白い部屋
(どこに向かってるんだろ?)
黒いスーツを着た大男に乗せられた車の中で、ぼんやりとそんなことを考えていた。
それはヤクザが乗っているような黒塗りの高級車。
普通ならパニックに陥っていても不思議ではないが、美鈴はそれどころじゃなかった。
(伶…)
頬を涙が伝う。
その目はすでに真っ赤になっていた。
彼氏との思い出が、浮かんでは消える。
端から見れば、美鈴は糸の切れたマリオネットのようだった。
「着いたぞ。降りろ」
いつの間にか、運転していた大男が外からドアを開けていた。
特に断る理由もないのでおとなしく従う。
(お母さん大丈夫かな…)
男の顔を見た瞬間心配になったが、すぐにそれは彼氏への想いで塗りつぶされる。
「こっちだ」
白い建物に入る。
それは、まるで何かの研究所のようだった。
車はそのままでいいのか、なんていうことが気になって自己嫌悪する。
今は車なんてどうでもいい。
そもそも、どうして連れてこられたかさえわからない。
そんなことを考えていると、
「やあ、ご苦労様。君が椎葉君の彼女?」
と、変な男が声をかけてきた。
傷んだ鈍色の髪に大きなクマ。
まるで、マッドサイエンティストがそのまま映画から飛び出してきたかのような男だ。
「は、はい…」
とりあえず答えておく。
(あれ?この人どうして…)
知っている。
この人は、私と伶のことを知っている。
「説明はあとでする。ついて来たまえ」
その一言で、裕子は質問する機会を失った。
科学者らしき男は返事も待たずに歩き出す。
(…絶っ対、変人だ)
白衣の後をついていく。
いつの間にか黒いスーツの男はいなくなっていた。
・・
3分ほど歩いて、ソコに着いた。
「アレを見たまえ」
目の前には、分厚い透明な壁に仕切られた部屋がある。
5mほど周りより低くなっていて、美鈴は覗き込むようにソレを見た。
その部屋は白い。
創られた白ではなく、完全な‘無’を連想させる。
その部屋は丸い。
まるでこの部屋が研究所の核であるかのよう。
その部屋は広い。
どうしてこんなに広いのか、訊ねずにはいられないほどに。
だが、そんなことはどうでもよかった。
その中心に、
ただ一人。
椎葉伶がいた。
最終更新:2007年09月21日 23:28