10:総評2:2023/02/28(火) 23:07:01 ID:???0
修羅の国の戦いを楽しめる者は幸せである。
心したたかであろうから。
2021年のクソゲーオブザイヤーinエロゲー板(KOTYe)は、『Cuteness is justice』が示した力なき熱意の悲劇性を以って決着。
虚無に飲まれゆく黄昏の大地を、またクソゲーが駆け抜けていった。
輝ける時は戻らぬとしても、冒険譚は語り継がれねばならない。
それ故に、名もなき勇者たちの語る次の物語を伝えよう。
「総評審議が終わるまで年度は明けない」との考えが浸透しつつあるためであろうか。
近年のKOTYeにおいて、新年度の本格始動は遅い。
2022年もその例に漏れず、物語が始まったのは5月末。
服を着た白うさぎが姿を現し、修羅の国へと通ずる奈落の穴を開放する。
その途端、開幕を待ちかねていたかのようにエントリーが続発し、その数は1ヶ月で5本に達したのであった。
一番槍を努めたのは、新ブランドLuna PrismのWデビュー作、その片割れたる『官能小説家』であった。
ブランドデビュー作を2作品同日発売という景気のいい話に反し、シナリオ・CG・システムのすべてが低質であり、お粗末ゲーあるあるのサンプルマーケットとでもいうべきしけた内容を誇る。
宣伝文句は「官能小説に憧れた若妻と官能小説家のNTR官能体験」となっているが、ストーリーはNTRというよりただの不倫ダイジェスト。
開始早々ヒロインから誘われ、ずるずると関係を続けるだけである。
CGは差分が少なく、定番の副作用としてエア挿入や射精前白濁がきっちり発生するのはもちろんのこと、メインテーマたる「同意の上での疑似レ○ププレイ」で相手の反応が乏しいという致命的な問題を引き起こしている。
システムは無料のノベルゲームエンジンむき出しで、貧相かつ不安定。
バックログは字が薄すぎて読みにくく、簡素すぎるコンフィグには音声の音量変更すら存在しない。
極めつきは、主人公の名前が枠を超えて入力可能という懐かしい不具合である。
これにより、伝説のオノマトペ「ずっぷ!」が時を越えて呼び起こされ、再びメッセージウィンドウにその姿を現した。
疑似レ○プに失敗した代わりに疑似ずっぷを成功させた本作は、スターターピストルの役目を見事果たしたのである。
二番手は、Hendingの『リンパに ATATA! ~メス牡蠣ミルクどぴゅらっしゅ~』である。
抜きゲーなのでストーリーは二の次とはいえ、わからせを称しておいての即快楽落ちは看過できない。
幕間においても、「雑な罵倒を受けた主人公が、ヒロインたちのショート動画を荒らして反撃」などの実にくだらない茶番劇を見せられる
また、Live2Dを採用しているものの、動くエロシーンはわずか。
配信動画を無駄に動かしてお茶を濁しており、選評者をして「抜くより溜まる」とまで言わせたのみならず、TikT○kに対する風評被害までもが懸念される事態を招いた。
続いて、祖母どころか曾祖母もので未開の地を切り開き続けるアパタイトにより、競合も需要もなさそうなブルーオーシャンが新たに発見されてしまった。
それこそが『イキ過ぎ異文化交流 ~清楚人妻NTR堕ちっ!~』である。
パケ絵には、地球上にはギリギリ存在しそうにない謎の部族のようなヒロインが描かれ、発売前から好奇の目を集めていた。
門外漢を寄せ付けないパケ絵バイバイ仕様、「わかる貴方へ贈る意欲作、素人お断り」との触書からは親切心が伝わってくる。
しかし、それでも選ぶ玄人に刺さるかといえば疑問である。
パケ絵に描かれた状態のヒロイン、通称「完全体」はオチ扱いで、タイトル画面とアイキャッチを除けばエピローグにしか現れない。
さらに、清楚から完全体までの進化の過程は、徐々に染まっていくのではなく、脈絡のない電光石火のキャラ変である。
最初に本番をおねだりされてすぐに襲う側になり、清楚人妻からビッチギャル、さらにオラオラヤンキーに変化。
そして完全体は変にリアルで、「蝿が飛んでる」などのうわ言を口走る。
展開が一応NTRと言えるのはこのエンディングだけなのだが、リアル完全体の胸糞悪さの方が強い。
無論、NTRの鬱や胸糞とは異なる感情である。
そして、文化交流をテーマとしながら文化的描写にも乏しい。
パッケージ詐欺・タイトル詐欺に該当するとの声も上がったが、そうではなく狙い通りだというのであれば、素直にて白旗を上げて頭を下げるほかあるまい。
四番手には、一番槍を努めたLuna PrisのWデビュー作の残る一方、『羞恥隷嬢学園』が襲来した。
お粗末さを踏襲しつつも、苛立ちのツボを突く小技を散りばめて差別化している。
ゲームシステムとその問題も共通しており、名前による本文侵食も相変わらず。
いわば双子なのでそれも当然、そう思わせておいて、SAVEとLORDのアイコンを入れ替えるサプライズを仕込んでプレイヤーを苛立たせた。
ライターは違えど、ヤマもオチもない短すぎるシナリオも共通である。
さらに、複数ヒロインの調教ものにもかかわらず、ヒロイン同士の交流も、同時調教のシーンも一切ない。
ひたすら一人ずつ調教するシーンが続いて終わりである。
ならば攻略も同じヒロインを選び続ければ容易、と判断したプレイヤーを「最終日に告白されるイベントだけは別のヒロインを選ぶ必要がある」という意味不明な罠が待ち受ける。
つまり、ほぼ関わっていないヒロインに告白されてから本命と結ばれる、そんな奇妙な流れでしかエンディングには到達できない。
差分の少なさもやはり共通しており、明らかに全裸のCGに対し、地の文でスカートとソックスだけを残した部分着衣と言い張る裸の王様戦法を発動させた。
かくしてWデビュー作は、あわれ共倒れとなったのであった。
そして五番手は、CG削減だけを目的としたクローズドサークルなのは毎度のことながら、下水管からスライムが湧き出るような射精音だけは斬新だった
『南国プリズン ~漂流した無人島が子作りしないと出られない島だった件~』
が努め、上半期を締めくくった。
しばしの休息を経て迎えた8月。
前作と共通ルートを重複させた分割商法により、前作の購入者には割高感を、未購入者には前作用の伏線が謎のまま残るモヤモヤを与えた『保健室のセンセーと小悪魔な会長』
が、2022年の第二幕となる夏季攻勢の幕開けを告げた。
夏季を支配し主役を務めたのは、似非NTRの雄アトリエさくらであった。
本年は自称NTR作品がすでに2タイトル参戦しており、指定席を奪われる危機感からか、多重連続エントリーという大掛かりな仕掛けに打って出たのである。
まずは最初の刺客として『寝取られ姉妹、美亜と悠美 ~繰り返される恋人強奪~』を投入してきた。
本作は、NTRの前提たる人間関係の描写が不十分である。
まず、NTR前の状況は「前回のあらすじ」未満の簡潔すぎるプロローグで片付けられる。
流れは「姉妹ヒロインの姉の方に浮気されて女性不信になった主人公は、そのあと再会した妹の方の献身的な支えによって立ち直りつつある」なのだが、作品内での描かれ方は「冒頭から浮気現場の回想が突然始まってあっさり終わり、3クリック後にはもう妹とヤッている」という高速展開である。
NTR後においても、今カノである妹は影が薄く、特に前半は出番が少なすぎて、人物像すら曖昧なまま話が進む。
一方、元カノである姉は、出番はあれど印象が悪い。
再会するなりタダ飯をたかり、間男に飽きたと言って主人公とよりを戻そうとし、挙句には浮気しても変わらず好きでいてほしかった素振りを見せるなど、身勝手さばかりが目立つ。
これでは、今カノのどこが好きかも、元カノをなぜ好きだったのかも伝わらずで、主人公への共感も生じない。
そしてクライマックスでは、取ってつけたようなメロドラマが展開される。
さながら「意に沿わぬ結婚式に臨む花嫁を土壇場で奪い返す」ようなノリと演出。
未練を断ち切り主人公の背中を押す姉。
現場に乗り込む主人公。
泣いて主人公の胸に飛び込む妹。
あてが外れつつも潔く身を引く間男――
あるいは名シーンたりえたかもしれない。
ただしそれは、現場が「間男と妹が全裸で真っ最中のホテルの一室」でなければの話である。
さらにダメ押しとして、去り際の間男が主人公にも「(俺とシたくなったら)いつでも来ていいからね」と、さりげなく爆弾を落としていく。。
最後にプレイヤーの感情をかき乱すことには成功したが、NTRに求められるそれとは種類が違うのであった。
アトリエさくらによる似非NTRの夏は続く。
第二弾は『今夜もあいつに抱かれる彼女 ~快楽に溺れていく愛する彼女・美織里~』
本作はただ「ヒロインが重度の浮気性」なだけであり、NTRと浮気の区別がついていない節がある。
そもそも、主人公と付き合い始めた時点ですでに二股をかけており、元の彼氏とはそれがバレて破局。
その破局直後に今度はセフレを作ってそちらにハマり、露呈すると開き直って主人公を捨てようとするが、食い下がる主人公に根負けし、逆にセフレの方を切ったところで一応のハッピーエンドとなる。
とはいえ、性格上すぐにまた浮気をするに違いないと推察され、一連の流れは「NTRウロボロス」と名付けられた。
さらに、内容だけでなく見せ方もよろしくない。
主人公が「過去に発生したヒロインと他の男とのまぐわいを、時空を超えた正夢として見る」という斬新かつ悲惨な能力に覚醒しているため、ヒロインの浮気シーンが矢継ぎ早に垂れ流されるのである。
しかも冒頭のシーンは、主人公とヒロインが付き合う前、当時の彼氏とのものであり、NTRでもなんでもない。
これにより、製作者は「ヒロインと竿役の性行為を主人公が見さえすればNTR」だと勘違いしているのではないかとさえ疑われた。
唯一、「検診の視姦はまだだったはず。」というタイプミスでわずかに潤いを生み出せたのが救いであろうか。
その3日後には、さらなる選評が着弾。
アトリエさくらは発狂状態に移行し、クソの弾幕が厚みを増していく。
第三弾は『愛する恋人を大嫌いな旧友に寝取られた件 ~上司で恋人の強気な彼女』である。
主人公はウジウジ系平社員、ヒロインは強気な年上有能上司。
竿役は元イジメっ子のハイスペエリートで、立場を利用してヒロインに関係を強要する。
ここまでは何の問題もなく、むしろいい意味でテンプレ通りといえよう。
問題は、それが公式サイト等のゲーム外でざっくり確認できるだけで、本編での掘り下げがまったくないことである。
ヒロインとの馴れ初めであるとか、竿役が主人公をどういじめていたのかなど、人間関係が伝わる具体的なエピソードは皆無。
ヒロインとの関係すら「先輩だけど、僕の恋人だ」の一言に凝縮するのは、いくらなんでもテンプレの効力を過信しすぎではないか。
内容も、求められているのは「ヒロインが徐々に快楽堕ちしていく過程」にも関わらず、見せられるのは「電光石火の早堕ちと、常軌を逸した言動」である。
序盤早々、竿役に「なんでもするなんて言うけど、チ○コ舐めてって頼まれてもできないでしょ」と言われるやいなや、即断即決でしゃぶってドン引きされる。
そのあとは身も心もマジカルチ○ポの虜になり、竿役と協力して主人公を追い込む側に転向。
それでも結婚は主人公としたいとぬかしつつ、しかし浮気三昧の日々は堪能し続け、しまいには両方と結婚したいと悟りを開いて幕となる。
その精神構造は、「理解不能な心理描写を縦横無尽にまき散らす狂戦士のよう」と評された。
一方で竿役は、即フoラ時の「おいおい……本気にしたのかよ。」というリアクションや、ヒロインに対する「世間からバッシングされるレベルの浮気クズ」という的確な評価で共感を集めた。
それだけでなく、名字のルビも漢字そのままという笑いどころまで作り出し、典型的な憎まれ役が一番マシな登場人物とされる皮肉な結果となるのであった。
未曾有のコンボはまだ途切れない。
『寝取られの教壇 ~教え子に奪われた愛する恋人』が発売後2日で即エントリーを果たし、同一メーカー作品の連続選評着弾記録を4に伸ばしたのである。
これまではヒロインの言動が特に問題視されてきたが、本作では「ヒロインよりも主人公が奇怪」という新技をひねり出してきた。
寝取られ妄想で焦りを募らせ、その場の思いつきで発作的な奇行に走るその姿は、理解不能を超えて恐怖を振りまく。
竿役の恋人から交際状況を聞き出すため、通っている学校に直電して本人を電話口に呼び出させたり、勃たなくなった己がムスコを強制起動させるべく、学校のグラウンドで露出してしごき出したりと、とても勤続12年目の教師がすることとは思えない。
さらに、EDの原因は浮気されたショックによるもの診断されると、
「いっそ恋人の浮気で興奮するしか……」
と妙にポジティブな発想をし、寝取られ性癖が目覚めた際には
「まさか……。俺は、寝取られた姿を想像すると……勃起する?」
と別ジャンルの主人公らしさを発揮。
プレイヤーの追随を許さない天衣無縫の心理描写をも見せつけた。
ヒロインにも共感しかねる部分は多々あるものの、主人公と比べると印象が薄く、概ねスルーされている。
結果として、主人公は自らを犠牲にしてヒロインの名誉を守ったのであった。
ようやくNTRクライシスが収束したときには、もう秋祭りの季節を迎えており、本年は狂ったお茶会が開催される運びとなった。
そのオープニングイベントにて、異物混入事件が発生する。
前年『エルフのお嫁さん』において、異世界設定と現代要素を潰し合わせたNorth Boxが、『オトカノ ~おとうとの彼女が文系で強め!?~』で同じ轍を踏んだのである。
本作は、彼女と実姉の精神入れ替わりによってエロのバリエーションを増やした抜きゲーである。
見栄えはするのだが、それだけでは払拭しきれない様々な不快感が、多彩なシミ汚れのようにこびりついている。
まず主人公のモノローグが、ややキモい方向にクセが強い。
微妙に古いパロネタや、顔文字を矢印で指し示して「こんな顔」で済ませるなど、多用される安い表現に出くわすたびに失意の鼻息が漏れる。
そして、それ以上に好きになれないのが実姉であり、「弟が好きすぎる一方で復讐心も抱いている」というふたつの感情が消化不良を起こしている。
入れ替わりの原因は自分なのに主人公に責任転嫁するなど、散見される身勝手な恨み節はキャラクターへの愛着を妨げており、復讐心は不要な設定と断ぜられた。
また、入れ替わりの真相にはちょっとしたどんでん返しが仕込まれているが、伏線の張り方が露骨かつ執拗で、オチが見え見えを通り越して苛つかされる。
さらに、前作でも指摘された「HシーンにそぐわないBGM」は顕在で、なおかつ一歩踏み込んでタイトル画面に流用されるまでになった。
最後の砦であるCGにしても、ぎょっとするほど低質なものがわずかながら混じっており、絵だけは良いとも言い切れなくなっている。
前作の悪いところを踏襲しつつ新たな欠点も散りばめられた本作は、選評者をして「正統退化作品」と言わしめた。
波乱の幕開けとなったお茶会においてマッドハッターの役目を担ったのは、
しるきーずこねくとの『ホームメイドスイートピー』であった。
疑似家族ものでありながら人間関係の描写が薄っぺらく、キャラクターたちには軋轢も葛藤もない。
なりゆきで集った他人同士が、家族ごっこにシレっと順応し。
その家族同士でスルっと肉体関係になり。
各々が抱える昏い過去は、絆パワーでフワっと乗り越える。
その本質は、いわば成れない香車であり、ただ筋をまっすぐなぞる役目だけを与えられた駒にすぎない。
さらに、プロットへの肉付けは非常識かつ泥縄。
具体的な手順や方法、実現性を全く考慮しない行き当たりばったりの行動に、それでも必ず結果がついてくるパターンの繰り返しで話が進む。
その傾向は冒頭から顕著であり、要約すると、
「ある日、大学4年生の主人公が独り立ちをふと思い立って生まれ故郷に帰るも、何の準備もあてもないため住むところすら見つからず、道すがら捨て幼女を拾い、一緒に彷徨っているうちにシェアハウスに辿り着き、そのまま2人とも入居する」
といった具合になる。
幼女のくだりには「警察に任せる」という常識的な選択肢も用意されているが、そちらを選ぶと謎の声に失望され、超常の力によって物語の開始時点へと強制ループさせられてしまう。
もはや非常識こそが本道である。
また、雑な設定の多さからも、製作者の都合や力量不足が透けて見える。
「親に捨てられた哀しみで将棋の捨て駒が苦手になる」やら「家出が極まりすぎて、親に関する記憶すら薄れて曖昧になっている」やら、話の前フリからしてこじつけの粋を出ていない。
さらに、「原因不明の不妊で治療を受けていた処女が、フラッシュバックで意識を喪失して病院に搬送され、そこで不妊の原因はトラウマだと即判明」する無茶な展開は、未亡人前提のシナリオから未亡人設定を削除した弊害ではないかと推察された。
総じて説得力が足りないないので納得に繋がらず、共感も得られない。
過去の例でいえば「何が起ころうとチーズを買いに行く」と同種の構造である。
最短距離で物語を紡ぐために常識と因果律が捻じ曲げられ、不自然で満たされてしまった世界が再臨し、またも修羅の国を揺るがしたのであった。
狂ったお茶会脱却のために超えねばならない最後の壁は、Lump of Sugarの『ゆまほろめ 時を停めた館で明日を探す迷子たち』であった。
公式ジャンルは「明日へ歩き出すためのADV」で、気が付いたら「時を停めた館」に閉じ込められていた主人公が、同じ境遇のヒロインたちと脱出を目指す話である。
しかし、全体のおよそ7割を占める探索パートは、そのボリュームに反して極端なまでに内容が薄い。
まったく進展しない探索とギスギスする小休止、そのふたつを延々と繰り返すだけなのだから当然である。
やろうと思えばいくらでも文章量を水増ししうる禁断の手口であり、これにより本作は「君と廊下を歩むADV」に成り果てた。
この無間地獄にどうにか耐え続けていると、いきなり取ってつけたような連続Hシーンが勃発し、シーン数のノルマ回収が終わるまで探索が完全に棚上げされてしまう。
そのままの勢いでエンディングに至ってもなお、トゥルー以外のルートでは核心に迫るような進展はない。
ヒロインたちがそれぞれ抱えている悩みを、主人公が熱い気合で吹き飛ばし、それで解決したことにする根性論エンドである。
トゥルーエンドでは大風呂敷を畳み切った感を醸し出せているが、途中での匂わせがかなり露骨なため、オチは概ね予想の範疇であろう。
本作を4行で表現するなら
「変な館に迷い込んで出られない。
意中のヒロインと一緒に探索しよう。
ずっぷ!ずっぷ!ずっぷ!
ああ…出られそう」
といったところか。
確かに中身がなければ破綻もしないが、思いついたとしても実行には蛮勇を要する技術をこれでもかと振るっている
本作は発売4か月前に早々とマスターアップを宣言していたため、本来なら結構なことのはずが、逆にもう少し時間をかけるべきだったのではとツッコミを受けたのであった。
秋の山場も一段落したかに見えたそのとき、抜け目なく機会を伺っていたアトリエさくらから、またも刺客が送り込まれてきた。
発売翌日に即参戦したのは『裏切りの寝取らせ 心まで堕とされてしまった最愛妻・愛依奈』
本年5本目のエントリーであり、かのsofthouse-sealとアーベルソフトウェアの持つ記録を塗り替えた。。
本作は、寝取らせを半ば無理強いされた者が、ためらいながらも次第にハマって堕ちていく様子を描いている。
ようやくながら、「堕ちる過程を描く」というNTRの基本は実現されたが、今度は描く対象を間違えてしまった。
というのも、堕ちるまでの心理が描かれているのは、ヒロインではなく竿役なのである。
妻への説得が描かれるのは最初の1回のみ。
それすら、主人公がいきなり竿役の方から説得しにかかって「先に奥さんに話を通すのが筋」と断られての対応である。
以降は、竿役と差し向かいでの会話中に「妻と話はした」と伝えるだけ済ませ、竿役への口説きとその反応に尺を割く。
エスカレートしていく要求に渋る竿役が折れるまで熱心に説き伏せ、最終的には3Pにまで持ち込むため、主人公は寝取らせを名目に竿役を狙うゲイなのではないかとの疑念すら抱かれた。
ここにきて、アトリエさくらはついにNTRのパラダイムシフトをも成し遂げたのである。
年の瀬が差し迫る頃には、普通に低質で特筆すべき点が少ないためにエントリーが保留されていたものが、俎上に載せられ始めた。
そのひとつが、Calciteの『気になるあの娘はえろちゅーばー!』である。
常連ブランドだけあって基本的な低品質さをしっかり確保している中でも、拙速を極めているのが最大の特徴といえる。
その傾向は冒頭から顕著であり、3人のヒロイン全員が顔出ししていない有名配信者で、主人公が素性に気づく流れがあまりに力技すぎるのである。
教室でクラスメイトと会話中に、
「声が枯れている+歌い手が昨日収録だと言っていた→同一人物?」
続いて、脈絡なく友人を紹介される話になってすぐに会い、
「最近忙しいらしい+ただの学生が忙しい訳がない→多忙な有名配信者?」
その帰りに近所に住む人妻に遭遇し、開口一番配信の話を振って、
「配信について詳しい+アニメは操作できないから好きじゃない→ゲーム実況者?」
といった具合である。
このように主人公は屁理屈と妄想のハイブリッド思考の使い手で、視野も見識も狭いが、世界がそれ以上に狭いためすべて正鵠を射てしまう。
Hシーンへの導入にしても、「正体がバレたら学園にいられなくなるから口止め料代わりに体を触らせる」といった、根拠に乏しい展開ばかりである。
メーカーのご多分に漏れず、「服がそれっぽいだけの低級コスプレAV」の域は出られなかった。
年内最後に現れたのは『ギャル妻・アンリの寝取らせプレイ 他の男の物を咥え、楽しそうに報告をする俺の妻』
アトリエさくらが6本目のエントリーを果たし、自身の持つワールドレコードを更新した。
本作は、最低限寝取らせエロゲの体裁は保たれており、登場人物の言動も概ね理解できる範囲に収まっているが、単純に質が低く量が少ない。
竿役を3人にしたためにキャパオーバーが発生したのか、シナリオは薄くシーンは短く、あろうことか竿役の立ち絵すらなくなっている。
例によって人物像の描写もほとんど無いため、主人公は竿役と知り合いなのに、プレイヤーには外見すらわからないという乖離を引き起こした。
また、同メーカーの作品には竿役が一番まともなパターンが散見されるが、本作では「良いやつとして扱われているのにウザい」と逆を突いている。
寝取らせプレイを堪能して動画撮影と編集までしていたのに、それが終わると
「本気で俺が寝取るつもりだったらどうすんだ」
などと、主人公夫妻の倫理観について苦言を呈するのである。
その様は、賢者タイムに風俗嬢を叱る厄介親父ムーブそのものであり、良いこと言ってます感溢れるBGMがさらに萎えを加速させた。
奇策ばかりでなく、確かな地力もあるということも証明してみせたといえよう。
年間を通して存在感を示し、「感情移入阻害・ただの浮気性・神速の早堕ち・奇人主人公・竿役堕とし・少量低質」の似非NTRヘキサグラムを完成してのけた功績は、負の金字塔として史に刻まれたのである。
明けて1月の予備期間には、エロゲー福袋に封じられていた年末の魔物が解き放たれた。
それこそがWendyBellの初参戦タイトルとなった『悪魔と夜と異世界と』である。
CGもBGMもシステムも時代遅れで、10年眠っていた没素材をリユースしたかのような野暮ったさを備えている。
CGは、令和を感じさせない絵柄、縦横比が4:3、貧相なアクション絵、CG数にカットイン用の絵をカウントして水増しといった素養を取り揃えているのみならず、キスシーンに至っては「グロ画像」「強欲な壺」とまで評された。
システムは、ただ古臭いだけではなく、立ち絵が動く演出のたびにメッセージウィンドウが明滅する仕様によって読みにくさを助長。
そしてシナリオは、10年前のラノベをなろうの石ころが最終劣化コピーしたような出来である。
表現やストーリー云々の前に、まず基本的な文章作法がなっておらず、改行や読点には違和感がつきまとい、あらすじの時点で日本語がおかしい。
文章表現も拙く、自明なことをしつこく繰り返す一方で必要な情報は提示されない。
前者の例としては、わかりきった主語を毎行のように表記する、「痛みが俺の痛覚を襲う」といった二重表現を使う、同一の状況説明や心理描写を3行の間に2回繰り返す、などが顕著である。
逆に描写と説明が足りない部分も多々あり、主語省略も重なって誰のことかわからなくなることさえある始末。
さらに三点リーダーの乱用も目立つが、そもそも想像で補えるだけの材料が揃っていないため、行間には何もなく余韻も生じない。
ストーリーはというと、悪魔と天使の対立を軸に、既視感のある設定や展開の表面だけをなぞり、それを継ぎ接ぎして作られている。
バリエーションも乏しく、例えば戦闘の勝ち方は、神話に出てくるような武器を借りて圧倒するか、誰かが折よく助けに来るかの二択しかない。
恋愛要素にしても、ヒロイン4人中3人は最初から愛情&信頼MAX、メインヒロインの悪魔娘は「アトリエさくらに出てきそう」とまで言われる不快系である。
その悪魔娘は便利すぎる潤滑剤でもあり、前述した武器の貸与をはじめ、怪我の治療・魔力回復・他者変身・記憶の部分消去・戦闘被害の修復・テレポート・時間跳躍を自在に行使し、どんな強引な展開も実現可能にしている。
そして本作の真骨頂は、そうしてテンプレやご都合主義に甘えながら、同時にそれらを執拗なまでに皮肉るか否定する、恩知らずなパラサイト根性にある。
「まるでご都合主義の物語」だの「安っぽいラブコメ展開は嫌い」だのと、まさにそうした展開の最中に挟んでくるため、シラケた心に幾度となく冷水を浴びせられ、その度に呆れや苛立ちまでもが芽吹くのである。
総活として、典型ともいえるイベントをダイジェストで紹介しよう。
“敵に人質を取られて竜との戦いを強要され、絶体絶命の主人公。
「…………中二病アニメだったら、ここで覚醒イベントだろう。
しかしこれは物語じゃない、現実だ。
俺に出来ることは……
悪魔に力を借りることだけ。
……正直、他力本願な自分が嫌になるよな。
見てるんだろ?敵を殺せる武器をよこせ。」
応答した悪魔娘によって竜殺しの剣『アスカロン』が転送され、主人公はあっさりと竜を両断する。
「ううううっ……竜からのダメージと魔剣の反動で……身体が、動かない……」
そうまでして助けた人質は、最初から悪魔娘の擬態でした(コメディタッチのBGM)
敵を煽る悪魔娘「ねーねー、どんな気持ち~♪」
主人公は騙した償いとして治療を要求して即時回復、そして次の戦いへ――”
本作のプレイ感の一端が伝わったなら不幸、もとい幸いである。
以上でエントリー作品の紹介をひとまず終え、これより本年の結果を発表する。
次点は、
『ゆまほろめ 時を停めた館で明日を探す迷子たち』
『ホームメイドスイートピー』
そして栄えなき大賞は、
『悪魔と夜と異世界と』
とする。
2022年のエントリー作品群は、とかく「地味で映えない」傾向が強い。
目の覚めるような衝撃はなく、飽きと退屈が緩やかに心をしおれさせてゆく、そんな作品にまみれた一年であった。
個々の作品紹介で挙げられた問題点には、「その程度ならよくあるし気にならない」という印象を与えるものも多いと推定される。
とはいえ、なにも粗探しがしたいわけではない。
つまらない物話には没頭できないから粗に気付いてしまい、読後に不満が残るから原因究明が始まってしまうのである。
そしてもうひとつの傾向として、ジャンルの画一化が挙げられよう。
RPGやSLGといったゲーム性の強い作品が姿を消し、全エントリー作品が純粋なノベルゲームのみとなった。
性質のばらつきが少なくなり、「いま最もクソなアダルトノベルゲームとは?」という、より狭まった基準で雌雄を決する事になったのである。
次点以上の作品は、こうした傾向と基準を踏まえて選定した。
退屈の塊である『ゆまほろめ』は、絵とエロに全振りする決断がおそらくは正しく、しかし正しすぎるがゆえに、現実の厳しさを突きつける残酷さも内包していた。
粗の塊である『ホームメイドスイートピー』は、一貫してズレた常識と強引な展開が大量のツッコミどころを生み出し、ネタ性でいえば本年随一であった。
そして『悪魔と夜と異世界と』は、退屈と粗の両要素をもう一段階掘り下げ、両者を上回ってみせたのである。
退屈さでは、使い古され尽くした展開の連続に留まらず、逐一否定しながら行うことで不愉快さと両立させでみせた。
さらには、テンプレの扱いが雑で粗が目立つが、そもそも文章作法が稚拙で読みにくい。
いわば「魔法詠唱なんてダサいと言いながら、本当にダサい呪文をボソボソ唱えて何も起こらない」かのような醜態である。
かつて「KOTYe史上最低の文章力」と称された『LAMUNATION!』ですら、「誰が何と言おうとこれが面白いんだ」という意志は貫き通し、一部ユーザーの支持と好感を獲得している。
対して『悪魔と夜と異世界と』は、面白いとされているものを逆手に取るでもなくただ否定し、それでなにかを成した気になっているだけである。
幼稚な呪文しか紡げないなら、せめて堂々と声を張って詠唱しなければ、人の心を動かすような魔法など発動するはずがないではないか。
ここに、「KOTYe史上最低の文章力」は更新されたのである。
これを以って、『悪魔と夜と異世界と』を2022年の大賞たる幼ごころの覇王と認め、新たな碑に名を刻むものとする。
「クソゲーとは何か?」
我々が長らく向かい合ってきた問いであるが、実はその答えの一端はすでに、KOTYeにおける議論の前提として掲げられている。
それが、
「自分がクソゲーだと思ったらクソゲーです。しかし他の人もそう思うかは別です」
との文言である。
実際に本年も、相対的に見て完成度が高い部類に入るであろう作品に対しても、どうしても不満が拭いきれないとして選評が届いた。
『ジュエリー・ハーツ・アカデミア -We will wing wonder world-』は、しょぼすぎるバトル演出と本筋からの恋愛&エロ要素除外が、
『AMBITIOUS MISSION』は、ある登場人物の超人設定が世界観をぶち壊しかねないほど突出していることが、それぞれ主な問題点として指摘されている。
これらに対して、全面同意はできかねるとする声も数あれど、意見そのものを間違いとして否定する者はいなかった。
なぜなら、娯楽作品やその批評に絶対の正解などないと弁えているからである。
娯楽作品に限らずとも、真実とは切り抜かれた事実の私的解釈にすぎず、人それぞれに異なる。
そして事実とは事象そのものであり、そのすべてを客観的に観測できる者などいないのである。
そういう意味では、人は誰しもが自分なりの真実や錯覚を積み重ね、自分だけの世界を作りながら生きていると言えはしまいか。
なればこそ、異論をただ排除するのではなく、異論を通じて自分の見識や考え方を広げ、相手の考えや価値観を理解しようとする道を我々は選んだ。
そのために己の言葉を、語彙力を、表現力を、地道に磨き続けているのである。
「クソゲー」というワイルドカード的な罵倒語に甘えることなく、自戒を込めてその名を冠する奇祭に参加する中で、これからも「クソゲー」を通じて自他と向き合ってゆきたい。
ひいてはそれが、様々な感情に名を与え、正確に把握し、整理して、解決へと導く力になると信じるがゆえに。
最後に、ある悪魔の言葉を拝借し、KOTYe2022を締めくくるとしよう。
「アンタの作る最高に超良い世界にゃあクソゲーはあるかい?」