ぴかちゅう

「ということで君等には俺から宿題兼依頼として三種類の都市伝説を調査してもらいたい」

 突然黒影がビルに訪れたかと思えばそんな事を言い出した、まさか黒影が都市伝説のネタを持ってくるとは思わなかったのでおそるおそる確認してみるが、どうにも妙だった。
 AからCの記号になっておりまるでクジ引き、めちゃくちゃ遊ばれてるなコレ……と思いつつもこういうのは順番にやりたい派のたくっちスノーはAを選択すると、謎のハイテク技術で自動的に開かれる。

「黒影、念の為聞いとくがこれ共通してる要素とかある?」

「全部ポケモンの都市伝説だよ、一番怪しい情報が出回っているのがあの作品だからね……そのうち俺が気になったものを3つ持ってきたから」

 Aの都市伝説が開かれた先にあったのは……。

FILE6『ぴかちゅう』

「Aはポケモンカセットに描かれていた奇妙なメッセージだ」

「もしかしてアレのことか?でもアレはリアルワールドでとっくに解決した内容だぞ?」

「どういうこと?」

「ポケモンピカチュウ版っていうゲームの話からするか、アニメでお馴染みピカチュウの人気にあやかって生まれた特別バージョンでな……このゲーム自体は普通なんだが、ある中古品にこんなメッセージが残されていたという。」

 以下、そのメッセージの内容。

ぴかちゅう ぼくは がっこうに いかなくては いけなくなったんだ

ぴかちゅう ぼくらの たびは なんだったのか わかるか

ぴかちゅう きみは たくさんの ひとたちを やっつけてきた

ぴかちゅう おまえは ぼくのみえないところで にやにやわらってたんだね

ぴかちゅう もうたびは おわりだ ほんとうに おわりだ

ぴかちゅう がっこうに いってくるからさ

ぴかちゅう おまえは すきなひとを やっつければいい

 という物だ、しかしこの都市伝説は掲示板のネタに尾ヒレがついただけということで既に解決されている。
 つまり全貌は大体わかっているのだ、しかしそんなものを単なる面白半分で黒影が持ってくるわけがない、絶対曰く付きの代物だろう。

「そもそも元の反説からして妙だ、ゲームにこんなメッセージ残っていたら気付くだろとかゲームボーイにしては長すぎるとか……いくらなんでも不自然すぎる、俺はこれをカバーストーリーと見るね」

「単に掲示板用のネタに加えて尾ヒレがついてネタがガバガバになっただけじゃないのか」

「たくっちスノー、そういうつまらないマジレスはモテないよ、コナンの話したら高木刑事って元は原作にいないんだよってネタを擦るやつくらい面白くないよ」

「大きなお世話じゃい」

 変な喩えで貶されつつも黒影の話を聞いてみることにした、既に胡散臭い感じしかしないがせっかく持ってきたネタなので相手するだけしてみることにした。


「そもそもこの都市伝説にどんなストーリーがあるっていうんだ……?」

「文字だけ単純に見るとピカチュウをゲームから解放して何か大きな事をさせようとしている……って感じだろうか?」

 たくっちスノー達は早速『ぴかちゅう』のメッセージに残された意味を考察してみるが、どうにも発想の限界を越えられるような物が思いつかない、何せ今回のネタは意味深なメッセージが残されているだけで話の筋も見えてこない、リアルワールドであっさりとネタバラシが見つかるのも納得するものがある。

「それで黒影はどういう話を想定しているんか?」

「ああ、がっこうにいかなくてはならない……ということは書いたのは小学生頃……というのも妙だ、だって少なくとも小学一年生でもある程度の漢字は書けるだろ?第一ピカチュウをカタカナで書くことくらい幼稚園児でも出来る……」

「……だからこそガセ臭いようにも見えるわけだが」

「まあそう見せるためのカバーストーリーだからね、ちゃんと聞いて、この見えないところでニヤニヤとというのは……」

 そうして黒影が語りだしたのは何の根拠も理論も感じられない、まるで野獣先輩新説のようなどうとでも言えるガバガバな言葉。
 学校というのは言い換えで実際は基地みたいなものなんて暗号から自分に有利な天候を作り出すバトルフィールド展開マグロみたいな頓珍漢、思いつくほうが大した頭をしている。
 意味深なメッセージがいつの間にか凶悪な生物の実験を現すものになっており、ミリィとたくっちスノーは頭に入れておくまでもないと別の話に取り掛かっていた。

「そういえばポケモンの都市伝説って色々あるって聞いたけど解決したやつってどれだけあるんだ?」

「有名なのだとレッド幽霊説だな、いやあの世界レッドって名前のヤツいくらでもいるけどほら、カントーチャンピオンのレッド……シロガネ山の頂上でサバイバル生活してるせいでガチで幽霊と思われてたらしいぞ」

「ひえ〜、トレーナーとしてガチるのはいいけど幽霊扱いされちゃたまったもんじゃないよな」

 ミュウツーの創造主やパラセクトの原理など正確に解明されたものもあれば、特定のメッセージや意味合いなどを否定されたことまで様々であったが……知られているのはリアルワールド時点で解明されたものが多く占められている。
 時空新時代になって研究が進められて否定路線が強くなった説といえば『カラカラ=ガルーラの近縁説』だ。
 カラカラは幼い頃から親を亡くしてその遺骨を頭部に被っているポケモンだが、その親はガルーラという別のポケモンと類似した存在ではないか?という物で、カラカラの戦闘時にガルーラが駆けつけたこともあり議論を重ねられていたが、時空の研究によって近縁でなければ偶然でもない……ポケモン同士にはたとえ無関係な生態であっても引き寄せるようなシンパシーのようなものが発見された。
 これが発見されてからはポケモン学会の仕事なので都市伝説を研究する人々は我関せずを通している。

「で、今はゲンガーはピクシーがゴーストに憑依された説がトレンドでゲンガー目当てにシオンタウンを訪れる人も多いんだとか」

「ああ……オカルトの山だもんねあそこ」

「あれちょっと俺の話聞いてた?」

「ユリコさん、黒影の話について信憑性あるかどうか」

「ファクトチェックしないで?」

「黒影さぁ、都市伝説を調査するっていうのは妄想を投げるんじゃなくてある程度周囲も納得できるようなそれっぽいものを追求するんだよ、それで『ぴかちゅう』は掲示板に似たようなものが発見されて尾ヒレが付いたって結論が出てるんだよ」

「でも俺達納得できるような説出せたかなぁこれまで」


「でもポケモンって大体こういう流れでしょ?ナックラーとかネンドールとか戦争に例えられたりとか」

「あの程度のこじつけならユリコさんでも出来るわ!ちょっと試しにやってみてよ!」


 あまりにも突然の無茶振りだがツナカユリコは嫌な顔をせずにポケモンゲームの中に入ること10分、その後にテレビ画面でせっせと手書きしては持ち帰りそれをパソコンに出力していく、電子生命体なのに変なところでアナログなのがミリィのお気に入りどころでありchannelの看板娘らしいところがある、よくもまあ最初のコンタクトからここまで馴染み深い存在になったものである。

 ユリコはコピー機から調査結果を出力する、ハガネールの鋼の体は、戦争で使われる装甲車両や軍艦の鉄壁を象徴している。英語名の「Steelix」は「鋼」と「X」を組み合わせたもので、「X」は未知の兵器や極秘プロジェクトを指すとされる。さらに、地下を掘り進む能力は、戦争中のトンネル戦や地下シェルターの構築を連想させ、レベル44で「かみくだく」を覚えるのは、某世界の1944年の激戦を暗示しているという。
 更にバンギラスは砂漠や山岳地帯に生息し、圧倒的な破壊力を持つポケモン。その姿は戦場を蹂躙する巨大な戦車や怪獣兵器を思わせる。レベル61で「じしん」を覚えるのは、1961年の冷戦時代に起きた核実験の揺れをイメージしているという説がある。また、英語名の「Tyranitar」は「暴君」を意味し、戦争を主導する独裁者の暗喩ともされている。

「な、なるほどそれっぽいな……ナックラーが英語で核だとかネンドールのレベルが戦争の日と同じとか、端から見たら何言ってんだコイツって感じが凄く伝わってくる……」

「でもバンギラスとハガネールってこのレベルで技覚えないだろ?」

「技のレベルなんて実際はどうでもいいんだよ、あらゆる仮説で数字の語呂合わせは一番こじつけやすい適当なところなんだから……それに考えてみろ!今でこそリアルワールドとかは平和だが……それまでに何回戦争が起きた?何日戦車が暴れた?数撃ちゃ当たる感覚で何の日でも当てはめられるだろうが」

 時空新時代において〇〇は戦争絡みというものはだいぶ陳腐になってきている、そもそも今でも争ってる世界は山ほどあるし日付を巡れば〇〇の日なんていくらでもあるのでそんなに意味深なネタにもならない。
 そもそもの話戦争とこじつけたからなんだというのか、ノストラダムスのように世界の終末を予告していたのとはわけが違う。
 そもそもの話、それらと比べても黒影が提唱していたものは非常にお粗末な出来栄えだったのだが……何故かピカチュウが比喩表現として破壊攻撃を行えるAI兵器になり虐殺になっている。

「それはもう都市伝説を通り越して陰謀論なんだよ」

「陰謀論と都市伝説って何が違うの?」

「…………そのへんの話は色々と複雑になってくるからあまり考えないようにしよう」

 ひとまずAの都市伝説は掘り下げるだけ無理ということになり、ぴかちゅうの都市伝説はもうそのままで充分ということに。
 残るBとCもさっさと開封して黒影を帰らせることに。
 こういう場合Bはめんどくさい予感がするので本能で無視してCから先に開けてみると……そこにあったのは本来と違う黒いポケモンのカセットであった。

「こいつはまさかポケットモンスターのブラックバージョン?」

「え?あのレシラムが出てくるやつとは別なんだよね?」

「ああもちろん違う、それ以前から出てきたクリーピーパスタの方だな」

 ポケモンブラックバージョン、通称ポケモン黒。
 実際に発売されたポケットモンスターブラック(第5世代ポケモン)とは違う第1世代ポケモンの都市伝説、通称『ゴーストブラック』。
 クリーピーパスタと日本の都市伝説の大きく違う点、それは日本のものは本編に登場した怪しい要素を掘り下げる(レッド幽霊説が筆頭)のに対してクリーピーパスタは殆どオリジナルでゲーム其の物に異常が起きていることが多い。
 ポケモン黒はパッケージにPOKEMONの文字が描かれているだけで真っ黒、ストーリーに変化はないが大きな個性が一つ。
 このゲームで使えるポケモンは一つだけ、あるいはポケモンかどうかも怪しいが。

「ブラックバージョンで仕えるのはゴーストだけ……いや、ゴーストといってもポケモンというよりは幽霊だな」

 幽霊とは初代にのみ出てくる謎のエネミー、ちゃんと原作にも存在するものでシルフスコープで正体を暴かないとポケモンは怯えて何もできないという所謂イベント用の存在、これをブラックバージョンでは自機として操作できる。

「『のろい』って技を使えるんだよ」

「ゴーストタイプが使うと体力を削って相手を呪って少しずつ体力を減らす技……ではないんだよね?」

「うん、それどころか相手を問答無用で消すっていうとんでもない技」

『消す』というのは比喩表現ではなく本当に消滅する、使用した場合敵のポケモンは存在そのものが消失して最終的に何も無くなってしまう、プレイした人はこれを死なせたと解釈していた。
 使えない時もあるにはあるが殆どこれだけで解決してしまうという。
 問題はこれを繰り返してチャンピオンになった後特別なエンディングが挟まれる、今ユリコが代わりにオートプレイをしてくれているがグリーンを倒した……というよりは消滅させた後に『そして月日は流れて……』というナレーションが流れる。
 エンディングで立ちはだかるのは今まで数多くのポケモンを消滅させてきたあの幽霊、そして主人公は老人となっておりポケモンも持たず対峙。
 そして幽霊に呪をかけられて消滅しゲームが終了、やり直すにはゲームを最初から始めるしかない。
 この都市伝説は他の手段も色々試してみた、幽霊に頼らないようにもしてみたと試行錯誤した痕跡もあるが無駄に終わってしまったらしい。

「この手の都市伝説にしては珍しくプレイヤーに危害もないし悪意も感じられない真面目な奴だよな……因果応報感は感じられるし処理も実にゲーム的だ、呪いというよりハックゲームの雰囲気だ」

「ああ、そういえばポケモンって改造ゲームが多いんだっけ」

 ということでゴーストブラックの調査に乗り出す一同、まず最初にユリコが試してみたのは負けイベントの突破……つまり最後の幽霊と老人の戦いを無理矢理勝ってみることに。
 しかし今回の都市伝説はオカルト的な力を感じられないので完全なゲーム的な処理……つまりは勝っても負けたものとして進行してしまう可能性が高い。
 たくっちスノーとミリィは時空に関する影響に関して考えてみることにした。

「ゲームだとバージョン分けされてるやつは元の世界だと同じメイドウィンだ、メダロットならカブトとクワガタ、妖怪ウォッチなら元祖と本家、あと真打全部同じ奴ってわけだな」

「この場合だと赤、緑、青、ピカチュウバージョンが同じってこと?……あっ、ファイアレッドとリーフグリーンもあったっけ」

「ただ前にフレアブーストから聞いたときはドラクエ1と3は別のメイドウィンが担当してるっていうんだ、わけわかんね!」

「……ふむ、とりあえずポケモン4色のメイドウィンに連絡する?」

「黒のことなら別のやつに聞けって返されるだけだろ……」

 だが案の定様子がおかしい、ゴーストブラック版をユリコが攻略中に幽霊の姿が変化したかと思えば真っ白な腕の怪物に変化したのだ、ゴーストブラック版にそんなネタはないがたくっちスノーはそれがなんなのか知っていた。

「ホワイトハンド!?コレって確か別の都市伝説ででてくるやつだぞ!」

 ホワイトハンドとはポケモンタワーの墓から現れる謎の裏ボス『ベリードアライブ』が繰り出してくるポケモンかもわからない何か、最初はゲンガーやベトベトンなど普通のポケモンバトルをしているのだが最後に繰り出してくるのがこのホワイトハンド、レベル100であり変身能力でミュウツーへと変化、味方陣営も強いポケモンが揃っていたはずだが全て蹴散らされていき全て倒されても画面が真っ暗にならず、レッドがベリードアライブに喰われてGAMEOVERの画面が流れるというものだ。

 ベリードアライブがゴーストブラックに登場するなんてことは聞いたことない、一応クリーピーパスタには関連性や協力関係みたいなものも存在し都市伝説の垣根を越えた繋がりがあることもあるが当てはまらない。
 ミリィがこれを見て一つの仮説を思いついた。

「もしかしてゴーストブラックを筆頭にポケモンの都市伝説って全部同じ世界で繋がってるんじゃないのか……?」

「何?それってつまりヒプノスララバイ、ロストシルバー、歌えないプクリン、イーブイの進化のなり損ない……前も言ったがポケモンの都市伝説はこのシリーズだけ見ても山ほどある!世界一つ分形成されても何も不思議じゃねえぞ!」

「うーんでもそれだとさぁ、俺も知らないはじまりの書を使って世界作った謎のメイドウィンがいることにならない?」

 黒影としても無視出来ない話になってくる、都市伝説どころか世界規模の話になってきた……黒影からこのネタを持ちかけてきた時の危険性がようやく分かってくる。
 結局Bは開けてないがCのことを考えるとろくでもないのかもしれない……が、好奇心には勝てず開けてみることにした。
 そこにあったのは資料、コレまでと違いカセットではなかった。

「アルタイルとシリウスって聞いたことある?」

「少しだけなら……確かホウエン地方の別の未来を描いた二次創作ゲームだったよな?消されたけど」

 かつてリアルワールドにはポケットモンスターアルタイルとシリウス、続編にベガ……そしてプロキオンとデネブ。
 ホウエン地方に隕石が落ちて生態系も情勢も大きく変化した世界を舞台にして冒険する作品、完成度が高くリアルワールドでも人気が高かった作品だがどんなに作り込まれても非公式、遊ぶ手段もそこそこグレーだったので存在は秘匿されつつある。
 ちなみに似たような例だと『のび太のバイオハザード』なんかもある。

「ゴーストブラックが実は一つの世界として存在してるんじゃないか?って言われた時ビックリしたよ、俺アルタイルシリウスのポケモンも実は本当に存在するって話する予定だったもん」

「え!?でもあのゲームは都市伝説でもなんでも……」

「うん、君らの仕事としてはハズレだね、都市伝説じゃないからBを引いたその時点でその仕事をやらせるつもりだった、局長として罰ゲームは用意しないとね」

 黒影は相変わらず何を考えているかも分からないが恐ろしく感じる、もしこのままアルタイルシリウスの調査を行わされていたらと思うと……しかし何も自分達がやらなくえもいい、また別の自分達に任せてもらうアイデアは普通にあったので即実行……までも想定済みだったらしい。

「黒影、お前実は分身ハンマー持ってきてるな?」

「あったりー!そういうわけで君達にはまた分身作ってもらってポケットモンスターアルタイルの調査をお願い!」
最終更新:2025年06月12日 06:47