桜花戦隊シュンヨウジャーが結成されて1週間。
「あの……気のせいじゃないですよね?」
「さあ……俺には分かんねえ」
「いや絶対おかしいですって、だって私たち……ずっと缶詰部屋からでられないんですよ!?」
さくら達5人はさくらにとってお馴染みの缶詰部屋で生徒の十倍の宿題をやらされていた。
さくらはもう慣れたようなものだが急に勉強量が増えたマゼンタとベビーとしてはダウンしそうになるほどの過酷さである。
「というか!何故レッドが元から居た生徒でしたよ面して勉強しているんだ!」
「レッド……?今はもういないし俺はさくらの親戚の花岡かすみだから関係ないのだが……?」
「クッソやっぱこいつあのチビの親族だわ!ふてぶてしいにも程がある!!だいたい私はエレボスの件を許したわけではない!復讐しようと思えばお前にも責任があるとしてだな……」
「はいローレンスさん、授業中は静かにしなさい」
「なっ……」
教壇に立つのはなんと、花岡あやめ。
エレボスワクチンはシュンヨウジャー開発と並行して行われてサクラやユニバース戦士の全面的な協力により遂に完全に人間体として復活することに成功したのだ。
こうしてあやめとかすみの姉妹は百年越しに人間に戻れた……のだが。
「ね、姉さん……?何故そこに」
「あらかすみ、貴方もピンクになったと聞くし私直々に新人の教育をしないと、この世界の希望となるピンクだけの戦隊のためにも」
「おばあちゃんが授業してくれるんですか!?」
「ほう……現役ピンク直々の指導か、こんな機会めったにないから有り難く受けさせて……レッド!?」
かすみは震えながら机を立ち、見事なクラウチングスタートを決め込むが引き戸手前でより素早いあやめのディフェンスで防がれる。
「すみませんオレ体調悪くなってきたので早退します」
「あら病み上がりが仮病なんて良くないわよ」
強引に席に戻された後、各5人の宿題の上から更に課題書や巨大な教科書が置かれる。
桃の園で行われる授業のおよそ十倍の規模、ただでさえさくらは桃の園の戦隊絡み以外の授業に追いつくのすらハードだったのにいよいよ先が見えなくなってくる。
これには普段呑気しているベビーや過酷な授業も受け入れるつもりだったシエルも冷や汗をかいた!
「かすみさんこれは一体……ああっもう魂が抜けてる!!」
「姉さんは……オレがまだ人間だった頃から学校に行けないオレの代わりに勉強を教えてくれた、レッドになってからその時の教育法がめちゃくちゃスパルタであることに気付いた!!」
「大丈夫よちゃんと体を壊さないラインで調節していゆから」
「棒高跳びでギリギリを狙うレベルのラインだろそれは!?オレはそれで何回怖くなって枕を濡らしたか!?」
「それはもちろん今後の進路も考えて皆の人生まで決めていかないといけないもの、やれるところまでお姉さんがじっくり教えてあげるわ♡」
「……おお、お手柔らかにお願いします、おばあちゃん」
「あまりこの姿ではおばあちゃんと呼ばないで♡」
◇
そして3時間後、確かにヘトヘトにはなったがスポーツアニメの夏の合宿みたいなノリで案外そこまで死ぬほどキツくなかったみたいな感覚でシエル、ベビー、マゼンタは脱出した。
「なんか言うほど……って感じだったな、俺もあんま頭良くない方だけど上手くいったし」
「そうだな、さすが2代に渡って現役ピンクを務めてきた花岡あやめさん、授業内容もかなり分かりやすくてシュンヨウジャーとは別に人間性としても尊敬できる人だった」
「なんというかぁ……レッドさんがあそこまで怯えていたのって……学校行ってなかったからしょうがないけど中々覚えられなかったおバカさんってだけだったんじゃ」
「ああ、なんならそのバカがしっかり例のチビにも受け継がれているのが救いようがないな」
「うう……」
さくらとかすみは2人揃って課題が終わらず一緒になっていた。
大叔父(女)もバカなら孫娘もバカ、しかしあやめは怒る様子は見せないどころか恍惚とした顔で宿題を増やしてくる。
「いいわさくら……分からないならいくらでも付き合ってあげる、次第に勉強が楽しくなって頭がフワフワして……エレボス細胞よりもドーパミン冴え渡るようになってくるのよ、脳に情報を叩き込むのって楽しくない?」
「レッドさん!!?おばあちゃんって昔からああなんですか!?」
「ああその……姉さんは昔から思い通りいかないと苦労してでも解決させたいってところがあって……その甲斐性まあって現在のオレがあるのだが……」
「甲斐性で済みますかねアレ!?なんか変態みたいに見えるんですけど!?」
「楽しいわ!!自分の孫と妹に教育するの怪人退治より楽しい!!」
「私達アレの後釜として勉強してたんですか!?」
◇
「なるほど、それでさくら君死にかけてるのね」
しばらくして、
たくっちスノーの奢りで焼肉を食べさせてもらっているシュンヨウジャー一行。
大量の手を使い何人前ものの肉を瞬時に焼いていき、さくらとベビーの胃袋に次々入っていく。
シエルはexeから輸入してもらった辛めの調味料をブッかけてマゼンタは食べるだけ食べたあと睡眠、かすみはというとまだあやめの顔がフラッシュバックして肉を食べても味がしないという、どんだけトラウマになってるのか。
「姉さんはな……怒るんじゃなくて数字を脳に直接叩きつけてくるんだよ、笑顔で」
「脳に叩きつけられても覚えられない方が悪いんじゃないのか?」
「いやー伝説のレッドにも意外な弱点があるもんだね、黒影にもなんかないのかなーそういうの、弱みさえ握れたら自分でも……」
「ああその件ですが……来道羽丸は?」
「ちょうど調べ終わった頃だよ、相席いいかな?」
「未来の私!」
後からサクラも合流してちゃっかり一緒に食べながら桃の園の事やシュンヨウジャーの話を色々と聞いている。
「ところでそっちの世界のあやめさんは?」
「聞かないでほしいな……」
(お前もか……)
羽丸との思い出は確かにあるがそれはプログラムで組み込まれた存在しない世界の記憶、正直一番動揺してもおかしくないのはサクラだがなんとか建て直しているだけでも便利だ。
「ところで切り落とされて利用された右手の身元って?」
「名前は分からないけどアバレンジャーのユニバース戦士のものだ、酷いものだ……腕だけ切り落として移植することで能力を利用してたなんて、更に『来道羽丸』自体も別に死んだわけじゃねえと来たもんだ」
なんと羽丸の方はしっかり生きてて今も何処かにいる、神経を研ぎ澄ませてみたところ『本物の
時空犯罪者』来道羽丸は別の案件でミリィが相手しているっぽいので任せるが問題は黒影がパラレルワールド越しに自分の分身を大量に手配して活動させている事実。
更にはたくっちスノーの関係者には黒影にそっくりだが中身が全然違うやつだっている、彼も
マガイモノのため分身しているが風評被害が起きてもおかしくない。
今後の案件に関わるのでまだ口に出せないがさくら達の活躍を機に独立の道も考えているとか。
改めて身元の話だが……往歳巡がこの世界の移住権をたくっちスノーから購入したという。
「……親友だったそうだ、巡の世界ってゴジュウジャーっていうのが居たってのはミラくんから聞いてるね?ユニバース戦士は皆見ての通り『レッド』しか存在しない、ゼンカイジャーのユニバース戦士は分からんけど」
ユニバース戦士は他世界に存在する49種類の戦隊とロボットが過去にメイドウィン『テガソード』と共に立ち向かい世界を救ったもの……とされているが。
実はこの世界の真のメイドウィンはユニバース戦士達の戦いを一度制した『熊手真白』という男である、しかし真白は真っ向から黒影と対立してより深淵まで封印されてしまった為解除するための手段が見つかるまでテガソードが主導権を握りながら復活の機会をうかがっている。
そして真白がレッドだった頃に結成されたのがナンバーワン戦隊ゴジュウジャーの始祖、そのために巡の世界はゴジュウジャーだけがブルー、イエロー、グリーン、ブラックも存在し戦隊は古代の歴史として語り継がれている。
それに興味を持って生まれたのが巡の戦隊考古学であり、その探究心がジュウレンジャーのユニバース戦士としての素質だったとか。
「実は巡先生……ここに来たのは親友を探しに来たって言ってたんです、それがまさかこんなことに……」
「アバレンジャーのユニバース戦士でなければ……」
「あっでも……キョウリュウジャーの指輪って凄い力あったよね?巡先生にも」
「駄目だ、ジュウレンジャーリングのリゲインはそこまで万能じゃない……あの時会えた戦士でも死者蘇生までは不可能だ」
結果的にゴジュウジャー世界にも迷惑をかけているが、そのゴジュウジャーはというと『魔法少女にあこがれて』世界に招かれてたくっちスノーの分身達が居るところでとんでもないことになっている。
しかしながら、黒影がいたからシュンヨウジャーが生まれて桃の園の物語は変化したのも事実だが……その過程で無視できない物も多い。
「私達はこれからどうすればいいですか?たくっちスノー先生」
「3枚目のエレボスの危機は未だに過ぎちゃいない、羽丸黒影は何考えてるか余計に分からんし……調べてみればオリジナルが行方不明っつーか誰が誰なのか見分けもつかないとか」
「ひとまず我々としては羽丸黒影並びに3番目のエレボスの鎮圧からというわけだな」
「おー!べっぴん戦隊が見事に揃ってるべ」
「あっ相田さん」
そろそろ席がギッチギチになりそうな所に相田コバルトも参入、桃の園よりも一番変動があったのは藍の波止場でありエレボスワクチンを開発した後にはブルー達も色々やっているらしく時空跳躍学を発表したコバルトに続いて時空間の研究を行っているとか。
そして藍の波止が近い未来インフラ整備に貢献していくことになるのは別の話。
コバルトは現在、ヒーロー兼研究者といったところだ。
「そういえばレイト先生は?」
「キャプテン・マーベラスならゴクレンジャーのレンジャーキー取ったらさっさと帰っただよ」
「うわぁなんからしい人!」
「ああそれと……スーパー戦隊の世界は黒影に認められてねえだけでまだ何個もあるだと色々教えてくれた、根薬戦隊ユウアイジャー、絆創戦隊キズナファイブ、龍神戦隊ドラゴンキーパー、稲妻戦隊サンダーファイブ、美食戦隊薔薇野郎、家族戦隊ノック5、暴太郎戦隊ドンブリーズ……」
「なんか途中からおかしくなってません?」
「でも実際なんか違うなってノリで含められてない戦隊は山ほどいるよ、ゴレンジャーからブンブンジャーまでの方がイレギュラーだ」
「んなわけでな、オラはゴーカイジャー先輩をリスペクトするべく戦隊PR大使も趣味で行うことにしたわけべ、せめてもの戦隊仕事ってわけだ」
コバルトから戦隊の話を聞かせてもらい、一旦盛り上がった様子で焼肉を食べて満喫する。
話題はやはり黒影やg-lokシステムに関することである。
やっぱり対策するならライバルに聞くのが手っ取り早い。
「先生、もうド直球で対黒影の授業をするべきでは?」
「君等の場合はそのままあやめさんの授業受けたほうが強くなれるよ?」
「いやっそれだけは勘弁!!」
「未来のピンクと伝説のレッドが揃って情けない事を言うな!」
「てか実際黒影とはどんだけケンカしたんだべ?」
「99999戦99999敗、メイドウィンになる際もマトモに相手させてもらえなかったしな……けど、君らの方が勝率はあるよ」
「そこまで言うの?実践訓練だとそんなに強いのに?」
「鍛える時はね、自分でもこんな才能を秘めていることに自分でも驚いてるくらいだよ……でもダメ、マジで色んな世界のキャラクター共とマジで全然勝てなくなる」
話題は時空犯罪者時代を含めて様々なキャラクターと喧嘩を売って負けた頃の話になっていく。
世界征服もどきをしたり巨大な装置を作ったり変身能力も存分に駆使したが全く歯が立たず敗北した、それが悪者の宿命である。
しかし黒影と相手した時以上に深い印象に残った負けもかなりの数あったという。
濃い青をした髪の高校生にバスケで負けたどころか『テメェのコピーは純度が低い』と煽られたこととか、同時期に組んでいたポチという相方もプロファイリング能力で直ぐ側にいたマネージャーに完全敗北したとか。
それ以外にも完全に上を行かれることはあったが悔しさは段違いだという。
他にも勇者気取りの老いぼれが駆るスーパーロボットとか、趣味でヒーローをやっている男とか……。
「なんというかさ、黒影に負けるのはなんでもありだから完全に自分の作戦不足で完結するんだよ……でも君らに負けたってなるとめちゃくちゃ狼狽えるだようね、自分」
「結構見下したような言い方してますね」
「犯罪者だった頃ならはっきりそうですよって言うだろうね、今の場合は嫉妬半分愛情半分だ」
このシュンヨウジャーも歴史が違えばたくっちスノーにとって強敵になっただろう。
しかし今となってはこんな存在が生まれたことに誇らしく感じる、全部黒影のおかげとは言い難いが時空への影響力は凄まじい。
しかし話している内に余裕が出来て酒が入ったのかサクラがこれまで見たことないダル絡みをしてくる。
「ところでさ、僕もシュンヨウジャー結成に一枚噛んでるんだよ?紅の砦なんてもうどうぇもいいからさぁ関わらせてよ」
「うわっこいつ酒癖悪っ」
「いっそのことお前の世界のシエルも連れてくるってのはどうだ?」
「お〜いいね、なんなら僕の世界そのものを引っ張ってくる?」
「洒落にならんからやめてくれミラくん」
「……んでも私、やっぱりたくっちスノー先生に指導してもらいたいな」
「え?そんなにピンクの教育嫌なの?」
「それははい、それもあります」
ド正直にさくらは答えてシエルにしばかれるが、あやめ以外にも他に理由は沢山ある。
花岡さくらが桃の園に来てからシュンヨウジャーになるまで色々あり、様々なカリキュラムの授業を受けてきたがまだ終わらない。
レッドを越えるピンクになったからってそれで終わりじゃないのだ。
「ずっと決めていたんです、私の中で納得がいくピンクに大きく近付いたらあなたの本気を見てみたいって……戦隊超人学以外にもまだ教えられることあるんですよね!?」
あくまで教えられてきたのは『戦隊超人学』たくっちスノーはたくっちスノーとしてもっと学術があるんじゃないかとかなり前からさくらは予測していた、言わなかったのはまだ自分がその領域に立っていないと判断したからだ。
そして改めて確信した、たくっちスノーの教育法には限界がない、シュンヨウジャーとしての自分と四人ノ力を合わせれば本気を出したたくっちスノーにも食い込めるんじゃないかと。
そういった意図を読み取ったたくっちスノーもまた
ドクロ丸を構える。
「君はちょっと生意気に育ちすぎたんじゃないのか?立場わかってる?」
「はい!私はいずれレッドを越えるピンクになり、いずれ貴方が悪者になった時に止める者です!」
ぴくりとも動じず発するさくら、彼女は会ってからずっとこの度胸強さだけは変わらない。
きっともっと酷い脅しみたいな言い方をしてもさくらの態度は一切変わらないだろう、まあ……そんな彼女を一番気に入っていたのは他でもない自分なのだが。
自分の分身は事業展開の中でどれだけ信頼できる人を……いざという時に倒してくれそうな人をどれだけ集められただろうか?
たくっちスノーはさくらの覚悟を聞くと、肉を大量に注文する。
「食えるだけ食え、限界まで詰めろ、それ全部消化させてやるから」
「たくっちスノーさん!」
「お前たちに対黒影戦として数え切れないほどの戦闘パターン、並びに僕の悔しかった思い出を全部叩き込む」
「これ食ったら即訓練というわけか」
「よろしくお願いします!」
「ちょっとなんかズルくねえか!?オラだってブルー特待生だよ!?」
「いーーなーー、僕なんて黒影に一番フラストレーション溜まってるんだよ?」
「それじゃあ決まりですね皆!」
「……ん?なんだ?訓練の話か?」
「あっマゼンタちゃん今起きた」
かくして、より強力なトレーニングを受けることになったシュンヨウジャー+α。
がっつりと何十人前の肉を気合で平らげていき、アスリートの何倍もの食事メニューを諸共せず食らいつくベビーやコバルト、酔い潰れたサクラなど祭りの前のどんちゃん騒ぎ。
こんな風に全員で騒げる機会もいつか無くなるのだからちょうどいいのかもしれない。
「それにしてもexeさんもくればいいのに」
「exe……exeもな、自分も誘ったんだが優先したいことがあるって、真面目だよなウロロロロロ!!!?」
「うわっ君めっちゃ酒弱いね」
「てめえ後で覚えてろこのニューハーフ野郎!!」
◇
食事の後、支払いは監理局へのツケにして桃の園の闘技場へと一気にワープしたたくっちスノー達。
今から行われるのは訓練とはいっても相手は史上最悪の時空犯罪者のガチ、今まで見せてなかった本気だ。
「言っとくけど遠慮しなくなったらなんでもありなんで……今更肉食った以上へこたれるのも弱音引くのも禁止、何がなんでも僕より強くなってもらう」
「上等です!」
「んじゃいくよ……321、マガイモノチェンジ」
たくっちスノーの身体がみるみる変化していく、真っ黒な成分の塊が人の形から外れていきどんどん見覚えのない姿に変化、それは獣だったり人だったり何にでも見える。
これが本当のマガイモノの王の戦い方……!!
最終更新:2025年08月06日 22:52