ネオジャンプ作成プロジェクトから3週間。
なんと真っ先に1抜けして4本の連載を抱えることに成功したのは
野獣先輩だった、捨て駒を多数開出して不要になったらすぐ切り捨てる選択で詰め込んで飛ぶか堕ちるかも分からない爆弾をまとめて抱え込む。
「お前……想定してない作品が売れる可能性だってあるんだぞ」
「それはそれで面白い……面白くない?」
「おい野獣、どうやら連載をするなら1話出すだけじゃダメらしいぞ」
「ウッソだろお前知らなかったの?後俺達は2話くらい見るんだよ」
ただ1話見るだけで話は作れない、他にも数話以上のストックが求められる。
野獣の場合は4作品なので12話分……1作品にまとめるとほぼ半年分も観ることになる。
「おい大丈夫か?お前のことだから無責任なこと言いそうだ、切り捨てる気あるし……ってか何抱えてるの?」
「ほら見ろよ見ろよ」
野獣先輩担当の連載漫画。
- 前回までのシオンさん
- エメラルドゲーム
- 配神者
- キリ義理ス
キャラクターだけを売るコメディ、デスゲーム、ギャンブル、そして可もなく不可もない恋愛物。
本当にどれが切られてもおかしくないし期待もしていないということが見て取れるラインナップ、
たくっちスノーは個人的にエメラルドゲームが気に入ってるがまだどうなるか……まだ試してないだけに口ではなんとでも言えるが不安になる。
それはあの適当そうな野獣先輩も同じようだ。
「……てかこれ売れるんすかね、なんか見たところ普通の雑誌みたいなラインナップなんスけど」
「色んな世界からネタを持ってきたと言っても結局は各世界のマンガだもんな、まあどこでも売ってるってインパクトはあるけど」
「……たくっちスノーさぁ、前に俺がチートスキルはもう自分だけという唯一性が無いからしばらく廃れそうみたいな話したっすよね」
「世界でただ一人みたいな奴ら実際苦労してるらしいっぽいぞ……それとは別でお前の言いたいことは分かる」
野獣先輩が言いたいのは、このまま
週刊少年ネオジャンプを売り出しても雑誌自体にこれといった個性がない。
時空のどこにでも売っているというアドバンテージしか見所がないままではまずい、黒影もそれが分かっているのか誰よりも先に売り出すことで最初に自分が考えたという権威をちらつかせようとしている。
「あいつ、自分の事業が時空全てを回っているってことにこだわりすぎて細部が疎かなんスよ、時空のどこにでも売っているだけなら手順を踏めば誰だって出来るし実力が付けば後追いはいくらでも出来るし簡単に客を持ってかれると考えてる」
「じゃあどうする?一応ジャンプ編集部がバックに付いているが長く売っていくならその現状はまずいぞ?」
「ま、そこは1冊でも売ってから本題スね……アンタもそろそろ連載見つけたらどうスか、連帯責任」
「うっせー」
野獣先輩にいつものように嫌味を言われるが今回ばかりは間違ってないので何とも言えなくなる。
アレから大分経ったのに未だに担当してる連載は1つだけ……これには編集者としてまだまだ足りないものがあると感じておりたくっちスノーは勉強も重ねていた。
勉強といっても最近売られているマンガを知って何が流行りなのか何がウケているのかを考察している日々だが余計に新人に対して厳しくなってしまうのではないかと憂いてもいる。
今日も別世界の本屋から流行りの本を購入して読んでいると今度はポチがあらわれる。
普段は奴隷みたいな物ではっきり言って性欲尽くしのクズに見える彼だがネオジャンプでは一番働いてるかもしれない。
「おつかれー」
- ジェリーフィッシュ
- 槍たいほうだい
- アリアとマリア
もどきはまた連載を掴んだ上に自作も順調らしい、槍たい放題は名前通り好きなものを詰め込んだまさにやりたい放題だがイキイキと書き上げてもう既に10話も描いているらしい。
今は打ち切られた時のために臨時の最終回を描いている、昔の脚本家がやっていたどんな状況でも終われるようにする仕組みらしい。
「君が選んだ『ミリオンポイント』も結構良かったよ、ポイ活をバトルに落とし込むとはね」
「やっぱりその着眼点は良いよな?でもそれ以外は全然見つかんないのさ、
フィルトナのバカはもう全然ジャンプもどきしか作らないし」
「ミリィもEXEも順調といったところだよ、後は本当にたくっちスノーだけ」
「嫌味かお前……って言いたいが悔しいけど一番頑張ってるのお前だもんなぁ、マンガ描きながら編集者までやるって、今更だが無茶振りさせたな」
「いいよいいよ、エロ以外でマンガ描くなんて機会無かったしやってみると面白いよ」
まさか奴隷扱いされている存在が誰より貢献しているなんて、方や副局長が一番役立たずなんて……考えるほど凹みたくなるがネオジャンプの為に相談してみることにした。
「なるほどな、責任持って通すためにちゃんとしたものの判別をしたいと……まあこの雑誌全然プロが持ち込んでくれないからなぁ、大手の新作があればネームバリューにもなりそうなのに」
「贅沢言っても仕方ないだろ、新人をスターにするのも乙な物だ」
「たしかにそれもそうだけど……あっそうだ、たくっちスノーも書く側の目線に立ってみなよ」
「無理だ、自分もポチみたいに漫画1本描こうとしたがフィルトナと同レベルの作品しか作れなかったよ……」
「違うよ、実際にマンガを描いている人の手伝いをするんだ」
「アシスタントってことか?」
時空全土で売ってる雑誌はまだないが、既にコミック誌は何本か他世界にも進出しているので求人は別世界人でも受け入れられる。
猫の手も借りたいと言われてきたが本当に猫が力を貸してくれる現代で臨時アシスタントを募集している作者も結構いた、もどきは週刊ゼノンという雑誌で連載しているある作者がアシスタントを求めているという紙を見せる。
たくっちスノーがその場でゼノンを読み込むと確かに雑誌全体の雰囲気はネオジャンプに似通っている。
「これ今からでも行けるかな?」
「ろんもち」
「よし」
何か始めて見ないと前に進めない、たくっちスノーは求人片手に別世界に行こうとすると直ぐ側にEXEがいた。
sonic.exeの連載作品
「さては聞いてたな?」
「盗み聞きするつもりはなかったが……オレももっともっとマンガについて学びたい、同行させてもらう」
「いいよ、自分だって今でもボディーガードが居るとしっくりくるからな」
◇
「……たくっちスノーがアシスタントに来るのはまずいなら自分は帰るけど」
「いえ……どんな経歴とか種族とか気にしてられない種族なので手伝ってさえくれるのなら」
「良かったなティー、監理局に入ってから最近待遇良いじゃないか」
「いつまで持つのやら……ではよろしくお願いします」
求人に合った住所から週刊ゼノン所属の内面無先生の所に付いた二人は何の問題もなく臨時アシスタントをさせてもらえることになった。
なおEXEは臨時アシスタントが何をするかも知らなかったので時空列車に乗ってる間にたくっちスノーがみっちり仕込まれている。
「分かってるなEXE、自分たちの仕事は下書きのような原稿に代わりにベタ塗りやペン入れをすることだ」
「ああ、キャラの表情とか背景を描けばいいんだな?オレも最近はペンを握り潰さないように文字を書くことが出来るようになった、抜かりはない!」
「よくそのゴリラっぷりでアシスタントに付いていこうと思ったなお前!!」
ひとまずアシスタントとしての作業を淡々と進めていく2人。
トーンが貼れるか気になってついついEXEの方を見てしまうたくっちスノーだが、EXEも黒い成分が何本も伸びて触手みたいになってるたくっちスノーが気持ち悪くて目を合わせたくなかった。
監理局の頃から資料は全部これで片付けているのでミスなくこなすことが出来る、これ漫画家の苦労全然分からないのではないか?こういう雑務はあっという間にこなせるのがたくっちスノーだ。
「凄いね〜君助かるよ、締切が近くて」
「ああ……確かにこの手の奴を数人がかりで一週間はきついよなぁ」
「ティー、お前のせいで説得力が薄れているぞ」
ドバドバと触手を動かして作業を進めるたくっちスノー、EXEは自分いらなかったのでは?とまで思うがその分参考にする時間が増えると考えることにした。
「ん?待てティー、そのシーン表情が違わないか?」
「違うか?このマンガならこういう雰囲気だろ」
「いや……オレならもっとこう」
「なるほど」
しかし細かい所で息が合うのがこの2人、このマンガはドラゴンファンタジー風異世界が舞台で土属性の魔術師である主人公が最強を目指して成り上がるという
リアルワールドでもよく見たような気がする話だが世界が離れても馴染みのある要素が売れているということが今のたくっちスノー達にはちょうど良く引き受けたのだ。
「おいEXE、お前の方こそなんか飯の描き方おかしいぞ、ベーコンにチーズってどう見てもそれカルボナーラだろ、米になってる」
「何?カルボナーラではないカルライスだ、添付にも書いてあるぞ」
「うんそれカルライスだよ」
「すみませんカルライスって何!?EXEも何あっさり受け入れてるの!?」
「ティーの世界だってタコライスとかあるだろ」
「まああるけどさぁ!」
◇
案外知ってるようで知らないような意外な世界や要素もあることに気付くたくっちスノー、振り返ってみるとなんかおかしくない?と指摘した要素がもしかしたら向こうでは常識なのかもしれないと思い当たることが二人にあった。
しかしアシスタント中は企業秘密になるのでたくっちスノーは一方的にEXEにテレパシーを送るのではっきり言ってウザい、EXEはこの仕事終わったらチーズフォンデュに突っ込ませてコロッケにしようと決めていた。
そして色々思う所があったりカルライスを実際に食べたりメモを取ったりしながらもアシスタントの仕事を終わらせた。
「ありがとう二人とも、これ少ないかもだけどアシスタント代ね」
「ああいえ、自分らなんて最近はお給料を使える暇も中々なくて……」
「ここ最近はカロリースティック一本だからな……コイツ以外」
「今度お前らも奢るように黒影に頼んでおくって……」
「ところで
時空監理局って新しく週刊誌を出すそうだね」
「ん?もう知られてるのか?サイトもまだ作り始めてる段階だったような……」
「多分黒影が宣伝しまくってるんじゃないか?あの中で宣伝まで出来るのはあいつくらいだし」
「ああ……このチラシもそちらの局長さんがね」
内面無先生が色々なモノで山詰みになっている所から紙を見せてくる、週刊少年ネオジャンプの宣伝チラシであり『時空のどこに居ても読めるのはこの雑誌だけ!』『監理局お墨付きだから中身も当然面白い!』などとデカデカと手書きで書かれていた。
主にたくっちスノーたちの頑張りによるものだが、監理局ブランドは本気で時空の上位層を独占して利益を独り占めする気らしい。
「随分気合い入れてるんだね」
「オレ達としては軽く思いついた暇潰しに付き合わされて大変だが……初めてみると結構悪くないとも思っている」
「だなー、なんだかんだ新米の漫画家がネタを持ち込んできて誰よりも先に見ることが出来るのいいし、一緒になって改善点を決めたりとか結構楽しくてな!」
「それに……奴らは精一杯これを描きたいという思いを形にしてオレ達の所に持ってきてくれたんだ、ならオレは編集者としてその思いをなるべく尊重してやりたい、形にしたい……そんなことを思っていたら三作品も連載を確保できた」
「えっ、一人で!?大手雑誌……それこそジャンプだと立ち上げ以外も数々の班が存在しているけど……」
「ところがどっこい立ち上げから何まで全部五人……それぞれ別々に相手するかもだけど、大変になっていくのは確かだね」
内部情報でマンガの話はしてないのでOKとばかりに話そうとするが突如窓から大きな手が伸びて二人を引っ張って連れ去る。
手の先には召喚魔法を使った黒影の姿が、相変わらず神出鬼没であるもののミリィとポチ、野獣先輩も揃っていたので暇潰しで散歩していたわけじゃないらしい。
exeとたくっちスノーは地面に叩きつけられるように開放される。
「実はネオジャンプも形になってきたし飲み会やろうって話になったんだけど」
「聞いてない」
「うん、言ってないから迎えに来たんだって」
たくっちスノーは嫌な顔をする、何故ならたくっちスノーにとって飲み会はこの世で一番楽しくないイベントだからだ。
典型的な上司の盛り上げ会場……楽しいのは開催者だけでそれ以外は爆弾解体のようにデリケート、労いなんて微塵も実感できない。
なんと言ってもたくっちスノーは酒が飲めない、弱いとかそういう次元ではなく飲むと一瞬で嘔吐するし炭酸は一部の世界にはない。
こういう時彼は速攻で死なないのに死んだふりを選択する。
「あっこいつまた高台から落ちたスライムみたいになってる」
「俺もやるんだからさ(嫌々)」
「今日は焼肉ベルダンディで好きなだけ食べていいから」
「それ結局自分が皆の分焼きまくって忙しいパターンだよな!?」
◇
まだ始まってもないのに飲み会をする黒影とバカ5人。
めちゃくちゃ食べるポチ、キャベツに思いの外ハマるEXE、ビール!ビール!野獣先輩。
たくっちスノーは危惧していた通り焼くので精一杯だった。
「で、フィルトナはどんな感じ?」
「もう全くだよ!なんベン言ってもクオリティ変わんねーんだからもう!」
「もうこの際通しておけば良くない?ジャンプ見に来てるんだし」
「ジャンプ持ってこいよとか言うタイプスかアンタ」
「そういうんじゃない!なんかこう……失礼だろ!人気作品をなぞってきたようなのが来るの!どうせやるならキャラクター設定を弄るとか原型が10%程度に別物にするとか!」
文句を言いながらも多彩に腕を操作して全員分の肉を焼き上げる、アシスタントもそうだがこういう雑務をやらせたら速攻で片付くのでこれ以上ないほど副局長に適任な者はいないだろう。
EXEはたくっちスノーから肉を貰いながら黒影の方を見る。
「メイ、そろそろハッキリさせておきたいことがある……この雑誌はどういう方向性で行く?野獣も言っていたがただ時空各地で売るだけなのは何の取り柄もない、ネオジャンプの方向性はなんだ?ジャンプの派生作品なのかそれとも新しい物を目指したものなのか?」
「……ジャンプの名前を使ってるんだし前者じゃないのか?」
「ポチ忘れたか?こいつジャンプ編集部に見られないと思ってネオジャンプってタイトル詐欺にしたんだぞ」
「詐欺は酷いな、良さそうな名前だっただけなのに」
「なら方向性は決まりすね、特に考えてない……時空で一番売れて人気の雑誌になればそれでいいと」
「うん、それ以外に何があるの?」
なんて言い切った笑顔でネギ塩を食べているのだろうか。
まるでこの良い感じに焼けた焼肉のように完璧さを求めている黒影にはただ監理局が各地に目を光らせられるならそれでいい。
それ故にバカ5人はここまでずっと気がついたが黙っていたことがある。
(考えてみると漫画配信サイトとかアプリとか昔から充実してるんだし、紙の雑誌が時空規模で売られてもそう変わらないのでは……?)
考えてはいけない黒影は少々アナクロニズムで流行についていけないタイプの残念子供おじさんなのだ。
新しそうだし誰もやってなさそうというよりは、自分が思いついたことは他の人間も想定している……というのを思いつかないタイプの楽観主義者。
「お肉焼いてよたくっちスノー」
「少しは自分に食わせろ……あっ電話だ」
ひたすら肉を焼きまくっていたたくっちスノーは
マガフォンが鳴って器用に電話しながら焼肉する、その上でハンドサインを送り他の面々にも状況を説明する。
「なんて?」
「今から持ち込みいいかって」
「は?断っちまえばいいじゃないスかそんなの」
「ダメ!漫画欲しいからここで相手するよ!」
「ファッ!?今プライベート中だし5人も居るンすよ!?」
黒影は何が何でも持ち込みを通させたいらしく電話しながらたくっちスノーも困惑していたが流れで持ち込みさせることになる。
雑な流れだが黒影は持ち込みに来た漫画家を召喚して相手をする。
「なんかごめんここの編集長がワガママ言ってこんな形になっちゃったけど……」
「で?で?君の漫画見せてよ、俺それが目当てでネオジャンプ始めてさぁ!」
獲物は逃がさんとばかりにハムスターばりに食ってた焼肉を全て飲み込んで漫画を貰う黒影、せっかく5人もいるので全員で見ることにした。
題材は魚を捌いて食べまくるバトル物らしい。
「まあオーシャンブルー世界ならそうなるよな」「このサンダーバトルマグロのデザインいいよね」「これ売れるんスかね?」「ヒロインの人魚エッッッロ!!」「ティー、刺身食いたくなったから注文する」
「はい決定!!連載にしようかコレ!」
各自がそれぞれ感想を言い合っている中黒影はまだじっくり見てないにも関わらず連載に通すと言い出した、これには全員正気ですか?の顔。
私はいいと思う。
「ちょ待てよ黒影!連載通すって編集は誰が!?」
「ミリィまだ枠残ってたよね?入れるよ」
「え、えええーーー!?」
「自分に入れろや!!」
こうしてネオジャンプの連載作品は雑な流れで1本決まり着々と作られる準備が整いつつあった!
最終更新:2025年02月25日 19:14