プロローグ(桃の園)

 時空新時代到達、世界の平和を守ってきたヒーローたちは時空の各地を飛び回る必要が出てきた為、致命的な人員不足に苦しめられることになる。
 そこで監理局や各世界の有力者はヒーローを多数用意するために養成校や専門塾などの英雄教育機関を大量に作成、来たるべく大災害や時空犯罪者の発生に備えて時空ヒーローを増やしていたのだが……。

たくっちスノー、君に頼みたい仕事がある」

「それ何回目?まあいいよ、また分身を手配する」

 そしてここは時空監理局、新時代に適応するために局長が腕を振るって数々の新事業を一気に展開して様々な並行世界に魔の手を伸ばしている。
 といっても基本的に働いているのは上層部、エリートバカ五人衆などと比喩されているが……何はともかく、局長の黒影が副局長のたくっちスノーに指示をする。
 黒影が指示書を提示する、表示には『ヒーロー養成校特別講師計画』と書いてあった。
 最近流行りのヒーロー養成校に自ら潜入して講師となり、有望そうな生徒をヘッドハンティングしてこいというわけだ。
 曲がりなりにもたくっちスノーは元A級時空犯罪者、一番英雄のことについて詳しいのが悪者ということらしい。

「ジェームズ・モリアーティ曰く犯罪王は時に探偵にもなり得る、悪の親玉は扱い方によっては英雄を生み出すことになるわけだな!」

「まあ自分もヒーローを育てることに興味があったからな、それで自分の行き先は……桃の園?」

 資料に書いてあったのは『戦隊ヒーロー養成校』桃の園。
 どうやら時空新時代が始まる前から後任者を育成するために存在しており、今後の指導法や施設管理の参考になりそうという理由で選んだらしい。

「えーと何々……ゴクレンジャーと呼ばれる戦隊ヒーローを育てる4つの学校……1つ足りないけどまあいいや、その内『桃の園』は紅一点のピンクを育てるわけね」

「ゴクレンジャー唯一の女性枠だから桃の園は完全女子校だよ、女性枠と言えど戦隊の後釜、優秀なヒーロー育ててるはずだから頑張ってね」

「舐めんな、今時男だ女だとか考えるような時代「じゃないんだよ……しかし特別講師ねぇ」


 たくっちスノーは待ち時間が欲しかったのでいつものように時空の渦を使わずに自腹で時空列車に乗ってきた。
 増やした腕で駅弁を食べながら本を作り、印刷からチェックまで全部できる、再生生成自由自在なたくっちスノーだからこそ出来る芸当であり、同じ見た目のミリィでも中々出来ない。
 何をしているのかと言うと、特別講師になるに辺り専攻を偽装してきたのでその為の教科書作りである。
 ちょうど別の分身が『時空の教科書』を作成していたのでそれを参考にして教科書を作成する。
 たくっちスノーが担当することになる学問は『戦隊超人学』、体育に近い物で戦闘やテレビ出演などのハードなスケジュールにも耐えられる高度な体作りの授業である。
 ちなみにたくっちスノーはがっつり不死身なので全く参考にならない。
 なんとか戦隊超人学の教科書を完成させて、残っている駅弁を丸ごと飲み込んで済ませる。
 時空の駅弁はどうにも味が微妙なので改善してほしいところだ、隣の席で眠っていたexeも目を覚ます。

「ティー、終わったのか?」

「悪いねexe、同行してもらって」

「ボディーガードに何を言う、危険な世界だから当然のことだ」

 実は各世界には時空監理局……というか黒影が定めた各世界の危険度が存在する。
 主に1〜5で第〇危険領域と呼ぶ、よく分からないなら子供向け作品とかほのぼの作品とか、特に争いもない平和な作品なら1とか2と判断しておけばいい。
 逆にワンピースやドラゴンボールなどの戦闘系は4、今回向かう世界も第三危険領域とそこそこ危ない世界である。
 ドラゴンボールやワンピースですら危険度4なのは何故か?と思うが、最も危険な世界である『第五危険領域』の基準は他世界人が簡単に甚大な被害を及ぼすかにある。
 ぶっちゃけ人体が弾け飛んだり病気になったりで死ぬだけならまだマシである、キャラクターはよほどのことが無い限り死んでも使い回したり蘇生できるし。
 あまりの危険さに具体的にどれなのか公表されないレベルだ。
 などと地の文を語っていたら、目的地の世界に到着した。


「ついたぜ!桃の園!!」

 時空列車を下り、大きな学校に辿り着いた二人。
 新時代以前とは思えない程設備は今風に充実しており、福利厚生もしっかりしている様子が見て取れる。
 生徒数も思ったより多く、既に期待できそうな雰囲気をしていた。

「ティー、今更だがお前に教育なんてできるのか?」

「正直な所自分は自信ないけど、専攻は体つくりだ、他の仕事でもやってるトレーニング法を教えて精神面や学力は他の講師に任せるとするよ!」

 これから華やかに美しく戦うピンクを育てていくことになる、ステップを踏んで入学式へを足を運ぶ。
 新入生は総勢数百名、高台から眺めるだけでも壮観だ。
 いざ自己紹介を……という所で、窓から慌てた様子で飛び出してきた男がマイクを掴む。

「あ~すまん!初日から遅刻してもうたわ!時空バスはよー分からんでほんまに……改めて俺は往歳巡、ここに来る前は大学で『戦隊考古学』を教えとる者や、今日から桃の園で特別講師に選ばれたってわけや!」

「えっマジ!?特別講師って自分以外にも居たのか!?……あーえっと、自分が『戦隊超人学』を教える時空監理局副局長のたくっちスノーだ!優秀なヒーローを視認すべく特別講師になりました!そんでこっちはボディーガード!」

 と、等々に現れた巡という男の事はさておき早速クラス分けを確認しようとするがexeに話しかけられる。

「ティー、この学校は何か妙だぞ、校長みたいな奴の話を聞いていたか?」

「自分その手のやつは寝過ごしてるから覚えてない」

「お前な……どうにも言い回しが怪しいぞ、桃の園はゴクレンジャー唯一の女性陣、それはいいか……腕力が男性より劣る中だとか、どうにも性的比較が多かった」

「exe、この学校は新時代以前の設立だ……そういう時代錯誤で頓珍漢な風評が残っててもおかしくないだろ?肝心なのは今どんな風に役立てるか、自分達にかかってるんだからな」

 しかしexeの不安は的中して時代錯誤を通り越してあまりにも異質であることをたくっちスノーは思い知らされることになる。
 少し桃の園の既存の教科書を確認してみると、読み進める旅に違和感を感じるのだ。

「凄いなこの学校、ハッキング技術なんて教えてるぞ?敵への諜報活動の為になるとはいえカリキュラムにするにはリスク高いだろ、悪用の危険性とかスパイが紛れ込んだらとか……でもそれより気になるのは」

「ピンクは決してレッドより目立たない、怪人との戦いでもレッドにトドメを譲り後に引く……というものか」

 ヒーローでありながら、まるでピンクが引き立て役……というよりは接待のように後ろに立たされている。
 はっきり言って今も尚こんな教育を続けているようでは彼女達は時空に出てしまえば間違いなく死んでしまう。

「案外、ティーが招かれた理由が分かってきた気もするな」

「なら尚更宣言しよう……桃の園は生まれ変わるべきだ!ピンクはレッドの引き立て役?トドメは譲れ?お前ら5人チームの自覚あるのか!男だ女だで役割決めているようではヒーローとして生きていけんぞ!!主張しろ若者達よ!!」

「ティー、それだと胡散臭い扇動者みたいだぞ」

「胡散臭い扇動者なんだよ講師ってのは!思想押し付けてなんぼだろ」

「なんか偏見エグい奴が特別講師になった!!」

 新たに桃の園に入ってきた少女達は生で見るたくっちスノーの無茶振りに戦慄する、これからずっとこれに付き合わされて自分達が信じてきたものを侵食されるのだから当然不安にもなる。
 そんな事を気にせずたくっちスノーは担当するクラスの出席を取る。

「当たり前なんだけど……本当に女の子しかいないな、男のピンクだっているのに」

「ゴクレンジャーがピンクは女しかなれないように出来ているだけだろう、あまり気にすることじゃない」

「そうか……えーとじゃあまずは、入学試験で一番成績が良かった、シエル・フローレスさん」

「はい」

 たくっちスノーが指名すると白髪で高身長の女性が立ち上がる、シエルと呼ばれた女性は見るからに優秀そうな振る舞いをしている。

「桃の園でゴクピンクになりたい動機を教えてくれる?」

「ゴクピンク……?我々は『ピンク』とだけ呼んでいますが」

「そりゃゴクレンジャーのピンクだもの、マジレンジャーのピンクならマジピンク、キラメイジャーならキラメイピンク、だから便宜上ゴクピンクと呼ばせてもらうよ」

「分かりました、私は幼少期よりヒーローの伝統文化に興味を持ち、心技体を磨いて……時空にも浸透させていく所存です」

「うん、まあ想定していた答えの1つではあるね、じゃあ次はどうすっか……」

「はい!!はい!!」

「じゃあそこの君」

 デカい声を出して返事をしたのは先端がピンク色の小柄の少女、名前を確認すると『花岡さくら』らしい。

「私あの……子供の頃、ゴクレンジャーの、えっと、この場合はゴクレッドでいいんですよね……助けてもらったことがあるんです、それからずっとレッドさんみたいになりたくてずっとトレーニングをしたり、技を考えたり……そして行く行くは」

「『レッド』を越える『ピンク』に、私はなります」

 さくらが発したその宣言はクラス全体をざわめかせて、シエルは聞いていた頃からずっと苛立っている様子を見せる。
 しかし彼は、たくっちスノーだけは。

「はーっはっはっはっは!!」

 笑っていた。

「こりゃ失礼……いいねえレッドを越えるピンク!いずれは未来の時空ヒーローになるんだ、それぐらいなってもらわないと僕がまた悪者になった時に倒し甲斐が無くて困る!!」

「あり……え?悪者?貴方一体」

「まぁその話は追々だよ、自分はこいつ気に入ったよ……それで肝心な成績は?exe」

「ん?ああ、花岡さくら……ふむ、身体測定はいい成績だな、筋肉量も言うだけはある、ただし学力試験は合格点ギリギリのワースト級だ」

「あっ……それはその」

 しどろもどろになるさくらに近付いてたくっちスノーはゆっくりと肩を叩き、セクハラにならないように危ないところは掴まず持ち上げて拘束し……そのまま教室から抜け出していった!!

「お前は今からぶっ通しお勉強会じゃい!!」

「いやああああヒーローなのに拉致される!!」

「おいちょっと待てティー!!授業どうするんだ!」

「お前と巡先生がなんとかしてくれるだろ!!」

 入学初日から問題発言したかと思えば生徒の一人を拉致、桃の園全体が前代未聞の状態で呆然とせざるを得ないし、当然人々はざわめく。

「嘘……何アレ……あれがウチの特別講師なの……」

「こんなんでちゃんと私達ピンクになれるの……?」

「ティー……そりゃこうなるだろう……仕方ない、アイツが何か問題起こすまでオレが代わりに授業を行おう、戦隊超人学、最初に必要なことはどれどれ……トレーニングに耐えるための栄養確保か」

 exeはたくっちスノーの作った献立表を貼り付ける、別世界から取り寄せた高カロリーで栄養満点な物ばかりだ。
 まずはこれを全部含んで体を慣らす必要があるらしいが、シエルでも引くレベルでヤバい。

「私達入学して早々生きて帰れるか怪しいぞ……」


「はい!次はジャッカー電撃隊!」

「ひいいい……」

 一方さくらは戦隊の勉強……という名のリアルワールドにもあるスーパー戦隊の視聴や設定のテスト、実物の確認や変身ポーズの再現などぶっ通しで『戦隊』の勉強をさせられていた。

「はい一旦休憩!exeも大好きなデンジャードッグ食べて栄養補給!」

「あのこれフランクフルトにしては分厚すぎません?」

「ベーコン巻いて揚げたからね」

「……私ここ卒業するころにはどんな体型になっているんだろう」

 与えられた栄養を全部力に変えるために一生懸命デンジャードッグを食べるさくら、たくっちスノーが確認すると最低級だったとは思えないほど成績優秀であった。

「さくら君、なんでここまで出来るのにギリギリだったの?」

「桃の園のテストは私の知らない知識ばかりだったんですよ、大型戦車の名称とかハッキングとか……でも、たくっちスノー先生の授業は戦隊に関する事だからつい夢中になっちゃって……」

「自分としてはお馴染みの戦隊のイメージと違いすぎてビックリだよ、ピンクがどうこうもだけど市民の安全のために武器は使わないし変身アイテムも無いの!?スーパー戦隊と言ったらガラケー型の変身アイテムじゃないか!!」

「いや、それは知りませんよ……しかもなんとなく、その知識もだいぶ古いような……」

 さくらはツッコミを入れながらたくっちスノーの学力向上試験の1つである変身アイテムについてしっかり書き記していく。
 たくっちスノーもこの世界の知識を得るためにさくらに色々聞きながら理解を深めていくと『怪人』についてのページで引っかかる。

「この世界って怪人にランク付けされてるのか」

「はい、S〜Dでランクごとに戦える相手が決まっていて……私達だとDランクしか相手出来ません、ゴクレンジャーが相手をするのはA級以上ですね」

「えっじゃあ大半の怪人が対ゴクレンじゃないわけ?」

「まあ……実際に戦闘するのは貴方みたいな教員とか、国家保安部隊ですね」

「なんか子供の夢を壊されたような気分がしてこないか?」

「……き、希少性があると考えましょう、うん」

 安全の為には必要なことかもしれないが、このシステムにも欠陥が多い。
 何故なら普通に考えると戦隊のお約束を守らずAランク相当の怪人が6体以上現れるだけで街の被害が避けられなくなる、ということになりかねないからだ。
 時空新時代において敵だらけになる現状、こんな括りで戦う相手を決めていたらどうしても人員不足は否めない。
 ゴクレンジャーのこれからの敵は怪人だけではなくなってくるのだから……。

「さくら君、君これから怪人以外とも戦ってって急に言われて自信ある?もちろんあのシエルという子や他の生徒もいずれそう聞く」

「うーん……まだ私は他世界というのに慣れてないんですよね、実感がありません、でもきっとレッドなら何も言わず立ち向かうと思うんです、だから今はレッドと同じ答えということにしてください」

「ああ、それで構わ……ん?」

 授業をしていると警報が鳴る、画面が映し出されてBランク怪人が現れたことがニュースで映される。
 Bランクを相手出来るのは教員……つまりたくっちスノーだ。
 正直な所exeに任せれば一瞬で解決するのだが、現在特別講師として試したいことがあったのでさくらを引っ張り出す。
 ちょうどいい所に何処かから現れた時空規模の変態も現れたとポチから連絡が入る。

「X級時空犯罪者の『怪人アルティメットスカートめくり』が現れたよ!次元を超越して空間を操ることでどんな状況からでもスカートめくりできるんだ!」

「クソみたいな能力だな!……さくら君、君にこれ任せたい、君のスーツはズボンだから効かないし」

「えっなんか嫌です……変な噂になりそうですし」

「心配は要らない、君に面白いものを見せてやろう」

 たくっちスノーはさくらを引っ張って目的地へと向かう……。


「マガマガのぉ〜ッ!!白熊(ゴッドネス)!!」

 真っ白な拳で一瞬で怪人を叩き潰すたくっちスノー、A級時空犯罪者としてB級ごときにカッコ悪い姿は見せたくないと大人気なく能力を解放してさくらに力を見せつける。
 いきなり最大規模の力を見せられてさくらはビビるが、本題はあちらの怪人アルティメットスカートめくりである。
 たくっちスノーは身体をプルプル震わせると、シンケンジャーの変身アイテムの1つ『スシチェンジャー』を作り出してさくらに渡す。

「こいつで『はぐれ戦隊』に変身するんだ!マガイモノの力がこんな事で役に立つなんてな!」

「え!?いやいや変身って言われてもどう使えば!?私ガラケーなんて使ったこと無いですよ!?」

「ええいこの現代っ子め!224と打ってからノリを引っ張って上部分に広げろ!」

「こ、こうですか!?この際なんでもいいや!!はぐれ戦隊に変身!!」

『ベベン!シンケンジャーリスペクト!侍!爽快!スシレンジャー!!』

 言われるがままに携帯のボタンを押してみると壮大な効果音や音声と共にさくらのスーツに変化がおこり、板前のような風貌にマグロのようなマスクを付けて……戦隊ヒーローに変化した!

「へ、変身した!?本当に……で、でもなんかカッコ悪い……」

「贅沢言うんじゃないよさくら君……じゃなかった!その姿はシンケンゴールドの大いなる寿司の力を継承したはぐれ戦隊!爽海戦隊スシレンジャーだ!」

「侍要素は!?」

 てんやわんやしながらもどうにか勉強会で習った変身ポーズを決めて戦闘態勢に入るが、直前に潰しておいたはずの怪人がうねうねと動き出して、さくらの方へ眼を向けていた。
 どうやらあの一撃で死んでなかったようで一気にとびかかってくるが、少し構えて殴り飛ばすだけで首がねじれてコンクリートブロックを砕いたかのようにぐしゃぐしゃに叩きつけられた。
 少し抵抗したつもりだったさくらもあまりの威力に少し驚いたが、自分が怪人を倒せるだけの力を得たことを実感して……すがすがしい気持ちになった。
 今の自分ならどんな相手にも勝てるかもしれない……が、やっぱりこの見た目だけは受け入れられない。
最終更新:2025年07月03日 07:45