合体!ゴクレンオー

「えー桃の園の皆さん!!良いニュースととても大変なニュースがございます!どちらから離しましょうかね!?」

たくっちスノー、もう生徒おらへんで」

 桃の園内にも一大イベントはある、当然ある。
 一応、学校なので。
 さくら達もこの時間には早帰りして各々が好きなように過ごしているがたくっちスノーはそんな事情関係ねえとばかりに話し続ける。
 全員にスピーカーを生やして何が何でも聴かせてやるという意思を感じる。

「あーあーマイクテスマイクテス!!俺は不死身の杉元だァァァーーーッ!!ウェイクアップ・ダン!!チェェェェストオオオオオ!!!!」

「やめんかアホ!!叫ばんでも全員聞くやろ教師の発言なら!」

「えー、これを聞いてもまだ寝ていたやつ単位を落とします」

「横暴」

 久しぶりに時空犯罪者らしい騒音騒ぎと無茶苦茶をしてさくらはあーめんどくせぇみたいな顔をしながら布団にくるまり、一応話は聞くだけ聞いてみることにした。
 ベビーはというとこんな状況でもまだ爆睡しておりあまりの呑気さにシエルは引いていた。
 多分下手したらこいつどんな世界でも生きられるんじゃないのか。

「では改めましてねぇ!こういうのって良いニュースから伝えたほうがいいと思いまして!じゃあ伝えます良いニュース!!皆さんの頑張りのおかげで無事にゴクレンオーが完成いたしました!!」

 たくっちスノーはテレパシーの無駄遣いで直接桃の園全体の脳裏に完成した巨大ロボットゴクレンオーの姿を流し込んでくる。
 ニュータイプもびっくりの高密度の情報の波がまだ思春期を殺したばかりの少年の翼を毟り取るように襲いかかりさくらは若干頭痛になった。
 しかし何はどうあれ自分達がゴクレンジャーの為に何かを成し遂げたという事実は感無量である。
 更にたくっちスノーは連鎖攻撃とばかりに新しい情報をレイヤー越しに押し付ける。
 いよいよシエルの眼鏡が割れて鼻血吹き出してきた、時々この特別講師は人間の限界を理解せず鬼畜のような行いをしてくる。
 人の心まだ全然わかんない善人なりたてだからしょうがない。
 その映像はというと、レッド達が巨大怪人を前にして5つのマシンを発進させて変形させ、合体してゴクレンオーを作成させる場面である。
 まだ戦闘の途中だがさくらは尊死、シエルは情報量でオーバーフロー、ベビーはまだまだ熟睡。


「おいいい加減にしろやたくっちスノー!とても大変なニュース伝える前に脳がキャパオーバーするやろがー!」


「なるほど……それでさくらちゃん達はここでクールダウンしてるべか」

「一応ちゃんと経営してる喫茶店なんだからさ、雑魚寝するのやめてもらえるかな」

 少しでも脳を休める為にぐったりしたさくらとシエルがサクラの店でゆっくりしている中これでもピンピンしているベビーがコバルトとたくっちスノーの言う『大変なニュース』のことについて話し始める。

「それでっそれで……相田さんのところにも来たよね!修学旅行!!」

「へぇ……桃の園って一応修学旅行とかやるんだ」

「未来人なのにやってねぇのか?毎年恒例でちゃんと文化祭とかもあるべよ」

「僕の場合はそれどころじゃなかったからね……入学してすぐに事件だったから、イベントらしいことは何もしてないような」

 「だったらサクラちゃんも行こうよ絶対楽しいから!」

 「心配しなくても修学旅行は全学校共通べ、紅の砦もしっかり含まれているはずだ」

 もっと大変という内容は5つの学校が一斉に集まって行われるこの世界イチの特大イベント、戦隊養成校の修学旅行である。
 その規模総勢千人超え、特待生から新米まで……更に現役メンバーまで何人か護衛に回るのだから凄まじい。
 もちろんただ遊びに行くのではなく文化交流や遠い地域での大規模訓練も兼ねたものだ。
 5色のメンバーが揃うことで合体ロボなどに必要とされるチーム一同の連携や絆を深めるという意図のもと行われる。
 しかしたくっちスノーや黒影が来ている以上行き先が普通で終わるわけがない。

「ところでどこに行くの?浅草?京都?それとも東京のいい感じの所?」

「おっさんみたいな発想してるなぁ……なんか、フツーじゃつまらないって二人してめちゃくちゃ気合い入れてるそうだがなぁ」

「でもね!今までよりずっと凄い旅行になるかもだって!何故なら」

「……こ、この世界初の他世界旅行、それもスーパー戦隊の世界だそうだ」

 シエルはぐったりしながらも手を伸ばして反応する。
 たくっちスノーの直接脳内に送られたメッセージとなると嫌でも覚えられる、修学旅行の行き先はなんと『機界戦隊ゼンカイジャー』の世界。
 ありとあらゆる平行世界が束のように繋がっているので都合が良いと考えたらしい。
 しかしゼンカイジャーといえば第三危険領域である、戦隊候補生とはいえ易易と学生を連れ出して良いものか……exeはそんなことを言っていたが、さっきから黙ってジュースを飲んでいるたくっちスノーは問題なしとばかりにくつろいでいる。

「心配ないよ、ちゃんと何の問題もないことを確認した上でこの場所に決めた、何せコンプリート……あっごめん、忘れて」

 『コンプリート』とは、はじまりの書の内容を特定ラインまで進めて世界の命運を握る通称『ゴッドイベント』を複数終わらせて大団円、まあ要するにアニメやゲームを観る側からすれば最終回を迎えた状態の世界を表す。
 なお、コンプリートを迎えたからといって終わりではなくイベントや大冒険はまだまだ行われる、そういう風に作られた世界なのだからしょうがないが余所者が旅行する分には問題ない。
 スーパー戦隊の世界49個は規模がデカくて黒影が目立ちたいとばかりに気合を入れたのでゴレンジャーからブンブンジャーまで全てコンプリート済である。
 なお、コンプリートの匙加減や基準はメイドウィンにも分からない。

「ゼンカイジャーの世界かぁ楽しみ!そもそも他世界に行ったことないし!」

「どんな奴でも他の世界に行ける新時代と言えど簡単な事じゃねえだがなぁ」

「そ……そもそも私たち桃の園だけでも相当な数なのにどうやってまとめて移動するんですか?何か乗り物貸してくれます?」

「うん、なんか黒影が気合い入れて大規模な乗り物作ってる、これが成功したら運送業を独占できるしインフラを完全に手中に収めることが出来るんだってよ」

「そんなこと僕達に伝えて良かったの?」

「もうみんな把握してるよ、君等以外でも自分達は黒影は色々やってるみたいだし……ところでミラくん?」

「ミラ?ああ、未来のサクラって言いたいのね?ちゃんと調べてあるよ金の久遠のこと、まだベビーと君は見てなかったっけ?」

「藍の波止を調査しているexeももうそろそろ帰ってくる、先にそっちから聞こうか?」

「あのたくっちスノー先生……私も気になるので脳が休まる技とか使ってください」

「ああごめんさくら君、ちょっと脳の秘孔突くから耐えてね」

「いやあの出来れば軽めのやつグエエエエ!!!」

 たくっちスノーは容赦なくさくらの脳天に御指をブッ刺して疲れを和らぐが疲れ以上に生命として大事な物もぶっ壊してないか見てる方としては不安になる。
 当然シエルは逃げ出そうとするが無様に這い回ることしか出来ず指が滑ってお尻に刺してしまいイノセントイストワールが飛んでくる。
 普通にセクハラになりかねないので仕方ない。

「あ……改めてだ、この未来のサクラが金の久遠の事を調べたのだが、学校自体がどうにも胡散臭い」

 シエルはパソコンに残しておいた金の久遠の監視カメラ映像を見せる、さくらとたくっちスノーからすればようやくという感じなのでじっくり調べている……改めて金の久遠の生徒達は無機質でとてつもなく不気味、機械工学に長けているだけあって校舎内はかなりハイテクな作りになっているが……コバルト達がこれだけで夢中になるはずがない、どこかに秘密が……。

「そこ、この教室の下のカメラズームするべ」

「ここか……なっおいさくら君見ろ!!こいつら!!ここの生徒!!」

 たくっちスノーが見つけたのは金の久遠の地下、しかし藍や桃と違い建てられていたのは量産工場、そこで作られていたのは人に近い見た目のアンドロイド……そこまでは良かったのだが、それがイエローの制服を着ているではないか。

「こういうことだ……金の久遠の生徒達は人間じゃない、皆ここで作られていたロボットだったんだ!!」

「え!?じゃあまさかそれ、来道さんが……」

「いや、この規模の大きさから見ると梃子が来る前からだろうね、そもそもあの兄妹は機械面は専門外だ」

「とするとイエローが作ってきたわけか?見た目のわりには頭いいのかアイツ」

「あっそういえば言ってなかったっけ?現イエローも普通にロボットだよ」

「そういう大事なことはちゃんと共有しろバカサクラ!!」

「ぐえー」

「やっぱりこういう所さくらちゃんと変わんないなー」

 金の久遠の生徒は全員ロボット、イエローもロボット。
 実際は金の久遠及びイエロー候補は誰も求めていなかったということになる、何故?何のために?
 こんなことが出来るなら最悪どの色もロボットでやらせて問題ないことになるし、学校に置いて教育される意味も分からない。
 梃子もそういうのが好きな狂人というわけでもないらしい。
 その答えに関してはサクラが知っていた。

「これは僕の未来越しにベビーから聞いた情報なんだけどね、君らの時代でも人類は滅亡の危機に扮している」

「いきなり唐突だな、悪の組織?侵略者?ゴクレンジャーの裏切り?」

「遺伝子の劣化だ、男にある特定の遺伝子が日に日に失われていきいずれ男は産まれなくなるらしいよ」

「γ染色体が?……ああ、そんで未来のサクラちゃんは男のホルモンを加えて生き長らえてるわけべ」

「うん、僕や羽丸は向こうの時代で種を残す研究を続けていたところさ」

 近い将来男が生まれなくなるかもしれない、そんな課題を乗り越えて頑張っているのが現在のゴクレンジャーや未来のサクラ達。
 希少な人類の代わりとして考えた手段の1つがイエロー達の完全なるロボット運用なのだろう。
 メイドウィンであるたくっちスノーには分かる、これは『ゴッドイベント』だ、はじまりの書から発令される緊急ミッションのようなもの……。

「私たちの時代でもそんなことが起きていたなんて……レッドさん達も人々を生かす為に頑張って……」

「実際ゴクレッドも立派だったよ、僕の世界じゃやり方を間違えてしまったけど……君への動向を見るにその心配はないのかな?」

「でも女の子だけしか生まれなくなっちゃうなんて、どうしたらいいのかなぁ?」

「そこら辺は自分も科学者要素として気になるところだ、種の存続なんてマガイモノには無縁だが……結構難しいことまで考えるんだな、君らは」

「何の話だ?」

 ちょうどexeもパソコン片手に帰ってきたところだ、何か話があることは見抜いていたので事情を説明すると柄になく悩んでくれる。
 たくっちスノーは本当に相談したい時なんだかんだでexeを頼る、ミリィの方が話がわかるんじゃないかと彼は言うがこういう相手の方が気が楽になるからだ。

「男が生まれるのに必要な……その、γ遺伝子というものか?それを後から加え入れることは出来ないのか?そこにいる未来のサクラのように」

「残念だけど男性ホルモンとγ遺伝子は全く違う、それに双性も僕が好き好んで成ってるだけで現実的な解決手段じゃないよ」

「女を後付けで男っぽくしてるだけ、養殖ウナギを作るんじゃなくて生殖ウナギを増やす方法を模索してるわけ」

「その例えも違う気もしますが……」

「養殖?だがそれっぽいヒントは掴めた、オレはお前と違って学がないから諦めたがシエルなら何か掴めるはずだ」

「エレボスの情報が掴めたのか!?」

「ああ」

 exeは口からUSBメモリを発射してたくっちスノーがキャッチ、そのまま耳に挿すことでお腹がパソコンになりデータが出てくる。
 コバルトやシエルもすぐさま資料と見返して確認している。

「人型……身長も人と変わんねえ、やっぱりエレボスは人がウイルスから変異したものだべ」

「exe、見た目はどんな感じだった?」

「赤い角にピンク色の肌……目も黒く人間に擬態するとデータ上は書かれているが元は人間の可能性が高いのだな?」

「そうだな、exe副講師……ゴクレンジャーが人類存続について研究してたデータは?」

「見覚えはあるな、エレボス遺伝子について調べていたらお前たちが言っていた用語が出てきたことがある」

「つまりブルー様は怪人の研究をしながらあたし達が生きていく道を探してたってこと?感激〜!」

「そうだといいがな……すまない、オレが見つけられたのはこれくらいだ、もっと怪人が保管されている部屋もあったが鍵を破壊することはできないからな」

「鍵はオラかキャプテンなら手に入る、代わりにこれだけ調べてくれただけでも感謝だべ」

「そうか、地図を提供する」

 exeがパソコンを打ち込むとコバルトが一部分に丸を付ける。

「ここなにか居ただか?オラが潜入した時はいつも空っぽだったべ」

「ああ、ブルーが直ぐ側にいたからよく見えなかったが……何かが保管されていた」

「確か現ブルーさんって定期的に工場に来てたって言ってましたよね?ここに何かをしまっていた?」

「……オレが引き続き調べるか?」

「リスクが高すぎる……これで充分です」

「そうだな、せっかくの修学旅行がオレのせいで台無しになるのは嫌だしな」

 しかし、シエルの中では一人で調べていた時よりもだいぶ進展したので話をまとめる。
 エレボスは特定の生物を変異させるウイルスであることは確定、またエレボス自身も感染者であり怪人を作り出す女王。
 それが生まれた原因はおそらく人類の種を増やす実験、サクラのような双生を作り出そうとした失敗作?
 ゴクレンジャーは責任を持ってエレボスや怪人と撃退している……と考えたいが、ロボットであるイエローと定期的に藍の波止に訪れて何かをしているブルー、そしてレッド……怪しいものが多すぎる。

「そうださくら、お前に見せたいものがある」

 思い出したようにexeがポケットみたいな部分から写真を取り出す、だいぶ古臭い色合いだがゴクレンジャーの集合写真らしい。

「盗んだわけじゃない、ちゃんと印刷してオリジナルは元の場所に返してきた」

「あっこのレッドの姿……多分先々代、つまり3代目ゴクレンジャーですよ!つまりこのピンクが私のおばあちゃん、花岡あやめさん!」

「えっ昔のゴクレンジャー!?大昔のブルー様もイケメン!」

 さくらとベビーは輝かしい姿に興奮気味だ、こういう所で癒しを得ておかないと安心できないのでたくっちスノーはハンドサインでエグゼを称賛するが、コバルトは何かに気付いて手帳を開き写真を取り出すと顔が青くなる。

 「な……なんだこれありえねぇ、さくらちゃん、ちょっとこの写真見るべ」

 コバルトが見せたのはブルーが撮ったであろう現ゴクレンジャーのデザインだ、とはいってもまだイエローがいない、完成される前だろうか?
 問題はコバルトが指差す現ピンクだ、最近姿を見せていない桃の園の象徴、数日後には自分達がその後を継ぐ……はずだ。
 だがその現ピンクと古い写真の花岡あやめは……全く瓜二つの姿をしていた、他人の空似や親族どころじゃないほぼ同じ。

「な……なんでおばあちゃんと今のピンクがこんなに似てるんですか?」

「確かにニュースで見たピンクとほぼ同じだ、親戚でもここまで似ない……」

「でもそれだとさくらちゃんのおばあちゃん、100年以上も若いままってことになるでしょ?おかしいとかじゃなくてさ……それが出来るなら最初からあたし達桃の園はいらなくない?」

 そう、あやめが若い姿を維持してピンクのままでいられるならゴクレンジャー後継者、ならびに養成校なんてものは必要ない。
 ……形式上後継者の真似をしているだけの現在の金の久遠がある以上何とも言えないが、これまで何人も優秀な卒業者を出してきたのも事実、一体……。

(ピンク全員が同一人物……ああなるほどなぁ、この事実さくらちゃんには受け入れ難い、この修学旅行をチャンスにしてじっくり調べさせてもらうべ)

 たくっちスノーは気付いた、コバルトの中でゴクレンジャーが隠してきた『命より大事なルール』の正体を。
 シエルは察した、ずっと引っかかっていたピンクへの違和感とその正体を。
 だが……ここに至れたのは5年後の未来から来たサクラの情報が現世界でも一致していたからだ。
 サクラがいなければ……。

「あの、聞いてもいいですか未来の私、これを知った時に貴方はどんな気持ちだったのか」

「気持ち?整理が追いつかなかったに決まってるだろ?何せ僕は何から何まで唐突だったんだ……それよりも今君に大事なのは修学旅行!精一杯楽しみなよ、僕の分まで」


 その夜、たくっちスノーはぶつくさ文句を言いながらラボで徹夜していた。
 黒影が期待しているというから何かと思えば乗り物を作るのはたくっちスノーときたものだ、ラボのシャッターが開きシエルが現れる。

「意外だね、君って遠足前に寝れないタイプ?」

「いや……それとは別で気になったことが、あのピンクの……」

「花岡あやめの正体は自分の仇であるエレボスだ……って思ってる?」

「……見抜いていたか」

「いや、正直自分も怪しいと思っていたよ……でもまださくら君には内緒にな、もし黒影も絡んでいるとなると……この列車に余計なエラーを招いてしまう。」
最終更新:2025年07月23日 06:48