くらげまるの中身
ヒーロー志願 「登場」
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kuragemaru
さて、いきなり結論から言うとだな、セミ怪人は天ぷらにして倒した。まあ色々あったんだが割愛させてくれ。
残った天ぷらはいつの間にか現れた長門がおいしく頂いたので安心してほしい。
ああ、セミ怪人の天ぷらは情報結合解除されたから長門は食べてないぞ。そこの所も安心してくれ。
その後、俺のカバンを持ってきてくれた古泉と合流した直後、金魚すくい怪人が現れた。
こいつは別に金魚の着ぐるみというわけでなく、すくう側のツールであるポイだった。
随分平たい怪人だなとは思ったのだが張ってある紙が破れたら動かなくなった。はい終了。
これで1日目にして4体の怪人を倒した事になる。残りは19体という事だな。
そして2日目であるが細かい所の説明は省こうと思う、ギャグというか馬鹿にしているというか、おかしな怪人たちと朝から
晩まで戦って2日目が終了した頃には残り11体までになっていた。
対怪人戦を描写しているときりがないのでこれも勘弁してほしい。いやマジで。
「しかし、なんだかんだで順調にいってるんじゃないか。2日で12体もの怪人を倒したんだ、TVだってこんなに展開速くないぞ」
「ですが、期限が一週間ですからね。巻き気味で進行しておいた方が後々楽になるかと思いますよ」
「ボスクラスの怪人はまだ倒していない、彼らは通常の怪人の何倍もの強さ」
長門が不安になるような事を言う。たしか4体だったよな、ボス級は。
「そう。大ボスたる首領と、幹部が3体」
幹部か、どんな奴らなんだろうな。またくだらないネタみたいな奴らなのかね。
「そうそう、そういや長門。あのおでん怪人なんだが、お前もしかしてどこかで会った事あるんじゃないか。あいつだけ妙に詳しかったし」
「あれの作戦にわたしはやられた。近所のコンビニでおでんを購入したら、もち巾着の中にもちでなくからしが大量に入っていた」
む、くく。いや、笑っちゃいけないんだが、これはちょっと。って、古泉お前も震えているぞ。
「笑わないでほしい。もち巾着にからしが満載だったと知った時、わたしは悲しいと感じた」
「すまん、長門。…って、あれと会ったのは前日って事か。期限の7日ってのは何処から出てきてるんだ」
長門はしばらく考え込むような仕草でいたが、くりっと俺のほうに顔を向け静かに話し始めた。
「特に意味は無い、ただそういう設定なだけ」
「そっか。あ、そうだ長門。お疲れさんって事でおでん買いに行こうぜ、もちろんもち巾着もな」
長門は俺の顔をじっと見つめて、こくりと頷く。
「ありがとう」
「よし、じゃあ行こうぜ長門、古泉」
コンビニでおでんを買い込み、長門のマンション近くの公園でベンチに座りおでんを味わう。
古泉が随分楽しそうにしていたのが印象に残ったな。こいつはこういう何でもない事をあまり経験していないのかと、ぼんやりしつつ
おでんを食いながら俺は思った。
3日目の朝、教室に入った俺にハルヒは先日からの聞き込み結果を披露していた。
「全然情報が集まらないわね、昨日なんか目撃情報だけはやたらあったのに、肝心の正体に迫る情報はからっきしよ」
正体がばれないように活動するのがヒーローってもんだろ。まあ、誰かにばれちまったとしてもお前にだけは知られたくないが。
「あたしは今日も聞き込みをするから、団はお休みよ。ただしキョン、あんたはあたしと一緒にきなさい」
「なんで俺だけを連れて行く。俺の都合はどうなるんだ」
都合が悪いとはまさにこの事だ。怪人に出会っちまったらどうすりゃいいんだよ。俺は何とかしてハルヒから逃れようとしたが、ハルヒ
の一言で承諾せざるを得なかった。
「デートじゃないんだから気にする事無いでしょ、あたしと一緒じゃ嫌だっての?」
言ってるセリフはいつものハルヒなんだが、表情がいつもと違う悲しげなものだった。こんな顔を見て断れる奴がいるなら俺の前に来い。
この日は前日と違い、授業中や休み時間に怪人が現れる事も無くゆっくりと過ぎていった。そして放課後となる。
「じゃあ、行きましょう。昨日は商店街の方で4回目撃されてるの、そこから攻めるわよ」
まあ、当然といえば当然なんだが、見たという情報以外は得られなかった。少しばかり不機嫌なハルヒはずんずんと俺の前を行く。
その時、俺の携帯に古泉からのメールが入った。まずい時に怪人が出た様だ、ここはいかにしてハルヒをごまかすかと悩んでいた瞬間、
ハルヒの歩いていたすぐ側の壁が吹き飛んだ。小さな悲鳴をあげたハルヒは、衝撃に弾かれ地面に倒れこむ。
「おい、ハルヒ。しっかりしろ」
頭でも打ったのかハルヒは返事をしない。俺はバックルを取り出し長門を呼びだした。
「こちらでも把握した。スキャンの結果、涼宮ハルヒに外傷は無い。気絶しているだけ、心配は無い」
俺はハルヒを側の壁に寄りかからせる、続いて起こった衝撃ともうもうと舞うほこりの中から現れたのは怪人であった。
「いくぜ、長門。あの野郎ハルヒにひどい事しやがって許さねえ」
ベルトを装着し、変身した俺は問答無用でシルエットしか見えない怪人に蹴りをくれてやる。
「コードが通った。怪人はもう分解される、これ以上の攻撃は不要」
結局、何の怪人かもわからぬ内に退場しちまったな。別に何の怪人かなんてのはどうでもいいがな。
溜息をついているとヘルメット内に俺の電話の着信音が鳴り響く、いつの間に俺の電話はヘルメットになったんだ。
「やあ、お疲れ様です。聞いてましたよ『俺のハルヒにひどい事しやがって』ですか、すっかりヒーローが板についた感じですね」
お前はまず耳鼻科に行け、『俺の』なんて誰が言った。そんな恥ずかしいセリフ誰が言うものか。そもそも何処で聞いてるんだ。
「おや、そうですか。僕にはそう聞えたんですが。それはともかく、機関から迎えを出しました。念の為、涼宮さんを病院へ搬送します」
俺はハルヒの側へ駆け寄る。長門が大丈夫って太鼓判を押してくれたんだ、すぐ目を覚ますよな。
「いけない、新手が来た。幹部クラス、気をつけて」
なんてこった、ここじゃハルヒを巻き込んじまう。長門のナビによると前方15メートル先にいる様だ。
「古泉、新手だそうだ。ハルヒを頼む」
俺は回線が繋がったままの古泉に頼むと、幹部とやらの元へ急行した。
「あんた、中々やるじゃない」
少し大きめの道路に出た俺に何処からか女の声が掛かる、こいつが幹部クラスか。何故か塀の上に立った派手な服装の女がいる。
仮面を付けて真っ黒なピッチピチのミニスカートで胸元もばっくりと開いた…とにかくもの凄く直視するのも恥ずかしい格好だった。
「お前、何者だ。そんな痴女みたいな格好で外を出歩くなんて、どこかのネジが外れているのか」
「むかつくわね、あんた。悪の秘密組織の女幹部っていったらこういうもんなのよ」
しかし、どこかで聞いたような声だな。それもついさっきまで聞いていた様な気がする。
「おい、せめて下に降りろ。そんな所に立っていると丸見えだぞ」
「なっ、何見てんのよ。この、エロ…」
言いかけてやめたがこの展開には覚えがある。なんだ、この既視感は。これはまるでと言うかそのまんまあいつみたいじゃないか。
「あんた、変な格好してるけどその喋り方は…キョンでしょ」
いきなりバレた。ていうか、こいつもしかしてハルヒなのか。いや、向こうに倒れてるのもハルヒだが、どう見てもこいつもハルヒっぽい。
俺はちょいっとジャンプして、仮面にデコピンを喰らわした。ぱかっと割れた仮面の下はやっぱりハルヒだった。なんだこれ。
「ちょっと、仮面で隠してる女性の顔を見るなんて、随分失礼な事してくれるわね」
いや、ちょっと気になったもんで。適当にあしらいつつ長門に連絡を入れる。
「彼女は言うなれば涼宮ハルヒの分身、情報生命体をベースに複製されたもの。本人により作り出された、この舞台における役者。
おそらく本人ともリンクしている、本人が満足するようなストーリー展開をこの分身が経験すれば、この事件も解決すると思われる」
満足するようなって、どんなんだよ。とりあえずハルヒが2人いるってのは納得できないが納得した。無理矢理だがな。
「何ぶつぶつ言ってんのよ、キョンのくせにあたしを無視しようなんて真似がよくできるわね」
ああ、とりあえずこいつを何とかしないといけないな。えーと、キックでいいのかな。
「ちょっと。あんたもしかして馬鹿なんじゃないの。秘密組織の幹部が出てすぐに倒されるなんてありえないでしょ」
何だよ、俺もストーリーに付き合わなきゃいけないのか。出来る事ならさっさと済ませたいんだが、ダメか?
「ダメよ。今日はここまでにしてあげる、キョン、また会いましょう」
あー、颯爽と去っていくな。おーい、次に出る時は露出の少ない格好で頼むぞ。正直目のやり場に困るんでな。
「うっさい、このエロキョン。バカキョン」
叫びつつスカートの裾を引っ張りながら、女幹部殿は去っていった。えらい疲れるな。
「なぁ、長門。複製体とはいえハルヒに俺の正体がバレちまったんだが、大丈夫かな」
「複製体と本体はリンクしているが、特に大きな問題にはならないはず。本体が就寝時に記憶の整理がされ、夢の中での体験として処理
される模様。本体が夢の中でヒーローの正体があなたと認識しても、涼宮ハルヒの現実的な思考がそれを事実とは捉えない」
随分都合のいい夢だなそりゃ、まあ、こっちもそうでないと困っちまうけどな。
「まあ、詳しい事とかは後にしよう。俺はハルヒが搬送された病院に行く、ちょっと心配なんでな」
「……そう」
長門は一言だけ返事をして通信を切る。俺は変身を解除し病院へと足を向けた。
「古泉、ハルヒは目を覚ましたか?」
病院の待合室で古泉と合流し、ハルヒの現状を尋ねる。
「いえ、まだです。涼宮さんのお母様には軽い貧血と伝えてあります、もうしばらくすれば到着するでしょう。今日は念の為入院して頂き
明日、退院という形となります。明日の市内探索は休みにしたほうがいいでしょうね」
「そうだな。色々とすまんな古泉」
「いえいえ、今回の件では実働部隊はあなたですから、後方支援は僕に任せてください」
それからしばらく古泉と今後の対応を相談した。分身ハルヒの事がメインだ。
「一番まずいのは涼宮さんが複製体を目撃してしまう事ですね、他人の空似というわけにもいかないでしょう」
「そうだなぁ、時間の取れる明日・明後日のうちにけりをつけたいな」
「では複製体を最重要ターゲットとして、機関の方で怪人及び組織の所在地捜索に当たります。僕は機関に報告と要請をしますので、
これで失礼します。あと、涼宮さんの側に居てあげてください、お母様がいらっしゃるまでで結構ですから」
3割増のスマイルで古泉は去っていく。言われんでもそうするさ。俺はハルヒの病室に向かう事にした。
すやすやと寝息を立てて眠るハルヒの横で、俺はぼんやりとしていたんだが、次第に眠くなりうとうとしていたらハルヒの母親と思われる
女性に起こされた。俺は恐縮しまくって、あわてて古泉の仕立てた偽の経緯を説明した。
ハルヒの母親は娘を病院に連れてきてくれた事の礼を言い、デート中なのに倒れちゃうなんて間抜けな娘ね、なんてころころと笑った。
俺は慌ててそういうわけじゃないんですと弁解するも、きっと嬉しくて舞い上がっちゃったのねぇ、と聞く耳を持たない。
どうにも居心地の悪い中、ハルヒの母親は後は自分に任せて今日は帰りなさいと促してくれた。
「すいません、それじゃ失礼します」
頭を下げ病室を辞した俺は、ハルヒの携帯に明日はゆっくり休めとメールを送信し、街へと足を踏み出した。
そろそろ家に到着する距離までくると、俺の家の前には古泉が立っていた、奴は少しばかり真面目な顔をすると俺に近づいてきた。
「先程はお疲れ様でした。お母様と交代されたようですね。そうそう、複製体と敵の本拠に関して機関への要請は通りました、ただ非常
に困難を極めるとの回答も得ています。しかし出来る限りの事はするとお約束致します。それはまあいいとして、実はあなたに見て頂き
たい物があるんです。ま、こちらが本題なんですがね」
いきなりだな、それはいつもの事だし気にしない様にしてやろう。まあ上がれ。
「ありがとうございます」
押しかけてくる妹を部屋から追い出している横で、古泉は持ってきた大き目のノートパソコンにDVDソフトをセットしている。
「まずはこれを見て頂きます、涼宮さんが見たというTV番組です。涼宮さんはケーブルTVでの再放送を見たそうですが既に最終回まで
見終えています。僕も何かの手がかりがないかと一昨日レンタルしてきまして、おそらくこれだという物があったので、それをあなたにも
確認して頂こうと思いまして」
まあ、その番組を詳しく描写してもしょうがないので、古泉の言う『これ』のあらすじがどんなだったのかだけお伝えしよう。
主人公であるヒーローはある日、街で困っている女性を助ける。これが市民にまぎれて生活していた敵の女幹部であった。
その後さらなる偶然の出会いを繰り返し、お互い正体を知らずに惹かれあっていく2人。しかし組織の首領は度重なる失敗を続けた
女幹部に主人公を倒す最後の機会を与える。ヒーローとの戦闘に赴いた女幹部は、ヒーローのとある仕草から正体が主人公と確信する。
一度も手を出さずに倒された女幹部は、ヒーローに何も言わずに消滅してしまう。翌日デートの待ち合わせ場所には、来るはずのない
彼女を待ち、立ち続ける主人公の姿があるだけだった。
…なんだ、この後味の悪さは。子供向けなのにこんなエピソード入れる必要あるのかよ。
「あなたもそう思いますよね。これは最終回の3話前の話で、次回ではなんのフォローも無く、ラストバトルに向けてストーリーが進みます。
ネット等でもこの回はかなり不評で、女幹部役の女優の人気もあって放映時に相当叩かれたそうです」
もう何も言わんでもわかるが、ハルヒがこんな事件を巻き起こした原因はこれなんだな。
「僕もそうだと考えています。放映日当日の涼宮さんは大規模な閉鎖空間を発生させていると記録にも残っています」
「俺が思うにヒーロー物のストーリーをなぞる事はもうどうでもよくて、このエピソードのやり直しこそが解決への最短距離なんだろ」
俺の意見を聞いた古泉は手を叩くとそのままの勢いで俺を指差す。お前…それ日本人がやるのは果てしなく似合わない仕草だぞ。
「いや、まさにそうですね。中々冴えていますね、今日のあなたは」
「つーか、この話を見れば誰でも行き着くだろよ、この答えにさ。お前がわかってて言ってるのが腹立たしいわ」
「女幹部として現れた涼宮さんの複製体、そしてなぜかあなたがヒーロー役に選ばれた。後は言わなくてもわかりますよね?」
ちーっともわからんね。お前がどう思っているかは知らんが、要はゲームで言う別ルートに行けばいいんだろうよ。
古泉は変わらぬスマイルで首を竦めて返事の代わりとした。そのまま持ってきていたパソコンを片付け始め帰るような雰囲気である。
「なあ、古泉。このあと何かあるのか」
「いえ、特にありませんよ。帰宅するだけです」
俺はそうかと答えて階下に下りていく、しばし母親と話して再び自室へと戻った。
「待たせたな、古泉。お前メシ食ってけよ」
俺の他愛の無い一言で、この超能力者は普段の仮面を忘れたかのように呆然としている。
「母さんに聞いたら、親父は遅くなるらしくて1人分おかずが余ってるそうだ。お前も今から帰って支度するのも面倒だろ?」
しばらく考えるような仕草をする古泉。いや、用があるなら構わんけどな。
「いえ、こういう事には慣れてない物で。では、遠慮なくご馳走になります」
「バカだな、そんな畏まる事はないだろうよ。ただ友達の家に来てメシを食べる、それだけのことだろ」
そう、それだけのことさ古泉。まあ、お前が俺との関係をどう捉えてるのかはわからんが、これだけ付き合いがあるんだし俺がそう思っ
たって構わんだろ。
そして普段の少食が嘘のように食べた古泉は、母さんにありがとうございますと礼を言い俺の家を去った。
翌日の土曜日、本来ならば不思議探索の為に駅前に駆けつけているはずなのだが、昨日の件でお休みとなったわけで。
せっかくのフリータイムを手に入れた俺が、何をしているのかと尋ねられれば駅前に居たりする。
家でのんびりという選択肢もあったのだが、たまには1人でぶらりと買い物というのも悪くは無いと思うに至ったのだ。
実際の所は、怪人の襲来に備えなければいけないという制約があるのだが、その辺りの事は機関にお任せするとしよう。
時間は10時になろうとしている。冬物のジャケットでも見に行くかと服屋に足を向けた俺は、目の前を歩く少女を見て思わず声を出した。
「ハルヒ」
俺の声に振り向いた少女は、間違いなくハルヒであった。そりゃ名前呼ばれて振り向くんだもんな、間違えてるわけないか。
「キョン、こんな所で何してんの」
「俺は服を見に行こうかと思ってたんだが。それよりハルヒお前退院したんだな、もう大丈夫なのか」
ハルヒは俺の顔をじっと見て、にっこりと笑顔になる。何だ、俺は何かハルヒを笑顔にさせるような事を言ったのか?
「さっき病院から帰ったのよ、もうお母さんってば大袈裟なんだから。1日とはいえ入院なんてすることなかったのに」
「しかしだな、お前のお母さんだって突然倒れたなんて連絡があれば当然心配するだろうさ」
「ねえ、キョンはあたしの事心配だった? 」
くりくりとした目で俺のことを見つめるハルヒ。これは…なんと答えればいいのだろうか、返答に困るな。
「あー、しないわけがないだろう。そもそも俺と一緒にいる時に倒れたんだぞ、心配するのが当たり前だ」
んっふっふーと不敵な笑みを浮かべた団長様はどうやら俺の回答に満足したらしい、ご満悦って感じだな。
「何にせよだ、大事に至らなくて何よりだ。ああ…ええと、それじゃあなハルヒ」
手を振りつつこの場から逃げ出そうとした俺は、ハルヒに引き止められる。俺の左手を握る形で。
「そんな逃げるみたいにしなくてもいいでしょ。ねえキョン、暇ならあたしとデートしましょ」
普段のハルヒならこんな事は言わないはずなんだが、と俺は思わずハルヒの額に手を当てた。
「バカ、熱なんか無いわよ。ぐずぐすしないでほら行きましょ」
俺の手を握ったままハルヒは歩き出す、いつもの引き摺る感じではなくゆっくりとだ。手もまたいつもと違いやさしく握られている。
「なあ、どこに行くんだ。何か行きたい所でもあるのか」
俺の左手を中心に体温が上がっていく様な、そんな錯覚を感じながら俺はハルヒに問いかけた。
「あんたさ、あたしを見て何か気付かない?」
「何かって…あ、カチューシャが無いな」
「今頃気付くなんてあんたも鈍いわねぇ。そんなんじゃ女の子にもてないわよ」
ほっとけと呟く俺の手を引っ張り、アクセサリーショップに連れて行くハルヒ。店に入り一直線にとあるコーナーへ向かう。
「ほら、あたしの付けてるリボン付きカチューシャ。この辺じゃここにしか無いのよ」
そうか、と返事をしつつ色とりどりのカチューシャを眺める俺。どれにしようかななんて言いながら色を選ぶハルヒ。
「これがいいんじゃないか、いつもの黄色もいいが赤もお前に似合うと思うんだ」
「そう? あんたが言うならこれにしようかな。ふふっ」
何故そこで笑う。しかも、その、なんだ、かわいいじゃねえか。俺は照れ隠しってわけじゃないんだが、赤いカチューシャを手にレジへと
歩き出す。精算を終えて、簡易な包装に包まれたそれをハルヒに手渡した。
「いいの?」
ああ、気付いちまった以上、お前の頭にそれが無いのが我慢ならん、それだけさ。
「じゃあさ、あんたがあたしに付けてよ」
特に気にせずに、いいぞ、なんて答えてみたが、頭を低くしたハルヒにカチューシャを装着せんとした俺はしばし躊躇した。
5秒ほどであろうか固まっていたのは、ハッと気付いた俺は少しばかり頭を振り、自分でも何だかよくわからん雑念を振り払った。
柔らかな髪に手が触れるとそれだけで理由も無くドキドキする。いや、理由はあるのか?
「ありがと。ねえ似合うかしら?」
俺の手で装着されたカチューシャを微調整して、少し乱れた髪を整えるハルヒはにっこりと笑いながら俺に問いかけた。
「ああ、やっぱり赤もいいな。似合ってるぞ」
照れ笑いで嬉しそうにしている姿を見ていると、どうにも普段のハルヒと重ならない。何故かと問われると俺にもわからないのだが。
「あんた、普段のあたしと違うなって思ったでしょ」
心を読まれたか、お前にそんな特殊能力があるとは思わんかったぞ。
「バカね。あんたすぐに顔に出るからわかるわよ。そのくせ肝心な事は奥底にしまっちゃって全然出てこないけどね」
そんなもんなのか俺の顔は、随分便利な顔なんだな。俺がいまいち納得できないでいると、ハルヒは次の場所を目指すべく歩き出す。
結局俺がハルヒに覚えた違和感とやらにハルヒからの回答も無く、傍から見れば仲良く手を繋いで歩く男女がそこにいるだけだった。
その後、ハルヒの見立てで服を選んでもらったりしたのだが、なあ、これちょっと派手じゃないか。
「いいのよ、あんたは地味な服が多いからたまにはそれくらいのを着なさい。じゃ次はお茶にしましょう」
あいかわらず手はそのまま。2人で並んで近場の喫茶店を目指す。ああ、確かにこれはデートだな、ハルヒの言うとおりだなこりゃ。
適当な店に入り案内されたのは2人用のボックス席。ハルヒはようやく俺の手を離しさっと席に付いた。
「あ……」
いやいやいや、どうしたんだ俺。ハルヒの手が離れて「あ」とか言うなよ、そんなに名残惜しいってのか。
そんでまあ、相手には察知されたくない事というのは、大体において隠し切れないわけで。まあ隠しようがないがな、口に出してるし。
「ふーん、キョンってばあたしと手が離れるのがそんなに残念だったわけね」
「いや、これはそういうわけではなくてだな。その、つまり…なんなんだろうな」
「何よそれ、自分でもわかんないってほんとあんたってばダメね、そんなんじゃ今に愛想尽かされちゃうわよ」
すまん、と俺は誰に対して謝っているのかと、自分自身で不思議に思いつつも、何時の間にやら置かれていた水を一気に飲み干した。
「まあ、いいわ。とりあえず何か頼みましょ、もうお昼だしここでご飯も済ましちゃいましょう」
異議なし。俺はメニューをざっと見て『海鮮グラタンランチセット、コーヒー・パン付き』に狙いを定める。
「あたしはねぇ、『炭火焼200gハンバーグのランチセット』にするわ」
いささか喫茶店での軽食の域を超えてる気もするが、これこそがハルヒなのだろうと思い、俺はウェイトレスさんに声を掛けた。
「さて、料理を待つ間にキョンに質問でーす」
おいおい、芝居っ気たっぷりだな。俺のぼやきも無視してハルヒは続ける。
しかしその内容といえば、先日古泉と俺が見た例の番組の事であった。こいつは一体何を企んでいるのかね。
「でね、あたしは思ったの。なんでこの朴念仁な主人公は相手の女性に気付かないのか、だって顔見えてるのよ。逆に女性は顔も見な
いで仕草だけで気付いたっていうのに。再放送じゃなかったらTV局に苦情を言うところだったわね」
そういえばあの番組の女幹部は衣装こそ奇抜ではあったが、顔そのものは素顔を晒していたな。確かに気付けよとは思うな。
「で、キョンに聞きたいの。あんたならどうする?」
こりゃまた、不可思議かつ珍妙な質問だね。まるで俺が変身ヒーローみたいじゃないか。
「だから、こんな質問たとえ話に決まっているでしょ。それでも聞きたいのよ、キョンなら気付く?」
質問が変わってるぞ、ハルヒ。俺は注文時に再度注がれた水に口を付け、軽く息を吐く。
「実はな俺もお前の言う番組を見たんだ。俺もあの展開は無いだろうと思った、救えなさすぎるとな。子供向けだからってわけじゃないが、
今まで悪い事をしてきた女幹部にもやり直しをするチャンスはあってもいい気はするんだよな」
ハルヒはうんうんと頷き俺の話を聞いている。程なくして注文の料理がやってきて、一旦話は中断される事となる。
「でだ、気付くかと問われればあの状況でという条件ではあるが、俺なら気付く。ていうか気付かないのはあのボケた主人公くらいだろ」
「じゃあ最初の質問に戻るわね、面倒な事とか抜きにして単純に答えて欲しいの。あんただったらどうする」
200gという特別大きくはないが、かといって小さくもないハンバーグを三分割にして頬張るハルヒはさらに俺に問いかけた。
「簡潔に言うならば、彼女を助けるだな」
「……あんた、あのヘタレ主人公よりヒーローの素質あるわよ」
じっとりとした視線で俺を見るハルヒ。そりゃまたお褒めに預かり光栄だね。
「俺も男だろ、そりゃ小さい頃にはヒーローに憧れたもんだ。その俺が憧れたヒーロー達ならそう言うだろうしな」
「あんたを選んで良かったわ」
俺がハルヒの呟きを聞き返そうとすると、ハルヒは俺のランチセットのパンをかっさらい、ハンバーグソースを付けて食べだした。
「何すんだ、俺のパンだぞ」
「ふーんだ、のんびり食べてるあんたが悪いのよ。うーん、グラタンのソースもおいしそうねぇ」
ハルヒは半分になったパンを今度は俺のグラタン皿に突っ込み、ホワイトソースをたっぷりと略奪していく。
「さあ、ちゃっちゃと片付けてデートの続きをするわよ」
しまいには自分のフォークで俺のグラタン皿を蹂躙するハルヒ。おい海老を取るな、ああっホタテまで持っていきやがる。
俺のグラタンは暴虐の限りを尽くすハルヒ皇帝により、僅か数本のマカロニを残すのみとなってしまった。
あーあ、散々だぜ。なんて言ってる俺の顔が、何故だかは知らんが笑っている理由を誰か教えてくれないものかね。
店を出てから終止ご機嫌といった感じのハルヒは俺の前を歩いていく。少しばかり左手が寂しく感じるが多分気のせいだろう。
しばらく歩いていると俺の携帯が振動している事に気付く、メールのようだ。発信者は……涼宮ハルヒ。
俺は目の前にいるハルヒを凝視する、携帯を操作していた様子はない。それ以前に今この場でメールする理由が無い。
俺はこっそりとメールの内容を確認した、退院して今家に着いたとの事、昨日はゴメンともある。
じゃあ今ここにいるハルヒは何なのだ。いや、聞くまでもないだろう。
目の前の彼女は紛れもなくハルヒではあるが、しかし俺が以前から知るハルヒではないということだ。
つまり、このハルヒはハルヒの能力により生み出された複製体だ。しかし、どうしてまた俺に接触してきたのか。
頭の中の考えが纏まる前に、俺の体は自然と動きハルヒの肩に手を置いていた。
ヒーロー志願 第2話 「登場」 おしまい
コメント
ベタと言えばベタな、ハルヒの分身の登場です。
作中語られる番組の内容に特にモデルはありませんが、なんとなく特撮物にありそうな風なエピソードっぽいですよね。
女幹部ハルヒとのデートに思いのほか力が入り、コンパクトな第1話の倍の文章となりました。
まあ、長門・古泉とおでんを食べたり、古泉を家の食事に誘ったりと、妙にストーリーと関係の無いキョンとの絡みを入れ
ているのも理由の一つではありますけど。
「長門さんと涼宮さん」最終話で古泉との友人関係が深まる描写云々、というのをコメントで書きましたが、それが頭に
あってこんな描写を入れてたりします。
ヒーロー志願のシリーズはあまり長くやらずに終わらせる、というのが今回の自分の規定事項でして、次回が最終回です。
しかしこのコメントを書いている時点で、ほとんど進んでいません。
その間にスレの方では、別の話を2作投稿しています。中々進まずどうした物かと悩んでいるんですよ、これが。