Godzilla

「見てよこれ!たくっちスノーの言う通りだった!」

「ん?ああ、怪獣図鑑……ではないな、幻の巨大生物ファイル?」

 ミリィは古本屋でムーのような雑誌を買ってきた、時空新時代以前に発行されたものであり謎の巨大生物を特集している……だがその雑誌に載っていた恐竜の復活!?という一面に載っていたのはゴジラであった。
 巨大人喰い植物はビオランテだし害虫が活性化する恐ろしい未来の陰謀論はモスラ。
『ゴジラ』が特撮になってない世界ではここまで周囲をざわめかせるものらしい。

「モスラって一応地球の味方じゃなかったか?」

「向こうの人からすれば知ったことじゃなかったんでしょ、時空開通して誤解も解けたみたいだけど……」

「実のところゴジラはなぁ……新時代になってからゴジラを色んな世界で見かけるようになったっていうぜ」

 なんと『呉爾羅(ゴジラ)』は世界の垣根を越えてどんな世界観、どんな場所で吠えて街を荒らし回る新たな都市伝説へと生まれ変わっていた。
 ゴジラへの対抗手段は少なく、いつ現れるかも分からない巨大な恐竜のような……怪獣、怪しくも獣の性質を持つ悪魔。
 時空ならではのネタである。

「なんでゴジラは他世界にも現れるようになったんだ?アンパンマンとかドラえもんに出たら場違いもいいとこだぞ」

「うーーんコイツに関してはそもそも原作でもなんで現れたんだって枠だから考えようがねえな……」

 ゴジラが現れる条件も何をするかも全く掴めない、以前の資料をまとめてみるとキング・コングやガメラなど垣根を越えた激突が行われたりすることもあったという。
 ミリィや研究所は対策として『ゴジラ予報』を開発中だが完成に至るような決定的なものが足りないのが現状である。

「なんというかさ、ゴジラより強い怪獣とか都市伝説で居たりとかしないの?」

「いるよ、ゲームの中だけだがな」

「ま、まさかとは思うがそれってまたクリーピーパスタか!?都市伝説調査チームなのにそればっかじゃねえかよ!?」

「しょうがないだろ!時空規模のネタなんて大体こっち側になって!原作の雰囲気を崩さないジャパニーズの都市伝説がお利口さんすぎるんだよ!!」

『FILE8 GODZILLA』

 NES(海外ファミコン)で発売されたゴジラの戦略ストラテジゲーム、ゴジラを動かしてマスを移動してモゲラやゲゾラなどを倒していく一般的なゲーム……のはずがゲームにノイズが走り、怪獣の様子がおかしくなってゴジラより一回りも二周りも大きい人面の怪獣が現れるという、名前はそのまんま『RED』
 顔は人のようだがサソリのように胴は後ろに伸びた形で足が何本もあるとか。
 ゲームの中とはいえREDに対してゴジラは逃げることしか出来なかった。
 その正体はゲームの中に入り込んだ悪魔……sonic.exeみたいな性質らしい。

「なんかこのパターン多くない?」

「だってこの手の輩を説明する時悪魔って言った方が手っ取り早くないか?」

 たくっちスノーはREDをけしかけたらゴジラもなんとかできそうだが、肝心なのはそれでゴジラを倒してもREDをどうすればいいのか、オカルトな要素も強い上にゴジラ以上にわけわからない要素で占められているので街に残されたらコイツも倒す手段がなくなってしまう。
 それにゴジラだって役に立つ時が来るかもしれない……多分。
 ひとまずとして、都市伝説『ゴジラ』の対抗策を考えなくてはならない。

「そもそもの話、ゴジラの行動パターンさえ分かればなんとかなるんだけどなぁ……」

「たくっちスノー、ゴジラもだけどなんでガメラとかも一緒に流れてきてるのかな?だって他世界に漂流してるのって密輸にひっかかりそうだし破壊行動に繋がったらメイドウィンの怠慢にならないか?」

「それに関してだが順序が逆なんだ……はじまりの書には怪獣が出てくるってだけでいつ出てくるかとか分からないし、ゴジラが出るような世界にはメイドウィンはいない。」

「え?ゴジラの世界にメイドウィンはいないってこと!?」

「黒影にも聞いてみたんだがたまに自然現象みたいに作られては壊れる世界もあって風流だからって残しているんだ

 メイドウィンが存在しない世界は10年以内に滅亡してしまう、世界を維持する力はメイドウィンの不老不死をエネルギーに変換して成り立っているからだ。
 その際の世界が滅ぶ理由はその場の雰囲気に合わせてランダム、天変地異もあれば疫病の時もある。
 ゴジラとは時空からすれば世界を滅ぼすための手段に過ぎない、しかしそのゴジラが本来壊されるはずの世界も越えてメイドウィンの居る普通の世界へと侵入していくこともあるのがこの都市伝説の本筋だ。
 そもそもゴジラが通れるほどの巨大な時空の渦が出来るのだろうか?破壊活動による時空の乱れなどはたくっちスノーも時空犯罪者時代にやったことはあるが現実的ではなかった。
 ゴジラに壊される予定の世界もランダム、移動するかも分からないし近い場所に行くというわけでもない。
 不明確で法則性も皆無だからこそchannelを悩ませた、ツナカユリコも今回の件にはプログラムを悩ませるようだ。

「基本的に現れた後にしか対処できないし、何かあったらその世界の人々に解決させるのが監理局のルール……そうなると侵入される前に手出し出来ないようにしたいところだけど」

「時空間にバリアでも貼れたらいいんだけどなぁ……」

 そうなるとやはり『RED』のような上位存在を差し向けてゴジラを鎮圧するしかないのだろうか?
 自分達で考えても思いつかない、となると久しぶりにやってみるしかないか。

「ユリコさんが来てからしばらくやってなかった……ネットの噂集めというやつを……!」

「ユリコさんは一旦休憩してて!パソコン借ります!」

 たくっちスノーは別の電子機器にユリコを移してパソコンでゴジラについて調べるが、この間のカードゲームとは違い存在自体はメジャーで映画も数多く存在するのでサジェスト管理が大変だった、都市伝説にしても『RED』が有名なので『ゴジラが別世界に現れる』というネタに辿り着くのも一苦労だ。
 しかしゴジラの目撃情報はそれなりに多い……とはいえ、単にゴジラと言っても色んな種類が居る為同じ対策が通用するとも思えないが。

「なんだっけゴジラってバリエーションどれだけあったっけ?」

「確かバーニングゴジラってやつだろ?呉爾羅も別枠だし……あっ、メイドウィン級の実力があるやつにウルティマゴジラってのがいるな……いやそれ以外にもなんかめちゃくちゃいる」

 単に『ゴジラ』といってもバリエーションは何十種類もある、元々が全部同じじゃないですかとでも言われそうな細かい変化があるからこそ都市伝説上の情報も安定しないものだ。
 どこにどんな奴がいるのか……というところで、たくっちスノーは別の都市伝説に目を通して一つの奇策をひらめいた。

「なあ、ゴジラの居所が分かったらでいいんだけどさ……ゴジラをゴーストブラックに誘導させるってのはどう?」

「何その色々とまずそうな貞子vs伽椰子!というかゴジラってオカルト効くの!?」

「い、一応人類の怨念だかで生まれた怪獣と戦ったって記録もあるから……勝ったけど」

「人類の思いゴジラに負けてんじゃん!!何なら勝てるんだよコレ!」

「そもそも勝つことを想定した存在じゃないからなぁ……モンハンでいえばよくて撤退がいいところか?」

 弱点も分からない、決定打も分からない。
 g-lokシステムにゴジラの対抗策を聞いてみたりもしたが、非現実的だったり街への被害は避けられないものばかりである。
 改めて市民を守りながら怪獣を3分で討伐するウルトラマン達の凄さを実感する。
 だがしかし、人間の手で何とかできるほど弱き者な都市伝説は都市伝説としての価値があるのだろうか?というめんどくさい懸念もある。

「猿夢ってあるじゃん?電車の中で猿が1列並んだ人間を惨殺処刑していくやつ」

「あれを最初に語った人は夢を夢と認識出来たんだっけ?でも夢で死ぬって問題あるのかな?」

「自分達は寝ても夢なんか見ない、というよりは寝ることが出来ないから確信は得られないが、夢の中でも致命傷を感じたらショック死するみたいなのを聞いたことはある」

 猿夢で行われることは極めてスプラッタでリアルでも一方的に死ぬような出来事、それを脳が死んだと解釈したら本当に死ぬこともあるのだろう、もちろんオカルト的にはそういった理屈関係なく猿夢に処刑されたら問答無用で死ぬというのもありえる。
 他にもメリーさんに背後に回られたら死ぬとか、最初にやったさとるくんのペナルティ、都市伝説は死と隣り合わせでこそと思うところがある……だがそれは自分達が死なないから余裕というだけでゴジラみたいに何百万人が一斉に死ぬような物なら話は別だ。

「やっぱりゴジラだけ都市伝説の中でもスケールが違いすぎる……なんだっけ町とかの規模で滅ぼすやつなかった?」

「確かテレビにそんなのなかった?名前がどんどん出てきて最後に明日の犠牲者ですとか出るやつ」

「NNN臨時放送だったか……?」

 NNN臨時放送とは、深夜の国営放送が終わった際にカラーバーではなく謎の風景(ゴミ捨て場だとか)を流しながら数々の人名が上に登っていき、最終的に『明日の犠牲者です、おやすみなさい』というテロップが流れるものだ。
 動画もリアルワールドで出回っているが年齢や名前もぐちゃぐちゃでジェフ・ザ・キラーの余計なジャンプスケアまで挟まれている。
 だが実はこの都市伝説も実際に存在しているという。

「本当にあるの!?」

「あるよ、明日の犠牲者っていうのは尾ヒレがついた表現だけどね、時空案件で亡くなった人たちは監理局に自動的に記録されるんだけどそれが漏洩して噂が広がったのがあの都市伝説と言われている」

「へえ……監理局のミスだったのか…………ん?それってゴジラもそうなんじゃねえの?」

「ファッッ!?」

 確かに時空監理局ならびに掃除屋のミスと考えればゴジラが世界を抜けてどこ行くね〜んするのなんて不手際としてありえなくもない話だが、だとしたら何故ゴジラを他所の世界に招くような真似を……?
 何回もそんな事例があり、ネットでも出回り……ましてや時空新時代以前からそんな事例が知られているとなると単なる事故で済むような内容ではない。
 意図的にゴジラを招いて何かを狙っていた、黒影はそれを知っていたのだろうか……?

「黒影が怪獣バトルを観たかったから……なんて単純な話ではないだろうな」

「かといって時空犯罪者用の兵器にするには危険すぎる……何故?でも今までの中で一番ありえるぞ」

 ゴジラのコントロール、移動させる時空間の作成、破壊しても問題ない世界の用意……これら全て監理局なら出来るし、無視することも隠蔽も出来る。
 だがそれではせっかく時空監理局から離れて活動している都市伝説調査チームchannelのやり方に背く。
 こうなってくると確かめる手段は1つしかない。

「他の分身がゴジラに出会ってもおかしくない……ゴジラを見かけた奴に直接調査させるんだ」

「確かに俺達が直接やり合うよりはそれがいい……っていうか、今でもゴジラ見つけてるやついないかな?」

「どれどれ?」

 たくっちスノーとミリィがおでこに手を当ててゴジラと遭遇している世界を探るがあまりにも数が多いのでゴジラをピンポイントで探すのは大変だ。
 見つけた分身もいるにはいるが、既にいなくなった後だったりそれどころじゃない奴も多いようだ。

「あーあダメだ、分かっていたが他の事業の奴らめちゃくちゃ忙しいみたいだぞ、ゴジラに構ってる暇は無さそうだ」

「じゃあもう俺達でなんとかするしかなさそうっぽい?でもなんか……ゴジラの調査したら野次馬っぽくなりそうだな」

「怪獣映画ならよくあるポジションだろ、出発進行!」

 ということでユリコをオートロックに預けて留守番を任せて外に出ることにした。

 ◇

 ゴジラの居場所は分からないが、壊す世界についてはある程度検討がついている。
 たくっちスノーが向かった先は時空掃除屋の事務所、炭の居る所だった。
 時空掃除をする人間のほうがよっぽどゴジラに詳しいだろう。

「……みたいな感じで俺の所に来たのか、お前は」

「炭さん時空清掃結構やってるんでしょ?」

「あのな……俺達はあくまで滅びかけた世界の後始末とかゴミ掃除してるだけでぶっ壊すことが仕事じゃない、あれはただの自然現象、ゲームのランダムイベントみたいなものだ」

「でも炭さんゴジラが破壊してるところ目撃したりはしないの?」

「怪獣が暴れてる中仕事とか出来るか、怪獣バスターズやってるんじゃないんだぞ」

 炭は冷静にたくっちスノーに受け答えする、時空掃除屋は必要そうな物を回収したりしているだけでゴジラを呼び出したり確認しているわけではない完全な専門外であると。
 しかし彼女もまた同じたくっちスノー相手であるためなかなか食い下がらない。

「じゃあせめてゴジラがどういう所に来るかとどこ行くかとか見てたりしない?」

「メイドウィン共にとって世界崩壊の為の道具に成り下がったゴジラが逃げたって知ったら、俺は真っ先にお前らみたいな組織に通報している」

「え?道具に成り下がったって……」

「たくっちスノー、お前メイドウィンになったばかりなのに知らないのか?神の中にはオモチャ感覚で自分の世界を放棄してわざと壊すやつだっていくらでもいる……俺もそういう所には掃除はあまり行かない」

 全然知らなかった、自分の世界とは所有物であり責任なのだからしっかりと守るものだとばかり考えていた、たくっちスノーはこういうことしそうとメイドウィン達からは思われていたが監理局に入ってからの彼はこういうところで真面目であった。
 炭もまさか自分がこうなるとは思わず、知らなかったことに関して頭を抱えるが多分今回のコイツらはゴジラを探求するまで諦めないつもりだろうと断念した。

「……都市伝説調査チームchannelだったか?お前らメンバーはどんな感じだ」

「俺とたくっちスノー……あと留守番してるけどツナカユリコ、ユリコさんが色々事務とかやってくれるよ」

「都市伝説がメンバーの一人ってお前ら相当ふざけてるのかあるいは命知らずか……いや、俺でもあるんだったなコイツ」

 炭は頭を抱えながらも汚いデスクから紙を取り出してたくっちスノーに見せつける。

「……暇してるやつがいる、そいつをchannelに入れろ」

「おーっ炭さん助かる!ユリコさんって喋れないしそろそろ二人きりでお喋りして過ごすのに限界来てたんだよね……」

「そうそう、ミリィも上手くやってるんだけどね……自分達ちょっとばかり寂しくなってきてた」

「レギュラーキャラ3人実質喋らないやつ1人で第8話もやってたのかよ……ゴーグだって4話でロボット登場してたしレッドフードは6話で村出てるんだぞ……」

 炭は我ながら酷いとため息を吐きながら、資料を見せてミリィに詰め寄る。
 時空掃除屋にはちょっとの休みもないらしく、また別の所に向かわなくてはならないので道案内とか説明まではしてくれないらしい。

「ゴジラの件では役に立たないがここまでしてやったんだ、返礼は弾め」

「返礼って言われても何が欲しいわけ?」

「合コンセッティングしろ、いい男をたくさん連れろなるべく年下で」

「一番めちゃくちゃ変わったのはお前だよ炭さん」


「合コンっていうかいつからあいつって男もイケるしなっになったの?」

「未来のお前でしょ?いずれそうなるかもよ、炭さん性自認は女って言ってたし」

「いや自分がっつり男って認識なんだけど未来の自分に何があったんだよ怖いよ!!」

 炭というか未来の自分の変化に戸惑いつつも、紹介してもらった新人2人を探しに行くたくっちスノー達。
 まず最初に訪れたのは掃除屋のバイトに1回訪れたことがあるという大学生のアパートだった、既に炭から話はつけてあるらしい。
 ドアを開けるとでっかい辞書を持ったメガネの女子という典型的なやつが現れる。

「あ……えっと、東雲野々芽(しののめののめ)さん?すげえ名前だな……こちら都市伝説調査チームのchannelです」

「これお土産っていうかちょっと前に俺が買ったやつだけど」

 野々芽はオカルトオタクであり、都市伝説を調査するというよりは生でツナカユリコと出会えるという触れ込みで炭に紹介されてそのまま成り行きで仲間になることになる、電子生命体に看板娘やらせるのも限界来てたので生の人間の女子が来てくれるのはちょうどよかった。
 問題なのは野々芽がさっきから全然喋らないことである。
 喋り相手が欲しいからメンバーを貰ったというのに……と考えてると、野々芽がさっさとchannelの事務所へと入ってしまった。
 まあメンバーが集まっただけでも良しとしようということで二人目のメンバーに会いに行くことにした。
 次のメンバーは有名な配信者らしく既に事務所にいるというので部屋に戻ると、カメラ片手にグラサンかけた怪しい若者が撮影をしていた。

「おい〜っしゅ、どうもデルマンが出たっ巣〜、うわ所長来てんじゃんおいっす、今回から都市伝説調査チームchannelに入らせていただきます〜」

「や、やっと会話できそうな奴出てきた」

「この際話せたらなんでも良くなってきたな……」

 こうしてゴジラの話は分身に託すことにして、channelは新たに話し相手……及び新メンバーを手に入れたのだった。
最終更新:2025年06月12日 06:51