ねじれた未来

 羽丸の介入によって自然豊かで色鮮やかだった翠の庭園。
 まるで恐竜でも通りかかったかのように大きな足跡や風穴が出来ており、車に変身したたくっちスノーが障害を貫いて一気に突き進んでいく。
 ただしあまりにも数が多すぎたのでスクールバスになり制限時間が過ぎながら突っ込んで全員が変な状態で突っ込まれる。

「お前こういう時だけ忠義に制限時間守るよなぁ!?」

「むしろ破るほうがまずいんだよアレ!感覚的には徹夜して勉強漬けしてるようなものだからな!?」

「シエルさんこういう真面目な時くらいツッコミやめてください、いきますよ」

「あっお前今私をふざけてるやつ扱いしたな!?」

 なにはともかく潜入できたので急いで先に進むさくら達。
 何故巡が単身で乗り込んだのか理解できる、親友の真相があまりにも理不尽ではこうもなろう。
 何より一番分かるのはシエルだった、これは両親が殺されたと思ってエレボスに強い復讐心を抱いていた時の気持ちと同じ、巡先生は利用していたところもあったとはいえ今の自分を作ってくれた恩師の一人だ。
 大事だからこそあまり自分の事象に巻き込ませたくなかった。

「イエローによるとこの辺りでセキュリティが厳重になったそうだが」

「あたしたちでハッキングすれば開けられるかな?」

「大丈夫です、シュンヨウフォントは凄いんですよ」

 さくらは変身アイテムをロックに押し当てると瞬く間にプログラムが解析されて自動オープンする。
 桃の園らしくハッキング能力を特化させた結果、どんな扉でも開けられる恐ろしい違法パスキーというホラーゲームならこれ一本で無双できるやべーやつだ。

「ねえそれ特盟の許可もらってる……?」

「大丈夫です、使うと自動で特盟に連絡が来て申請書と特別料金の催促が来ます」

「お前それ正義のヒーローが使って良いアイテムじゃないだろ」

「改めて俺達とんでもねえ授業受けてたんだな……」


 全部の設備をハッキングでこじ開けて……というかチートアイテム一本で解決したさくら達。
 さっきも突っ込んだが戦隊ヒーローがハッキングとか 覚えちゃいけない気がすると実感させられる。
 まあ結果的には楽に進められたので良しとして大きな部屋に辿り着く。

「前にも言ったがグリーンの役割は縁の下の力持ちだ、オレ達ゴクレンジャーが有利に進められるように情報戦は大体彼がやってくれた、PR活動などもな」

「つまり翠の庭園にはその為に巨大なデータベースがあるわけですね」

 大きな部屋で黒影の反応がするがまずは聞くだけ情報を聞いておきたいとシュンヨウフォントを起動して盗聴に入るさくら。
 改めてこの変身アイテム、正義のヒーローが持っちゃいけないのでは?とマゼンタもドン引きの段階に入ったがさくらがこういう風に作ったと考えると中々に闇が深い。

「あっ聞こえてきます、巡先生と黒影の声です」

「さくら君、盗聴の音声大きく出来ない?」

「やってみます、あと特盟に情報を流すこともできますよ」

「こいつレッドに憧れてなかったら殺し屋とかになってそうだな……」


「……見つけたで理事長、いいやシャドー・メイドウィン・黒影

「ここでは来道羽丸って呼んでほしいな巡」

 分かっていたが一瞬即発の雰囲気、いつでもジュウレンジャーとアバレンジャーに変身してもおかしくない雰囲気だが黒影は余裕そうにしている。
 そもそもこれがオリジナルなのかこれまでの羽丸と同じクローンなのかも分からない。
 しかし巡からすれば全部同じ顔の為に憎しみは消えないが、黒影は冷静に論ずるような眼差しを向ける。

「安心せい、お前を殺したいわけやない……苦情や、俺の親友を返せとただ一言……それだけの為にここまで来たんや」

「うん、君の友達の件……もちろんその件に関してはすまないと思っている、ゴクグリーンの事件と違って不可抗力だったからね、本当に済まない」

 なんと黒影が素直に謝ってきた、巡は一瞬表紙抜けた顔になるが警戒せずに攻撃の構えを外さない。

「言い訳なら聞いたるで、遺言代わりにな」

「まあ聞いて欲しいんだ、君が狙わなくてもさぁ……このままじゃ俺は本当に死ぬんじゃなくて焦ってるんだよ!」

 黒影は以前から命の危機に陥りそうというか実際いつ死んでもおかしくないのが今の黒影の現状。
 というのも元を辿れば未来のたくっちスノー(炭)が突如時空が滅ぶと告げられその際に黒影も死んでしまうと聞き、黒影はそれで得結構焦っているという。
 未来でどうなるか分からないが、この結果を変えるためにたくっちスノーも時空犯罪者を辞めて善人になろうというのだから相当である。
 最初はまだ信じようとも思わなかったが黒影は理解する、明らかに時空に自分でも介入できない異変が起きていることに。

「巡はたくっちスノーと一緒にいただろ?だから聞いてない……?『ゴッドイベント』のことを」

「ゴッドイベント……?ああ、なんか修学旅行の前に聞いた気いすんな、なんか漫画の盛り上げどころみたいにとんでもないことが起きる、それを複数乗り越えることで物語は大団円迎えるとかやったな」

「……たくっちスノーはこういう時言葉にしてくれるから助かるな、でもねおかしいんだよそれ、だってここは結末のない物語、物語の盛り上げところはあれど終わりに向かうなんてありえない」

「俺は!!ゴッドイベントなんて作ってない!!」

 黒影が言うにはたくっちスノーが時空犯罪者だった頃には物語は停滞したり意図的に止めていたのだが突如としてはじまりの書が勝手に動き出したり物語の命運を決めるゴッドイベントが発令されるようになった。
 放置すると物語が予想だにしない方向に進み出すため見過ごせず、かといって複数進めるとたくっちスノーが名付けた『コンプリート』によって他世界で見える範囲で物語が完結してしまう。
 このゴッドイベントに未来の黒影の死が関与していると考え、はじまりの書の研究を重ねている。
 それと同時に監理局の事業展開と関係者の増幅を図っていたという。

「あー、なるほど、なるほど、その為に俺の友人の件がゴッドイベントに関わったと?ふざけとんのか?」

「ふざけてないって、往歳巡がゴジュウジャーに出会いブライダンに捕まりブラック大獣神とゴジュウジャーが戦い三つの指輪を託す、それがゴジュウジャーのゴッドイベントの一つだ」

「あーあーあーもうええわ、とにかく俺がアバレンジャーとキョウリュウジャーの指輪取られたくない、だからお前が不可抗力とやらで指輪を独占した、殺してまで!!」

「だって俺ユニバース戦士じゃないんだもん!!ガリュードに頼んじゃったら結局ゴッドイベント通りになっちゃうし!!時空の創造神なのに思い通りいかないってのがどれだけのストレスになるか、分かるだろ!?」

 語気が強くなる黒影と段々冷静になってくる巡。
 はっきりと理解したのは自分がゴジュウジャーにとって重要な存在であり、物語を進めるために必要な何かが関わっていたこと。
 それを達成させないために桃の園に招かれてひきはなしたことまで。

「……一応聞いておくが、俺がそいつらに関わらずゴッドイベントが失敗したらどうなる言うんや?」

「そんなの俺は知らないけど嫌な予感はする、何せテガソードもはじまりの書は読んでないし真白がいつ復活するかもわかったもんじゃないてか考えたくない!せっかく作った終わらない物語だぞ!」

「次の質問、この世界……よそだと『桃の園』というらしいが、ここで俺らが居たときにもゴッドイベントは起きたんか?」

「ゴクブルーが本部を裏切って大規模な戦闘を広げようとしたのがそれだよ、レッドもエレボスの力を使って決別する予定だったが俺が来道兄妹を差し向けたおかげでシュンヨウジャーとして新たなお話になった、助かったよ」

「……ああそうか、神様の事情については俺はどうでもええわ、なんべんも言わずな、俺はアバレンジャーのユニバース戦士を……俺の友人返せと神様にお願いしとるんや、出来ないなら喧嘩なんていくらでも売る」

「キャラクターの生と死は俺でもコントロール出来ない、この世の中に必要な生命体とそうでもないのがどれだけいると思ってるの」

 50人もいるユニバース戦士、物語に深く関わるガオレンジャーやシンケンジャー、巡(ジュウレンジャー)のようなイベントに深く関わる者や真銀(マジレンジャー)や鳥飼(ゴーバスターズ)、クワガタオージャーのように独自に行動するもの。
 そしてサンバルカンやジュウオウジャーのように特に描写が必要ないものまで様々。
 黒影はただの傍観者で設定を見ているだけの立場なので主人公以外は何が重要なのか分からない、故に蘇生は出来ない。
 過去にその判断の甘さでマイティとファリンに首の皮一枚まで追い詰められたくらいだから。

「一応出来るよ?出来るけど世界そのものをリセットして物語を一からやり直すことになる、これがもう〜特盟とかたくっちスノー副局長になってからとか面倒な事情多くてね……あと『魔法少女にあこがれて』世界のゴッドイベントの為にゴジュウジャーを移動させて……」

 本〜〜当に出来るっちゃ出来るけどめんどくさかったり扱いが大変なのか頭を抱えてぶつぶつ言う黒影。
 巡は呆れてるわけでもないが何とも言えなくなった、一緒になって盗聴していたさくらも。
 こんな事なら開き直ってヘラヘラしてるような悪者だったらどんなにスカッとぶん殴れたか、たくっちスノーが言うように出力が狂っているだけでこういう時に真面目に時空のことを考えているのは嘘ではないのが余計に複雑な気持ちにさせる。

「……ということで俺は本当にさ、ゴクレンオー盗んだりエレボス細胞奪ったりしたけど、時空の為で」

「もう黙って聞いてるのも限界だ!!どけ!!」

「シエルさん強引ッッッ!!」

 と、ついに堪忍袋の緒が千切れたシエルのイノセントイストワールによって強引に扉が破壊されてようやく巡もさくらが背後から付けていた事に気付くが黒影はたくっちスノーもいるので動じていない。

「黒影……」

「やっぱり来た?」

「先生、あの人の言うことって……」

「長い付き合いだから断言できるけど全部ウソじゃないっぽい、ゴッドイベントが突然始まるようになったというのも」

「そうなんだよたくっちスノー!お前が未来の為に善人になろうとしてるのと同時にさ、俺も俺で苦労してるんだよ!このままじゃ本当に死ぬかもって焦ってるの!その為にはもっともっと俺の凄さを広めて、監理局もデカくしないと!」

「うーーんこういう所で言い方が癪に障るのどうにかしたほうがいいぞ、つーかさくら君へのネタバレはわりと今でも怒ってるよ自分」

 しかし聞いている間にこの世界の黒影の事業展開についても納得がいくものがあったらしく、シエルはたくっちスノーに紙を作ってもらいペンを出す。
 5つの学校を作り、存在しないレッドを自分が理事長になりゴッドイベント確変の辻褄合わせでサクラを入れる。
 翠の庭園はゴクレンジャーを支えるためにありとあらゆる情報が網羅されているので独占したい、グリーンはその最中に殺害されその死体を『来道梃子』として作り替えて金の久遠に配備。
 そして桃の園には副局長で知り合いということもありコントロールしやすいたくっちスノーを配置……。

「あっ!藍の波止以外全員自分の管轄じゃないですか!?」

「そうだ、殆ど自分の手中に収めるのことで事業をスムーズに進めると同時に自分の思いのままにしたかったのだろう」

「でもなんでブルー様のいる藍の波止は手を出さなかったの?エレボスの研究もしてたし翠の庭園の次に大事だったんじゃ?」

「それはキャプテン・マーベラスが俺たちよりずっと前から豪海レイトとして配備してたからだ、面倒な時空犯罪者相手に喧嘩してたらそれこそゴッドイベントを刺激してしまう、物語としても鍵を握るデリケートなラインだから泣く泣く放置したってわけ」

「それで最終的には時空監理局に繋がるヒーローを増やそうとしていたってやけね」

「うんまぁ……ゴッドイベントダメとは言ったけど軽いイベントくらいならやった方が面白いし」

「んん……?なんか俺にはよく分からないんだが、その局長さんってのはゴッドイベント?ってやつを無くしたいってことでいいのか?」

「そうそう!俺の管轄にないことだし、時空によくない影響与えるからね!でもゴッドイベントの根絶もいうのも面白くない、せっかく出来たから発生条件とコントロールを目指したいところだね」

「で、たくっちスノー先生はそのゴッドイベントとやらを……」

「ああうん……君らの事業とか始める前に何個かコンプリートさせちゃったんだよね、安全性とか交友を広めるために……あっコンプリートっていうのは、ゴッドイベントを複数終えて物語を一時的に完結した状態に……」

「殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!!俺たちはアストラとお前を殺す!!!」

「キレすぎぃー!!?」

 黒影はやたらめったらどこから出したのか分からない包丁をぶん投げてたくっちスノーに飛ばす、さくらはこういう時に容赦なく死なないからってたくっちスノーを盾にして回避する、言うてシエル達も胸筋で弾けるからってマゼンタの背後に隠れるので大概だが。

「言えっ!!何個コンプリートしやがった!!人の盛り上げ処さんをどこまで台無しにして来やがったてめー!!どうするんだまだ時空は未完成みたいなものなんなぞ!!リセットも楽じゃないって言ったよなあ!?」

「キレすぎキレすぎ!!こんなキレたの久しぶりだな!?え、えーーと数えてないけど時空の治安守りたかったから……結構沢山?いやさくら君の世界の件もあるし案外少ないかもしれないけど」

「互乗起爆札!!!!」

「それストックしていた僕の成分!!!」

「なんでスケールデカいのに子供みたいな喧嘩してるんですかあの時空の創造者とそのライバル」

 巡と話していたときと打って変わって全く余裕のない般若の形相で殴り続けるたくっちスノー。
 なんかもう巡もさくらも感情の置き場に困って混雑中の駐車場を行ったり来たりしているような状態。
 とにかくゴッドイベントとやらは監理局にとってだいぶ重要なデリケートゾーンであることは分かったがベビーは冷静になる。

「あっちょっと待ってその判断正しい?」

「えっどういうことベビーちゃん、僕の頭が大根おろしになるまえに結論つけて」

「未来のさくらちゃんもパラレルワールドだから細かいところで違いあったよねぇ?この人が言ってることが必ずしもオリジナルと一致するって確証はある?」

「確かに来道羽丸を名乗ってるこいつは確実にパラレルワールドから連れてきたやつだな」

「そ……それは大丈夫!?俺含めてパラレルワールドの俺達も命の危機でさあ!共通して意識まとめておかないと安心できないから!」

「え?なんでパラレルワールドまで危ないって話飛躍してるんだよ、そんなに未来ヤバいのか?」

「他人事みたいに言うなよ!?俺の時空だぞ!?俺が主人公で優秀な相棒が居てそれでいて可愛いヒロインがいる物語の舞台、めちゃくちゃにしやがって!」

「今を生きる者達にそういう都合は知ったこっちゃないんだって……というかさ、全部筒抜けだから特盟に」

「…………え???」

「あっはい、全部盗聴させてばっちり録音もして送信してありますよ」

「戦隊ヒーローの戦い方じゃない……」

「誉はレッドさんに『オレの女にでもなるか?』と言われた時点で死にました」

「さくらちゃんオレいつそんなこと言った?」

 放送されていることを知って大焦りの黒影だが首をグリングリン回転させて落ち着かせた後に冷静になり……時空の渦を作り出してちゃっかり逃げようとするのでマゼンタが抑え込み、巡を連れてくる。


「まあどっちにしても許せない相手なんですから、巡先生は殴る権利くらいはあるんじゃないですか?」

「おおありがとな、遠慮なくいいのかましたるわ」

「あっ巡先生ブルー様の件もこいつのせいならあたしもやりたい」

「待って待って待って交渉とかしない?」

「前言撤回ボコボコに殴ってくださーい、緑のゴリラのごとくボコボコにー」

「おうグリーンだけにな」

「さくら君僕もう帰って良い?」

 たくっちスノーに鍛えられたこともあってか黒影相手でもかなり強かに立ち回れるようになっていた、学生のノリもあるがこいつら本当に恐ろしい。
 戦隊はどこかイカれてないとなれないものかもしれない、スランプで空気感がなかったマゼンタですらシュンヨウジャーになってから馴染んでいる。

「で、えっと聞いてほしいんだけど、ぐへっ、タンマ、えっとね……これから俺、オブリビオン狩り始めるんだよ、宣伝のグヘァッ為に、あとリセット効かないけどせめてっ、あいつの物語安定して俺べヒャ生きていくアッヒョ」

「巡、ベビーちゃん一旦みぞおち打つやめようか」


 話をまとめるとだ、これから黒影達のパラレルワールドは各々が大事な理由でオブリビオンと呼ばれるものを各世界を飛び回って自ら退治するために忙しくなる。
 しかしいくらパラレルワールド勢揃いでも限界があるので、さくら達シュンヨウジャーにも手を貸して欲しいということらしい。

「はあ?なんで私がお前の幸せのために手を貸す必要があると?」

「さくら君めっちゃキレるやん自分が何か言う暇もねえぞ」

「い、いやでもさ……オブリビオンが君等が三番目のエレボスと呼んでいるものと関係があるって言ったらどうする!?」

「えっ?」

「黒影……まさかあれ、オブリビオンだったのか!?」
最終更新:2025年08月06日 23:02