そしてanchorに至る

 バカ5人が揃ったのはいつ以来だろうか。
 しかもそれだけではない、フィルトナ、ルーシア、坂口……あとポチが連れてきたこれまでのネオジャンプときめきジャンプ作者まで野次馬のように集まっていった!
 テーマは当然少年アンカーとコミックSSについてである。

「この2冊の雑誌は専用の掲示板でスレを立ててそういうのが得意な人にレスを書いてもらい、その作品を黒影がそのまま漫画に変換するという手法を行っている」

「ならまんがタイムつばめよりはコントロールが利くのではないのか?」

「いやいや……ご丁寧にIDが公開されてるから誰が書き込んでるかすぐに分かる、経験上監理局のセキュリティをもってすればどんなVPNやWiFiも突破してIPが筒抜けだからから何をしても同じ人が自演してるってバレる」

「つまりポチがあれこれするのは不可能で……少年アンカーもSSも今の流れだとまずいってこと?」

「ミリィはネットに詳しくないから知らないか……ほら見てて、掲示板の流れ!」

 少年アンカーの掲示板にアクセスして特定作品のスレに入り込む。
 思ったより人が多くアクセス数は今確認しているたくっちスノー達を除いても1スレ200人越え。
 まさかここまで人が入ってくると思わなかったたくっちスノーは早期に対策を考えなくてはならない……。

「今安価ストーリーどんな感じだ!?」

「確かこの作品、剣と魔法のファンタジーなのにずっと味噌汁の話で揉めてる……」

「なんで?(殺意)」

「途中の安価で変なもの踏んでしまったのかもしれない……次の安価来るよ!とりあえず流れを戻すように自然な流れでレスして!」

「無茶言うな!漫画家でもネタがすぐに思いつくわけ」

 75作ろうぜ!あんな作品!14:56:18
 味噌といったら御充電

 76作ろうぜ!あんな作品!14:56:19
 もう味噌汁の話はいいよバカ

「何ぃーッ!!?ピッタリの安価で変なのが来た!?」

「しまったスナイパーがいた!たまに安価スレで意図的に変な流れを誘導するためにずっと待機してるやつがいるんだよ!」

 味噌汁の流れが止まらない、安価作品の話はどんどん歪んでいってしまう、というか御充電ってどんな味噌だよとツッコミたくなるがそれどころではないたくっちスノー。
 別の安価スレの方でも問題が起きた。

120作ろうぜ!あんな作品!
ksk

121作ろうぜ!あんな作品!
ksk

122作ろうぜ!あんな作品!
ksk

「だあーーッ!!!スレ加速しすぎた!!」

「加速しすぎて安価追い越しちまった!だから遠い安価は嫌いなんだよ!いちいちネタ思いつくわけじゃねえっての!!」

「ねえ……この場合どうなるの?」

「俺だったら安価下を拾うとかするけどものの見事に全加速だからな……最安価とかするのかな?」

 更にまた別に安価スレでも問題発生、スナイパーに安価でもされたのかと次から次へと確認作業を進めていると……。

 171作ろうぜ!あんな作品!
 うんち!w💩

「とんでもねえところに安価届いた!!」

「安価スナイパーする人なんて大体真面目な流れにする気ないですからね……」

 だが様子がおかしい、スレの更新が止まらないのに話の流れが変わらない、というかIDが同じ……!これは。

245作ろうぜ!あんな作品!
278作ろうぜ!あんな作品!
300作ろうぜ!あんな作品!

「いや違う!!これただの荒らしだ!!クソみたいな文を連投して書き込めないようにしてる!」

「ファッ!?そんなのBANされないんスか!監理局にIPバレバレなのに!?」

「運営が監理局って知らないんだ!時空ニュース自体どこでも流れてるものじゃないし無名の会社借りてやがる!悪質ァ!!」


 悪戦苦闘してスレを確認すること1時間、こんな悪意と好き放題が蔓延るこのサイトから1つのエピソードを作ることなんて不可能だ。
 しかも面白がってやっている者の持続性も期待出来ない上に安価スレは狙ってやるものではなく暇潰しにやるくらい、それが何スレもあるのではいちいち相手をしてられない。
 断言するがこのサイトはあっという間に過疎って発行までには至らない!!

「黒影はこれを想定してると思う?」

「してたら試してないよ……どうするよこれ、俺たちで相手できるか?」

「掲示板運営は編集者とは全然違うよ!?こんなのいちいち構ってられねえっての!」

「ま、待ってこのサイト……ガイドラインすらない!?」

意図的だろう、ガイドラインを用意してネタを狭めてしまったら面白くないと黒影が判断してわざと何もしないようにしている、黒影はルールで縛られるのを昔から嫌がり自由なスタイルを愛している傾向がある。
 ボケカス(ゲーム)もそれで自由になりすぎてたくっちスノーやゲーム会社が調整に苦労した苦い思い出もある。

「とりあえずどうする?」

「黒影にこのままじゃ人が来なくなってヤバいと正直に伝えてくる!!」

「それでまた拗ねて発行しませーんとかなるかもしれないでしょ?」

「それはそれで問題なし!」

 たくっちスノーが大急ぎで局長室に向かう、だがその次……アンカーよりも問題視すべきなのはこのコミックSSである。
 大昔ネットに存在していた人気作品をもじった短編ネタ作品、有名なものはドラえもんやサザエさん、コナンといった子供向けアニメを濃く改変したものが多いがその内容は口で表すには難しい過激な領域をあっさり踏む、黒影が平然と越えているラインを狙って踏み越えるのだ。

「ねえ、こういうのって怒られたり訴えられたりするんじゃ……」

「するだろうね、でもこれを先導してやっているのは監理局としてもメイドウィンとしてもトップの男だ……」

「揉み消せるというより自分に何か言えるわけないと?」

「あっ、おい待てぃ、お前肝心な所忘れてるぞ……あの単細胞がそんな単純な考えでこんなことすると思う?」

『俺はこれまで色んな人を助けてるんだから、そんな人達が俺を怒る道理なんてどこにもないと思う』

「ってあいつなら言うゾ」

「戯言はまずボランティア活動でも出来るようになっめから言ってみろって話ですね……」

 しかしこのままでは二大雑誌はそもそも作る段階にも入れないし話にもならない。
 ポチはひとまずSNSに情報を流してSSコミックのこと、少年アンカーのシステムを広めるという名目で広めてみるが、EXE達もいつまでも構ってられないので掲示板にちょっとしたロック機能を付けてもらいボケナスの情報を見ることに。
 とにかくクロスハンターの二の舞になるのは嫌だったので徹底的にこだわったこの作品は絶賛とはいかずネットで物議を醸して異世界転生系を愚弄するようなチャンネルから酷評動画とかも作られたが、そういった物を好む層からは絶大的な支持を得られたようだ。
 ここに来て初めてこの手の業界で人々に評価されている気がして楽になる四人、頑張ったたくっちスノーを労おうとデンジャードッグも用意していた。
 更に……。

「見ろ、ゲームチャンピオンへのファンレターがこんなに来た」

「ファンレターか、ゲーム雑誌ならではだよなー」

「我々も色んなジャンルを手掛けてますが、家庭用ゲーム雑誌だけは監理局が上を行っているようですね」

 そういえば自分達へのファンレターなんて届いたことなんてないので新鮮な気持ちで手紙を眺める、ネオジャンプを担当しても作者達からは感謝されるがこういった物は一度も届かないので羨ましくもあった。
 フィルトナやルーシアら作者達もそれぞれの雑誌やポチ達について話したり褒めたりと、バカ5人がようやく報われたように感じる。

「……そういえば、その局長って編集長なのよね……?労ったり評価とかしてくれないわけ……?」

「しないしない!あいつ善意とかいうくせに仲間は当たり前のように120%を求めるんスよ、本当にブラック企業!」

「好きにやらせているが部下の責任取ってないこと気付いてないからな……」

「なるほど……時空監理局内部にすら隔たりがあったとは……」

 しばらく話しているとヘトヘトな様子でたくっちスノーが帰ってくる、どうやら何の進展なしで話だけして終わってしまったという最悪のパターンを引いてしまったらしい。
 ぐったりしながらファンレターを一緒になって眺める。

「この世に人間を見下したり興味のない神様は沢山いれど、人間を舐めている神様ってそうそういないだろうな……信じているっていうか、コンビニ弁当どころかその辺の物でも美味いうまいと思ってそうで」

「で、あいつはその辺から添加物まみれの弁当を無から提供してほら美味しいだろ?とか言うんすよ、自炊したこともないのに料理人名乗ってんだから笑っちゃうぜ?」

「……まぁウダウダ言ってもしょうがねえ、ひとまず掲示板運営をネットで雇って密かにガイドラインも作成!荒らしは徹底的にBANして最低限作品になるものにするんだ!始めておいてやっぱダメでしたなんてみっともないのはちょっと癪に障るからな!」

「あっ……ごめん、それに関してなんだけど……黒影局長のやつ、もう少年アンカーとコミックSSを作って本にしたとか突然メールで」

「ファッ!?」

 たくっちスノーが慌ててマガフォンを確認すると本当に雑誌が完成したと発表されていた、信じられないことに……本にしたということは掲示板の内容を確認したということである、あの埋め立て荒らしが現れたり予期せぬ安価で話が斜め下に逸れたり話として成立させようという気がなかったあの作品、あれを本になんて出来るはずがない!そう思っていたのに実際に完成してしまっている……。

「急いでチェックに回れ!黒影のやつちゃんと見てるのか!?……EXEは念の為設備をチェックしておけ!」

「……たくっちスノーさん、貴方こうしてみると本当に副局長みたいですね」

「みたいじゃなくてそうなの!坂口さん達も電子出張システムを切って出版局に戻ってください、黒影が来るんで!」

「はい、ではまた!」

 実はこれまで質量のあるバーチャル映像だった坂口達は通信を切りポチがログを削除して痕跡を徹底的に消す。
 どうにもならないこの騒ぎを5人がてんやわんやわっしょいわっしょいどすこいどすこいとお祭り騒ぎの中、一部面々にとってはこの事業ではそれなりに久しぶりに黒影の顔を見たような気がする。

「ああ、えーと何人目の分身くんだっけ?」

「知るか!事業が多すぎて分身ハンマーも過労死するレベルなんだよ、増える5人!それより黒影……マジで作っちまったのかよあの出来で!」

「少年アンカーのこと?そんなに心配しなくても大丈夫だって、動画配信のアフィリエイト動画とかまとめサイトとか、結構気軽に問題なく投稿してるでしょ?」

「個人の趣味感覚のビジネスならな!というか、ちゃんと見た?安価スレってたった1人の悪意でめちゃくちゃになるのに時空規模掲示板にしたら目も当てられなくなるぞ!」

「ポチだって某掲示板で無双してたでしょ?人間数多くいるんだから挽回だって余裕で……」

「ティー、大変だ!!この印刷機を見ろ!!」

「うわぁ直接持ってくるなバカハリネズミ!!」

 パニック状態のように印刷装置を両腕で担ぎ、壁を壊しながら突っ込んでたくっちスノーとメイドウィンが話してくるEXE、一番パニクった時にヤバいのは実は彼だったりして印刷機がたくっちスノーの頭にめり込むがそれでも尚雑誌を作り続ける、何かと思えばこれも黒影の特別な力で作り出したものらしい。
 まず監理局内に設立されたサーバーが完全に少年アンカー、コミックSSの掲示板サイトとリンクしてAIが自動で文字の内容を読み取って絵に変換、漫画にして実物の少年アンカーが完成するという。

「頼むからその超技術をこんなしょうもないことに使わないでくれ!というかなんでそんな実本にこだわるんだ!」

「監理局って本当に凄いもの作って誇らしいよね!」

「へっ凄いもの作らないやつは記憶に留めないくせに………」

「うーん、しっかり作られているね!」

「どこが!?リレー小説ですら息を合わせる必要があるのに真面目にヤラなくていい雰囲気出したら、そりゃ期待してた人も離れてろくでもないやつしか残らんわ!」

 話してる最中だがマガフォンが突如として熱を帯びて燃え始める。
 とりあえず付けておいた機能だがマガフォンでSNSを見ている時フォロワーのネット炎上を感知すると燃え上がるように出来ている、マガイモノは火傷しないので問題ないとちょっとしたドッキリのような物だがこれが見事に燃える!焼き芋が作れそうなくらいに炎が止まらない!

「どうやらネット炎上してるみたい……うちのアカウントじゃないといいけど」

「おいゴルァ!監理局のアカウント見ろよこれ!!熱いけど語録も言ってらんねえくらいだわ!原因は言うまでもなくあの二つの雑誌の掲示板、体制、内容、仕組み、というか存在そのもの!!」

「なんでこんなことに……」

「……人間の悪意を軽く見ていたからって感じ?オブラートに包むと、まあ黒影にも分かるように言うとね、この雑誌相手にしようにも性格の悪い奴がいっぱいで厄介ねーって話、だからガイドライン付けようって言ったの!」

「お前こいつとさっきどんな話してたんスか……まあ見ての通りこの始末なんだよなぁ?どうしてくれるよ」

「うーーん……まさかこんなにリスク高いものだったとは想定外だったなぁ……これ赤字になるやつ?」

「なるね、ここまでのネオジャンプの頑張りも自分達がゲームチャンピオンで上手くやった分も全部台無しになりかねないよ」

「うーーーん、そうかぁ……少年アンカーは面白いアイデアだと思ったんだけどなぁ、人の扱いというのは難しいものだね」

 黒影は本当に想定外だったらしく、アンカーの悪評やSSに激怒する声に本当に困った様子を見せる、悪評なんて声がデカいだけという考え方もしようとしたが黒影から見ても見過ごせないくらいの事態に陥っていることを理解せざるを得ない。
 一応まだ本屋に置いていないのでまだ挽回の余地はある、ガイドラインや確認などを行い改めて作り直そうと提案しようとしたが……。

「よし分かった、この雑誌作るのやめるよ!こんなリスクまみれの中作り続けるのも大変だしね」

 こういう時の黒影はめちゃくちゃ思い切りがいい、はじまりの書を作ることが主軸と考えるとわからなくもない話だが色々準備して時間も潰しておいてあっさりと企画は終わってしまいSNSで書き込みを行う。

「おい、迂闊な発言すると余計に燃えるから言葉には気をつけろよ!」

「もちろんそれくらいわかってるよー」


 そして数日後……正式にネオジャンプに復帰したようでゲームコラムなどにEXE達を巻き込みながら雑誌を作っていくたくっちスノー。
 楽しくやっていたが架空キャラの受け答えやボケツッコミにも限界が来ていたので生の声が欲しかったところだという。
 3人だと出来るゲームも限られているので、相変わらず分身は欠かせない。

「しかしよ、時空監理局って大体しょうもないことしかしてないけど技術だけは本当に凄いよな」

「本当にしょうもないことばっかりに使ってるのはルールで禁止スよね」

「……言われてみれば何故メイは大掛かりな事はしない?何でも出来て善意を振りまきたいなら、干ばつした世界に雨を降らせるとか魔王から姫を助けるとかやりようはいくらでもあるはずだが」

「…………僕も黒影も、なんでもありなようで不器用なんだよ、それこそ勇者と魔王の戦争も止められないくらいにはね」

「あっ、その話だけどボケナス結構売れたスね、てっきり俺バカにされてるとかで炎上するか露骨すぎてワゴン行きすると思ってたんだよなぁ」

「どんなにコケにされても供給が続いている以上、間違いなく需要はあるってことだからね……ほらEXE、今日はパズルゲームやろうか」

「いいな、落ち物ゲームならオレもよくぷよぷよやっているし負ける気はしない」

 ようやく気分が落ち着き、雑誌作りがてらゲームプレイも嗜む余裕が出来た。
 少年アンカーとコミックSSも結果的にはアレが実際に本屋さんに流れなくて良かったと考えて忘れようとするが、こういう危ないネタほど記憶にこびりついて離れない。
 ゲーム片手に軽く連鎖を重ねながらマガフォンで調べてみると……。

「げっ!!掲示板まだ残ってる!」

「嘘だろ……普通無理ってなったらサイト切るものじゃないスか」

 少年アンカーとコミックSSの掲示板は何故かそのまま残されており、人は完全におらず過疎りきっていた。
 まあ、安価スレ作りたいならポチも行きつけの例のサイトがあるしこの手のSS自体今では風化したコンテンツである、一言で言えば時代がそれを求めていなかった。
 それに気づけなかった黒影も止められなかったたくっちスノーも同罪だが、放置されたサイトほど恐ろしいものもないのでどうにかしようとしたが……アクセスできない。

「捨てたってそういうこと!?まさか雑に監理権すら放棄して……もう誰にも消すことも止めることも出来なくなった……ってコト!?」

「あ……あいつ、捨てるとかうそだよ……絶対なあなあに済ませて暫く経った後に何食わぬ気で投稿する気満々だゾ」

「しかもIDを消している……ポチのあのサイトみたいに自演がまかり通るようにして人の少なさをごまかそうとしている……姑息、姑息すぎるぞメイ!」

 改めてたくっちスノーは実感する、シャドー・メイドウィン・黒影は誰にも邪魔されずにやりたいと思った時、誰にも止めることは出来ないと。
最終更新:2025年03月23日 20:45