揺れる想い、崩れる世界
~宮野宅 10:15~
「遅い」
美鈴は二階にある自分の部屋でイライラしていた。
それもそのハズ。
8時には彼氏から連絡がくることになっている。
すでに10時を過ぎており、今まで一度も約束に遅れたことのない彼からは信じられないことだった。
メールしても返事が来ない。
電話をかけても出ない。
それらは美鈴の中に不安を積もらせていく。
(何か事件に巻き込まれたとか?
…さすがにそれはないか)
不吉なことを考えて、すぐにそれを否定する。
しかし、一度想像してしまったことは簡単には忘れられない。
美鈴はその不安を振り払おうとテレビを付けた。
この時間には、くだらないワイドショー程度しかやっていない。
…ハズだった。
立派なスタジオと、アドリブのような動き。
テレビ越しでもその慌ただしさが伝わってくる。
それは緊急で報道されているニュースだった。
見てはいけないと、なにかが警告する。
だが目をそらすことができずにいた。
そしてアナウンサーは告げる。
『えー、先ほど発見された遺体は、東京都在住の学生、椎葉伶さんと判明しました。椎葉さんはーーー』
「…え?」
椎葉伶〈シイバレイ〉。
それは宮野美鈴の彼氏。
それは連絡をしてくるハズの人。
それは赤い満月の下で息を引き取った少年。
『ーーーまた、椎葉さんは胸を銃のようなもので撃たれておりーー』
画面を見つめる。
そこには、自分の彼氏の写真が写っていた。
(……遺体?)
美鈴はアナウンサーの言葉を頭の中で繰り返し、理解し、
目の前が真っ白になった。
『ーーーえ、どういうこと?』
アナウンサーの言葉と共に
‘只今メンテナンス中’
という文字が画面に映ったが、美鈴はそれに気づいていない。
およそ10分前、司法解剖を始めたばかりの椎葉伶がーー
・・・・・
ーーー逃げ出した。
「ーーーそうですか、自力で…
もう確保はしたんですか?はい、わかりました」
黒いスーツの男は複雑な顔をする。
そして、携帯をしまいながら監視していた家に近づいていった。
美鈴はうつむいている。
そして、一階から大きな悲鳴を聞いたような気がした。
その意味を考えることもできないまま。
この日、
一人の少女の世界が崩れた。
最終更新:2007年09月21日 22:57