも分からない。
安綱はこのヘボ探偵とやらの出現で完全に相手にされなくなり、どうしたものかと二人に悟られないように溜息を吐いた。
そこへ紅葉が遅れてやってくる。でも視線を合わせてくれる様子もなく、声をかけようにも聞いてくれるかどうかも分からない。
本当にどうしたらいいのだろうか――
―― ◇ ――
千代は日を改めて駅へとやってきた。目的は駅のコインロッカーだ。
コインロッカーを前に、千代はポケットから鍵を取り出した。鍵の番号とロッカーの番号を照らし合わせ、同じ数字のロッカーの前へと立つ。
コインロッカーを前に、千代はポケットから鍵を取り出した。鍵の番号とロッカーの番号を照らし合わせ、同じ数字のロッカーの前へと立つ。
「さてさて、カスミ姉さんから許可を取ったことだし、使わせてもらうわ」
鍵を挿し、回した。
周りに視線がないかを確認をして、ロッカーの扉を開ける。なぜ視線を気にしているのか、それなりのものがロッカーの中に入っているからだ。
中、それも奥に新聞紙で包まれたものがある。それを手に取り、新聞真を剥いでいく。剥いだ新聞紙を丸めてポケットへと仕舞うと、手には残った中身が握られている。
ずっしりとした重み。蛍光灯の光を浴び、鈍重ながらも人を惑わすような異様な光を放つ。長さは全体にして30cm前後。十字の形をして、先は尖っている。
スティレットだ。世間一般からしてみればナイフやダガーといったものだ。ただ、それらと違うのは刃がついておらず、刺突に特化したものということだ。
周りに視線がないかを確認をして、ロッカーの扉を開ける。なぜ視線を気にしているのか、それなりのものがロッカーの中に入っているからだ。
中、それも奥に新聞紙で包まれたものがある。それを手に取り、新聞真を剥いでいく。剥いだ新聞紙を丸めてポケットへと仕舞うと、手には残った中身が握られている。
ずっしりとした重み。蛍光灯の光を浴び、鈍重ながらも人を惑わすような異様な光を放つ。長さは全体にして30cm前後。十字の形をして、先は尖っている。
スティレットだ。世間一般からしてみればナイフやダガーといったものだ。ただ、それらと違うのは刃がついておらず、刺突に特化したものということだ。
「さて、こんなものをいつまでも持っていると、誰に見られるか分からないし」
千代はスティレットをポケットに仕舞おうとしたが、仕舞う途中で手を止めた。このスティレットには鞘が付属されておらず、そのままポケットに入れて持ち歩くにはポケットに穴を開けてしまい怪我するなどをして、とても不便だ。
「鞘ぐらいつけておいてくれてもよかったのに。無くしたのかな?」
スティレットを逆手に持ち替え、それを袖の中へともぐりこませた。柄尻を手で握り、あとは落とさないようにすればいい。スティレット自体は袖に隠れ、周りの目も誤魔化せるだろう。
ロッカーの扉を閉め、千代はその場をあとにした。
これで鬼を狩る準備ができた。あとは鬼の気配を探して辿っていくだけだ。
駅を出て、千代は深呼吸をした。目を閉じ、辺りの音を感じ取る。
電車の走り去る音。電車の停止する音。人の足音。人の話し声。車の排気音。車の走行音。歩行者信号の鳴らす曲。
普段なら気にしない生活音が、意識を集中することによって騒音へと変わっていく。これほどの喧騒だったのか、と改めて思い知らされる。
千代は目を開けた。一点を見つめる。何を見ているのか、視界には見えていない。でも、視界の向こう、その方角から何かを感じ取った。
ロッカーの扉を閉め、千代はその場をあとにした。
これで鬼を狩る準備ができた。あとは鬼の気配を探して辿っていくだけだ。
駅を出て、千代は深呼吸をした。目を閉じ、辺りの音を感じ取る。
電車の走り去る音。電車の停止する音。人の足音。人の話し声。車の排気音。車の走行音。歩行者信号の鳴らす曲。
普段なら気にしない生活音が、意識を集中することによって騒音へと変わっていく。これほどの喧騒だったのか、と改めて思い知らされる。
千代は目を開けた。一点を見つめる。何を見ているのか、視界には見えていない。でも、視界の向こう、その方角から何かを感じ取った。
「さて、鬼を追いかけるか――」
主要人物
私:戸隠紅葉(トガクシ モミジ)
主人公
“夢見”の能力者
鬼を目覚めさせた張本人
名前の由来は「紅葉伝説」より
しかし、名前だけなので設定などは一切関係がない
主人公
“夢見”の能力者
鬼を目覚めさせた張本人
名前の由来は「紅葉伝説」より
しかし、名前だけなので設定などは一切関係がない
彼:近江安綱(オオエ ヤスツナ)
鬼殺しの家系
主人公との関係はご想像にお任せします
話では語られていないが、安綱は代々襲名されているもの
名前の由来は天下五剣のひとつ「童子切安綱」
鬼殺しの家系
主人公との関係はご想像にお任せします
話では語られていないが、安綱は代々襲名されているもの
名前の由来は天下五剣のひとつ「童子切安綱」
彼女:鳥羽玉藻(トバ タマモ)
とにかく狐の類が好きらしい
狐の面に、意識体が狐の姿、その他語られていないが部屋にはぬいぐるみから置物まで揃っている
さらには、好物がきつねうどんという
自らの意識を飛ばし、具現化する能力をもつ
話では語られていないが、本名は鳥羽珠稀(タマキ)
玉藻という名前は狐好きからつけたもの
名前の由来は「玉藻前」
とにかく狐の類が好きらしい
狐の面に、意識体が狐の姿、その他語られていないが部屋にはぬいぐるみから置物まで揃っている
さらには、好物がきつねうどんという
自らの意識を飛ばし、具現化する能力をもつ
話では語られていないが、本名は鳥羽珠稀(タマキ)
玉藻という名前は狐好きからつけたもの
名前の由来は「玉藻前」
探偵:如月氷柱(キサラギ ツララ)
玉藻のアパートにある探偵事務所の探偵
何かと周りからヘボ探偵・変態探偵扱いされる
これでも仕事はちゃんとこなせるのでヘボというわけではない
動物に嫌われるマイナススキルの持ち主
玉藻のアパートにある探偵事務所の探偵
何かと周りからヘボ探偵・変態探偵扱いされる
これでも仕事はちゃんとこなせるのでヘボというわけではない
動物に嫌われるマイナススキルの持ち主
ツキミ:夢乃木月美(ユメノギ ツキミ)
刑事
氷柱とは10年来の友人である
その仲は互いに悪態をつくほど?
足を刺されたあと、ずっと入院生活を送っている
その際、身動き取れないことの鬱憤を晴らすべく氷柱を呼んで愚痴を散々聞かせている
刑事
氷柱とは10年来の友人である
その仲は互いに悪態をつくほど?
足を刺されたあと、ずっと入院生活を送っている
その際、身動き取れないことの鬱憤を晴らすべく氷柱を呼んで愚痴を散々聞かせている
ロングコートを纏った人:鬼
竹林に囲まれた社に古来より封じ込められていた鬼
紅葉が勾玉を持ち出したことにより、封印が解かれることとなる
話では断片的であるが、安綱の持つ刀によって首を刎ねられる
ちなみに、封印が解けたあと行った殺傷事件は15件
内、殺人12人、重症3人(玉藻も含む)
竹林に囲まれた社に古来より封じ込められていた鬼
紅葉が勾玉を持ち出したことにより、封印が解かれることとなる
話では断片的であるが、安綱の持つ刀によって首を刎ねられる
ちなみに、封印が解けたあと行った殺傷事件は15件
内、殺人12人、重症3人(玉藻も含む)
端役
刑事(男):黒木京介(クロキ キョウスケ)
月美のパートナー
月美のパートナー
ロングコートを纏った女性:漆原千代(ウルシバラ チヨ)
ロングコートを纏っているが、鬼とは別
異端狩りを生業としている
本来は鬼を滅ぼすために街へとやってきたのだが、すでに鬼は滅ぼされたあとであり、報酬は貰えず仕舞い
紅葉を鬼復活の原因として手にかけているが、報酬外だったりする
ロングコートを纏っているが、鬼とは別
異端狩りを生業としている
本来は鬼を滅ぼすために街へとやってきたのだが、すでに鬼は滅ぼされたあとであり、報酬は貰えず仕舞い
紅葉を鬼復活の原因として手にかけているが、報酬外だったりする
※EXと登場人物一覧については本編を読んだあとに見ることを推奨します。
コメント
- 感想
他の方に比べ高クオリティなのは分かるが、ユーモアは少ない気がする。
勿論それを路線にしているのだから文句は無いのだが、この様なサイト、失礼、若い人が集まるフォーラムで発表するには後少しピンクやイエローを加えても良い気もする。
その点、グラロイド氏等の小説が人気が出るのは分かる気もする。
だが、悪魔でこの文章は現時点のこのフォーラムでの発表小説では最高峰。
EXも全て面白かった。
次は是非、明るい文調の物を読んで見たい。 -- 名無しさん (2009-06-28 22:13:40)