ナンバーワンにあこがれて

 四人は戦闘を行いながら時空の真実を知っていく、エノルメはたくっちスノーのそばにいたので過ごしているだけでも事実をどんどん覚えていったのだ。

はじまりの書とは我々の世界で言うとアニメやゲームと言った実在しないフィクション作品のネタバレ全てを表す……という例えが近いか、物語である以上世界には『主人公』が存在するのだ、それは勇者だったり軍人だったり……あるいはただの凡人もありえる」

 誰しもどの世界にも主人公がいる、スーパーマリオの世界にはマリオが居るし、ガンダムの世界にはアムロ・レイの記録がある。
 これはメイドウィンが決めたわけでもなく、はじまりの書に最初からそう書いてあった……メイドウィンが直接指示するまでもなく輝かしい活躍を残す、それは今まさに輝いているマジアマゼンタのように。
 しかし……それを気に入らない存在も確かにいる。

時空監理局局長、黒影は全知を司り全てを助けるという立場に拘っている……ならば、自然と物事を解決する素質のある主人公というものは奴にとって都合が悪い、だからこそ嫌っている……あくまで私の推測ではあるとはいえガリュードを見ていると不自然とも思えなくなる」

 エノルメは話をしながら近寄りマゼンタとガリュードの身体を貫く、たくっちスノーの成分をこっそり抜き取って肌に貼り付けることで見えないゴム手袋のように頑丈になっており変身ヒーローの硬い装甲も貫く。

「うぐっ……」

「どうしたマガイジン、不死身の身体を甘く見ていたな?成分に魔力を加えて再構築すれば上位互換を作ることなど動作もない」

 マガイモノの弱点は複製は99%の再現であるため由来となったものには決して敵わない乱れなき上下関係に支配されていること。
 ロードエノルメはこれに目をつけて強引に成分を奪い取り魔力で再構築させることで必要な残り2%を補う101%のマガイモノを作り出す、エアプベーゼを倒す際に改めて完成したとっておきだ。
 ただしこの技術も簡単ではない、マガイモノ成分自体安易に触れたら人を溶かす性質がある為にエノルメは魔力でバリアを作らなければ0.01秒の判断力で分離、構築、生成まで考えて実行に移さなくてはならない、イミタシオの状態でも出来なくはないがまだこの技はロードエノルメとしての切り札にしておきたい。
 成分を取り出してジンオウガに変えて差し向けるが……背後から叢雲の獣に真化したベーゼがまとめて両断してしまう、エノルメのマガイモノは上位互換を作り出す代わりに再生能力が完全に消失してしまう。
 そこにマゼンタがアンプルを構えて弓を引く。

「しつこいですね貴方も、こんな時に私の相手ですか」

「二兎を追い三兎を得る、悪の組織とはそういうものだ」

「また同じ手で尻を叩かれたいんですか貴方は!?二度あることは三度あるも勘弁してもらいたいのですが私の気分的にも!」

「この場合は3度目の正直と言わせてもらおうか!」

「お前らもさぁ……僕を除け者にして何をゴチャゴチャと」

「今まさに私達の戦いにお前みたいなのが邪魔って話をしてるんだろうが!!」

 なんとも息の合ったエノルメとベーゼのハイキックがバツ印になるようにガリュードを蹴っ飛ばす、なんだかんだエノルミータの総帥同士嫌な所で息が合うらしい。
 問題は今も力強く矢を構えているマゼンタである。

(おい確かあいつの体ってキレたらヤバいだったな……大丈夫なのか、はっきり言ってお前のあれこれで鬱憤溜まってもおかしくないぞ)

(いやそれは……それはありそうですけど……)

『ともだち』もガリュードも鏖魔の激怒による水蒸気爆発を狙っていると見てベーゼはマゼンタの方を警戒している、彼女の中で偶発的に巻き込まれた吠との思い出が蘇る。

「君もよくやってくれたよ、君がそうやって強くて、間抜けで!能天気で!無駄に優しいだけが取り柄の魔法少女なんて奴がそばにいるから吠は拘りも捨てて腑抜けた犬以下に成り下がった!僕は本当にその事に関しては感謝しているつもりだよ!だからもう死んでくれないか!吠の友達は僕が決めるんだ!君はふさわしくないと言ってるんだよ!」

 ガリュードとマゼンタの槍と銃の猛激戦、互いに不死身で攻撃したそばから再生するからこそ意味もなく削り合っているに過ぎないが鬱憤を晴らすにはちょうど良かった、エノルメも巻き込まれないようにするのが精一杯だったがベーゼはじっくりとスタンガンを合体させて巨大なレールガンに変えて狙撃の構えを取る。

「くっ……マゼンタも何をしている!どうせ打開策もないんだ、戦っても無駄だろうに何故……お前もお前でなんだそのガチ兵器!」

「ロードエノルメ、こんな時になんですがついさっきの怪物としてのマゼンタに会った時の話をします……あの人は私に対してこう言ったんです、出来れば人殺しにはなりたくないと……それを聞いた時、心から嬉しかった、魔法少女だった頃から今まで……マジアマゼンタが人間で良かった!!」

 マゼンタが魔法少女でいる為にベーゼはその一線を超える、レールガンを発射してマゼンタとガリュードを丸ごと貫き引き離した所にマゼンタが自分の角を折って槍を作り吹っ飛ばした。
 愛する推しを推しのままで居させるために、マジアベーゼは彼女の我儘を引き受けることにした。

「何を考えてるベーゼ!奴が電撃を操る怪物の成分で出来ている事を忘れたのか!レールガンなんか叩き込んでも焼け石に水だ」

「では何故ガリュードはその力を攻撃に転用しないのでしょうか?ここに来るまでに一通りルベちゃんに戦闘を観察してもらいましたが、その技を使った電撃の跡は個人的に気に入らないであろう例のお兄さんの分身のみでした、彼女からジンオウガとやらの性質も教えてもらいましたが……虫と共生していない状態では電気も微々たる物なのに何故その力を溜め込まないのか?貴方も発想くらいは出来るはずです」

「……ガリュードはマゼンタと違って金雷公の力をコントロールするには至ってない?……うっ!」

 吹っ飛ばした先で力強く雷鳴と閃光が響き、大量の蛍のような物がクオンの体に纏わりつく。
 真帯電状態となったクオンの髪は電気で逆立ち体中の血管は浮いて金色の光で輝き、通電した虫を投げ飛ばすように強引な攻撃を取る。
 目は見開いてテンションが上がっており完全に精神が乱れている状態であり、ガリュードへの変身が両立出来ないようではベーゼが言うようにマガイモノ成分をコントロール出来てないというのも間違ってないのかもしれない。
 エノルメとベーゼは混ざれないならさっさとコイツ潰そうとばかりに取っ組み合いの喧嘩のように拳を交えて話を続ける。

「な……ならば何故マゼンタは怒りで全てを殺戮するような怪物の力を抑制剤一つでコントロール出来ている!?奴自身、少しでも怒れば精神が呑み込まれる事を恐れて当然のはず……奴もあんなに挑発しているだろう」

「簡単な事です、マゼンタはガリュードに怒っていない、見てくださいあの見下すような顔」

 マゼンタは弓矢を構えながら的確にアンプルを狙撃していく、抑制剤が通用するかも分からないが打たないよりはいい。
 これまでエノルミータにも見せなかった冷たい顔は怒りでもなければ失望でもない、本当に理解しようとして出来なかった時か……救うことを諦めたような目つき、おそらく人間のままだったら涙の一つでも出ていたのかもしれないが、綺麗すぎる肌はあまりにも無機質で恐怖しそうになる。
 ガリュードは背中から雷光虫を弾丸のように飛ばすが麻痺することも怯むこともなく機械のようにアンプルを打ち込み続ける。

「ですがあんな顔は少々解釈違いといったところですね」

 攻撃の途中でマジアベーゼが割り込みに入り、アンプルを噛み砕いて阻止する。
 そもそも自分の魔力を勝手に盗用されてイメージに似つかわしくない闇の姿で振る舞われるというマゼンタらしくない行い……それに対する苛立ちを隠しながら真帯電クオンに対峙する。
 レオパルトの魔力が込められているので銃もある程度は作れる……といっても獣を撃退する程度の威力だが、こけおどしには充分、真髄はより強化された支配の鞭である。
 この状態で作られるものは……星壁獣ではなく世反獣、一つ一つがキルロード級で瓦礫を叩くだけで大顎の怪物に変化する。

「こんなものがなんだ!俺だって同じ事ができる……」

 クオンはゴジュウジャーから奪ったセンタイリングからボウケンレッドとオーレッド、ゴセイレッドが現れるが世反獣と相打ちになり自爆、攻撃させる暇なくリングを奪い取り支配の鞭を使用する。
 魔法少女は魔法少女と……戦隊は戦隊と戦えばいい、世界の理に反することなく正当な戦いを行わせる怪人。
 アイデアにはムーンベーゼとルベルブルーメの協力も入っている。

 ボウケンのリングからは世反獣ズバシャアーン、オーからは世反獣ジンガンマ、ゴセイからは世反獣ライオンナイトと十八番を奪うように次々と召喚してけしかける。
 ……一番アイデンティティを奪われていると感じているのは魔物召喚魔法を与えられた形のロードエノルメだが。

「貴様!後総帥の分際で私の真似ばかりしおって!」

「ヴェナリータのお下がりは黙っててくれませんか!?マガイモノ成分こねこねだけしてればいいんです!」

 だがマジアベーゼの愉しみ通りにも、クオンの想定通りにもいかない。
 時空の渦から狼のような剣が飛んできたかと思うと一気にクオンの胸部を貫いた。

「ぐっ……こ、これはまさか……」

「マゼンタ、そこにいるんだな……エンゲージ!」

『グラップユアハンズ!ゴジュウウルフ!』

 時空の渦から現れたのはゴジュウウルフ……遠野吠だった、これまで持ってなかった狼型の剣『ウルフデカリバー50』まで備え付きである。
 クオンから引き抜いて獣の構えを取る。

「アオオオーーーーーーンッ!!」

「ほ……吠!!何故だ!!何故こんなやつの味方をしているんだ!君に相応しくない指輪の戦士も時空の彼方に吹き飛ばしたのに!」

「吹っ飛ばした?それって……こいつらのことか?」

 デカリバーを振ると時空の裂け目が出現、中から消えたはずのゴジュウジャーが勢揃い……トレスマジアまで駆けつけてきた。
 どうやらこの剣は人為的に時空間に繋げられる斬撃を残す事が出来るようだ。
 そのまま攻め込みながらクオンを圧倒する、ゴジュウウルフには何の強化も入ってないにも関わらずである。

「兄ちゃん……いいや、クオン!あんたはもう俺の家族でもなんでもない、怪物に魂を売って人の心を失い、完璧だった頃のあんたは蛍の光のように散った……マガイジンになってから弱くなってねえか、てめえ!」

「いつから僕にそんな口を聞けるような立場になった!!」

「今まさになるんだよクオン!もうあの頃の強くて優れてた兄ちゃんはどこにもいねえ!ジンオウガとかいうバチバチする狼の力と不死身の体に頼るような、そんな奴じゃなかったはずだ!」

「ほ ぇ るうううう!!」

 時空から虫と電撃を更に溜めて更に強い帯電状態になろうとするが、カリバーの一閃で虫を引き離されてしまい……虫のいないジンオウガなど変身アイテムを無くしたヒーローと同等である、サバじゃねえ!

「……で、実際何故ですか?マゼンタの味方をするのは……」

「なんで?んなもんなんでもいいだろ……強いて言うならな、こいつからバイト代山程貰っているからな、マゼンタを生かして返さねえと俺は家事代行のバイト代を貰えねえんだよ!」

「ほ……吠さん……」

「バイト!?バイトですって!?そんな不純な動機でマゼンタを助けるというのですか、ああいけませんいけません、やっぱり貴方はトレスマジアに近付いてはいけない存在ですゴジュウジャー!」

 変な意味で魔法少女オタクを拗らせて火が付くベーゼと、クオンに奪われたセンタイリングを今はベーゼか持っていることに気付きゴジュウジャー達も矛先をベーゼへ向ける。
 ロードエノルメもシン・ロード団が一度ゴジュウジャーに喧嘩を売った以上この勝負は避けられないだろうと構えを取る。
 覚悟を決めたサルファとアズールも真化してマゼンタの間に立つ。

「吠さん!こうなったらとことんやろうか!」

「ああそうだな、折角集まったんだ……クオンも、エノルミータも、シン・ロード団も……トレスマジアでさえも!お前ら全員、俺の獲物だ!」

「こういうのは本来あたし達の性分じゃないけど……全員まとめてかかってこーい!!」

「な、なんでこんなことに……エノルミータに緊急連絡!!スカーさんは時空犯罪者達を集めてきてください!……ああ出来ればレオちゃんも連れてきて!」

「これはなんとも妙な展開になってきたね、まあオーディエンスは多いほうが盛り上がるよね!」

「おい!私だけ誰も呼べないではないか!孤軍奮闘という言葉がこんな虚しいと思わなかった……こうなることならシスタギガントと合流する時間を作っておけば良かった!」

「これに勝った奴がナンバーワンだ!時空を超えて……あの監理局のバカをぶん殴れる権利を持つってのはどうだ?」 

「おう、単細胞ワンコ野郎にしてはおもろい権利与えてきたやないか、この中で時空監理局に頭来てない奴……おらへんしな」

『つかめ!!ナンバーワン!!』

 ゴジュウジャー特有の応援団が駆けつけて、飛び込むように4方向からリングに入っていくマジアマゼンタ、ゴジュウウルフ、マジアベーゼ、ロードエノルメ。
 残りの面々はこのノリの奴見たこと無いがその場の勢いでやり通すことにした。

「俺は誰にも監理出来ねえ!信じているのは次のバイト代だけ!はぐれ一匹ゴジュウウルフ!なってやるぜナンバーワンに!」

「魔法少女にあこがれて振り返れば時空の敵!いつか私は敗れようとそれは今この瞬間ではない!エノルミータ総帥マジアベーゼ!この世界から邪魔者は全員追い出して理想の勝負をさせてもらいます!」

「神様でもない紛い物でもない、それでもあたしは魔法少女だ!トレスマジアの一角、鏖魔の魂が混じったマジアマゼンタ!」

「未だ諦めぬ世界征服!この際時空征服もやってやる!それよりも大事なのは奴へのこの屈辱晴らすこと!シン・ロード団及びエノルミータ前総帥ロードエノルメ!全員まとめて消滅させてくれる!」

 ゴングと共に様々な勢力が入り乱れる混乱戦、陸王などのライブ配信によって元の世界でもこの光景が映し出されて指輪を巡り、何より黒影をぶん殴る権利の為に敵も味方も入り乱れた大勝負が世界を超えて繰り広げられる。

「返してもらうぞ俺の指輪!」

「全部貴方のものってわけでもないでしょう、欲しいなら世反獣を倒してみなさい、そしてこの私も!」

「おっと!」

 ベーゼは腰からマグナム銃を出して至近距離から発砲、結構強めの銃なので肩が痛むが戦隊特有の頑丈なスーツ越しでもダメージを与えるにはこれくらいが必要だろう、そのまま銃を投げ捨てて鞭で連撃を浴びせようという所にアンプルが砕かれて薬品が雨のように襲いかかるが咄嗟に傘を作ってガードする。

「ま……また!また変な薬私に入れようとしましたねマゼンタ!!」

「43番はまだ大丈夫な薬だから!……多分!」

「大体その姿が私はどうにも嫌なんですよ!貴方はそんな露骨にエッチな格好でそんな破廉恥な技を使うような路線変更とかしないはず!!そういうのは私が好きにやりますからもうちょっとマガイモノの力で真化のデザイン変えられないんですか!お花とかお姫様とか」

「隙あり!!」

「ぎゃああああ!!」

 ベーゼがマゼンタと揉めている所にエノルメが背中から貫いてそのままベーゼに腹パン、この瞬間鏖魔の成分を手に入れたのでいつでも倒せる状況にあるが優先すべきはベーゼに屈辱をあたえることだった。

「私はお前にめちゃくちゃに尻を叩かれた、だからお前の尻をめちゃくちゃにしなくては気が済まない」

「イヤーッ生尻に直接手を入れないで変態!」

「お前が一番言ってはならない台詞だそれは!!見ていろ!鏖魔の成分を貴様の尻に塗りたくってイボだらけのグロテスクな肌に改造してやる!」

「ええいやられてたまるか!また幼女フィルターかけてやりたいけどアレ精神的にキツイんですよね!」

 エノルメとベーゼだけバトっている時語彙力も規模も小学生並みになってしまう。
 元々世界征服とかアホらしいと思っていたベーゼとイミタシオとして報復という選択肢が潰えて魔法少女の時は真面目に振る舞っている結果、エノルメとしてはイミタシオよりも子供のような執着を見せるようになってしまったことにより傍から見たら似た者同士みたいになっている。
 まあ、どっちにしても大真面目に悪の組織の総帥なんてやってるような人物の頭なんてそんなものだろう。
 再度隙ありとばかりにアンプルが飛んでくるのでベーゼは背後に回ってエノルメを身代わりにする。

「何をする貴様年上並びに前職を労れ!!」

「都合悪くなったらエノルミータ総帥の立場を振りかざないでくださいよみっともない!」

「あっちなみにこの薬は17番で若返る薬だよ」

「ああっまたか!!奴からそう見えるかそれ以外かってだけで前と同じ展開じゃないか!!」

「ならこの後どうなりますか分かりますねロードエノルメ、リアルの方ならギリイケる」

「やめろ本当に二度あることは三度あるになるだろ!」

 幼女化したロードエノルメを追いかけ回すベーゼ、この2人だけ全く別の戦いをしているように見える。
 はたして、ナンバーワンは誰のものか。
最終更新:2025年05月11日 07:20