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ベルト

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ベルト 05/01/20

  女ほど衣装に気を使わない男にとって、ベルトは重要な意味を持っている。

  それは男の装飾品の少なさが、無意味に派手なネクベルトや高価な腕時計やサイズよりブランドに拘る靴に向かうのと同様の重要さであり、すなわち他に飾ったり気を使ったりする小道具が女より少ないからこそ、相対的に重視される。

  当然全く気にせず用をなせばそれでよいと考える男も大勢居るのであって、彼等にとってベルトは単なる消耗品で草臥れてきたら躊躇いなく新調するから格別の注意は喚起しない。

  しかし新しいベルトを入手して、それは当然「大は小を兼ねるのだ」との妙に長いベルトを前に迷う男が存在することも事実だ。そのままでは孔が行き過ぎるから、端を切るか適正な位置に孔を開けるかの選択なのだが、新しいベルトを切るという行為は後ろめたく感じられ、ならば切らずに適正な位置に孔を開けるかと言えば、予め並んでいる孔から随分離れた位置が適正なのでそこだけにぽつんと開けるか、それとも全く役には立たないが眺めて満足する為にぽつぽつぽつぽつぽつぽつと新しい孔を連貫するか、とにかく迷う。

  中には迷わなくともよい金具がある。孔に引っ掛けて固定するのではなくて挟みつけるだけなので長さが自在に調整可能なものだ。これは大変に便利であり、時として片手で締め緩めすること出来るくらいだから一度使うとなかなか止められない。しかし挟む機構が半円の歯車様のものだからベルトには縦に筋が幾本も付いてしまう。長さの微調整が可能な代わりに跡が汚く残るから寿命は短い。

  手前の場合ベルトの金具でない方の先が左の腰のループを潜っていないと落ち着かないのであって、だからベルトを新調する度に困るのだ。蛇革やエナメル質のベルトは趣味に合わないので無地の革しか使わないが、合成の革であれば躊躇なく穿孔も切断も出来ようのに正式な革に対すると毎回慄くのだ。これは本革なのだ。勿体無いと思わないか?

  そもそも孔を開ける為の道具がないから錐やらレンチやらを動員して表から裏から攻め立てる。慎重に表から位置を決めてもいざ貫通してみると最初からあった孔の列を微妙に乱しているのが腹立たしくなる。

  ならいっそ切ってみるか。そこで思い至る。手前はこれまでベルトを切った経験がない。そういつも孔を開けて対応してきた。何事も経験だからやってみようか。しかし切り過ぎたらどうする?孔は幾つかあるのだから留まるかどうかは心配ない。心配なのは金具の左すぐにベルトの先が来てしまうとちんちくりんに見えるかもしれないことだ。まずは腹廻りを測ろうか。ズボンは67を穿いて少し余裕があるからそれより少し長くすればよい。測ると71だった。さてこの71は何処から何処までの長さであるのか。

  眼前で締めて緩めてを繰り返し観察した結果、金具の先端と目標の孔の距離かと推定される。その長さを丁寧に測って切る前に眺めてみるといかにも短く見える。不安になったので少し弱気に少し長く残して切る。早速締めてみると適正な位置に孔がない。だからさっき測ったじゃないか。精一杯長く使おうとして一番締まる端の孔を基準に測ったから、長めに切るとそこより先には孔がなくて当然じゃないか。

  ベルトを切るという行為は上の結果極度の精神的疲弊を招き、微調整の為にもう一度切るなどという選択肢はなく、無念ながらも普段通り少し列を乱した孔が穿たれた。

  切られたベルトは鞄の持手に加工するには短過ぎる。何かに使えないものかと思案した結果、とある観光地の土産屋で半田鏝で革を焦がしながら文字を書き入れる芸があったことを思い出した。だからこれは鏝で焦がして何かの文字か文様を描く為の素材としよう。そうしてまたひとつ宝箱にごみが増えるのであった。
 
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