一人ぼっち

by 福岡県

ガラガラ・・・

教室のドアを開ける。何も起こらなかった。そこで私は少しほっとした。
いつもなら石入りの黒板消しや、たっぷり水が入ったバケツなどがドアの上に仕掛けられているが、今日はそれがなかった。
私をいつもいじめているみんなも少しは悪いと思ってくれたのかな?

なんて考えて、無防備に教室に足を踏み入れたのが間違いだった。

ぐいっ!

突如、足に何かワイヤーのような物が引っかかった。

転んで倒れゆく私の先にあったのは、たらいいっぱいに入れられた黒い液体。
顔を真っ黒に染めた私は、独特の香りからそれが墨汁であると気づく。

ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!

教室いっぱいに、無機質な笑い声が響いた。
また最悪な一日が始まった。
私にとってこの笑い声は、もはや一日の始まりの合図と化している。そして、このあとのやりとりも、お決まりとなっていた。

こなた「いやー、また一本とられちゃったヨ。さすがだね、みんな。あははは・・・」
つかさ「きもいよーこなちゃん。ひとりで墨汁ぶちまけて何がしたいの?ww」
こなた「えっと・・・(≡w≡;)」


みゆき「きっと泉さんは色も真っ黒にして、完全なゴキブリを目指しているんじゃないでしょうか?ww」
つかさ「確かにそれはあるかもね~。でなきゃ、こんなあからさまな罠に引っかかるわけないもん。ね?こ・な・ちゃん?クスクス・・・」
こなた「・・・そ、そだね・・・あはは・・・」
みゆき「何笑っているんですか?きもいんだよゴキブリが・・・」
つかさ「どうやらこなちゃんはいじめてあげたら嬉しくなるみたいだね~。みんな、もっといってあげようよ~www」
男子A「泉おまえきもいんだよwwwwwはやく死んでくれよww」
男子B「コスプレ喫茶でバイトしてんだろ?wやっぱりゴキブリのコスプレか?wwきめぇwwwwwwwwwww」
女子A「あんた臭いなーって思ってたらゴキブリだったのねwwwwどうりでwwww」
「もう頼むから早く死ねよ」「オタクきもいんだよ」「お前生きてる意味ねーだろ」「ゴキア○スジェットで駆除してやろうか?www」

今は耐えるしかない・・・そうずっと自分に言い聞かせてきたけど、もう私ダメみたいだよ・・・かがみん・・・

こなた「ぐす・・・ひっく・・・」
つかさ「あーあ泣ーいちゃったぁ~」


みゆき「クスクス・・・それじゃあ今日はこの辺にしときましょうか。HRも近いですし」
つかさ「こなちゃん自分で散らかしたんだからちゃんと片づけないとだめだよ~ww」

ゾロゾロ・・・

みんなが何事もなかったように自分の席にもどる。私は泣きながら、雑巾で墨汁を拭き取る。

だめだ・・・絶対に泣かないって昨日かがみと約束したのに・・・かがみん・・・早く休み時間に会いにいきたいな・・・

ようやく、至福の休み時間が訪れた。私はとにかくかがみの顔が見たかった。彼女の笑顔をみれば救われると思って、真っ先にかがみのいるところへ・・・

ドンっ!

かがみ「あいたたた・・・ってこなたじゃない!どうしたの?」
こなた「か、かがみん・・・うええぇぇぇぇん・・・ひっく・・・ぐず・・・」
かがみ「こなた・・・もしかして、またつかさたちにひどいことされたの?」
こなた「ひっく・・・うん・・・ぐす・・・もう泣かないって・・・ひっく・・・決めたのに・・・」
かがみ「こなた・・・」

ぎゅっ・・・。

こなた「えっ?」
かがみ「ごめんね、こなた・・・今は抱きしめてあげることぐらいしかできないなんて・・・」


また涙が出てきてしまった。今度のは悲しみや悔しさからじゃない。
紛れもない、うれしさからだった。私はなんて幸せな人間なんだろう、と思ったほどだ。

こなた「ぐす・・・わたし・・・ほんとうにかがみんとともだちで・・・ひっく・・・ほんとうによかったよ・・・」
かがみ「くすっ 本当にこなたは大げさね。でも・・・嬉しいな・・・///」
こなた「・・・ありがとう、かがみん・・・かがみんのおかげで私・・・」
かがみ「こなたは偉いね・・・立派だと思うよ。でもね、本当にもうだめだって思ったら、私を頼るのよ!一人で抱え込んだら許さないんだからね!」
こなた「かがみん・・・ありがとう」

かがみん・・・私はあなたと友達ってことを全世界に誇りたいよ。かがみんは本当に優しい。つかさとみゆきさんだって、ちょっと前まではあんなに優しかったんだ。きっと仲直りして、また四人で一緒にお昼ご飯食べれるよね・・・

そういえば朝からトイレに行ってなかったけ。

トイレに向かうと、かがみが手を洗っていた。それに、何かぶつぶつ言っている。


私はあとで思ったんだ。

「聞かなきゃよかった」って。


かがみ「あーーーっもうっ!!!!汚らわしいっっ!!!!!ホントゴキブリって気持ち悪いわっっ!!
石鹸つけまくらないと!あんなゴキブリとぶつかったってだけで身の毛がよだつわ!!
あーーもうどうしよおぉおぉぉ!いくらつかさの命令だからってゴキブリに抱きついちゃうなんて!!
こないだ制服クリーニングに出したばっかなのに!!また出さないといけないじゃないの!!!
これも全部あのゴキブリのせい・・・あーーもう早く死ねばいいのに早く死ねばいいのにぃぃぃぃ!
汚らわしいったらありゃしないわ!!!!」



かがみん・・・さっき"もうダメだ"って思ったら頼っていいって言ったよね・・・?
わたしもう早速だめかもね あはは
わたしだめになっちゃったよ?だからわたしかがみんを頼っていいんだよね?

かがみのせいでだめになったのに!?

もう・・・わけわかんないよぉ・・・結局わたしはひとりぼっちなの・・・?
ぐす・・・ひっく・・・うぅ・・・


いまやっと分かったよ みんな・・・

こんな顔で、こんな体で、こんな性格ならいじめられて当然だよね・・・



それなら、私は、もうここにはいないほうがいい


エピローグ

桜陵学園 3年B組 泉こなた(享年18歳)


泉家に在住の泉こなたさんのいとこ小早川ゆたかさんから、「隣の部屋から妙な臭いがする」との通報があり
警察が駆けつけたところ、泉こなたさんの腐乱体を発見した。
遺体の右手首に切り裂いたような傷があること、部屋は密室だったことから、自殺の線が強いとみられる。
他殺の可能性としては、父のそうじろう氏の線が強いが、証拠がないので自殺の可能性が高い。
遺体はかなり腐食が進んでおり、死後一ヶ月は経過している模様。
これについて父のそうじろう氏は「娘がいないことに気づかなかった」とのこと。
小早川さんも似たようなコメントを残し、事件の謎は深まるばかりである。


糸冬

眠くて文がおかしいのは気にするな
最終更新:2022年04月16日 13:26