~嫉妬~


その一室は昼間だというのにカーテンが締め切られていた
光がささないその部屋は完全に外界から隔絶された密室であり一つの世界を形成している。
ここに響くのはキーボードを叩く淡々とした軽い音、それだけであった。
その部屋の主はこの屋敷の令嬢、そう言われても誰が信じることができようか・・・

「入るわよ」
「お母さん?勝手に入らないでと言ったでしょう!!」

令嬢は途端に不機嫌になる、当然だ、何しろお気に入りのサイトの巡回中に邪魔をされたのだ
彼女にとっては世界を壊されたも同然

「あなた、まだひきずっているんでしょう?」
「う・・・」
「いい加減過去のことはお忘れなさい、あとはお母さんに任せて・・・」
「いい加減に黙ってください・・・・」

令嬢はその一言で母親の言葉を遮る、はっきり言って鬱陶しかった

「は?今なんて・・・」
「黙ってくださいといったんです、お母さんの話はつまりませんから・・・」
「そう・・・じゃあ好きになさい・・・」

諦めたのかすぐに母親は出て行った、かれこれ2年になるだろうか、この会話が繰り返されるのは

「さて、続きをやりますか・・・」

すると令嬢は再びパソコンの前に向かった

そもそも彼女は最初から引きこもりだったわけではなかったのである、あの出来事がなければ・・・

2年前・・・

「え?みゆきさん慶応に受かったの?おめでとう!!」
「そんな・・・第二志望ですよ、東大には流石に届きませんでしたから・・・」
「でもすごいじゃない!!日本でも有数の医学部でしょう?」

高良みゆきは秀才であった、将来は医者になって世のため人の為に働こう、そう考えていた

「私は関西の法学部、ウチはお金持ちじゃないから国立に行けって言われたから死にもの狂いで頑張ったかいがあったわ♪」
「私は料理の専門学校に行くんだ、ギリギリでヤバかったけど・・・将来は洋菓子店を開くのが夢なんだよ♪」

和気藹々と合格した大学について話す少女達、だが一人だけその場に馴染まない少女がいた
その少女は泉こなた、大学の受験シーズンにも関わらずコミケに出かけたりするオタクである
みゆきに彼女が気にならないはずが無かった・・・

「あの?泉さんは?」
「あ、その話は・・・・」
「いいよ、かがみん・・・」
「こなた!!」
「私、どこにも受からなかったから・・・」
「そんな・・・」
「まあ気にしなくていいよ、私は声優になる、有名な声優の弟子になろうと思うのだよ(=ω=.)」

何を言い出すんだろう?大学に落ちたから声優を目指す?みゆきは呆れて物が言えなかった
売れるのは一部の人間だけ、そうでない人間は食べ物にも困るほど辛い生活を送る、そう聞いていた
普段の優しい彼女なら、こなたをどれだけ心配したことだろう、ただ第一志望に落ちて内心イラついてる
状態においては自分より下の人間がいることで慰めようとしていた・・・

「(見ていなさい、同窓会で会うときはあなたと私の差は天と地というものですよ・・・)」

確かに彼女が思ったとおり、二人の立場は天と地程の差がつくことになる
ただ彼女が思っていた結末にはならなかっただけであるが・・・

2年後

「どうして私が退学にならないといけないんですか!!」
「高良君、君は教授を殴ったそうではないか・・・」

確かにそうだ、ただそれは明らかに向こうが悪いのだ、自分にセクハラまがいのことをした教授
ついカッとなり我慢ができなくなって・・・
その上相手が悪かったのだ、その教授はテレビ出演するくらいに有名な教授であり医学界の権威であった
一学生の高良みゆきを捻りつぶすぐらい簡単なこと

「ま、逮捕されなかっただけありがたく思うんだね・・・」
「くっ・・・・・・」

みゆきは歯を食いしばり拳を握り締めることしかできなかった、血が出るくらいに・・・
あれから雪の降る東京、そこをとぼとぼと歩いていた、これからだったのに・・・
全てはこれから始まるはずだったのに・・・

「これから・・・どうしましょう?」
「あれぇ?みゆきさぁ~んっ!!」

ふと後ろから嫌なくらいテンションが高い声がする、振り向くとそこにはトレンチコートに実を包んだ
背の低い女がいた、そしてもう1人、友達だろうか?

「い、泉さん!!」
「よかったぁ!!私のこと覚えていてくれたんだね(=ω=.)」
「あ、この人がこなたさんのよく言っていた・・・」
「そう♪同級生の高良みゆきさんだよ、あきらちゃん」

誰が忘れるものか3年間も同じクラスであった少女を、そして隠してはいたが実は大嫌いだった少女
しかしどういうことだろうか?以前アイドルだった小神あきらまで連れて・・・

「みゆきさん、最近大学はどう?楽しい?」
「え、ええ・・い、泉さんこそ、どちらへ?」
「これからライブなんだよ、アキバで♪」
「え?」
「私ね、声優になれたんだよ♪いや、役者に・・しごかれたせいかな、演技は全身でするものだって・・・」
「・・・」
「そのせいもあってか、いきなり主役抜擢!CDもバカ売れでさ、なんと今度私が主演の映画ができたんだよっ♪」
「そ、それはおめでとうございます」

楽しそうに話すこなた、その上アイドルから声優に転向したあきらに演技指導しているらしい
さらに舞台の仕事、ドラマのチョイ役までゲットしたという、
そしてあきらは何かを察したように一枚の券を取り出しこなたに手渡した

「これ映画の割引券!私無理にお願いしてみんなの分貰ったんだよ、かがみ達も来るってさ♪みゆきさんも来てね(=ω=.)」
「ぜひ行きますよ♪」
「ありがとう、みゆきさん!あ、そうだ、時間だからそろそろ行くね!!」

そういい終わるや否やこなたとあきらはさっさとその場を後にした、その上100メートル先でタクシーを拾って
今日はみゆきはタクシーに乗る気力も無いというのに・・・

「どうしてですか?」
「世の中おかしいです・・・・」
「勉強ができた私がどうしてこんな仕打ちを・・・」

ユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイ・・・・・・・・・・・・・・

そしてみゆきもさっさとその場所を後にした
彼女がさっきまで立っていた場所にはこなたから貰ったチケットが細切れになって落ちていた・・・

それからだった、みゆきが部屋に引きこもるようになったのは

「っと」

今みゆきが見ていたのはこなたのブログ、最近毎日ここに来ている
荒らすためだ・・・

「苦節半年、ようやくこたえたようですね♪」

とうとうこなたのブログは閉鎖された、これもみゆきの仕業、複数の人間を装っての荒らし

「次は2ちゃんねるです」

『泉こなたアンチスレ』を立ち上げた彼女は高校時代のこなたの悪行の数々を書き込んでいく
それだけではない、あること無いことでっち上げ・・・
それだけで2ちゃんねるに常駐しているこなたファンのアニオタの評価は下げられた

「しかしまだまだ足りません、仕事を奪ってあげなければ」

匿名での雑誌社へのタレコミ、こなたは自分の体を使ってプロダクションの社長を誘惑し
仕事を取ってきているという噂
実はAVに出ている、高校の時には既に体験済み・・・

数え上げたらキリが無い

あとみゆきがした事といえばこなたに対する無言電話、脅迫メール
みゆきはこの部屋から一歩も出ていない、ただパソコンを弄くっていただけ・・・

それから3ヶ月たったくらいであろうか?

『・・・役で知られる声優の泉こなたさんが自宅マンションから飛び降り病院に運ばれましたが・・・』
「やった」
『まもなく死亡が確認され・・・」
「勝った」

薄暗い部屋でテレビを見ながら呟く
しかしどういうことだろう、全く充実感が無いのだ、大嫌いなこなたを死に追いやることができたのに・・・

「トイレにでも行きますか」

ついでに顔も洗おう、気持ちがいい、何日ぶりだろう?顔を洗うなんて
そう、かつて品のあるお嬢様だったみゆきはもうオタク同然の生活をしていたのだ、身だしなみなんてなっちゃいない

「ふぅ・・・え?」

そして顔を上げたときだった、鏡に映った自分を見て言葉を失う

「こ、これが私・・・・」

そこにはもうかつての自分はいなかった、そこにいた自分は髪の毛はボサボサに伸び、目のしたにはクマ
脂で汚れた顔、それは自分が軽蔑していた・・・

「あ、あぁあああああ・・・・」

泉こなたのようなキモいオタク

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

それ以上に醜い自分であった・・・
最終更新:2024年04月24日 19:08