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くらげまるの中身
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くらげまるの中身

涼宮ハルヒの缶詰

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kuragemaru

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「あんたの顔なんかもう見たくないわっ、出てけっ」

きっかけは些細な事だったように思う。ハルヒと喧嘩をした俺が最後に聞いたセリフだ。
売り言葉に買い言葉。ああ、出てってやるよと俺がドアを開けたところ、なんでか知らんがそこは廊下ではなかった。
で、現在俺の置かれた状況はというと、何にも無い灰色の空間。まあ所謂閉鎖空間なのであろう。
だが、今まで2回経験したそのどちらとも違うのは、周りに何も無い事とえらく狭いという事だ。
「まいったな、こりゃ」
なんて、最初のうちは思ってたんだが、体感時間でしかないが1時間を経過してきた頃には、もう勘弁してくれ
ってな具合になってきた。
なにせ、狭い。どのくらいかというと経験は無いが広めの棺おけに入るとこんな感じなのだろう。
ずっと立ちっぱなしで座ることも出来ない。何かの拷問かコレは。
やる事も無いので、見えない壁に寄り掛かりながらうとうととしていると、正面の見えない壁に水面の波紋の様に
どこかの景色が浮かぶ。なんだこりゃ、って文芸部室なのか?

俺を除いた4人がいつもの様に思い思いの事をしている。
ハルヒは機嫌が悪そうにマウスをガチガチとクリックしている。壊れるぞ。
古泉と朝比奈さんはオセロをしているようだ。どうも古泉が負けているみたいだな。
長門はあいかわらず本に目を落としている。
俺が居ない事に関して、何も気にしていない様にも見える。ちょっと寂しいな、おい。
しばらく部室の情景を見ているとノイズのような音が聞こえてくる。ひどく耳障りな音だ。
ノイズは時間と共に消えていき、最終的に部室内の音声となった。
「明日は隣町の自然公園に出るって噂がある、双頭の蛇を探しに行きましょう」
水曜スペシャルかよ。って、誰か突っ込んでやれよ。
「駅前のいつもの場所に9時集合ね。ちゃんと4人全員で行くんだから不参加は許さないわよ」
……俺は? 5人だろSOS団は。それともハルヒは俺の事なんか忘れて、無かった事にしちまったのか。
古泉も朝比奈さんもそれぞれ返事をしている。古泉はともかく朝比奈さんまでもか。
「5人」
「何? どうしたの有希」
「SOS団は5人」
長門は本から顔を上げハルヒに目を向けている。対するハルヒはごく自然に不思議そうに問いかけた。
「どうしたのよ有希。あたしたちは最初っから4人でしょ」
「あなたたちは忘れている。わたしたちは5人」
長門のセリフに目頭が熱くなる。というかハルヒ達は俺を無視しているというより本当に忘れている様だ。
「ま、いいわ。明日遅れないでね。今日はこれで解散」
古泉と朝比奈さんが席を立ち、出て行くハルヒを送り出す。長門は…俺の方を見ている?
「もう少し、待っていて」
それを最後に、波紋が消え部室の様子は見えなくなった。

長い溜息をつき、こめかみを指で揉みほぐす。状況を整理しよう。
・ハルヒと喧嘩して顔も見たくないと言われた
・閉鎖空間らしき場所に閉じ込められた
・まあ、ハルヒが原因なのであろう
・何も無いだけに脱出方法も見当もつかない
・ハルヒ達はどうも俺のことを忘れているらしい
・だが、長門は忘れていない
・「待っていて」と長門は言った
…結論から言うと待つしかない、長門だけが頼りだ。だが横になる事も出来ないのは辛いな。
仕方ない、さっきと同様に壁に寄り掛かり寝るか。腹は減ってないな、減らないのかもしかして?
人間やれば出来る。それを今俺は実践していた。この体勢でよくもまあこれだけ寝れるものだ。
少々ぼやけた意識に突然声が掛かる。長門の声だ。
「きこえる?」
ああ、聞こえるぞ長門。待ってたよ。
「今から助けに行く」
助けるで無くて助けに行くってこんな狭い所にかよ。などと思っていると目の前の申し訳程度の空間に光の粒のような物が
現れた。それは徐々に増えていき、増えるに従い人の形を成していく。一瞬眩しく光を放つとそこには長門が居た。

「おまたせ」
なあ長門、助けてくれるのはありがたいのだが。
「なに?」
その、この狭い所に現れるとだな、密着してしまうんだが。
「かまわない」
俺がかまうわ。俺も健康な男子高校生である以上、魅力的な女性と図らずも密着状態になればあらぬ行動にでるやもしれん。
正直な所嬉しく思うが、やはり一般的な常識と照らし合わせればここは離れるべきと思う次第で。
「わたしは魅力的?」
そっちかよ。いやそうでなくてだな。確かに長門はちっちゃくてかわいいとは思うが今は置いといてだな。
「現状この空間で体を離す事は不可能。また、瞬時の脱出も不可能、準備に時間が掛かる。それまではこのまま」
「具体的にどのくらいの時間がかかるんだ?」
今現在も長門と密着状態で、しかも俺との身長差から長門は上目遣いで見上げてくる。正直心が折れそうだ。
「転移情報の整理に7時間21分05秒、座標軸の選定に2時間32分18秒、空間からの脱出には1分10秒」
「脱出そのものは随分とあっけないんだな。というか準備段階で半日近くも掛かるのか」
今日何度目かの溜息をつき俺は再び壁に寄り掛かる。するとつられて長門も俺にもたれかかってくる、生き地獄だな。
「今から作業に入る」
ああ、よろしくな長門。だが、なぜ俺の背中に手を回す。これでは狭いから仕方なく密着では無く、抱きついてると言わんかね。
「抱きついてる、この方が作業効率が上がる」
そうですか、わかりました。仕方がないので、ここ強調するぞ、仕方がないので俺も長門の背に手を回した。
言い訳ではないが、長門の手が背中に回っているという事はだ、俺が自然に手を下ろしていると長門の腕が挟まって
具合がわるいだろう? だから俺は仕方なく長門の背に手を回すんだ。最後にもう一度言うぜ、仕方なくだ。
しばらく経ったが顔が熱い、動悸も激しい気がする。うん、困ったなこりゃ。
等と考えていると、目の前の空間に波紋が起きた。今度は…ハルヒ?
「なんだこりゃ、寝ているハルヒ? ハルヒの部屋かこれは」
長門は目を閉じてひたすら俺に抱きついている。寝てるんじゃないのか長門は。
「この空間は涼宮ハルヒによって監視されている」
ハルヒが監視ってあいつが自分の力を認識しているとでも言うのかよ。
「無意識下において監視している、普段の彼女は変わらず自身の力は関知していない」
でも、監視してるって何の為なんだ。俺をこんな所に押し込んどいて慌ててる所でも見て笑ってんのか
いやいや、喧嘩しているとはいえハルヒはそんな事で楽しむような奴じゃない。
「じきにわかる。今はこうしていて」
俺の背中に回した手にさらに力を入れる長門。なんだか長門が壊れてきたんじゃないかと思ったその時に。
「なんで有希がここにいるのよ」
ハルヒの声がした。波紋に写るハルヒは寝たままでだ。
「おでまし」
お出ましって、待ってたみたいじゃないか。
「ちょっと有希、キョンから離れなさい」
「断る。二人だけの時間を邪魔しないで」
お茶でもあったら全部口に入れてそのまま噴き出したくなる事言うな長門よ。
「そんなのダメよ。なんで夢なのにこんな事になるのよ」
まあ、夢としか思えんわな。えらい迷惑な夢ではあるが。
「わたしはあなたの夢の中の登場人物。あなたが考えた様に行動している。それだけ」
ハルヒの中では俺と長門はこんな事をしている風になっていて、あげくに長門があんなセリフを言うのか。それは無いわ長門。
「あたしはただキョンに謝りたくて、ずっとどうしようか考えてただけなのに」
俺と長門が固まったまま、しばし沈黙が訪れる。すると突然空間がねじれる様に変化するとハルヒが飛び出してきた。
「あー、この糞狭い所にお前まで現れるのか、勘弁してくれ」
すし詰め状態になった俺達。ハルヒはもぞもぞしながらなんとか俺の方を向く。
「うるさいわよ、あんたと有希を二人っきりになんかさせるもんですか」
俺もハルヒも、そして長門ももぞもぞとしているもんだから、そのなんだ、どうしよう俺。
「わたしは十分堪能した。帰る」
いきなり堪能ってなんだよ長門。て、帰る? 準備に時間が掛かるんじゃなかったのか。
長門はそんな俺を無視して、最後に俺の胸元に顔をうずめてぐりぐりしてやっと離れた。さらに無理矢理体を入れ替えて
後ろを向くとおもむろに灰色の空間に手を掛けた。まるで引き戸の様にがらりと音を立て空間がずれる。
長門はすたすたとこの狭い空間から抜け出していった。向こうに見えたのは長門の部屋じゃないか。どうなってんだ。
おいおい、半日掛かるってのは嘘かよ長門。それこそ瞬時に脱出してったじゃねえか、俺を置いて。
「はぁ、とりあえずぎゅうぎゅう詰めでは無くなったな。さてこれからどうしたもんか」
「有希が居なくなって残念なんでしょ」
俺の胸に手を当て突っ張るようにしているハルヒ。なんかさっきより狭くなった気がするな。
「なあ、ハルヒ」
「何よ」
「お前俺に謝ろうって思ってたんだよな」
ハルヒはかすかに頷く。夢の中は素直なんだな随分。
「実を言うとだな、偶然にも俺もお前に謝ろうと思っていた。きっかけは些細な物だしな。そんな事でお前との仲をダメに
したくない。」
ハルヒはさっきよりもかすかに頷く。
「あのね、キョン。ご…」
「おっと、ここじゃダメだ」
俺はハルヒを制して最後まで言わせない。
「夢の中で謝ったってしょうがないだろう? なあ、ハルヒ。明日の朝お前に会ったら、俺は挨拶も抜きでお前に謝るからさ。
そしたらお前も謝ってくれよ、それで仲直りだ。それでいいよな」
ハルヒは顔を上げて俺の顔をじっと見つめている。
「でも、夢の中のキョンがそう言っても…」
「俺は俺だ。夢の中でも夢から覚めても、お前が思っている通りの俺だ。俺を信じろ」
ハルヒはそっと俺の背中に手を回すと、やわらかな力を込めてくる。
「わかったわ、キョン。」
俺もハルヒの背に手を回し背中を撫でてやる。長門の時よりえらく自然に手が動いた。
「ねえ、有希とはどのくらいこうしてたの?」
何を言うかね、この人は。たいした時間じゃないぞ、多分5分くらいじゃないのか。少々焦りながら俺は答える。
すると、ガラッという音とともに長門が顔を出した。
「わたしと彼は3時間35分21秒この空間で抱き合っていた」
それだけ言うと長門は消えた。燃料投下しに来ただけかよ。長門は俺の事からかってるんじゃないか。
「じゃあ、あたしも同じくらいこうしている事にするわ」
ハルヒは突然現れた長門に何の疑問も抱かずに、引き続き俺に抱きついて胸に顔をうずめてくる。
はぁ、やれやれだ。俺とハルヒは抱き合ったまま一言も話さず、ただゆるやかな時間に身を任せていた。
そして、いつしか意識に霞が掛かった様になり、俺とハルヒは…

そこで目が覚めた。
なんだよこれは。俺はいつの間に家に帰ってきて、寝巻きを着て寝ている事になっていたんだよ。
時間は、朝7時。少し早いが起きるとするか。妙にスッキリとした目覚めだな、こういうのも悪くない。
色々と間は省略するが、俺が教室にたどり着くとそこには窓の外を見るハルヒが居る。
俺はゆっくりとハルヒに近寄り、自分の席に横座りする。さてこれからだな。
ハルヒは窓の外を見ているような振りで、ちらちらとこちらを伺っているようだ。
俺は軽く息を吸って、静かに吐き出す。よし、俺の方の準備はOK。
あの時、俺はお前に俺を信じろと言った。逆に言えば俺はお前を信じているからああ言ったわけだ。
だから、俺は挨拶も抜きでハルヒの顔を見つめて、こう言ったんだ。
「昨日はごめんな。ハルヒ」

涼宮ハルヒの缶詰 おしまい

コメント
連作となった「長門さんと涼宮さん」の息抜き的に書いた話です。正直超展開過ぎるとは思います。
自分への戒めのために、ほとんど修正せず収める事にしました。

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