泣いた表情と冷たい言葉

by 兵庫県

「こなちゃん、もう話しかけないでくれるかな?」

最初は、つかさのその一言だった。
表情も笑ってはいるけれど、どこか虚ろな所があっていつもの明るい顔ではない。

「そうですね、私もご遠慮願います」

つかさのその一言につられるように、みゆきも同じような事を言ってきた。

「え…? ご、ごめんもう一回言ってくれる…?」

こなたは訳がわからず思わず聞き返してしまう。
しかし、聞き返さなければよかったとこなたは後悔した。
その言葉の真実があまりに残酷だったから。

「…だからね、もう私たちに話しかけないでほしいの。もう、こなちゃんと友達でいたくないんだ」
「泉さんのせいで私たちまで趣味が偏っていると思われたら迷惑ですし」
「もう十分でしょ?いこ、ゆきちゃん。 またね、こなちゃん」
「えぇ。 ではまたの機会を」

つかさとみゆきは形だけの挨拶をしてその場を去る。
――またね、なんてもう話しかけないでって言われたのに、なんでだろう。
こなたはただその場で立ち尽くしていた。
だが、その後こなたは「またね」の意味を嫌が応にも知ることになる。

その次の日からだっただろうか、こなたに対しての陰湿な行為が始まったのは。
こなたが話しかけても無視するのは当然のことで、日に日にその陰湿な行為はエスカレートしていった。
多いのは、パシリ。 
最初は購買のパンを買ってきてだとか、まだ可愛い物でそのパン代なども、普通に向こう持ちでまだ常識の範疇だった。
しかし買ってくるものがだんだん面倒なものになって、費用がこなた持ちになって…とひどくなっていった。
ついにはこなたの所持金は尽き、ゲームや漫画を売って細々と耐えるしかなかった。

そんないじめが続いたある日の事。
泉家に一本の電話が入った。

もしもし、柊と申しますがこなちゃんいらっしゃいますか?』
「あ……つかさ…」
『今からこなちゃん家に遊びに行ってもいいかな?』

いいかな?とは聞いているがこれは決定事項で断っても無理矢理来るに違いない。
こなたにはそれがわかっているのでもう、断ったりはしない。

「…うん、いいよ」
『本当!?じゃあゆきちゃんと一緒に行くね~』

そこで電話はぶち、と切れた。

――あぁ、つかさとみゆきさん家に来るのか…今日は何されるのかな……

「お姉ちゃん、今の電話誰だったのー?」
「ん?…あぁ、つかさからだよ。今からみゆきさんと家に来るんだって、ゆーちゃんは部屋にいてね?」
「え?うん…お姉ちゃんたちは仲いいんだね?」
「ん…まぁね、あははは」

ゆたかやかがみもこなたへの虐めには気づかず、
お姉ちゃんたちは仲がいいね、ホントあんたたち仲いいわね、その言葉をかけるだけだった。
虐めを感づかれないようにわざと明るく振舞っていたし、つかさとみゆきもそうしていた。
虐めとそれのとりつくろいでこなたの神経はもうぼろぼろだった。

――誰か、わたしの話を聞いてくれる人、いないのかな?
  あははっ、そんな人いないか…かがみやゆーちゃんに言ったら…駄目だ駄目だ、心配して何かするに決まってる
  ゆーちゃんなんてショックで寝込んじゃいそう…あの2人には黙ってなきゃ…

そんなことを考えていると、ピンポーンという、少し間抜けな電子音が鳴り響いた。

「はーい、2人ともいらっしゃーい」
「こんにちはーこなちゃん」
「お邪魔します」

こなたの声は明るかったものの、顔はその声とはつりあわないような暗い顔をしている。
つかさとみゆきは笑顔であるものの、裏に何か隠しているような純粋なそれとはいえないものだった。

「2人とも、コーラでいいかな」
「あ、私アンバサがいいな」
「私もつかささんと同じもので」

――どうしよう。アンバサなんてないよ…しかもアンバサ売ってる店少ないんだよね……

「ご、ごめんアンバサはなくて…」
「アンバサが飲みたいな」
「だからない…」
「アンバサが飲みたいな」
「…………」

ふっと、こなたがうつむく。こころなしか、ちいさく体がかたかたと震えている。
つかさは少し不審に思ったが大して気にせず、こなたの肩に手を置いて、

「こなちゃん。アンバサ、買ってきてくれるよね…?」

そのとき、こなたの中で何かが切れたような気がした。ちいさく、ぷちっと。
それが起爆の合図かのように、次々に今までされたことを思い出してぷつん、ぷつんと何かが切れていく。

「……で………」
「こなちゃん?」

大きくブチっと…太い縄のようなものの切れる音が胸の中でして、その音を皮切りにこなたはテーブルを思い切り叩いた。
当然、テーブルを思い切り叩いたから大きな音もして、つかさとみゆきはその大きな音に驚いて身体を強張らせる。
テーブルを叩いた衝撃で手が痛むが、そんな些細なことは今のこなたには関係ない。



最終更新:2022年04月17日 12:09