ルームナンバー666

「404号室ってなかった?都市伝説か何かで」

「あるっすねー、存在しないはずの部屋に泊めてくれって言った男の話ってわけ」

 存在しないはずの404号室、男が泊まると何故かそれが現れて気になって部屋の中身を調べようとして拒まれてしまう。
 無理矢理入ろうとした結果、男が帰った後に404号室から永遠に出られなくなってしまうという話らしい。
 怪談と都市伝説は何が違うのかみたいな話もあるが、一般人にとって無縁で恐ろしい話ならなんでも都市伝説であり怪談だろう。

時空監理局としてはどういう見方なわけ?ああいうやつ」

「ああ……その話だと404号室は誰かが中にいる時だけ存在を維持出来て消えることを望まないみたいなやつだったろ?リアルワールドでも付喪神なんて物が知られてるし部屋とか特定の物体に意思が芽生えることは結構珍しいことでもないぞ」

「付喪神自体はヤドカリみたいなものだしね、その辺の魂が元気のあるものに憑依するって感じで」

『今更ながら神様やさかいって雰囲気を壊すような言い方してええのやろうか』

 たくっちスノー達が何故こういう話をしているのかというと、ダイモンが都市伝説を題材にした映画を持ってきて設定の細かい違いを確認したいというのだ。
 世界によって馴染みのモノでも大きく変化するのが時空なのでこういった細かい所をリストアップしたら調査チームっぽくなるとかで。

「真田十勇士ですら安定しないからな……十人兄弟だったり、アナスタシアとかいうバリバリの外国人みたいな奴混ざってたり」

「それで言ったら織田信長以上のオカルトは出てこないからやめるんだミリィ」

「実際そういう認識の違いとかあるもんなの?」

「最近だとVTuberの実態はビビったな……」

「リアルタイムで信じ難い情報が飛んでくるのが俺たちだもんね……さすがにこれは企業機密だから言えないけどね」

 各世界を映画やアニメという形で発見された異常に関してダイモンが問いかけてたくっちスノーが答えるように疑問を解決していく。
 g-lokシステムに頼らなくても設定マニアの彼がいるだけで何でもわかる、こういう時にたくっちスノーの成分は便利だ。

「杜王町に振り返ってはいけない道みたいな奴あるじゃん?」

「あれ意外と色んなところにあるよ、自分というか監理局は時空間の歪みから生まれた異常を『時空湾曲ゾーン』って呼んでるね」

『やっぱし仕事でそないな変になったとこを直したりやらしてるんどすか?』

「うん、困ったときにはディバイディングドライバーぶっ刺してバッチリ解決なんだけどメイドウィンによっては直すなっていうところも多い」

『そら企業秘密とちがうんどすなぁ』

「メイドウィン達の愚痴とか不平不満なんて聞いても何のためにもならないだろ?そんな大したこと言ってないって」

「たくっちスノー……一応リアルワールドのメイドウィンだよな?」

「なんならミリィもメイドウィン目指してみるか?なんか最近はメイドウィンの友達増やしたいんだろ?」

「い、いやぁ世界もそんなにあるわけじゃないしなろうと思ってなれるわけじゃないだろ?」

 はじまりの書の数は決まっている……公式ではそういうことになっている。
 黒影の記憶も正確ではないので後から追加ではじまりの書が公開されて新しくメイドウィンを任命するということが最近でもあったりする、そういったメイドウィンは黒影の特別な情報操作によってまるで昔から存在していたかのように維持している。
 実は身近な世界も……。

『映画で思い出したけど、こないな噂知ってますのん』

【FILE10 ルームナンバー666】

『ルームナンバー666…さっきの404号室を題材にした映画……そやけど実はこのネタ、映画其の物都市伝説級の曰く付き作品でもあるんや』

「あっその映画俺っちも聞いたことある、404号室に泊まった美女がホテル内で数々の恐怖体験に見舞われる……ま、お蔵入り寸前になって劇場公開されたのは指で数えられるところってわけだけども」

「……あれ?その映画自分知ってる気がする、ユリコさんは調べればすぐわかるよね?」

「え!?待てよじゃあ俺だけ蚊帳の外!?酷いよ皆!?」

 一人だけ何も知らないミリィの為にダイモンは解説動画を作成してたくっちスノーの手も借りて少しずつ説明していく。
 ルームナンバー666とは同名の映画だが、そのデータを保存していたパソコンがウイルス感染してしまい他の映画の怪物が混ざって異様な作品へと変貌したという都市伝説でもある。
 元の話が完全に崩壊したことで公開もままならず止むなくこのような結果に終わってしまったそうだ。

「ああ……これもよくあるパターンだな、映画に関係ないキャラクターが公開時に混ざってるってタイプ」

「天下のディズニーでもあった事例だからな!スティッチが有名作品に割り込んで大暴れしたんだっけ?」

「よく知ってるねダイモン……しかし666ってこれまたベターな」

 666といえば悪魔の数字、困った時には6を並べておけばいいのだからホラーは楽である。
 田所が前に『そんなノリで114514とか流行っていったんだと思うと人間の執念とこじつけ度ってヤバい』とか愚痴っていた気もする。
 そして、当時にあんなカオスな状況で少しでも公開できた映画館の正気の沙汰を伺いたいところだ。

「新時代以前なら恐ろしい出来事だが今なら珍しいことでもないな」

「そうだね、レンタルビデオ屋でも当たり前のように売り出してるし……人気ないけど」

「無いんかい!そこはマニアに一定の需要があるって流れでしょうが!」

「俺達というか黒影局長の感覚が麻痺してるんだけど、本来の物語が歪められるって受け入れ難い人も多いよね」

『ならなんで?わしの行いは受け入れられな分かっていながらなんで?』

「なんでって……黒影が好きなようにやりたいから以外には思い付かないね、その映画改変版もレンタルされてるかも、ちょっと借りに行ってくる」

 たくっちスノーが時空の渦を越えている間に、野々芽は気になってミリィに追求する。
 もしかして今の歴史も殆どが黒影とやらの匙加減で変化しているのではないか、本来の物語なんてものはもうどこにもないんじゃないか……?一般人がそこまで踏み込むのは危険すぎるが野々芽はサイキッカーだし大丈夫だろうと、たくっちスノー不在をいいことにミリィは黒影のことを話す。

「君の思ってる通り、もう『本来の歴史』なんてものは存在しないんだよ……というよりはある人の話だと、何百年も昔からゲームやアニメで見れる範囲の物しか記憶していないし力もないって感じだよ、それを黒影が広げて歴史にしたんだ」

「ほんほん、俺っち達も最初は本に書いてある通りの事しか出来ないってわけね」

「まあそうなるね……これが良かったことか悪かったことか判断に困るけど、今俺たちがこうして自分の意志を持って物語とは関係なく生きられるのは黒影局長の影響が強いだろうね」

『もしも神様の影響ものうて、物語に従うだけの存在やったうちらは一体どないな風になっとったのやろうか』

「さあね、野々芽さんやダイモンも実際は君達の世界の命運を握る存在だったりして」

「じゃあ、お前さんは?」

「……俺はただの身代わりだよ、たくっちスノーという存在の身代わり、何かの物語に出ることなんて……」

「あっ何話してるの混ぜてよ」

「たくっちスノーにはまたいつかね」

 たくっちスノーが帰ってきたので話を切り上げるミリィ、まだ全てを話せる段階にはなれない。


 ルームナンバー666以外にも色んな映画を借りてきたらしい、それ以外にも数々の電化製品を用意してきた。
 今更になってちゃんとしたビデオデッキや専用の機材も買ってなかったことに気付いたらしい、今の時代に情報を調べたいならユリコに聞けばいいしパソコンで大体解決する、見たい作品は他の分身が見てくれるので必要なかったがダイモンや野々芽が来た以上は普通の人間に配慮した設備にしなくてはということで改装準備の為にその辺の家電販売店へと寄ったらしい。

「映画観る前にちょっと手伝ってくれミリィ、人も多いのにボロっちいビルは割に合わないぞ」

「まさか建物ごと!?ちょっと待てよ半日はかかるぞ!?」

「……え?ちょい待ち?半日?1週間とかじゃなくて?ここそこそこデカいぞ?」

「メイドウィンのあれこれよりは楽だよ!野々芽さん達はユリコさんが入ってるパソコン引っ張り出してホテル行って!」

 ミリィはユリコを野々芽に運び出して時空の渦でホテルへと案内した後に空間を閉鎖する。
 余計なことをすると楽しくなって深掘りして本題に入るまでかなり時間がかかるたくっちスノーとミリィの悪い癖である。
 半日と言っていたが実際は3日はかかるだろう。

「なんかアイツらって人生楽しそうだねぇ?のののさぁ、時間かかりそうだし俺っち達で先にルームナンバー666見ておかね?」

『そやけどこのままじゃユリコはんは映画見れへん思うけど』

「あ〜……ゲームの中に入れたくらいだしよ、映画の中とか入れちゃったり……しない?」

 ダイモンが聞いてみるとユリコはアスキーアートでグッドサインをテレビの中に侵入、DVDプレーヤーに映画を入れるとメインメニューの中でユリコが手を振っていた。
 もはや彼女はたくっちスノー達の影響を受けてゲームの中だけの都市伝説ではなくなっていた、近い内に電子生命体としての話に変化していくかもしれない。
 映画の中に入った事を確認した所に、野々芽のスマホにモールス信号が送られてくる。

『めちゃくちゃになった映画をわしがなんとか出来るかもしれへんって言うてんで』

「え!?ああそうか、ウイルスのせいで映画めちゃくちゃになってんだから電子生命体なら消せるってことね……いや、ある意味この人もウイルスみたいなもんだけど……信じていいんだな!」

 たくっちスノー抜きで行われる都市伝説調査、再生ボタンを押すとめちゃくちゃ派手なエキストラのごとく目立ちまくるツナカユリコ、都市伝説でも意外とミーハー趣味があるんだなと思いつつもルームナンバー666を試聴する。

『そやけど、実際なんとかするって何する気なん?』

 ユリコはまず映画を後ろから確認しながら直接襲いかからない怪異を見つける、雰囲気に似つかわしくない透明人間や河童、人魂などを直接手づかみで引っ張り出しては時空の渦の中に出してパソコンの中に埋め込んでいく。

『後は専用のソフトで削除できるさかいプロにお願いってことらしい』

「つまり俺っちの出番ってわけね!都市伝説の大御所さんに期待されちゃ張り切っちゃうねぇ!!」

 ダイモンがユリコが入ってたパソコンを借りて削除ソフトを作成して混ざったデータを消す、実際にキャラクターが消滅しているわけではないので遠慮なく作業できる。
 こういう事こそ監理局の管轄ではないのかと野々芽は思ったりもしたが肝心な職員がアレなのでしょうがない。
 元の映画のホラー展開まで巻き込まないようにダブルチェックも挟みながら蛇や伸びてきた腕などを次々と削除。
 野々芽とダイモンは編集していくうちに後からこの映画が普通になっても楽しめなくなってくるのではないか……と心配になってくるが、どうにか作業を進めていく。

『辛ないどすか、趣味やのうて仕事でサブカルを追いかけるのって』

「そりゃこういう地道な作業の時は辛いこともあるよ?でもなんだかんだ面白い時もあるからその為と思うとハッピーになれる、アイツラも案外そうなんじゃないの?」

「……あ」

「短編映画だったからサクッと終わりそうだ、こっちもただダラダラしてるってのも割に合わないよね!都市伝説チームChannelもうひと頑張り!」


 30分後コンプリートのエフェクトと共に完全に映画が元通りになったことを確認した三人。
 後はユリコが目立たないようにひっそりと脱出してユリコ自身の痕跡を消せば普通のルームナンバー666になる。
 主演の女優は本来の怪異を突破して夜を過ごし生き延びて映画が終わる……作業を終えたダイモンは一息ついて手を休める。

「ユリコさんもお疲れっしょー、これでこの都市伝説も終わったようなものじゃん?」

「……」

「どうしたよののの」

『いや……うちだけなんもしてへんさかいどうか思て』

「この都市伝説を教えてくれたのはのののっしょ?Channelの仲間として1%でも貢献してくれるならそれで充分っしょ、俺っちに関してもたまたま動画編集出来ただけだし、ユリコさんとかいうチートもいたからさ」

『……あんがとな』

「おまたせみんな!!」

「新Channel事務所完成したよ!!」

 今更になってたくっちスノーとミリィが時空の渦を越えてダイモン達を案内する、ビルは綺麗な形に作り直されて内装もお洒落にミリィが雰囲気を出した、野々芽のサイキックな装飾にダイモンの為も配信部屋を追加して生活感ある設備を整えた、更に目玉となるとは天井に設置された巨大な装置。
 たくっちスノーがレバーを引くとプログラムが広がっていきツナカユリコが具現化した、ミリィとたくっちスノーが共同開発したバーチャル装置によってユリコがより自由に動けるように整えたという。

「改めて新メンバー揃い踏みの新都市伝説調査チームChannel!はりきっていきましょうという感じ!」

「もう俺達の趣味の範囲じゃ留まらない感じって感じ!」

「おお……なんつーか本当に気合入れただけはあるじゃんって感じ、バーチャルの所とかどんなにこだわって……触れる!?」

「そう!リアルソリッドビジョンを買ったからユリコさんもまるで人みたいに触れられる!これで名実ともに看板娘だよ!」

 パソコンの中で過ごしてきたユリコは遂に現実世界に侵襲、たくっちスノーはもう忘れているがユリコは元々パソコン内に侵入して強引に混ざっている側でありそれが肉体を得るというのが本来どんなに恐ろしいことなのか……たくっちスノーは全く頭に入れてない。
 野々芽もダイモンもなんとなくそれってやばくね?と思いながら冷や汗をかくが今更修正されても困るのでソファでくつろぐことに。
 これまでと違って泊まったり生活するにも不便はなさそうだ、


「あっすっかり本題忘れてたけどルームナンバー666の都市伝説なんとかしないとね!」

『いや、それに関してはそちらがお楽しみしてるあいさに解決したけど』

「え?」

 ◇

「ええー!?ユリコさんとダイモンが修正しちゃったの早くね!?」

「ユリコさんが専用のソフト作ってくれたから……」

「そうかg-lokシステムとか手伝ってもらったしそれくらいなら容易か……」

「たくっちスノー、近い内に時空をユリコさんに支配されたりしそうだよね……」

 たくっちスノーが映画を確認すると他世界の存在らしいものは消え去っており、丁寧にユリコが比較映像まで用意してくれたので一緒に鑑賞する。
 まさかこんなところでニコニコワールドのMADみたいなものを見れるとは思わなかったがたくっちスノーは結構楽しんでいた、しかしミリィはこの振る舞いに関してかなりドン引きしている。

「え?え?これつまりユリコさんが映画の中に入り込んで改変したってこと?いや怖っ……今回は映画の修正だから大目に見るけど……これ下手したら時空犯罪だよ?」

「えっまじで……やべぇじゃん、下手したら俺とんでもないものの片棒を担いできたのな」

『監督不届きって事にもなりそうやけど』

「言うねえ野々芽さん……ん?ところでユリコさん、削除用のソフトってよく作れたよね」

「……あ、あ、あー……喋れるのね私、合成音声?変な機能つけて……それで、削除用のソフト?うん、それはね、実際に見つかったのだ」

「ツナカユリコが機械音声で喋ることに何のツッコミも入らねえ……!」

「いちいち気にしてたらキリがないからね……それで見つかった?」

「そうよ、映画のデータを元にバスターする高性能なソフト……ネットの海を辿って拾ってきたの、随分相性が良いみたいだし」

「あ、ああー……言わずとも納得したわ、なんてつまんねえ結末だ……君と野々芽さん達に任せて正解だったかもしれんわ」

「そうね、私も真実知ったら貴方達はガッカリするとやってて思ったわ」

『どないなことなのか説明して』

「つまりな、のののはこの映画がおかしくなったのウイルスのせいって言ってただろ?そのウイルス送り込んだやつと修正ソフト作ったやつが同一人物ってわけ、おおかたおかしくなった映画を修正出来ますよって商売でもしてたんじゃね?」

「つまり、都市伝説じゃなくて悪質な時空犯罪っていう自分らからすれば一番つまんないオチってわけ……まぁ情報提供には感謝、後で特盟に通報してもらえばこのソフトの正式な持ち主をしょっぴけるぞ」

 せっかく作成した都市伝説資料をくしゃくしゃに潰して、ルームナンバー666の都市伝説は解決……というかそういうものではないという結論に達した。
 今回はかなりギリギリな内容だったが、もしもたくっちスノーとミリィが直接絡んでいたらと考えると……。
 それよりもツナカユリコの実体化の方がインパクト強そうなのでダイモンは早速配信に利用しようと考えたのだった。
 そして都市伝説を提案した者として野々芽もまたこんな真実に落胆していたのだった。

『うちも正直ショックやったわ、せっかくとっておきの都市伝説を聞かしたろう思うとったのになぁ……』

 そしてその日のうちに他世界の存在が介入した映画は一斉検挙された。
最終更新:2025年06月12日 06:53