運命は都合よく回らない。

『マスターアマゾネス』
それは所属している任天堂戦士の全員が女性の集団である。
そんな彼女達は今、この歪んだ世界のどこかにいるであろう同盟達を探し、脱出に向けて密かに活動していた。
危険の少ない安全地区の住居のさらに地下。
マンホールより下の秘密基地の門を叩く音がこだまする。

「誰だ?」

「私だ、メトロイドフュージョンの……」

「ギン……おい、用件はなんだ?」

「新しい仲間になれそうな人を連れてきた……いや、人かどうかは怪しいけど……」

「なんでもいい、まず顔を見せ……」



「いやっ………本当に人間かどうか怪しいの来たっ……」

扉を開けて真っ先に飛び込んできたのは、まるで爬虫類のような鱗に覆われた肌と、口元から覗く鋭い牙を持つ女性だった。
その見た目は明らかに人間のそれではない。

赤虎ライミだ、ギンの推薦でマスターアマゾネスという組織に所属したいのだが……リーダーは誰だ?」

「その前に……その見た目はなんだ」

「それを話す前に私の事について話しておこう」

ライミは一通りの説明を行い、能力についても説明した。

「つまり私は簡単に言えば動物からニクと呼ばれる部位を捕食し成長、生物とコウビを行うと必ず妊娠して即出産、成長して転生するという能力で」

「それがなんでワニ女になるんだよ!」

「ギンに勧められてドンキーコングの世界に行ったら二本足で歩くワニみたいな生物がいた」

「私が初めて会った時は宇宙人に孕まされてそれっぽい見た目していたから、もしかしてと思って……」

マスターアマゾネスのリーダーはライミの発言を聞いて少し考えた後、答えを出した。
彼女の名前はイツメン・アコライト。

彼女は元々この世界の人間でもなければ現実世界の人間ではなく、また別の異世界からの来訪者だと言う。
そして今は、任天堂戦士達を束ねる立場にある。
そんな彼女には一つだけ疑問があった。
それはライミの能力の事だ。
ライミが言うように、彼女が生物を捕食する事で成長するというのはわかる。
だが、なぜそうなのか。
そこについては誰も知らなかった。

「とにかくお前には色々と聞きたい事がある、こっちに来てくれ」

「他の人達は?」

「別の世界に行ったっきり帰ってこない……生命反応は残っているから死んではいない」

「メトロイドの世界か?」

「違うが……何故そう思った?」

「ん……私はてっきりギンを救出しに向かったのかと思ったが」

「………ここのメンバー、結構自由に動く」

「ギン、お前は何をしていた?」

「脱出の手がかりになりそうな情報は見つかったけど、まだ確信は得られない」

「そうか……それなら疲れているだろう、ここで休むといい」

イツメンは手に持っていた葉っぱを投げると、それが地面に触れた瞬間にベッドの形へと変化した。
部屋の中にいた他のメンバーもその光景を見て驚く。
それはそうだ、目の前で起きた事が現実離れしているのだから。

「イツメンは『どうぶつの森』の任天堂戦士、葉っぱを投げると家具に変化する能力を持ってる」

「戦闘は出来ないが、こうして安全な世界に居住区を何個か作成することは出来た」

「これを全部マスターアマゾネスの面々が?」

「そうだ、脱出する上で必要なのは安定した環境、そして仲間だと判断した……それともう一つ理由がある」

「理由?」

「私はこの世界の人間じゃない、お前達の世界もと違う、ある日突然この世界に飛ばされてきた……この世界で何をすればいいかもわからないままな」

「お前達に起きていることはある程度把握している」

「ライミと言ったな、ここに来てどれくらい経つ」

「1週間ギンのラボで暮らして……そろそろ2ヶ月くらいになる、はずだ」

「来て間もないか、なら知っておいたことがいい事実がある」

「事実?」

イツメンが言った言葉は、誰にとっても衝撃的な言葉だった。



「この任天堂世界には時の概念がない」

「ここに入ったものはどんなに時間が経っても成長も劣化もしない……簡単に言えば、歳を取らないということだ」

ライミはその話を聞き、すぐに自分の体の変化に気付いた。
肌の表面に鱗が現れていたが、それが劣化して剥がれ落ちる様子もない……脱皮をしたことが無いのだ。
イツメンの話を聞いて、自分の中のある問題が1つ解決した。
同時にやるべき事も理解する。

「質問がある、歳を取らない……それはつまり、死体は腐らないということだろうか」

「ああ、腐敗して骨も残らないまま……君たちの国の文化には死者を焼いて埋葬するというものがあるらしいから、定期的に供養している」

「やはりそうだったか……」

「………そういうこと」

ギンも理解して、ライミの代わりに説明する。

「ライミはさっきも説明した通り、能力でコウビして子供を産むとその子に転生するんだけど……産んだ後の体が残ったままなの」

「魂が子供に移ったということは、肉体的には死んだ扱いだと考えて放置していたが……」

「………何?では任天堂世界には……君を産んでは転生の繰り返しで残った抜け殻ともいえる君が……何十体もいるのか!?」

「そうなる」
ライミの答えを聞いたイツメンは、驚きを隠しきれないでいた。
無理もない、自分と同じ顔をした人間の死体が何十人もいれば、誰だってそうなる。
ギンはそれを聞いて閃いた。

「その体……まだ残ってる?」

「分からない、生まれ変わる度に前の体は捨てている以上…どうなったかまでは想定していない」

「だが、お前に言われた通り前の体は担いで持ってきたぞ」

「持って……きた…?」

ライミは後ろから引っ張り出して、背中に触手が生えている宇宙人をそのまま床に置いた。
肌も髪も人間のものとは思えない色をしているが、ライミの面影がある。

「マスターアマゾネスの人材不足だけど……『MOTHER』の任天堂戦士の力で、超能力で死体を動かして…それを人材として採用するのはどうかしら」

「……」
「……」
「……」

3人は黙り込んでしまった。
それもそうだ、ライミと同じような見た目をした人間の遺体を利用していることになるのだから

「いくらなんでも非人道的では無いのか……?」

「私としてはもう使わない体だ、なんならこの体もコウビで転生してからは好きにして構わない」

「その言い方は少し問題がある」

「……今はまだ返事を出せない、ギン、お前が連れてきたから扱いはお前に任せる」

イツメンはそう言って、死体のライミを置いてその場を去った。
残されたライミとギンは少しの間沈黙した後、会話を始めた。

「これからどうするつもりだ?」

「用事はある、来て」

ギンは1度家を出て、スコップで土を払うと……近くにマンホールがあった。

その中に入っていくとさっきまで入っていた家より広い空間に出て、その中に沢山の女性達が居た。


「これは……まさか」

「自由に動いていたというのは、嘘」

「イツメン以外は全員ここに居る」

「あいつはここではリーダーということになっているけど、実際は……脱出する気が無い」

「移住区を作るぐらいなら勝手にして欲しいし、私らもソレに住んでいるから文句は言わない」

「ただ、アイツは自分主義による楽園を作ろうとしている」

「新人で部外者である私が口を挟める権利は無いと分かっているが……そう言い切れるものがあるのか」


「ある、この間これを見て確信した」

メンバーの一人は部屋に更に穴を掘って、中から大量の小さな袋を取り出す。

「あいつは自分を現実世界とも別の世界から来たって言うけど、ラリっておかしくなってるだけなんだよ」

「マリオの世界の毒キノコを初めとした色んなものを合成してすり潰したものをバラまいてる、あいつヤり慣れてるよ。」

「大方、現実世界に居場所が無くなってこっちに居座り続けたとかそういう話だろうね」

「なるほど……」

「それで、こいつは何?」

「新しい仲間、今はこの拠点で保護することになった」

「へぇ~……」

ギンはライミを適当な所に座らせて、改めて話を聞く。

「ギンはいなかったから改めて説明するけど」

「この移住区を放火する」

「……え?」

「と言っても、燃やすのはこのヤクもどきだけ、それ以外は燃やさない」

「私らマスターアマゾネス以外にも色んな奴が住んでる、そいつらにもコイツを与えてるなんて聞いたら……」


「でも、どうやってバレずにそんなことを………」


「心配はいらない」



「もう既に決行している」

瞬間、天井の方から熱を感じる。上を見上げれば、火を纏った無数の羽虫が降り注いでいる。
ライミはそれを見た瞬間、すぐに行動に移すことができた。
炎を纏う羽虫を、手から生やした剣のような鱗で切り裂く。
すると燃え尽きて、その場に落下する。

「これはなんだ?」

「これは能力でもなんでもない、その辺に飛んでる虫に火を付けただけ」

「これをあちこちに放って、どうにか粉だけ……」

だが、その作戦とは裏腹に炎の音が止まない。
それどころか爆発音までする。

「おい、これはどういうことだ!」

「……おかしい、こんなに派手に燃えるはずじゃ……」

「ギン!お前がやったのか!?」

「違う、私は何も知らない……!!」

「なら誰が……」

「……っ!!?」

ライミは後ろを振り向いた、さっき出した粉に引火して火花が散っていたのだ。

「キッ!」

ライミは躊躇無くそれを口に入れて、腹の中で軽くボンっ!と音を立てて爆発し、口から煙が漏れる。

「ライミ……貴方」

「問題無い、元より色んなドーブツを捕食する能力だ」

「あの馬鹿!クスリに火薬混ぜてやがったのか!?」

「そ……それどころじゃない!」

全員が嫌な予感がして、マンホールから外に出るが……そこは移住区の全ての家が火の海と化している地獄だった。

「あのカス!!全ての家の下に粉隠してやがったな!!」

「イツメンに見つかる前に逃げる?」

「アイツは粉の所だからとっくに火の海だ!」

ギンはライミを連れて、逃げ道を探す。
だが、どこに行こうが火の手が回っていて、とてもではないが進めない。

「逃げていいのか」

「能力者も沢山いる、火の消化はすぐに終わる……せめてこれくらいは……」

ギンは右手のアームキャノンからビームを発射すると、放った先の炎が凍結していく。

「流石はマスターアマゾネスのメンバー、こういう時だけは頼りになる」

「だが、問題はここから」

「移住区がダメになった……戦えない人達の住処が無くなってしまった」

「ギン、止まれ」

ライミは炎の中に倒れている少女を発見した、ギンが何とか救出すると名札には『愛乙女』と書いてあった。

「名前は分からないけど、この小さな子供の命も私たちが危うく奪いかけた…その責任は取らないといけない」

「でもこれからどうすれば……」

「いや、まだ可能性はある」

……

「アイアンテールの炎払い!!……いやダメだ!あっつ!!」


「あ、おいそこの!今原因は分からないが移住区のあちこちで火事が起こってて何でもいいから人手を……」


「え…ピカチュウが喋ってる…」

「霊音……だったな、久しい」

「え、なんで俺の事を……」

「……え、ライミ、これも任天堂戦士なの?」

「え?……ライミ?これが、ライミなのか?」


「話は後だ、この状況は……」

「見ての通りだ、人手が足りなくて仕方ない……バケツリレーでもいい、水が必要だ!!」
最終更新:2023年05月20日 14:27