逆だったかもしれねェ

「珍しいな、ミリィの方から自分と飯食いたいだなんて」

「まあね、たまには俺も相談したいことがあるんだよ」

 前にときめきジャンプの行く末を憂いた際の海鮮料理の店をたくっちスノーに紹介して食事を誘う、ヤマエビフライのサクサク具合が結構癖になる。
 一度黒影も誘おうとしたがエビが好きじゃないと断られてしまったので、誘える相手は今のところ彼くらいである。
 ときめきジャンプの編集部から誰かしら誘えないのかとも聞いたが、そもそもエビ食える相手が中々いないという。

「ゲームチャンピオンの調子はどう?凄いよね史上最強のRPGなんて」

「全然凄くない、ユーザーの意見を取り入れて最強のゲームなんて聞こえは良いが実際はシステムも要素も全部他人任せの手抜きといいところだ、リアルワールドだって本気でそんな凄いゲーム作ろうと思っているなら実績も名前も分からないゲーム会社で作り、ろくにコミックも出せてないパクリまみれの漫画家にコミカライズなんて頼むか……?黒影はわかってないんだよ、目に見えてくるやる気を」

 史上最強の後追いは現在難航している、アンケート自体は届くが結局のところ作成するのは黒影だしこれも全時空規模で売るゲーム作品だと思うと名前負けする印象しかない、ドラゴンファンタジー路線か電脳機関路線かも分かってないのに黒影はさっさと要素を取り込んで20%ぐらいまで作ったと言っている。
 ぶっちゃけこれもはじまりの書が欲しいだけで乗り気なようでゲーム自体には興味がないのだろう、しかしたくっちスノーとしては予算も余裕もあるので見てみたい、史上最強のRPGが実際に生まれる姿が……!

「バージョン商法は今どき売れないから無理だな、あの時ですら世界初とか目指して三タイトルやろうとしてたのぶっ飛んでたけどな」

「そんなにポケモンの勢いって凄かったの?」

「そりゃお前、アイツが生まれたゲームボーイの頃なんて大体アレの後追いでモンスターを集めたり育てたりするゲームが溢れたぞ?バージョン違いで出るモンスターが出るのも真似したし、例のRPG計画だってモンスター要素あったからな」

「じゃあそっちもモンスター系にする?」

「そうしたいところだがそうなると個性を出してなおかつパクリにならず、世界観に合わせて100体以上のモンスターデザインを描かなくちゃいけない、山田グレンやホワイトとかであんな事になった黒影にそれを任せるか?」

「ああ……」

 もしフレアブーストがここにいれば……収集系ゲームマニアの彼なら何かしら良い相談相手になっただろうがこの案件は自分には関われないし彼の存在は未だ秘密なので口を挟めない、エビフライを齧りながらたくっちスノーを応援する。
 ゲームチャンピオンの出来栄えが良くなったと評価されているのは出版局でも聞いているのだから。

「それで肝心なお前の方はどうだ?」

「まあ……今のところ問題はないけど、良いところもないってところかな、表向きのスパイ活動情報も当たり障りのないこと描くよ」

 監理局が出版局に行けないことを良いことにポチから推奨されて、坂口からの許可も得た上で根も葉もない情報を提供してカスの嘘を黒影に送り込んでいる。
 これで監理局のお給料が貰えるのだからこっちはボロい商売だが、ときめきジャンプの方はいまいち盛り上がれないという。
 せめてザンザザーンのようにこれだと天啓を得たような作品が欲しいし既存の作品にもアドバイスを何かしら送っているのだが恋愛に詳しくないので恋を盛り上げるのが難しいという。

「たくっちスノーは確か好きな女の人居たよね?」

「かなちゃん様のこと?今は黒影の秘書になっちゃったから会えてないけどね……本当にいい人だよ、セクハラするけどポチよりはマシだし、うん」

 前にかなづち大明神に会えたのはいつ頃だったか、元の世界でも活動しているし時空監理局局長の秘書って何をしているのか分からない、実はミリィやポチも会えたことは滅多になく一番何をしているのか分からないのは彼女である。
 その上今はド派手に忙しいので会う機会もない。

「たくっちスノーはその人のどういうところ好きになったとかある?」

「うーん……ほとんど一目惚れだったからな、かなちゃん様にまた会えたら思いつくかもしれないが、今はあのふわふわした感覚に溺れて精神的にハイになりたい」

「猫か何か?」

 ミリィは羨ましかった、サヤがシュウの話をしてくれたりした時にも思ったが誰かを心から好きになったことがまだない。
 まだ実年齢が生後数ヶ月と考えると早いものかもしれないが、いつか自分にもそんな人が出来ると思うと……何よりときめきジャンプに恋愛が必要と考えると……。

「あっ、そういえばぽぽりんエックス先生とはどう?今でもたくっちスノーのこと好きなんでしょ?」

「あんなの気の迷いだよ、あれくらいの事なんて大事なら誰だってやるし……自分よりも顔が良くて性格が良いやつなんていくらでもいるだろ?そういう奴見つけたらすぐ乗り換えるって」

「そういうものかな……?」

「そうだよ、リアルの恋ってそんなもんだぜ?」

「じゃあたくっちスノーは大明神さんよりいい女が居たら乗り換えるの?」

「うっ……お前、恋を知らない割に痛いところ突いてくるな、そうだな……うーん」

 たくっちスノーもなんとなく分かっていた、本気なのは知っていた。
 今となっては時空犯罪者という負い目があったので好になっても好かれることに抵抗がある、かなちゃんへの愛も本当は自分だけの一方通行で終わりたいと考えている。
 正直にぽぽりんエックスに自分を好きにならないでほしいと願うべきだろうか?たくっちスノーもまた愛について学ぶ必要がありそうだ。
 ミリィとたくっちスノーは1つの可能性に思い当たった。

「……ミリィ、お前って自分の身代わりとして作られたんだよな?」

「俺も今同じ事考えたけど……まさかホントにやるつもり?少しだけ入れ替わろうとか」

 一度ポチでもやった入れ替わり作戦、ただしミリィはたくっちスノーとほぼそっくりなので変身能力を使うまでもなく1日中溶け込める。
 ライセンスも顔が同じなので誤魔化しが利く、ミリィがゲームチャンピオンに入り、たくっちスノーはときめきジャンプの手伝いを行う作戦を思いついた。
 EXE達やポチには話しておくべきか悩んだが、バレないようにしたいから味方も欺くべきだろうとお互い黙って入れ替わり作業をやってみることにした。


 ミリィにとっては久しぶりの時空監理局、たくっちスノーは初めての出版局。
 副局長室に入ってみるとゲーム制作やコラム作りに苦戦した様子がそのまま残されており、ミリィはたくっちスノーに代わりゲームの続きを行う。
 データを見てみるとアイテムを1ミリも取り残さず検証プレイを幾度となく繰り返してデータのバックアップや複製も多い。
 5種類もセーブデータを残せるゲームにも関わらずどのデータもプレイ時間100時間超え、雑誌に使えそうな企画や裏技まで一通りメモり遊ぶ、楽しむというよりは徹底的な作業にしか見えない。

「今月載せる企画は新作パーティーゲームか……アドバイスを書くために何十回も試行錯誤して最適ルートやおすすめの戦術を確立しているのか、普段あんなんだけどマメなんだよなたくっちスノーは……」

 目的は史上最強のRPG計画のほうだ、すでにホワイトボードに数々のネタやシステム案、好きなものがまとめられておりこれを元にしてゲームが完成するようだ。
 ひとまず今月号はこの時までの集計とゲーム画面のスクショを軽く投稿しておけばファンも納得することだろう。
 実際にどんな要素が人気なのか調べてみるとやはりRPGの定番はドラゴンファンタジー系の異世界冒険譚。
 それも異世界転生してチートスキルで無双するというお馴染みの人気ジャンルだが、考えてみればそれをゲームでやるというのはあまり聞いたことないので試みとしては悪くないとたくっちスノーも考えたのだろう。
 ゲームとして成立させるためにシステム周りやチートスキル、ゲームを盛り上げる要素をアンケートから拾い上げていかに落とし込むか?を考えた形跡が汚く残されている。

「実際、俺ツエーチートをゲームにした上で大衆向けに面白くってどうすればいいんだろう?チート過ぎるとゲームとして簡単過ぎて面白くなくなるし……かといって難易度に合わせるとこの手の作品特有の魅力も薄れる、たくっちスノーはこのバランス調整に悩んでたわけだな」

 これがゲーム制作陣ならめちゃくちゃ悩んでいることだろう、ひとますミリィは正直に作成コラムにも求められている要素とゲーム敵難易度の調整に難航しています(笑)と書き加えてネタに昇華しつつ考え込む。
 こういう時はゲーム作りしている黒影に相談しようと黒影の所に向かう。


 そしてたくっちスノーの方はというと、連載作品を見てときめきジャンプのレベルの高さを改めて実感するも確かに突飛したクオリティの作品を求めるという贅沢も分かりたくなる。
 打ち合わせもスムーズに行い、完全に自分がミリィではないとバレてないようだ。

「あっ、ときめきジャンプの付録案?この雑誌付録とかあるんだ」

「ああ、付録って子供っぽいイメージはあるけどやっまぱり付いてたら嬉しいだろ?ときめきジャンプにも今度から月の最初だけ付属することにしたんだ」

「決めたのはカンコーヒーだ、3ヶ月分の付録をどうするかってことで最初に用意したのはこれだ」

 ときめきジャンプ最初の付録はキャラクターが一通り描かれた恋する手帳、手帳としても使える他に各キャラクターのプロフィールなどが一通り載っていて恋の応援にも役に立つ。
 余った分は編集者達が私物として利用している。
 既に工場から大量生産されてときめきジャンプと同じ数だけ在庫が溜まっておりまとめて売り出せる状況だ。

 「でもそれってときめきジャンプが売れなかったら同じ数だけ手帳も在庫が溜まるんじゃ……」

 「確かにリスクはあるが、それが怖くて雑誌なんて売れないからね……まあ時空規模だし気にする量も多いのは確かだ」

 「ビビったこと言ってんな、あまり出すぎたマネはするなよ」

 「……あ、そうか悪い、今のは忘れてくれ」

 たくっちスノーはこういう時あっさりと引き下がる、場の空気を乱しやすい性格なのは理解しているので下手に出てしまうのが監理局に入った時の悪い癖だ、肝心なのは人を不快にさせないこと……上には従うこと。
 そういえばポチを見ていない、こういう時サボるような性格にも見えないので何かあったのだろうと探していると冷や汗をかきながらドアを開けて現れてくる。
 両手には原稿を抱えていた。

「おい犬っころ!三十分の遅刻だ漫画家なら拳案件だぞ!」

「それヤバメ君とこの担当だけだよ……それでなんで遅刻したの?」

「いやー……今回俺から送られてきた漫画が中々ヤバかったんでどうしようかと焦ってたんですよ、ルーシアちゃんにも何回も電話したんですけど……」

「そんなにヤバかったの今回の内容」

「ああ……こればかりは俺も度肝を抜いたよ、皆も確認してほしい」

 そう言ってポチが広げた原稿、話の展開はというとヒロインが主人公に迫って……はっきりと断言されてはいないが描写的にはどう見ても濡れ場……!お色気シーンとかジャンプでK点超えたとかそんなレベルじゃない、ヒロインと主人公が一気に大人の階段を越えた!
 ここに本物のミリィがいなくて良かったと思いながらたくっちスノーも本気でビックリした!仮にも健全な少年誌でここまで描く作者が存在したことに!それは他のときめきジャンプ編集者達も同じだったらしく驚愕の表情を隠せない。

「え……この人年齢層わかってる?」

「ToLOVEるだって今はまずいのに……」

「エロいの大好きなポチがビビるくらいだから相当だぞ」

「俺だって昔から健全とそれ以外のラインは理解してるよ!でもなんかルーシアちゃんが承認欲求に呑まれかけてて、色気展開になれば売れるからって……乳首とか出してないし合体してないから大丈夫だって!!」

「全然大丈夫なわけあるか!!この雑誌潰す気か!」

「ごめんみんな!俺と一緒にルーシアちゃん説得して!!」


「黒影、ゲーム計画は今のところこんな感じだけど」

「うん、史上最強と言うだけあって俺ツエーで気持ちよく敵を倒してチヤホヤされるゲームを作らないとね」

「その件なんだけど……」

 一方ミリィは黒影に相談して新作RPGの要素、新たにアンケートで加えたいシステムやキャラクターなどを相談していた、何より肝心なのはバランス調整。
 ゲームとして成立する為にただ強いだけでは面白くないと主張していた。
 もちろん圧倒的強さやチート性能自体が悪いのではなく作り方次第では評価点に昇華出来るという考えのもとチートスキルの扱い方をプレゼンしていた。

「他のゲームを参考にシステムを考えてみた、たとえばブレスオブファイアという作品には強い形態がありますがゲーム中ずっと特定の数値が蓄積されていき満タンになると強制ゲームオーバーになるとか……メグとばけものというゲームは主人公は強いけど特殊で女の子を怯えさせないようにあやしたり様子を見ながら戦闘を行います」

「これをどう異世界転生チートに使うの?」

「この手のチート物の主人公は派手に活躍して目立つことを嫌うパターンもある、チートを使って結果を残しながらも周囲から評価されるのは面倒だから嫌だと有象無象に振る舞うことを好むだろう?」

「うんうん、こうして見てると監理局の面々とそう変わらないよね異世界チート転生者って」

「そこで戦闘からイベント、移動中に至るまで知名度のようなパラメータを用意して如何に目立たない冒険者として振る舞いながら好きに冒険出来るかというゲームにしようかと……強すぎると尊敬を通り越してビビるとかになっ!!」

 まだプレゼン中にも関わらず理不尽に蹴り飛ばされるミリィ、ドクロ丸を抜いて反撃しようとも考えたがここは冷静に聞き返すことにした。

「何事かなこれ?局長の態度じゃないでしょうに」

「君、ちょっとネタ思いついたからって俺のゲームに爪痕残そうとしてない?これは俺と読者様のネタのゲームだよ、それに派手に活躍してチヤホヤしてもらうのがいいんじゃないか、雑魚にいちいち気を遣ってられないよ、分かる?ストレスになる要素作るくらいなら真面目野郎しか気にしてないバランスなんて考えるだけ無駄なんだよ、たくっちスノーには分かんないだろうけどね」

 どこかの似たような見た目の強欲な奴みたいにネチネチとたくっちスノーを足蹴にしながら文句を言う。
 黒影は笑ってる、笑っているけど圧が強い……たくっちスノーに舐められた気がしてならないがミリィの態度は変わらない。

「ん?なんだ、君ミリィだったのか……たくっちスノーも酷いことするものだ、アイツの給料から君に慰謝料でも用意しておくよ、部下のアイデアならやっぱり検討しておこうかな」

 黒影はさっきの振る舞いだけでミリィと見抜いた、何故?同じ顔で同じ姿、同じ振る舞い……創造主だからって気付けるはずがない。
 判断できるとするならさっきの態度……?ミリィは唖然とするが黒影は耳打ちする。

「君はアイツと違って態度がまだ子供っぽいね、ここで働くならもう少し大人になりなよ」

 ◇

 (ああ……クソっ!不老不死なのにゲーム疲れが成分全体に残ってやがる)

 同じ頃作業中のたくっちスノーはゲームチャンピオン担当のための過酷な作業疲れが抜け落ちておらず些細な所でミスしそうになってしまい焦りが抜けない。
 自分がやらかしたら編集長や仲間に迷惑をかけてしまう、これ以上余計な苦労をかけてはいけない、自分に問題があるからこんなことで躓いてはいけない。

「君……休んだほうがいいんじゃないのか?顔色が……」

「さっき休んだばかりだ!こんなの局長にバレたらどやされるぞ……ダメだろこんな事言われるようじゃ!まだ限界見えないだけだ、僕は」

「たくっちスノー、ミリィはどこ?」

「っ……!?」

 同じタイミングでたくっちスノーはポチに勘付かれていた、こんな顔していたポチ初めて見たかもしれない。
 バレたからには出るしかないとミリィに連絡を入れようとするがその前にポチに凄い腕力で止められる。

「なんでこんな事しようと思ったの?」

「自分がときめきジャンプを通して……ゲーちゃんのいいネタ見つけられると思ったからだ、その為にミリィをちょっと利用する形になったが」

「ふむ、その言い方だとミリィの方から相談してきたんだ」

「えっ、どうして分かるんですか?」

「その前にたくっちスノーはミリィと代わってきなよ、監理局で何されてるか分からないし」

 ポチはさりげなく最新ゲームの攻略法が書かれたシートを渡しながらたくっちスノーを帰らせたあとに編集者達に話す、ミリィが帰ってくるまで……ミリィにも言えないポチが隠してきたこと。

「たくっちスノーはミリィそっくりだけど俺からすれば全然違う、あいつはね……乱暴者で大人ぶってるけど怖がりなんだ、ミスしたらどうなるか分かんないって顔で絶対成功させないとって上の機嫌ばかり気にして……自分のせいで誰かに迷惑かかるって事を極端に恐れている、自分がちゃんと出来ないから悪い……そう教えられたみたいにね」

「それって……」

「…………みんな、ミリィの事気遣ってくれてありがとう、あいつのコネ作り羨ましいな……さて、仕事しようか」
最終更新:2025年03月23日 20:42