ゲー無とネタゲーの頂上決戦。それが2012年のKOTYeの最終局面だった。
アーベル・seal・スワンアイと次々と世代交代が進む中、挑戦者は王者となり、また新しい挑戦者を迎え撃つ。
それに即してスレとクソゲーの在り方もまた変遷していくという流転する時代、2013年のKOTYeはその真っ只中で始まった。
そしてその流れは住人達に休息を許さない。
当時のスレはまだ総評審議の真っ最中、後に大賞となる『SEX戦争』で熾烈な争いをしていたスワンアイが
『リア充爆発しろ! ~変身能力手に入れたんだけど質問ある?~』で新年早々先陣を切ってきたのである。
本作はコミュ障の主人公が変身能力を手に入れ、リア充への逆恨みからヒロイン達を寝取っていくという抜きゲーである。
バカ設定は前作『SEX戦争』と同様だが、それらの説明が一切無かった前作に対し
今回はちゃんと「ブログで変身エステを紹介されて変身能力を手に入れた」という事を11クリックで説明してくれる。
……ここまで開き直られるといっそ清々しくはあるが、それで納得しろと言われても無理がある。
シナリオも酷いもので、主人公を見下しているヒロインの彼氏に変身して処女を奪ったら
「私の初めてを奪ったんだから責任とってよね」と唐突にデれ、元カレに「私の彼になる人は体だけ求めたりしないの!」と言い放つ。
どう見てもちんこに負けただけとしか思えないのだが。
また、別のヒロインを教室で辱めたら男子生徒達に輪姦される…と思いきや、
先生に見つかって廊下でオナっとれという展開になり、挙句女生徒達はオカズになって和気藹々と射精大会となる。
念のために言っておくが、今作は普通の学園なのにこれである。
個別ルートも「リア充撲滅計画は進められた」と言った1クリック後には本番に突入し、
20クリック程度のHシーンをわんこそばの如く連続で見せられる。
EDも一切のオチはなく、リア充撲滅計画については一言も語られないという投げやりっぷりは流石といったところか。
肝心のHシーンも先述の通りひとつひとつが非常に短いにも関わらず、その大半が使い回しにしか見えない。
ライターのお気に入りなのか「ずっぷ!ずっぷ!ずっぷ!ずっぷ!」「ああ……もう出そう」というテキストが非常に多く、
Hシーンの構成は大体喘ぎ声5:主人公のセリフ2:地の分2:ずっぷ1。
これで抜けと言われてもどうしろというのだろうか。
これらに加えて「セフレをとっかえひっかえしている真性ビッチがなぜか処女」という処女厨への余計な配慮、
処女から「処女を奪った責任を取って」と迫られるといったフラグ破綻等も『SEX戦争』から健在である。
この通り全方面において低クオリティ少ボリュームを維持しつつ、問題点を改善するどころか更に磨き上げてきた本作は
年明け早々から住人達のハートを鷲掴みにした。
「ずっぷ!ずっぷ!」「ああ……もう出そう」といった使い勝手の良い名言のインパクトと相まって、
本作はウォール・スワンとでも呼ぶべき巨大な壁として後続達の前に立ち塞がった。
奇しくも2013年は前年と同じく「前年王者が最強の門番として立ちはだかる」という展開となり、
修羅場ゲーのはずなのに修羅場らず「ある意味プレイヤーが翻弄された5人目なのかもしれない」と言わしめた『モテすぎて修羅場なオレ』、
同級生ルートの出来が極端に悪く、それが「ディレクターが書いた内容を勝手にライター名義で発表していた」というyatagarasuの『星彩のレゾナンス』
等を返り討ちにしていく。
だがそこで一昨年の覇者ソフトハウスsealが黙っているはずもなく、『エルフと淫辱の森』で王位を簒奪せんと挑んでいった。
本作は2012年において最後まで大賞を争った『くのいち』と同様のFLASHによる横スクロールアクションである。
『くのいち』はゲーム性とエロの両面での無価値が問題視され、流石に『エルフ』では改善しようとした跡は見えるが、駄目な子はやはり駄目だった。
まずゲームバランスを崩壊させていたジャンプ中完全無敵は廃止されたが、今回は攻撃の薄さの割に無敵時間がやたらと長く
ボスでも無敵中に余裕でボコれるため達成感のカケラも無いという点では相変わらずである。
ミニアニメも任意射精はできるようになったが、着衣エロが廃止されたためエルフものの魅力が殺されており
また手前側に背景が追加されたせいで時々エロアニメが完全に隠れてしまったりと、せっかくの修正が本末転倒なことになってしまった。
流石に通常のHシーンはあるので『くのいち』程商品として致命的ではないが、反省はした事を全く活かせておらず
三歩進んで二歩下がるsealはやはりクソゲー界の一番星だなぁということを再認識させた。
しかし、僅かなれど内容を改善してきた『エルフ』では更なる退化を遂げた『ずっぷ』を止められるはずもなく、
TPSとしての下地はありながら、バルーン風船じみた関節や服も人体も貫通するポリゴン、脱ぎきる前に体力が尽きる脱衣システム等
細かいクソ要素がうず高く積み上がることで昨今貴重な笑えて遊べるクソゲーとなっているFULLTIMEの『UNDEROID』
前半は延々と続く観光案内、後半は無駄に読み難い駆け足超展開で「とりあえず殺しあってどちらかが生き残って死にました」以上の事が伝わらず、
「人の死を取り扱う事の大切さを教えてくれる」と皮肉られたLassの『少女神域∽少女天獄』共々蹴散らされていった。
そしてスレにも夏が来る。前作『ひよこストライク!』でそれなりに高評価を得たはずのEx-itが、『逃避行GAME』で『ずっぷ』に追い縋っていった。
本作はソフマップの特典ディスクにバグがあったという珍しい理由で延期しているが、事もあろうにその特典ディスクがプレイ不可である。
「特典のために延期したのにそれがただのフリスビー」というのはかなり悪質と言わざるを得ず、、解決に二ヶ月もかかっている。
本編のバグも多く、例えば初期verでは前作では普通にあったはずの各種鑑賞モードが実装されていない。
進行中は背景の暗転やボイスの設定ミスが多く、一部ルートに入れないという深刻なバグもあり、未完成と言われても否定できない代物である。
だが、このバグはひとつの奇跡を生んだ。初期verは「名前が???のキャラの音声が『イラッシャイマセー』という女性ボイスになる」というバグがあるが、
組織の暗殺者が襲撃してくるというシーンにおいて、
自宅のドアを破って侵入してきた身長2m強のむくつけき大男が、 ___
銃を向けるヒロインと相対しながら、 |・∀・ |_ イラッシャイマセ-
場違いな営業ボイスで『イラッシャイマセー』と延々と連呼するという、 ノ|___| ヽ
KOTYe史上最高にシュールな寸劇が出来上がってしまった。 / └
「互いに互いの言葉を押し付けているだけ。これは会話ではなかった」という地の文もハマりすぎており、
当時のスレが爆笑の渦に包まれたことは言うまでもない。
生憎とこのバグはパッチで修正されてしまい、その他のバグも順次解決されてはいる。
また、肝心のシナリオは尺の短さや伏線の投げっぱなしが目立つものの、
メーカー代表が全て執筆したというノルムルートだけは明らかに出来が良かったため、大賞争いからは一歩後退した。
だがこのシーンは『イラッシャイマセー』のセリフと共に住人達の心に強く刻み込まれ、2013年を代表するシーンとして語り草となり
スレのお客様に対するおもてなしとしてAAと共に定着した。
『イラッシャイマセー』がその名の通り熱い夏を招いたか。
アニメ以外の全てが古臭い手抜き仕様で、個別ルートでは売春だ発狂だ新興宗教だと不意鬱してくるShelfの『Qualiaffordance-クオリアフォーダンス-』を挟み、
スレに現れたのがMBS Truth -Cherish Pink-の『クラス全員マヂでゆり?!~私達のレズおっぱいは貴女のモノ・女子全員潮吹き計画~』である。
公式曰く「ユリ好き、レズ好きの方は勿論、男の子が主人公の作品が好きな方にもお楽しみいただける事を目指して製作」した抜きゲーである本作。
そもそも精神性を重視する百合と抜きゲーは本来水と油なのだが、本作は困ったことに抜きゲーとしても問題だらけである。
まず本作は女性主人公でありながらボイスがないのに、テキストの大半が主人公の妄想独白なのだ。
ヒロインのボイスは平均20~30クリックに1回程度とされ、Hシーンでも「首を横に振った」「戸惑った表情を見せた」等の表現を多用。
最大62クリックもの間ヒロインのセリフが表示されないのには、製作者側の「とにかくボイス代を削減しよう」という強い意志が感じられる。
せめてその妄想が耽美系や甘酸っぱいものならまだ雰囲気も出ようものだが、いかんせんその内容は脳内にちんこが生えているとしか思えないものである。
特に幾度となく目にする「ボクの中の雌ライオンが」という表現にはプレイヤーは度々脱力させれることになり、
「雌ライオン」は本作を象徴する単語として「ずっぷ」や「イラッシャイマセー」と共に住人達の間に浸透した。
これはHシーンで流れる異様に爽やかなBGMが「妄想の大地を翔ける雌ライオンのテーマに相応しい壮大さ」などと評された事からも伺える。
本作は他にも下着好きのヒロインが毎回同じパンツ等お飾りにしかなってない設定、百合ゲーとしては余計なお世話でしかない白濁液ぶっかけシステム、
セーブデータに依存するため永遠に埋まらない立ち絵鑑賞やゲーム終了以外止める方法が無い高速スキップ等、とにかく調理の仕方を片っ端から間違えた点が目立つ。
恐らく昨今の百合のプチブームへの便乗を狙ったと思われる本作だが、お楽しみいただけたのは雌ライオンに魂を惹かれたクソゲーマニア達だけだったようだ。
名言といえば『はつゆきさくら』で2012年ベストエロゲー1位を獲得したSAGA PLANETSの『カルマルカ*サークル』を忘れてはならない。
本作のあらすじは七つの大罪をモチーフとした「魔可」と呼ばれる特殊能力を持つ若者達が歴史を改編する力を持つという「カルマルカ」を求めるというもの。
こう書くと各々が自らの魔可を使って様々な問題に立ち向かう、という内容を想像するだろうが、本作では大半の魔可はシナリオに絡んでこないのである。
例えば「大食いになる」という暴食の魔可を持つヒロインは個別ルートに入ると
「父親が不祥事を起こしたせいで人殺しの娘と呼ばれている」という設定が追加され、魔可は数クリック程度しか話に上らなくなる。
また、「いらないものを買い漁る」という強欲の魔可を持つヒロインも魔可の話はルート突入前に片付き、
主人公は「喧嘩はできない」と言いつつ「噛み付きや絞め技なしで殴り合って起き上がれなくなったほうが負け」という勝負を受けて立つ。
このように本作の個別ルートは摩可とカルマルカをまともに取り扱わず、説明不足と超展開が付きまとう突っ込み所満載のシナリオが展開されるのだ。
そして更に問題なのが、これらの設定がトゥルーシナリオでは完全に食い違っていることである。
個別ルートで「カルマルカとかどうでもよくね?」と言っていたヒロインは自らの魔可にやたらと執着するようになり、
父親に敷かれたレールに従ってきただけというヒロインは逆に金だけ渡されて無視されてきたという設定に摩り替わる。
激怒した時しか魔可が発動しないはずの主人公は素で小石を握り潰し、箱の中から出てきた重要な手紙は跡形も無く消えうせる。
このシナリオ間の整合性の無さこそが『カルマルカ』の真骨頂であり、個別ルートに耐えてきたプレイヤーを嘲笑うかのごとくカオスの坩堝に突き落とした。
その出来は選評者をして「笑い所のないチャージマン研を見ているようだった」とまで言わしめた程で、いかに本作のシナリオが破綻しているかがわかるだろう。
こんな内容で公式ジャンルは「ハッピー&スマイルADV」という空気読めないものなのだから
プレイヤーが憤怒の魔可に目覚めるのも致し方ない。 Sノ
このような経緯で本作は皮肉交じりに『ハッピー&スマイル』の異名で呼ばれ、 (&) <ハッピー&スマイル!
2013年を代表する名言のひとつとして住人達に一時の癒しを与えたのだった。 H
~ だが、その日にはそれ以上の問題作が世に放たれていた。
それが大豊作と呼ばれた2009年ベストエロゲーで1・2位を飾った大傑作『バルドスカイ』の続編にて前日譚、『バルドスカイゼロ』である。
本年は他にも言動に問題がありすぎるヒロインや素人丸出しの経済知識など爆弾になりうる要素を多数抱えたensembleの『お嬢様はご機嫌ナナメ』
いくらニトロプラスといえど捻くれているにも程がある内容で賛否真っ二つの「純愛」ゲーの問題作『君と彼女と彼女の恋。』等
物議を醸す作品の選評も多かったが、それらと比較しても本作のマイナス面は飛びぬけていた。
本作はエロゲ屈指の名作ACTと名高いバルドシリーズの最新作だが、原画とライターが本編とは別人であり、そもそもメイン開発がTEAM BALDRHEADではなく外注である。
長年かけて築き上げた看板タイトルを平然と投売りするだけでも正気を疑うが、その中身は眼を疑うようなものだった。
本シリーズの売りは多彩な武装によるコンボの組み立てにあるのだが、
本作では武装の数を大幅削減された上に適当に連打すればラスボスも5秒で沈むため、コンボゲーとしての魅力が決定的に失われている。
難易度調整も自爆ザコの大量配置で済ませる等作りこみが極めて甘く、名作ACTが見る影も無い。
シナリオは輪をかけて酷い。『マテリアルブレイブ』が限界まで薄めたジュースなら、こちらはドヤ顔で出されるドリンクバーのブレンドとでも言おうか。
恐らく皮肉でハードボイルドなテキストを目指したのだろうが、その内容は無駄話を延々と続けてから取ってつけたように辻褄を合わせる冗長な展開が非常に多い。
一方で選択肢が「誰のルートに分岐しますか?」という身も蓋もないものだったりと、随所に書きたいものしか書かないというライターの独りよがりが見て取れるのだ。
キャラクターの扱いも「見た目は大和撫子、中身はハートマン軍曹のメインヒロイン」などはまだマシな部類であり、
悪ぶった皮肉屋のつもりで書いたであろう主人公は暴言とセクハラしか口にしない不快な人物になってしまっている。
そして最大の問題が、前作主人公・甲をモヤシや馬鹿扱いしたり「市民を大量虐殺した」という後付け設定を加えるなど事ある毎にディスることだ。
中でも最悪なのが、あえて怒らせるためとはいえ今作主人公が甲の最大のトラウマである「恋人が目の前でドロドロに溶けて死んだ」事を
「今なら動画もあるぞ?見てヌいちまうのが怖いのか?ああ、やっぱ駄目だ。溶けて混ざって白い恋人になっちまうもんなあ」と嘲るシーンである。
外道に定評のある歴代ヒールですら裸足で逃げ出すような下劣な暴言に前作プレイヤー達が絶句したのは言うまでもない。
以上のように本作はゲーム面は外注任せの劣化品、シナリオ面はライターの傲慢さと自己顕示欲が鼻に付き、
遊べないことはないものの製作側がファンも作品も愛していないということがひしひしと伝わってくる出来だったのである。
極め付けに発売前から「分割するほどのボリュームではない」と公言しながら本編に多数の謎を残し、発売1ヶ月後には『バルドスカイゼロ2』を発表。
そのあまりにも不誠実な横紙破りにファン達の怒りは爆発し、本家本元の戯画マインの威力を住人達に知らしめたのだった。
季節は移りクリスマスの夜、住人達へのプレゼントに2本の選評が届けられた。
一本目はALcotハニカムの「奇数作は良作の法則」を打ち破ってしまった『赤さんと吸血鬼。』である。
捨てられていた赤ちゃんを仲間達と育てていく、という素材は魅力的でCG等の質も高い本作だが、これは肝心のシナリオ面が駄目すぎた。
一に心理描写がとにかく薄く、キャラクター達は場面を盛り上げることも内面を掘り下げることもない。
二に構成が素人が編集したダイジェストのように下手で、何の前触れもなく場面が飛ぶせいで状況が掴めなくなる事が多々ある。
この二点が噛み合った結果生まれたのは、ポルナレフが発狂するレベルで頻発する「どうしてこうなった」の極みである。
中でも、寮が停電→昼の屋上→マンコくぱぁがわずか3クリックで展開されるシーンの意味不明さはゲームか頭ののバグを疑うレベルである。
肝心の赤さんは本筋には殆ど絡まず、ラストバトルは後付設定のみで進行する等、折角の設定もまるで機能しておらず、
選評では「得られるものは赤ちゃんの育て方とスウェーデンの豆知識とエロシーン20枠のみ」と言われる有様だった。
二本目は7月の発売から遅れて届けられたスワン系列ブランド黒鳥の『雨音スイッチ~やまない雨と病んだ彼女そして俺~』である。
本作はKOTYeでは珍しくCG面が「悪い意味でメリハリが効いている」と評されているが、当然それだけでKOTYeの門を潜れるはずもない。
問題は折角のアニメ回想がリストカットや首を絞められるシーン等で8割も使用されており、直接的なエロには全く使用されていないということであり
エロゲーとしてそこはどう考えても力の入れ所を間違っているだろとツッコまざるを得ない。
また本作は愛に狂ったヤンデレではなくお薬必須のメンヘラの話であり、そこを履き違えると手痛い目に合う。
特に「主人公の母親の葬式にウェディングドレスで現れて遺影に向かってブーケトス」というシーンには、さしもの百戦錬磨の住人達も動揺を隠せなかった。
このようなセンスに先述の誰得アニメや不安定な絵柄が加わることで、本作は他に類を見ない独特の気持ち悪さを醸し出しており
副題にやまない雨~とあるがそれはプレイヤーの疑問の雨がやまないという意味か、と思わせる代物だった。
このタイプの違う2本のクソゲーの後、スレはいよいよ魔物の潜む年末を迎えることとなる。
年も暮れの12月27日、滑り込みでその殻を破って襲来したのがEx-itの本年2本目となる『雛といっしょ』だった。
本作は『ひよこストライク!』のヒロインである神楽鳥雛にスポットを当てたファンディスクであり、
発表から発売まで約2年、マスターアップは発売日一週間前、更にその数日後に発売延期している。
もっともマスターアップ後の延期は『ひよこストライク!』『逃避行GAME』に次いで3回目だったためその程度で驚く信者達ではなかった。
だが、購入した現物がどう見ても開封済みのクタクタのシュリンクだったとしたら話は別である。
これは梱包後にお詫び状を手作業で封入した為であり、その内容は「ゲームが進められないから後でパッチ出します」というものだった。
インストール前にこれだけ畳み掛けてくる作品も前代未聞だが、インストール後はプロローグ終了後100%強制終了するのだから洒落にならない。
もはやこれはゲー無ですらない「 − 」だ、とまで恐れられた本作だが、ここから一週間の間のメーカー対応で更に拍車をかけることとなる。
まず修正パッチの配布予定を「28日は電気街祭りがあるから29日にがんばって30日に出します」と発表。
あの『学園迷宮』ですら進行不能バグは発売当日に修正されたというのにである。
企業倫理や社会常識の欠片もない対応に呆れ返る住人達だが、Ex-itはその日程すらも守れなかった。
29日にはバグの原因が突き止められません。
30日にはやっぱり31日の20時にさせてください。
31日にはミラーサイトの担当者と連絡がつかないので1月1日の15時にさせてください。
……期限をダラダラと先延ばし、その度に見苦しい言い訳をする有様は「宿題やってきたけど家に忘れてきました」という小学生そのものである。
1日には一応修正パッチ1.10を出したものの特定ルートは相変わらず進行不能で、
2日には本日夜から翌日の早朝にver.1.20を出すと宣言し、同時に1.10の公開を停止。
3日の18時にようやく修正パッチ1.20が公開されたが、一連の流れとパッチ解析の結果から未完成品であることを隠蔽しようとしていた可能性が浮上した。
……この予定の時刻が迫る度に「次は何を言い出すのか?」とライブ感覚でワクワクし続けた年末年始の一週間は、2013年度の本スレが最も沸いた一週間であった。
ゲームの内容自体はボリュームが少ないだけのファンディスクに落ち着いたものの、
その対応の酷さから本作は『雛遺書』と称され、『イラッシャイマセー』と相まってEx-itは2013年スレを最も騒がせたメーカーとして認知された。
「Ex-iTから「-」を投げ捨てた結果、遺書を残して業界からEXITしリアル逃避行Gameしないか」とはうまいこと言ったと膝を打つばかりである。
かくして雛遺書騒動は幕を閉じ、年末の魔物は去っていった。
……だから、『雛遺書』が開けたその孔から名状しがたいクソゲーが這い出てきていた事など、この時は誰も気付くはずも無かったのだ。
7月にひっそりと発売され、ネット上にひとつの感想も見つからなかった、遅れてきたバイオハザード。
それこそがミルクプリンの『明日もこの部室(へや)で会いましょう』であった。
本作のあらすじは「廃部寸前の写真部を立て直すため主人公が奔走する」というよくある部活ものである。
だが本作は全体の9割が共通イベントでありながら、その内容は無味乾燥なカメラ談義等に終始し、ヒロインとの親交やキャラの掘り下げが行われない。
主人公も「女性が苦手」のはずが煩悩全開という某鷹棒のような人物であり、
その設定の乖離っぷりは公式サイトの紹介文と本編の間に齟齬のある箇所を塗りつぶすとヤバい機密書類のようになる程だった。
また、本作には極めて意地の悪い罠が仕込まれている。ヒロインを選択した時点でバッドエンドが確定するイベントがあり、それが完全なノーヒントなのだ。
その内容はヒロインが男に絡まれているのを目撃するというものだが、目撃したからといってその男がシナリオに絡んでくるようなことは一切無い。
特に先輩の許婚らしき男はそのシーン以外では話の端にも上がらないため、主人公が観測したときのみ存在が確定するシュレディンガーの許婚ではないかと推察された。
バッドエンドの内容も「写真部は存続したけど主人公は居場所がなくなり卒業式の日に身を投げる」というもので、
なにも男見ただけで身投げせんでもと思ってしまうのも無理はなかろう。
そんな苦行めいたシナリオを超えて辿り着ける、感動のエンディングをここに紹介しよう。
結ばれた二人は昼も夜も無く愛し合いながら写真を撮り続け、気付けば数年が経過していた。
二人はヒロインの親類の持ち物だった洋館に居を移しており、プレッパーだった彼等の住居には5年分の食料等が用意されていたのだ。
その生活の中二人は一年中全裸で暮らすようになり、人が来たら服を着なけりゃなんて心配をしていた彼らの元に学園祭の招待状が届く。
だが町では今、細菌テロが発生して地獄絵図となっており、部室に行くのは大変そうだ。
ヒロインが2年前の服のサイズが合うかを気にする傍ら、主人公は持ち物に弓矢は必須だとワクワクしていた。
果たして、無事に明日、部室で会えるかどうかは、誰にもわからない。
……何を言っているかわからないと思うが、筆者も未だにわけがわからない。だが、これが起こった事ありのままの、本作の正規エンドなのである。
なぜ全裸なのか、なぜそんな都合の良い親類がいたのか、なぜバイオハザードが発生しているのか。
なぜそんな状況で学園祭が行われるのか、なぜ今になって部室に行こうとするのか。
なぜそこで2年前の服が着られるかなどと心配しているのか、なぜ今更タイトル回収に走るのか。
それらに関する説明は一切無く、我々は確かに自らの正気が削られていく音を聞いたのである。
他のエンディングも「あえて脱ぐことで、知性を証明しようよ」と裸族生活に走る等意味不明であり、
そもそもバッドエンド以外では部が存続した事が明言されない。
後に開発元のミルクプリンはプレイヤーの意表を突く事だけに本気を出すような会社であると判明するのだが、
それを知らなかった当時の住人達にこのエンディングはいささか冒涜的すぎたと言えよう。
もうひとつ外せない話がある。本作の主人公の名前は公式サイトでは「樫尾 光」とあるが、ゲーム内のデフォルト名は「勇次郎」である。
これは主人公の名前が変更できる為に起こったミスだと思われるが、その名前はある操作により255バイトまで入力できるのだ。
この事が判明するや否や本作は瞬く間に住人達のおもちゃとなり、スレにはずっぷだのイラッシャイマセーだのが詰め込まれたSSが多数投下され、大きな笑いを提供してくれた。
以上の通り本作にはコンプまで約6時間という小さな躯の中に想像を絶する渾沌が詰め込まれており、
雛遺書騒動で幕を閉じたと思われていた2013年がまだ始まってすらいなかったということを知らしめたのである。
深淵の扉を潜ったのは『部室』だけではない。年の瀬も押し迫る12月30日、2年間の眠りから目覚めたクソゲー界の巨人・アーベルが
ウォール・スワンを突破せんと姉妹ブランドRed Labelより『JK辱処女〜純粋な心の持ち主ほど処女を好むという法則〜』で進撃してきた。
本作は三十路ニートの童貞主人公が女子校生に偶然落とした教科書を拾ってもらった事から仲良くなり様々なプレイに興ずるという抜きゲーである。
なぜ三十路ニートが教科書を持ち歩いていたのか気になるが、本作の序盤は場面ジャンプが多発するためその程度は些細なことなのだろう。
Hシーンでは一連のシーンでずっと同じイベントCGが表示されるためテキストとの齟齬が頻繁に起こり、
中でも初体験のシーンでは胸だけはだけたCGが実に111クリックもの間表示される。
これは当該シーンの約3分の2にも及び、プレイヤーはちんこ出したまま微動だにしない画像を眺めつつ延々とクリックするという羽目になってしまった。
また、画像面では決して欠かすことの出来ない問題がある。
ヒロインのクリトリスを愛撫して興奮していく様が、妙にクオリティの高いエダマメのCGが赤く変色していくことで表現されるのである。
この他にも腕に媚薬を注射するときにはエダマメに注射、主人公が勃起したときはエダマメが剥けて露出など
性的描写を事ある毎にエダマメで表現するというド謎極まるセンスは住人達に凄まじい笑撃を与えた。
これは経血で血まみれになりながらセックス、主人公がペニバンで掘られる等のどこを狙ったのか理解に苦しむプレイがあることにも見てとれる。
ラストシーンではヒロイン出産の際に「この子が幸せになれるためにも俺が最初の男になるべきなんじゃないか」などと言いだし
「どこが純粋だタイトル否定か」「いや純粋だろう純粋な悪だが」と物議を醸すという一幕もあり、その迷走ぶりをいかんなく発揮した。
ただ、本作はアーベルお得意の差分水増しや「ダウンロードランキング第一位獲得!」という誇大宣伝等はあるものの
かつて猛威を奮ったストレスフルなシステムやアペンド商法は影を潜めている。
むしろ間違った方向に全力を注いだ事でスレを熱狂させた愛すべきクソゲーとして生まれ変わっており、
新生アーベルの門出を祝うに相応しい一本として住人たちに受け入れられた。
『雛遺書』が呼び寄せた魔物はこの2本だけに留まらず、
同系列の『マジゆり』同様、「……」「!!」等のセリフを多用しボイス削減の限界に挑戦した結果、会話が殆ど成り立っていない
One-upの『聖ブリュンヒルデ学園少女騎士団と純白のパンティ ~甲冑お嬢様の絶頂おもらし~』
退屈で冗長な展開とライター間の整合性が取れていない内容に加え、同ライターの別ブランド作から設定を引っ張ってきた
GLaceの『Timepiece Ensemble』
公式サイトの「主人公の部室」「いい肉な妹日」等の誤字が強烈で、内容は妹のいない妹ゲーとでも言うべきものである
fleur-softの『妹*シスター -My sister-』が立て続けてに登場。
更にはフリーモードに面倒な設定が必須の割に作りが荒く、雑な喘ぎループによる空耳から「タノシイネー、タノシイネー」と揶揄された
ILLUSIONの『プレミアムプレイ ~ダークネス~』
前作の財産であるMODの互換性がなく、「バイキング形式だと思ったら皿だけ配られた調理スペースだった」と例えられた
Bulletの『3D少女カスタムエボリューション』
痴漢ゲーのはずなのに無人の車内や授業中の教室で堂々とセックスを始める
REALの『いたずら学園』
の3Dゲー三羽烏が舞い降り、最終的にわずか一月の間に合計8本、受付締め切りの3時間前まで選評が届き続けた。
この過去最大の選評ラッシュにより、2013年は最後の最後まで大盛況のままその幕を下ろしたのである。
それでは、全ての作品の紹介を終えたところで本年の大賞を発表する。
次点は
『リア充爆発しろ! 〜変身能力手に入れたんだけど質問ある?〜』
『バルドスカイゼロ』
『雛といっしょ』
『JK辱処女〜純粋な心の持ち主ほど処女を好むという法則〜』
そして大賞は
『明日もこの部室(へや)で会いましょう』
とする。
2013年は当初こそ名言は多いが静かな年といわれていたが、終わってみれば1月から12月まで全ての月にエントリー作が現れ、
その多くが他に替えがたい強烈な個性を持つという非常に見ごたえのある年だった。
故に次点は基本に立ち返り、過去のKOTYeにおいて大賞を決定付けた要素を極めたものから選出した。
前作スタッフを全員外してどうしてこんなものを作ろうと思ったのか問い詰めたい『バルゼロ』は怒りと不快の頂点を。
進行不能バグと見苦しいスタッフ対応を両立しスレを多いに盛り上げた『雛遺書』はゲー無以下の無価値と最強の盤外戦を。
エダマメでの性表現等努力をあさっての方向に向けて全力でコースアウトした『エダマメ』は愛すべき笑いの真髄を。
そしてそれらと比較しても、手抜き・超展開・ネタ性などクソゲーとして必要とされる数々の要素を併せ持ち、かつその内容が
「そして……俺は超能力を手に入れたのだった。」
「ずっぷ!ずっぷ!」
「ああ……もう出そう」
の3行だけで説明できてしまう完成度を持ち、一年通して住人達を楽しませ続けた『ずっぷ』は抜きん出でていた。
しかし、そんな最強の門番を『部室』は易々と飛び越えてしまったのである。
本年は『ずっぷ』を始めシナリオ面での問題作が多く、それらはいわば「説得力の欠如」に集約されるもので、何をしたかったのかという意図自体は予測できる。
だが『ずっぷ』がソードマスターヤマトなら『部室』はドグラ・マグラ。
本作はそもそも伏線や整合性といったものを端から投げ捨てており、不快や苦痛といった枠を超えて住人達のSUN値を直接削りに来ている点が決定的に異なる。
また、KOTYeの本質たるネタスレという側面から見ても、本作は申し分ない格を備えている。
裸族やバイオハザードといった大技はもちろん、シュレディンガーの許婚のような小技や名前バグのような盤外技まで備えており、
総合的な低品質を維持しながらどこを突いてもネタが飛び出るという内容はこれまた『ずっぷ』にも劣らない。
この通り、全く新しい衝撃をスレに持ち込みながらも歴代作品に劣らない風格を備えていた本作は、
実に『アイ惨』以来となる有効総評の全てが満場一致という結果を以って、堂々と大賞の栄冠に輝いた。
2013年は伝説級のタイトルこそ無いが、バグや未完成商法に頼らない各々の武器を持つクソゲー達が鎬を削るという
KOTYeにとってはひとつの理想と言える恵まれた年だった。
長らく大きなヒット作が現れず、不作と言われ縮小を続けるエロゲー業界ではあるが、名作とクソゲーはいわばコインの裏表。
数多のクソゲーが生まれるとき、名作もまた生まれることを信じて、2014年もまた個性的なクソゲー達に出会えることを祈ろうと思う。
最後に、『部室』を始めとするスレを賑わせた作品達とそれに関わった全ての人々に次の言葉を送ることで
2013年クソゲーオブザイヤーinエロゲー板を締めたいと思う。
『ああ……明日もハッピー&スマイルが出そうなこの部室(スレ)にイラッシャイマセー!』