わが名はキスマーク

 ゴジュウジャーが世界に現れてからというものの厄介なことに割り込むようになっていった……ということはなく、意外と話が分かるのかあるいはトレスマジアの方から好評でもしたのか自分からエノルミータに突っかかってくることはなかったので、こちらから襲う理由もなくなった。
 最初はイラついてたうてなも最近は冷静になって話をすることができるようになった。

「うてなちゃん最近ゴジュウジャーいらねーとか言わなくなったね」

「私達の邪魔をしないならそれはそれでいいんじゃないって思えるようになって……他の奴らとかトレスマジアの邪魔もしてたし」

「悪の組織がこんなこと言ってると何をワガママ言ってるんだって返されそうだけどね」

「一番ゴジュウジャーとの戦いに積極的な真珠ちゃんがそれ言う?」

「真珠の場合は事情が違う!アイドルとしてあの男には負けたくないってわけで……」

「しかしあれだけ他世界人が現れることには否定的だったのに随分な心変わりだね」

「……考えてみるとあの時は言い方が乱暴すぎただけで、私自身そんなに別世界の人々が来ること自体は嫌じゃないんだよ」

 例えるなら……あくまで本当に例えるなら遊園地にあるような小さなヒーローショー、演じるヒーローと悪役以外は何もない傍観者……ただそこに居て邪魔をしないならそれでいい、マナーを守っている限り観客を咎める権利は誰にもないのだから。
 特に時空規模となるとリアルな魔法少女と悪の組織の戦いは珍しくて野次馬も集まるだろう、元の世界でも住民が定期的に覗きに行ったりしているし、自分もその立場なら間違いなく同じ事をしている。
 それを考慮した上で時空ヒーロー時空犯罪者達その他はヒーローショーに乱入するどころか我が物顔で自分が主役のように振る舞い出すような。

「考えるだけで血管が切れそうになってきた」

「なんか例えに出すとうてなじゃなくてもキレてもおかしくないくらい態度に問題があるんだな」

「その辺りをなんとかするのが時空監理局じゃないんてすか……とにかく今のうちにトレスマジアに対抗する星壁オブリビオンを作らなくては……」

「あっ、その件に関しては1つ完成したから手配してみたよ」

 と、さりげなくヴェナリータが新しいオブリビオンを用意する、星壁獣を活用した人間なのでヴェナリータは『星壁獣人』と名付けている。
 既に街に向かわせてトレスマジアと戦闘テストを行う段階らしいのでうてなは久々にゆっくり出来ると変身せずアジトを出るのだった。
 うてなとして気軽に街を歩けたのはいつぶりだろうか、普段頭を悩ませる時空犯罪者達もゴジュウジャーが相手をして勝手に倒されてくれるので恨んでいたのが嘘みたいに感謝しかない、手始めに遠野吠の指名手配を解除して本人からは「あいつ何がしたいんだ?」と困惑されている。
 更にせっかくなのでお店の売上に貢献しようとテガソードの里に訪れる、魔法少女と戦隊の違うところは変身前がバレバレで正体を隠さず振る舞っているところにある。
 テガソードオムライスを食べても自分がマジアベーゼであることには気付かない。

「ん?お前確か何処かで見たな……そうだ、コンビニでバイトしてた時に強盗に絡まれてたやつか」

 だが吠が近付いてくる、異常な嗅覚を持つ彼なら匂いだけで特定してきそうなので対策は取ってある、あえて香水をかけて失敗してきたのだ。
 これなら異常嗅覚にとっては毒になりえる、吠は鼻を摘んで離れていく。

「あんたその年で香水つけてるのかよ、しかもめちゃくちゃキツイぞ」

「ごめんなさい失敗したんです」

 うてなもただお金を出すために来たわけでもない、ポチもこの場所に来ているはずだと考え代金を出したあとにお手洗いを借りてポチを探すとマガフォンで電話していた、相手はおそらく黒影。
 うてなはまだ持っていたマガフォンで録音機能を使い耳を澄ませながら盗聴する、徹夜してヴェナリータとネモと一緒に調べたのでたくっちスノーに次いでマガフォンの全ての機能を理解している存在になった。

「局長、今回のゴジュウジャーの件に関してだけど……マナー違反撲滅運動って件で片付けたよ」

「んん?マナー撲滅?」

「新時代になって間もないとはいえ……他世界人の移動した際のマナーの悪さが酷いというのを実感したんですよ俺は、トレスマジアとエノルミータの戦闘に割り込んで邪魔してきた時もあったよ」

「そういえばドラえもんの最終回の1つにもそんなのあったねー」

「楽観的な言い方しないでくれる?マジアアズールがこの作戦を思いついたからマナーの悪さを訴える動画を投稿してイメージ向上は図れましたけど、下手したら俺たちの問題になってましたよ」

「ふーん……まあそれは別の分身に任せておけばいいよ、俺が電話したのは君の仕事のこと」

「……そ、そりゃ確かに俺の仕事のこと考えるといつまでトレスマジアの所に留まってるんだというのも分かりますけどほっとけないでしょ、田所くんだって帰っちゃったしこのままゴジュウジャー野放しにしとけっていいたいんですか」

「いやトレスマジアとの契約は?」

「俺等以外に既に契約しているのにどうしろと?」

 ポチが本当に魔法少女グッズを売り出すためにこの世界に来ていた事に驚くうてな、本人から聞いても情報を集めても3割くらい疑っていたところはあるが実際に感じてみるとめちゃくちゃ傲慢すぎて草も生えない。

「俺は君がこういうの上手いって有名だから任せたんだけど、ミリィにも期待してるのにどういうこと?」

「あのね……ちゃんとタイアップOKも出してるよ、ネットで出来る範囲の事はしている、データ集めたり人と仲良くなるにも時間がかかるの!」

「トレスマジアは君でも無理なの?」

「枠が余ってないものは無理でしょ、そりゃ俺もずっと過ごしてきて良いなぁ慧眼だなぁとは思ってるけどさ」

「……わけわからない言い方するね君は、なんで俺たちが頭を下げる側なの?世界のバランスを守ってるんだからコンテンツを好きに出来る権利を持っているのは俺たちなのに?むしろ時空規模で広めてもらえる立場なんだから」

「何言ってんだこいつ」

 思わずうてなも素でツッコミを入れてポチは電話を切ってため息を吐く。
 とりあえず言えることはもしも局長がこの世界に訪れたら間違いなくめんどくさいことになるということだった。
 更に電話が入り、ヴェナリータからトレスマジアと星壁獣人が接触したから見に行かないかと言われたので急いで出ることに。

「あれ?今俺のすぐ近くにマガフォンの電波があったな……バグかな?」

 ◇

「ごきげんよう……トレスマジアの皆さん?」

 星壁獣人を見たトレスマジア達はその佇まいだけでもこれまでの敵と違うと実感させられる、その振る舞いや見た目は自分達魔法少女と類似しているが……魔力の反応やその目つきは人間のものではないと感じさせられる。
 幹部やマジアベーゼ達とも違う見ているだけで吸い込まれて不安になりそうな雰囲気がする。
 しかも星壁獣『人』と言うだけあって意思疎通出来るほど賢い。

「な、なに……これ……」

「あまり意識しない方が良いわ、ペースに飲み込まれる!」

「エノルミータの新入り……ってのも違うみたいやな

「お初におめにかかります、私はかつて……キスマークと呼ばれて今ではオブリビオンをやっています、忘れてませんか?私は貴方達と戦ったこともあるんですよ?」

 そう言われてマゼンタは考え込む、戦ったことがある?この魔法少女のような見た目の女のこと?
 ポチやヴァーツからオブリビオンとは過去の歴史から溢れて生き物になった物と聞かされているので一昔に存在していたことは事実だろうがマゼンタの中では戦った記憶はない、エノルミータのメンバーか?それとも魔法少女狩りにやられたのを自分と勘違いしているのか?
 だが考えてる間もなくキスマークが近付いて顔を掴む。

「罠や!!離れろ!!」

「もう無駄ですよ、後は何もしなくても」

「か……体が動かない!?」

 触れられたマゼンタは体がぴくりとも動かない、加勢したアズールとサルファも指で軽く触れられるだけでその場で停止してしまう。
 ついこの間リモートコンドルに止められたこともあるサルファはこれが同じものだと理解したが、なかなか動かず。
 元に戻ったかと思えば勢いに引っ張られて転倒してしまう。

「お、お前……その能力は」

「あれ?私の魔法は時間停止……のはずなんですがちょっと違いますね、どうやら貴方達の肉体を30秒停止させる魔法になったみたいです、うーん昔は1分間時を止められる魔法だったのに……」

 またしても時間停止だが、キスマークの言い方が何か引っかかる。
 サルファは攻撃を仕掛けにいくが、拳を当てると再度体の動きが止まる……どうやら厄介なことにこれは魔法ではなく触れたもの全ての時間を止める体質らしい。
 アズールが氷の剣を投げるとキスマークに刺さった途端その場で静止してしまう、無機物有機物無関係に止めてしまうようだ。
 いくらなんでもチートにも程がある、単体に倒せないわけではないが30秒も隙を作られては面倒なことになる。
 動けるようになった後に一旦離れる。

「ここは撤退よマゼンタ!あの能力をなんとかしないことにはこれから勝てなくなるわ!」

「わ……分かった!」

 トレスマジアの面々が離れた後、ちょうどうてなが合流したのを見てキスマークはうてなに飛びついてハグしてくる。

「マジアベーゼ様〜!」

「ちょっ何!というか声がデカい!貴方が例のオブリビオン!?」

「はい!貴方のエノルミータ新幹部キスマーク、オブリビオンとして帰ってきました!お久しぶりでございます〜!」

「ええ!?久しぶりと言われても私今初めて会ったんだけど!?動けない!!」

「……はあ、貴方もでしたか、いや……私の魔法も前とは違うしこういうこともありますか……いいですかマジアベーゼ様、ドラグヒースとジュエリーロジャーという幹部に心当たりは?」

「どっちも知らない……」

「……なるほど」

 知らないことを知っている、分からない歴史を当たり前のように語りかけてくる。
 これがオブリビオンの性質なのだろうか……?


「なるほど、物を止めるオブリビオンか……」

 改めてテガソードの里で作戦会議を行うトレスマジア、時間停止を突破できるセンタイリングを借りようかと思ったが無関係な人達にそうやすやすと貸してくれるゴジュウジャーでもないし、彼らも最近は時空犯罪者を代わりに倒してくれるので早々頼れない。
 オブリビオン狩りの専門には『猟兵』という人物が居るが、猟兵もすぐに来てくれるわけでもないしエノルミータの幹部格を名乗る以上自分達でも倒しておきたい。
 しかし見境無く時間を止めるあの力をなんとかしないことには倒す術は……。

「あっそうだ、分類的には時間停止なんだからアレが効くかもしれない……はいこれ!犬の気持ちーズ!」

 博士が趣味で作った発明品を青猫感覚で取り出すポチ、このチーズには遺伝子に犬の要素を加えることが出来て危険じゃないというものらしい、なんでこれを出したのかというと時間が止まっても犬は動き続けたのを見たことがあるのを思い出したと考えたところでサルファに顎を殴られる。

「おいコラうちらは今真剣に作戦会議しとるんや、アレなビデオの情報なんか誰も聞いとらんわ」

「いやいやマジなんだって!時間を止めた中で犬だけが干渉を受けずに移動できた結果は本当にある!俺が研究して論文も出してる!」

「この人の性欲に対する探究心はなんなの…?」

「多分それお前には言われたくないと思う」

 ポチは改めて論文も見せて本当に犬の遺伝子に時間停止を無効化する作用があることを説明して仕方なく受け入れたサルファはチーズを食べることにした。
 あまり食べすぎると犬耳とか尻尾が生えるかもしれないとさらっと言ってこれにはアズールもビンタ。
 しかしもう手遅れでマゼンタが一切れ丸ごと食べてしまった。

「あっ……」

「こういう時クレームって監理局に入れればいいのかしら」

 やっぱりこいつに頼るとろくなことにならないのでこれからは何が相手でもヴァーツに相談しようと深く決心した。


 5分後、うてなもマジアベーゼに変身してキスマークのそばでトレスマジアが来るのを待っていた。
 自分も魔法少女に絶対的な勝利を期待しているわけではない、これはいわゆる『溜め回』である。
 最後には絶対打開策を見つけて逆転してくれる、そう信じているのでウキウキで待っている。
 キスマークの負ける姿が見たいわけではないが、ちょっと苦手だしどう倒すか気になるという気持ちもある。
 魔力の反応からトレスマジアが再び現れるのを感じる。

「マジアベーゼ様戦いの前に一発だけエッチしていいですか」

「駄目です」

「キスマーク、改めて勝負よ!」

「また来ましたかトレスマジ……いやマゼンタに何があったの!?」

「わん!わん!」

 ポチのチーズがあまりにも効きすぎたマゼンタは犬耳と尻尾どころか四つん這いになり習性もほぼ犬そのものになって首輪とリードで繋がれていた。

「聞かないで!こっちにも色々と事情があるのよ!」

「わん!」

「くっ……マゼンタが完全に犬になっとる……これで無意味だったらあの変態を50回くらい半殺しにしても気が済まないで……」

「くっ……またあの監理局の変態男ですか……なんて羨ま、じゃなくて高度なプレイを……それに獣系のアズールとサルファも新鮮な気持ちで目が潤う」

「ベーゼ様意味変わってません!」

「とりあえずマゼンタは私が戯れ……相手をするのでキスマークは段取り通り頼みグヘェア!!」

「変態は黙っとけや!」

 今回は本当に手を出されたらまずいのでサルファとアズールも必死にクロスボンバーで確実に仕留められてノックアウト。
 その隙に首輪を外して犬の本能だけで飛び出していくマゼンタに掴まれる、ペロペロでもしてくれるのかと受け入れる体制のベーゼ、アニマル魔法少女は今は効かないがいずれガンにも効くようになる。

「ううぅ……」

「えっなんで唸ってるんですか私そんな嫌な匂いしていますかぎゃあああ痛い痛いそこ噛んじゃダメ!!」

 思い出してほしいがマジアベーゼはさっきまで吠に正体が気づかれないようにわざと濃い目に香水をかけている、現在の犬化したマゼンタも嗅覚が敏感になっているのでこのキツい匂いに嫌悪感を感じて本能で彼女の大事な所を噛み付いたのだ。

「たっ、たたた、助けてキスマーク!!」

「そうしたいところですが手が離せません〜!!1分間時を止められる魔法だったらいけるのに〜!!」

「信じられんけどこれがちゃんと効くのなんなんや……腑に落ちない……」

「あっそうだベーゼ様、偶然とは言えバター持ってました!」

「塗れと!?ちょっと噛み跡ひりひりしてきてますよ!?」

「マゼンタからのサインだと思えば!」

「いける気がしてきた!」

 しかし、時間停止機能が無ければキスマークはトレスマジアでも簡単に倒せる。
 オブリビオンは宿敵以外では死ぬことはないとはいえ、戦力的には向こうのほうが上手である。
 マジアベーゼは肌を露出してる部分が歯型まみれになりながらも脱出してキスマークを引っ張り撤退する。

「もう逃げるんですか〜?」

「こ、今回はわりと洒落にならないくらい痛かったから……それに貴方には聞きたいことが山程あります、聞いてくれますね?」

「なら私の望み聞いてくれますか?」

「へ?望み?……ギャーッ貴方男じゃないですか!!しまってくださいそれ通報される!!」

 キスマークはパンチされながらもマジアベーゼに運ばれて時空の渦に入っていく。
 ……これまでの戦いよりもキスマークが男だった事にショックを受ける2人、もし30秒で解放されなかったら、もしも1分間時を止める魔法だったら自分達はどれだけ酷いことをされていたのかと思うと吐きそうになる。
 犬になったマゼンタもようやく効果が切れてきたのか普通に二本足で立ち上がる、何故四つん這いで動いていたのか分からない様子だったので記憶はないみたいだ。
 とりあえずポチはしばく。
 ……その様子を黒影は能力で確認していた。

「なんかポチも苦労してそうだね、うんやっぱり世界の危機は俺が解決しないとダメだからしょうがないよね、ガリュードくんは例の相手よろしく」

「……ロードエノルメだっけ?」

「うん、彼女がはじまりの書の通りにアレになられると困るからね、でも殺しちゃダメだよ使えるから」

黒影はデスクから離れて時空の渦を開ける、行先はポチと同じく魔法少女に憧れる世界……!

「『星壁獣人』帰ってきたキスマークX」
簡単な説明:エノルミータに存在していたのかしていないのか分からない謎の男の娘。星壁獣として作ったが知能は高くうてなを心から愛しているがめちゃくちゃ性的な目で見ているのでキウィからは鬼のように嫌われている、何やら色々なことを知っており……?
世界:魔法少女にあこがれて
宿敵:柊うてな(マジアベーゼ)

POW:トランスマジア・キスマーク
【性欲】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。

SPD:私の愛の結晶です。
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【マジアベーゼ様】を作った場合のみ極めて精巧になる。

WIZ:キスはここにね?
【星壁獣を取り込む】事で【星壁獣人モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD No.202
最終更新:2025年04月30日 20:40