週刊少年ネオジャンプが遂に発売。
一気に1億部も刷るなど正気の沙汰ではないがそれがビックリするくらい売れた。
販売は全部黒影が一任していたというよりは
たくっちスノー達は手が回らないので編集長らしく何か仕事しろと言ったらこの始末。
一体どんな手段を使ったのか?恐ろしくて聞く気にもなれなかった。
それよりも今後の作品の編集者として毎週相手をしなくては……その上で副局長としての仕事もあるので休められない。
「ということで次回から現行作品の編集者がどうなるのかクジ引きで決めようと思います!」
「いやノリが軽い!普通こういうのって会議で決めるんじゃないの!?」
「時間がもったいない!さっさと始めちゃって」
黒影はアイスキャンディみたいな棒が20本入った箱を置いてさっさと帰る。
ここから4本ランダムに選んだものが今後相手していく作品らしい……何故こんなことやるのかというと黒影は本気で連載決めたらずっとそのマンガと相手すると思っていたがたくっちスノーに言われて立ち上げと編集は別の場合もあると知ったからだ。
「とりあえず各自1話は見た、アドバイスもこれまで色んなマンガ見てきたし無理はないと思う!その上で楽な作品は間違いなく黒影が適当に作ってるブランフェットだ」
「これ俺のマンガってどうなるのかな、仮にミリィが選んだらミリィが言ってくるの?」
「多分そうなんじゃない?始まらないし俺から引いてみるね」
何か言っててもしょうがないので淡々とクジを引き始める5人。
たくっちスノーは
フィルトナが気になったので少しイカサマをして確定引きして編集者の振り分けも終わり、ようやくネオジャンプは時空で一番の雑誌になるべく動き出す…
◇
「それで……どうですか僕の漫画」
「焦らなくていいよまだ3話くらいなんだし……今のところ展開とか倫理観とか気になるところはないから」
新人作者達はアンケート結果に怯えている、その不安を和らげるのが自分たちの仕事だ。
新たに『配神者。』の編集になったミリィは労いの言葉を送りながら漫画を一通り見る。
配神者はチャンネルを作ったばかりの配信者が神(メイドウィン)と出会い運命を変えるために動画配信を通して様々な試練を乗り越えるジャパニーズ世界風漫画だ。
「実は……ここに来るまでにネットでエゴサもしてみたんですが、あまり自分の作品の感想が見つからないんですよ……電子版も無いし」
「え?まだ発売したばかりとはいえ一気に売れたのにか?」
ミリィも気になって調べてみると確かにSNSや大手匿名掲示板でネオジャンプの話題を出してない、反応すら見えない……これを見たミリィは即座に自分から行動に移さなくてはと自分からアカウントで話を広げたり、捨て垢でサクラとは言わずとも実際の感想をツイート。
更に掲示板で自らパートスレを建てて少し盛り上げた。
黒影がここまで見ているか分からないがこんな有様ではとても時空トップシェアなんて無理だろう。
「あの、大丈夫ですか?凄いスマホいじってますけど」
「ああ悪い!仕事中なのに……」
「いえ、一億部も刷って電子も売らないようにしたっていうのは有名ですから……どうかしてるなここの編集長」
「じゃあまた次の話期待してるよ」
「あっその次に関してなんですが、今度の話で物語を大きく盛り上げる新キャラ考えてるんですが……どのデザインが良く見えますかね?」
「なるほど名前はどんな?」
……
「フィルトナ、アンタちゃんとやればできるじゃんか」
「……初めて猛勉強したのよ」
フィルトナが気合を入れてたくっちスノーに直接送り出した新作『お姉ちゃんって呼ばせて』
義姉が弟の為に奮闘する少しセクシーなラブコメディでこれまでジャンプ作品のパクリを描いていた人物の作品とは思えない良い出来栄えだ。
「うん、この話も問題ない……これまでよりキャラが生き生きしてるんじゃないか」
「……ありがとう」
あれからフィルトナは凄くおとなしい、叩かれたのが余程怖かったのかたくっちスノーも若干後悔している。
話題を変えるためにたくっちスノーは前にフィルトナが言っていたことを蒸し返す。
「そういえばフィルトナは自分に会いたくてネオジャンプにマンガを送ったんだよな、それで自分に会えたあとどうするつもりだったんだ?」
「どうもしないわ、本当にただ貴方に会っね一緒にいたかっただけ……だって寂しかったのよ私!あの時だって、私は貴方に見捨てられたくなくて……!」
「……そうか、聞いて悪かったしこの間も」
「謝らないで、確かに私はマンガなんて既にうられているものから人気な所を少しずつコピーしてれば問題ないと思っていた、でも貴方がここまで本気で作っていたなんて分かってなかった」
「なら自分から言えるのは次の話に期待してる……編集者としての言葉だけだな、それじゃあ自分次の作者との打ち合わせが……」
「あっ待って!最後に1つだけ」
フィルトナはたくっちスノーに近づき、首を取って至近距離で耳打ちする、大袈裟だが誰にも聞こえないようにするために。
「ネオジャンプ……とんでもないほど売れたみたいね、でも気を付けて、これが黒影の力なら間違いなく裏があるわ」
「裏ねぇ……どの道このまま上手くいくとは思ってないさ」
「あ!たくっちスノー!おつかれ!」
「ほらポチ来たしさっさと行ってくれ」
フィルトナと入れ替わる形でポチが来た、ポチが連載している『槍たいほうだい』の編集者にたくっちスノーが決まったのだ。
「いやー!俺も色々相手してるけど皆面白くてネオジャンプは安泰だね!」
「呑気なこと言ってる場合か?他の漫画を見るのが編集者とはいえアンタは漫画家でもあるんだ、自分の漫画の心配もしろ、アンタだけだぞアンケートヤバいの」
槍たい放題は何故かアンケート数が極端に少ない、指で数えられるくらいなので人気はいつもワースト級だ。
ポチは同人誌を何かしら売っていたはずなのでここまでつまらないということはそうそうないはずだ、たくっちスノーもこうして見ているが他と比較しても問題があるようには感じない、しかし大衆や監理局にはウケない何かが混ざっているのだろうか。
「同人やってたら思ってたより売れないなんて山ほど経験してきたさ、俺は俺で模索してやってみるよ……ヒロインでもj増やすかな」
人気度では少々ピンチにも関わらず焦る様子はない、ポチの中ではそれよりも気になる事がある様子でありたくっちスノーもそれに気付いたのでサインで話を降る……話が長くなりそうだったので追加で料理を注文した、フィルトナに勧められてから気に入ったあのピザを。
♢
「ここからは編集者同士の話だね、まあ大したことじゃないからピザ片手でも構わないよ」
「そういうアンタこそ真面目な話をネギトロラーメン食いながらするのか?……ってかそれうまいの?」
「俺は君みたいな
マガイモノと違ってエネルギーがめっちゃ必要なの、特にマグロの栄養素は最高だ」
ネギトロを存分に混ぜたラーメンをすすりながら話をする、それはポチが編集者として相手している『ジェリーフィッシュ』に関する事だ、いわゆるスランプらしい。
ジェリーフィッシュは七色に輝く幻の魚を巡り各地を旅する冒険譚、特徴としては作者のぷるりんエックスが
「ぷるりんエックス先生がなんか悩んでるみたいなんだよね……最初はなんとか上手くやれてたんだけど段々限界が来て、簡潔に言うとネタ切れしてスランプだってさ」
「そんなん自分に言われても漫画家なら前もってネタを何個も用意しておくものじゃないのか?今時ストーリー作るなら軽い
プロットを組んで流を決めておくのが常識だ……ってかそれの手助けの仕事がアンタ」
「そうは言ってもさ!俺がアドバイス出来ることって色気シーンとヒロインくらいなんだよ!?」
「お前の相手してる漫画が不憫に思えてきた、ねえ知ってる?
リアルワールドの色気シーンって今やあやトラレベルでも危ないんだぞ?てか時空でもヤバいだろ」
ポチという男、物を作るのはともかく何かを教えるのが壊滅的に下手くそ……たくっちスノーに会うまで1人で細々と創作活動を行い1人で数百人分のサークル活動をこなして誰の手も借りれなかった男なので無理もない。
ポチは黒影がやっていたことを1人でこなせたというよりは、普段は黒影以上の役立たずだが黒影が唯一やりたいことを綺麗にこなす。
ただしネオジャンプをポチに任せたらToLOVEるもビックリのピンク本になりかねない。
「まあ言いたいことはわかったけどさ、どうやって別担当の自分がぷるりんエックス先生の面倒を見ればいいんだ?」
「君、ミリィと原理は同じなんだからブラックイリュージョン使えない?そちらの別の漫画は俺が見るからさ」
「そりゃ構わんがこっちにメリットがないんだわ、自分の別の代わりとなるとギョーテンだけど変なことするじゃん絶対」
「ヒロイン増やすだけだから!」
◇
話していてもキリがないので仕方なく引き受けてたくっちスノーはブラックイリュージョンでポチに自分のガワを被せて自分はポチに変身してぷるりんエックスの住所を元にワープした。
編集者って漫画家の家まで上がり込むものなのか分からないが黒影曰く直接家に入ってでも原稿取りに来いとのことなので遠慮なく行くことにした。
ぷるりんエックスの家は意外なことにジャパニーズ風のボロアパートだった、オールアイス世界の住民なのでもう少し極寒の村をイメージしていたのだが……。
「まあいいや、ざっとアドバイスして退散するとしよう……向こうもプロなんだ、ちょっとのスランプで諦めないことくらい覚悟して……」
たくっちスノーが扉を開けた瞬間、質量を持ったシャボン玉に押し潰されて倒れ込む。
たまに時空には変なグッズが売られているのだ。
「おいなんだこのふざけたシャボン玉はァ!先生いるんだろ!第4話の原稿について話が……部屋汚え!!」
入って早々に山積みになったカップ麺のゴミに変なグッズが散乱していたりと汚部屋と言うにふさわしいジメジメとした光景、そこにスライムのように透き通った髪を持つシアンカラーの女性がいた、これがぷるりんエックスらしい。
ペンネームじゃなくて本当にぷるりんしていることにちょっと驚いている。
「あ……ポチさん……ちょっと待っててください」
「待てるかこんな汚い部屋で!!漫画に熱中したりスランプもいいけど少しは私生活にも関心を向けなさいよ!」
こんな環境ではとてもじゃないがネタどころではない、監理局になって外面を気にするようになったたくっちスノーはすぐさまゴミ処理を行い整理整頓までする、現在ガワはポチなのでぽぽりんエックスにバレないように触手を自在に動かすことは出来ないが安い一部屋くらきなら充分片付く。
「食事も!カップ麺は最近おいしいけどちゃんと栄養摂らないとだめだろ!ちょっと失礼!」
更に冷蔵庫を見た後
時空の渦でいったん帰宅して一分後にレジ袋いっぱいの調味料と野菜を出して中に入ってた海老と一緒にざっと調理して振舞う。
「ほら、漫画家はただでさえ健康に悪い仕事なんだから体を大事にして働くんだぞ」
「あっ、すみません」
ぽぽりんエックスは作ってくれたエビチリをいただきながらたくっちスノーを見る、家事を一通り終えてようやく元の目的を思い出してジェリーフィッシュの原稿を見つけるが、スランプにしては殆ど話が進んで絵もしっかり塗り込まれている。
「なんだちゃんと出来てるじゃないか」
「いえその原稿は未完成です、最近全く思いつかなくて」
「思いつかない?話の先が見えてこなくてその場しのぎの設定で誤魔化してるってこと?」
「いえその……話はちゃんと前もって考えているんです、でも思いつかないんです……話のオチが」
「オチ?」
♢
話を聞いてみるとどうやら物語はちゃんとプロットまで組んでいいるものの1つのエピソードとしての切り所……つまり『オチ』に悩んでスランプに陥っているという事だ。
終わらせる部分が頭に浮かばない、実際に今の原稿を読み返してみると最終ページが存在してなかった。
「終わり所といえばコマを大きく書いてデーン!と一枚絵、更に続きが気になっちゃうような大きく話を揺るがす要素だよな」
「はい、話を盛り上げるために最後まで必要な要素、それがオチなんです……私の漫画にそういったポイントが無くて」
「なるほど、1回話を止めるポイントが掴めないっていうのは経験があるね……それくらいなら言ってくれたら力も貸したのに」
「すみません、ネオジャンプでこんなこと悩んでるの私ぐらいじゃないかって」
「編集者だもの遠慮なく聞くよ、さて実際に見返してみるか……確かにジェリーフィッシュの内容でオチは難しいよな、バトルものとかじゃないし」
ジェリーフィッシュ第4話、幻の魚『ジェリーフィッシュ』を巡り世界各地を冒険する主人公一行、情報を得て砂漠の魔境『イエローロード』に足を踏み入れる……という所で切れている。
「なるほど、砂漠に行くだけ行ってどう終わらせるかってわけね」
「どうにも引きがよくて違和感が無い、それでいて面白くするにはどうすればいいか……」
「こりゃ確かに悩ましいな……無難に考えればキャラクターを並べてよしイエローロード行くぞ!!ってデカい一枚絵で歩かせるとかだが」
「私もそこは考えたんですがどうにも弱いのではないかと……もっとイエローロードの旅が楽しみになるように」
「待て待て、本筋はジェリーフィッシュの情報でイエローロードはその過程に過ぎないだろ?もっとジェリーフィッシュが気になるような終わり方するとか?イエローロードに行く前に実は主人公がどうのこうのとか……そうだ、第五話はどんな展開を想定している?イエローロード通るんだよね」
「はい、砂漠を超えて魔神像を目指します……ここにジェリーフィッシュを見つける鍵となるコンパスのパーツがあるんです」
「よっしゃそれだ!魔神像をでっかく映せ!威光がありそうにシルエットにしてカッコよく何かあるかのように!そして今後作画に負担が出ない程度に!」
「わ……分かりました!魔神像のデザインします!」
数分後、魔神像を大きく描いていかにも何かありそうな最終ページが完成し無事にジェリーフィッシュの第四話が完成した。
更にノートを用意してプロットを参考にどんな風にオチればいいか考察したり参考にしたりしてまとめ上げてオチ用創作ノートを作成、これでオチには困らないだろう。
「ありがとうございます!何から何まで色々と……」
「編集者ってこれくらいしないとダメじゃないかな?って感じがしただけだよ、言っとくが今日だけだからな?ここまでやるの」
「いえ……私の担当じゃないのにここまでしてくれたことは思い出として大切にしますから」
「え?何言ってるんだ自分はポ……ゲッ!!!もうタイムリミット過ぎてた!!」
マガイモノチェンジの制限時間はたったの5分、たくっちスノーは此処に来てから無我夢中すぎて時間をかなりオーバーしても自分が擬態出来なくなっていたことに気付いていなかった。
更に言えばぽぽりんエックスから見れば殆どたくっちスノーが頑張っている姿である。
「あの……私、私……」
「何も言うなぽぽりんエックス、いや本名はポーポ・メリスか……編集者は優しいばかりじゃダメなことはどっかのパクリから覚醒したウチの担当で理解した、マンガを描くのはいいが今度部屋を汚くしたら教育強度を上げて対応させてもらう、このクラゲ野郎」
「……は、はい!」
◇
「うん、意外と美味いんだなネギトロラーメンって」
「いや大丈夫だったの!?回想聞く限りなんかぽぽりんエックス先生脅してないか君!?」
「ワンヘッドしない程度に上げるから大丈夫」
仕事を終えてポチからネギトロラーメンを奢ってもらうたくっちスノー、普段は相手しないジェリーフィッシュの原稿をポチに送り返して自分はギョーテンの第4話をもらう。
……アンリミテッドネギトロザウルスというとんでもない怪獣が現れた、お前これ絶対ネギトロラーメンに意識されただろと言いたくなったがキツく飲み込んだ。
「逆だよ、少し前にリヴァイアサン先生と話してネギトロラーメンのことを教えてもらって俺が冗談でアンリミテッドネギトロザウルスって答えたんだよ」
「……人の心読むな!つーかアンリミテッドネギトロザウルスって言いたいだけだろ!」
こうしてこの日も無事に原稿を終えてネオジャンプ4号が出版、ミリィがネットで盛り上げたおかげかあるいはこれも黒影の力か徐々に盛り上がりを見せていき、ファンレターまで届いて作者の意欲を向上させた。
ただしたくっちスノーはフィルトナの言っていたことが引っかかっていた、これが黒影の力なら間違いなく裏がある……たくっちスノーも察していた。
黒影はまるでゲームの体験版やアロマのように『たった短い間』しかその人を喜ばせてくれない。
これは黒影が相手を嘲笑う外道ということではなく、単純に先のことを考えずその一瞬だけ満足いくような考え方でしか動けないだけだ。
それをカバーするのが副局長の仕事だ、だがそれよりもまずは……この視線をなんとかしよう。
「たくっちスノー、あれから何故か知らないけどぽぽりんエックス先生に付けられてるよね」
「……好きだよねぇマンガって、優しくしてくれたかと思えば厳しい事言って罵倒するイケメンキャラ」
「たくっちスノーってそれに当てはまるんスかね?多分ぽぽりんエックスが変態なだけだと思うんですけど(名推理)」
最終更新:2025年02月25日 19:15