たくっちスノー、ライチを連れていく。

………目の前に熊、今俺たちが居るところは洞窟、出口はその大きな体格で塞がっている。

はっきり言って不利だが、ここでやらなきゃ全員揃ってあの化け物の餌になる。

だが……もっと広い所で戦いたい、まずどうにかしてアイツを離れさせないと……!

そう思いながら、俺はデニム・ピラートの姿か別の姿に変える。
「えっ!?」
「おぉ!?」
「…………」

これでも体も名前も、『あいつ』から何千何百と譲り受けてきたんだ、こんな真似も出来る。

「くらえっ!前にいつ使ったのか忘れたが……」

「ブラックスプレッド!」

指から黒い成分を一気に放出して飛ばすが、腕で簡単に防がれる。
やっぱりこれくらいじゃびくともしないか。

「!!」

コンドルマスク!?」

コンドルマスクが飛び出して熊にタックルをかました、そこからパイルドライバーを仕掛けようとするが、簡単に腕力で外されて岩壁に叩きつけられる。
そしてそのまま壁を破壊して外に出てしまった……。
「おい!!コンドルマスク!!」

「だが今ので壁に穴が空いた!あそこから出るぞ!」

穴から外に飛び出していくと………


「………うわ」


そこにあったのは、周囲全体を埋め尽くすほどの血溜まり、肉のようなもの、この世の地獄。

……俺たちを追いかけて狙ってきたヤッパン大国の奴らだろう、距離を考えるとやけに遅いと思ったら………ちょうど下山したあの熊と鉢合わせて敗戦したのだろう。そんな光景が広がっていた。
「これは酷いアルなぁ……」

「ひぃぇぇ……」

「……おい、コンドルマスク大丈夫か?」
こいつはどうやらちょっと頭を打っただけで支障はなさそうだ。

「とりあえず結果的とはいえ一つ問題は解決した、後は熊を何とか……って口だけなら簡単なんだがな」

目の前にはさっき戦いを終えたばかりの気がたった熊がいる、しかもかなり怒ってる様子だ。
こっちに向かって突進してくるが、デニはそれをひらりとかわす。
しかしデニは足を滑らせて転倒してしまう。
その隙を狙って、熊は鋭い爪を振りかざしてくるが、持っていた刀でガードする。

「正直出番ないまま終わると思ってたぜドクロ丸!」

「し……ししょー!」

「うろたえるな!お前はこいつを倒すために強くなろうとしていたんだろ!」

「今のお前は二十年前のヤワだったお前とは違う!何せ俺が……たくっちスノーが……いや、この『デニム・ピラート』に鍛えられたんだからな!」

「俺が教えた全てを信じろ!!」

ライチは力をふりしぼり、鞭を放った。
熊の腕を巻き取るように抑え込み……粘着性のある材質が一気にまとわりつく。
さらに足にも巻き付き、動きを完全に封じることに成功。
それを見たライチの顔に、自信がついたような表情を浮かべていた。
だが、ライチの身体の傷を見ると、胸が締め付けられる気持ちになった。
ライチは、ずっと一人で戦っていた。
恐らく、ずっと自分が来るまで……
熊に勝てず、人に勝てず、人にも戻れず、それが今のライチだ、だが……



「お前の思いも、お前の戦いも、お前の抱えてきた願いもここで終わる………」


「ライチ!!ぶん投げろ!!」
ライチは大きく振りかぶると、鞭を引っ張った。
すると熊は宙に浮いたまま、勢いよく吹っ飛んでいく。
地面に落下していく最中……

「まぁ、俺もある程度なら手助けをさせてもらうがな!」

「最近使ってない必殺……えーと、黒池地獄!」

デニが草原を叩くと、周囲が黒い液体に包まれて熊が沈んでいった。

「や……やったの?」

「やったわけないだろ………いつもならまだしも俺と同レベルの熊だぞ、言ってて俺も訳わかんなくなってきたけど」

「いつもなら底なしの黒い液体の中に延々と沈んでいくが……俺の予想だとすぐさま這い上がってくる」

「ここからの一撃をどう対処するか……」

デニはライチの方を見る、さっきの攻撃だけでも全力を絞ったらしい。
またアレと同じことをするのもあと1回が限度だろう。そう思いながら、ライチは肩で息をしながら、鞭を構えている。……さすがにしんどかったのか、膝をついている。
やはり、いきなりあんなのを相手して慣れないはずがない。
そんなことを考えてると、黒い物体が徐々に盛り上がっていることに気付く。

「流石にそろそろやべーかもな……」
その瞬間であった、黒い水飛沫を撒き散らして熊か飛び出し……

「……!!」


「ッ!!」

そこに起き上がったコンドルマスクがソバットを浴びせ、熊の牙をへし折りにかかる。

「もう今やるしか無いネ!!」

「シャン達も覚悟決めるアルヨ朱!!」

更にそこから鎖鎌を朱と商が飛ばして熊の爪を引っこ抜く!

「足の爪は無理だし熊も馬鹿じゃない!蹴りを放ってくる前に決着をつけろ!」

「っつ!!」
俺は二人に指示を出す。
あの足で蹴られたらひとたまりもない。
それに、あの熊がどんな技を持っているかわからない以上、迂闊には近寄れない。
だからこそ、俺が囮になって奴を引きつけるしかない。
俺は剣を抜き放つ。

爪をなくしたってのに全然力が鈍ってる感じがしない。

「ライチ!!」

「はい!」
ライチは再び鞭を振り回し、コンドルマスクがそれに合わせて飛び上がる。
そしてコンドルマスクは熊の腹に両足を押し込み、そのまま力一杯押し込んだ。
熊が抵抗するも、コンドルマスクの怪力で抑え込まれる。

そして……再び鞭が足に巻き付けられて熊が持ち上がり、そのまま地面に叩きつけられた。
その勢いで熊の首の骨が折れる音が聞こえてきた。
そして、その反動でライチが吹っ飛ばされる。
だが、そこは朱がカバーに入る。

首が斜めに曲がった熊は口から紫のような黒のような禍々しい宝石を吐き出す、これがティーの涙だ。
マガイモノの力を失った熊は瞬く間に年老いて、やがて骨まで朽ちていった。

………ライチの目標は、これで果たされた。
まだ、ライチ1人では倒せないかもしれないが、俺からすればそれでもいい。……とりあえず今はゆっくり休んで欲しい。

その後、俺はティーの涙を回収し……一旦仲間の所に帰ることにした。
ティーの涙…改めて俺の問題は山積みだ、それを解決するために、もっと仲間を必要とする。
ライチだけじゃない、もっと沢山の世界を回る必要がありそうだ。
運が良かったのは、コンドルマスクも興味を持って一緒に来てくれること、リントも引っ張ってきた。
あのチャイナ兄妹は気が付いたらいなくなってた、まぁ協力してくれないとは思っていたが。


……ふと、昔を思い出す。
その時の俺と比べて、ライチ、お前は……

本当に強いよ。

【たくっちスノーの弟子】
END
最終更新:2023年02月14日 17:10