一大事が波のよう

たくっちスノー、ここよ」

「……よ、よりによって『ドラゴンクエスト』の竜王の城でやるのかよ、チャレンジャーすぎるな」

 たくっちスノーとフィルトナはブンゴに教えてもらった兄弟達に会うためにオフ会に向かっていた。
 その場所とは『ドラゴンクエスト』の最深部である竜王の居る城がある所の更に下に勝手に基地を作ったらしい。
 更にはブンゴの言葉が正解ならクッパ城とかエッグプラネットとか悪役の拠点の地下のあちこちで合流地点を建てているとか、悪役の根城は状況把握がしやすいし地下まで攻撃することはないので思っているよりは安全である……というがカラス基準なのでここだけは少し不安に思っていた。

「というか、竜王の城に作ったら普通に勇者にバレて大変なことになりそうだが……」

「まだ勇者が世界を半分にの質問にはいって答える可能性も……」

「あのねそれだとビルダーズしないといけなくなるの、別のメイドウィンの管轄なの!」

 ツッコミを入れながらも真っ暗な階段を降りていくと、ろうそくだけが灯の薄暗い場所に何人かの人影。
 どうやらこれが自分達の兄弟らしい。

「紹介するわたくっちスノー、ブンゴ兄さんからの資料によると……ブリ大根侍さん、ナント・ハンマーさん……あと紫雨チウさん?」

「なにそれネットのハンドルネーム?……いや、ネーミングに関しては自分らが言えた話じゃなかったな姉さん」

 なにせゆっくり実況者の名前2つ合わせただけと、ルフィとナルトの名前混ぜただけの2人だ、名称なんて大したことではない。
 それよりもこのオフ会の目的だ、たくっちスノーの兄弟である以上聞きたいことがたくさんある。

「こっちから聞きたいことは僕が時空犯罪者だったとき何をしていたのか?どうして集まってくれたのか……それを聞かせてくれたら時空監理局で伝えていい範囲の情報を公開する」

 ……

 10分後。

「OK、大体フィルトナ姉さんの時と同じで黒影に近付くつもりだったと……もしかして僕に近付くように誘導したのもブンゴ兄さんだったりして」

「多分そうかも……私もブンゴ兄さんのことを知ったのは結構後だけど、漫画描いてみないかって勧められた後にちょうどネオジャンプの連載が始まったから……」

「それで、そちらも時空出版局の案内で記者だったり、小説を出版してたりと……なるほどね」

 こういうことに関しては自分達よりブンゴの方がかなり上手だったようだ。
 時空新事業が始まる前から専門職は結集しブンゴも以前からそれなりの知識を得ていたようである、今回の作戦もブンゴに教えてもらってなんとか形だけで終わらせる形なので本当に時空監理局は後手に回ってばかりである。
 素人5人が好奇心で実行出来ただけでも大したものだとフォローしてくれた、何よりも黒影の手綱を引けているのは自分には出来ないとマジで褒めてくれたりも。

「じゃあ後はフィルトナ姉さんに任せるよ」

「えっ、たくっちスノーはもういいの?」

「本当はもう少し居たかったけどね、ネオジャンプ作者達とのオフ会も控えててそっちを優先したいんだ」

「そんなの分身とか使えばいいのに」

「あのねあれ一応仕事で使ってるからね、経費とかもかかるんだよ……じゃあ姉さんオフ会楽しんでね」

 たくっちスノーは顔を見て状況だけ知った上でフィルトナに全部任せてオフ会から退散、せっかくドラクエの世界なのでルーラを使って一気に時空監理局に帰還する。
 残されたフィルトナはそのまま兄達と話を続ける。

「ねえ、貴方達もブンゴ兄さんに勧められて……今の道に居るんだよね?その時のこと……聞かせて欲しいな!」


「あれ?たくっちスノーもう戻ってきたの?」

「ああ、兄弟を探す気はあるけど犯罪とかしてないなら別にいいかなって」

 ルーラで一気にポチの所まで戻り、気分で時空列車に乗って今度はネオジャンプのオフ会へ向かう。
 ワープの手段はいくらでもあるが移動手段にはロマンがある、他の作品で例えるなら無駄を楽しむというやつだ。
 ポチと電車に乗りながら昔の作者達の思い出を振り返る。

「EXEや田所も誘いたかったんだが……黒影がそこまで許してくれなかった」

「まあ仕方ないよ、例の作戦の為にも……いや、それどころじゃなかったよねたくっちスノー」

「いや、それどころじゃないからこそ早めに済ませておきたいみたいなものはある……テレパシーで見たポチの情報確かなの?」

「うん……俺が出向いてる現場だし、田所くんも居るところだから嘘ついてもしょうがないよ……マガイジンが出た。」

 マガイジン、それはマガイモノの性質を持ちながらメイドウィンを両立した……ゼロ・ラグナロクで初めて発見された異質の存在、黒影はこのマガイジンの研究を重ねていたがテレパシーで拾った他事業を行っている分身の情報によるとこの技術が外部に漏洩してしまい、新たに強力なマガイジンが生まれたという、それ以外のところでも。
 マガイジンを作った存在は同一存在らしい、その証拠としてマガイモノの素材にモンスターハンター世界の強力なモンスター『二つ名』と呼ばれる存在を成分として採用しているとあうのだ。
 ちょうど新聞でも『鏖魔』ディアブロスのマガイジンと『金雷公』ジンオウガのマガイジンが激突したと一面があり、その場所には数々のヒーローや時空犯罪者も集まっていたという。

「……向こうのポチ大丈夫かな?」

「大丈夫でしょ俺しぶといし……それより問題はそれ以外だよね、たくっちスノーやEXE君が聞くにはそことは別で『白疾風』ナルガクルガ、『矛砕』ダイミョウザザミの例だってあるんでしょ?」

「……しかしなんで二つ名モンスターなんだ、そりゃ強いけどさぁ……メイドウィンとしての世界の情報はどう?」

「うーんダメ……メイドウィンブラストは使ってる所見えたんだけどどんな世界なのかさっぱり検討もつかない……」

「……そこは改めて合体した時に判断しよう、まだ新事業は終わってない所も山ほどある」

「うん、それに俺たちは今オフ会だもんね!」

 電車は止まりタクシーに乗り換えて豪華なホテルへと到着、ネオジャンプを始めたばかりの事を振り返るとこんな所でオフ会が出来るほどの規模になるとは思わないだろう。
 たくっちスノー達は時空犯罪者でも襲ってこないかと不安に思いながら部屋に荷物を置くと、部屋には既にドレスを着た綺麗な女性がベッドの上に座っていた。

「あれ?君は一体」

「あ……えっと、無理言って同じ部屋にしてもらいました、どうしても貴方に会いたくて……」

「ああ、もしかしなくてもぽぽりんエックス先生?」

「え!?君ぽぽりんちゃん!?綺麗になりすぎてわからなかったよ!」

 なんと同じ席に居たのはあのぽぽりんエックス、たくっちスノーやポチがネオジャンプで面倒を見ていた頃の素朴な印象から大きく変化して化粧までしている。
 たくっちスノーに久しぶりに会うためにめちゃくちゃ気合い入れていることが自ずと察せられるしたくっちスノーもあれから大人の階段登ったので恋心もじっくり理解できる、その上でまさか自分に会うためにここまで気合い入れたわけじゃないよな?と不安になる。

「他の作者さん達は?」

「もう既に集まってます、今日は泊まり込みで話したいって全員で決めて……」

「俺もそのつもりだよ!ギリギリまで徹夜……は同じ漫画家として認められないけどめちゃくちゃ楽しむつもりでいこう!じゃあ俺久しぶりにリヴァイアサン先生に会いに行ってくるからお楽しみに!」

「あっちょっとポチ!」

 ポチは空気を読んだのかそれとも本当にリヴァイアサンに会いたかったのか、ぽぽりんエックスとたくっちスノーを二人きりにして部屋から出ていく。
 たくっちスノーも出ようか悩んだが空気は読めるので残っているが、2人きりで気まずい。
 話題も特に出てこないし現在のネオジャンプの過酷で投げやりな話を今の彼女にしていいものかと汗が出てきそうだ。
 困っているのを察したのかぽぽりんエックスが話題を振る。

「覚えてますか?スランプで困ってる時にわたしにネタの相談をしてくれた時のこと」

「ああ、本当はポチになったつもりだったんだけど構いすぎちゃったな……」

「あの時のエビチリの作り方教えてもらってもいいですか?」

「作り方?無いよそんなの、余ってる野菜とかレシピサイトで調味料も用意したし何の変哲もないエビチリだ」

「でも私にとっては特別な物なんです、私……」

 ぽぽりんエックスと出会ったばかりの時の事を振り返る、あの頃はみんな一生懸命で時空全土に見せても問題ないネタってなんだろうと試行錯誤して、成長したらより大きな雑誌に移籍しても付き合いがあって……。

「たくっちスノーさん、私……またネオジャンプでマンガを描いてもいいですか?」

「情けのつもりならダメだ、自分も貴方も商売でマンガを描いている、自分のために今描いている場所を裏切るのは許さない」

「じゃあその……私、貴方のために読み切りを作りました、ずっと見せたくて……載せなくてもいいので受け取ってください」

「まあそれくらいだったら……」

 ぽぽりんエックスは鞄から30ページほどの原稿を取り出してたくっちスノーに見せる、中身はなんとなく察していたが恋愛もの、その相手や主人公にも心当たりがあるが敢えて何も言わず読み進めていく。
 物語の中で片思いは進展していくが、途中で変化が訪れ……恋を捨てる。

「実はもう少ししたら結婚するんです、その前に貴方に抱えていた心に決別したくて……受け取ってください、私の好きだった人にこれを贈りたいんです」

「漫画家ってのは不器用なものだね……まぁいいよ、編集者はマンガを評価するのが仕事で、送ってくれたものは一通り受け取るからね」

 ぽぽりんエックスの想いを無下にしない為にこのマンガを最後まで読み切って評価することにした、自分の観ていない所で彼女達も成長していく、それはリヴァイアサンも他の作者達も同じだろう。
 懐かしむ為にこのオフ会を開いたがどんどん昔とは違うということを感じられる。

「今のネオジャンプって私が居た頃とはだいぶ違うそうですね……」

「まあ今の方向性も需要はあるさ、そっちは確か週刊ファンタジーだっけ?そちらは何か変わった?」

「ファンタジーが第●次ブームを作り出したことも何かしら……異世界オムレツブームとか宿屋ブームとか色々やりましたねぇ……」

「ブームかぁ、ちはそこまでの規模出来てないから特化はそこが強いな……そういうのが無いからネオジャンプは1位になれないんだろうな」

 愚痴のような流れでネオジャンプとファンタジーの状況を語り合い、ぽぽりんエックスにネオジャンプを1位にさせようと奮闘していることを話す。
 もう売れるかどうかはともかく一番人気にしたいと黒影が拘りまくっていることを話す、ブンゴや計画の事ばかりは漏洩しないようにした。
 まあとにかく何よりも上を目指してマンガが二の次になりつつあることを話す。


「わぁ……フィルトナ先生も懐かしいなぁ、でも時空規模を通り越して一番なんて出来ますか?」

「はっきり言って厳しいよ、君が聞くファンタジーみたいな影響力もないしゲーちゃんみたいに凄い企画とかも出来てない……でも今日くらいは忘れたい気分だよ、ポチの所に」

「あの……やっぱり今日だけは、私も忘れていいですか……?」

「ごめん、自分最悪の時空犯罪者だったとはいえ不倫とか前科に付くのまずいと思うから失礼する」

 たくっちスノーでもヤバい一線は越えたくない、多分コレはポチの例のやつのせいということにしてぽぽりんエックスの所から離れる。


「へー!ぽぽりんちゃん結婚するんだ!確かに出版局に居たとき合コンとか行ってたの覚えてるよ!」

「自分の好意に決別しようとしたのはいいんだがアンタの装置のせいで危うく不倫になりかけたぞ」

「そこはほらリアルワールドでも話題の子宮恋愛ってやつだよ」

「マガイモノに子宮が恋するのはまずくねえかな生殖本能的に!」

 たくっちスノーはお洒落なホテルでバイキングを堪能している作者達の横でぽぽりんエックスに頼まれてエビチリを作りポチに味見してもらっていた。
 久しぶりにエビチリなんて作るしぽぽりんエックスにとって思い出の味を再現出来ているか不安だが当時の勢い任せにあの時を思い出しながら中華鍋を振るう、ポチはいやそんな本格的な調理器具使ってなかったでしょぽぽりんちゃんが作ること想定してるのとツッコミながらもエビチリが美味しいので受け入れる姿勢。

「それ食ったらアンタからもぽぽりんエックスに説得しておいてくれよ、自分人妻に絡まれたらいよいよ信頼がヤバい」

「君その程度で落ちるぐらいになったかな?まあ彼女のことは俺の責任でもあるし、元々俺が担当だからね任せといて」

「……手は出すなよ?」

「俺3次元には興味ないってば」

 ポチがぽぽりんエックスに話をしようとしたその時、たくっちスノーのマガフォンから着信が来た、腕を増やしてエビチリ作りを続行しながら応対すると、そこはユメミファイナンスという金融機関の社長スターアベネスだった。
 たくっちスノーもよく知っている、時空最大規模で突如として発展した共通会社でありポチの大量の借金はここから返済して仕事の付き合いもあるのでポチの借金の話と思って応対するが様子が違う。

「え?借金ってポチのことじゃないの?」

「ああ、分身のことは把握してるから該当する番号を他のやつから特定させたが、お前んところマンガやってるんだろ?」

「ああ……やってるけどネオジャンプに借金するようなことない……はずなんだけど」

「いいやそれがあるんだよ調べてみろ、お前んところ賠償金でいっぱいだぞ」

「賠償金!?それってネオジャンプの件だけでだよな!?」

「オレもそこら辺は弁えている、別で借金もあるにはあるが、そこは別の分身に払ってもらうからな」

「分身は多くても財産は共通だから全然優しくないんだよなぁ……払う手段は考えとくけどなんで賠償金なんてことになったのか教えてくれる?」

「ちっしょうがねぇな……お前らんところ、マンガの元になった世界にアプローチかけてんだろ?世界の方から展開を操作してマンガの話を……」

「そうそう、黒影は一瞬でプロ級にさせるって触れ込みのために世界の方を操作して漫画の展開を面白く変えようっていう思いつきを実行して……うちのボディーガードまで巻き込まれてるってわけ」

「お前……それ普通に考えたら監理局が自分好みに世界をコントロールしてるプロパガンダ行為と捉えられてもおかしくねえだろ……実際そう思われたし」

「あっそうか、監理局の都合の悪いようにはさせないって捉え方もあった……この件さっさと終わらせたくて頭に入れてなかった」

「んで、世界の住民に理想の物語の通りに誘導させる行為は悪質であると新しく時空法が定められてな……お前らは法律違反、数々の世界で毎日のように行ったから悪質とされて多額の賠償金をさっさと払えという経緯だ」

「大体わかった」

 要するに黒影の考えたマンガを盛り上げる方法ではマンガ以外の事を全く考えておらず、意図的なら悪質、無計画に行っていたなら底抜けのバカであるとしてニュースでも既に公開されておりネット炎上もありえるとあう。
 既に特盟にも目を付けられておりさっさと払えというのもスターアベネスの情である、ここで払っておかないといよいよ洒落にならない額になってくるので。

「ちなみにそれっていくらぐらいになる?分身達の事業の稼ぎが吹っ飛んだりするのは嫌だが、黒影の事を想定してたのに斜め下の結果を甘く見ていた自分も悪いが……」

「考えたのはお前ん所のボスだろ、だったらお前じゃなくてそいつが払うのが道理ってもんだ」

「そりゃそうだけど黒影は世間一般では無一文だぞ?財産は全部監理局の範囲内だしお金だって手元にはそんなにだ……黒影旅館だって実際はルミナ様が経営してる」

「そんなの金貸しに通用すると思ってんのか?黒影に金がねえって言うなら差し押さえるしかねえだろ」

「さ……差し押さえるってどれくらい?」

「まあ詳しい話は追々だ、一回ユメミファイナンスまで来い……要件は以上だ」

 電話を切ってすぐにエビチリが完成したが、それどころではないのでたくっちスノーは大急ぎで置き手紙を残して窓から脱出する。
 同じタイミングでポチが帰ってきたがたくっちスノーの行動や最近の黒影の傾向から何が起きたのかは自ずと察したので手紙を各地に渡すことにした。

「確か彼、兄妹達に会いに行った後に俺に付き合ってオフ会だったよね……?忙しいってレベルじゃないよ……」


 たくっちスノーは即座に分身達にテレパシーを送り自身の情報を提供する、ちょっと前に情報は兄弟達にも共有されるらしいことを知ったがもういっそのこと全員知ってしまえってレベルで一大事なので都合が良かった。
 ユメミファイナンスに向かいながらミリィに監理局で待機するように伝えて大急ぎで準備を整える。
 ネオジャンプの爆売れ作戦は成功するのか、この差し押さえでどこまで大変なことになるのか、マジで監理局はこの先存続出来るのか?
 頭の中がいっぱいいっぱいになるが、重い足取りでなんとかユメミファイナンスへと辿り着いたたくっちスノー。

「……スターアベネス、いるか?」

「よう、会いたかったぜたくっちスノー……」

「いくら出せばいい?副局長として監理局を存続する義務がある」

「おうそうか、なら仕事の話しようぜ」
最終更新:2025年04月22日 21:17