桜花一拳100連発!!

「おーい相田、お前にお客さんだぞ?」

「今忙しいべ、ナイスバディの姉ちゃん以外はお帰り願え」

「いやでも侵入してるんだって」

「ここは元々エレボス保管してた秘密区画だべ、そう易易と侵入できるのは……」

「相田さんいますか」

「さくらちゃん普通に来てほしいんだけんども」

 黒影から話を聞いた後、コバルトに全部説明する約束をしていたさくらはシュンヨウフォンのメンテナンスや解析を共に行いながら翠の庭園で起きたことを説明する。
 巡はどうにかアバレンジャーリングを回収して3つの恐竜戦隊を揃えたがどうにもやりきれない気分だった。
 そして、我々にとっても見過ごせない『ゴッドイベント』と『オブリビオン』について。

「オブリビオンはキャプテンからある程度聞いたことあるべ、ゴッドイベントってのは大団円……オラ達の世界なら種の問題が解決するってことでいいだか?」

「それを判断出来るのは誰か分からないので何ともですが、ひとまずはそういうことにしましょう」

 未来のサクラの手ほどきも受けたとはいえコバルトに匹敵する速さでハッキング能力を極めてパソコンのブラインドタッチも容易に決めてくるさくら。
 元々戦隊にこんな能力必要だろうかとさくらも思い続けて、格闘術のついでにこのスキル伸ばしてたら完全に諜報担当になってしまった、一応シュンヨウジャーのリーダー格なのに。

「んで一応聞いとくけど協力するべか?」

「は?するわけないじゃないですか、オブリビオンは倒しますけどそれとこれは別ですよ」

 ゴクブルーの件を経験したベビーは後にこう語っている「敵になる存在は必ずしも悪い人ではない」
 敵であることと悪人かどうかはまた別、ブルーも嫉妬心と世界を救う者としての責任感が歪んだ結果の暴走として片付けられて、本部からは追放されたものの当人は問題なさそうだしレッドやベビーもついているので今後あの暴走はしないだろう。

「相田さん、この件のキモは黒影はゴッドイベントをやらせずコンプリートさせたくない、専門用語を省略すると自分が解決するその時までそのままにしておきたいってだけじゃないですか」

「まあ敵ではねえけど尋常じゃねえくらい邪魔だべ、魔王にでもなってくれればマシだわな」

「で、そんなのを私達の世界以外でもやってるとしたら皆思ってるはずなんですよ、ウザいなこいつって」

 コバルトはさくらがずっとカリカリしているがブルーに学んだ大らかさと女の子への高対応でしっかりスルーして仕事を続ける。
 自分は参加できなかったがとにかく癪に障ることばかりだったのは確かである、さらに話しながらさくらはメモを渡してくるのでさらっと広げると『ベビー考察時空について』とあった。
 意外なことにあのチーム結構インテリが多い。
 後で見るとして今はオブリビオンの件だ。

「オブリビオン退治ってどうするべよキリねえぞ、そりゃオラ達のブルー部隊もアドレナリン改造くらいは出来るしオラには劣るがエリート揃いとはいえ……」

「問題は私達なんですよね……かすみさんは一応まだゴクレッドにもなれますしベビーさんはシュンヨウキャロルとゴクピンク掛け持ちしてるんですよね」

「スーパー戦隊掛け持ちしてる奴とか聞いたことねえべ」

「パワーレンジャーだと結構あるらしいですよ」

「マジかすげえな」

「一応たくっちスノー先生も2人抜けるのは想定してたので基本は私、シエルさん、マゼンタさんの三人がかりで戦隊2つ分をどうにかコントロールということで」

「そういや副局長さんはまだ従う気なんか?」

「私にとっては特別講師のたくっちスノー先生です、それにあの人もまた時空の為として正反対の行動を取りました、今回見に行った介人さんの様子でも見ればまた答えが出ると思います……何よりガチギレした時の顔は本物です」

 シュンヨウフォントのメンテナンスを終えたコバルトはベビーが考えた考察について考える、普段はふわふわしている様子の彼女だが一度冷静になると凄い真面目なことを考えたりする。

「なんかさくらちゃんがあたしに対して失礼な事書いてる気がする」

 そして紙に書いてある考察文には……「元々来道羽丸自体はこの世界に来る予定はあったのではないか?」
 ということだ。
 名前を借りた羽丸ではなくサクラの未来から連れてきた羽丸、これを翠の庭園の特別講師にしていた可能性、しかし急遽予定を変更して黒影の自作自演ということにした結果、もどうにも怪しい感じがする。
 何せ自分に突然ネタバレしてきたくらいだし。
 そこでシエルとベビーが相談した結果の結論が……『未来のサクラのパラレルワールドを繋げた結果、新しいゴッドイベントを招いてしまった』ということに。

「あ――――それめっちゃありそう」

「多分アレですよ下手したら全世界共通でマルチエンド式のゲームみたいになってますよ」

「なにそれ怖っ!?今オラ達がいるの何ルート!?ハンドレッドラインで言ったらどの辺り!?」

 未来から来道羽丸が来て新たなゴッドイベントを招いてしまう……という線が有力としている。
 思えばサクラへの扱いも急になくなったしゴクレンオーの喪失も怪しい、更にいえば……。

「もしかして来道梃子さんも実際はちゃんと存在してたんじゃないですか?」

「ああ〜……ありえるべ、急ごしらえでなかったことにとか神さまレベルでもあるんだな……で、メールじゃなくてわざわざオラに会いに来て手伝いもしてくれる辺りなんかあるべ?」

 「特待生なら顔が利きますよね?本部にも伝えておきたいことがあります、私達もただ黒影に文句を言ってもしょうがないじゃないですか」

 「ああ、そういうことか」


「ゴッドイベントの発動条件?」

 「はい、結局の所彼らがゴッドイベントと呼ぶその現象について理解を深めない限り同じことの繰り返しではないかと」

 一方シエルはゴクレッドの姿になったかすみと共にゴクブルーのいる秘密ベースに入り込んで作戦会議を行う。
 ゴッドイベントを黒影が問題視するのは自分の手に負えないから。
 その情報を自分達が出し抜くというのはそれだけで大きなアドバンテージとなることだろう。
 間違いなく自分達の世界以外でも研究は進められているが、安全の為にもやらない理由はない。

「監理局のデータは色々調べたけどゴッドイベントについて徹底的に会議してるログは見つかったんだぜ」

「しかし発動条件と言われてもな……話を聞いている限りだとオレ達からすれば事件を繰り返す中で起きる中で大事な場面を表すんだよな?」

「普通に考えたらそれがどこなのか予測しろっていうのも無理のある話だよね」

「厄介なのはたくっちスノー先生に教えてもらった『イベント』との違いです」

 『イベント』はメイドウィンの方でもある程度操作できる些細な出来事であり、ゲームで言うところの寄り道みたいなもの。
 ゴッドイベントと違い意図的に作ったり消したり出来るが、この世界を生きるものからすれば違いが分からない。
 意図的なものか突然解放されるものか、始まるとしても予兆となるものや原因はなんなのか……。

「ねえシエルちゃん、この世界のメイドウィンに相談してもらうのはダメなの?たくっちスノー先生なら会えるんじゃない?」

「駄目だ一番役に立たない、そもそもメイドウィンとは何をしているんだ?大体が本に書いてあってやることは出来事の元を作ることは分かっているがどうにも信用していいか怪しい」

「実際お前らってあの教師のこと監理局としては全く信用してないのは知ってるんだぜ」

「先生には内緒にして欲しいがな……それどころじゃない、物語を結末まで進めず盛り上げどころを避けたいという黒影の考えを通したらどうなると思う」

「めっっっちゃくちゃヒマになるよねあたし達」

「そうだ、肝心な私たちのやることがない」

 一番の問題はここ、黒影に従った場合来たるべきその時まで自分達はただボケーっと過ごすことを強要されること。
 これがさくらですらこの形相ですになるほどのブチギレポイント、悪人ではない害悪。
 たくっちスノーがこれを想定していたのかは知らないがこうなるならそりゃ抑え込むよりコンプリートとやらを実行したほうがいいに決まっている。

「でも分かんないんだぜ、承認欲求満たしたいなら分身増やして一気に解決してもいいのになんで一旦何もさせないことを強要するんだぜ?」

「彼は現在命の危機と言っていた、自分の命を優先しなくてはならないやむなき事情があることは聞いている」

「傲慢だな、オレ達ゴクレンジャーも代々命の危機に瀕する状況はいくらでもあったが民の想いに応えるために立ち上がり生き抜いてきた、しかし自己犠牲を肯定するわけではない、自身と民両方を諦めず模索する事こそ尊い正義であるとオレは考えている」

「ブルーの言う通りだ、彼もまた自分の身の安全……曰く破滅の未来の回避の為だけに我々の動きを縛っているとは考え難い」

 シエル達の会議のテーマは現実的ではないゴッドイベントの回避方法と同時進行で黒影の動きの謎について考えている。
 オブリビオンは狩る、しかしイベントは進めさせない。
 そもそも何故イベントを動かしてはいけないことに関して……メモを取っていくうちにブルーとベビーは見返して気付いたことがある。
 >俺が主人公で優秀な相棒が居てそれでいて可愛いヒロインがいて……。

「そういえばそんなこと言っていたな、一応部下がいるとはいえそこまで心が通じ合う人間がいるとは思えな……そうか!そういうことか!」

 この時空の主人公はシャドー・メイドウィン・黒影、そして物語にもう一つ必要になってくるのがヒロイン。
 それも黒影の語気から相当思い入れのある大事な存在、しかし彼の物語の中にはヒロインが欠けているため物語を実行する事ができない。
 黒影はこの物語の修正に焦るあまり事を急ぎすぎた、その結果ある世界のキャラクター達に本質を見抜かれてしまった、黒影どころか時空の本質に。

「つまりはそのヒロイン片手にぶらり旅する予定だが、そのヒロインがいないと……どういうことだ?いるのにいないはずのヒロインと会話している?イマジナリーフレンド?ストーカー?」

「確かに傍から見れば支離滅裂だがこう考えるしかこの意味不明さを結論付ける手段がない、黒影は探しているんだ、自分にとっての理想の相棒と女を、それが空想か過去に存在したか定かではないが、それを巡って大きな確執が起きたのは間違いないことだろう」

 時間も押してきた、一応ブルーは隠されている身なのであまり長居は出来ないとそろそろシエルは撤退しようとするがどうにか話はある程度まとまったので資料として提出しようとする、残ったベビーはイエローに頼み事をして耳打ちする。
 現状も監理局のデータベースに侵入できるのはイエローとピンクのハッキング能力くらいである。
 実はたくっちスノーからも許可貰ってるので問題なし。

「おおこれ?分かった任せるんだぜー、よっしゃー気合入ってきた」

「ん?何を調べるつもりなんだベビーちゃん」

「黒影に一番近い人、古い知り合いから辿ってみようかなーって、そしたら良さそうなの見つかったの!」



 そして一番現在どうするか困っているのがたくっちスノーとexe。
 黒影に連絡は付かない、これから自分達が何すればいいかも検討がつかない、せいぜい桃の園の面々を無事に卒業させて戦力にさせるくらいだが……独立の目処もたたない。

「どうする?いっそのこと全世界コンプリートでも目指すか?」

「バカ言え黒影の逆鱗触れて地獄見るわ!キリねえし……」

「でもティーは昔は嫌がらせで前もって時空犯罪者潰すとかやってたじゃないか」

「それとこれとは事情が違う……それでミラくんもどうするの?」

「うーん僕がどうするかなんだよね、結局のところ帰れないしやることもないし、あいつに従いたくないし」

 サクラ、exe、たくっちスノーだけはゴクレンジャーシュンヨウジャー陣営と時空に向けて意識した行動を向ける中何も思いつかず喫茶店でぶらぶらしているだけの日々。
 時空監理局としての仕事はこなしつつゴッドイベントのコントロールなんて無理に等しい、だって作った黒影にも分かんないもの考えようがないだろう。
 黒影も黒影である、未完成なのは同情するが得体のしれないものならもう少し上手く作ってもらいたいものだが。

「ところで僕の世界のメイドウィンってどんなやつなの?」

「実は修学旅行の時に1回会いに行ってる、何せ住民大移動」

「そういう大事なことは過去の僕にちゃんと言いなよ」

回想のように振り返る、桃の園のメイドウィン『チェリー・メイドウィン・ミスティーローズ』と出会った時のこと。

ゼロ・ラグナロクの時以来だった?といっても全メイドウィンが僕にとってはそうだけど」

「……」

「あれ無口?」

「私あなたのそばにいるの怖いです」

「思想強いなこいつ!!仕事だよ仕事の話!!」

 ……。

「で、話題を切り出すのにめちゃくちゃ時間かかってさ」

「あのね……それ男女差別とかじゃなくて狭い密室で最悪の時空犯罪者と2人きりとか当たり前に怖いと思うの」

「まいったなぐうの音も出ねえ」

「しかし何度も言うがどうするこの状況、オブリビオン相手となると面倒だぞ」

「僕はあまり詳しくないけどオブリビオンってそんなに強いの?」

「強いっつーか死んでも無限リスポーンする、怪人らしくて雰囲気的には合っているけど」

「なるほどめんどくさいね、さてさてどうしようかな」

「そうそう……どうするか」

「おい真面目に考えんか貴様ら、腐ってもだらけてもオレ達は時空監理局並びに特別講師なんだぞ」

「ちゃんと考えてるよ……どうやったら新しいゴッドイベント起こせるかなって、そうだよねミスティーローズ」

「うん」

「何ッ!?」

 いつの間にかメイドウィンの義務ほっぽいてミスティーローズがサクラの背後に待機していた、まるで芸術品や高級なティーカップを丁重に扱うがごとくサクラのことを眺めている。
 たくっちスノーに邪険に扱っていたのとは大きな違いだ。

「何このボディ、これがパラレルワールド?花岡さくら、最高」

「この世界の神にウケて良かったー」

 あそこまで徹底的に焦った姿を見るとライバルとして徹底的に邪魔したくなる。
 更に今なら言い訳も誤魔化しもいくらでも利くし、ゴッドイベント発動や成功によってどんな恩恵をもたらしてくれるのか研究者として非常に興味深い。
 既にたくっちスノーの中には新たな発明品としてゴッドイベントのシミュレーターが脳内にあった。
 ミスティーローズらメイドウィン達も自分達にも予測できない要素を本に従うだけじゃない刺激として好意的に受け入れている。
 黒影から事情を聞いて一秒でこっち側に寝返ることにした、ミリィが多数のメイドウィンを味方につけているらしいので彼女もそちらに回そうか検討している、サクラもそっちに引き取ってもらおう。

「おい……つまりどんなイベントもおこし放題ってことか?」

「メイドウィンにも拒否権はある」

「ゴッドイベントには?」

「アルティメット乗り気」

「自分らに必要なことある?出来る事は何でもするっつーか、さくら君の為に尽くしたい」

「全員呼んで、そっちの仲間全部」

「よっしゃ任せろリ」

 ここまでのだらけっぷりがなんだったのか、たくっちスノーは全力でゴッドイベント実行に向けて行動に映す。
 黒影が時空掃討戦を行っている中、メイドウィン達もド派手に反抗する様子を見せていたことは知らない。
 エリートバカ5人衆による便乗と神たちの大いなる実験、たくっちスノーはこの時の件を『メイドインルート現象』と勝手に名付ける事でまるで偶然黒影への脅威としてそうなったかのようにした、やることが汚い。
 ちなみに分身共有は定期的にしてるので他の分身共もがっつり知った上で見て見ぬふりしたり関わらなかったりする。
 最もそれどころじゃなかったりする分身も結構いるが。

「じゃあ自分、田所達呼んでくるからexeは念の為この世界見張っといてくれ」

「本当に大丈夫なのか?もしゴッドイベントが失敗したらとんでもないことになるとメイも言っていたぞ」

「自分達は事業で何を見てきた?そもそもこの世界の物語を導いてきたのは監理局でもメイドウィンでも、ましてや黒影でもない……この世界を生きる登場人物達だ、元々自分らが出しゃばらなくても成り立ってたはずの世界だ!」

「うんうん、僕もようやく気合い入れて特訓できると思うとテンション上がってくるね」

「お前一応紅の砦の特別講師任されていたんだろう?」

「いやね?僕は最初からゴクレンジャー以外のレッドなんて誰一人認めていないと思ってるからね」

「厄介オタク」

 たくっちスノーは一旦監理局にこっそり帰って監理局内で働いている他のたくっちスノー達とハイタッチして一旦情報共有をしてから分身ハンマーでぶん殴って増やした野獣先輩を無理矢理引っ張ってミリィとポチに声を掛ける。
 ミスティーローズははじまりの書を広げてイベントを一通り広げていく、まるで時系列一気に巡るゲームのように年表が広がって口からシールのようにイベントを貼り付ける準備をする。
 メイドウィンがキャラクターの目の前で仕事する姿など前代未聞の光景かもしれないがいずれこれも当たり前になるのかもしれない。
 真の物語はここからだ。

「おまたせ!さくら君どこに行ったか分かる?」

「イベントにしようか?」

「嫌です……」

「オラッ!!監理局としての責任を果たすんだよ田所ォ!」

「いーやーじゃー!!なんでてめーらの仕事に俺等も巻き込まれなきゃいけないっすかー!!」
最終更新:2025年08月06日 23:02