そして訪れる試合開始の時、ミリィと
たくっちスノーはメイドウィン達が集まるバトルコロシアムへと歩き出す。
「お前メイドウィン見るのは初めてか?混乱されたりしないだろうけど」
「殆どはそうだね、顔は君にもある能力で変えてたから怪しまれることもないよ、それよりも舞台となった世界って?」
たくっちスノーが黒影に呼び出された世界は一度も行ったことがない辺境の地、ペンペン草も生えてなさそうな場所に不似合いなローマ風のコロシアムが見事になっていた、これは間違いなく黒影の手を加えたものだと分かった。
「黒影のやつまたこんな手を使ったな」
「局長って普段からこんなんなの?」
「仕事の時はちゃんとやるんだけどそれ以外だと適当なの、こうやって適当に世界作って適当なもの生やしたりとかね、あの人には創作意欲ってもんが……」
「ティー、メイがもう目の前まで居るぞ」
「シェーーッ!!」
気が付けば黒影が眼前で笑顔で立っていた、それに気づかず愚痴ってたことに大昔のギャグでリアクションする姿……ミリィにとってはどれも新鮮な体験であった、どれもこれもが予想外すぎる。
「あ……貴方が局長の黒影さんですか?俺はミリィ、ここにいるたくっちスノーの身代わりとして作られました」
「へーなるほど、たくっちスノー自身をもう一人増やすとは考えたね君も……けどね本物!偽物を増やしても君の三連戦は変わらないからそのつもりで」
「あ……当たり前よ!自分だってそんなこっすいことはしないもんね!あーびっくりした!水!」
「ほらよ!」
野獣先輩は遠慮なくホースをぶっかけて動じずたくっちスノーはそれで顔を洗う、揃いも揃って変な奴らだ、どんな教育を受けていたのだろう……ミリィはそう思った。
EXEはあんな奴ら気にするなとばかりに無視して黒影に話を詰める。
「そんなことよりメイ、そっちこそメイドウィン達は集めてきたんだろうな?」
「ああもちろんだとも、よりどりみどりで最強クラスのメイドウィン10人!結果は見えてるかもしれないけどわぶぶぶ」
ムッとした顔しながらホースの水を動かして黒影に放つ、たくっちスノーはコロシアムの中に入りカプセルから
マガイモノ4体を出しボディーガードを座らせて自分はカッコいい玉座を作る、ミリィは普通にパイプ椅子を用意した。
観客側にいるメイドウィン達はミリィの姿を見てざわついていた、
ゼロ・ラグナロク開始前の時点ではまだ研究所から出たばかりなので時空でもミリィの存在自体を知る者はまだまれだったのである。
「それで俺たちは誰からいく?三連戦のティー以外で……といっても、どういうのが来るのか分からないがな」
「それだったら最初はメイドウィンがどれだけやれるか分からないし戦闘技術が豊富で応用力が高いやつがいいんじゃない?技が多めとか」
「となるとまずはボルコンWからだな、そのボタン押してくれ」
ミリィがたくっちスノーに頼まれてボタンを押すとボルコンが入っているカプセルが動いてカタパルトに運ばれ、いつでも発射して闘技場まで送り込まれるようになる。
これはジルトーが開発した遊び心である、というよりはあの後は調整がついでで二人ともいかにかっこよく呼び出すかを模索していた毛もある。
その後は時間まで各対戦相手について考察していた、自作のマガイモノが喋れないからつまらないと感じているたくっちスノーはこういう時におしゃべりになる。
「俺もこういうの好きだけどさ……ったく、俺の相手はどんな奴になるのか」
「それで言ったら俺楽な相手とやりたいッスよ」
「EXEの場合なら基本は出し得だ、問題は他の3体……特定の要素特化にしたから相性次第ではまだヤバいぞ」
「じゃあたくっちスノーの三連戦は?」
「そこは最後絶対にあるしその時考えるよ、お前も自分なら何でも出来すぎて考えようがないのは分かるだろ?」
「それもそうか」
「ギャバギャバ!!我こそはおしゃべり大国のメイドウィンギャーバ!!!」
たくっちスノー達が作戦会議中にも関わらずとてつもない大声で叫ぶ声が、すぐ遠くにいるのにまるで耳元でメガホン越しに怒鳴られているような感覚であり近付くだけで音波で人を殺しそうだ。
いくらなんでも司会者に使うような存在ではない。
「な、なんだよあのバカうるさいメイドウィンは……」
「自分も初めて見た……あんな声でかい奴いるんだな……」
「ギャーバ・メイドウィン・コエデケーナ、担当してる世界は『beatmania』で
メイドウィンランキング6407位で戦いたくないから実況役やってるみたいっす」
「何?メイドウィンランキングって」
「文字通りのランキングだよ、その世界がどれだけ環境がいいか人が住みやすいか面白いか……そういう世界を作るメイドウィンをランキング分けしてるのさ、1位は黒影。」
「なるほど……高ランクだといいことあるの?」
「オレは確か高ランクだと管理している世界の生き物の人生まで好きに決められるとか聞いたことあるな、それでもやっちゃいけないこともあるとか」
今回のゼロ・ラグナロクの結果ではランキングに変動があるのかもしれない、あくまで世界ではなくそれを作るメイドウィンが凄いという威厳のランキングなのだ、まあ黒影が作るものなんてそういうものだろう。
「……じゃあアイツめちゃくちゃ低くない?」
「これでもびみょ〜に上ではあるんだぞ」
「マジかよ……じゃあ出場するやつのランキングも高いのかな?」
「それは多分そう、しかし大会始まんね〜なメイドウィン共何してんだ?」
ここまでたくっちスノー達が雑談をしているというのに全くメイドウィン側で動きがないどころか黒影を見ていない、誘ってきたのはそちらだというのに一体何をしているのかと愚痴ろうとすると、ようやく一番目立つ舞台の床が開き特大のスポットライトや紙吹雪と共にゆっくりと黒影が座って現れる。
「あいつ結構ド派手な登場するんだね……」
「メイはあれで目立ちたがりやだからな」
「コラ黒影おせーぞ!!また予算かかるやり方で登場しやがって!!」
「さあさあ遂にメイドウィンランキング第1位がご登場でござ」
「あっこいつうるさいからナシで」
「アーッ!!」
黒影から見てもギャーバは異様にうるさかったのか持っているボタンで床が開いてギャーバはボッシュートになってしまった。
そして完全にいなかったものとして黒影は元の顔に戻る。
「あいつ黒影も無理なんですね……」
「台本2行分しか喋ってないのに消えたぞあのメイドウィン……で!そっちの方は誰が来るんだ、自分達の方はいつでも出せるぞ!」
「ああたくっちスノー待ってたのごめーん、じゃあこっちから行かせてもらうよ、いけー!!ゼオノイド!」
黒影が呼びかけると空から流星のようなものが、あれは鳥か、飛行機か、スーパーマンか、いや違う戦闘機でありメイドウィンだ!かっこいい戦闘機が変形して人になりメイドウィンになったのだ。
その姿に思わずミリィは感激してしまう。
「か……かっこいい!」
「何感激してんだ頭小学生か!くそっこっちもあんなマクロスに負けてられん!いけっボルコンW!!」
「ティー!マクロスは戦艦で出てくる戦闘機はバルキリーだぞ!」
「おだまり!」
ツッコミも気にせずもう1回ボタンを押すと、カタパルトが起動してカプセルがコロシアムまで投下、煙とともにゆっくり開きボルコンWが起動してゆっくりと降りていく。
「プログラム起動」
「おおー!あれもかっこいいぞ!!」
「博士が言った通りロボットはカプセルからゆっくり降りてくるような無機質な奴がかっこいいんだ戦闘マシンみたいで!」
「とか言ってアンタ勇者ロボみたいにしたいって子供みたいな喧嘩あのジジイとしたじゃないすか」
「おだまり、これでも自分が作ったときよりだいぶ賢くなってんだよ、秘密兵器も付けてもらったしな」
スーパーロボットのマガイモノに戦闘機のメイドウィン、初戦から同じ事を考えてなかなか面白い面子となった。
ただし敵のことは何一つ推測していないどころか黒影黒影が漏らすはずもないのでゼオノイドの情報を今からインプットしなくてはならない。
「ゼオノイドはどんなメイドウィンなんですか?」
「たしかアイツはスターノイドってシューティングゲームだな、聞いたこと無いけど……ところで黒影!」
「ん?」
「司会者消えたから試合開始の合図が来ないんだけど」
「あっごめん、今始めるね!」
黒影は近くに置いていたゴングを蹴り飛ばして試合開始の合図と共にボルコンWが膝蹴りを浴びせて先制攻撃、更にエルボードロップの追撃をお見舞い、ゼオノイド何も出来ず持ち込まれる。
「どうだ!自分のマガイモノは強いだろ!」
「凄い!あんなロボットが高度なプロレス技を使えるなんて!」
「マガイモノ様々だな」
ボルコンWの多彩な格闘攻撃にゼオノイドは手も足も出ない、力強く掴まれて放り投げられては壁に叩きつけられてパンチの連続。
「でもたくっちスノー、武装を自慢してたわりにはさっきからパワー系で攻めてないか?」
「あいつは今ボルトモードだからな」
ボルコンWにはジルトーが考案した2種類のモードがあり、たくっちスノーの気分次第で2つのロボットに変身できる、1つは電撃やパワーを重視して戦うボルテスV寄りのボルトモード、そしてもう一つは数々の武装を展開して技術力で迫るコン・バトラーV寄りのバトルモード!
ボルコンが攻める中遂にゼオノイドも動き、空に飛び上がって何百発もののミサイルを放つ。
「いけいけー!」
「あの野郎ミサイルまでマクロスみたいにしやがって!」
「おい、あんなの避けられるのか!?」
「自分とあの爺さんのマガイモノだ、舐めるなよ!チェンジバトルモード!」
「コンバトラーV」
たくっちスノーが掛け声1つ出すだけでひっくり返るように手が足になり足が腕になる、そして新しい顔が現れて変形完了、昭和ではお馴染みのひっくり返って形が変わる例のやつである。
「超電磁スーパーボールだボルコン!!」
たくっちスノーが指示を入れるだけでボルコンは腕に小粒のスーパーボールのような電磁の球を何個も作り出し空に向かって投げ飛ばす、ボール同士や壁で何回も弾んではミサイルを貫きマシンガンのようにゼオノイドの身体に叩き込まれていく、そこから腹から取り出した自身のミサイルで連鎖爆発、科学力も中々の物である。
「よっしゃあ!めちゃくちゃ圧倒してるじゃないスかたくっちスノーのメカにしては」
「自分にしては余計だ!!」
「……まさか本当に圧倒していると思っているのか?」
「あ、EXEさんはきづいてました?」
ミリィとEXEは戦ってからずっとゼオノイドを観察していた、メイドウィンとマガイモノの戦いなので本気を出すまでもない……と考えてもいたが何か違う、何か様子がおかしい……ゼオノイドの動きが全く読めない。
「ティー、あの男に警戒しろ……何か怖いことをしてくるぞ」
「だろうな……メイドウィン相手だし一気に終わらせないとまずい、ジャグリングランサー!」
メイドウィンとマガイモノの戦いは欠損や死亡では終わらない、どちらも再生するからこそ無理にでも長期戦をしてしまう……それを込みの戦略も考えついてはいたが今からそれを無視して三本の武器で速攻にかかる。
ボルコンはツインランサーより一本多いランサーをジャグリングのように振り回し一気に斬りかかるが……
突如としてゼオノイドの動きが軽快になり全て避けられる。
「かわした!?サーカス仕上げの剣技だぞ!」
「次の武装使うんだよあくしろよ!」
「分かってるよ!こうなったら超電磁スパイダーヨーヨーだ!!」
「了解」
ボルコンはジャグリングランサーを全て捨てて電磁の糸で引っ張る大きなヨーヨーで拘束しようとするが、ヨーヨーをそのまま受け止められて引っ張り返される。
「パワーもさっきより全然違う!」
「やはりそうか」
「何か知ってるのか雷電」
「誰が雷電だ!簡単なことだ……奴はボルコンの戦闘力データを測っていたんだ、それが終わって奴を倒せるまでのスペックに立て直したんだ」
「データを取られていたってことか……」
やはりマガイモノではメイドウィンに敵わないのか……誰がそんなことを決めた、このまま無様を晒して黒影にいい格好をしてたまるか、こんな結果など認めない……普段のたくっちスノーならそう言うだろう、だが今日の彼は特段大人しい、野獣先輩が頭でもイカれたのかと泣き所に小足を叩き込むとハリセンで返してきたので正常らしい。
「バカめ、自分は時空のことちゃーんとわかってるんだぞ?これくらい想定内だ、こっちだって出力を80%まで抑えていたんだ」
「でもそれじゃあ元に戻したらそれもすぐ対応されるんじゃないの?」
「う……その間に倒しちまえばいいだろ!お前細かいんだよ!」
「そっちのたくっちスノーはガサツなだけじゃないのか……?」
本当に同じたくっちスノーとは思えないくらい中身に違いがある、見た目は似ていても全く別の生き物なのだろう、一応たくっちスノーが作った身代わりという設定で黒影に出しているのに真似をする気はあるのかというところはお互い様…。
黒影はゼオノイドとボルコンの試合をダラダラと眺める。
「なるほど……たくっちスノーの奴あれだけの短い期間であのクオリティのマガイモノ作れたのか、いや……誰かに手伝ってもらったとしてもあれなら時空で味方や敵としても運用出来るな」
マガイモノを呼び出したのは単に物語に使えそうだったから、急かしたのは特に何も考えてない、黒影がたくっちスノーにやったから大目に見て貰えるがパワハラ紛いのことは珍しくない。
まあゼオノイドもゼオノイドで優れているのですぐに終わるだろう……とそんな時、ゼオノイドが急に巨大な戦闘機に変形しボルコンに特攻する。
……そして黒影の声をこっそり盗聴していた野獣先輩は焦る。
「おい待てぃ早くない?」
「メイドウィンブラストって確か必殺技!」
「しかもセカンドだ……単にメイドウィンブラストといっても誰でも使える肉体強化のファーストに限られた奴しか使えない独自能力のセカンド……この差はだいぶ違う!」
メイドウィンブラストセカンドに到達した者は現時点ではまだまだ稀、ランキングの高さや本人の強さは関係なくここまで覚醒できるかどうかには運と閃きにかかっている。
「で、そんなのどうするんだたくっちスノー!」
「一旦ボルトモードにチェンジだ!アレならまだデータもそんなに取られてない!!」
「了解」
ボルコンも再びボルトモードになり戦闘機に突っ込まれていた所からなんとか脱出するが戦闘機は旋回、錐揉み回転しながら再度狙ってくる!
「また来た!なんて旋回力だ……あれがメイドウィン!」
「あれメイドウィン関係あるの?」
「こうなったら必殺技だ!超電磁!!二・重・タ・ツ・マ・キーーーー!!!!」
「了解」
たくっちスノーのノリに反して無機質に応えるボルコン、コンバトラーVの2倍の出力がある超電磁タツマキを放ち戦闘機の動きを逸らすことに成功する。
「よし!そのまま超電磁特大スピンだ!」
「さっきから武装のセンスなんとかならないんすか」
「おだまり、昭和メカなんてこんなもんでいいんだよ!」
今度はボルコンが突っ込み、両腕から刃を出して戦闘機状態のゼオノイドを弾き飛ばす!
メイドウィン達もこれはざわめき出す、メイドウィンブラストセカンドが初めてメイドウィン以外に突破されてしまった……当然である、ジルトーは元々黒影を相手取って研究していた存在、ライバル視しているたくっちスノーと合わさって作ったものは黒影を倒すことを想定するとなればそれ以外のメイドウィンも倒せなくては話にならないのだから。
「博士……たくっちスノーってこんなすごい人だったんてますね」
「おいミリィ、何言ってんだ……自分と同じくらい爺さんが凄いんだよ」
「えっ、たくっちスノーそんなこと言うんスか?」
「バカ!いつまでも
時空犯罪者の頃のしょっぱいプライド背負うわけにもいかないだろうが!」
まるでガキみたいに騒ぎながらも時に冷静に
かつて時空を壊しそうになったからこそ直し方を見極めて……そして最高完璧だが抜けている所もあるという矛盾の黒影を支える負けまくる最強無敵という矛盾。
それが、
時空監理局副局長たくっちスノーなのだ。
「……思ったより善戦するつもりなんだねたくっちスノー、でもそうはいかないよ、ここからがメイドウィンとの戦いの面白いところなんだから……」
黒影が寄せ集めた残り8人のメイドウィン、たくっちスノーやそのマガイモノと戦うために集めてきた自慢の精鋭、こいつらと戦い……たくっちスノーに見極めさせるのだ。
善人になるという道が到底甘くないということを、たくっちスノーが通っている道は蝋燭の如く簡単に付きてしまうほど繊細で儚い。
(たくっちスノー……今のままで居てくれよ、そのまま調子乗ってくれれば、間違いなく善人にはなれないのだから。)
黒影はたくっちスノーをメイドウィンにさせる気自体はある、だがその真意は絶対に逃さないため……クモの巣にかけるのと同じ、頑張らなくても頑張っても同じ、どうせメイドウィンランキングのワーストから始まり、どうしようもないダメ世界でメイドウィン達にこき使われるのは確定しているのだから。
「……ま、今はこの祭りを楽しもうか、この時空の主人公は俺なんだ、味方キャラの活躍を頼しむのも主人公の仕事らしいからね」
黒影は初戦から盛り上がってきた。
最終更新:2025年01月18日 14:42