プロローグ(ネオジャンプ)

 シュバルツ・バルドが巻き起こした事件により時空新時代到来から少し経った、それに伴い各世界の大企業はさらなる飛躍を求めて各地に手を伸ばしつつある。
 だがそれらを繋げる時空監理局並びに黒影からすればその世界の企業などまるで産毛のようなもの……時空の知識では素人同然で実現することもない。
 だからこそ監理局が時空規模のビジネスをしていかなくてはならない、この時空の中心は自分達でありそれは一生揺らぐこともない。

 そしてここは時空監理局副局長の部屋。
 副局長たくっちスノーとその補佐官EXEと野獣先輩、そして局長臨時アシスタントのミリィとポチ。
 キャリアは上にも関わらず行っている仕事は部下たちがやりたがらない事務や書類仕事であり更に時空新時代になってからは黒影が一気に展開した新事業の確認や実行に追われ24時間働かされている社畜、部下からもエリートバカ五人衆などと舐め腐った事を言われている始末である。

 しかしいずれ誰かがやらなくてはならない仕事の為、たくっちスノー達も受け入れてバリバリと働いていた。


「もうやだあいつら!一体どれだけの始末書書けばいいんだよ好き勝手しやがって!」

「時空新時代によって奴らの趣味同然の部署に需要が出来て日の目を浴びたからな……仕方あるまい」

「だからって仕事多スギィ!やめたくなりますよ〜監理局〜」

「どうすっかなあ俺もな〜というか、なんで黒影はやらないんだろ」

「黒影だったら新事業やりたいとか監理局の資金面がどうとか色々考えてたよ」

「あいつが〜?話半分に聞いとけよそんなの」

 確かに局長である黒影も時空監理局の発展や維持のために様々な時空規模のプロジェクトや新事業を考えたりしていたことは前からあったがたくっちスノーには分かる、そんなの本音としては自分の気まぐれ、暇潰し……その為に自分達が無茶振りさせられるのだ。
 陰口を脳内で叩いているとたくっちスノー達とは対象的に元気いっぱいな黒影が扉を開けて様子を見に来る。

「お疲れ〜みんな!調子はどう?」

「見りゃ分かるだろバカタレ!元気なら少しは自分達を手伝え黒影!」

「まあまあ落ち着いてよ、お前らどうせマガイモノなんだから過労死どころか疲れもしないんだし、だから皆も有難ってるよ?」

「都合良く扱われてるだけだろうが!」

 監理局に入って新時代が始まってからは余裕もなくなってきた、確かに疲れないが精神的にくるものはあるのだ、そんな事は気に留めず黒影はまだま山積みの所に新しい資料を置いた。

「もう今日は勘弁してくれ……オレ達だって弱音は吐く」

「ああ違う!これ部下からじゃなくて俺が思いついた新事業!」

「え?」

「この時空新時代に向けて監理局の資金面を増やすため、監理局のブランドで新しい事業を始めようと思う!」


 たくっちスノー達は黒影と共に急遽会議室に向かわされる、会議室といっても幹部達で話し合いとかするようなところではないので基本的に使っているのはたくっちスノーとその関係者だけだ。
 しかしそんなことはどうでもいい、本気で時空監理局のお金稼ぎを考えて実行に移したことにびっくりしている、まさか部下の為になるようなことを……。
 たくっちスノーに至ってはいつになくワクワクしていたが、野獣先輩とEXEは疑問の目。

「で、今度はどんなめちゃくちゃ考えたんスか」

「どんなめちゃくちゃでもいいよ!この資料の山から抜け出せて暇つぶしになるなら!」

「素直だね君!時空飛び回ることになるからちょうどよかったかもね!」

 黒影はホワイトボードを外から引っ張り出して話をまとめようとする、なんだかんだ本格的にやろうとするのはたくっちスノーと黒影も大好きなので気分全開。

「俺達の利点といったら時空を自在に飛び越えられること、まるでカーナビがついてるかのようにどんな世界もひとっ飛びだ!ということは時空のどこにでも物を販売出来る!」

「……時空全世界共通商品の開発か」

「御名答!どの世界にも売っている大ヒット製品、どんな生物どんな世界観でも喜ばれる夢のアイテムこそ時空監理局ってもんでしょ!」

 口で言うのは簡単だが実現するようには思えない、単に世界といってもSF、ファンタジー、現代系、怪奇など数万、いや下手すれば億を超える独自の世界観を持っており細かく分類しても種族など変化が大きい、誰でも時空を超えられるからといって迂闊に未知の場所へ足を運ぼうという感じにもなれない。
 企業が上手く乗り出せないのもこれが起因しているが時空監理局からすれば知ったことではない、というかやる前から無理とか言ってたらまたあの資料地獄に戻るのでやるだけやってみたかった。

「それで黒影、一体何を売るつもりなんだ?」

「漫画雑誌だよ!どんな世界にも売っているジャンプやサンデーみたいなやつ!」

 黒影が一気にホワイトボードに絵を描く、つまりは至る世界から漫画のネタを結集させてどの世界でも需要のあるマンガ雑誌を売って大儲けしてみたいなんて子供みたいな発想である、しかしたくっちスノーとミリィは超絶乗り気で話を進める。

 「すげえいいじゃん時空初の全世界展開の漫画!すげぇワクワクする!!」

 「分かるかミリィ!自分もこういうモノ作り大好きなんだ!」

 まだ始まっても無いのに構成を広げまくるキツネ二人、しかし意外なことにポチはEXEと共に冷静な観点で話をしていた。

 「大それたプロジェクトみたいに言うけど、要は他が動けない間にコンテンツや市場を独占して他が台頭しないようにすることが本筋だよねコレ」

 「メイはそういうセコい所あるからな……」

 「ホント!時空の殆どの設備がアイツの魔導界に特許取られて頭に来ますよ!」

 「はいそこ聞こえてるよ」

 余計な発言をするなとばかりにチョークの嵐、ミリィはそんなバカ三人も目に入らずどんどん企画を進めていく。

 「やっぱり漫画と言ったら少年誌だよな!?バトルがあって冒険があって……あと白熱するスポーツも欲しいな!」

 「ミステリーやSFも捨て難いな、それにバトルといっても舞台や設定は山ほどあるぞ?怪奇だろ?ファンタジーに和風……今ならギャングモノもウケそうだな」

 「でも時空全土で売るならジャンルは確立させておきたいよな、下手に地雷に引っかかったら……」

 たくっちスノーとミリィの漫画議論がどんどんヒートアップしていくなか、ついに野獣先輩が口からハリセンを出して二人の首を吹っ飛ばしてスーパーボールのように壁を弾ませる、1回自分の首を間違えたが何とか直して抗議する。

 「なにすんだステハゲ!つーかなんだよその隠し芸自分にも教えろ!!」

 「おいアンタさぁ、何二人で勝手に話進めてんだっていいたいんスわ」

 「冷静になれティー、お前達が見たい作品を語り合うのは勝手だ……だがどこから漫画を持ってくる?どこに監理局に載せる漫画はあるんだ、なあメイ?」

 時空監理局は特にそれ以外の会社とコネがあるわけでもない、時空に出版した会社もあるにはあるが黒影は首を振る、何から何まで監理局のブランドじゃないと意味が無いらしい。
 どこまでも目立ちたがり屋だがたくっちスノーたちにとっては抜かりが無い。

 「掲載する漫画の心配なんてなんでする必要があるんだ?ここにはマンガ描ける奴がいるじゃん」

 「何?オレたちの中でマンガを描ける奴といえば……」

 「……もしかして俺のこと言ってる?」

 黒影とエリートバカ達は一斉にポチの方を見る、確かに造っているものの全てがアダルトではあるしコミケの販売実績もある。
 こういった創作面の分野ではトップクラスの実績を持っており後は無いように気を配れば金になるものを載せられるだろう。

 「まあ俺は別にいいけどさ、ネタはいくらでもあるし……でも俺以外は?」

 「おいおい君ぃ、回収したデータの中にサークル400種類分の同人誌を全部一人で立てて絵柄使い分けてたの知ってるんだからね俺?」

 「あのねぇ!それは時間に余裕があったんだし書き分けも魔法とかAIとか使えるものを存分に頼って成立してたの!」

 「なんてことに異能力をフル活用してるんだこいつ……エロくなければ……」

 自然な流れでポチがマンガ一本描くことになったが全然足りない、雑誌にするなら多くて10本以上の作品が必要になってくるが目処が見えてこない……副局長ともあろうものがなんてことがあると思っているのか?

「監理局の広さならマンガを描いてる部署くらいあるだろ?監理局のブランドを使うんだから監理局の奴らが描くべきだ」

「それは俺も同感だね!せっかく部署たくさん作ったんだ、マンガ描いてるならぜひとも有効活用してもらわないと、最悪パクればいいし」

「無駄だ、いくら局長と副局長が言おうとやつらはオレ達の為に手を貸そうとしない……オレ達なんて呼ばれてるか知ってるか?給料渡し係、仕事の手を止めてくる邪魔者、小言言ってるだけで金になる特権階級!」

 時空監理局のこの5人と部下達にも大きな壁がある、そりゃそうである……何せ監理局は時空に貢献してはいるがほぼ自己本位な集団だ、勝手に始めた企画で金にしたいから参加しろと言われても自分達には関係ない趣味の範疇でやりたい上の存在に指図されたくないで終わるのは目に見えていた。
 ここに来てようやくたくっちスノーも事の重大さに気付いてきた。

「……え?マジでなんもないの?こういう時こそ助け合いとかじゃなくて?」

「助け合いも何も一方的に利用されてるだけなんだがな」

 せっかく盛り上がっていたのに行き詰まってしまった、雑誌を作るどころかアンソロジーコミック並のものすら怪しくなってくる。

「でもまあないものはないで新しく俺達にマンガ提供してくれる奴探すしかなくない?」

「あきらめるって選択肢は黒影にないです(絶望)」

「あっない……いやそれってまさか……新人漫画家捕まえてこいと!?自分らが!?」

 たくっちスノーがまだ聞いている段階にも関わらず、黒影はもうそういうこととしてあっさり話を進めて計画を広げ始めた。
 黒影が編集長でバカ五人が編集者ということになっている。
 いくらなんでも1から売る為の物を選別するとなると話が変わってくる。

「黒影!!自分はマンガ色々見てるしちょっとオタクっぽい所はあるが編集者なんてやったこともないしどんな事やればいいかもスキルが求められるかすらわからないんだぞ!」

「それで言ったらオレは素人だメイ!オレはマンガをろくに読んでないのに何を伝えればいい!」

「大丈夫!編集者って送られてくる漫画にずっと偉そうなこと言ってダメだしすればいいんでしょ?」

「編集者に対する偏見凄いなお前!創作舐めんな!」

「確かこち亀で似たようなの見たな……失敗してたけど」

 素人5人で1から漫画雑誌作り、まるで夏休みの自由研究のようなレベルな雰囲気が途端に漂い始める……こんな流れだがポチは大事なことを思い出した。

 「あっ今更なんだけどさ……その雑誌の名前って考えてある?」

 「そうだ雑誌名も大事じゃん!これだけで方向性が決まるんだし手に取りやすくてなおかつ分かりやすい、それでいて面白いタイトルにしないと……」

「タイトルはもう決めてあるよ!題材は少年誌、それも週刊で誰もが手に取りたくなる作品!」

「おいおいハードル上げんな……てかいきなり週刊はきつくないか?お前やらないからってそれは……」

 話を遮るように黒影はその場でタイトルロゴを描いてホワイトボードの貼り付ける、黒影が決めた名前は……『週刊少年ネオジャンプ
 シールのようにホワイトボードに貼り付けられたそのデザインは異彩を放ちたくっちスノーは目が釘付けになる……というか、信じられないものを見るような目。

「おい黒影、お前これ……」

「いいだろ?これなら間違いなく売れる、いい神デザインだろ?」

「お前オリジナルなら手放しで賞賛してるわ!!でもこれまんまアレじゃん!少年ジャンプそのまんま!!」

 たくっちスノーは時空の渦を出して比較の為に今週号の少年ジャンプを持ってきた。
 見てみると見事に瓜二つ、それどころかネオジャンプの『ネオ』の所が強引にねじ込まれているように見えてしまう。
 少年ジャンプ……リアルワールドでも有名な集英社より発売されている友情・努力・勝利を信条とする大人気漫画雑誌、ジャンプが存在する世界は多く時空新時代でもトップシェアを維持するまさに漫画界の名門だ。
 黒影のことだから無許可だろう。

「おい!黒影ともあろう者がパクリはまずいだろ!それにそっくりすぎて間違えて買っちゃうことだって」

「平気だよ!ジャンプの似たような雑誌なんてリアルワールドにもいくらでもあるし」

「そういう問題じゃねえ!余計な問題が無関係なジャンプ編集部に降りかかるって言ってんの!」

 たくっちスノーとミリィがどう言っても黒影はこの名前にしたいと譲らない、彼は全時空を守る力こそあるものの自分の関心に無いものにはとてもドライだ。

 「俺達が時空を、つまりはジャンプが発売される世界を守ってるんだ……だからジャンプっぽい物を作った所で文句を言える立場じゃないさ」

 「だからって勝手に……」

 「ふむ、確かにそのジャンプとやらは他世界でも人気があるんだろう?時空のどこにでもあって誰でも手に取りやすいというのはアリじゃないか?」

 「それは俺も同感、だからジャンプ編集部に許可貰って正式に頼んでみるよ」

 「ええー?時空監理局だけでやるから唯一無二って感じがするのに」

 「ジャンプの名前勝手に借りといてそうは問屋が卸さないって奴だね、黒影さん?」

 普段扱いが酷いポチにまで言われてしまうと何も言えなくなる、とりあえずミリィにネオジャンプを通すための許可を頼み、残った面々はネオジャンプ作成の為に深堀を始める。

 「てかポチは大丈夫か?なんか流れで新連載一本描くことになっているが」

 「なーに暇潰しと思えば一本くらいは余裕だよ、ジャンプならやっぱり王道バトル、それでいてセクシーだね!ほら思いついた!!」

 ポチはあっという間に原稿を書き上げて20ページものの読み切りを作り出す、内容も読み応えがあり恐竜を題材にしたバトルモノで迫力がある。

「お前こんな絵描けたんだな……」

「少年ジャンプだってエロい作品を描く為の過程として連載を勝ち取った作者もいるって噂があるくらいだ、エロ漫画描けるやつは普通の作品も頑張れば描けるのよ」

たくっちスノーは初めて会った時以来にポチが頼もしく見えた、本当にエロさえ絡まなければ天才的才能を持つクリエイターなのだが……。
 だがポチに関心を向けていられない、編集者になる以上自分達で新人漫画家を見つけなくてはならない……。
 その一方、野獣先輩もまた珍しくキーボードを叩いて何かを作っていた。

「何してるんだ?」

「公式サイトを作ってんスよ……公式つってもミリィが許可取ってくるまでは非合法みたいなもんだけど、ここから連載するマンガの情報が知れたりとかする予定なんだよ、まっ多少はね?」

 野獣先輩すら真面目に働くこの忙しさ、ニュース情報や募集欄まで作成して本格的である、たくっちスノーはまさかこのステハゲにこんな技術があったとは思えず眺めてしまう、こいつ本当に何でも出来るな。
 EXEはというと今から色んな雑誌のマンガを読み漁ったりマンガの描き方を検索したりと勉強をしていた、努力の方向性がおかしいが微笑ましいので人気マンガのグッドポイントをまとめたプレゼン資料をそばに置いといた。

 黒影は……もう完全にネオジャンプを作る姿勢にある。
 たくっちスノーは自分ひとりだけ何もしていないことに気付き何か役に立つことはないかウロチョロしてしまうことに……キャッチコピーを考えたり求める漫画を絞ったり宣伝広告を作成したりして……ようやくミリィが帰ってくる。

「なんとか編集部の代表みたいなところと話をつけてきたよ、利益の何割かはあっち持ちだけど連載するモノはそっちに任せるって」

「……となると本当に慎重に漫画を選別して連載していかないとな、まあオレ達だけの責任にならないのだから当然だな」

 なんとかネオジャンプを作成する準備は整った、黒影はいい顔をしないだろうが自分がやりたいと言い出してたくっちスノー達どころかジャンプまで巻き込んだ、編集者となった以上文句は言わせるつもりはなかった。
 それに忙しいとはいえたくっちスノー達は始まってみると漫画雑誌作りに興味が湧いてひとまず1冊作るだけでもやりたいという気持ちが抑えきれなくなってきた。

「やるぞネオジャンプ!時空のどこにでもあって面白い漫画を作るんだ!」

「なんか一番たくっちスノーが乗り気だよね!」

「当たり前だろ自分だってクリエイターだ!……ってあれ、黒影のやつは?」

 気がついたら黒影の姿はない、こんな編集長で大丈夫なのだろうか?と思うかもしれないがわりといつも通りなのでたくっちスノーはすぐ忘れた、みんな編集長が何をするかよくわかってないので気にしてない……こうして週刊少年ネオジャンプを作るため右も左もわからないまま編集者になり雑誌を作ることにした。

「ところでジャンプって漫画どれくらい必要なの?」

「少年ジャンプと同じなら……20くらいじゃないかな?」

「結構多いな……に、20ておい、いけるかな?」

「なに!5人で4作品の計算だ……多分なんとかなる!」

 ◇

「時空にもジャンプ編集部ってあるんだ……アテが外れたな、まあいいか、物語作りをすれば想定外な暗い気持ちも忘れられるはずだ……」
最終更新:2025年02月25日 19:13