2023年 総評 対策版

JINKI -Unlimited-(1/27)《戯画》

クソ路はすべて闇の中である。
2022年のクソゲーオブザイヤーinエロゲー板(KOTYe)は、熱意なき駄作同士がつまらなさを競う苦難の道となった。
泥濘の底王となったのは、流行のポップソングをボソボソ歌う音痴の自称ロックンローラーこと『悪魔と夜と異世界と』
王道に便乗しながら王道を茶化し、傲岸不遜と卑屈が同居する強者にして怯者として名を遺したのであった。
そして2023年、KOTYeは15周年を迎える。
夜空を彩った星々が消えゆく中、常闇に沈んだ暗黒大陸に一寸先の光は差すのか。
KOTYeの在り方をも問うような、新たな戦乱が始まろうとしていた。

いまだ前年の総評審議も始まらぬ2月末。
それは遅れすぎて最初にやってきた。
年末の魔物を超越した年始の魔物、RTS+ADV形式のファイナル戯画マイン、『JINKI -Unlimited-』である。
前年12月初旬にマスターアップが宣言され、12月末の発売を予定されていたが、「思いがけない重大な不具合」を理由に1ヶ月延期して越年。
このとき戯画は3月末での開発・販売・サポート業務の終了を告知しており、デッドラインが迫る中での発売となった。
我先にと戯画の遺作に挑んだプレイヤーたちは、特定箇所で確定フリーズする進行不能バグに直面し、有料デバッグの始まりを悟る。
当日中に修正パッチが出されるも、すぐに別の進行不能バグが発生。
もはや手詰まりかと思われたが、先のパッチで密かにデバッグモードが開放されていたことが判明する。
真の意味で有料デバッガーが誕生した瞬間であった。
バグの壁をも乗り越える力を得て、クリアへの道が拓かれたのである。
一方、Hシーンだけを全回収して戦線を離脱する賢者も現れ始めた。
事態を重く見てか、戯画は次なるパッチでデバッグモードを封印。
プレイヤーたちはこれに対し、あえてパッチを当てずにデバッグモードを使い続ける駆け引きを見せる。
アップデートは繰り返され、ユニーク敵の無限湧き・レベル99オーバーで1に回帰・セーブデータ肥大化などのバグは駆逐されていった。
そうしてバグ絡みの七転び八起きは一段落するも、次は本編での七転八倒が待ち受けていた。
いや、正確には本編開始前、起動した時点からである。
というのも、本作はフレームレートが無制限。
並のGPUでは常時稼働率100%を免れず、プレイ中はPCの冷却ファンが不気味に咆哮し続ける。
文字通り「Unlimited」であり、起動した瞬間にタイトルを回収する大記録を打ち立てた。
これ以外にも、RTS・ADVの両面で多岐にわたる問題点が指摘されたが、報告者は完走を前に力尽きてしまう。
全容の解明は、後に続く者へと託された。

解体されぬままスレに鎮座した戯画マイン。
その出現に触発され、墨染の春空から飛花のごとく選評が降り注ぎ始めた。
絶え間なく、過去に類を見ない物量で。
それは、解散した戯画や、眠りについた据置版クソゲーオブザイヤーへの慰労か。
あるいはKOTYeの生存本能か。
葬送の桜祭りは拡大の一途をたどり、選評数は5月までで20に迫った。

近年の常連組からは6作が参列。
先頭は、3年連続エントリーとなったNorth Boxの、『高嶺の花と魔法の壺』である。
前作は相反する設定の不協和が指摘されたが、本作では完全に解消された。
シナリオをできる限り無に近づける潔い手段によって。
話の概要は、主人公が魔法の壺の精『ツボイさん』に「やりまくりたい」と願って叶えてもらうのみである。
加えて、演出面の省エネ効果も際立っている。
出番の多いツボイさんも含めてヒロイン以外はボイスなし、モブの立ち絵はシルエット表示。
30年近く前の著名サウンドノベルをオマージュした、温故知新の精神の表れであろう。
また、ピストン音にはバリバリというノイズが入っており、かつて存在したバリッと響く射精音を思い出させる。
HシーンにそぐわないBGMも健在であり、典雅な琴の調べから舞踏会風のヴァイオリン演奏に繋げて煩悩を霧散させた。
思い切った決断でハマったのは、壺ではなくドツボであったと見るべきか。

お次は、evoLLの『ラブカフェ~童貞な俺でも、巨乳女先輩と同棲できるってマジですか?』が、あらすじ詐欺を仕掛けた。
触れ込みは「4人の同棲生活」ながら、実態は「2人の同棲生活×3ルート」であり、3人のヒロインのうち1人としか同棲できない。
ハーレムルートでようやく実現かと思いきや、非処女ビッチ化したヒロインたちと乱交するだけの妄想オチで終わってしまう。
4人での同棲生活など、夢のまた夢。
印象に残るのは、射精を「放精」と記する独特の言語感覚くらいであった。

続いて、2人のヒーローガールが会場に舞い降りる。
1人目は、SUKARADOGの『虜囚の女ヒーロー ~怪人たちとの闇の狂宴~』
悪の組織ポルチオーンに敗れた突破戦隊テクノブレイカーの紅一点が、仲間を人質に取られてバトルファックを強要される話である。
この時点で察せられる通り、突っ込みどころが非常に多い。
まず、ヒーロー調教モノの様式美は無視。
敗北描写を割愛して監禁状態から始まり、怪人の精液による催淫効果で即発情、即絶頂である。
現代のスピード感についていくには、快楽に抗いながらも徐々に堕ちていく過程など描いていられないのであろうか。
また、主人公の思考回路が頓狂であり、いかなる状況下でも戦隊ヒーローとして実力を行使しない。
脱出すべく見張りの戦闘員の無力化を試みる際にも、力づくで勝てる相手だと認識しながら率先してバトルファックを仕掛ける有様であり、正義のヒーローならぬ性技の披露と揶揄された。
省コスト感あふれる怪人の造形、マ◯ンガーZの劣化パクリに出てきそうな敵ボス「ポルチー王」なども内包しており、昭和の荒唐無稽な特撮やアニメの欠点を煮詰めたような出来であった。

2人目は、アパタイトの『清純ヒーロー×ビッチ墜ち!! ~悪の組織に調教される乙女の心の移ろいは…~』
見せかけは魔法少女〇辱モノながら、内実はジャンルのお約束を茶化し続けるコントであった。
主人公には悲壮感がなく、もっと堂々と調教しろと敵を説教し、売春を強要されそうになれば報酬の安さに怒り、料理の腕前で敵に負けて悔しがる。
片や敵側にはゲスさがない。
農家との提携について主人公を交えて真剣に会議、拠点のローン未完済に苦悩、助産師不在を理由に孕ませを延期など、立ち位置すら不明である。
ほかにも、充実した職場環境に堕ちて孕む主人公、悪堕ち後と見られていた姿は敵が用意した衣装、主人公の投げやりな生着替えを見て恥ずかしがる敵など、最後まで仲良くエロ行為に励む。
バカゲーならバカゲーとして、もっと堂々と告知しろと説教されたのもやむなしであった。

そして常連部隊の後詰めは、
システムが劣悪で、未読・既読スキップの切替やクリック後の音声継続すらない一方、アニメ演出のオンオフ項目はあれど演出自体が未搭載の『ママ僕だけを愛して… ~キモデブ息子を溺愛する母の歪んだ愛情~』と、
タイトルに掲げた「盗聴」要素はモノローグのみでボイスなし、「妄想」要素は見当たらないという世知辛いタイトル詐欺をやらかした『カノジョの性癖 -盗聴×妄想-』が務めた。

常連といえばのアトリエさくら勢も、当然のように臨席。
早くも4本のエントリーを積み上げた。
過去作『淫らに堕ちる、最愛彼女』から選択肢も背景も話の骨子も一部流用した挙句、ヒロインがオモチャどころかサセ子というやるせないオチがついた『好きだった幼馴染がクラスメイトのオモチャになっていた件』、
立ち絵の表示ミスによる「全裸から1ミリ秒で着衣」に「返信→変身の誤変換」がシンクロした正常化現象と、竿役が五七七の韻律で放った台詞「その前に一度イクからちょっと待ってて」が好事家を唸らせた『他人棒でイキ狂い快楽に溺れていく最愛妻 ~見せつけられた快楽に絶頂する妻の痴態』、
「チャラ男に薬を盛られてレ◯プ→脅されて関係継続→快楽堕ち」のテンプレ展開が、薄っぺらいキャラ設定すら置き去りにして儀式のごとく粛々と進む『堕とされた義姉 ~憧れていた義姉がクラスメイトの手で快楽調教させられていく~』が、それぞれの個性で場を温め、ときに冷やした。

中でも耳目を集めたのが『妻、宇佐見恋を抱いてください ~夫公認公開恥辱NTR~』である。
NTR+痴漢というジャンルの性質上、多少のご都合主義は許容されうるが、それを踏まえてなお、登場人物たちの言動は不可解極まる。
ヒロインは強気なタイプにもかかわらず、痴漢にあっても、罵倒以外の抵抗や反撃は一切しない。
また、竿役の「セフレが産気づいた」という露骨な嘘に騙されてノコノコついていく愚かしさも披露する。
ヒロイン以外でも、主人公が妻との仲裁を頼む相手がよりによって竿役、イケメンで女に不自由していない竿役がヒロインに痴漢した理由が「巨乳だったから」など、ストーリー展開に納得感がなさすぎる。
また、ヒロインと竿役は若い男女でありながら、台詞回しに加齢臭が漂っている。
恋愛経験がほぼないヒロインの語彙に「他人棒」やら「弾丸みたいなピストン」やら「弾丸というより男根」やらが含まれるのは興ざめであり、竿役は、
「イッてよし」
「キミのマ◯コの声は……キミより俺のが聞けてる」
「熱いマ◯コを初体験という俺の童貞……捧げてやったぜ」
といったおぞましい台詞を吐く。
そんな本作の最大の見せ場は、妻を奪還するか離婚かを賭けた竿役との勝負である。
妻は夫の勝利を信じて応援し、主人公は意地を見せる。
夫婦愛は感じさせるが、しかし競技内容は「射精我慢比べ」であった。
竿役がヒロインに挿入し、主人公はそれを見ながら自慰をする形式となっており、甚だシュール。
その際の、
竿役「さあ旦那さんイケよ!」
主人公「僕はイカない!!」
ヒロイン「あなたはイカないでぇえええ!(私は)イクぅう~~~~~ッ!!」
という掛け合いは噴飯ものであった。
粗製乱造を繰り返すアトリエさくらの作品にしては、パワー感のある仕上がりと讃えよう。

常連組以外にも、新参組と再訪組の多彩な顔ぶれが集まった。
露払いを買って出たのは、悪女属性をブランドカラーと謳うEvilHealの『Aphrodisiac -女神の欲望-』
サイコパス気質のマッドサイエンティストをメインヒロインに据えるも、その特異な設定を貫けていない。
おもな理由は、あまりに呆気ないオチである。
惚れ薬を飲んだら恋心を自覚してハッピーエンドやら、ヤクザに襲われるとあっさり屈して情けなく許しを請うやら、悪事を暴露すると言われるとすんなり受け入れて逮捕やら、マッドの矜持を放り出す結末が目立つ。
また、誤字脱字がやたら多く、「それはいいんだけが」「当たり間ですよ」「変ことしようしてます?」「初めての浮かぶ環状」「え、それは早くマジいですね」等々、明らかに校正されていない。
結果、作中の迷言「嫉妬がボンバー」になぞらえ、「プレイヤーの頭がボンバーする」と皮肉られた。

次に現れたわるきゅ~れの『病みつきヤンデレハーレム!』も、誤字が目に余るだけでなく、日本語が怪しい部分までも散見された。
例えば、
「扉が開かれると、そこから顔を出したのは、学生服に身を包んだ、幼馴染の美愛が入ってきた。」
のように、主語と述語の係り受けがとっ散らかっている文章さえある。
作中で主人公は、ヒロインから文章の乱れや誤字脱字の多さを指摘され、
「慌てて書いたでしょう?それとも『ながら作業』でもしていた?」
と注意されるが、それはこちらの台詞である。
そのくせ、精液の表現は「オス汁」「生殖汁」「遺伝子汁」などと無駄に豊富なのがしゃらくさい。
また、HシーンにそぐわないBGMも採用されており、メーカーの垣根を超えた流行の兆しが見られた。
本作では、まず探偵モノの推理中じみた曲が流れ、射精を契機に激しいクラシック調の曲に切り替わって2回戦に突入する。
ラスボス戦さながらの演出をHシーンにぶち込んで笑いを取ったこの手法こそ、最も「病みつき」であったやもしれぬ。

外なる世界からは、Rosettaの『星と乙女が占う未来』が這い寄ってきた。
基本の作りは一般向けの低価格ライト百合作品であり、本編にアダルト要素はない。
実質メインヒロインを兼ねる女性主人公の一人称で、他のヒロインたちやモブとの交流が描かれている。
HシーンはR-18パッチとしてエンディング後にまとめて収録されており、その内容が大いなる波紋を呼んだ。
ヒロイン同士の絡みは1つもなく、いずれも主人公と謎の存在との組み合わせなのである。
「あなた」と呼称されるこの存在は、無言の透明人間であり、名前も容姿も性別すらも不明。
シーン絵は、挿入時でもヒロインしか描かない廃れた表現が採用されており、性交には見えないとの意見もあった。
明確な描写が避けられ、公式サイトには“「あなた」は作中キャラの特定の誰かと断定するものではございません。”との注釈もあるため、メーカーの意図はおそらく「ご自由に理想を思い描いてください」であろう。
しかし、熱く膨らんだものを挿入するような表現がぼかされながらも使われており、異性愛描写と捉える者が続出。
竿アレルギーや不意打ち寝取られ感に見舞われ、悶え嘆く声がそこかしこから響く惨事となった。
「あなた」は、無貌ゆえに千の貌を持つとされる蕃神のごとく、誰とも知れぬゆえに誰でもありうる概念的存在となり、解釈次第で千差万別な禁忌へと転じて夢の世界を侵したのである。
描写はなくとも可能性があるだけで、最悪を想像してしまう者もいる。
負の性癖とは、かくも厄介なのである。
加えて、純正百合を装う周到な前フリも地雷度を高めた。
販売サイトでは当初、百合やレズビアンのタグが付けられており、また、百合専門レビューサイトには一般版が提供されて百合認定を受けていたのである。
数々の仕掛けは功を奏し、本作は「百合と『あなた』が交わる地雷」として悪名を轟かせた。

この波に乗じて、
マッシブで気丈な女騎士に、舌っ足らずの声を割り当てる深刻なミスキャストをやらかした『上司の巨乳騎士団長は俺の肉オナホ! ~年下恋人から中出し漬けで寝取って孕ませ穴に!~』と、
17年前の作品をフルプライスでほぼベタ移植するも、ウリにした追加要素は絵柄と声が本編とちぐはぐなスキップ13秒の夢オチだった『淫堕の姫騎士ジャンヌ RE:BORN ~オーガの仔種を注がれる気高き姫!~』もエントリー。

ZIONの『ワケありJK従属学園 ~強制絶頂は終わらない~』も、絵に全振りで残りは雑な近年流行のスタイルで参加を果たす。
シナリオ冒頭からあらすじと矛盾しており、「ヒロインは男子生徒たちを手玉に取っているはずが、いつの間にか絶頂地獄へ~」のはずが、処女喪失シーンで寸止めコントロールされて完敗を喫する始末。
その際のヒロインの咆哮「ヌアァーーー」にも現れている通り、テキストには珍妙なセンスが満ちている。
男子生徒たちの名付けからして、まず頂点に君臨する3人がS1・S2・S3、みんな揃って「SⅢ」(スペシャルスリー)である。
そしてモブたちは、男子生徒A~DやらXYZやらαやら2やらが順不同で続々と現れ、マドハンドもかくやの乱立を見せた。
文体も独特であり、「男根の美味を味わう」や「子宮口を亀頭が消しゴムのように削ってくる」のように、わかるようで引っかかる言い回しが多い。
「黒光りするイチモツが信じられないほど高速で揺れている」というピストン描写は、字面だけ見れば全裸での激しい腰振りダンスである。
しまいには、射精を「放精」とする表現が他メーカーと被る「放精マイフレンド現象」をも引き起こした。
絵にしても、モブが貧相すぎてヒロインとの格差が際立ち、金持ち男子と借金苦女子というコンセプトを毀損している。
大切なのは全体の調和であり、「ハンバーグだけ上等でも、バンズが釣り合わねば忌まわしいハンバーガーの域を出ない」話を想起させる仕事であった。

突然の確定演出とともに、とこはなの『ナマイキユメちゃんはおにぃとメチャクチャHしたい! ~ギャルと教師のドキドキ同棲生活~』も姿を表した。
紹介文によると本作は、「ときに傷つき迷う等身大のキャラクターを配し、関係性を掘り下げ、低価格帯であっても満足感のある濃密な内容」らしい。
しかし実態は大きく異なっており、徹頭徹尾ダダ甘ライトで通し、傷つき迷う心理描写も見当たらない。
主人公が教師と生徒という立場に悩むのも最初だけであり、ヒロインに全裸で迫られるとあっさり陥落して猿と化す。
そもそも、急接近のきっかけからして「ヒロインがアナニーに使用したペンがケツ穴から取れなくなり、主人公に取ってもらう」である。
ときに傷つき迷いながら掘り下げるとの売り文句が、まさか肛門を指していようとは。
恋人同士になった後ならまだしも、急接近に繋げる展開はさすがに前代未聞であり、「ついに修羅の国にもけつあな確定の波が」と感嘆された。
また、主人公の名前に関するバグも搭載。
デフォルトネームがなく入力を求められるが、その名前は作中の「主人公」という単語をすべて上書きしてしまうのである。
例えば主人公名を「ゲルググ」にすると、「俺つえー系主人公」は「俺つえー系ゲルググ」に変わり、珍種のなろう系MSが誕生する。
同様に、作中で鑑賞するアニメ作品は「3話で早くもゲルググとヒロインがキスする」内容となる。
かくして本作は「ケツアナユメちゃん」としても、命名遊び史の1ページとしても名を成した。

宴もたけなわとなったところで、アンモライトの『女体化転生したボクはふたなりで無双する!? ~でも、お姉ちゃんたちには絶対に勝てません!~』が、風変わりなテキストでスベリ倒した。
本作は、女体化転生した主人公が意地悪な姉たちに反撃を試みるも、ふたなり化アイテムを奪われて負け散らかす情けない話である。
主人公は天然を通り越してバカであり、女体化してなお自分は雄々しいと猫口調でにゃあにゃあ自画自賛したり、子供じみた言い訳で自己正当化を図ったりするため見苦しい。
さらに、「精液が出発進行する」「お腹がぽんぽこタヌキになってしまう」「頭も身体も、ぽあぽあのぷあぷあだ」といった表現で苛立ちを喚起し、「くぁwせdrftgyふじこlp」似の絶叫も繰り出す。
挙句、馬並みに肥大したチ◯コで級友めがけて鏡を割る威力で放精し、選評者から殺人未遂の嫌疑をかけられた。
バカゲーとして見てもなお、薄ら寒いだけの惨状というほかない。

散りゆく秒速5センチメートルの走馬灯をすべて見届け、屍山血河の桜祭りは終結した。
例年ならば一年分に相当する選評が、半年足らずで届く異常事態。
住民たちは困惑を隠せなかったが、時は待たない。
しばしの休息で心身を整え、下半期の戦いに臨むのであった。

夏本番の7月後半には、半月に5本の選評が集中的に届いた。
口火を切ったのは、アトリエさくらの『背徳の強制種付け ~愛する妻の子宮に注ぎ込まれる他の男の精液~』である。
背景差分が足りないせいか、夜の描写の合間に昼間の背景を挟んでしまい、
「主人公が24時間トイレに籠もっている間に、竿役とヒロインは徹夜フェ◯からの朝から晩までセッ◯ス」
という持久戦を勃発させた。

これを受け、とうに桜の季節は終わったとばかりに、対抗戦力が決起する。
先陣を切ったのは、コンフィチュールソフトの『ギャル姉妹 ~ハーレムタイムが止まらない!~』であった。
「オタクに優しいギャル」をテーマとしながら、ギャル属性に対するこだわりが感じられない。
見るからに強気ギャルな姉は、主人公に対してまさかの敬語。
立ち居振る舞いも優等生そのものである。
妹は、陽キャギャルとして許容範囲と思いきや、Hシーンで東リベパロをぶち込んでくるなど、TPOを無視したネタが寒い。
話の展開もあまりに杜撰で、導入からして「妹の方に振られた主人公は、その場で『だったら1回やらせてくれ』と土下座してドン引きされるも、それを見ていた姉に1回やらせてもらえる」である。
これは事前にあらすじとして提示されているため、ストーリーには期待薄と推察できる点は良心的といえよう。
実際、導入部以降はツボイさんの関与が疑われるほどやりまくるのみであり、ノイズ入りの「ギャル」という記号を抱くエロゲーと評された。

第二陣として、
主人公が精神的に調教されてNTR性癖に目覚めた挙句、汚れた妻を抱きたいというさらなる性癖の変化を機に「本人も納得の上で去勢された」ことがさらっと語られて終わる『調教カテイ ~性開発された肢体は元カレを忘れられない~』と、
展開の理由付け・設定の落とし込み・心理描写をことごとく省き、全ヒロインの性知識をエロゲー由来にして「侵・放課後エロゲー生徒会」の異名を得た『侵・性奴会 ~美人会長と爆乳書記の調教日報~』が続く。

負けじとアトリエさくらも『俺の幼馴染がエロ配信をしていた件 ~地味な彼女の裏の顔はエロエロな配信者でした~』で押し返しを図る。
開幕3クリックで「言葉にしなくて、もうそれでけで彼女には~」なる奇怪な文章で先制パンチをかまし、以降も誤字を頻出させて雑さを露呈した。
一方で、絵柄を今風に寄せ、非エロの一枚絵を用意する試行錯誤がみられる。
恒例の「3行de馴れ初め」も廃止され、導入に適切な文量が割かれるようになった。
しかし、代償としてHシーンが削られては本末転倒である。
14枠ある回想のうち本番は6枠しかなく、残り8枠はあの手この手の水増し。
内訳は、脱いで見せるだけの短いシーンが4枠、自慰が2枠、一続きのシーンの分割が2枠である。
一皮むけようとしたはずが、古の王アーベルの水増し手法を取り入れざるを得なくなり、むしろ化けの皮をかぶってしまう皮肉な末路であった。

7月の戦いの後は騒動もなく、気付けば秋。
狂騒の収穫祭が巻き起こりがちな季節ながら、さすがに春に続く大祭とはならず、2作品の衝突で収まった。

上座に居座ったのは、『エルフェンキング』
近年は催眠モノに傾倒していた老舗ルネが久々に手掛けた、ファンタジー〇辱モノである。
十八番ジャンル・90枚超のCG・豪華声優陣と隙のない布陣に思われたが、仕上がりはフルプライスの水準には程遠い。
シナリオと演出に手抜かりがありすぎたのである。
筋書きは「劣等種として虐げられてきた主人公が力を得て、高慢なエルフ族に下剋上する」であり、ありきたり極まる。
主人公の能力は「イメージの現実化」および「他者への能力の伝授」と万能ながら、使い方に工夫がない。
ならず者たちを一騎当千の魔法兵軍団に変えた後は、戦力差で圧勝し、自由を奪って〇辱の繰り返し。
それ以外は、たまにチ◯コサイズの調整に使われる程度である。
行動原理も単純であり、やられたからやり返す、エルフだから犯す、ただそれだけ。
決起から連戦連勝連姦でトントン拍子にエルフの国を滅ぼし、全ヒロインを奴隷化して嬲る、それ以外の内容はなきに等しい。
最序盤に、力を求めずに「運命は自分で切り開く」と宣言する選択肢もあるが、切り開けずに即バッドエンドである。
全編通して新鮮味がまるでなく、フルプラならせめて一捻りは欲しかったと嘆かれた。
次に演出は、色々と端折られすぎている。
絵の質と枚数は価格相応ながら、差分が少なく、ヒロインたちの表情は変化に乏しい。
精液差分を増やしたとて焼け石に水である。
また、過程の省略も度を越している。
〇辱シーンでは前フリ軽視が甚だしく、開始時点ですでに全裸が当たり前、ときには挿入済みの場合すらある。
つまり「挑発して歯噛みさせてから服を剥ぎ取る」のような〇辱モノにおける前戯が、まるごと省かれているのである。
屈服の過程にも抜けが多い。
あるヒロインに至っては、プレイヤーの知らぬ間に経験人数が数百人に達し、半ば心が折れたところから個別が始まる。
それでもなお「ほとんど処女みたいなものだな」と受け入れる剛の者は少なかろう。
気分を盛り上げるために、適切な段階を踏んでシチュエーションを描くことがいかに重要か。
コストをかけて良質な素材を揃えても、演出ひとつでエロゲー失格になりうると、嫌というほど知らしめた作品であった。

さらなる下剋上を狙うは、またも現れたアトリエさくらの尖兵『恋人・亜依理を抱いた他の男達 ~愛する恋人が俺の元から去った理由~』
ヒロイン1人に男主人公を3人起用し、複数の視点で男性遍歴を描く変則スタイルで挑んできた。
しかし、ただでさえ少ないボリュームを章仕立てで分割したせいで、内容が薄まりすぎている。
結果、幼稚で我儘なメイン主人公への嫌悪と、ぞんざいな理由で尻を振り股を開くヒロインへの困惑だけを遺して散った。

師走に入ると、一年を憂いなく終えんと冬の戦いが開幕。
縮地法を駆使して急速前進してきたのは、TinkerBellの『せをはやみ。』である。
独特なシステム設定の説明が不足しており、「アクメーター」や「むんむんほかほか効果」という、なんとなく予想はつくが不明瞭な項目を複数搭載して首を傾げられた。
一方、固有名詞にはルビを振る親切さも見て取れる。
しかし、テキストの1行目が枠の上端に表示されるため、ルビがはみ出して見づらい。
そうして凝視を促したところで、本作の真骨頂たるサプライズ顔面ドアップが炸裂する。
会話しているヒロインが、脈絡も予備動作もなく、専用に書き込まれた高解像度の顔面で視界を覆い尽くす技である。
しかも日常の茶飯事として連発してくるため、プレイ中は常に戦々恐々とさせられ、否応なくストレスが積み上がっていく。
いつ仕掛けてくるかわからないヒロインたちへの警戒心は、次第に嫌悪に変わり、瀬をはやみの和歌に詠まれた慕情とはかけ離れてゆくのであった。

続いてcalciteの『AI(愛)妻と娘への調教性活』が、流行りに浅く便乗した。
特色は、亡き妻の人格を投影したAIヒロインである。
しかし実体を持たないため、Hシーンはスマホに表示される痴態を見ながらのオ◯ニーでしかない。
スマホ内に主人公のアバターを生成して行為に及ぶパターンもあるが、本人はやはり見ているだけである。
そしてタイトルに反し、AI妻への調教要素はまったくない。
義娘ルートには、なぜか妻の部屋から出てきたSMグッズを「俺たちに遺してくれたのかも」と使う無理やりな展開が1シーンだけ存在するものの、「調教性活」を冠するにはあまりに弱い。
また、整然とした連続性に欠けた不条理な展開も散見される。
とりわけ、義娘に初めて手を出す場面で義娘が開口一番、
「……そういえば、手でしたことってあったっけ」
と話すのは理解に苦しむ。
「すでに幾度となく性的な行為に及んでいるが、手でしたことがあるかは記憶が定かでない」としか解釈できず、「手を出そうとした直後の暗転時に、さんざん手を出した後の未来へとワープした」説が提唱されたほどである。
安易な題材すら腐らせるのは毎度のこと。
たゆんだ努力で整合性のなさにも磨きをかけ、常連の貫禄を見せつけたのであった。

大晦日には、国境を超えたバトンタッチが果たされた。
海外在住の有志から『JINKI -Unlimited-』の追加報告が届いたのである。
ついに年始の魔物がその姿を現すときが来た。
先に美点を挙げるなら、敗北if〇辱に振り切ったHシーンであろう。
ただし、一部シーンがリョナを超えたゴアであり、そのわりにCGでの表現がマイルドな点は賛否が別れた。
そして、数ある難点を一言で現すならば「欠落」である。
第一に、ADVパートの設定変更が存在しない。
つまり、テキストスピード変更・メッセージウィンドウの透過率変更・オートモード・既読スキップ・バックログ等々の標準機能がすべて未搭載である。
CGモードもないため差分は見られず、シーン回想は、シナリオの既読部分にいつでもジャンプできる機能で代用されている。
第二に、ストーリーは、ご都合主義でボリューム不足の尻すぼみ。
「主人公が仲間との共闘や交流を経て成長し、特別な存在となる王道の物語」を目指したことは伝わるが、それも最初だけである。
先に進むほど、必要な描写を削られた形跡が目立つため、おそらく開発途中で時間と資金が尽きたのであろう。
結果、旧主人公含むヒロインたちは、新主人公をほめそやすだけのガヤと化した。
そして、巻き込まれ無双系の新主人公が、いつの間にか仲間から全幅の信頼を得て、世界の脅威への特攻能力を都合よく発揮し、ほぼ独力でシリーズを完結へと導いてしまう。
第三に、RTSパートには、操作性と戦略性が致命的なまでに欠如している。
そのため、RTSの娯楽性の真髄たる「リアルタイムの戦況を、戦略的思考と臨機応変な判断で勝利に導く達成感」を味わえないのである。
UIは後発のコンシューマー版に最適化されており、PCでの操作には不向きでありながら、キーコンフィグすらない。
例えば、ホイールのクリックとスクロールにはそれぞれ必殺技と視点変更が割り振られており、誤操作は必至。
その他の操作も煩雑であり、各ユニットへの指示出しさえ一苦労である。
指示しても、移動系の補助・補正機能が貧弱すぎて、壁に引っかかるか目標を見失うかしての棒立ちが多発する。
これでは、直感的で効率の良い正確な制御には程遠い。
戦略性に関しては、ユニットとマップが単純かつ画一的すぎて考える余地がない。
ユニットのカスタマイズは武器のみであり、それすら攻撃力以外はほぼ無意味。
マップは、狭く、ギミックもなく、使い回しが多い。
やることといえば、基本は逃げ回り、ゲージを溜めて必殺技を放つのみ。
それでいて、戦闘回数は実に100オーバーである。
仕上げに、オールクリアには3周を要する周回前提仕様を搭載。
周回によってのみストーリーが分岐するため、共通ルートにあたる部分は周回ごとに再走させられる。
にもかかわらず、既読テキストの色変えや既読スキップの機能はなく、どこから分岐したかは記憶を頼りに探るほかない。
つまらなさと不便さのアンサンブルに加えての「3回周って徒労も3倍だな」仕様は、数多の購入者をクリア断念へと追い込んだ。
これもまた「Unlimited」と呼ぶにふさわしく、再度のタイトル回収が成る。
プレイヤーとその所有PCを同時に屠らんとする死のダブルミーニングは、修羅の国を震恐せしめたのであった。

その直後の予備期間には、幅を利かせる年始の魔物を迎え撃つべく、年末の魔物が降臨する。
前年に大賞デビューを飾ったWendyBellの『モラトリアム ~ブルーアワー幸せの時間~』、満を持しての参戦であった。
前作『悪魔と夜と異世界と』に続き、本作もすべてが低質。
画面比率は今なお4:3、立ち絵が動くとメッセージウィンドウが消える仕様も健在である。
そもそもボリュームが不足しており、準フルプライスながら容量は1GB未満、ヒロインは2人のみ。
比例してストーリーも薄い。
大部分は味気ない日常の羅列にすぎず、ヒロインたちの異国出身設定も活かされない。
また、主人公の人物評が登場人物たちとプレイヤーとで大きく食い違った。
片や「自他ともに認める協調的な人物」、片や「自己中イキリ」である。
これは、主人公がイキるたびになぜか信頼や好感を得るギャップの積み重ねに由来する。
ヒロインとの出会いからして、
「ナンパ男たちに絡まれている最中のヒロインに『お高くとまってるのは媚び売ってるのと同じだからやめた方がいい』と哲学的な説教をかまし、男に凄まれると即退散」
という行動に出て、ヒロインの歓心を買い、プレイヤーからは嫌われた。
小オチの「某国の姫でした」は見透かされて落胆を招いたが、大オチが住民たちの度肝を抜く。
それが、黙って母国に帰ったヒロインを追い、君主制を廃しての民主化に絡むという超展開であった。
入りは毎度のイキリからであり、主人公が、
「騙し討ちみたいに急に去られて納得できるか!直接話して一発ぶん殴る」
と感情を爆発させると、姫の護衛役に覚悟を認められ、都合よく準備されていた偽造パスポートで即時渡航する。
そのままイキって民主化革命となれば逆に感服するほかないが、実際はイキって要人や国王に気に入られ、ヒロインを口説くのみであった。
過程のほとんどは「様々な障害がありつつも」の一言に圧縮され、実に数十年かけて民主化を終えてから、ようやく2人が再会したところで幕引きとなる。
一連の経緯は、KOTYeがしばし政治学スレの様相を呈するほどの衝撃をもたらし、最終的には
「そして…僕は偽造旅券を手に入れたのだった。
 ずっぷ!ずっぷ!
 ああ…民主化しそう」
と端的にまとめられた。
絵も上等とはいえず、一枚絵は作画崩壊気味であり、それぞれ顔つきや体形がブレている。
特に、長さも太さも可変式の首や腕は不気味さや不安感を掻き立てた。
この内容で、キャッチコピーを「それは青くて一瞬で大切な時間」とするセンスには恐れ入る。
青二才じみた出来に青天の霹靂を盛り込んだ本作は、前年王者の血を継ぐ強者として一目置かれるのであった。

締切間際、貪欲に記録更新を狙うアトリエさくらが食後の下剤を務めた。
『妻・倉崎桜菜の浮気調査 ~寝取られ妻の淫らな下半身事情~』では、マンネリが囁かれ始めたのを察してか、新たな暴挙に打って出る。
過去のエントリー作で見た爬虫類顔を想起させるばかりか、ママⅡ風味すら薫る絵を採用。
最終防衛ラインの「絵はそれなり」も崩壊させ、「もうBGMで抜くしかない」と選評者を絶望させた。

最後に、ヒロインが主人公への恋慕の情や罪悪感を有さぬただのビッチでしかない『略奪された婚約者(フィアンセ)~恋人・真澄(ますみ)と弟の秘密』をもって、新記録となる同年9本のエントリーを達成したのである。

かような記録を生んだ一因として、プレイヤーとメーカーの哀しいすれ違いが考えられる。
ある選評者は、NTRの本質を「アリストテレスが『詩学』において定義した悲劇」と述べた。
それは、不幸に陥る登場人物を鑑賞して哀れみや畏れを募らせ、その感情から悲劇の終わりとともに解き放たれる際の心の浄化を目指す様式を指す。
そしてその実現には、満たすべき重要な要素が複数ある。
十分な感情移入・倫理的な共感・登場人物の感情と行動の一貫性・無理のない展開・適度な予測不能性・有意義な結末である。
こうして並べてみると、アトリエさくら作品に欠けている要素のいかに多いことか。
ただ、月1本の販売ペースとロープライスゆえの制約を考慮するに、先の要素を網羅したNTR作品の制作は至難であろう。
「他人棒がヒロインに挿入されればNTR」と広く定義したNTR風作品の量産がアトリエさくらの生存戦略ならば、NTRの真髄を求める者たちとの溝は永劫埋まるまい。
本格NTRとNTR風の間には、蟹とカニカマ程度の齟齬がある。
蟹と偽ってカニカマを売るのは悪行なれど、カニカマとして提供されたものに対し本物の蟹になれと促すのは理不尽といえよう。
提供者は品質向上と正確な告知に努め、客は情報や価格を踏まえて過大な要求を慎み、双方から期待値のズレを解消していくことが望まれる。

少々話がそれてしまったが、役者が揃ったところで2023年の「アレ」を発表しよう。

次点は、
『星と乙女が占う未来』
『エルフェンキング』
『モラトリアム ~ブルーアワー幸せの時間~』
そして大賞は、
『JINKI -Unlimited-』
とする。

2023年のエントリー数は32本を数え、過去最多を更新。
粗製乱造と低価格化の傾向はいっそう強まり、4000円台までの作品が2/3以上を占めた。
低質でつまらないという身も蓋もない欠点が蔓延ったのも近年同様である。
ただし、徹頭徹尾つまらないまま終わったものばかりではない。
星明かりに閃く暗器のごとく、インパクトと独自性を兼ね備えた一発芸を披露する作品もまた、次から次に現れた。
放精マイフレンド・けつあな確定・突然の去勢・顔面ドアップなど、天然にして多彩な副産物の数々が住人たちの心を揺さぶったのである。
特に『星と乙女が占う未来』は、Hシーンの相手を曖昧にして受け手に丸投げする怠慢により、解釈の余地を野放図に広げ、望まぬ可能性に直面するプレイヤーを量産した。
その斬新さと特異性ゆえに、評価は「大賞級」から「取るに足らない」まで、濃淡が強く表れている。
なぜなら、苦しみの根源は、作中ではなく受け手の脳内にあったからである。
作品の描写は不明瞭で薄く、ただのきっかけにすぎない。
その刺激を受けて何を思い起こすかは、個々人の認知や性癖のあり方、トラウマめいた経験と記憶、そして不安や被害意識の強さに大きく依存している。
例えるならば、「落下のリスクがなくとも高所は怖い」と熱弁する者に、知識に基づいた理解はできても、誰もが我が事として心から共感できるわけではないのと同じである。
対して、苦しみの根源を作品全域に内包するフルプライス作品群も君臨した。
これらは一発芸の枠を超え、一芸の粋に達している。
『エルフェンキング』は、エロと人心の機微に理解が及ばず、いかにもそそる素材を用いていながら、テキストと演出だけで心凪ぐ無感動物語を創造してのけた。
『モラトリアム ~ブルーアワー幸せの時間~』は、見るも怪しいバリエーションを誇る一枚絵を筆頭に、あらゆる面で低質さを維持しつつ、突然の民主化超展開でも話題をさらった。
しかし、それらと比較してなお、『JINKI -Unlimited-』がもたらす辛苦は広範にして根深い。
盤外では進行不能バグ・デバッグモード・絶え間ないGPUへの過負荷で畳み掛け、本編は、尻すぼみのご都合シナリオと戦略性なきRTSで盤石のつまらなさ。
欠陥コンフィグはプレイ環境の最適化を許さず、プレイヤーに無駄な負担を延々と強いる。
広げた大風呂敷に中身はなく、それでも完成を目指した理想の姿は垣間見えるだけに、ひときわ悲哀が漂う。
かように、折れる方向に心を動かす力は大きく、しかも的確な角度で、じっくりと時間をかけて発揮された。
その負の屈強さは、本年において最も幅広い理解と共感を得たのである。
往生際は悪かったが、それは最期の瞬間まで己の作風を貫かんとした結果と信じたい。
さながら、芸を抱いて腹上死すると息巻いて舞台で果てた老芸人の大往生。
全盛期には遠く及ばぬ醜態なれど、天晴な死に様にして生き様であった。
ゆえにKOTYe2023大賞の栄冠は、偉大なるマインマエストロの遺作に捧ぐ。
さよならのかわりに。
「ありがとう」の花束を添えて。

15周年の節目に、KOTYeの今までとこれからに思いを馳せる時間をいただきたい。
開闢当初は、何をもってクソゲーを定義し、優劣をつけるかについて、それぞれが持論の正当性を主張しあうのが常であった。
真剣な激論は幾年も繰り返され、ときには決着がつかない年さえあった。
そうしたクソゲー観の切磋琢磨を経たからこそ、身に沁みて理解できた。
誰かの理想は別の誰かの地雷であると。
自分には自分の真実があるように、他者には他者の真実があると。
真実は人と癖の数だけ存在するのである。
にもかかわらず唯一絶対の基準を探し求めるのは不毛であり、ましてや、自分の基準こそ万人の規範と疑わないのは驕りにほかならない。
ゆえに、自分の価値観に基づく自分だけの基準を磨き、他者のそれも等しく尊重する姿勢が望まれるようになった。
いつしか総評にはすべてのエントリー作品が載るのが通例となり、クソゲーのリストではなく、その年を振り返る目録にして総決算のような位置づけとなった。
クソゲーと明言して決めているのは「一番のクソゲー」すなわち大賞のみであり、それとて相対的な判断にすぎない。
こうした現状を示す好例として、残置しておいたエントリー作品を紹介しよう。
それが『サクラノ刻』であり、攻略不可ヒロインの多さと後半の展開に物言いがついた。
一方で、2023年の最優良エロゲーを選ぶとするなら大本命となるだけの圧倒的好評を獲得している。
しかし、それを理由にエントリーが拒絶されることはなく、クソゲーか否かジャッジされることもない。
ただ「定められた手続きに従って自身の不満を表明した者が1人いた」と記録されるだけである。
このエントリーが、「KOTYeは厳正なるクソゲー審査の場」なる幻想を打ち砕いてくれると期待したい。
では審査せず何をするのか。
それは自他の苦しみとの対峙と昇華。
エロゲーへの不満という「悲劇」を通して感情を解き放ち、心の浄化を目指すのである。
当事者は選評によって自らの体験と感情を整理し、表現する。
住民は傾聴し、問いかけ、共感したならそれを示す。
共感できずとも理解に努め、そんな不満もあると認知して受け入れる。
さすれば、未知の苦しみがひとつずつ既知に変わってゆく。
実体験ではなく、想像によって感情を模倣した贋作にすぎないとしても、そのストックを増やすほど、精神は様々な怒りや悲しみに対応しうる柔軟性と強靭さを得る。
それこそが、苦しみを解き放ち、ときに笑いへの昇華すら成しうる力なのである。
ただし、何のお墨付きも与えない代わりに広く参加を受け入れる方針は、危うさも孕む。
半ば無法ゆえの自由は、破天荒な面白味の源泉なれど、ひとたびバランスが崩れれば途端に転覆に至る荒波でもある。
個々の性癖や価値観がせめぎ合い、異なる信条や思惑をも飲み込んで渦巻く混沌の魔海の上で、自由や正義に酔わず、精神の均衡を保って自身の筋を通せるか。
語り手として、聞き手として、傍観者として、KOTYeに何を見出し、どういった立場に身を置き、いかに振る舞うか。
KOTYeの舵取りは、関わる者たち一人一人の仁義に委ねられている。
されど、ではなく、なればこそ。
KOTYeよ。
誰もが遠慮なく、自身の悲劇を語りに来られる避難所であれ。
怒りも悲しみも、語り合って解き放ち、前向きに笑い流せる隠れ家であれ。
果てのない闇も繰り返す後悔も乗り越え、ともに銀燭の明日を目指す船であれ。
そう切に望むとともに、かくあるべく微力を尽くす所存である。

末筆となるが、戯画謹製の名作『バルド』シリーズの文言に願いと覚悟を託し、KOTYe2023の結句として書き刻む。
「Don't believe THE TRUTH,
 Believe YOUR JUSTICE and YOUR HEART.
 さあ、お前のJINGI……貫いてみせろ!」
最終更新:2025年06月29日 18:35