マンガ王に俺はなる!

 週刊少年ネオジャンプを作るべく連載する漫画を集めることになったエリートバカ5人。
 ひとまず1作品アテはあるが、ざっと20作品は欲しくなると言われたのでなんとかして1人5作のペースで確保しないとまずいことになる。
 だが1人で5人では間違いなくパンクするので対応するジャンルを決めるなどで負担を和らげるようにする……など、すでに試行錯誤を進めている。

「ていうかネオジャンプってマンガだけの雑誌じゃないだろ?広告とかもいる」

「広告は時空企業にスポンサーになってもらうからいいよ、ひとまず各自で1つでも良さそうなマンガを探すんだ、出来に四の五の言ってられない……問題は局長が気に入るかだ」

「あー……編集長だから一応アイツも見るんすね」

 黒影はもう既に編集長として乗り気であり1日100作品は読めると豪語して張り切っている、そこまで出来るならお前も探せと言いたくなるがもう言う暇もないのでとにかく各地を巡って連載作家を探すことになる。
 幸いにも時空のどこにでも販売するというキャッチコピーと少年ジャンプというブランドの力からどしどしと応募が寄せられている。
 スケジュールを細かく書き記して一人ずつ相手するしかなさそうだ。
「とりあえず良さそうな漫画来たら一旦持って帰れ、ハードルはゆるめろ……とりあえず数を用意して各自でネタを共有、いろんな意見を元に選別していくんだ」

 時間が来たので五人は退散、次に会う時は大量の次世代ヒット作品の卵を掴めることを信じて仕事に入った。


 「あのさ、確かに異世界転生とかそういうの流行ってるけどこの作品ちゃんと面白くなるの?」

 打ち合わせといえばファミレスである、たくっちスノーは早速応募してきた漫画を軽く読んでいた。
 しかしたくっちスノーは送られてきた近頃流行りの異世界モノに対して懐疑的であり、読むたびに疑問点が出てきた。

 「自分も色々読んでるけどさぁ、このパーティ追放とかいう系統って大体ツッコミどころ多くない?冒険者パーティの中に一人ろくでなしが居て追放されてから真価を見せるってやつ」

「ここから主人公が覚醒してパーティに報復するんですよ!これまで虐げられた分」

「報復してその後どうすんの?現代風……時空で言うところのジャパニーズって呼ばれる世界観だと虐め逆襲作品は沢山あるけど、あれってジャンルとしてはサスペンスとかホラーでしょ?でもコレは報復がメインじゃなくて冒険じゃん、狭すぎるよ物語……ってか状況わかってる?」

 どういう偶然かそれほど人気があるということなのか、たくっちスノーは異世界……時空で言えばドラゴンファンタジー題材でパーティ追放モノ題材の読み切りを相手にしている。

「スキルがしょぼくてお荷物って普通に考えればそもそもパーティに入れなくない?それで勇者の性格を悪くすればそれはそんな奴相手に人類の命運を託さないといけない世界そのものがバカみたいじゃない?」

「でも実際に時空にもありますよねそんな体験」

「あるよ?それやってるメイドウィン本気で世界救おうとしてないから、ギリッギリで上手くいくレベルのカス厳選して遊んでるから……いや別にこの際追放モノという
ネタに突っ込んでもキリがないからこの話題はもういいか」

 作家として大事なのは話を続けられるか、切られるか続くかもわからないのだから最低限話は広がりやすいものがいい。
 パーティ追放してやることが元いたパーティを見返すことでは話が全く進まないしやることがない。
 何本か追放の原稿は受け取っているが、それはその作家がある条件を満たしていると言ったからだ。

「君パーティ追放以外書ける?ネオジャンプ週刊でどんどんネタを消化する、打ち切り漫画でも18話くらいはやる……時間で言うと4ヶ月ちょいだ、そこまで話考えられる?」

「ヒロイン救ったりダンジョン行けばなんとかなりません?」

「出来るな、3話か4話は……でもそういう其の場凌ぎってすぐ飽きられるんじゃないか?それこそよくある展開で差別点として追放されてからが見たいわけだし、なんかよくあるよな個性が見たいとか」

 その作者の個性が見たい、漫画家を題材とした作品で度々編集者が口にしていたフレーズだがその意味が心で理解できた。
 その漫画だからこそ見れるものというのは大袈裟にしても書きたいものを……。

「追放もので書きたいものって報復でしょ?ならそこを盛り上げないといけないけどドラゴンファンタジー世界にありふれたスキル覚醒の自慢、ヒロインとの恋、ダンジョン探索に頭を引っ張られてる……やるならしっかりそこでやりきらないと!その上で追放系やるっていうのならこのまま通すし出来ないなら他の路線を勧めるよ、それが仕事だしね」


「ううん……難しいな、ああこちらの話だ、マンガで言う世界観を用語分けされて勉強中なんだ」

 一方EXEの方は辞書片手に不器用ながら二人三脚で新人漫画家と相手をしていた、その漫画家も時空の情報や用語に関心があったので一緒になって話を聞いていた。

「いわゆる勇者や魔王が出てくる王道異世界は『ドラゴンファンタジー』、オレの上司に馴染みのある日本という島の雰囲気を出しているのは『ジャパニーズ』、宇宙という未知だらけの空間なら『スペースオペラ』なと……いっぱいある」

「なら僕の漫画はヒーローが出てくる作品なんですが雰囲気はジャパニーズですかね?」

「ああ、これは……なるほど、ヒーローが出てくる異能力モノの世界は『マスクドヒーロー』と呼ばれるらしい、ジャパニーズは基本普通の人間しかいない作品を指すそうだ」

「へぇ……ためになるなぁ」

 ただ世界と言っても登場するキャラクターや設定、舞台となる要素によって分類は動物のように細かく変化する、まるでゲームの変な属性相性や種族を眺めているようだ。
 この定め方も全部黒影が気分で決めたものだ、分類はツアー雑誌や名物作りなどに大いに役立っている。

「でも時空共通漫画雑誌って厳しそうですね……この場合はマスクドヒーロー世界でウケそうですがそうでもない世界もあるわけですし」

「確かにそうだ、例えば原理不能の能力を『電脳機関』と分類される世界の住民は好んでいない……なるべく全ての人間が気に入る作品のほうがいいのか?」

 EXEが一番気にしていたのは世界観の大きなズレによる読者を選んでしまうことだ、場所によっては始めての漫画雑誌になるかもしれないところに刺激が強いところは避けたい、EXEは見た目に反して慎重なところもあり漫画選びもたくっちスノー達とじっくり相談していきたい所存だった。
 そんなEXEに応募者も応える。

「編集者さん、全ての人が面白いと思わせるような作品というのは結局のところ誰も見ていないと思うんです、見てもすぐ忘れてしまうような透明で何も見えてこない作品」

「ならもし仮にそんな作品が出て売れていたとしたら?」

「時空ならあり得る話ですけど、そういう作者はスランプに行き詰まって焦っているのかお金のことしか考えていないと……まあ、まだ素人の僕がこんなこと言ったところでって感じですが、そうならないとも言えませんし」

「……いや、そうならないようにする為にオレのような編集者がしっかりしないといけないな、会議に回してみる」

「ありがとうございます」

 ◇

「えーと……これは随分思い切ったな、とてつもない題材だぞコレ」

「悪くはないんですよね」

「うん、悪くはないけど……いやすげぇなコレ……」

 ミリィの方は送られてきた漫画を見て随分頭を唸らせていた、内容に問題があるわけではないが大分クセが凄い、ネオジャンプの個性にはなるがある意味ここに持ってきて良かったのだろうかと編集者側が心配になっていく出来である。
 ミリィが読んでいる漫画はギャグ漫画、常に笑いを提供して不快感も出さないようにするといきなり持ち込むにはハードルが高いものである、しかも……。

「気になるんですけど時空用語でこの世界観ってなんていうんでしたっけ?正義のスーパーロボットに乗って悪の生物とか世界征服を止めるやつ」

「確か『ブレイブマシン』とかだっけ……マジで?あの世界観題材でギャグ漫画作る気なの君!?」

 ブレイブマシンとはカッコイイ巨大人型ロボットが街を守りド迫力の必殺技で敵を殲滅するロマン溢れる物語が展開されている世界の作品を表す。
 リアルワールドでいえば『マジンガーZ』などが有名だろうか。

「あ……もしかして真面目に戦ってるのに茶化すような作品を出すなんて不謹慎だって言われますかね?」

「そういう意見もありそうだけど心配なのは君だよ、負担半端ないよこの漫画、ベテランでも血反吐よコレ!」

 ギャグのわりにはロボットの作画がゴリゴリに描き込まれている、元々ロボット系は描き込みが大変なので人を選ぶのだがそこからギャグに昇華までさせているのがこの作品、はっきり言って連載にしたら死ねる、マガイモノでも苦しむ……ミリィから見てもそう思う、面白いが心も体も持たないのではと不安が勝ってしまう。

「違う意味でハラハラ・ドキドキさせてくるよこの作品!毎週マンガの行く末より作者の精神状態気にしちゃうかもしれないよ俺等!」

「なんかロボット描いてたら楽しくなってきて……」

「これ1週間で描けるタイプじゃなくない!?作画担当になって原作つけるとか、もう少しロボットの描き込みを抑えるとか……」

「ああ大丈夫です、これ4日もあれば30ページは書けます」

「岸辺露伴クオリティが時空に何人もいたらまずいだろ!と……とりあえず出来はいいから貰うけどちゃんと休んだりしてね!!」


 半日後に編集者達は合流して各自で回収していたマンガを読み合う、既に50種類はあるがここから選ばれるのは残り19作品……。

「なんなら俺の作品抜いてもいいんじゃない?ってクオリティだね、新人と思って舐めてたけど最近のクリエイターって凄いね」

「俺としても正直全部貰いたいくらいなんだけど……」

「何言ってんだ黒影共!これは実際に売りに出すものだから慎重に選ばないと!パクリデザインとか不謹慎要素とか……盗作なんて紛れてたら自分達の首が飛ぶだけじゃ済まないぞ!」

「お前飛ぶ首ないじゃん」


 各自でマンガを回しあってついでに黒影がつまみ食い感覚でそれを掠め取る、マジでこいつ何してるんだよと野獣先輩は思ったが結局黒影が気に入らなければ意味がないので好きにやらせる。

「たくっちスノー、この漫画なんだけど……」

「ミリィが引くのも分かるわ……なんだこのロボットの描き込み……その上ギャグまでやるのか?」

「パーティ追放って本質的には仕事出来ないとかより性格で馴染めないのが原因スよね、強くても口だけで集団行動取らないカスとかいらねえでしょ」

「それだと君も追放されない?」

「革命じゃオラ表出ろ」

 マンガを見て騒ぎながら連載に値する作家を絞り出している中、1つ妙なマンガがある……たくっちスノーが持ってきたものだがまだ目も付けてなかったものだ。

「その作品は?」

「ネットで突然送られてきた奴なんだよ……調べても作者は出てこないし内容はパクリ、この送られてきた持ち込みの中で一番質が悪いよ」

 黒影が読んでみるとそのマンガはとてもゴチャゴチャだった、忍者と海賊が同時に出てきて更に宇宙人が現れて銀河レベルの大バトル、そこからプロレスに発展したり何故かお色気シーンまで混ざっている支離滅裂な内容……確かにここまでの中では一番すごい。
 興味があったポチも横から眺めていた。

「こ、これ……確かに凄いマンガだな、世界観なんだ……?ジャパニーズ?でも忍者いるし『葉隠木葉』?いや『グレイテストリーグ』の要素もあるし……」

「たくっちスノー、この作品載せるから作者教えて……看板作品にするぞ」

「は!!?」

 ここ一週間で一番力強く叫んだ「( ゚Д゚)ハァ?」であった、このやりたいことをやってやったような命懸けな漫画を即連載させるどころか看板作品、つまりネオジャンプの象徴にしようと言い出したのだ、一度目を通しただけで。

「正気か黒影!このNARUTOとワンピースを雑巾で絞って取れたエキスみたいな作品一番上にするのか!?」

「いや……これがいいんだよ!ネオジャンプはこれが!世界観とか設定とかに囚われず各世界の技術や人種全部混ぜてやりたいことをやる、時空全部で売る雑誌を見事に理解している、これからは時空もこうなっていくって先見の明があると見た」

「時空マジでこんな感じになったらいよいよ治安終わるんですがそれは……」

「というか何のための世界観ジャンル分けだ?」

「とにかくネオジャンプを通して時空監理局はこんな感じなんですって宣伝にもなる!たくっちスノー探してこい」

「また出勤かよぉ!!」

 たくっちスノーはトンネルを抜けて外に出て、残された四人は改めて持ち寄った漫画を見る。
 自分達も素人なので一概には言えないが思ったより出来栄えがいい、もう少し全然面白くない何も見えてこないのレベルが次々来て酷いことを言うのも覚悟していた。
 が……問題はこのクオリティを毎週維持できるかだ、最初が良くても後半からなんか微妙だな……と言われる作品も多くあるし行き詰まった時真っ先にアドバイスをするのは自分達だ。

「メイはマンガのアドバイスとか出来るのか?いざという時に編集長の一声も大事になってくるだろう」

「アドバイスといってもそんな大袈裟なことは言わなくていいでしょ、終わっても結局は自分それ書きたいって思いついたそいつの責任なんだし編集者はアウト通さなければいいんじゃないの?」

「いや適当な……最初の読者である自分達が面白いと思わなきゃ……みたいにたくっちスノーは言うんじゃない?」

「……古いよ、今時マンガは面白いかどうかで買わないからさ」

「んええ?」

「さあて!もっと漫画絞り込むよ!たくっちスノーが頑張ってる間にも連載できそうなマンガをまとめようか!……あっ、それ以外でも俺にくれないかな?あとこれからは面白くなくても貰うようにしてほしい」

 黒影は編集者達が考えた末に不採用にしたマンガを黒影に渡して束のようにして受け取るとそれをトンネルとは別の穴に放り込む、どうやら自分達が持ち込まれたマンガの話をしている間に監理局も改装したらしい。
 野獣先輩はリサイクル業者とかダストシュートみたいなものだと思い気軽に渡していたが、ミリィはあの先をとても怪しんでいた。

(あの先に何があるんだ……たくっちスノー達は気付いてないが黒影は娯楽作品としてネオジャンプを作っていない、本当に監理局のブランドを広めるためか?だとしてもマンガを何のために……?)

 ◇

 そして出発したたくっちスノーはトンネルに入りながら身体からノートパソコンを作ってメールを送り、連載作家として選ばれたこと、顔が見たいことを報告してやっぱりお馴染みのファミレスで話をしようとする。
 ペンネームはフィルトナ・クウゴ……名前までどこかのジャンプ作品の混ざり物みたいなやつだった、一体どう答えればいいのか悩みながらもちゃんと伝えることにした。

フィルトナ先生……ですね、えーと『ワンドラトラブル 〜王位争奪編〜』の……いやなんだこのタイトルふざけてんのか!……ああそれはいいやあのマンガをうちの編集長が大層気に入ってそれはもうベタ褒め!こんなマンガみたいなご都合リアルにあるんだって自分もビックリして」

 突然のことなのでしどろもどろだし何を言えばいいのかバグってわからなくなる、黒影が言っているのだから通したいという気持ちと本当にこれで良いのかという個人的矛盾に爆発しそうになるがどうにかたくっちスノーは伝えた。

「単刀直入に言う!黒影は貴方をネオジャンプの看板漫画家として連載させたいと言うがあの内容では自分は到底無理だと思って……」

「ふふ……会いたかったわ、たくっちスノー」

「つまりは……えっ会いたかった?」

 ファミレスで悠々と肉一杯のピザを食べていたフィルトナは一切動じず最初から分かっていたように受け答えする、思ったより静かなのでたくっちスノーも言葉が出ず相席する。
 とんでもない作家を見つけてしまった……あるいはこうして自分の手に漫画が届いたことまで運命付けられていたのか?
 目の前に座るとたくっちスノーの所にメニュー表を引く。

「貴方も何か頼んだら?話は食事しながらでも……ジャパニーズのご飯は美味しいんだから」

「……奢らないぞ?とりあえず貴方が頼んでる奴でも」

 たくっちスノーも同じピザを食べながら話の続きをする、フィルトナがどんな目的でネオジャンプに近付いたかは今は考えない。
 黒影が絶賛したとはいえ時空全土に売り出すからにはちゃんとした作品を作ってほしいと思っている。
 というよりは黒影も気付いていたかもしれないあの作品への違和感。

「貴方、あの作品本気で作ってなかったな?失礼だ、黒影にも……20作品という狭い壁を越えるために、ネオジャンプに送ってくれた他の作者たちに。」

「だから連載の際にはちゃんとした作品を持ってきてほしいってことね……いいわ、作るわよ……お望みとあらばどんなジャンプ名作でも!だって私は至高のジャンプマニアだから!」

 フィルトナは話を聞くとどこかから原稿を作りその場でベタやトーンも一切使わずファミレスにあったデミグラスソースで漫画を描いたかと思えばまるでインクのように真っ黒に変化する。

「文句ない?」

「違うところで文句を言いてえ……!」
最終更新:2025年02月25日 19:13