兎にも角にも金がねえ!

「ば、賠償金!!?俺いない間にそんなことになってるの!?」

「うん」

 ポチは電話で急いでミリィに現状を報告、EXEや野獣先輩にも事の重大さを話しているところである。
 ……更にはメールで分身達にも全てが終わりそうということを一斉連絡。
 黒影がやったことに関してはネオジャンプ以外の件も間違いなくあり、せっかく分身までして築いてきた新事業も全て無駄に終わってしまうことだろう。
 ひとまずたくっちスノーが確認を繰り返しながらスターアベネスと話をしているので今はそれを待つしかない。

「俺達のやってきたことが……」

「といっても無くなるわけじゃないって、権利が監理局から離れるだけでさ……ほらホワイトみたいなものだよ」

「そうなのかなぁ……俺達としては何かあった時のコネや仲間なんかは作れてるから支障がないっちゃないけどさ……」

「問題はたくっちスノー達だよね……もう色々ありすぎて評価は暴落、新事業どころかどうやって今までの勢い取り戻す?ってレベルだよ」


「分身と確認取りながらだけど、やってきた事業としてはこうかな……」

 たくっちスノーは分身が黒影に言われたことを絞りながら新事業としてやってきたことを振り返り、スターアベネスに見せる。
 アベネスもリストを一つ一つ見ながら過去の情報が正確なものか確認しながら事業から金になりそうなものを探す。

「言っとくが、ネオジャンプの件以外でも賠償金あるからな……ていうかお前らマジで色々やってるんだな」

「そりゃ黒影は発展していく時空で結果とか功績を残したくて自分達をあちこち行かせたからな、黒影自身も頑張ってたし……今回のネオジャンプだって時空で一番のマンガ雑誌作りて〜ってのが始まりだったか」

「我が物顔で縄張りを独り占めしていた上にチヤホヤしれたいだけの奴が何言ってんだ?まっ、オレはそんなお前らの間違いを世間の立場から金を回収するだけなんだがな」

 スターアベネスは差し押さえリストを描いてたくっちスノーに見せる、これまでの新事業や任務で回収したり作成したり用意してきたもの全てが差し押さえられてゼロに戻ってしまうが、これで膨大な借金がようやく帳消しになるというバランス感だった。
 なお、ポチの借金は別枠である。

「はぁ……これまでの頑張りが全部水の泡か……」

「お前な、借金がちゃんと消えただけでも感謝しとけよ」

「それは返せないと話にならないんだよ、むしろこれからの評価だよ……自分ら相当やらかしたみたいだな……ああー……」

「安心しろ、お前らはいい顧客だからブラックリストには入れねえ、これからも金を借りたい時はウチを頼れ」

「そりゃありがたいけど……ネオジャンプ売らないとダメか?これ金になる?」

「なるかどうかはオレが後で決める、自分の物が価値があるか考えてる余裕はあるのか?」

「……それはまぁそうなんだけど、せめて漫画雑誌で1位になるまで持ってくれない?出版局のトップに教えてもらって今1位になりたいところなんだ」

「例のアイツが一番という実績を残したいってやつか?」

 たくっちスノーはブンゴから教えてもらったネオジャンプを1位にする方法をスターアベネスに明かす、その内容とは……ネオジャンプを購入したら他の雑誌を見たり買う時に得するようになる出版局の抱き合わせ商法。
 スターアベネスでも普通ならイカれてるとしか思えないが、こうでもしないと1位なんて到底目指せないので時空出版局も実質匙を投げたのだろう。

「お前ん所のボス、漫画に興味ないんだろ?漫画を売るのにトップが漫画をどうでもいいってやってたらそりゃ売れねえよ……しかもこれ、ネオジャンプに限らねえし」

 スターアベネスはメモと領収書を渡してデスクから出る、かつてポチのエロい財産を回収したときのように準備を始める。
 今回は時空各地に存在する時空新事業を全て差し押さえするのでスターアベネスもあちこち飛び回って忙しくなることだろう。

「で?黒影様とやらはどう思ってる?」

「ニュース騒ぎでそれどころじゃないよ、今や監理局はネット掲示板のいいおやつだしゆっくり解説はウチらのことで持ちきりだろうな」

「んじゃ、アイツが気付く頃にはオレも事が済んでるだろうな、しばらく開けるからさっさと帰れよ」


 そこからのスターアベネスとたくっちスノーの行動は早かった、急いで列車などを乗り継いで監理局に向かう頃にはもう既にスターアベネスの仕事は終わっていたらしい。
 彼女自身元々わざと監理局に行くにはめちゃくちゃ遠くなるようにユメミファイナンスの立地を調整しているくらいであるが、ひとまず分身を全員結集した上で話し合うことにした。

「色々やった……改めて色んなところ行って色んな仕事したよなぁ……自分達」

「まぁそれ全部あのバカのせいで無駄になったスけどね」

「ダメだ、オレ達の記憶にあるもの一通り売却済みになっている」

「なんならプライベートルームにあるやつも何個か売ったし、たくっちスノーが過去に作成したものまで売っぱらっちゃったみたいだからマイナスなんだよね」

「マジで!?…ああクソッ!G-rokシステムの管理者モードも使えなくなってる!!」

 まさかここまで手を出されるとは思っていなかったたくっちスノーは大いに焦る、G-rokシステムをコントロール出来ないということはパラレルワールドが作られまくっても強制的に止める手段が無くなっているのと同じ事。
 事実、遠くない未来でたくっちスノーが憂いていたようにパラレルワールドのキャラクターが入り乱れる時空となっていくことになる……。
 焦っているのはそれだけではない、これまで見てきた冒険の記録から敵は数多く存在するしなんなら監理局が首を突っ込んだせいで因縁が生まれた所も存在する、各世界の状況把握は出来たものの新時代に適応というか悪化している……というよりは少し前に危惧した通り自分達がトップとか言ってられない状況だが、黒影も自分達の下の存在も呑気に現実を理解出来ていないが、最近は監理局で仕事をしても相手にされなくなったり受け流されて時空企業に受けてもらったりしているので次第に気付くことだろう。

「どうするっすか?俺等もバックレて就職先探す?アテならいくらでも作ったじゃないスか」

「バーローだよ、むしろ今ここで時空監理局から逃げたら俺達印象悪いって」

「そうだな……オレがやったのはあくまでオブリビオン狩りだが、メイは時空掃討戦と呼ばれるほど大規模な戦線を広げた上にその裏で……ネオジャンプのような事例もいろいろある」

「……黒影って自分達みたいに分身出来たっけ?なんか1人だけめちゃくちゃ活動してない?」

「あっ分身といえば分身ハンマーも差し押さえだからもう同じ事出来ないね、新しく作っちゃダメだって」

「あーもう!!設備も殆ど売り払われて、稼ぎになるものは消えて!どうやってお金やりくりすればいいんだよ!!」

 差し押さえられたものや終わったことは仕方ないので前を向こうとするが、そもそもジーカを確保するための新事業だったのに綺麗さっぱり無くなって予算もない、これまでの事業も金食い虫ばかりなのでこれから先は赤字回避に専念するしかないだろう。

「とりあえずオレ達が貧乏生活しなくてはならないことは確かだな」

「まあそれくらいならこれまでの生活でもやってきた事業もあるし慣れたものだけど、問題は数々の差し押さえによって無駄になった物の後始末だよね、今回の場合」

◇ネオジャンプはどうする?

 ネオジャンプ並びに時空監理局が作成してきた漫画雑誌……それ以外にもホワイト、まんがタイムつばめ、ゲームチャンピオン、コミックSS、少年アンカー。
 この内殆どが既に残念な結果に終わっており殆どが売り払われている、しかしSSとアンカーは金にもならないと判断されて取り扱ってもくれない状態である。
 そしていよいよ最後の障壁であるネオジャンプまでもが陥落、1位になるどころか一生ネットで話題にされて少し経ったところに配信者に幻だとか黒歴史だとか酷い言われようされる未来しか見えない。

「驚いたのはこれ全部廃刊じゃないんだよね、ホワイトもそうだけど買い取ってくれる所が出版局以外にもあった」

「ゲーちゃん拾ってくれたテクノクロス社にはもう頭下げきれないくらいの感謝よ」

「作者たちにどう説明すればいいのか……とばかり考えていたから、拾ってくれて作者達の面倒まで見てくれることは有り難い事だ……」

「そうだミリィ、ときめきジャンプとか坂口さんの事とか一回話をつけてきたらどうだ?こっちは記者会見済ませておくから」

「今回の件だけで何回記者会見しているんだろうなティーは」

「そういう数値は考えないことにしたから黒影見張っといてくれ、アイツはもうここで出したら問題発言しかしないと思うから」


 改めて時空出版局に訪れたミリィとポチ、今でもパスが使えてびっくりするがブンゴに会いに行くことにする。
 たくっちスノーから連絡を入れてくれたのでミリィ達としては初めてその姿を拝むことになり……局長室で改めてカラスであることに衝撃を受けるが、後ろから坂口やときめきジャンプの編集部達がぞろぞろと現れる。

「きょ、局長がカラスって……あの人の言う事本当だったのか……」

「坂口さん達までどうしたんですか?」

「実はうちの局長が皆の前に姿を現すというので何かと思ってまず私から……ときめきジャンプの方々は貴方達も来ているだろうと付いてきた形です」

 改めてミリィ達は差し押さえされて監理局がやっていた事業が全てパーになり、残っているのは出版局主導のときめきジャンプだけ……。
 ネオジャンプを作っていた時を懐かしんでいるとブンゴが鳴き始めるが、たくっちスノーの時も通訳はフィルトナがしていたので何を言っているのか分からない……と思いきやポチが聞き耳を建てた。

「えっ、ポチわかるの!?」

「各地にエロを提供する際に翻訳版を書いてたら色んな言語を覚えたからね、動物語もある程度なら分かるよ……ふんふん」

 ポチはブンゴの通訳となって一通り言葉を伝える、真っ先にブンゴが伝えたかったことは……ネオジャンプの権利を自分が購入したということだった、それだけではなくゲームチャンピオンとまんがタイムつばめまで出版局の物にしたという。

「えっ!?マジですか!?」

「うん、ゲーちゃんはたくっちスノーも気合い入れて作ったしゲーム作りまでやってウケた、まんがタイムつばめも俺のアイデアが面白そうだから掘り下げたらもっと売れそうだと思ったんだって」

「……SSとアンカーは?」

「それは普通にいらないしちり紙にもならないだろうって」

 しかしまさかネオジャンプまで買い取ってくれるとは思わなかったポチ達だが、ブンゴとしてはジャンプとの繋がりが欲しかったので都合がよかったという、時空監理局では必ず扱いきれなくて自滅すると最初から推測しておりずっと機会をうかがっていたという。
 それでも想定より遅かったらしいが、それだけたくっちスノー達がよく頑張っていたということだろう。
 しかしいざネオジャンプを手に入れてみると思った以上に問題ばかりであり1から見直さなくてはならない、オークションだのアマチュアを一気にプロにするという夢物語にそれを実行するための他を考えてない手段、一言で言えば編集長が一番問題があった……からこそ他の事業含めて問題だらけになっているのだが。

「それで、そちらの局長は?」

「いえ、実はあれからずっと見てません……どこで何をしているのか……」

「そうですか」

 ブンゴは坂口達を帰して準備を整える、これから彼も世間一般に姿を公開して時空雑誌の今後のことを公表するらしい。
 ネオジャンプ他数作の雑誌を取得し、今後時空雑誌の向上と理解を得るべく数々の人たちの協力が必要になってくる。
 ポチもその為に色々と手を貸すつもりだ。
 話しながら久しぶりにときめきジャンプの編集部の部屋を訪れると、ポチとミリィのデスクは今でもそのままで懐かしさを感じていた。

「ねえ、そういえば気にしている余裕なかったんだけどときめきジャンプって今どうなってるの?」

「特に何かあったわけでもない、それが普通なんだよ……そっちが悪手しすぎただけだ」

「それはそうだね、はじまりの書を大量に手に入れるという作戦があったとはいえ出来れば1位取りたかったんだけど」

「無理だよ、出版局でも時空出版より昔から一部で売っていた雑誌には勝ててない……そもそも勝ち負けとか人気でこだわるような物じゃない、そこを分かっていないと監理局は本当に終わるぞ」

「肝に銘じてるんだけど、こればかりは監理局でもどうするかというところだよ……でも皆には色々お世話になったね」

「このまま出版局で働くっていうのも良いと思うけど……ぽぽりんエックス先生とか、たくっちスノーがここに来たら喜ぶよ」

「そういうわけにはいかないよ、局長の部下の俺達と副局長とその部下、エリートバカ五人衆なんて言われるけど責任は重いんだ」

 ポチとミリィは出版局に別れを告げて監理局に戻っていく、ときめきジャンプや坂口としては本当に出版局でスカウトしたいくらいだったが監理局を野放しにしたら面倒になることは分かる。
 だが現在の出版局で連載している人材の何人かも元は彼らが努力して選び抜いた者もいるのでもったいない気持ちもあった。


「そう……じゃあ私もこれからは出版局で描くことになるのね」

「なんか迷惑かけてごめんね、姉さん」

「気にすることじゃないでしょ?別にネオジャンプがなくなったわけじゃないからいつも通り描くだけよ」

「……貴方達は編集者じゃなくなるから……もう仕事で会えなくなるけど……」

 同じ頃、たくっちスノーもフィルトナとルーシアに漫画家と編集者としての別れを告げる為に思い出のファミレスで食事していた。
 とりあえず漫画の持ち込みと言えばファミレスだよねとポチの思いつきでこういうことをしてから長かったが、なんだかんだこの店が馴染んでいた。
 思えばフィルトナともこういう出会い方をして、めちゃくちゃな漫画を必死に矯正して今ではプロ級だ。

「もう分身って全員複合したの?」

「ああ、記憶全部残ってるから一気にやるとパンクするから時間はかかったけどね」

「じゃあその、私やブンゴ兄さん……あのオフ会で会った人たち以外に兄弟は見つけられた?」

「そりゃもちろん何人かはね、でも全員がこの件で会ったときみたいに味方というわけでもない……というか僕だってそうだったのに副局長になったからってよく会おうと思ったね」

「だって末っ子でしょ?」

「理屈に合ってないよ……まあ、いい体験になったし今度は信じれる人達だけで会いに行こう、ルーシアさんはきれからどうするの?」

「……私はひとまず今連載してるものを一回終わらせる」

「え!?」

 今回の結果で時空にも大きな影響が訪れたことが猟兵としては見過ごせない時期らしく暫く戦争規模のような戦いをしなくてはならないようで大人数の猟兵が駆り出される。
 ルーシアもそれに参加するようで漫画を描いてる暇はないそうだ、

「そんな……せっかくルーシアちゃんに会えたのに」

「私は別に死ぬわけじゃないし……終わったらまた新しく再開するだけだから……猟兵は各地にいるからきっと貴方達も有名ね」

「なんか不名誉な気もするけど……じゃあルーシアとはしばらくお別れだな」

「そうね……お互いいい関係だったわ、あの犬っころには変態性だけ治しなさいってことと、スターアベネスというやつの所に居る私の友人によろしく……」

 ルーシアはよほど忙しいのか一足先に代金を用意して扉のようなものをペンから作ってその中に入っていく。
 思えば『猟兵』のことも謎が多い、意図的に自分達に情報をしているがその理由さえも分からないが調べていられない……たくっちスノーには他にやることが山ほどありすぎる。

「じゃあ姉さん、自分もそろそろ」

「うん、私に会ってくれてありがとう……たくっちスノー」

 こうして、長いようでめちゃくちゃなようで終わってみれば何も残らないネオジャンプ含めた新事業計画は終わりを告げた。
 これから先、時空監理局に待ち受けているのはとてつもない苦難……というかやりくりというか……。
 シャドー・メイドウィン・黒影は突如として行方をくらましてたくっちスノー達も場所は分からないと報告、実際分からないのでこう答えるしかない。

 そして……。


「では改めてエリートバカ五人衆が黒影が来るまでどうにか時空監理局を維持しよう作戦をしようと考えてるのですが何かいい案がある人」

「はい!現在の赤字どんな感じでしょうか!」

「オレが貰っているジーカの半年分がひと月ごとの負債だ」

「俺に残ってる借金よりちょっと上だね!これどっちがイカれてるのか分かんないや!」

「監理局に残ってる金が底をつくまでどれくらい?」

「何もなければ3ヶ月しかもたないッスね、何もなければだから一ヶ月で死ゾもありえるし破産は目に見えてるんだよなぁ」

「うんうん、なるほど……それでせっかく考えた金を稼ぐ手段は問題を起こしすぎて全部使えなくなった、部下達はこれまでの件から使えないことは目に見えてる、黒影はむしろいないほうが良い……」





「あれ、これもうお金どうしようもなくね?」

「そうだよ(便乗)」

「……まず俺達の生活を安定させることから始めたほうが良さそうだね」

 頑張れ、エリートバカ五人衆!
 数々の新事業計画を乗り切ってきたこいつらなら、きっと時空監理局存続という新しい問題も多分良い感じに解決できる!
 時空に残された課題は山積みだがどうなっちゃうのか!たくっちスノー達の戦いはこれからだ!


最終更新:2025年04月22日 21:17