たくっちスノー、正体を明かす。

………

俺の知っているライチは、成れ果てた姿だった。

ルイーズの言うことを認めるなら、もうずっと子供の姿で、記憶も消えて……守りたい人の為に強くなる、だけに……

「ルイーズ」

「ライチは覚えてたよ、お前の事は忘れても……守れなかった人がいたこと、次は守るために強くなるってこと」

「………」

「皆さん、ライチを連れてこの村から逃げてください」

「ヤッパン大国は冒険者試験という名目で『永遠に戦える兵士』を探している……知られたからには、貴方達を生かすことは無いでしょう」

「だろうな、あのベルガというヤツと話した時、俺見たよ」


「体から俺と同じ『黒い液体』が出てきた。」

………『マガイモノ
まさか、こんな辺境の地でアレを研究しているような所があるかと思わなかった、それも人工的なものじゃなく変異型だ。
永遠に戦える兵士ってのは、アレに適応出来る人間、個性を奪われるって言うのは適応出来ずに、死体に近い状態になったってことだ。

………ということを、説明した。

「そんな物をあんな国が……で、なんでアンタはそれを知ってるの?」

「ルイーズが全部明かしたんだ、俺も全部話す」


「俺の本当の名前は『たくっちスノー』、さっき話したマガイモノという生物達の王をしている」

「と言っても……俺はベルガと違って人工的に作られたものだがな」
俺は、自分の生い立ちを話した。
自分が作られた存在であること、俺が作られた目的、そして…なぜ俺が名前を偽って旅をしているのか。
全て話し終えた頃には、外は暗くなっていた。
洞窟内は、俺の話を聞きながら皆黙っていた。……

……
「ライチに俺の技をひとつ教えたのは軽い冗談のつもりだった、だがアイツはコンドルマスクとの戦いで本当にそれをやってのけた」

「……今思えば、ライチが俺と似て異なる体をしていたから、なんだな」
ベルガは恐らく成功例だが、ライチの場合はなり損ない……ルイーズが言うように歳を取らなくなっただけで不死にはなっていないだろう。


「これからどうするアルネ、今こうしてる間にも攻め込みに来るアルヨ」

「戦争にでもなったら、俺は仲間に迷惑かける可能性もあるし……ライチの為にもならない、そこが悩みどころだ」

「………話の中で気になってたんだけど、なんでライチの話に出てきた熊を倒しに行かないの?」

「ライチは守れるくらい強くなりたいなら、まず冒険者を目指すより熊を倒すことを基準にすればいいでしょ?」

「本当に20年経ってるなら、その熊もよぼよぼになってとても相手にならないとは思うけど………」


「………確かに、俺も修行の最中に山に向かって、改めて熊とタイマンさせる事も検討したよ」



「だがそれは、そこに居るのが『普通の』熊だった時の話だ」
そう言って、俺の背を見せた。……一同は、その時初めて彼の背中を見た。
背中にあるのは、まるで翼のような真っ黒な翼。
いや、違う。あれは翼じゃない。
翼の形をした……黒いゲル状の何か。
彼は、本当に人間では無い存在。
ヤッパンはこんな物を作ろうとしていたのか……

「……実は以前、ライチが寝ている時こっそり山に1人で登ったことがある、あいつが本気でやばいと思った熊がどんなものか俺も興味があったからな」

「頃合いを見て、そいつをライチとやらせる……だが、実物はそんな軽いもんじゃなかった」

「結論から言うと、その熊……」

「俺一人でも勝てるか怪しい……って言っても信じられないよな」


「さっきのマガイモノの話になるが…,正直思い出したくない出来事だが、俺には『量産型』がいた。」

「まぁ、なんつーか……そいつらの扱いは酷いものでな、虐げられ、酷使され、捨てられ……まぁ、そういう奴らだった、だからその分成分も世界中にぶちまけられた」

「鍾乳洞って知ってるか?少しずつ垂れていく水滴が、数十年の時を得て石みたいになっていくやつだよ」

「アレみたいに……固まった成分が凝縮されて、石ころみたいになったものがある、俺の仲間はそれを『ティーの涙』って名付けた」


「……それをあの熊が持ってたってこと?」

「ああ、黒ずんでたしヌシみたいにでっかい見た目をしていたから、間違いない。」

俺は、あの日のことを思い返す。
あの日は、いつも通り夜中にこっそり狩りをして食料を調達していた。
あの日は、珍しく獲物が取れなくて仕方なく帰ろうとしたとき。
あの日は、急に強い雨が降ってきた。
あの日は、突然雷が落ちてきた。

そして、アレがいた。
「………腹を括るしかない、ライチ、起きろ」

ライチを起こした。
状況が状況なので寝かせておいたが……


「ししょー……」

「時が来た、山に行くぞ」

「………僕に、出来ますかね」

「分からない、分からないから俺も少しは付き合う」


「今まで以上の地獄になるぞ」
覚悟はしていたつもりだ、だが想像以上だったな……。
何せ相手は、後ろからマガイモノの大群、前方にはティーの涙を持つ熊……言うならば俺と同レベルの怪物だ。

なら、この状況を脱する方法は1つしかない。
ベルガ達は執着しているのは俺とライチのみ、俺たち2人が動きを取れば村より追いかけることを優先する。

そして…俺が見た感じ、あのクマはライチが洞窟で暮らしてからの二十年で間違いなく人を襲っている。

誰かが言っていた。『人の味を覚えた熊は危険』だと。

なら、今からやる方法は一つだ。

化け物には化け物をぶつける。
俺が囮になり、ライチが熊の相手をする。
だが、それだけではダメだ。
俺1人じゃ絶対に負ける。
更に、時間をかけすぎるとヤッパン大国の奴らも来る。

だから、本当に急いで相手をする。

「お前らは俺の件とは無関係だ、勝手に帰るなりルイーズを守るなりしても構わない」


「いえ……それなんだけど……」


「実は、もうそばに来ているのです……『それ』は」

「は!?……おい伏せろ!!」

盲点だった、今頭に入れたところじゃないか。
『人の味を覚えた熊は危険』だと。
そして、そうなった熊が人の居るところまで降りてこないわけがない。
背後から巨大な爪が飛んでくる、岩壁に大きくめり込んだ大きな腕が見える。あれだけの巨体だ、恐らく俺らの倍はあるだろう。

「逃げるどころか、ここでやりあわなきゃコイツの餌になるしかない状況になっちまったネ」

「どうするのよ!!」

「やるしかねぇだろ!俺は…この時の為にライチを鍛えてきたんだぞ!」
最終更新:2023年02月14日 17:08