「マーベラス……海賊戦隊ゴーカイジャーのレッドであり、宇宙帝国ザンギャック並びに数々の
オブリビオン、
時空犯罪者を攻めてる界賊か……!」
「現役レッドが藍の波止の特別講師だと……」
マーベラスの情報は桃の園並びに
時空監理局に伝わる。
マーベラスは物語の主人公即ち正義のヒーローではないのか?と思う者もいるかもしれない、しかし時空犯罪者の定義は少々勝手が違う。
何せ結論だけ言ってしまうと時空犯罪者の定義とは黒影にとって都合が良いとか悪いで決めている。
本当なら主人公全部押し付けてしまいたいが、その殆どを牢獄に入れないくらいの落ち着きはあった。
イベントにも支障が出るので仕方ない。
「さくら君嫌な予感がする!念の為君も藍の波止に向かってくれ!巡先生はゴーカイジャーのユニバース戦士の所在!自分は時空監理局に連絡を入れてくる!!」
緊急事態を察知して各自がメカ作りどころではなくなってしまいアッセンブル、黒影に何回も着信するがどうにも反応がない。
黒影の番号が繋がらないなんてことは時空犯罪者時代でも無かったので焦る。
シエルは
たくっちスノーに近づいてマーベラスの情報を集めようとする。
「確かゴーカイジャーの戦隊に接触する目的は『大いなる力』……」
「そう、時空犯罪者になっているのは権威のパクリとか強奪ってことになってるわけ監理局としては、戦隊達の合意のことが多いのにね」
「なら何故訂正しないのです?貴方は副局長でしょう」
「黒影に一方的に就任させられた……ね、まあ善処はしているがどうにもっていうのは否定しきれない、とにかく今はキャプテン・マーベラス!奴が来た目的はおそらくゴクレンジャーの大いなる力!警戒を怠ったら何をしてかすかわからん」
「そんな奴をあのチビに任せてよかったのですか?」
「あまりさくら君を悪く言うものじゃないよシエル、ピンクになれるかどうかはまだ誰にも分からないんだから、たとえそれがピンクの子でもね」
「……それに関してだが花岡あやめについて調べたいことが」
「ん?」
◇
マーベラスの方はというと、ベビーを帰らせることなく藍の波止の中をぶらりと案内させており後ろからコバルトが追いかけている様子。
頼むから帰ってくれ、今この状況でボインボインの美女は劇薬すぎるはよ帰れ。
しかしコバルトは身に沁みて強引な時のベビーの力を理解しているので止めることは出来なかった……なんとか救世主でも来ないかと窓を見てみると、さくらが藍の波止に来ていた。
「また女子が来たべ!!もう勘弁してくれだ!!」
「風評被害混じりにすみません!ここにベビー・キャロルという方は来ていませんか!?」
「おう来とる来とる!!ちょっとそろそろまずいんだべ!なんというか爆発するんだべ股間……いや人として大事なものが必殺スーパーダイナマイトだべ!!」
「な……なんか誤魔化そうとしてますげと却って酷いこと言ってることは伝わりました、蹴ればいいんですけ?」
「ちげ〜っての!!何トドメ刺そうとしてるんだ最近のピンクこんなんばっかだべか!?」
「変なこと言うのが悪いんでしょう!それでベビーさんは?」
「えーっと怪人研究室……」
「あっじゃあアレ使っちゃダメですね……チャッカマンたと木っ端微塵にしてしまいます」
「何使う気だっただオメェ!?」
ダイナマンのはぐれ戦隊アイテムをこっそり隠して当たり前のように素の身体能力で怪人研究室を飛び越えていく。
相田コバルトは実感した、特待生の自分でも油断しているとマジで追い抜かれるかもしれないこと、ちょっと真面目にならないとやばいこと。
ゴクレンジャーの未来は多分安泰であること。
(多分オラもちょっとやべぇべ……)
「ベビーさんいた!!」
「あっさくらちゃん!!」
一瞬であちこち飛び回ってさくらはベビーに合流するが、さすがにexeが担いでた戦車を持つことは出来なかった、というか普通に投げ渡してくる。
「いっ……いや無理ですから!!お二人ともこんなの持ち上げながら歩き回ってたんですか!?」
「藍の波止でブルー様達のようなイケメン観光」
「キャプテン・マーベラスの調査をしておきたかった……すまない」
「exeさんは良いですけど……こ、この人本当に海賊戦隊のゴーカイレッドじゃないですか」
「ここでは豪海レイトだ」
偽名まで使って特別講師になったのは、やはり時空犯罪者として身を隠すためだろうか?
だがそうだとしたら特別講師なんて目立つ真似をすること自体がおかしい……そもそも特別講師とはなんだ?元の世界の教師たちとは何が違うのか?
さくらは歩いている途中だが、exeとマーベラスに問いかける。
「あ……あの、持ち上げながらでなんですが……凄い今更な話ですけど、特別講師の皆さんってどんな風に選ばれたんですか…………」
「さくらちゃんそれ重いならおろしていいよ」
「普通に考えて人間の身体は戦車を持ち上げられるようにできてねえんだべ」
「なんかお前ずっとツッコミ役だな」
「ティーが選ばれた理由か?メイ……局長があいつに仕事を与えてきた、若手のヒーローが欲しいとかずっと言っていたからな」
しかしレイトは答えない、まあ自分達は思い切り部外者の存在だから当然かもしれない。
しばらくしていると口を開く。
「じゃあ、どうして藍の波止の特別講師になろうと?」
「この学校で出されるカレーライスが美味いからだ!食っていけ!」
「いや食っていけって……私そろそろ腕死にかけるんですけど」
「ブルー版俺様系イケメン部隊緊急集結!!作業引っ張り出してクレーン車持ってくるべ!!!」
◇
なるべく早く出てってほしいのに何故か藍の波止でカレーまでいただいているさくらとベビー。
クレーン車に引っ掛けられたピンクの途中経過を持ち上げながら桃の園へ強制送還、股間より先に堪忍袋の緒が切れたコバルトはたくっちスノーに抗議の鬼電を入れる。
「おめぇ自分の生徒にどんな教育してるだか!?厚かましいとかは無いけどなんか危なっかしくてめっちゃヒヤヒヤしただよ!?見てられなくて尻を触る暇もないべ!!」
「お、おう……なんかごめん、セクハラしてたらポチ、同僚みたいなノリでぶっ飛ばしてたけど」
「おめぇは犬を同僚にしてるだか!?」
「そういうツッコミされるからポチはやめとけって言ったんだけどな黒影に!!」
コバルトとたくっちスノーの会話も気に留めず藍の波止のカレーを食べるさくら。
まさかカレールーまで青色とは思わなかったが案外味は悪くない、見たこと無い色の肉や野菜を使っているが普通に食堂に出されるなら問題はないだろう。
食欲を唆る色合いでないことは確かだがマーベラスが言うには美味いのは確かである、宇宙海賊は感性がちょっと異なるのか慣れてるのか……。
「相田さんとか青色のご飯よく食べられますよね」
「ん?ああ、オラも最初は見るだけで吐きそうにはなったが慣れって恐ろしいべ、ラーメンもカツ丼まで青色、ブルー1色にするからってここの調理マシーン狂ってるべ」
「そう考えると自動販売機が全部桃ジュースだったウチはマシだったのかもしれませんね……桃の園だけに」
「え?面白そうじゃんさくら君やってみようか桃料理フルコース」
「えっ」
この瞬間花岡さくらは桃の園一同から袋叩きになることが確定した、とばっちりだが受け入れるしか無い。
たくっちスノー?彼は死なないのでよりレベルの高い拷問が待っていることだろう、この日初めてさくらはたくっちスノーに恨みを感じた。
「さくらちゃん、今からでも帰ってすぐ殴りに行かない?」
「今行ったら私もそうなる運命しか見えないんですが……」
「オラの知ってる桃の園と違いすぎるな……」
「おい待てよ、カレー食ってそのまま帰るつもりか?」
「いや帰らせなきゃまずいんだべキャプテン!少しでも早くゴクレンオー作らせなきゃダメなんだって!!」
「あの作りかけのやつなら今桃の園に送った、2人くらい抜けても問題ないだろ」
マーベラスはさくらをどんどん奥へと連れて行ってしまう、遂にはエレベーターで一気に地下まで降りて桃の園にもある地下訓練所まで辿り着いた。
こんなところにまで設備は行き届いており清潔で客席も広く、まるでローマのコロッセオのようだ。
マーベラスはスタジアムに埃がないことを確認して立つ。
「お前の噂は色々聞いた、はぐれ戦隊の事、ピンクの親族なこと……強引にでも会いに行く機会が欲しかったくらいにな」
ポケットから自身の変身アイテムであるモバイレーツを取り出して構える、さくらは自分が宣戦布告されていることに気付き使う予定だったダイナブレスを取り出して変身の体勢に入る。
はぐれ戦隊の正体を隠すとかこの際言ってられない状況だ。
「レッドを越えるピンクになりたいそうだな?それがどこまで本気か見せてみろ」
「……私はテレビを通して貴方の旅路を観てきました、貴方もまた数々のレッドに認められて受け継いできた者、今の自分を確かめるには不足無い相手です!……でも、いいんですか?」
「ピンクがどうとかブルーはなんだとかそこまで付き合う気はない、俺は特別講師として強くて優れた戦隊候補を育てることを優先する……そうだ、ただこうしてやるだけじゃ授業にもならない、コバルト!」
「あっ、はいだべキャプテン」
「桃の園は確かもう1人いたな?タッグ戦に付き合え」
「はあ!?オラとキャプテンで組めって言うんだべか!?桃の園相手に!?」
相田コバルトは特待生、つまりブルーに最も近い立場……どう考えてもマーベラスどころか彼でも相手になるのか怪しい。
ベビーが相方とはいえ現役レッドとのコンビで勝ち目は無い……普通ならそう考えるだろう、だが!
「構いません!ここで結果を見せなければ……私はレッドさんにもおばあちゃんにも顔向けできません!!」
「ブルー様の特待生と直々に!?ベビーがんばっちゃう〜♡♡」
二人は諦める気は無かった!理由は全然違うけど!
「でもキャプテン、桃の園の方に伝えずに勝手にこんな事して言いだべ?」
「大丈夫です!私から伝えておきますので!」
「なら文句無しだな……いくぞ!」
マーベラスはポケットからフィギュアのようなものを変形させて鍵のようなアイテム……レンジャーキーを作り、モバイレーツに差し込む。
「ゴーカイチェンジ!」『ゴーカイジャー!』
「着火!」『ダイナマンリスペクト!科学!火薬!チャッカマン!!』
マーベラスがレンジャーキーをモバイレーツに差し込んでひねると瞬く間にゴーカイレッドの姿に、さくらはダイナブレスを装着して構えを取ると力強い爆発と共にダイナレッドみたいなはぐれ戦隊へと変化する。
ダイナマンには追加戦士がいないので今回の姿はちょっとやり方が違ってくる、歩くたびに粉塵爆発が起こるこの姿は普段呑気していたベビーもちょっと焦った!
「あっやっぱりさくらちゃんがはぐれ戦隊だったんだね!」
「えっ、ベビーさん知ってたんですか?私ももう隠しきるのも限界着てるとは思いましたけど……」
「シエルちゃんから聞いたよ」
「シエルさんにもバレてたんですか!?」
「ねえねえあたしもそういうの使いたいよー」
「念のためにってたくっちスノー先生からもう1つ預かってますけど」
「ダメだべそんなの!生身で戦ってるオラだけめっちゃ不公平になるだ!!」
「派手に行くぜ!」
全員の思いや意見はバラバラに戦闘が始まる、藍の波止の二人はさすがに現役レッドと特待生のコンビは伊達ではなく、おそらく一回もコンビを組んだことがない即興の合わせにも関わらず息の乱れも無い。
あれだけツッコミ役したりナンパを隠していたコバルトも戦闘に入ると一転して敵意の眼差しとなり、細身の身体でベビーを足から放つ衝撃波で浮き上げる。
ゴーカイレッドも剣も使わずにさくらを追い込む。
「女は男より腕力が劣る?レッドの引き下げ役?違うべ、そんなものは諦めたい理由を探している奴らの言い訳に過ぎねえべ」
「オラが強いのは男だからじゃねえ、特待生になるくらいめちゃんこ努力続けてきたからだべ!!」
「ブルー様助けてあたしちょっとあの人好きになりそう」
だが、ベビーとさくらだって共同訓練で切磋琢磨して、ピンクはレッドにトドメを譲るべきと言われても諦めること無く肉体訓練を常に続けてサバイバルまでやってきた。
成績が悪い分肉体改造も行い、最近ではたくっちスノーの戦隊超人学も学んださくらは……ここで引き下がれなかった。
「ダイナマイトドロップ!!」
しかし実力の差は気迫と思いでは簡単に覆せない、ドロップキックを受け止めたゴーカイレッドは意表返しとばかりに新しいレンジャーキーを取り出してモバイレーツに差し込む。
「ゴーカイチェンジ!」『ゲキレンジャー!』
鍵を差し替えるとゴーカイレッドは一瞬で『獣拳戦隊ゲキレンジャー』のレッドに変化して拳法でベビーとさくらを同時に押し返した。
「え!?キャプテンってそんな姿にもなれただか!?」
「さくらちゃん、あれどういうこと!?」
「ゴーカイジャーはレンジャーキーを使うことで別のスーパー戦隊の姿になることが出来るんです、その数確か……35種類!」
(つ……つまりキャプテンは35通りの戦術が取れるわけだか、とんでもねえ人がウチに来たんだな)
「感心してる場合じゃ……ねえだろっ!?」『シンケンジャー!!』
「うわっ!!」
話している間にも攻撃は止まらない、レンジャーキーを束のように上へ投げ飛ばして次々とゴーカイチェンジ。
シンケンジャーになって刀を振り上げたそばからジェットマンに変身して空を飛び、ハリケンジャーとなり背後から攻めにかかる。
ゴーカイレッドは大人気ないのではない、容赦しないのだ。
さくらも理解している、レッドを越えるピンクとはそういうものだと……個人戦ではないことは分かっているがベビーを庇っている暇はない、強いのは彼だけじゃない。
「コバルトはどこだ?」
「ここだべキャプテン!!」
ハリケンジャーのスピードに追い付くようにコバルトも飛んでおり、三角飛びでダイブをしかけてベビーの真後ろから足払いをしかけてそのまま投げ飛ばす。
レッドなくしてブルーあらず……exeの言葉の意味を心で理解した、これがまだ見習いと特待生の実力差だ。
「はぐれ戦隊のスペックは高いがまだそれだけだ、よほどソレを作ったやつが優れているとしても……」
「オラは負ける気しねぇだよ、最も可愛いお嬢さんに足元をすくわれちゃ……中々に恥ずかしいだべな、オメェがピンクなりてぇようにオラも何が何でもゴクレンジャーなると決めてんだ!!」
「これを模擬なんて甘い気持ちでやってんじゃねえべよ!?本気でオラをぶっ殺しに来い花岡さくら!!オラはオメェでも殺せるぞ!!?」
相田コバルトは……本気だ、一体何が彼をそこまでさせるのか分からない。
しかしこの気迫には思い当たるものがあった、シエルだ。
シエルもこんな顔をしていた時が多かった、そして思い描いたのはシエルが自分より先に特待生になってしまうという不安。
死にたくない、まだ死にたくない。
こんなところでくたばって何色にもなれないまま死ねない、さくらの想いが着火するその前に。
「さくらちゃんを……さくらちゃんを死なせるかああぁぁ!!!!」
同じ言葉を受けて理解し、覚悟を決めたベビーが踏み込んでコバルトの顎を正確に殴り抜けた。
彼女の中に多少の甘さはあった、試験中には人間相手だと思って軽い手加減や躊躇いがあったが、コバルトは危険を覚悟でそれらを振り払い全力でかかってきている。
愛しのブルー様に近づく為に、ベビーは一線を越える。
(よ……予測していたとはいえなんてパワーだべ!!受け身の体勢をとるのも精一杯……!!)
「逃がすかああっ!!」
「なんて……思っとるわけないべな!?」
「猫趙千光偏照姫!!!」
「アルタイルスプラッシュ!!!」
跳ね飛ばされながらもコバルトは右足だけでベビーに反撃、必殺技がぶつかり合いながら空で大激戦を繰り広げる。
ブルーといえば青い空、どんなときでもクールに諦めずが心情、相田コバルトの真骨頂は空中戦にある!!
「相田さん全然動じていない!?あんな不利な状況だったのに!?」
「よそ見してる余裕あるのか?」『ファイナルウェーブ!!』
「ま、まずい!!必殺技……!!」
ゴーカイレッドは隙を生じぬ速さで首元までサーベルを近付けて至近距離で必殺技、はぐれ戦隊の姿と言えど耐えきれるはずもなく金網に叩きつけられるように吹き飛ばされてベビーも頭から落ちていく。
「ま……まだ……まだ戦える……」
「いや、もうこれで充分だ……コバルト、お前あいつの手首を折ったな?」
「えっ?」
倒れたベビーは自分の片手を抑えながら立ち上がれなくなっている、右手が青く腫れてあらぬ方向に曲がっている……攻撃を弾いてそのままベビーの手を掴みへし折ったようだ。
しかしコバルトもこの結果に満足いってない様子である。
「……あの技をマトモに相手してたらオラは死んでたかもしんねぇ、そう思ったらこの手を思いついた……初めて試合でゾクゾクしたべ、本気で惚れそうになっちまった……」
「私は、私はまだ……いえ、私はまだ未熟だからベビーさんがこんなことになった、マーベラスさんはそう言いたいんですね」
「これは現役レッドとしてのピンクへの宿題だ、その手を治して何度も予習復習を欠かさずにな……」
花岡さくらは思い切った。
これが本物のスーパー戦隊とそれにあと一歩近付いた男の実力であると。
分かっていても悔しさを隠しきれずさくらは男泣きした。
最終更新:2025年07月15日 06:51