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裾上
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裾上 05/03/09
絝の読みは「はかま」で、示偏の袴を「はかま」とし、以降は糸偏の絝を「ズボン」と読むことにする。
絝の裾は通常足の長さに合わせて調整されるが、調整した後に固定する方法として折り返しの長さが判別出来ないよう同色の糸で縫い付ける方法と裾上テープを利用する方法がある。糸で縫い付けた場合は近くに寄ると確かに縫い目が見え、裾上テープの場合は折り返しの高さが段差によって一目瞭然となるのでこれは好みの問題となる。裾上を頼む店に店によって違いもするが、どのような方法であろうと固定されているならば問題はない。しかし内側に折り返された裾が何かの拍子に外れてしまえば悲惨な目に遭う。
一時的に長袴のような歩き方になるのは仕方がない。針と糸を絶えず携行している男は滅多に居ないから折り返しの癖を信じてその日を乗り切ろうとするわけだが、その後の処置として裾を上げて固定せねばならない。仲が良くて針と糸を常時携行している家庭的でいい女が身近に居たならば応急処置を施して貰えるが、そうでない場合は男の知恵が発動される。
「ホチキスで留める」確かに留まり、長袴状態にもならず折り返した内側と筒の内側にある耳とを留めれば針の痕跡は表面に見えないから快適に思える。だからつい本格的な裾上をしないまま、クリーニングに出しても外れず戻ってくるからそのまま穿こうとする。しかし糸で縫い付けたり裾上テープで接着させたりした場合と違い、脹脛の両脇二箇所をホチキスで留めただけでは折り返した裾が袋を形成する。穿くと足がその袋に差し込まれて出てこないのだ。
しかし絝を穿こうとする状況では大抵何かの時間が迫っているもので、その場はひとまず足を通し裾上問題を先送りにして凌ぐ。以降は単にその繰り返しである。この循環を断ち切る為に針と糸でちくちく縫うのは何故か気恥ずかしいから裾上テープを用意する。テープは濡らした後に熱したアイロンを押し当てて接着させる仕組みであるが、説明書を詳しく読まない性格の人間はここで失敗することになっている。
濡らせたテープの何処に糊があるのか不審に思いながらまずアイロンを当ててみるとぴったり張り付く。ただし張り付いた先は絝ではなくアイロンの裏だから焦るのであって、そのまま指で剥がそうとして充分に熱されたアイロンで火傷する。
ひとまずアイロンが冷めるのを待ち、銀色の糸に見えた物質が糊であるらしいことを把握し、アイロンの糊を念入りに拭き取ってから程よい長さに折り畳んだ裾の間に挟み、アイロンは直接当ててはならないことを学習したから今度は問題なく接着出来る筈だ。
再び熱されたアイロンを慎重に動かし、完璧に接着出来たと確信した喜びは直後に打ち砕かれた。裾の長さを決める為暫定的に折り返していた裾はどういうわけか表に折り返してあったので、耳が露出しており汚くて長過ぎるダブルの裾になっていた。
再び焦って引き剥がそうとするが実に完璧な接着であったから下手をすると裾の方が破れてしまう。蒸発して接着したのだろうからもう一度濡らせばよいのではないかと考えて濡らしてみても何故か剥がれない。手遅れになってから説明書を読み始めた。すると「剥がすときは濡らして熱せよ」とあるではないか。熱する必要があったのかと思い慎重に剥がしてみると糊の跡が非常に汚い。これを正しく裏返してアイロンを当てた場合、もしかすると汚く残った糊で今度はアイロンと裾表が接着されてしまうのではないだろうか。
そもそも濡れた後アイロンを当てる度に剥がれるならば裾上テープの効能は一回きりとなるのではないか?もしかしてこれは使い捨てなのか?そんな筈はないから自分の理解がどこかで間違っていることを悟りつつ静かに夜は更けてゆく。
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