ディア・オーバード

 マジアマゼンタは気が付くと広場で倒れていた。
 見境なく壊してしまったようには見えないのでまだその予兆はない……そもそもアレが夢だったと断言はしない、頭部にはまだ角の感触が残っている。

「おや、こんな所で遭遇とは珍しい」

 目線の先にはマジアベーゼが見下ろすように眺めていた。
 振り返ってみればこうして二人きりで戦闘に入るのもいつぶりだっただろうか、あの男はこのまま怒りに任せてマジアベーゼを殺害して暴走した魔法少女として自分を売り出すのだろう、それにただ戦闘をするだけでもどれだけの被害となるのか冷静に考える。
 憤怒の怪物というとサルファから聞いたレッドベーゼの事が浮かぶが彼女もこんな気持ちで怒りを抑えながら冷静に言葉を考えるが、マジアベーゼから見ても違和感に気付く。

(血管が浮いている……?全身からむき出しになるくらいだし気付いてないが目も血走っている……極度のストレス?今までそんな事例は見たことがないとすると……あ い つ か)

 オタク特有の観察力を持つベーゼはまだ1回見ただけで状況をなんとなく察して怒りで魔力が漲るがマゼンタの様子を見て一旦落ち着く。

「……出来ることなら貴方にはこんな顔はさせたくなったのですがね、いつまでも……貴方の敵は私だけであって欲しかったというのは我儘になりますね」

「何言ってるの、あたしはあたしのまま、貴方の敵で正義の魔法少女!でもちょっと今回は迷惑をかけそうだから海の辺りで戦わない?」

「海ですか、貴方からそんな提案をしてくるとは珍しい……構いませんとも!たまには私一人だけで貴方を独占してしまうというのも!」

 ベーゼとマゼンタは空へ飛び上がり移動するが推進力が段違いだ、魔法で飛んでいる自分に比べると今のマゼンタはまるでジェット機だ。
 反応からしてマゼンタの身に何かあったことが確かである、ベーゼは見えなくなってからマガフォンを使いエノルミータに連絡する。

「スカーさん、現在組織に残っている時空犯罪者に通達……マジアマゼンタの状態を監視させてください、この件はくれぐれもヴェナさんには内密に」


 マジアマゼンタが改造されていた間はこの世界で言うところのわずか30分のみだったが小夜と薫子は嫌な予感を感じ取って動き回っていた所、いつものようにマジアベーゼがメッセージを残していた。
 いつもだったらおふざけのノリで言葉を送っているが今回は違う。

「ごきげんよう皆様、私はエノルミータ総帥マジアベーゼです、今回の戦闘の予定ですが……急遽変更して太平洋のド真ん中ですきにやらせていただくことになりました、これを見ている私の分身達やレオちゃん達もくれぐれも横入りしないようお願い致します、多分この戦い巻き込まれたら死にますよ」

 受け入れることにした、その姿がどんなに歪でも闇に染まっても……それでも高貴に魔法少女としてあろうとするマゼンタの姿を拒絶しては却って失礼な振る舞いになってしまう。
 真化の構えを取るだけで波が揺れて魚が逃げ出す、穏やかな彼女の雰囲気に似つかわしくない巨大な角が額から生えるがまるで寄生されているかのようで痛々しい。
 服のデザインも棘棘しく美しさを気合で維持しているが鏖魔の異名に相応しくザラザラとした獣に近いビジュアル。
「マゼンタを真化させてぇよな……」と思ったことがある、でもこれは絶対違う、望んだ形ではない。
 事実この時のマゼンタはマガイモノ成分を活性化させた形態変化を『真化』として誤魔化しているだけに過ぎない。
 名付けるとするなら……真化とも違う暗黒真化。
 本来なら美学に反するがそれでも尚正義として振る舞おうとするその姿……あまりにも痛々しくも美しい。
 何故自分は泣いているのだろう?これは感動なのかそれとも……。
 だが見物してる暇もない。

「ねえマジアベーゼ、どうかな……おそろいだよね?」

「……ええ、そうですね」

 マゼンタは自分に生えた角を無理矢理手で折ると変化していき槍の形に変化するが折れた角はあっという間に生え揃う。
 海から鮫が飛び上がって捕食しようとするが振り返った目線を見るだけで何もせず海に変える、あの時殺意を向けていないのに手を出したらまずいと全ての生物が判断する。
 マジアベーゼも正直なところ彼女を前にしてとてつもないほどのプレッシャーで鳥肌を感じて身震いもしたくなる、もしあの状態で攻撃したらどうなるのだろう?マジに死んでしまうのかもしれない。

「こういうヤバいものを見たときは先制攻撃!!」

 ベーゼは鞭で海を力強く叩くと衝撃で波を発生させてマゼンタを包み込む、海に沈んだかと思えば上がってい先ほどの鮫のように下から襲いかかるが紙一重で回避する……あの時の一撃に当たっていたらどうなっていたのかとゾクゾクしてくる。
 赤と紫の光が海上でぶつかりあい余波で海が何回も荒れる、マゼンタが懸念していた通り街でこの規模の戦いをすればただでは済まないだろう。
 そろそろアズールとサルファが駆けつけて本格的な戦闘になるだろうか、独占できるのも後少し……魔力の反応でマゼンタも察知しているので槍と鞭でせめぎ合いになりながら話をする。

「マジアベーゼ、貴方と戦って思ったの……あたしって貴方が案外嫌いじゃなかったんだなって、いやそれはそれとして恥ずかしい事された事に関してはちょっと恨んでたりもする」

「今更なんですか急に!私だって本当なら今でもしてやりたいぐらいですけどぉ!」

「別にいいよ」

「えっ」

 向こうから誘われると途端になんか違うってなる気分のベーゼの隙を見過ごさず容赦なく膝を叩き込む、唐突な頭脳プレーに油断して色んな意味で吐きそうになるがマゼンタは話を続ける。

「ついさっきあたしは改造されて人間じゃなくなったみたい、マガイモノと神様を超越して混ぜた……マガイジン?って呼んでたかな、それが今のあたし」

「な、なるほど……ま〜たあのカスかぁ〜〜私も血管切れるぅ〜」

「怒りたくなるよね、あたしはなるべくそうしないようにしている、あたしの中の怪物は相当短気でキレたら見境なく全てを滅ぼすって言っていた」

「えっ」

 アズール達もマゼンタが言っていることを聞いて足を止める、サルファはポケットに入れていたマガフォンを起動してベーゼもこっそり尻にしまっていたものを起動させる、ここしか入れるスペースなかったのだからしょうがない。

「あのね、まだ二人きりだからこんな事言っちゃうよ、あたしこれから最低な事言う……貴方が作り出した星壁獣とかそういうのは何回も倒してきたけど、ごめん、人を殺すのは嫌だなぁ……」

「……ま、マゼンタ?」

「コントロール出来るか分かんないんだ、出来ることならこの力も魔法少女として使いたいし守る為のものにしたい……けど、そうもいかなさそうなんだ」

「……それを仲間ではなく私に打ち明けるというのは、確かに魔法少女としては最低な答えですね、私に止めてほしいなんて言ったらマジのグーですよ」

「そこまで迷惑はかけられないよ、こんな事出来るのも今日までかもしれないから前もって言ってるだけ、マジアマゼンタとしてのあたしをアズールとサルファの次に覚えてそうだから」

「……もし、人を殺したら?」

「魔法少女としての立場を捨てて本名を公開して、法の裁きを受ける立場になること、責任をしっかり止めて檻の底に入って……ああでも不死身だから処刑は出来ないんだよね……」

 マゼンタは本気だ、怒りから目を背けず罰として受ける覚悟を背負って自分のようにこの勝負を楽しもうとしていた。
 人間としてのプライドか、魔法少女の正義感によるものなのか。
 これが自分のあこがれていた魔法少女の姿か?

「このドアホが!!!!」

「へぶっ」

 遂に飛び出してきたサルファが従来天使の力でマゼンタをぶん殴ると海にダイブして渦巻き状態に。

「へぶぅ上がるのに時間かかった、ご、ごめん真っ先にマジアベーゼが居たから……ちゃんと皆には話すつもりで」

「バカ!!」

「追い打ち!!」

 なんとか海に上がった所にアズールがビンタしてマゼンタを抱きしめる。
 アズール達からすればたった30分、30分でこんなことになってしまうなんてと深く後悔して抱きしめる。
 ごめん、ごめんと謝ろうとしても涙も出てこない、目がそういう形のシールのようになっており液体の1つも漏れてこない。
 私はマガイジン、神と紛い物が混ざったよく分からない存在。


「ま……また全員で作戦会議?まあ察するものはあるけど」

 うてなは帰って早々パラレルうてな達を招集、時空監理局に宣戦布告する気なのだろうと身構えていたがうてなは隣にキウィを抱かせてムスッとした態度でいる。
 悪の総帥というよりは年頃の子供みたいな態度でパラレルうてな6人に詰め寄る。

「えー大事な作戦の前に別世界の私一同に言いたいことがあります、皆さん私の世界のキウィちゃんに甘えすぎです、確かに貴方がたも柊うてなでありキウィちゃんも平等に愛してくれる方なのは分かっていますしかし限度というものがあるでしょう?」

 とてつもないほどの早口でちょっと不機嫌に語り始めるうてな、この時一番何やってるんだろう自分ら……という気持ちにロコルベコンビはなっていた。

「まずムーンちゃんはまた戦隊のオモチャをキウィちゃんに買ってもらったね!?それもだいぶ高いやつ!」

「だ、だってプレ●ン仕様は早いもの勝ちで!?大体マジアちゃんも一番クジお金出してもらったそうじゃん!」

「スローさんは酒飲んだ後に愚痴聞いてもらったり、オルタちゃんはプリクラ行ったり……いつの時代だよ!レッドちゃんは添い寝してもらってボルトちゃんはセッション聴いてもらって、スカーさんなんてここのところしょっちゅうキウィちゃんをお風呂に誘ってる!!みんなキウィちゃん相手にして!!」

「どのうてなちゃんも可愛かった!」

「う、うぬぬ……キウィちゃんが迷惑してないのならそこまで強くは怒りませんけど皆さんはあくまで他の世界から招かれた存在でそっちにもキウィちゃんがいます!だからその何が言いたいのかというと……私のキウィちゃんですからね!!」

「ほあああああ!!?ほっ、ほっほあああっっ!!」

「マジアちゃん!!貴方のキウィちゃんが凄い反応してるから!!」

「年頃のノロケ聞かされるのが一番キッツいわぁ……」

「う、うてなちゃん……ハァハァ……そこまで言うなら一緒にホテルでも」

「うん、今日は行こうかホテル!」

「えっ」

 遂にキウィはキャパオーバーに達してぶっ倒れてしまう、大慌てでレッドベーゼが担ぎ上げて病院まで直行しようとするがさりげなくうてながおんぶして交代しそのままお持ち帰り、実はアジトにはキウィの要望によってホテルのような一室が用意されている。
 若干の怒りが込められたさわやかな笑顔で一同の方へ振り向く。

「じゃあこれまで私以上に散々キウィちゃんと楽しんだ私達!今から一発よろしくやってくるから邪魔が入らないように敵が来たら応戦頼みますよ」

「は……はあ!?」「おい待て性欲モンスター!」「いってらっしゃ〜い」「あ……あまり過激なことはしないでね!」「マジでやる気よあいつ……」「改めて私たちって結局アイツが一番イカれてるんじゃ……」

 煙が出ているキウィを頑張って背負いながらホテルのような大きなベッドに寝かせて準備万端、服を脱いでベッドを整えてシャワーを浴びて……下に隠れていたキスマークを蹴って追い出す。

 「これは違うんです混ざりたいとかしこってたとかじゃなくて私の能力共有で一緒にベーゼ様に生やしてあげようという」

 「大きなお世話です!ほらキウィちゃんが起きる前に帰って!YWM来るから!!」

 なんとか追い出した後にキウィが目を覚ますとスケスケの気合の入った下着を着たうてなを前にしてそろそろ出血多量で死にそうになっていたがせっかく待ち望んだホテルの一時を満喫する為に気合いを入れ直して即復活する、間近に迫りキウィは我に返る。

「うてなちゃん、どうして急に誘ったりしたわけ?まさかとは思うけど……これを最後の晩餐みたいにする気じゃねえでしょ」

「そう言ったら怒る?」

「キレる、めちゃくちゃブチギレる、遺体をビンタして後には墓場をぶっ壊すくらいには恨み続けてやるから」

「やっぱりそうだよね……そんなつもりじゃなかったんだけど……なんかずるいじゃないですか、私は沢山いてもキウィちゃんは貴方だけなのに」

「じゃあうてなちゃんはアタシが沢山来ても、アタシのこと一番カワイイって言ってくれる?」

「何を当たり前の事を言ってるんですか?」

 柊うてなは時空に到達して気付いたことがある、自分はかなり我儘で欲張りな人間だということだ。
 余計な物は全て切り捨てる、だが欲しいものは全部残しておきたくてどれかを手放すなんて出来ない。
 自分の命も、キウィも、それ以外のエノルミータの皆も、パラレルうてな達も、そして魔法少女達との愉しい戦いも全部手に入れる。
 最初から時空監理局に負けるつもりはない。
 だから今は……。

「キウィちゃん、私の全部を受け入れて」

「いいようてなちゃん、アタシの全部うてなちゃんに捧げる!」

 二人は暖かい身体を重ねて完全に自分達以外に入る余地のない世界に突入する、愛で溺れて溶けそうになるほどの情欲に染まり甘い雰囲気を漂わせて……。
 キスマークをぐるぐる巻きにして放置した後、こっそりパラレルうてな達が覗きに来ていた。

「は、はわわ……あっちの私たちってそんな関係だったんだ……」

「うわ……あのデカいベッド私の休憩スペースだったんですけど……ヤリ部屋って意識するの嫌だなぁ……」

「人間の交尾ってあんな感じなんですね、戦隊には濡れ場とかありませんので貴重です」

「ムーンっちちょくちょくやる人外ムーブやめてくんない?」

「自分と同じ顔したやつがめちゃくちゃ馴染みある同姓同名の知り合いと貝合わせしてる光景、精神的にくるわぁ……」

「勝手に覗いておいてその言い分はあんまり、でもあの性欲……若いですねぇ」

 ずっとお預けされていたキウィのボルテージは急上昇で長くて2時間は興奮が抑えきれないままおっぱじめていたがパラレルうてな達のイメージを裏切るようにうてなからリードを奪うことは出来ず終始責められっぱなしで雌の顔を見せている、レオパルトとして戦う姿を眺めたりビデオで観察したり、それと私生活で甘えている姿しか見ていなかったので貴重だが……。

「う、うわぁ……」

「なんか……うらやましくなってきた」

 本来エッチな事が苦手なレッドベーゼ含めてその光景に悶々とした感情が芽生えつつある!性格や世界が違えど結局彼女達は『柊うてな』なのである!!
 そしてうてなは楽しむだけ楽しんでキウィは足腰が利かない状態になりうてなに介抱してもらう所で扉の前にパラレルうてな達が居ることにようやく気付く。

「おいコラ……見張っとけって言いましたよね……」

「い、いやぁヴェナっちも最近ここに来なくてヒマだしさぁ、出撃するようなこととかなくね?……ってムーンっちが」

「えっ私のせいなの?どっちかと言うとスカーさんが乗り気だったじゃん」

「それはまあはい、でも私についてきて見に来たのは皆さんなので」

「とりあえず皆さんそこに正座、後でお仕置きですので今は失礼」

 疲れているので再びキウィを抱えながら戻って歩く。

「……んねぇうてなちゃん、こんな時に言うのもなんだけどさ、マゼンタが改造されたってマジな話?」

「そうだね、マゼンタの真化も嘘だよ……急速にあんな変化するなんて作り変えられたレベルとしか思えない、この手の他世界モノはネモちゃんが詳しいから調べてもらってるところ」

 マジアマゼンタはあの姿で魔法少女として振る舞おうとしているのでその気持ちを尊重して騒ぎ立てない、あくまでエノルミータとしてはそうだ。

「後は一旦待ちましょう、そして我々は判断するんだよ……局長はともかく、副局長が人々にとって信用に値する存在なのか」


「来ると思ってたよ、マゼンタちゃん……ああ、他の皆も来ていたか」

 マゼンタはあの後イミタシオ事務所に訪れていた、直ぐ側には小夜と薫子も居た。
 たくっちスノーは改めて現実を理解して中に入れた後、身体から触手を伸ばしてマゼンタの表面を削り取るとはるかの姿に変化する。

「まず第一に変身が解除出来なくなったんだろ?これからはマゼンタに変身していたのが逆になって表面の成分を変化させて花菱はるかとして振る舞うことになる」

「ありがとうございます、それで……」

「詳しく聞かせてくれ、マガイジンのこと……これが本当だとしたら時空監理局最大規模の不祥事……僕の責任でもある」

「……」

「イミタシオは気にしなくていいよ、これは完全に監理局として腹を切っても詫びきれない」

「腹を切っても死なないのに?」

 「……はっはははは!!君どこで覚えていたのそのマガイモノジョーク!!ははは……そうか、ポチか、アイツに決まってるよな……最悪だ……なんであいつもちゃんと仕事してたのにこんなことになるんだよ……」

「おい、ウダウダ泣いてる暇あるならはるかに何が起こったのか説明しろや」

「ああ、まずマガイジンは僕がメイドウィンになる直前に黒影が考えついた神とマガイモノのなりそこない……その時見てたときはコントロールが効かなかったけど、君の様子を見る限りだと凄い安定力だ……長い事研究しているが分身達もここまでの成果は出してな……何!?……ご、ごめん、また後で話すよ、今は君の話だ」
最終更新:2025年05月11日 07:11