紅の部屋


「え?あの話マジだったの?」

すっかりと日が落ちた夜の学校、そこにはお馴染みのメンバー、こなた、かがみ、つかさ、みゆきの四人であった
それを言うのも午前中に遡る

「ねえ、かがみん、実は今日付き合って欲しいんだけど?」
「何よ?言っとくけどゲマズには行かないんだからね!!」
「もっと面白いところなのだよ、かがみんや・・・」

こなたの話によると、話は戦時中にまで遡る
そもそも陵桜学園というのは戦前の高等女学校を起源とするもので、地元でも評判の令嬢や才女しか入学できなかった。
当時の名簿を見ても有名な小説家の娘や、陸軍大佐の娘などそうそうたるメンバーが揃っている
しかしそんな平和な学園生活は長くは続かなかった・・・
時は折りしも太平洋戦争中、美しき令嬢達は動員され兵器工場で働くことになる。
それが悲劇の始まりであった、春日部は空襲は受けなかったものの米軍の機銃掃射があったらしく
高等女学校の生徒3人が犠牲となり、彼女達の頭部と腹部を弾丸が貫き教室を血で真っ赤に染め上げたという
それはまるで夕日のような・・・
以来その教室は「紅の部屋」と呼ばれるようになり、毎年その日になると血まみれの彼女達が現れるらしい・・・

というわけで今日は肝試しに連れて来られたというわけだ、こなたに臆病者と言われて黙っているわけには行かない


「でもその校舎って解体されたんでしょう?それが事実かどうかわからないじゃない!!」
「そうだよ、今の校舎は関係ないよ!!」
「確かに、眉唾物ですね、どこの学校にもあることです」

口々にかがみ、つかさ、みゆきの三人はこなたに反論する、幽霊なんて冗談じゃない
だがこなたはその三人の話を聞くとすぐに口に笑みを浮かべ・・・

「これは作り話じゃないんだよ・・・」
「は?」
「だって、見たんだよ、私・・・・」

なんだ?さっきまで笑っていたこなたの顔が急に曇る、一体何事か?

「去年、教室で・・・その女の子を・・・・」
「嘘だっ!!」

こなたの話にイライラしたのかつかさは廊下に響くような大声で叫ぶ

「嘘じゃないよ、つかさ!!」
「こなちゃん、作り話もいい加減にしないと怒るよ!!」
「だって、その三年桜組は、今の3年B組の空間にあったんだよ・・・」

一同がシーンとなる、そしてこなた達はいつも自分達がいる3年B組の扉を開く、が

「なぁんだ・・・何も無いじゃない・・・」


そこにあるのは机と教卓、そして黒板と掃除用具入れだけ・・・いつもと変わらない風景

「さ、帰るわよ、馬鹿に付き合って損したわ!!」

ほっとしたのも束の間、かがみはぶち切れこなたに食って掛かる、それをなだめるみゆき

「ちょ、ちょっと待ってよ、かがみ・・・」
「いい加減にしなさいよアンタ!!あれ?」

何か踏んだようだ、かがみはそれを拾い上げる、どうやら古いものらしく誇りにまみれた帳簿らしきもの

「随分古いわね?」
「ええ、昭和二十年度の生徒の名簿のようですね」

「えっと、三年桜組・・・」

写真つきの名簿を凝視するかがみ、だが彼女はそこで息が詰まる、声が震えて上手に発音できない


「み・・・美幸?た、高良美幸!?」

そこにあった名簿には高良美幸と書かれていたのだ、その上眼鏡の少女が写ったモノクロの写真まで
それはまるで・・・

「あ、アンタ・・・・」

後ろにいる・・・・

「ゆ、ゆきちゃん?ま、まさか・・・」

高良みゆきそのもの・・・・

「あ、あははははははははははははははははははははは!!!!!」

突然狂ったかのように笑い声をあげるみゆき、そしてみゆきの頭からは夥しいほどの血が流れる

「きゃあああああああああああああああああっ!!」
「み、みゆきさんっ!?」
「私はもっと生きたかった・・・どうして?なんであなた達は生きていけるの?」
「い、嫌・・・た、助けて・・・・」
「許さないわ!!」

かがみとつかさに襲い掛かるみゆき、それはこの世の物とも思えない恐ろしい表情で
そしてみゆきはまずつかさの首に手をかけ・・・
そこでこなたの意識は途切れた・・・・


それは・・・長い長い夢だった。
事の発端はあの日、そう高良美幸が死んだ日、彼女は同級生の少女を教室に呼び出していた、彼女と話をするためだ
美幸は陸軍大佐の娘であった、それを同級生の少女が日本は戦争に負けると言い出したのが気に食わなかったのだ
父親を侮辱された美幸は彼女の首に手をかけ、それに気がついた少女の姉が助けに入ったその時
B29の爆撃音が彼女達の声をかき消してしまった・・・・

「泉!!泉!!」

突然だった、それは夢の終わりを告げるもの、どうやらこなたは病院に運ばれたらしい

「く・・・・・黒井先生!!」
「気ぃついたか、よかったで・・・」
「か、かがみは?つかさは?どうしたの?」
「は?お前だけしか倒れとらんかったで?」
「そう、ですか・・・」

黒井は軽く微笑むと大きな果物かごをこなたの枕元に置いた

「じゃあ今日はゆっくり休みぃや。ほなお休み!」

ふう・・・黒井が出て行った後妙に落ち着く、一体どういう事だろう?かがみやつかさがいなかった、どういうことだ?


「ん?あ、あれは?」

黒井が持ってきてくれたのだろうか?おそらくこなたの体の横に置かれていたのだろう、昭和20年度の名簿

「ははは・・・まさか・・・」

こなたはサイドテーブルに置かれた名簿に手をかける、そこには・・・

「ひ、柊・・・鏡子、司・・・」

怖かった、怖すぎる、何しろそこには今まで自分が友達として過ごしてきた相手がモノクロ写真の中で微笑んでいるのだ
何も変わらないそのままの姿で・・・・・背筋が凍る思いだった・・・

「あ、あははははははははははははははははははははははははは」

こなたは狂ったような笑い声を延々とあげるしか恐怖を払う方法は無かった・・・

「せ、先生!!た、大変です!!315号室の患者さんが!!さっきからナースコールで!!」
「返事も無いのか?」
「は、はい!!二分前まではナースコールの音がしたのですが・・・・」
「と、とにかく行ってみよう!!」

こなたが入院している315号室にはたくさんの看護婦と医者が集まって来る、そしてドアの鍵が開けられると


「きゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
「い、泉さん!!」
「だ、駄目だ、死んでる、この果物ナイフで頚動脈を切ったのか?」

そこには恐怖に顔を引きつらせ直前まで「何か」に抵抗したであろうこなたの姿、シーツは乱れ
パジャマのボタンは全て外れ、胸ははだけ、こなたの幼児体型の露になっている
おそらくは何かに追い詰められた挙句、自暴自棄になり自らの首を切りつけたのだろう
そっくりだった、三年桜組の光景と、こなたの入院していた315号室はこなたの血によって真っ赤に染め上げられた
まさに・・・・「紅の部屋」であった・・・・


(完)
最終更新:2024年04月23日 21:45