この世界は誰も信用出来ない

霊音と合流したライミ達はなんとか移住区を消化して、また草木で隠れ家に逃げていた。

「………そうか、あの移住区がそんな事になっていたのか」

「あんなに火の手が上がるなんて……」

「擬似的なクスリまで売られてるって……いよいよ秩序もあったものじゃないな」

「………ユカは大丈夫だろうか、移住区に居たはずだが」

「いや、実はあいつ……いつの間にか姿を消していた、移住区に住んでいたという情報も無い」

霊音が申し訳なさそうな顔を浮かべる。
どうやら霊音の知り合いも行方不明になっているようだ。
だが、霊音はどこか納得したような表情を見せる。
それはユカには何か考えがあっての行動だと思っているからだ。
そもそもこの世界に連れてこられた時点で、ほぼ普通の人間とは言えなくなるのだから。

「………お前の方も結構変わったよな、いや本当に、ピカチュウの体である俺が言えたことじゃないが」

「簡単に言うとワニや宇宙人の子供に転生した物だ」

「ああ、そういえば動物番長はそういう要素もあったか……やっちまったな」

「で、その子は?」

「ギンだ、マスターアマゾネスという組合に所属していたらしい」

「ああ、マスターアマゾネス………マスターアマゾネス!?」

霊音は驚いて3回くらい聞き返す。
ライミが不信に思って霊音に聞いてみると……

「移住区が火事になった時、お前らはバラバラになって逃げたのか?」

「そう、私がライミを連れてアイスビームで炎を凍らせながら逃げていたら、小さな子を見つけて、その子を担いでいたら……」

「霊音に会った」

「そうか、ある意味ではお前らは運が良かったのか……」

「どういう意味だ?霊音」

「そのままの意味だ、あいつら…全員捕まったって記事になってるぞ」

「しかも……その主犯格ってのが裏じゃわりと有名な『ポケモンの任天堂戦士』って書いてあった」

ライミとギンは驚いた顔をする。
まさか、あんな状況で自分達以外全員が捕まったとは想像してなかったからだ。
そして、それなら他の仲間とも合流したいと思う二人だったが……

「ポケモンの能力者…そんな厄介な能力者が居るなら、私達じゃ対抗も出来ない」

「ポケモンのスペックは私もゲームを色々やったから知っている、それを悪用されたらとんでもない事になることも……」

「……違う」

「え?」

「ポケモンの任天堂戦士の能力はポケモンを自由に指揮する事じゃない……」


「人間をポケモンのように捕まえて操る事だ」

「何だと!?」

「全員女性だけのチームだったんだろ、前々から頃合を伺っていたんだろうな、捕まった女性達は裏の施設に集められているそうだ」

「今すぐ助けに行くぞ!」

「待て!落ち着け!」

霊音はライミを止める。
ギンも不安そうな表情をしている。

「規模を考えろ、こんな規模でやれるものならとっくに誰か動いてるよ」

「………で、ライミ……お前はまだ考えてるのか?脱出」

「………」

「実を言うと俺は正直不安だ、本当に出られたとして、ヒントがあったとして………いや、違うな」

「俺が不安なのは、帰れるとして現実世界でまたやっていけるのかって事だよ……だって今の俺の体、ピカチュウだぜ?」


「お前も任天堂世界に居る間は何年経っても歳を取らないし成長しないことは聞いただろ」

「俺もここに迷い込んで早3年は経つが……能力を解除出来たことは1度もない」

「それを言えばお前もそうだライミ、お前は厄介なことに人間以外の生き物とコウビして別生物の遺伝子を取り込んでそんな見た目になった、そんな状態で真っ当に過ごせると思うか?」

「……….思えないな」

ライミは少し考えた後、そう答える。
霊音はそんなライミを見て、ため息をつく。
霊音自身も自分の体に違和感を覚え始めていた。
最初はこの世界に来て、自分は死んだと思った。
しかし、目が覚めた時には体が変わっていて、それもピカチュウになっていた。

脱出のことを考えていると、ギンが口を開く。

「そういえばライミは現実世界では…」

「フランス料理店ル・モンドの所の娘だろ、雑誌ではそこそこ有名な店だしな」

「最初から知ってたのか……」


「………そうだ、確かにそうだ」

「ここに来て最初に感じたのは飢餓感の感覚……どうして私は帰りたいと思ったのだろうか……」

ライミは自分の記憶を辿るように考える。
元々、ライミは裕福な家庭で育ったわけでは無い。
父親も母親も働いて稼いでくれたお金だけで生活をしていた。
その生活に不満は無かったし、むしろ両親には感謝していた。
だが、ふとした瞬間に思うのだ。

そんな生活が、些細なことで壊れる事もあるのだと。


「飢餓感って言えば、あれから腹は減ってないのか?」

「ああ、基本的に気分でしか食べないくらいだ、元々食べない方ではあったしな」

「フランス料理店の子っていいもの食べてるだろ、よく肉を生で食えるな」


「そんなものだろうか」


「味なんてどうでもいい、食事とは結局生きるための手段でしかないだろう」




「………ああ、分かった、どうして脱出したいのか」


「私は生きるために食事をして、命を繋ぐためにコウビの末に転生して、生きるんだ」

「生きるために、帰りたいのか」
ライミの言葉に霊音とギンはどこか納得したような顔を浮かべる。
ライミはギンの方を見ると、ギンも覚悟を決めた表情を見せる。
そして、霊音は改めて2人に言う。
脱出しようと……。
―――――

~移住区~
ライミとギンは霊音と一緒に行動することにした。
そして、新しい移住区を探索していると、そこには見覚えのある姿があった。

「ん?おや、ギンさん……これは奇遇ですね」

「お前……確か、レイナとか言ったな」

「ギン、知っているのか?」

「ええ、今は『マスターアマゾネス』の新たなリーダーをしています」

「そうか、なんというかサッパリしてんな……仲間の殆どが捕まって、チームの仕切り直しか」

「イツメンみたいなものをリーダーにしたからあんな悲劇が起きた、かわりになるならなんていい」

「そりゃ、確かにそうかもしれないが………」

「何しに来た?」

「それはもちろん、私達を捕まえにきたんですよね?」

「まぁ、そういうことになるかな……」

「でも、もう遅いですよ、だって……あなた達のチームは今、私が支配しましたから」

「だから……」

レイナが手を伸ばそうとした瞬間「ばんっ」という声が空を切ったかと思えば、壁に風穴が空いて、レイナが倒れる。

声がした方へ振り返ると………


「……範囲、広げてきやがったか」

「城之内?」


「………おう、ギンとは再会出来たようだな。」

城之内だった、右手にはブラスターを持って構えていた。
霊音が城之内に声をかけようとしたその時、ライミが先に口を開いた。
そして、そのままライミは城之内に聞く。

「どうしてここに?」

「移住区が火の海と聞いてあちこちを回って見ればこの通りだ、ポケモンの任天堂戦士にやられたら一生奴隷だからな……こいつもそうなってる」


「……おい、こいつは」

「ギンは見つけてきた、脱出の方法もある程度特定した……デスギアという異星の生物が関係しているそうだ、私を『灯火』に……」


「そうか……本当にギンは脱出の方法を探ってここまで来たのか」



「そいつをここに渡せ」
ギンとライミはお互いの顔を見合わせる。
ライミが何か言おうとした時、城之内が銃を構えて発砲する。
しかし、その弾丸はライミに当たる前に止まり、霊音の電撃で打ち消される。

「お前……」

「喋るピカチュウ……ああ、前にライミが言っていた霊音はこいつの事か」

「何のつもりだ…城之内、私は」

「ライミ、近づくな……コイツは『城之内七夜』なんて名前じゃない」

「こいつは桜井七夜……本当の組織名も『F.D.X』……この任天堂世界で1番関わってはならない人物だ」

赤虎ライミ……」

「ありがとな、脱出の手がかりを用意して……俺はそれを潰しに来た」

七夜はそう言って、手を前に突き出すとそこに炎が集まり形を作っていく。

「私の名は赤虎ライミ、私の能力の名は動物番長。」

「……そうか、それがお前の答えか」


「霊音、ギンを連れて離れろ」

「逃がす訳にはいかない、俺は最初から脱出の手がかりを消すためにギンを追ってたんだからな」

七夜とライミの拳はぶつかり合う。
衝撃が周りに伝わり、建物が揺れる。
ライミと七夜の殴り合いは続く。
霊音はギンとライミを庇うように前に出る。
そして、ライミはギンに言う。
ここから逃げろと……。
――
「……何故だ、城之内」

「悪いがな……こっちも真剣だ、まさか惑星デスギアを特定されるとは、あんな形で……」

「そこまで調べたらギンは間違いなくそれに近しい情報を調べ始める、そうなったら終わりだ」

「終わり?この任天堂世界がか?」

「ギンその物がだ、跡形もなく木っ端微塵になって、血の一滴も残らない」

「小さい草食動物が獰猛な獣に絶対に近付かないように、決して触れてはならない領域がある……人間では到底相手できないような、そんな領域」


「それを知った人間は俺達F.D.Xだけでいい」

~移住区・建物内~
七夜が放った一撃は建物を貫通して破壊した。
霊音とギン、ライミはその攻撃を避けることに成功したが……
建物は崩れ落ちる。
その中で霊音は瓦礫の中から這い上がると目の前には……


「振り向くな」

七夜のパンチが、霊音を掠める

「あっぶね……」

「やっぱピカチュウは小柄だから当てにくいな……ま、後ろのやつに当たったから良しとするか」


「後ろ……?」

霊音達の後ろで、男が倒れていた。

「裏の人間が堂々とここに潜伏か、あのイツメンって奴もそうだがこういうのは内部に潜んでるもんだな」

「ま、俺もアイツの調べでここに来てるから最初から分かってたんだがな」


「………おいおいしつこいね」

「当たり前だ、死なすわけじゃないが記憶を消すために頭を強くぶん殴らないといかん、メトロイドの世界も大体破壊して二度とデスギアまで辿らせないようにしないとな……」

「……お前は脱出したくないのか?」

「………脱出、出来るわけないと知ったんだ、どんな能力を持ってたからって、それを凌駕する存在が、俺達の上にいる」

「……何となくわかってきた」


「霊音が言っていた脱出方法を探していたが消えた組織というのは、お前とその関係者か」

「……………」
ライミが質問をしても七夜は答えることは無い。
そして、再び殴りかかってくる。
七夜の攻撃は当たることは無かった。
しかし、ギンは吹き飛ばされて壁に激突する。
霊音はギンの心配をしている余裕はなかった。
霊音は七夜に向かって蹴りを放つが、流石にリーチが違いすぎる。

そうしてる間にも建物内に居た裏の人間達が次々と集まっていく。

「おい?こんな化け物相手にするよりここの裏モノのヤツら倒した方がいいんじゃないか?マスターアマゾネスの奴ら解放出来るかもしれないぜ?」

「残念だが……こういう能力は例外無く永続、ポケモンの能力者によって支配されたヤツはそいつが死ぬまで支配される、お前だって死ぬまでピカチュウのままだ」

「………ま」


「コイツらぶっ飛ばすのも俺の仕事だけどな」

七夜はライミの相手をしながら、能力者達をぶっ倒していく。

「俺が来たばかりの頃ですら殺人上等、いつ発狂してもおかしくない地獄みたいな所だったが……悪党なんざ多くても得な事は無い」


任天堂世界で『悪』と呼ばれるものはF.D.Xで充分だ」
七夜は能力者の攻撃を軽々と避けながら、能力者を殴り飛ばしていく。
その様子に霊音は少しだけ驚く。
霊音自身もそれなりに強い方だと自覚していたが、それでも七夜の強さは異常だった。
七夜は拳を振り下ろす。
その拳は地面を砕き、その衝撃は周りの能力者も巻き込む。
そして、周囲の人間は震えながら口にする。

「まさか…任天堂世界をたむろする裏の人間の所に現れては、その全てを破壊するF.D.Xの……『ラスボス狩り』の七夜」

「変なあだ名付けんな!おい、さっさとボスを出せ、あいつだよあいつ」

戸北ユカだよ!!」


「…………え?」
最終更新:2023年05月20日 14:48