たくっちスノー達はメールを開いてから現実から目を逸らそうとする。
認めたくないけどこれ認めなくちゃ社会人としてダメなヤツ、しかし目を逸らしたい。
「誰か自分を痛めつけてくれ」
「ヌッ!」
「ああアア!!てめえ何してんだああああ!!」
「野獣くん、金玉蹴れとは言ってないんじゃないかな……いや彼、玉あるの?」
しかしこんなことで騒ぎ立ててる場合じゃない、悶えているたくっちスノーはほっといて再びメールの内容を見返す、時空出版局から緊急通告にして警告。
時空監理局の雑誌が……週刊ファンタジーのネタを盗作していることを確認したとのことだ。
何回見ても頭を抱えたくなる報告であった。
「やべぇよ……やべぇよ……」
「……お、落ち着け!チェックしろ、過去全ての週刊ファンタジー買ってこい!!徹底的に比較するんだ!」
「それに!あの作者達が盗作なんてするわけない!偶然って線も……」
ミリィとたくっちスノーもちょっと前に衝撃的事実を聞かされたせいで少しパニック気味、今までにない不祥事にハゲ上がってはまた生えてくると
マガイモノの体でパニックを表現して
野獣先輩はこいつら使えねーなと思った。
EXEはファンタジーを持ってきて連載作品を見たが、一致している部分を探すのは漫画を読むというよりわずか1メモリの細かい数値のミスを探すかのような過酷な作業だった。
該当するシーンが思い当たらないが言いがかりでもなければ実際に起きているし、正直向こうからすればやってもおかしくないと思われて当然である。
漫画以外のところで間違ってるかもしれないし……。
「もしかしたら未来のマンガからパクったとか……冗談だよ」
「ねえわ!どんだけ短い未来からマンガパクってんだよ速攻バレるわ!!」
ドラゴンファンタジー系世界専門雑誌だから異世界系からという先入観を捨てる、先週先々週のネオジャンプまで開いてリストにもして徹底的に事実を確かめる。
ここまで見てきた者達は思うだろう、何故素直に謝って時空出版局に向かい盗作された部分を聞きに行かないのか?と
その答えは単純、時空監理局の職員は時空出版局へのアクセスを禁止されており中に入ることはおろか電話することも出来ない。
出版局との連絡手段は向こうからの一方的なメールだけであり、こちらから行動を起こすことは出来ない。
アドレスはちゃんと出版局から送られてきたものなので外部から陥れる罠でもない。
「だが起きてしまったものを隠蔽するわけにもいかない!緊急記者会見を開いて今回の件を謝罪だ、黒影呼んでくるからミリィは準備をしてくれ!EXEと田所は念の為ゲームチャンピオンの方にも盗作がないか確認するんだ!」
「じゃあ俺はSNSで炎上しすぎないように世論操作を行うよ!」
「言い方ァ!」
◇
「え?盗作?監理局の本で?……それで盗作って何?」
「そこからか!?」
黒影に報告したが、状況が全く把握しきれてない様子。
たくっちスノーはまず盗作していたということがどういうことなのか、記者会見でここまで伝えないといけないのかと頭を抱えながらも説明する。
「盗作っていうのはつまり漫画のストーリーとかネタを他所からパクっただけじゃなく、その上で自分が先に考えましたって公表してしまうことだよ」
「絵のトレスとかと何が違うの?」
「トレスはあくまで元にしているだけで、こっちはトレス元を先に自分が考えたみたいに言い張る、ここまでは分かるか?」
「それをうちが出版局の雑誌でやってお怒りと?でも出版局に入るなって言ったのはそっちだしどうしようもないでしょ」
「脅しだよ、こっちは手出しできないが向こうは新聞社とかにこの情報を事実として送れる、黒影がどんなにSNSを操作してもこちらの痛手は避けられない、だから傷口が広がる前にすっぱり謝っておくのが今の最善だ」
「それはそうかもって思う人もいるけど……なんかいいようにされるのも舐められてる感じがしない?心当たり無いんでしょ」
創作マニアであらゆる作品を昔から目を通しており、実際に
フィルトナが過去に作り出してきたジャンプのパクリ作品を見逃さず落してきたたくっちスノーが絶対に盗作に気付かないはずがないとばかり思っていた、たくっちスノー自身もまだ認めてないが実際に置きてしまった事なのだ……ネオジャンプやゲームチャンピオンのどこを見ても該当する部分の報告がなくて焦っていると、まだ別の可能性があったことを忘れていたので黒影に聞いてみた。
『ホワイト』黒影が一人で一任している少女向け雑誌、一応これらも購入しているが過去2作と違いこれといった問題は見えず少女漫画に面白さを見出せなかったが順調そうだったので問題ないとばかり……。
「黒影、念の為ホワイトの漫画も調べといたほうがいい、ありえないということはない」
「ええ?ホワイトは絶対大丈夫だよ、俺の作品だから絶対なんもない」
「今回は他人事じゃないから口を挟むが、その絶対の根拠は?ホワイトで連載している作者に連絡を入れた方が……」
「ホワイトは漫画家なんて雇ってないよ?言ったでしょ『俺の作品』って」
「まさかお前……」
全部言わなくてもたくっちスノーは察する、ネオジャンプにも送っていた魔法の力を使い作成した何もせずとも生まれる作品。
ホワイトの場合はそれをはるかに超越した代物、表紙から始まり連載されている数本の漫画、少女には嬉しいお洒落や星占いに相談解決コーナー、少し豪華な付録まで全部黒影の気分によって魔法から生まれた魔術による現物である。
だからこそ絶対的な自身にも納得がいく、黒影はたくっちスノーと違い漫画を全然読まないので内容なんて覚えない、見たものをそのまま漫画にするほど精度も高くないのでホワイトで盗作が発生した場合、たまたま黒影の魔法で生まれた作品が週刊ファンタジーの何らかの作品と偶然似通った結果になることだ。
「だがもしホワイトが原因だった場合、それを伝えたところで言い訳としか思われないだろうしこの作り方は物議を醸すこと間違いなしだ」
「じゃあやっぱり盗作なんてなかったんじゃないの?ただの言いがかりかもしれない、速い段階から騒ぎ立てても……」
「早い?いいやむしろ全然遅いくらいだ、今現在自分たちは崖っぷちなんだよ」
「ふーん崖っぷちか、となると見せないとね大逆転勝利」
「はあ?大逆転とか言っても一体何を」
「失礼します、記者会見の準備が出来たので直ちに向かってください」
「たくっちスノー、君はまだ一応
時空犯罪者として名が残ってるんだし出たらまずくない?」
「バカ言え、今は副局長だ……自分にだって責任はある」
◇
フラッシュの嵐なんて昔でもあり得なかった光景だ、たくっちスノーは悪だった時絶対にヘマをしないようにした、写真に撮られないように数々の顔を作り名前だけが広まった都市伝説のように振る舞い続け……ついに記者の前で真の姿を現すことになる。
しかし本題は今回の出版局による盗作騒ぎだ。
「ええ……この度は時空出版局から通達があり、我々が発行している雑誌が出版局の著作物である週刊少年ファンタジーから盗作された作品があると届きました、現在該当する部分を調査中ですがこの度は出版局並びにファンタジーで連載されている作者様、読者様達にご迷惑を……」
まるで台本を読んできたかのようにスラスラと言葉を並べるたくっちスノー、黒影はその横で結果がどうなるのか眺めるのみ。
記者からの質問責めにたくっちスノーはこれまでの仕事になったつもりで全部応対する。
当然過去に行われたネオジャンプの偽装行為やゲームチャンピオンでチートコードが記載されていた件についても言及されるが、それは黒影が独断で行ったものと答えつつ気付けなかった編集者の自分達にも責任はあると答えて謝罪する、黒影の言う大逆転とはなんなのか?と目を向けるか黒影はまだ動かない。
(そろそろなんか言えよ黒影、めっちゃ怪しまれてるぞ)
「たくっちスノーこそこう言ってますが、編集長の俺としては盗作騒ぎが本当にあったのかどうか怪しいんですよね、メール送ってきただけで何がどれに盗作したのかとは書いてません、口だけならどうとでも言えます」
初めて黒影が口を開き未だに盗作が本当かどうかたくっちスノーと意見が合ってないことにも言及されるが、これもたくっちスノー達が現状そう思ってるだけと一蹴して話を続ける。
「知っての通り我々監理局は出版局から一方的に情報も介入も遮断されています、だから向こうが情報を規制させれば殆ど泣き寝入りするしかないと考えて悪質な手段を行った……ということも可能ではありませんか?」
「待て黒影、出版局が監理局にそんな嫌がらせをするメリットはあるのか?この3つの雑誌に陥れさせたいようなやましさはあるが……」
「ホワイトまでやましさ感じさせるのやめない?もちろんあるよ、監理局が市場を手中に収めようとするのを邪魔したいだろうし……俺は今日また新しい雑誌を発表するつもりだったからね」
「はあ!?聞いてないぞ黒影!」
「言える雰囲気じゃなかったからねこんな騒ぎの中、投稿したら絶対に評判は悪くなるよ……」
ゲームチャンピオンやホワイトもだが黒影はまたしてもバカ5人が知らない間に雑誌を作り出してきた、時空監理局が売り出した4本目の雑誌は『まんがタイムつばめ』
女の子が主題の萌え四コマ漫画が揃った雑誌であり、
リアルワールドで言うところの『きらら系』のようなものだ。
しかしたくっちスノーはいい顔出来なかったどころか青くなっていた、今まで全く知らされてない事実。
「……何やってんだ黒影、思わなかったのか?もしかしたらまんがタイムつばめが盗作疑いという第三の選択肢があったかもしれないのに」
「つばめはホワイト以上にあり得ない、だって連載されている十本は簡潔なお題をネットで募集俺が全部手動で描いたから、それを盗作というのはドラゴンボールを西遊記から盗作したと言ってるようなものだよ」
「……この後の話は会見とは別になる、今言えることは盗作していた作品は何なのか引き続き調査を行い、謝罪の意を示したい所存であります、この度は……」
◇
記者会見を終えてたくっちスノーは残りのバカ四人を集めて殴り込みをかけた。
「黒影!お前やってくれたな!あれが大逆転というのか!?」
「つばめを隠してたのは悪かったと思うよ?でもぴったり邪魔してきたなって思ったから却って利用してやろうと」
「先輩頭アルミホイルっすか?まだ発表してもない雑誌の人気蹴落とすためにでっちあげで盗作騒ぎしてくるとか考えてるんすか?タイミング被っただけとか思わねえのバカじゃねぇ?」
「それどころか出版局がそんなこと言ってないなんて報告出したらマッチポンプ宣伝と事実無根の名誉毀損で逆にこっちが炎上しますよ!?」
「あの記者会見も事実と受け止めるか本当と思ってなくてつばめの宣伝して意見がバラバラでハッシュタグ独占してるからねー」
こんな事があってまんがタイムつばめを売り出せる神経が凄いと一同は思うし、EXEは引き続きつばめの内容を確認してポチも流し見しているが……これがなんとも形容しがたい。
下手とかつまらないとかではなく、見ていて何も惹かれるものがない、右から左へ情報が流れていくような……例えるなら興味もない美術館や水族館を案内に導かれるまま歩いただけで終わるようなあの感覚。
「しかし魔法でホワイトを作ったのにコレは違うんだな……」
「だってポチでも漫画作れるんだよ?なら俺でも出来るかなって手動の方も試してみたんだ、魔法より時間はかかったけどね」
「俺でも……ってまあいいや、出版局に喧嘩売って今後が不安だよもう……」
「そもそも出版局は新時代に入って自分達が時空で本を売り出すとか言い出した連中じゃん、昔みたいに監理局が売れるようにすれば……」
騒ぎの中、たくっちスノーに謎の着信が入る。
電話をかけてくる相手なんてバカ四人と黒影はここにいるしフィルトナの番号ではない。
一応記録モードにしてかけてくると知らない声だった。
「もしもし……会いたい?貴方は一体何者なんで……え?それ本気で言ってます?うん自分一人で……はいわかりました、ごめんちょっと抜ける、EXE任せた」
「どこに行くんだ?」
「仕事の呼び出しだ、自分一人で来いとのことだが何か分かったらすぐ連絡する」
たくっちスノーはそれだけ言うといつものトンネルから別世界へと向かって出発した……。
♢
「うわぁマジか……なんというか最悪だな」
仕事で呼び出されたというのは嘘ではない、大事な相談話と言われて来てみれば待ち合わせ場所はいかにもお洒落なバーではないか、こういう場所はあまり行こうとも思わない上にそもそもお酒が飲めない。相手に恥をかかせないか不安に思いながら中に入る。
ドレスコードの事も考えて肉体ごと服装を変化させていると自分に手を振る人物がいたので隣に腰掛ける。
後ろを見ると酒の他にアイスのようなモノがある、調べてみると酒と一緒に極上のシャーベットを味わえるという店らしく安心して注文した。
隣の人物と名刺交換を行い、スプーンでシャーベットを食べながらたくっちスノーの方から話題を出す。
「……まさかこうして会えるとは思いませんでした、時空出版局さん」
応じてきたのは時空出版局の職員、名刺には坂口とありジャパニーズ系の世界出身らしい。
「貴方がたが時空出版局に入ることは出来ませんが、こちらからは好きに入れますからね」
「かといって……何故自分1人を?」
「貴方1人というより、黒影から貴方を離したかったといったところです……」
「となるとやはり用件は盗作について……教えてください、我々は何から何を盗作してしまったのです?」
「こちらからも聞きますが、ホワイトが黒影が魔法で全て作り出したというのは事実ですか?」
「つばめは黒影の人力っぽいが……ホワイトは絶対に人の手には作れないと思います、人の手とか温かみのあるとかそういう別のものを期待してるやつじゃなくて……イカれてるんですよホワイトは」
黒影の魔法で生まれたホワイトは人としてやってはいけない領域、我々が良心や倫理観と呼んでいる無意識に避けているデッドラインがある。
これを少しでも超えてしまうと問題になりかねないが、ホワイトはそれをあっさりと超えてしまうような……例えるなら1本の紐で繋がったギロチン。
それが盗作という別の方向性で紐が切れることになるとは……。
「確かに見ているとホワイトの作品は見ていて不安になりますね、登場人物達が同じ人の見た目をしているはずなのに全く別の生き物に見えてきます」
「なるほど、盗作と気付けない原因はコレか……同じ展開、設定のはずなのに倫理観1つ違うだけで別の存在に見えてくる……黒影は自分一人でやるから関わるなと言うが不安になってくる」
こんな状態でホワイトを続けることも不安なので、坂口と相談してどの道問題が起きてしまうのではないかと思い、ホワイトの権利を誰かに売ろうと考えている。
しかしこの雑誌を受け取りたい人なんているのだろうか。
「それは結構ですが例の編集長は?」
「1つくらいなら持ってっても構わないと言っていました、元々軽い気持ちで作ったものですし今はつばめがあるのでこだわりはないのでしょうかね」
シャーベットが溶けないように食べ進めながら、今回の話を済ませていく。
時空出版局と話せるとは思えなかったのでこうして済んで良かった。
お互い席を外して礼をする。
「今回はありがとうございました、この件はまた改めて世間に公開します……出版局と話せる機会がくるなんて」
「こちらこそ、こうして会うまで時空監理局に謝れるような方が居るとは思えませんでした……」
「自分らそんな風に思われてたんですか……」
◇
そして黒影は持ってても邪魔になるだけとあっさり放棄したホワイトの権利はミリィに渡して誰でもいいから適当な所に持っていけと頼まれる、早い話が在庫の押し付けだ。
しかしミリィにはアテがあった、ホワイトの権利をジルトーの研究所へと持ち帰り黒影には架空の友人の会社に譲ったと伝えた。
その架空の会社はサヤ達が動かす事で現実になる。
「あの野郎……よりによってこんなクソみたいな雑誌土産にしてきやがって」
「いや、少女漫画なら細かく考えることもない……要はミリィがやっているように各自でなんとかすればいいだけだろう、資金源が欲しいのはこちらも同じだ」
「アクアお前無関係みたいなツラしてるが俺達に女子向けなんてフワフワしたもの脳内にあると思ってんのかバーロー」
「舐めるな俺は年数で言えば百年以上アイ推ししてきた男だアイドル物くらいは理解できる」
研究所も研究所でドタバタ騒ぎとなっているが、ホワイトは松山達の手で生まれ変わり彼らの大事な資金源となることだろう。
唐突に書く人間が変われば雰囲気が変わるのではないのか?と懸念するものも居るかもしれないが、その心配はいらない。
「つばめ新刊できた!」
「ゲームチャンピオンの漫画ラフ画になってんじゃねえか黒影!」
「原稿持ってきたぞティー」
「誤植オオスギィ!やめたくなりますよ〜」
黒影の関心をなくしたホワイトは、もうすでに物語から外れている。
ネオジャンプを軸に巡る雑誌の話から外れた、この物語には関係のないものは全て割愛されることだろう。
そして最初からなかったかのようにホワイトの事は世間からも黒影からも忘れ去られる。
最終更新:2025年03月23日 20:13