全て終わってまた一難

「おい!!おいお前ら!!」

メリアとフォグは大急ぎで戻ってくる。

「これは詳細を省くが結論から言うと黄金都市が落ちる!!」

「落ちねぇよ!!粉々に消えるんだ!!その前に脱出するぞ!!」

全員で大急ぎで駆け出していき、乗ってきた魔法の絨毯に戻っていく。

そうしている間にも、黄金都市は光の粒となりどんどん消えていく。

「黄金都市が……無くなっていく」

「また伝説に戻っていくかのようだな」

「まぁアレが正しいんだよ……元々、知られるはずも、存在することも無かったものだからな」

俺は絨毯に乗りながら、黄金の都があった場所を見つめる。
そこにはもう何も残っていない。
ただただ空が広がっているだけだ。
いや、違う。
雲の中に何かあるような気がするが……。
よく目を凝らすと、それは巨大な水晶だった。

「センコー、あれなんだ?」

「さあな、レイヴの世界の特別なアイテムなんだろう……」

「それより、なんか下から煙みたいなものが……」

絨毯の下、いやそれよりも下……地面から煙のようなものがふよふよと空に向かっては散っていく……よく見ると、黄金都市が消えていく時の粒と同じだった。

「そういやレイヴの奴、使者が勝手にばらまいた物も元に戻すとか言ってたからな」

「とすると、この煙は……それが消えていったものか」

「だが、もうどうしようもならな……ん?」

「おい、あれは……」

ログが指さした先には…貴族達の飛行船が落ちていく姿。
どうやら、飛行船の一部にも黄金都市の使者の物品を使用してたようであり、それらが消えた今、浮力を失った飛行船は落下していく。
そして、そのまま地上へと墜落していくのも時間の問題だろう。

「………どうする?」

「どうするって、俺たち5人乗せてもうキツキツなんだぞ、絨毯に乗せられるかよ!」

「じゃ、どうにかアレが事故るのだけは避けられないか、おいセンコー、お前も神なんだろ」

「俺は単なる旅人でこの世界の神でもないんだがな……分かったよ、お前の剣の魔法、使わせてもらう」

フォグはメリアと同じ『剣の魔法』を使い、飛行船から剣を生やして近くの岩山に刺さらせる。これで少しは時間を稼げるかもしれない。
しかし、それもいつまで持つかどうか。
それに、そもそもあの程度の飛行物体では、衝撃を吸収しきれずに潰れてしまうのではないだろうか? すると、メリアの不安を読み取ったかのように、ログが手を出す。
ログの魔法は砂。
近くの砂漠から砂を持ち出し、飛行船の下にある程度乗せて落下の衝撃を和らげるというわけだ。


「とりあえず、これだけやっておけば問題はあるまい……」

「なんか……短い間にどっと疲れが……」

と、ここでメリアの視界が歪み始める。

「……あ、やっべ、そういえば俺、ここに来る前にナイフで腹ぶっ刺されてたんだった。」
腹部に手をやる。……血は出ていない。傷口もない。
服だけが破れているだけ。
痛みもないし、違和感すらない。
だが……少し頑張りすぎたかもしれない、今は眠ろう、そろそろ夜が開ける。



「お姉様!!?」


ーーーーーー
……
「はっ!」

気が付くと、メリアはベッドの上で目を覚ます……腹の感触を確かめる、包帯のような物が感じられるので、夢では無いことが分かった。


近くにはシャリア達家族がいる。

「シャリア……?」

「目が覚めた!お姉様!」

「ああ……そっか俺無理しすぎて……」


「あっ!!そういえばすっかり忘れてたけど、俺、あの日に追放が決まって……」


「………その心配は不要になりました」

「母さん?」
母親が言う。
一体どういうことなのかと尋ねると、彼女はこう答えた。
実は先日の件で、メリアの婚約破棄は無効となったらしいのだ。
理由は簡単だ、黄金都市が消えた時一緒に使者がこれまで提供していた物品も消えて無くなった。
十年以上物資が与えられたことにより、それらに頼って生活していた貴族達も少なくなかった。
突然の消失により生活を維持できなくなり、またそれによる混乱によってイルタール家はサナとの結婚もメリアとの婚約破棄も婚約も何もかも無かったことになったのだ。

「じゃあ……」

「貴方はこのままトゥシャール家の当主として、ここに居てくれませんか」

「けど俺は……」

「その時の件で、貴方の中身がメリアでは無いことは皆分かっています」
「そうだろ、流石にこの体で生き続けるのは……死ぬ意味が無くなったとしても本物のメリアが不憫だろ」


「………ずっと黙っていたのですが、改めて話します」


「___婚約破棄を告げられたあの日、既にメリアは自害していた。」

母からの話を聞いて、遂に答えがわかった。

なんかのアニメで、同時に人が死んだ時何やらというのを聞いたことがある。
日本で自分が死んだ時とメリアが自殺した時は同じタイミングだったのだろう。


「………」

「どうか、お願いします」


「………生きていてくれませんか?」


「___」


「分かった、生きてみるよ」
ーーーーー

そして、俺は……改めて『メリア・トゥシャール』として生きることにした。
傍から見たら滅茶苦茶な形で第二の人生始まったけど、そういうのもありなのかもしれない。

俺が寝ている間に色々あったみたいだから、こうして手紙にしている。

サナは黄金都市が無くなった事でアルカナティール学園に居られる価値も無くなり、ログも影響の確認の為カルバラン魔国に帰国。

そんでもってあのセンコーは俺の知らない間に勝手にもう旅に出ちまいやがった。

つまり、あれから俺達は離れ離れか……と言っても、
元々あいつとはそこまで仲良かったわけじゃないんだけどな。
まぁいいさ、これでようやく自由になれたんだ。
これからどうするかは、ゆっくり考えようと思う。
とりあえず、今度こそ自分の人生を楽しんでみようとは思うぜ。

あ、センコー……あの神様が言うには本名は『たくっちスノー』だったか?
余裕が出来たらアイツにも会いに行く、余裕が出来たら……だけどな

メリア・トゥシャール

ーーーーーー

………

「………余裕な、これから世界あちこち混乱するけど、頑張って生活して……」


「あっ、そういえば。」

サリエスとの婚約破棄どころか婚約その物も無かったことになっている。

これまでの問題は全て解決したが、今度は振り出しに戻って世継ぎ問題が残っている。

「俺、サリエスの事無くなったとして誰かと結婚しないとまずいよな……どうすればいいかな」


「それに関しては………」

「お姉様!」

「私と結婚しましょう!」


「…………」

「はあ!!?」
突然のシャリアの発言にメリアは驚く。
メリアとシャリアは姉妹である。
メリアは精神は男であるが体は女。

「おいまずいだろ!俺達一応形式上は姉妹じゃ……」

「お母様はお姉様の後から結婚したので私は義理です!」

「義理で解決するか!!女同士で結婚とか子供が出来ると……」

「お姉様……ふふ、一応言っておきます」


「お姉様がかつて居たあの鉄の国ではそうだったとしても、ここではどうですかね……?」

「………」





「助けてくれセンコーーーッ!!!」


こうしてメリア・トゥシャールは婚約破棄・追放の危機は終わったが。

またそれとは別で大きな問題が降りかかることになったのであった。

最終更新:2023年01月21日 17:59