『遺書』



「もう、どうにもならない…」

泉こなたは頭を抱えていた
何に頭を抱えていたかというと、現在の人間関係にである
その顔は既に…精神の臨界点を超えて、とても常識的な判断が出来る様には見えない

柊かがみ 柊つかさ 高良みゆき

三人の親友との交友関係に、自分の友人に対する許容を超えた部分を見出したのだ
こなたはかがみが好きだった、友人としてでは無く一人の女性として好きだった

ふざけてキスをした事もあったし、皆に内緒で二人きりの夜を過ごしたこともある
きっとかがみもこなたの事が好きだったに違いない
勘違いでは無く、本当に好きだったと思う
それはかがみがこなたに対して向ける視線や二人でいる時に繋いだ手から伝わる体温から感じる
温もりが教えてくれるからだ
抱きしめられる度にかがみと遠くに逃げてしまいたいと思うこともあるくらいだ

しかし

つかさも好きだ
つかさとは何度か関係を持った事がある
勿論かがみやみゆきには内緒だったが、かがみが家にいない時に家に招かれ
つかさの方から迫ってきたのだ
家事や料理が得意で、真っ直ぐで、そして…一途な彼女を拒めなかった
こなたも満更ではなく、その関係は今でも続いている
今では彼女の指に触れるだけで、恍惚とした気持ちになる

みゆきさんとも離れたくない
みゆきさんは私に優しくしてくれる
その優しさはかがみやつかさとは違い、全てを包み込むような…
全てを委ねたくなる様な、そんな母性に満ち溢れた優しさだ
彼女の髪に包まれて、間近でその微笑を眺め
あの香りを感じると幸せな気持ちになれるのだ
永遠にみゆきさんに包まれていたいと思ったことが何度もある

三人とも好きなのだ
だから私は四人でいると胸が苦しくなる
だけど皆が好きなのだ

この関係を失いたくない…一体どうしたらいいんだろう?

………

そうだ、四人でいない様にすればいいんじゃないだろうか
どうにかしてそれぞれと二人きりで過ごせる様にすれば…

だめだ上手く行きっこない、絶対無理だ

それならこんな三股みたいな事は辞めてしまって
一人に絞るしかないのだろうか?

無理…三人は私にとって同列なんだから
三人の仲を裂いてしまえば、それぞれを独占できるのかも…
だけどそう上手く行くだろうか?
仲を裂けば、皆と一緒にいる時間なんてなくなるんじゃないだろうか…

普通の人間ならここまで考えれば自分が異常なことをしている
という事に気が付くのだが
泉こなたは違った

この後、とんでもない行動を取る事になる



「おーい、こなた~!朝だぞ~おきなさ~い」
朝一番のそうじろうの日課は『娘にキスをする』事
その次が『ゆーちゃんの顔を見る』事なのだ

まあ、そうじろうが『ゆーちゃんの顔』を毎晩間近で見ている泉家では
こんな事も当たり前である
この親にしてこの娘あり…
心身共によろしくやっている訳である

そんな異常な泉家でも、この朝の異常さは常軌を逸していた

音を立ててドアを開けたそうじろうが目にしたのは
大量の錠剤を口から撒き散らし、失禁して倒れている愛娘の姿だ
自分の首を掻き毟って悶えたのだろう
部屋の中は散乱しきっている

「こなたあああああああああああああ!!!!」

発狂したかの様なそうじろうの声が家中に響き渡り
そうじろうの寝室からシーツを纏った姿で階段を駆け上っってきたゆたかは
気を失いそうになりながらも救急車を手配した

この時、既にこなたの命は途切れていたのだが
それが判明したのは救急隊員が駆けつけたあとの事である

後に聞いた話であるが
救急隊員が小早川家に連絡し、駆けつけたゆいが目にしたのは
救急隊員の制止を振り切って
『こなたの死体を抱きしめ、愛娘の唇をむさぼるそうじろう』の異常な姿と
『ゆたかが何故かシーツ一枚で泉家にいた』事実…
こなたの死後、小早川ゆかたと泉そうじろうの関係が発覚し、大きな問題になったのだが…
これはまた別のお話である


泉こなたの死は瞬く間に学校内の噂になった
「苛められていた」とか「父親の子を妊娠していた」とか
「父親の借金で売られそうになった」とか…

もっとも有力だったのは「薬物中毒説」だった

泉こなたに関して言えば、オタクな上にKYなコスプレ少女…
それが世間の見解なので、こういった噂が広まるのは当然といえば当然であるが

それを快く思わないものも中にはいた

それは柊姉妹と高良みゆきの三人を含み、黒井ななこ、小早川ゆかたの友人達など
文化祭をチアダンスで盛り上げた数人たちである

だが表立って拒否反応を示したのは柊姉妹と高良みゆきの三人だけであった
他の人間達は抗議の声を上げながらも「あの人なら、ありえる」とい考えを持っていたからだ

「皆、こなたが死んだのになんであんな噂を信じれるのよ…」
「そうだよ、こなちゃんはとっても良い娘だったのに…」
「そうですね、泉さんはとても可愛らしい優しい方でしたのに…」

「もう、こなたのあの陽気な笑顔が見れないなんて…」
「こなちゃんと一緒にいたらホッとしてたのにな…」
「泉さんのあの明るい声が忘れられません…」

三者三様の回想を浮かべながらも
『お前達二人とは関係の深さが違うのよ』という思いが浮き沈みする空気が漂う

数日後、そんな三人宛てに泉こなたからの封書が届く



まず、柊かがみに届いたのは青い色の封筒に入った手紙

中には遺書と書かれた紙が入っていた

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大好きなかがみんへ

これをかがみんが読む頃には私はこの世にいません

私はかがみんと会えて幸せだったよ
だけど、つかさとみゆきさんとの関係を保ちながら
かがみんと一緒にいる事は出来ないの

かがみんと私が一緒になれるならどんなに幸せかと思うけど
きっとつかさとみゆきさんが許さない

こんな辛い思いをするくらいなら私は生きていたくありません

一緒に見た夜景 綺麗だったね

一緒に過ごした夜 抱きしめてくれて有難う

私は来世で男に生まれ変わってかがみんと結ばれたい

また会おうね             大好きだよ かがみん

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「こなた…なんで死んだのよ……」

この手紙を読んだかがみはこう思った

つかさとみゆきがいたからこなたは死んだのだ…と

明らかな誤解であるのだが、これはこなたの計算による誤解だ

「こなちゃんは…お姉ちゃんとゆきちゃんのせいで死んだんだね…」

「…あの二人は私が許しません…」

つかさとみゆきにもそれぞれ同じ内容の手紙が送られており

それは名前の部分と思い出の場所などを書き換えた遺書である

たった一枚の紙切れから三人は友人ではなく敵同士になった

かくして三人の心中はこなたの思惑通りに

「「「どうやったらこなたの敵がとれるだろうか」」」

という気持ちに支配された


あくる日の朝、異常な日常が始まりの合図を鳴らす

「おはよう、お姉ちゃん…」

かがみが目覚めると
いつもは眠っているはずのつかさが自分のベットの横で佇んでいた
妹が「チ…」と舌打ちをしたのは、きっと勘違いではないだろう

『人殺し…、こなたの敵は絶対討つからね…』
と心の中で呟きながらも

「なによ、つかさ…珍しく早いじゃないの?」

とその場を笑顔でとり繕う

「う、うん…早く起きたからお姉ちゃんを起こそうかと思って…」
「そ、ありがと…じゃあご飯食べに下に降りよっか」

「うん、そうだね」

つかさは部屋を出るかがみを見送ると
かがみの部屋に飾ってあったこなたの写真をポケットに入れて
背中に隠し持ったカッターナイフとこなたの写真を自分の部屋に隠してから
家族が待つ食卓へ向かった

『運のいいお姉ちゃん…』


「「いってきまーす」」

家を出る姉妹
いつもなら明るい話題に花を咲かせるのだが、今日は一切の会話がない
お互いから目を離さない様に監視しているのだろう
だが、年頃の女子高生である二人は「可憐に歩く花」くらいにしか映らない

暫く道を真っ直ぐ歩いた辺りで、かがみが突然立ち止まった

「?」

つかさはかがみから目を離さないように歩いていた為にその静止が気になる
つかさが一歩踏み出した瞬間に周囲の声が沸いた

「危ない!!」
「きゃあああああああ!!!」

キキキキーーーーーー!!ガシャーン!!!

気が付けばそこは、いつもかがみがつかさの手を引く横断歩道
つかさはこの横断歩道で何度か轢かれ掛けた事があるのだが
その度にかがみが助けていた

紅い鮮血で染まる横断歩道
目の前には電柱に衝突した車がヒシャげており
運転手が投げ出された衝撃で散らばったガラスが散乱している

「ああ…あ…あああ…あ」
つかさはガタガタと震えながら顔を真赤に染め上げた男性の隣に座り込んでいた
一変した朝の空気、運転手や乗車していた人間の安否を気遣う人間達の中
かがみだけは歩道に佇んで、つかさの無様な姿を見下ろしていた
『失敗…か』

つかさはそのかがみの視線を見て悟った
『お姉ちゃん…私を殺す気だ…』

つかさは近くの公園で、あまりの恐怖によって汚してしまった下着を
コンビニで買ったものと取り替える
外で待つかがみを警戒しながら小便で汚れた下着を洗い、ビニール袋に入れた
この下着はこなたとお揃いで買った大事な下着だ…捨てる訳には行かない

殺気に満ち溢れた通学路で、お互いの謀略をかわしながら付いた駅のホーム
いつもの春日部駅の階段を下りようとした時に二人の背中に衝撃が走った

「お二人ともおはようございます!!」

「きゃあ!!」
「あわわわ!!」

ドン!という音と共に階段を半歩ほど踏み外した二人はなんとか着地
後ろを見ると爽やかな笑顔のみゆきが立っていた

「どうしたんですか?そんな大きなお声を出されて…」

「あ…あんた何考えてんの!?」
「はあ…はあ…はあ…」

抗議の声を上げるかがみ、必死に鼓動を抑えるつかさに対して
みゆきが発した言葉は

「ただ挨拶しただけじゃありませんか?変なお二人ですね…」

と笑顔を絶やさなかった
一見穏やかな笑みではあるのだが心の中では
『もう少しでしたのに…』と舌打ちをしているのだ
二人は察した…

『みゆきは私達を殺す気だ…』
『ゆきちゃんは口封じするつもりなんだね』

だったら…本気で行くしかない…

三人の間の空気は旋律を奏でるのだが…
周囲から見てみればただの微笑ましい風景である
可憐な女子高生が朝の挨拶を交わす風景…
あわよくばあの中に混ざりたいおじさんと
あんな頃が私にもあったのよ、というおばさんに囲まれて
三人はお互いを監視しながら学校に向かった




無言の三人がどこを歩くにしても横一列にを崩さす
お互いに目を合わせないが、互いの一挙一投足を監視する

この一日、三人は『どうやったら敵を討てるか』という事と
『二人の口封じで殺される』という脅威から逃れる為にあらゆる方法を試みた

かがみは二人の後ろに回るように動き、道路や線路、階段などで
事故に見立てて二人を消す様に行動したが
敵もなかなか隙を見せない

一度だけ、みゆきが隙を見せたときに階段の一番上から突き落としたのだが
みゆきはとっさに受身をとって軽い打撲で済んでいた
みゆきは『甘いですね』と目で語りながらも
「あらあら、怖いですねぇ…」と行って何食わぬ顔で笑っていた



つかさは用意してきた劇薬入りのクッキーや家庭菜園の農薬入りの弁当を二人に渡したが
二人は口を付けなかった

帰りがけにかがみが犬にあげて見たのだが、犬は一時悶えたあとで
もの凄い形相で息を引き取った
一緒にいたみゆきと自分を見るつかさは「エヘヘ☆どうしたんだろうね」
と笑って頭を掻くに止まる



みゆきは懐に忍ばせた徹夜で作ったサイレンサー付きのコンクリートにメリ込む鉛玉使用の改造銃と
極めて猛毒性の高い薬品を塗った針を仕込んだシャープペンで二人を狙ったが
やはり隙を突くことは難しかった

何度か二人に向かって銃を撃てたのだが、急ごしらえな上に命中精度も低かった為に
二人の顔をかすめて校庭の木に深さ3センチほどの銃創を作って終わった
遠距離からの攻撃だったにせよ、二人はみゆきの仕業だという事は百も承知だった
シャープペンも刺せる程近距離に立つのは難しい


『こう人が多いと相手を消すのも難しい、もっと手際よく簡単にやらなければ』

三人の考えることは常に同じであり
お互いに気が抜けない日々が続く

三人が読む本や、観覧するネットも変化を見せた
武器の作り方、薬品の知識など…
息をも飲んでしまうような内容のものばかりである

かがみは武器の刃物の使い方を覚え、毎朝走り込む
つかさは薬品を塗りこんだ針を作り、家族に内緒で吹き矢の道場に通い始めた
みゆきはエアガンの改造に熱を上げ、射撃の腕を磨いた

方法は違えど確実に相手を仕留める為にそれぞれは三ヶ月間努力に励んだ

そして決戦を控えた三人は、極めて明るく振る舞い
『お互い、卒業前の思い出に旅行でもしないか?』という話に行き着く

場所は埼玉の外れに有るキャンプ場でコテージを借りて一晩中遊ぼう
という事になった
費用はみゆきが母親に頼んで全額負担するという
まあ、恋人の敵を討てるので有れば安いものである

移動は電車とバスを乗り継いで行うのだが、それでは余りにも時間がかかる
そこで、つかさは黒井ななこに声を掛ける事にした

つかさとななこの会話はこうだ…

「こなちゃんが死んだのはきっとお姉ちゃんとゆきちゃんのせいなんです」
「なんやて!?そりゃほんまか?」

「しー…先生、声が大きいです…」
「…すまん…」

「だから二人を問いただす為に○○キャンプ場に行って話を聞こうと思うんです」
「なんで、んな事をウチに話すんや?」

「きっと、この機会を逃したらこなちゃんの敵が討てないから…先生助けてください!」
「…そっか…柊は泉と仲良かったもんなぁ…よっしゃ!センセがひと肌ぬいだる!」

「先生!ありがとう、先生!!」
「ええて、ただし…条件があるでぇ…」

黒井ななこの条件とは…つかさが察していた通りのものだった
ななこが昔から自分に向けていた視線をつかさは知っていたのだ
それは性的な視線
つかさの体に対しての欲求である

つかさは産まれて初めて他人を利用した…
これでつかさの戦力が増えた事になるのだが、
かがみとみゆきはこの事を知らない

三人の決死の意を込めたイベント当日…
黒井ななこの車に乗った柊姉妹が高良邸を訪れる

後部座席に腰掛けたかがみとみゆきはお互いに顔を見合わせて
『どういうつもりだ』と言わんばかりだが
つかさはそんな二人を冷ややかな目で見ている

空気の盛り立て役はななこである

なるべく穏便に…そして何も無いように振舞うのが
ベットの中でつかさと交わした約束である

『ただの馬鹿だと思ってたのに…やるわね、つかさ…』
『かがみさんにばかり気を取られていました…油断しましたね…』

二人はつかさの予想外の行動に不安を隠しきれないでいたが
つかさだななこを抱きこんでいるという発想にはたどり着かなかった

どうせ足にする程度で、それ以上はつかさに義理立てする事もないのだ
ななこの性癖に気が付かない二人はそう思っていたし
道中の会話も三人が楽しめるよ様に気を遣っている様に見えたからである

数回の休憩で食べたソフトクリーム
昼食にとったラーメン

お互いに『今のウチにしっかり味わえ』と言わんばかりにお互い目配せをする

結局、つかさの目論見通りにななこの監視下に置かれた二人は大人しくせざるを得ず
一行は目的のキャンプ場に到着した

時刻は既に夜の7時である
運転で疲れたななこは買ってきたコンビニ弁当と飲み物をコテージのテーブルに広げて
ビールを飲みまくって一人、二回の寝室に入っていった

残された三人はななこが寝静まったのを見計らってお互いを警戒し、距離を取った





離れた瞬間改造銃を抜いたのはみゆき…

「二人とも…動かないで下さい…」

「く…」
「あう…」

壁を背にしたみゆきは両手に持った改造銃を一丁ずつ二人に向ける
一見テニスのラケットが入っていただけの鞄に見えたのだが、中身はオートマの電動エアガンである

「FA-MASF2ショーティ…通称ファマスです…企画が古いので手に入れるのは苦労しましたが殺傷能力は抜群ですよ?」

「…」
「…」

二人は動けないでいた

「フランス製のアサルトライフルのエアガンにサイレンサーを着けた優れものです」

その時かがみが半歩足を踏み出した

ガガガガガ!!

静かな音を立ててコテージの木造の柱に鉛球がのめり込む

「いい!?」
「はわわ!!?」

みゆきは二人をいっぺつして「動かないほうが良いですよ?」と笑って見せた
射程距離内にいる獲物が二人…
みゆきは二人の動きに気をつけて、言葉を発する

「さあ、話してもらいましょうか…泉さんを自殺に追い込んだ理由を…」

みゆきの言葉に二人の眼光が鋭く光る
先に口を開いたのはかがみだった

「あんた何言ってるの?正気!?あんたらが殺したんでしょうが!!」

続いてつかさがそれに続く

「二人がそんなだから私のこなちゃんが死んじゃったんじゃない!?」

それぞれ言っている事は支離滅裂なのだが、誰もその事に気が付かないのだから堪らない
つかさに対してみゆきが何かを言おうとしたその時である
かがみが咄嗟にしゃがみ込むと全力でみゆきに向かって駆け出す
みゆきは慌てて発砲するが、かがみが投げつけて来た木製の椅子によって弾道は阻まれた
三ヶ月走りこんだかがみの脚力は銃を持ち上げるみゆきの腕力と同等に鍛えられていた

かがみはポーチからサバイバルナイフを抜き取り、切っ先をみゆきの喉に突きつけるが
みゆきも銃口をかがみに向けて笑った
反対の銃は相変わらずつかさに向けられているが
つかさは吹き矢をみゆきに向けていた

暫くの沈黙が続き 数十秒が経った頃

ドサ…

「え…?」

唐突に倒れたのはみゆきである
良く見てみると小さな羽の様なものがみゆきの喉から生えていた
みゆきの目は白目向き、口からは泡を吹いていた
床に伏した少女はその内ガタガタと痙攣を始め失禁する

「吹き矢…」

三ヶ月…
つかさは肺活量を鍛える為にあらゆる努力したのだ
部屋では吹き矢の練習に明け暮れ
道場でも信じられない程の進歩を見せていた
通常数十センチに及ぶ吹き矢の筒も数センチに切られており持ち運びが簡単にしてあるが
命中率は極めて低くなり威力も劣る
その中でこれだけの殺傷能力を見せたつかさの吹き矢はまさに神業と言えよう
そして、みゆきのこの状態は使用した毒薬の強力さを物語る

だが、その射程内に佇むだけのかがみではない
かがみは鍛えぬいた足でつかさとの距離を一気に縮めるとサバイバルナイフをつかさに向けて振り被った

「いやあ!お姉ちゃん!!」
「!?」

ナイフがつかさの首に突き立てられる瞬間、かがみはその手を止める
涙で濡れたつかさの瞳が自分を見るのだ
たった一人の双子の妹であるつかさ…

『本当に私はつかさを殺すの…?』

かがみは自分のしている行動にはじめて疑問を抱いた…のだが…
次の瞬間かがみは、自分の体が何かに貫かれる音と共に景色が傾くのが解った

「あ…れ…?」

ドサ…

必死に体を起こそうとしてみるが、体が思うように動かない
声を出そうにも、喉をやられた様で喋ることもままならかった
かがみの視線の先には、銃口をこちらに向けたまま息絶えたみゆきの姿が有った

「…お姉ちゃん…ひっく…油断しちゃ…駄目じゃない…えぐ…」

涙を両手で拭うつかさがかがみの手をそっと握る
かがみはゴホゴホと咳き込んだ後、ニッコリと笑って見せた
気道は貫通しているが、喉さえ詰まらなければ命は助かる

『きっと、つかさが助け…』

そう思った時、手の辺りにチクリと痛みが走るのを感じた
そこには羽の様な…吹き矢の針…

「私と…ひっく…こなちゃんの…為に…ぐす…死んでね…」

ナイフでつかさを刺そうとしたが、既に体は動かない
お尻の辺りが水で濡れる感じがした、おそらく体中の筋肉が弛緩し始めた為、失禁したのだろう
あとはみゆきを見ていた通りだ、だんだん意識も遠くなり
つかさの声も聞こえなくなった

……

二人の敵を討ったつかさは暫く天井を見上げて泣きじゃくった
こなたの敵とは言え親友と実の姉を殺したのだ
感情の波が大きいつかさにとって、これほどショックな事も無い

せめてかがみの開かれた目を閉じようと立ち上がった時
有る物が目に留まる
それはかがみのポーチの中に有った青い封筒…

切手や宛名の文字に見覚えが有るソレは
あざ笑うかの様にしてつかさの瞳に突き刺さる

「…」

どうしてもそれが気になったつかさはその封筒を手に取る
差出人の名前は『泉こなた』

「こなちゃん…?」

つかさはその封筒に入っていた一枚の紙切れを読んで驚愕する

「そんな!…え…なんで!?いやあ!いやいやいや…」

その紙を投げ捨てると今度はみゆきの荷物をあさり出す
………有った、見慣れた文字にピンクの封筒…
差出人は『泉こなた』
そしてその手紙の内容を見るや否やつかさは頭を抱えて泣き喚いた

「そんなああ!!酷いよこなちゃん!!!なんでえええ!!!」

その手紙に書かれた内容は余りにも残酷で
生き残ったつかさにだけのし掛かった最悪の終劇である

「お姉ちゃん!!ゆきちゃん!!起きて…起きてよおお!!」

こんな事しておきる筈が無い
猛毒によって壮絶な死を遂げた姉と友人…
その原因は自分であるのだ

しかも、最悪の内容で…である

つかさが憔悴しきっていると階段のほうから声が聞こえた

「まぁた…派手にやったなあ…ええ?」

寝室に居るはずの黒井ななこである
ななこは皮性の手袋とはめると、こなたが三人に宛てた手紙を回収して
ガスコンロで焼いた

「…先生…なんで……」
「なんでも何もあるかいな?後始末や…」

ななこはそう言ってかがみの持っていたサバイバルナイフを手に取ると
つかさに向ける

「ウチの恋人を殺した罰や…しっかり償い…」
「ひうう!!!?」


……


あるキャンプ場のコテージで三人の少女が殺し合いを演じた上
三人全員が死亡
同伴した教師の連絡を受け、すぐさま駆けつけた警察が目にしたのは
狂気に舞った殺戮劇の現場であった
同伴した教師の目の届かない所での犯行だった為
教師の責任は問われなかったという






数日後に泉こなたが自殺した黒井ななこに宛てた手紙が発見された

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愛するななこさんへ

私はかがみやつかさ、みゆきさんの性的な苛めにもう耐えられません

ななこさんと一緒にいられた今まで、本当に楽しかったよ

沢山愛してくれてありがとう

生まれ変わったら、また二人で思い出を作ろうね

最後にお願いがあります

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その手紙には黒井ななこへの『敵を打って欲しい』という内容と
今回の計画が書かれてあり
最後に『大好きなななこさんへ  泉こなたより』
としたためられていた……
最終更新:2025年02月24日 10:48