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あるだろ?

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あるだろ? 04/02/11

  子供が大人の真似をしたくなるのは仕方がない。しかしそれがかつて自分もまた通った道であることを思い出すと耳の後ろが痒くなる。

  「痰を吐く」痰を道端に吐き捨てる所作に大人を感じて真似したくなる。しかし呆れる程に健康な子供は痰など絡まず、そもそも「痰」なる物質の存在を知らず、概念も知覚せず、とりあえず口の中に唾を目一杯溜めてみる。歩きながら左肩越しに吐き捨てるところを見て真似したくなったから、左肩越しに吐いてみるが、唾と痰の質の違いが考慮の対象となっていないため、思い切り無様な音を立てて、それでも吐き出したのに、着地する音が聞こえない。着地する瞬間は顔が正面に向いているところを見て、それを参考にしたから、吐いた直後に顔を正面に戻したのだ。左の唇から頬にかけて唾が糸状に張り付いた感覚があるのでそれを拭い、着地の音が聞こえないから不思議に思って振り向いてみると、唾は左肩にべたりと付着していた。

  「新聞を引き裂く」何かの映画で見た姿、怒りに震えて感情が爆発し、読んでいた新聞をばりと引き裂く姿が妙に印象に残った。これは早速真似したくなり、ごく簡単だろうと新聞を手に持ち、まだ読めない新聞を大きく開いて呼吸を整え、新聞を握り締めた手に力を込めて一気に左右に腕を広げた。その当時はまだ左利きの名残があって左手の握力の方が強かったからだろう、左手には握り締めただけの大きさ、つまり手のひらの半分程度の紙片しかなく、残りは全て右手に垂れ下げたまま呆然としていた。色々研究した結果、新聞は広げても張ってはならず軽く角度がついている状態で、160度くらいだろうか、そして真っ直ぐ左右に引っ張るのではなく、上の端から切れ目を走らせることで綺麗に二つに引き裂けることが判った。

  「自転車の灯を、走りながら爪先で入れる」夕方頃、自転車で走りながら灯のダイナモを右足で「ばし」と蹴り下ろすようにして速度を全く落とさず灯りを付けた人が擦違い様に格好良かった。当然自転車に乗るようになり、ある日の夕方、灯りの必要を感じた時に突然思い出し、ばしんと蹴り下ろした筈の瞬間、誰も皆経験がある通り右足の先はダイナモの隣を通り抜けて前輪のスポークとスポークの間に挿入された。自転車は走っているのであって、即ち前輪は回転しているのであって、その前輪を支えるスポークとスポークの間に挟まった右足の先は前輪を止めるフロントフォークで引っ掛かって止まり、スポークが止まると前輪も止まり、前輪が止まると自転車も止まる計算になるが、残念ながら「慣性の法則」というまだ習っていない裏技によって、それまで至極順調に走っていた自転車の前輪だけが一瞬でぴたりと止まってしまったから、その自転車は前輪を梃子にして空中に吹っ飛び、自転車をのんびり漕いでいた無垢な少年も軽やかに吹っ飛び、それまで見たこともなかった世界を感じつつ、気が付くと仰向けに倒れていた。今考えると前に半回転から一回転ほどしたのだと思う。幸いにして足の指は折れもせず、しかし前輪は少し歪んだらしく、回転している所を真上から見るとブレていた。

  誰しも経験がある筈だ。あるだろ?

 
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