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くらげまるの中身
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くらげまるの中身

長門さんと涼宮さん 

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kuragemaru

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あいつはあんな風に言ってくれたけど、あたしに勇気なんて無いと思う。今でも変わる事が怖い。
簡単に言えばあたしが振られて、その瞬間からあたしとあいつの関係が今までと変わってしまう事を、あたしは何より
恐れているんだと思う。
そりゃあ、あたしとあいつがうまくいって恋人同士なんて関係になれれば、こんなにいい事はない。
だけどあいつを好きなのはあたしだけじゃない、有希は多分あたしよりあいつの事が好き。
ほんとなら、誰よりもあいつが好きあたしが一番よとか言いたい所だけど、あの子のまっすぐな想いはあたしにもわかる。
有希とあいつが恋人関係になったなら、あたしは祝福する事ができるのかしら……きっと、出来ないと思う。
どうしよう、もう頭の中ぐちゃぐちゃだ。もしあいつと有希が連れ立ってあたしの所に来て、報告なんかされたらその場で
泣いちゃうかもしれない、おめでとうも言わずにただ泣き続けるだけ、そんな気がする。
あたしがそんな事を考えながら歩いていると、いつのまにか部室の前にたどり着いていた。
この時間なら有希だけね、有希だけの時はそっとドアを開ける事にしている。が、鍵が掛かっている。
しかし中からは人の気配がする、それも複数。耳を澄ますと僅かに漏れる声も聞こえる。有希と……キョンだ。
あいつは有希を選んだのかな。震える手を無理矢理ドアノブから離すと、あたしは軽くよろめいて廊下の窓際に寄りかかる。
あたしはあいつに待っているとは言ったけど、あいつがあたしの所に来るって保証は無いんだもんね。
目からこぼれる雫を拭う事も忘れて、あたしは足早に部室を後にした。
あたしの電話にあいつからの着信があったのは、それからすぐの事だった。

「今日の7時、駅前公園で待っている。」

部室を飛び出した俺は、ハルヒにそれを伝えて返事も待たずに電話を切った。
それからしばらく経ち、早々に公園で待機開始。今は午後5時50分、指定時間まで1時間以上ある。
これから俺はハルヒに自分の気持ちを伝える。その事を考えるだけで緊張が高まる、その度に長門の事を思い出す。
あいつは俺の気持ちを聞いた上で、自分の恋心を俺に告げた。
俺に受け入れてもらえないと知っていてだ。俺は長門のまっすぐな気持ちを見習いたい。
ハルヒへの告白がどんな結果になろうとも、俺は後悔しない。俺を応援してくれる長門の為にもだ。
だけど…俺、さっきからおんなじ事考えて、頭の中ぐるぐる回ってるんだよなぁ。
確かに覚悟は決めてるんだが、それはそれとしてやっぱりドキドキする。
よくよく考えれば女性に告白なんて初めての事だ、俺に上手く出来んのかな。いかんいかん、これももう3回目だ。
携帯の時間表示は、6時05分。まだまだ時間はある、長いな。電話してからすぐの時間にすれば良かったか。
まあ、あまり深く考えず『遅刻、罰金』なんて事にならない様に時間を指定したわけだし、仕方ないか。
だいいち、恐らく俺にとってかなり重要なイベントになる、出だしから躓くなんてもってのほかだもんな。
ん、なんだか普段の俺らしく、どうでもいい事を考えられる様になってきたな。いい感じだぞ。
ふと、公園の外に目線をやると、遠目に見てもわかるハルヒの姿を見つけた。
随分早いな。いや、いつもの集合の時のあいつを考えたらこんな物なのか。
俺はベンチから立ち上がり自らの頬をバシッと叩く。長門、俺は頑張るぜ。
ハルヒは神妙な顔つきで、俺を睨むように視線を逸らさずゆっくりと近づいてくる。
俺の目の前にピタッと止まったハルヒは、なんとも言えんローテンションな声でこう言った。
「大事な用って何よ。忙しいのにわざわざ来てあげたんだから、さっさとしてよね」
「どこか喫茶店でも入るか?」
俺が問いかけるも、ハルヒはここでいいと答える。
とりあえずハルヒにベンチへ座るよう促し、近くの自販機で飲み物を買ってきてやった。
「ほれ、オレンジでいいか」
「100%じゃなきゃ返品するわよ」
心配せんでも100%オレンジだ。ほらよ。と、軽く投げてやると、ハルヒは目線を合わせずにキャッチする。器用なもんだな。
プルタブを開けコーヒーを一口飲む。今の俺の頭の中は、先程とは違ってえらくすっきりと晴れ渡っている。
本人を目の前にして肝が据わったのだろうか、俺は缶コーヒーをベンチに置きハルヒの方へ体を向けた。
「ハルヒ、こっち向いてくれるか」
ジュースも飲まず、手で缶をいじくり回していたハルヒは、俺の言葉に少し体を震わせてそろそろとこちらに顔を向ける。
「何よ」
しかし、なんでまたこんなに機嫌が悪いのか。俺、昼間に何かしたっけか?
俺は気を取り直して軽く咳払いをする。よし、いくぜ。ハルヒの肩に手をかけて目を見つめる。

「ハルヒ、俺はお前の事が好きだ」

思ったよりあっさり言えた、さすがに本人に伝える時は詰まるんじゃないかと思っていたんだがな。
対するハルヒはなんだか…青い顔をしてる? なんだ具合でも悪いのか。
「あんた、有希はどうしたのよ。今日部室であの子と話してたでしょ」
「あの時に部室に来てたのか」
全然気が付かなかったな。そういや邪魔が入ったらいかんと鍵を掛けてたんだっけか。
「…長門には、俺が誰の事を好きなのか伝えて、それからあいつの気持ちを聞いた。長門の気持ちは受け止める事は
出来たが受け入れる事は出来なかった」
「どうしてよ。有希はあんなにあんたの事が好きなのに」
「俺がお前の事を好きなんだから、これはもうどうしようもないだろう。長門の事を保留にして、お前に振られたら即長門を
好きになるなんて器用かつふざけた真似は俺には出来ん」
俺はベンチに置いたコーヒーを取り、苦い液体を一口流し込む。ハルヒは未開封のオレンジジュースをいじり続けている。
「これは、まあ、俺と長門の事だからあんまり詳しくは話せないが、長門は俺がハルヒの事を好きってわかっていて、俺を
好きだと言ってくれた。それはあいつにとっての何らかの区切りなんだと思う、長門は多分だが俺に告白した事で気持ちの
整理をつけたんだと俺は考えてる。まあ、全然見当違いって可能性もあるがな」
ハルヒは黙って聞いていたが、幾分低いトーンで話し始めた。
「あたしもね、あんたが言った様に怖かったのよ。今のままがいいって思ってたの。でもあの子は違ったわ、あたし聞いたのよ
あんたの事好きかって。答えはあんたも知ってるわよね。だからあたし言っちゃったの勝負だって、あんたにアピールして
あんたに決めてもらおうって……あたしってずるいわよね、そうでもしなきゃ有希はあんたに好きだって言っちゃう、あたしが
言えない好きをあんたに伝えてしまう。あたしが変わらないでいる間に有希とあんたが変わってしまう、それが怖かったのよ」
今度は俺が黙る番になった。普段のハルヒらしからぬネガティブな感情を聞いて、俺の思考が一瞬停止する。
「嫌な女よね、こんなあたしなんか好きになったっていい事無いわよね」
なんだか様子がおかしくなってきたな。おい、ハルヒ。と声を掛けようとした瞬間。
「やっぱりあんたには、あたしなんかより有希の方がお似合いだと思うの」
言うだけ言ってすっ飛んでっちまった。なんだよこれ、どんな結果でもかまわんとは思ったが、こんなのアリか。
納得できるわけがない、むしろ腹が立つ。長門の方がお似合いだと? 俺はそんな事が聞きたいんじゃない。
俺はくそったれとつぶやいて、夜の街へ消えたハルヒを追って走り出していた。

走り出したはいいのだが、ご存知の様にハルヒの運動能力は非常に高い。
既に米粒の様にしか見えなくなっているハルヒを追う俺は、情けない事に息も絶え絶えといった所である。
ちくしょう、別にバリバリ運動部って程でなくても、もうちょっと鍛えておけばよかったぜ。
なんて軽く後悔してみたが、恐らく明日には忘れてるんだろうな。
しかし、酸素が不足している脳は、今の俺の状況をあまりよろしくない物と警告を発している。
なにせまだ早いとはいえ夜であり、前方を駆け抜ける女性を汗だくでハアハア言いながら追いかける男なんぞ、通報対象に
しか見えん。だが、かのカマキリも言う様に馬鹿馬鹿しいとは思うだろうが、やってる本人は大真面目なわけで、つまりあれだ、
知ってる奴に会わなけりゃいいなと思うわけだ。
通報される可能性は、いいかげんハルヒとの距離も離れすぎたし、多分大丈夫だろう。多分な。
とは言え、これ以上離されれば見失ってしまう。俺は自らのエンジンにニトロでも積んでいれば等と思いつつ、ひたすらに走り続ける。
おっ、大通りの交差点の信号が赤になる、ハルヒはストップせざるを得ない。ここが追い込み所と俺は加速した。
「ハルヒ、待てっ」
おいおい、信号変わるのが早すぎるんじゃないのか。俺の手は後一歩のところでハルヒの腕を掴み損ねて空を切った。
先程はハルヒの運動能力が高いと言ったが、それだけでなく心肺機能がずば抜けてると思われる。
俺はもうヨロヨロだが、ハルヒの方は僅かばかりのインターバルでもう復活している。
いやむしろ心拍数を上げずに、最適値でコントロールしているのかもしれん。
運動強度と心拍数がどうとか岡部が語っていたのを、何の前触れもなく思い出す。って、どうでもいいなそんな事は。
はいはいダッシュダッシュ、何としても捕まえてやるぜ、ハルヒ。

まあ、前置きとかはもうどうでもよくて、今俺は道路にぶっ倒れてる。
またまた差を詰めるチャンスがあったんだが、これまた、同じ様に逃げられたわけで、あげく勢い余ってすっ転んだ。
で、無様にひっくり返っているというわけだ。
もう諦めてこのまま寝ちまおうか、なんて頭をかすめるが今日の俺はちょっと違うと思いたい。
軽く痙攣する筋肉達、すまんがご主人様たる俺の為にもう少し踏ん張ってくれ。俺は拳で3度太ももを叩き、立ち上がる。
転んだ際に打ち付けたのだろうか、ひじの辺りがじんわりと痛む。俺はその痛みを振り切るように再度走り出した。
もう既にハルヒのハの字も見えない状態だ、だが俺は走りつづける。
もう家に帰っちまったんじゃないかとか、全然別の場所へ行っちまったんじゃないかとか、普通なら考えるんだろう。
だが俺は走り続けている、何の確証もないが間違いなくハルヒはこっちに居ると、俺の第六感だか第七感だかが告げている。
そんなのが俺にあるのかは知らんけどな。
そして俺はスタート地点に立つ、何のスタートだよと言われれば早朝ハイキングコースと俺は答えるだろう。
深く息を吸いゆっくりと吐き出す。よし、スタート。目指すは我が学び舎、北高校だ。
さて、とりあえず誰か俺を褒めてくれ。恐らくこのタイムでこの坂を駆け上がった奴がかつていただろうかと問われれば、誰もが
いないと即答してくれるであろう。無論こんな記録になんら意味は無いし、誰かに話したとしてもバカだなの一言で終わるのだがな。
俺は既に閉め切られた校門をよじ登り、校内に侵入を果たした。行く場所はそんなには無い、せいぜい俺のクラスか部室なんだが
普通に考えれば中に進入するのは無理だ。何故なら、ここは閉鎖空間ではないのだからな。
俺は校舎を右手に見上げながら、グラウンドに下りるスロープを降りていく。校舎内が無理ならこちらだろう。
ビンゴ、ハルヒはグラウンドの真ん中で空を見上げていた。俺は逸る気持ちを抑えてゆっくりとハルヒに近づいた。
「よう、待たせたな」
あえて、そう言った。なんで逃げたとか詰め寄るのは、どうもまずい気がする。まあ、深く考えてるわけでなく、ただなんとなくなんだが。
「待ってなんかいないわよ。なんで来たのよ」
「そりゃあ、返事を聞いてないからだな。yesかnoかどちらかになると思ってたらどっちでもなかった、後悔はしないと決めてきたのに
後悔させるような返事をもらっちゃあ納得のしようもない。いやそもそもまともな返事ですらなかったか」
ハルヒはまだ俺に背を向けたまま、話し始めた。無論どんな表情なのかもこちらからはわからない。
「なんでよ、あたしみたいな嫌な女より、有希の方を選んだ方がいいって言ってんの。ただそれだけよ」
「そんな事言うならただ一言、あんたとは付き合えないって言ってくれりゃいいんだよ。じゃなけりゃ、あんたなんか嫌いだでもいいよ。
俺と長門の事はもう済んだ事だ、お前がどう言ってもどうにもならん」
ここまで言って、俺ははたと気付く。俺は何をやっているのかと。
これは俺の気持ちを押し付けて、ハルヒに答えを強要しているのではないか。
はあ……俺は俺の気持ちってやつばかり考えていて、肝心のハルヒの気持ちを全然考えていなかった。
今ハルヒが抱えている不安やらを無視している俺の行動は決して褒められた物じゃない。
なんてこった、俺はまだまだ子供なんだな、忌々しいほどに。
「…すまん、ハルヒ。俺はどうやら急ぎ過ぎたようだ。お前が抱えてる不安を解消せずに、俺の気持ちを押し付けていたと思う。
変わらない物は無いとは言ったが、だからといって急いで変わらなきゃいけないってわけでもない事を俺は考えていなかった。
お前の気持ちも俺の気持ちも、もっとゆっくり変わっていってもいいんじゃないかと思う。だから、俺にもう一度チャンスをくれないか」
ちょっとばかし問題の先送りって気はするんだが、今の俺らにはこれが最善な策だと俺は考えた。
はたしてハルヒはどう捉えてくれるのか……そして、どう答えてくれるのだろうか。
「うん、あたしからもお願いする。キョンにもっと近づけるようにあたしも頑張るから、あたしにもチャンスを頂戴」
ふう、なんとかお互い落し所を見つけられたようだ。
応援してくれた長門にはすまないとは思うが、もう少し俺たちの事を見守っていてくれよ。
「ありがとな、ハルヒ」
俺はハルヒの手を取り、手を繋いだまま学校を後にした。
2人で坂を下りながらお互い何も言わなかったが、繋いだ手の暖かさが俺を安心させてくれる。そんな気がしたんだ。

そんなこんなで、俺とハルヒ達の恋愛騒動はここで一応の決着となったわけだ。
だが翌日の放課後、俺とハルヒは揃って長門から説教されるという事態となった。
長門曰く「あなた達はヘタレ過ぎる」とか「この結末には失望した」とかだ。すいません長門さん。
長門の説教は1時間程続いたが、ハルヒは長門に抱きつきごめんなさいと涙を流し、俺は家に帰って反省しろと言われて部室を追い
出される事となる。
ハルヒ大丈夫かな、と思いドアを開けると長門からまかせてとの声が掛かった。
俺は静かにドアを閉めて1人寂しく坂道を下って家に帰る事にした。

それからの事はかいつまんで話す事にしよう。俺はハルヒにもっと近づくために志望の大学をハルヒと同じにした。
ハルヒもそれに協力してくれる事となり、俺に対する個人授業が部室での日課となる。
その結果俺とハルヒ、おまけに長門と古泉も一緒に某有名国立大学に合格できた。
谷口からは他はともかくお前は北高の奇跡だとか言われたが俺もそう思ったくらいなんだぜ。
これもハルヒとその仲間達のおかげなんだけどな。
で、大学入学後の初めての冬。俺とハルヒはようやくその距離を縮め、お互いの気持ちを確かめ合った。
そう、今までの仲間から恋人という関係になる事が出来たんだ。
なんでここの説明を省くのかと言うと、何と言うか、なるようになったとしか言えんからだ。
ここでも長門からは「さんざん引っ張ったのだから、もっとドラマチックかつロマンチックに告白すべき」とか「学生食堂で食事しながら
告白とかありえない」等、えらい勢いで非難された。すまん、長門。
そんなわけで恋人となった俺たちだが、それからもSOS団としての活動は続き、相変わらず不思議を探す毎日だったりもする。
俺たちの周りは随分変わったけど、これだけは変わらずに続いていけば良いなと俺とハルヒは笑いあった。

そして、俺たちの大学生活もいよいよ終わりを告げる。卒業式の日に俺はひとつの決意をもって式に挑んだ。
式も滞りなく終了し、卒業証書を手に俺とハルヒは周りに誰もいない俺達だけの秘密の場所に居た。
「ここに来るのも今日で最後ってことか、少しばかり寂しいな」
「そうね、結構思い出あるものね。お昼食べたり、喧嘩したり、仲直りしたり、喧嘩したり、ただお喋りして過ごしたり、喧嘩したり」
喧嘩の比率高くないか、それ以外にもたくさん思い出あるだろうよ。ま、それはさて置いてだな。
「ハルヒ、なんだかんだで卒業まで短かったよな。それだけ充実してたって事なのかもしれんけどさ」
「そうね、でもまだまだやりたい事はいっぱいあるのよ。これからも皆で一緒にもっともっと楽しく生きたいわ」
「なあ、ハルヒ。俺も同じ気持ちだよ、だけどお前とはそれ以上にもっとずっと一緒に居たいんだ」
俺は左手をハルヒに差し出して、言葉を続ける。ハルヒは何かしら? って感じで見ているが、このままいくぜ。
「ハルヒ。世界を大いに盛り上げるための俺を、一生よろしく」
「よろしくってキョン、左手の握手は敵対の意思だって何かで聞いた事無い?」
しまった、回りくどすぎて通じてない。俺はハルヒの左手を取り右手でポケットから取り出した指輪を見せる。
「つまり、こういう事だ。握手ならお前の言う通りだが、プロポーズなら左手じゃなきゃダメなんだ」
ハルヒは顔から湯気が出んばかりに真っ赤になっている。
「それって…つまり…」
「俺がお前の世界を一生盛り上げてやる。だから俺と一緒になって欲しい」
まあ、就職を控えてこれから問題は山積みだと思うから、今は婚約という形になるんだがな。俺の言葉にハルヒは頷いてくれた。
ハルヒの左手の薬指に指輪を嵌める。サイズはぴったりだ、これは協力してくれた長門に感謝だな。
「団長のセリフを取るなんて雑用にあるまじき行為ね。でもいいわ、あたしとあんたで世界を大いに盛り上げてやりましょう」
ハルヒは涙を零しながら俺の胸に飛び込んできて、そう言ってくれた。ありがとう、ハルヒ。

でだな、大学の話辺りからは俺の回想の一部だったりするんだが。
こんな俺にとってはこっ恥ずかしい事を回想させる原因というのはだ、にやけた面でこれでもかと暴露してくれるあの男、古泉一樹
のせいなわけで。そして今は俺とハルヒの結婚披露宴の真っ最中なのだよ。
「この様に彼は彼女のハートを射止める事になったわけですが、いやはや、周りの友人達もようやくかと安堵した事でしょう。
彼の鈍感さやヘタレッぷりは有名ではありますが、親友として僕がした心配の数は片手どころか両手を掛けた数でも足りません。」
「おい、一樹。お前なんでそんな事まで知ってんだ、それは俺とハルヒしか知らんはずだぞ」
「あたしが古泉君に教えたの。友人代表の挨拶に指名されたから、ネタを提供してくれって」
俺の隣に座るハルヒがしれっと言う。何て事をするんだハルヒ、あいつに喋ったら全部ここで喋っちまうぞ。
「いいじゃない。あんたの恥ずかしい思い出だけど、あたしには嬉しい思い出なんだもん」
ぐう、こいつかわいい事言ってくれるじゃねーか、しかし一樹、お前は殺す。
「ふふっ、僕がされた事をお返ししているだけですよ。僕はこの時をずっと待っていたんですから、ええ、ずっとね」
俺が一樹の結婚式でやらかした、友人代表の挨拶をまだ根にもってやがるのか、何年経ったと思ってるんだ。
「とはいえ、ここまでにしておきましょうか。随分時間も押している事ですしね、す・ず・み・や・君」
やっぱり、お前は殺す。お前にその名で呼ばれると寒気がするわ。
「そうそう、最後に会場の皆様に彼が涼宮家に入る事を決めた時のセリフをお教えしましょう。彼は涼宮さんのご両親にご挨拶した
際にこう言ったそうです。『自分のくだらないこだわりですが、ハルヒにはいつまでも涼宮ハルヒでいてほしいんです』とね。
まったくもって彼らしいじゃないですか、本当に彼らしい愛情の注ぎ方だと僕は思います。今日この日に夫婦となった彼らは、きっと
幸せな家庭を築いていけると僕は信じています。…信じたからにはお願いしますよ、涼宮君」
なんとなく良い話風にまとめてるが、そのにやけっぷりで感動も半減だ、こんちくしょう。なぜだか会場はどっと受けてるし、笑うなお前ら。
「古泉一樹、そこまで」
友人代表として一樹と並んで立っている長門が、一樹を制する。
「そうですね、では新婦友人代表、長門有希さんにバトンタッチ致します」
一樹からマイクを受け取り、長門が俺たち2人の方を向く。
「ハルヒ、結婚おめでとう。あなたが彼と結成したSOS団に私を加えてもらった時から10年、わたしはあなた達2人にいろいろな物を
もらった。それはわたしにとってとても大切な思い出、2人はわたしにとってとても大切な友人。その2人が今日結婚するという事を
わたしは自分の事の様に嬉しく思う。古泉一樹が言う様に、わたしもあなた達2人がこれからずっと幸せに暮らしていけると信じている。
本当におめでとう」
長門の挨拶は短い物だったが、俺にはこれで十分に伝わってきた。
「ぐすっ。ありがとう有希」
ハルヒも俺と同じなのだろう、涙を貯めて長門を見ている。だがこの後の長門のセリフは、場の空気を凍らせる物だった。
「彼にも一言ある。浮気がしたくなったらわたしの所に来て、待っている」
よく、コーヒー吹いたとか言うよな。だがな人間本当に衝撃を受けた時には、吹くよりも垂れ流すと俺は主張したい。
なぜなら今俺は飲もうとしたビールをだばだばとこぼしているからだ。
そして横に居るハルヒは俺の方を見て怖い顔をしていらっしゃる。ああ、マジで怖い。
「あんた、もしかしていまだに有希にちょっかい出してるんじゃないでしょうね」
「んなわけあるか、いっつもお前がべったりなのにそんな暇があるものか」
痛いです、ハルヒさん。ヘッドロックで俺の頭を痛めつけるハルヒ。長門よここでそれは無いんじゃないか。
「ジョーク」
それは笑えんぞ長門。いいかげん離せハルヒ。
「ダメよ有希。こいつはあたしんだからジョークでも浮気なんかさせないんだから」
ヘッドロックがいつの間にか頭を抱えて抱きしめてる体勢に移行している。
くそ、一樹はニヤニヤしてるし朝比奈さんも真っ赤になってアワアワ言ってる。
当の長門といえば薄っすらと微笑みを浮かべ俺達を見てやがる。ちくしょう、くやしいがいい笑顔だぜ長門。
時間が押してるからかは知らんが、慌て気味の司会がそれでは皆様しばらくご歓談下さいと言うと、場の空気が戻る。
参加者達がそれぞれ思い思いの会話をはじめ、俺とハルヒの席には団員達が揃い、長門がハルヒに話しかけている。
「彼はあなただけを愛している、浮気の心配はない」
いや、お前もいい話でまとめてるけど途中がダメだろ。そこんとこ、もうちょっと考えてくれ長門。
「まあ、いいわ。有希、古泉君、みくるちゃん。これからもあたし達と一緒に世界に羽ばたくのよ。それがSOS団の使命なんだからね」
ハルヒは両手を長門と朝比奈さんの肩にまわし、ぎゅっと抱き寄せる。誰かカメラ持って来い。
「最初に気付いた時は本当にあなたらしいと思いましたよ、あなたが涼宮という姓にこだわった理由。あなたの家に嫁いで姓が変わ
ったらSOS団にはなりませんからね。違いますか?」
一樹が俺の横でしたり顔で話しかけてくる、うっせぇ、その通りだがお前に言われると腹が立つわ。

生きていく中で変わっていく物があるなら、逆に変わって欲しくない物もある。俺にとってはそれがSOS団でありハルヒなんだよ。
俺の中で大学時代には変わらなければ良いなだったものが、今は変えたくないものになった。
俺はその為の努力を惜しまない、どんな事もハルヒと2人で、いや、お前らも含めた5人でいれば俺は乗り越えていけると思うんだ。

「だから、改めて言っておきたい。世界を大いに盛り上げるための俺達をこれからもよろしくってな」

長門さんと涼宮さん 最終話 おしまい


コメント

最終話となった『長門さんと涼宮さん』です。ただ長門さんと涼宮さんという形ではなくなってしまっています。
前回は長門さんとキョンくん、今回は涼宮さんとキョンくん、と言ったところでしょうか。
途中からのシリアス路線への変更故に、芯の通らない話になってしまっているとは思います。
しかし、どんな形であれ終わらせる事が出来たのは素直に嬉しいと感じています。
読んだ方に少しでも面白いと思ってもらえれば幸いであります。

キョンが走る場面、えらいくどい感じで書いてますがキョンの必死さを出す為にわざとやってみたんですが
どうですかねぇ? うまく伝わるといいんですが、やっぱりくどすぎる気もします。
後は学校でのハルヒとのやり取りが、ご都合主義的展開でさらっと済ませてしまったかなとも思っています。
結婚式でのキョンの古泉に対する呼称を『一樹』にしたのは、年月を経て立場を超えて友人となった2人を
表わしたいと思ったんですが、前振りが無いと違和感バリバリですよね。
何気に長門にも『ハルヒ』と呼ばせています。こちらも同じ理由なんですが、やっぱり唐突すぎますね。
ついでにエピローグ時の古泉は既婚という設定ですが、相手は特に決めてません。
仲間内の誰かでは無く、どこかの知らない人というふうに考えました。
けして長門ではありません、古長の組み合わせは結構苦手なので。
それと、キョンを婿入りさせたのは本名不詳なのもありますが、結婚ネタのSSでもあまり見ない展開かなと
思い、入れてみた次第です。

全然どうでもいい話ですが、シリーズ内に変に古いネタを入れる縛りを自らに課しています。
侍ジャイアンツとか関根勤のカマキリなどおっさん丸出しのネタをキョンに言わせています。
意味があるのかと言うと全く無くて、単なる自己満足なのでスルー気味でお願いします。

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